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【発明の名称】 フェライト鋼の製造方法
【発明者】 【氏名】中澤 崇徳

【氏名】茂木 智

【氏名】木村 健一

【氏名】若井 隆純

【要約】 【課題】優れたクリープ延性を有する高クロムフェライト鋼を製造する方法を提供する。

【構成】重量%で、C:0.01〜0.05%、N:0.01〜0.05%、Cr:8〜13%、Nb:0.03〜0.07%、V:0.05〜0.20%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる厚さth[mm]のフェライト鋼を、式1に示される温度T[℃]以上で下記式2に示される時間t[分]以上加熱する工程と、フェライト鋼の肉厚中心位置が10℃/sec以上の冷却速度となる条件で冷却する工程と、その後450〜600℃で加熱する工程と、その後650〜780℃で加熱する工程とを行って、高クロムフェライト鋼を製造する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.01〜0.05%、N:0.01〜0.05%、Cr:8〜13%、Nb:0.03〜0.07%、V:0.05〜0.20%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる、厚さth[mm]のフェライト鋼を、下記式1に示される温度T[℃]以上で、下記式2に示される時間t[分]以上加熱する工程と、
=3427×(C+N)×(Nb+V)+1050 (式1)
(ただし、C,N,Nb,Vは、各元素の含有量(重量%)である)
=0.3th+10 (式2)
その後、前記フェライト鋼の肉厚中心位置が10℃/sec以上の冷却速度となる条件で冷却する工程と、
その後、450〜600℃の範囲の温度T[℃]において、下記式3に示される指数1が15500〜17300となる時間t[時間]加熱する工程と、
指数1=(T+273)(logt+20) (式3)
その後、650〜780℃の範囲の温度T[℃]において、下記式4に示される指数2が19600〜21100となる時間t[時間]加熱する工程とを行う
指数2=(T+273)(logt+20) (式4)
ことを特徴とするフェライト鋼の製造方法。
【請求項2】
前記フェライト鋼を、さらに重量%で、Mo:0.2〜0.6%、W:0.2〜0.6%のいずれか、あるいは双方を成分として含有する構成とすることを特徴とする請求項1に記載のフェライト鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、高温で安定な微細析出物を高密度に分散析出させた高クロムフェライト鋼を製造する、フェライト鋼の製造方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
高温機器に使用される耐熱鋼は、高クロムフェライト鋼と、オーステナイト系ステンレス鋼とに、大別される。
【0003】
このうち、高クロムフェライト鋼は、400℃から600℃の温度域で強度や耐食性・耐酸化性が優れているため、ボイラーや火力発電や化学プラントの耐熱耐圧部材として用いることが考えられている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0004】
ところで、現在、開発・実用化が進められている、液体ナトリウムを冷却材とする高速増殖炉(FBR)の構造物は、稼働・停止・運転制御による温度変動に伴う熱応力が繰り返し負荷されるため、耐熱応力設計用の鉄鋼材料を必要とする。
このため、高速増殖炉の構造物に使用される材料には、クリープ強度よりも、クリープ延性が求められる。また、大型の溶接構造物となるため、靱性も必要となる。
【0005】
これまでの開発段階のFBRには、クリープ延性及び靱性に優れる、オーステナイト系ステンレス鋼が使用されてきた。
【0006】
しかし、オーステナイト系ステンレス鋼は、高クロムフェライト鋼よりも熱膨張係数が大きく、かつ熱伝導度が低いため、運転中に発生する熱応力が高くなる、という欠点を有する。
このため、熱応力の観点から、高クロム系フェライト鋼をFBRの構造物に使用できれば、大幅な設計合理化が可能となり、実用化の最大の課題となっている経済性を、大きく向上させることができる。
【0007】
【特許文献1】特開平6−10041号公報
【特許文献2】特開平8−337813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の高クロム系フェライト鋼は、高圧力環境となる火力発電ボイラー等の耐圧力設計用の鉄鋼材料として開発・実用化されてきたため、専らクリープ強度を指向した合金設計がなされており、クリープ延性や靱性はオーステナイト系ステンレス鋼よりも劣っている。
このため、現在、開発・実用化されている火力発電ボイラー用の高クロムフェライト鋼では、FBRの構造物への適用条件を満足することはできない。
【0009】
上述した問題の解決のために、本発明においては、優れたクリープ延性を有し、高速増殖炉の構造物に用いて好適な高クロムフェライト鋼を製造することができる、フェライト鋼の製造方法を提供するものである。なお、構造用の材料であることから、所定水準のクリープ強度が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
火力発電ボイラー用の高クロム(Cr)フェライト鋼のクリープ延性や靱性が低い原因は、クリープ強度を高めるために、強化元素として、炭素(C)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)を多量に含有している点にある。
これら多量に添加された元素は、熱間圧延等の製造工程や熱処理工程あるいは高温使用中に粗大な析出物を形成し、クリープ延性や靱性を低下させることになる。
【0011】
本発明は、強度を指向した火力用高クロム鋼の高温長時間における材料特性劣化因子であるCr炭化物や、金属間化合物Laves相の析出等を排除した、新しい成分系(低炭素で、かつMo及びWは固溶限以下の添加に抑える)において、MX(MXとは、V,Nbの炭窒化物である。MはNb及びVを、XはC及びNを、それぞれ表す記号である。)の析出強化機構の高温長時間安定化を追求したものである。
析出強化は、析出物のサイズと密度(数)に依存するため、その強化機構の維持には、高温使用中の析出物の凝集・粗大化を防止する必要がある。
使用温度より十分に高い温度で生成させた析出物は、使用温度での凝集・粗大化は抑制されるが、析出物のサイズが大きく密度は低くなるため、十分な強化作用が得られない。
一方、使用温度近傍の熱処理では、微細・高密度の強化に有効な析出形態が得られるが、使用中の凝集・粗大化は抑制できない。
【0012】
本発明は、低温焼戻しにより微細MXの析出核を高密度に分布させた後に、高温焼戻しにより微細MXを高密度に析出させることによって、高温で安定な析出形態を実現し、析出強化機構を高温で長時間確保したものである。
【0013】
即ち、本発明のフェライト鋼の製造方法は、重量%で、C:0.01〜0.05%、N:0.01〜0.05%、Cr:8〜13%、Nb:0.03〜0.07%、V:0.05〜0.20%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる、厚さth[mm]のフェライト鋼を、下記式1に示される温度T[℃]以上で、下記式2に示される時間t[分]以上加熱する工程(第1の加熱工程)と、
=3427×(C+N)×(Nb+V)+1050 (式1)
(ただし、C,N,Nb,Vは、各元素の含有量(重量%)である)
=0.3th+10 (式2)
その後、フェライト鋼の肉厚中心位置が10℃/sec以上の冷却速度となる条件で冷却する工程(冷却工程)と、
その後、450〜600℃の範囲の温度T[℃]において、下記式3に示される指数1が15500〜17300となる時間t[時間]加熱する工程(第2の加熱工程)と、
指数1=(T+273)(logt+20) (式3)
その後、650〜780℃の範囲の温度T[℃]において、下記式4に示される指数2が19600〜21100となる時間t[時間]加熱する工程(第3の加熱工程)とを行う
指数2=(T+273)(logt+20) (式4)
ものである。
【0014】
また、本発明において、より好ましくは、フェライト鋼を、さらに重量%で、Mo:0.2〜0.6%、W:0.2〜0.6%のいずれか、あるいは双方を成分として含有する構成とする。
【0015】
上述の本発明のフェライト鋼の製造方法の各構成要件は、以下のように導き出されたものである。
【0016】
(1)使用するフェライト鋼(高クロム鋼)の化学成分
使用するフェライト鋼(高クロム鋼)において、各成分元素の含有量は、次のように規定される。
まず、C及びNは、Nb及びVの炭窒化物であるMXによる析出強化の基本元素としての役割から、0.01%以上を必要とするが、それぞれ0.05%を越えて含有するとMXの粗大化を引き起こして靱性を劣化させるため、この値を上限とした。
Crは、耐酸化性や焼き入れ性の確保のために、8%以上が必要であるが、過剰に含有すると金属間化合物が析出し靱性を損なうため、13%以下とした。
Nb及びVは、析出強化のためのMXを構成する元素であるが、その効果はNbでは0.03%以上、Vでは0.05%以上で生じることから、これらの値を下限値とした。一方、過剰に添加するとMXの析出量の増加による靱性劣化が生じるため、Nbは0.07%、Vは0.20%を上限値とした。
Mo及びWは、共に固溶強化により強度を高める元素であり、その作用は0.2%以上で有効となる。これら元素の添加量が使用温度における固溶限以下であれば、極めて安定な強化作用を得ることができる。しかし、固溶限以上に添加すると、高温使用中に金属間化合物として析出するため、固溶強化作用は高温で長時間使用後には固溶限添加鋼のレベルにまで低下することに加え、金属間化合物による靱性劣化が生じることから、上限を0.6%とした。
【0017】
(2)析出物の形成条件
A.第1の加熱工程
微細なMXを析出させるためには、熱間圧延等の素材の製造過程で析出した粗大なMXを、固溶させる必要がある。そのためには、MXの固溶温度以上に加熱しなければならないが、その温度は構成元素の量が増加すると共に上昇する。即ち、固溶させるためには(C+N)×(Nb+V)で表されるMXの溶解度積に対応して温度を上昇させる必要がある。
このような考え方の元に、粗大なMXを再固溶する工業的な温度として、式1に示すようなC,N,Nb,V量に依存するTを選定した。なお、式1における定数1050は、格子欠陥を多量に含む各種の加工や変態組織を完全なオーステナイト組織にするための温度(℃)であり、第一項の係数3427は経験的に得られたものである。
このような組織制御は、基本的には拡散過程によるものであり、式2に示す拡散のための時間t(分)が必要となる。式2における定数10は、各種の履歴により製造された素材を完全なオーステナイト組織にするために必要な時間(分)であり、第一項の係数0.3は、肉厚thの増加と共に、素材の製造工程で生じる粗大なMXのサイズが大きくなるため、固溶に必要な拡散時間が長くなることにより導入したものであり、その係数は経験的に得られたものである。
【0018】
B.冷却工程
次に、固溶加熱温度からの冷却において、冷却速度が10℃/secより小さくなると冷却中に粗大な析出が生じ、目的とする微細MXの高密度分散を得ることができなくなる。従って、この冷却中の析出を抑制するため、冷却速度が最も遅くなる肉厚中心部の冷却速度を10℃/sec以上とする必要がある。
【0019】
C.第2の加熱工程
このようにして析出物形成元素であるC,N,Nb,Vを十分に固溶した素材を、その後、450℃〜600℃の温度域Tで式3に示す時間t加熱する工程(第2の加熱工程)を行うことにより、非常に微細なMXを析出させることができる。即ち、この熱処理は微細なMXを高密度に得るための析出核を準備するものである。この第2の加熱工程の温度と析出状態との間には、温度が低いほど析出核の臨界サイズが小さくなり、過飽和度も増すため、より微細で高密度な析出となる、という関係がある。しかしながら、450℃以下では、拡散が遅いため、加熱時間が長くなり経済性が損なわれる。一方、600℃以上では、析出密度が低下することから、この温度範囲及び時間を決定した。
拡散等の熱活性化過程を伴う現象に対しては、温度と時間が共に影響することから、さらに、Larson Miller指数(式3)により、この第2の加熱工程の温度T及び時間tの条件範囲を設定した。
【0020】
D.第3の加熱工程
その後、650℃〜780℃の温度域Tで式4に示す時間t加熱する工程(第3の加熱工程)を行うことにより、高密度に用意された析出核を成長させて、微細で安定なMXの高密度分散状態を実現することができる。650℃以下では、拡散速度が遅いため長時間を必要とし経済性が損なわれる。一方、780℃以上では、オーステナイトへの逆変態が生じてMXが消失することから、この温度範囲を決定した。また、高温では拡散が継続するため、時間の増加と共に析出物は凝集・粗大化、いわゆるオストヴァルド成長をする。従って、微細なMXの高密度分散状態を確保するため、さらに、温度と時間を関係づけたLarson Miller指数(式4)により、この第3の加熱工程の温度T及び時間tの条件範囲を設定した。
【発明の効果】
【0021】
上述の本発明の製造方法によれば、微細なMXを高密度に析出させることができるため、高温で安定した析出状態を実現することができ、高いクリープ延性と析出強化機構を高温で長時間確保することができる。
これにより、クリープ延性や靱性に優れた高クロムフェライト鋼を製造することができる。
従って、本発明により、高速増殖炉(FBR)の構造物のように、温度変動に伴う熱応力が繰り返し加わる用途にも適用することができる、高クロムフェライト鋼を実現することができる。
【実施例】
【0022】
重量%で、C(炭素)が0.04%、N(窒素)が0.02%、Cr(クロム)が9.0%、Nb(ニオブ)が0.05%、V(バナジウム)が0.10%、Mo(モリブデン)が0.5%、W(タングステン)が0.2%の含有量で、残部がFe(鉄)及び不可避不純物からなる厚さ15mmのフェライト鋼板を使用して、このフェライト鋼板に対して、熱処理条件を変えて熱処理を行い、熱処理後の微細組織を調べた。
【0023】
本発明の実施例として、第1の加熱工程を1100℃で30分行い、水冷により80℃/secの冷却速度で冷却工程を行い、析出核準備処理として550℃で1時間加熱する工程(第2の加熱工程)を行ってから、750℃で1時間加熱する工程(第3の加熱工程)を行った。
上述の含有量から、(式1)のT=1081℃となるので、T以上の温度で第1の加熱工程を行う条件を満たす。また、厚さ15mmから(式2)のt=14.5分となるので、加熱時間の条件を満たす。さらに、T=550℃,t=1から、式3の指数1が16460となり、第2の加熱工程の条件を満たす。そして、T=750℃,t=1から、式4の指数2が20460となり、第3の加熱工程の条件を満たす。
【0024】
本発明の実施例として、析出核準備処理として550℃で1時間加熱する工程(第2の加熱工程)を行ってから750℃で1時間加熱する工程(第3の加熱工程)を行った場合と、この析出核準備処理の工程を行わずに、750℃で1時間加熱する工程だけを行った場合とで、それぞれのフェライト鋼に析出するMXの粒子直径dの分布を調べた。なお、析出核準備処理の工程以外は、全く同一の条件とした。
それぞれの場合に析出するMXの粒子直径dの分布を比較して、図1に示す。図1には、併せて抽出レプリカ試料による電子顕微鏡組織の写真も示している。
【0025】
図1からわかるように、析出核準備処理の工程(第2の加熱工程)を行った場合には、微細な粒子を高密度に析出させることができる。
【0026】
次に、本発明の実施例として、第1の加熱工程を1100℃で行った後、水冷により80℃/secの冷却速度で冷却工程を行った場合と、比較例として1100℃から空冷により1℃/secで冷却した場合とで、それぞれのフェライト鋼に析出するMXの粒子直径dの分布を調べた。なお、冷却後の第2の加熱工程以降は、全く同一の条件とした。
それぞれの場合に析出するMXの粒子直径dの分布を比較して、図2に示す。図2には、併せて抽出レプリカ試料による電子顕微鏡組織の写真も示している。
【0027】
図2からわかるように、水冷により冷却速度を10℃/sec以上の80℃/secとして冷却工程を行った場合には、微細な粒子を高密度に析出させることができる。
一方、冷却速度が1℃/secと遅くなる空冷(AC)では、析出物が粗大化して、かつ密度も低下することがわかる。
【0028】
本発明は、上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のフェライト鋼の製造方法により得られる高クロムフェライト鋼は、高速増殖炉(FBR)の構造物用の鋼板、鋼管、並びに鍛造品として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】析出核準備処理の工程を行った場合と、行っていない場合とで、それぞれのフェライト鋼に析出するMXの粒子直径の分布を比較した図である。
【図2】冷却速度80℃/secで冷却工程を行った場合と、1℃/secで冷却を行った場合とで、それぞれのフェライト鋼に析出するMXの粒子直径の分布を比較した図である。
【出願人】 【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】独立行政法人 日本原子力研究開発機構
【出願日】 平成18年6月27日(2006.6.27)
【代理人】 【識別番号】100122884
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 芳末

【識別番号】100133824
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 仁恭


【公開番号】 特開2008−7805(P2008−7805A)
【公開日】 平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願番号】 特願2006−176864(P2006−176864)