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【発明の名称】 疲労亀裂伝播抵抗性に優れた鋼材の製造方法
【発明者】 【氏名】伊木 聡

【氏名】貞末 照輝

【氏名】久保 高宏

【要約】 【課題】亀裂伝播異方性が小さく、船舶、海洋構造物、橋梁、建築物、タンクなど構造安全性が強く求められる溶接構造物に好適な疲労亀裂伝播抵抗性に優れた鋼材の製造方法を提供する。

【構成】質量%で、C:0.04〜0.20%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.5〜1.8%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、必要に応じて、Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、Ti、Bの一種または二種以上、残部が実質的にFeから上記成分の鋼を、1000℃以上、1300℃以下に加熱し、Ar点以上で累積圧下率50%以上の圧延を行いAr点以上で圧延を終了した後、ArからAr−60℃の温度域より650℃以下450℃以上まで、10℃/s以上で加速冷却し、ミクロ組織を特定された形態の、フェライトとパーライトの二相組織主体とし、当該ミクロ組織は65〜85%のフェライトを有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.04〜0.20%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.5〜1.8%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、残部が実質的にFeからなる鋼を、1000℃以上、1300℃以下に加熱し、Ar点以上で累積圧下率50%以上の圧延を行いAr点以上で圧延を終了した後、ArからAr−60℃の温度域より650℃以下450℃以上まで、10℃/s以上で加速冷却し、ミクロ組織が(1)〜(3)の特徴を有するフェライトとパーライトの二相組織で、面積率65〜85%のフェライトを有することを特徴とする疲労亀裂伝播抵抗性に優れた鋼材の製造方法。
(1)L面およびT面のパーライト平均間隔:15〜30μm
(2)L面およびT面のフェライト平均粒径: 10〜20μm
(3)パーライト塊形状: L(L)≦3Z(L)、T(T)≦3Z(T)
ここで、L(L):L面でのL方向平均長さ、Z(L):L面でのZ方向平均長さ、T(T):T面でのT方向平均長さ、Z(T):T面でのZ方向平均長さ
【請求項2】
更に、鋼成分として、質量%で、Cu:0.4%以下、Ni:0.8%以下、Cr:0.4%以下、Mo:0.4%以下、Nb:0.05%以下、V:0.10%以下、Ti:0.03%以下、B:0.003%以下の一種または二種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の疲労亀裂伝播抵抗性に優れた鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、疲労亀裂伝播抵抗性に優れた鋼材の製造方法に関し、特に亀裂伝播異方性が小さく、船舶、海洋構造物、橋梁、建築物、タンクなど構造安全性が強く求められる溶接構造物に好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、海洋構造物、橋梁、建築物、タンクなどの構造物に使用される鋼材は、強度、靭性などの機械的性質や溶接性に優れていることに加えて、常時稼動における繰返し荷重や風、地震等による震動に起因する繰返しに対して構造物の構造安全性を担保しなければならない。
【0003】
繰返し荷重に対しては疲労特性に優れていることが要求され、特に部材の破断といった終局的な破壊を防止するためには、鋼材の有する疲労亀裂の伝播抵抗性を向上することが効果的と考える。
【0004】
一般的な溶接構造物の場合、溶接止端部は応力集中部になりやすく、溶接による引張残留応力も作用するため疲労亀裂の発生源となることが多く、その防止策として、止端部をなめ付け溶接したり、ショットピーニングにより圧縮残留応力を導入することが知られている。
【0005】
しかしながら、溶接構造物には多数の溶接止端部があり、またコスト的にも負担が大きいため、これらの方法は工業的規模での実施には不適当で、溶接構造物の耐疲労特性は使用される鋼材自体の疲労亀裂伝播特性の向上により図られることが多い。
【0006】
これら鋼構造物においては鋼板に対して様々な方向、例えば、圧延方向に対して様々な方向から自由に溶接施工される場合が多く、それゆえ疲労亀裂発生・伝播の方向も様々であるため、鋼板の疲労亀裂伝播抵抗性能も鋼中における方向を問わずに高い性能をもつことが望ましい。
【0007】
特許文献1はタンカー用鋼板に関し、その組織をフェライトの第一相ならびにベイナイトおよび/またはパーライトの第二相の混合組織からなり、前記フェライトの平均粒径が20μm以下とすることで湿潤硫化水素環境で耐疲労亀裂進展特性に優れることが記載されている。
【0008】
特許文献2には組織を硬質部の素地とこの素地に分散した軟質部とからなり、この2部分の硬度差がビッカース硬度で150以上であることを特徴とする疲労亀裂進展抑制効果を有する鋼板が記載されている。
【0009】
特許文献3には断面の鋼組織がフェライトとベイナイトであって、フェライト相は面積率で38%以上52%以下で、そのフェライト相部分の硬さが80HV0.02〜150HV0.02であり、かつフェライト相とベイナイト相の境界が断面内任意の場所に引いた直線上において50〜300カ所/mmの密度で存在することを特徴とする、疲労亀裂進展抵抗性に優れた引張り強さが55kgf/mm以上のフェライト・ベイナイト二相鋼が記載されている。
【0010】
特許文献4には疲労亀裂進展方向の第二相間の界面から次の第二相への界面との間隔が25μm以下であり、板厚方向の断面組織が面積率で60〜90%のフェライト母相と第二相からなり、第二相の硬さ:Hv(SP)とフェライトの硬さ:Hv(F)がある式で示される値を満足し、かつ第二相のアスペクト比:1(長軸長さ)/d(短軸長さ)が1/d>3.42であることを特徴とする疲労亀裂伝播特性の優れた鋼材が記載されている。
【特許文献1】特許第2785643号公報
【特許文献2】特許第2962134号公報
【特許文献3】特許第3489243号公報
【特許文献4】特許第3434434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1、2、3記載の発明に係る鋼板は、それらの疲労亀裂伝播特性を全厚あるいは減厚したコンパクト試験片を用いた疲労亀裂伝播試験で調査している。
【0012】
この場合、得られる疲労亀裂伝播速度は鋼板の長手方向あるいは幅方向の特性であり、鋼板内において亀裂伝播の方向を特定せずに、すなわち、あらゆる方向に対する疲労亀裂伝播特性(以下、亀裂伝播異方性)を向上させることについては記載がない。
【0013】
特許文献4では、面外ガセット型の継手試験片を用いて疲労試験を行っているが、特許文献4記載の発明に係る鋼板の組織が板厚方向の伝播速度を抑制することを目的としていることは明らかである。
【0014】
更に、特許文献1〜4記載の発明に係る鋼板は硬化相としてベイナイトあるいはマルテンサイトなどを導入するため、延性や、曲げ加工性の劣化が懸念される。
【0015】
そこで、本発明は、亀裂伝播異方性が小さく、疲労亀裂伝播抵抗性に優れ、且つ延性や、曲げ加工性に優れた鋼材およびその製造方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、フェライトとパーライトの二相組織を対象に、疲労亀裂伝播におよぼすミクロ組織の影響を、3次元空間における亀裂伝播方向とその方向でのミクロ組織形態との関係から鋭意詳細に検討し、二相組織におけるフェライトを特定量とし、パーライト平均間隔(L、T面)、フェライト平均粒径(L,T面)及びパーライト塊形状(L−T−Z空間)を特定した場合、亀裂伝播異方性の小さい疲労亀裂伝播抵抗性に優れた鋼材が得られることを新たに見出した。
【0017】
本発明は、得られた知見に更に検討を加えてなされたもので、すなわち、本発明は
1.質量%で、C:0.04〜0.20%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.5〜1.8%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、残部が実質的にFeからなる鋼を、1000℃以上、1300℃以下に加熱し、Ar点以上で累積圧下率50%以上の圧延を行いAr点以上で圧延を終了した後、ArからAr−60℃の温度域より650℃以下450℃以上まで、10℃/s以上で加速冷却し、ミクロ組織が(1)〜(3)の特徴を有するフェライトとパーライトの二相組織で、面積率65〜85%のフェライトを有することを特徴とする疲労亀裂伝播抵抗性に優れた鋼材の製造方法。
(1)L面およびT面のパーライト平均間隔:15〜30μm
(2)L面およびT面のフェライト平均粒径: 10〜20μm
(3)パーライト塊形状: L(L)≦3Z(L)、T(T)≦3Z(T)
ここで、L(L):L面でのL方向平均長さ、Z(L):L面でのZ方向平均長さ、T(T):T面でのT方向平均長さ、Z(T):T面でのZ方向平均長さ
2.更に、鋼成分として、質量%で、Cu:0.4%以下、Ni:0.8%以下、Cr:0.4%以下、Mo:0.4%以下、Nb:0.05%以下、V:0.10%以下、Ti:0.03%以下、B:0.003%以下の一種または二種以上を含有することを特徴とする1記載の疲労亀裂伝播抵抗性に優れた鋼材の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、鋼中における、発生・伝播する疲労亀裂の方向によらずに、常に高い疲労亀裂伝播抵抗性を有する、亀裂伝播異方性が小さく、疲労亀裂伝播抵抗性に優れた鋼材およびその製造方法が得られ、例え、応力集中部や溶接部等から疲労亀裂が経年的に発生したとしても、その後の伝播を遅らせて、鋼構造物の安全性を高めることが可能で産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の成分組成、製造条件およびミクロ組織の規定について詳細に説明する。
【0020】
[成分組成]説明において%は質量%とする。

Cは強度を確保するため0.04%以上添加する。0.20%を超えて添加すると溶接性が阻害されるため、0.04〜0.20%、好ましくは0.06〜0.18%を添加する。
【0021】
Si
Siは脱酸と強度を確保するため0.05%以上添加する。0.50%を超えて添加すると溶接性、靭性が劣化するため、0.05〜0.50%、好ましくは0.10〜0.40%とする。
【0022】
Mn
Mnは焼入れ性の増加により、強度、靭性を確保させるため、0.5%以上添加する。1.8%を超えると溶接性を劣化させるため、0.5〜1.8%、好ましくは0.8〜1.6%を添加する。
【0023】

Pは不純物で、靭性を劣化させるため、その含有量は少ないほど良く、製造コスト上、0.05%以下、好ましくは0.03%以下とする。
【0024】

Sは不純物で、靭性を劣化させるため、その含有量は少ないほど良く、製造コスト上、0.02%以下、好ましくは0.01%以下とする。
【0025】
以上が本発明に係る鋼の基本成分組成であるが、更に強度、靭性、溶接性を向上させたり、耐候性を付与する場合、Cu,Ni、Cr,Mo、Nb,V,Ti,Bの一種または二種以上を添加する。
【0026】
Cu
Cuは固溶により強度を上昇させ、また耐候性を向上させるので、所望する特性に応じて添加する。添加する場合、0.4%を超えると溶接性が損なわれ、鋼材製造時に疵が生じやすくなるので0.4%以下とし、好ましくは、0.3%以下とする。
【0027】
Ni
Niは低温靭性や耐候性を向上させ、またCuを添加した場合の熱間脆性を改善するので、所望する特性に応じて添加する。添加する場合、0.8%を超えると溶接性が損なわれ、鋼材コストが上昇するので0.8%以下とし、好ましくは、0.6%以下とする。
【0028】
Cr
Crは強度を上昇させ、また耐候性を向上させるので、所望する特性に応じて添加する。添加する場合、0.4%を超えると溶接性と靭性が損なわれるので0.4%以下とし、好ましくは、0.3%以下とする。
【0029】
Mo
Moは強度を上昇させるので、所望する特性に応じて添加する。添加する場合、0.4%を超えると溶接性と靭性が損なわれるので0.4%以下とし、好ましくは、0.2%以下とする。
【0030】
Nb
Nbは圧延時のオーステナイト再結晶を抑制し細粒化を図ると同時に、加速冷却後の空冷時に析出し強度を上昇させるので、所望する特性に応じて添加する。添加する場合、0.05%を超えると靭性が損なわれるので0.05%以下とし、好ましくは0.03%以下とする。
【0031】

Vは、加速冷却後の空冷時に析出し強度を上昇させるので、所望する特性に応じて添加する。添加する場合、0.05%を超えると溶接性と靭性が損なわれるので0.05%以下、好ましくは0.03%以下とする。
【0032】
Ti
Tiは、強度を上昇させ、溶接部靭性を向上させるので、所望する特性に応じて添加する。添加する場合、0.03%を超えると鋼材コストが上昇するので0.03%%以下、好ましくは0.02%以下とする。
【0033】

Bは焼入れ性を高め、強度を上昇させるので、所望する特性に応じて添加する。添加する場合、0.003%%を超えると溶接性が低下するので、0.003%以下、好ましくは0.002%以下とする。
【0034】
[製造条件]
本発明に係る鋼材は上記に記載の成分の鋼を、1000℃以上、1300℃以下に加熱し、Ar点以上で累積圧下率50%以上の圧延を行いAr点以上で圧延を終了した後、ArからAr−60℃の温度域より650℃以下450℃以上まで、10℃/s以上で加速冷却することにより得られる。
【0035】
1.加熱温度
加熱温度は圧延温度を確保するため1000℃以上とする。1300℃を超えると鋼の結晶粒が粗大化するので上限を1300℃以下とする。
【0036】
2.圧延条件
圧延終了温度がAr点を下回る場合、二相域圧延となり、パーライトが圧延方向に伸張することで疲労亀裂伝播速度に異方性が生じる。また、Ar点以上の累積圧下率が50%を下回る場合、オーステナイト粒の微細化を通じたフェライト粒の微細化やパーライト間隔の微細化が達成されない。なお、上記圧延は異方性を生じさせないためにオーステナイト再結晶域で行うことが望ましい。
【0037】
3.加速冷却条件
加速冷却開始温度は延性や曲げ加工性を低下させるベイナイトの生成を抑制するためにAr点以下とする。また、疲労亀裂伝播特性に異方性を生じさせるバンド状パーライトの生成を抑制させるためにAr点−60℃とする。
【0038】
加速冷却停止温度は、未変態オーステナイトをパーライト変態させ、それらパーライトを鋼材中に微細かつ均質に分散させるため650℃以下、450℃以上とする。
【0039】
加速冷却停止温度が650℃を超える場合、疲労亀裂伝播特性に異方性を生じさせるバンド状パーライトが生成する。また、加速冷却停止温度が450℃を下回る場合、ベイナイトが生成する。
【0040】
冷却速度は、冷却中に疲労亀裂伝播特性を劣化させるフェライトの粗大化やこれを通じたパーライト間隔の粗大化を防ぐために10℃/s以上とする。
【0041】
なお、上記温度は鋼材の表面温度とし、冷却速度は鋼材の厚さ方向の平均冷却速度とする。また、Ar点はAr(℃)=910−310C−80Mn−20Cu−15Cr−55Ni−80Mo(但し、元素記号は鋼材中の各元素の質量%での含有量を表す。)等で求めることができる。
【0042】
上述した成分組成と製造条件の組合わせにより、以下のミクロ組織を備えた鋼板が得られる。得られたミクロ組織は、フェライトとパーライトの二相組織を主体として構成され、それらのL面、T面、Z面における面積率、形態の特徴により、亀裂伝播異方性が小さく、疲労亀裂伝播抵抗性に優れた特性を備える。
【0043】
[ミクロ組織形態]
本発明では、得られたミクロ組織の形態を、鋼材のフェライトとパーライトの面積率ならびにそれら組織のL面、T面、Z面(図1に規定)に代表される三次元的なミクロ組織形態における、パーライト間隔、フェライト粒径、パーライト三次元形状で規定する。
【0044】
1.フェライトとパーライトの面積率
延性や曲げ加工性を考慮し、ミクロ組織の主体組織をフェライトとパーライトから構成される二相組織とする。フェライト面積率は65%を下回る場合、延性や曲げ加工性が低下する。一方で85%を超える場合には十分な強度が得られない。
【0045】
パーライト面積率は10%を下回る場合、後述する疲労亀裂伝播特性の向上効果が発揮されない。一方、30%を超える場合には、溶接性、延性、曲げ加工性が低下する。
【0046】
なお、本発明では残部組織としてベイナイト、マルテンサイトが混入することを許容する。但し、延性や曲げ加工性を考慮し、それら残部組織の面積分率は5%以下であることが好ましい。
【0047】
2.L面およびT面のパーライト平均間隔
パーライト間隔は、疲労亀裂が進展する方向にパーライトを効果的に配置し、このパーライトにより亀裂先端での塑性域の形成を制御し、結果としてパーライトへの回り込みによる亀裂の屈曲を誘起するために、平均間隔で15μm以上とする。
【0048】
ただし、平均間隔で30μmを超えると回り込みの頻度が減少し、亀裂伝播抵抗性が小さくなるため15〜30μmとする。平均間隔は亀裂伝播の異方性を生じさせないため鋼板の任意の面について確保することが望ましく、代表させてL面およびT面で規定する。
【0049】
3.L面およびT面のフェライト平均粒径
フェライト粒径は、疲労亀裂がフェライト粒界に衝突する回数が、亀裂進展速度が低下する効果を得るために十分な回数となるように20μm以下とする。
【0050】
ただし、粒径が小さすぎると上述のパーライト間での塑性域の形成を妨げるため10μm以上とし、10〜20μmとする。平均粒径亀裂伝播の異方性を生じさせないために鋼板の任意の面について確保することが望ましく、代表させてL面およびT面で規定する。
【0051】
4.パーライト塊三次元形状
本発明では、疲労亀裂がパーライトに接近した際に生じる亀裂先端の塑性域の形状変化を制御し、疲労亀裂のパーライト回り込みによる亀裂の屈曲進展を活用し疲労亀裂伝播抵抗性を向上している。この効果を亀裂伝播方向により異方性を生じせしめること無く、全方向に対して良好な疲労亀裂伝播抵抗性が発揮されるように、パーライトの三次元的な形状を以下のように規定する。
【0052】
すなわち、本発明の主たる目的は実構造物で懸念される、鋼板に対しての様々な方向への疲労亀裂伝播に対して、等しく優れた疲労亀裂伝播抵抗特性を備えることであり、そのため、各方向に対する疲労亀裂伝播特性が等しくなるように、パーライト三次元形状を(1)式、(2)式で規定する。
L(L)≦3Z(L)・・・(1)式
T(T)≦3Z(T)・・・(2)式
ここで、L(L)はL面でのL方向平均長さ、Z(L)はL面でのZ方向平均長さ、T(T)はT面でのT方向平均長さ、Z(T)はT面でのZ方向平均長さをそれぞれ示す。図2〜4に、上述した1〜3の規定を満足するミクロ組織の効果を示す。
【0053】
図2はパーライト平均間隔と(実亀裂伝播長さ)/(亀裂伝播方向の直線距離)との関係を示し、フェライト面積率、パーライト面積率、フェライト平均粒径、パーライト塊形状を本発明範囲内とした上で、パーライト平均間隔のみを変化させた鋼のT方向における疲労亀裂伝播試験(試験条件:ΔK=20MPa√m一定)の結果より得たものである。
【0054】
ここで(実亀裂伝播長さ)/(亀裂伝播方向の直線距離)が大きい場合は前述のパーライト部分での亀裂の屈曲、回り込みが多く発生し、結果として実伝播距離の増加、破面の凹凸の増加が生じていることを意味している。
【0055】
(実亀裂伝播長さ)は亀裂の伝播した長さの全長で定義され、亀裂が蛇行している場合は蛇行に沿った長さとする。亀裂が枝分かれしている場合は、主亀裂(最も伝播している長さが長い亀裂)の長さとする。
【0056】
(亀裂伝播方向の直線距離)とは、亀裂を亀裂伝播方向に投影した際に得られる長さで定義する。亀裂が蛇行している場合は、亀裂伝播方向を蛇行しつつ、亀裂が進行する方向とし、当該方向に亀裂を投影して得られる長さとする。亀裂が枝分かれしている場合は、亀裂伝播方向を主亀裂が進行する方向とし、当該方向に主亀裂を投影して得られる距離とする。
【0057】
本発明は(実亀裂伝播長さ)/(亀裂伝播方向の直線距離)の値を1.1以上にすることを目標としており、図よりパーライト平均間隔で15〜30μmでこの値が達成されていることが認められる。
【0058】
図3に図2で実施した試験で得られた(実亀裂伝播長さ)/(亀裂伝播方向の直線距離)と疲労亀裂伝播速度の関係を示す。
【0059】
上述のパーライト平均間隔の制御による実伝播距離の増加、破面凹凸の増加の結果、(実亀裂伝播長さ)/(亀裂伝播方向の直線距離)の増加とともに、特にこの値が1.1以上の場合に、疲労亀裂伝播速度の低下、すなわち疲労亀裂伝播抵抗性の向上が認められる。
【0060】
図4はパーライト塊形状に関して、L(L)/Z(L):L面でのL方向平均長さとL面でのZ方向平均長さの比、T(T)/Z(T):T面でのT方向平均長さとT面でのZ方向平均長さの比で、これらと速度(Z)/速度(L):Z方向の疲労亀裂伝播速度とL方向の亀裂伝播速度の比、速度(Z)/速度(T):Z方向の疲労亀裂伝播速度とT方向の亀裂伝播速度の比の関係を示す。
【0061】
図4に示す結果は、フェライト面積率、パーライト面積率、フェライト平均粒径、パーライト平均間隔を本発明範囲内とし、パーライト塊形状のみを変化させた鋼の疲労亀裂伝播試験(試験条件:ΔK=20MPa√m一定)での結果より得たものである。
【0062】
L(L)/Z(L)およびT(T)/Z(T)を3以下とすることで方向性の少ない(異方性の小さい)疲労亀裂伝播特性が得られ、実構造物での、鋼板に対して様々な方向に進展する疲労亀裂に対して、等しく優れた疲労亀裂伝播抵抗性が実現される。
【実施例】
【0063】
表1に示す成分組成の鋼片にて、表2に示す条件にて板厚12〜50mmの鋼板を作成し、得られた鋼板のミクロ組織観察、機械的性質および疲労亀裂伝播特性を調査した。
【0064】
組織観察は任意の箇所から採取した試料を研磨したサンプルを用いて、2%ナイタール腐食液によりエッチングしたT面、L面の板厚/4位置にて実施した。
【0065】
光学顕微鏡観察によりフェライトの面積率、パーライトの面積率、ならびにパーライトの平均間隔、フェライトの平均粒径、パーライト塊形状を測定した。これらの値は1サンプルについて5視野で実施し、それら総視野での平均値として求めた。
【0066】
疲労亀裂伝播特性は全厚のCT試験片(板厚25mm超えは25mmt片面減厚CT試験片)にて、L方向、T方向に亀裂が進展する時の疲労亀裂伝播試験にて調査した。Z方向に亀裂が進展する場合の疲労亀裂伝播特性に関しては全厚の3点曲げ試験片(板厚25mm超えは25mmt片面減厚)にて調査した。
【0067】
試験条件は応力比0.1、周波数20Hz,室温大気中にて実施した。実施例において、応力拡大係数K=20MPa√mとした場合の疲労亀裂伝播速度が亀裂伝播方向によらず、5.0×10−8m/Cycle以下を本発明例とした。
【0068】
引張強度はT方向に採取したJISZ2201 1A号の全厚試験片を用いた引張試験により求めた。実施例において、TSが400MPa以上、伸びが20%以上を本発明例とした。
【0069】
靭性はシャルピー衝撃試験により破面遷移温度vTrs(℃)を求めた。シャルピー衝撃試験片(JISZ2202)は板厚/4(板厚25mm未満は板厚/2)より、圧延方向に平行に採取した。実施例において、vTrsが−20℃以下を本発明例とした。
【0070】
組織観察結果を表3、引張、靭性、疲労亀裂伝播試験結果を表4に示す。成分、製造方法、組織を本発明規定範囲内とした板番No.1〜No.8の鋼板はいずれの方向においても優れた耐疲労亀裂伝播抵抗を示し、かつ、強度、延性、靭性にも優れていることが確認される。
【0071】
一方、C、Si、Mnが本発明範囲を超えるNo.9の鋼板は高成分のため、フェライト分率、パーライト平均間隔が本発明規定値を下回り、パーライト分率が本発明規定値を超えている。このため、疲労亀裂伝播抵抗が劣り、延性、靭性が低い。
【0072】
加熱温度が本発明規定値を超え、Ar点以上の圧下率が本発明規定値を下回るNo.10の鋼板は焼入れ性が高く、フェライト/ベイナイト組織となっている。このため、延性、靭性が低い。
【0073】
加速冷却開始温度がAr点を上回るNo.11の鋼板はベイナイト単相組織であるため、延性が低く、疲労亀裂伝播抵抗が劣る。圧延終了温度がAr点を下回り(二相域圧延)、加速冷却の開始温度がAr−60℃を下回るNo.12の鋼板はフェライト粒径、パーライト平均間隔が本規定値を下回り、パーライト塊形状がL(L)>3Z(L)、T(T)>3Z(T)である。
【0074】
このため疲労亀裂伝播抵抗において異方性が生じ、Z方向と比較してL方向、T方向の疲労亀裂伝播速度が顕著に劣化している。加速冷却時の冷却速度が本規定値を下回るNo.13の鋼板、加速冷却時の停止温度が本規定値を超えるNo.14の鋼板は、フェライト粒径、パーライト平均間隔が本規定値を超える。
【0075】
このため、疲労亀裂伝播抵抗に劣り、強度と靭性が低い。加速冷却の停止温度が本規定値を下回るNo.15の鋼板はフェライト/ベイナイト組織となっている。このため、延性、靭性が低い。
【0076】
【表1】


【0077】
【表2】


【0078】
【表3】


【0079】
【表4】


【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明で規定する鋼材のL、T、Z面およびL、T、Z方向を説明する図。
【図2】パーライト平均間隔と(実亀裂長さ)/(亀裂伝播方向の直線距離)の関係を示す図。
【図3】(実亀裂長さ)/(亀裂伝播方向の直線距離)と疲労亀裂伝播速度の関係を示す図。
【図4】パーライト塊形状と疲労亀裂伝播速度比の関係を示す図。
【出願人】 【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
【出願日】 平成18年6月30日(2006.6.30)
【代理人】 【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎

【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘


【公開番号】 特開2008−7834(P2008−7834A)
【公開日】 平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願番号】 特願2006−181297(P2006−181297)