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【発明の名称】 ハードディスクボイスコイルモータヨーク用鉄合金板材の製造方法
【発明者】 【氏名】島尾 正信

【氏名】美濃輪 武久

【氏名】西野 雅昭

【要約】 【課題】磁気記録装置などの磁気回路ヨークにおいて、漏れ磁束量を無くし、永久磁石の持つ高磁束密度の特性をすべて活用することができるヨークを提供する。

【構成】鋳造後の組成が、質量%単位で、C:0.0001以上0.02以下、Si:0.0001以上0.03未満、Mn:0.001以上0.2以下、P:0.0001以上0.05以下、S:0.0001以上0.05以下、Al:0.0001以上0.1以下、O:0.001以上0.1以下、N:0.0001以上0.03となるように各母合金を秤量・溶解・鋳造し、0.1mm以上5mm以下の板厚となるまで圧延し、塑性加工を施してヨーク形状に加工処理し、必要に応じて表面処理を施すことを特徴とする
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造後の組成がC:0.0001質量%以上0.02質量%以下、Si:0.0001質量%以上0.03質量%未満、Mn:0.001質量%以上0.2質量%以下、P:0.0001質量%以上0.05質量%以下、S:0.0001質量%以上0.05質量%以下、Al:0.0001質量%以上0.1質量%以下、O:0.001質量%以上0.1質量%以下、N:0.0001質量%以上0.03質量%となるように各母合金を秤量・溶解・鋳造し、0.1mm以上5mm以下の板厚となるまで圧延し、塑性加工を施してヨーク形状に加工処理し、必要に応じて表面処理を施すことを特徴とするハードディスクボイスコイルモータヨーク用鉄合金板材の製造方法。
【請求項2】
ヨーク形状に加工処理された板材に、その飽和磁束密度が2.07テスラ以上2.2テスラ以下、最大比透磁率が1000以上20000以下、保磁力が10A/m以上400A/m以下なる磁気特性を備えるように着磁処理される請求項1に記載のハードディスクボイスコイルモータヨーク用鉄合金板材の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録装置における小型、薄型ボイスコイルモータに適した磁気回路を提供するための、磁気回路を構成する高磁束密度の鉄系ヨーク材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイスコイルモータの磁気回路は、磁束を発生させる永久磁石と、それらをつなぐヨークで構成され、ハードディスクヘッド駆動用アクチュエーターとして使用される。近年、コンピュータは持ち運び、携帯のし易さなどを考慮して大きさや重量を低減する傾向にあり、それに伴い、磁気記録装置もまた小型化、薄型化されている。さらにこの小型化、薄型化は、磁気回路を構成する永久磁石、ヨーク材部品にも波及してきている。
磁気回路の小型化薄型化を実現するには、体積減少からくるギャップ間磁束密度の減少を、高性能磁石の高い磁束密度で補うことによって対応するのがこれまでは一般的であった。
【0003】
しかし、高性能磁石の発生する磁束密度が年々高くなるのに対して、ヨーク材はSPCC、SPCD、SPCEなどの圧延鋼板を用いるために、磁石の磁束密度の向上に応じてヨーク材の飽和磁化を増大させることはできない。ヨークの厚み寸法も装置全体からの制約によって制限されるため、結局高性能磁石の磁束すべてを有効に活用することができず、磁気回路の途中で部分的に飽和したり、磁束の漏れが発生したりする。
このような磁束の漏れは、磁気回路のギャップ磁束密度を低下させるだけでなく、周辺の磁気記録媒体や制御機器に対して影響を及ぼすことになる。VCM回路からの漏れ磁束量には一定の規定があり、製品の漏れ磁束量はこの規定値以下にしなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気記録装置などの磁気回路ヨーク用磁性材料としては、従来からSPCC、SPCD、SPCE等の冷間圧延鋼板が打抜き、型取り、穴あけや曲げ、エンボス加工などの生産性に優れることと、安価なために、最も多く使用されている。しかしながら、これらの鋼材は充分な飽和磁化を有しないため、前述の小型化、薄型化により、部分的なVCM磁気回路において磁気飽和をさけることが困難であり、高磁束密度を有する永久磁石からの磁束を十分に磁気回路に導くことができなかった。
これらの漏れ磁束量を無くし、永久磁石の持つ高磁束密度の特性をすべて活用することができるヨークの開発・製法が強く求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前述の課題を解決するために、種々検討を行った結果、鋳造後の組成がC:0.0001質量%以上0.02質量%以下、Si:0.0001質量%以上0.03質量%未満、Mn:0.001質量%以上0.2質量%以下、P:0.0001質量%以上0.05質量%以下、S:0.0001質量%以上0.05質量%以下、Al:0.0001質量%以上0.1質量%以下、O:0.001質量%以上0.1質量%以下、N:0.0001質量%以上0.03質量%となるように各母合金を秤量・溶解・鋳造し、0.1mm以上5mm以下の板厚となるまで圧延し、塑性加工を施してヨーク形状に加工処理し、必要に応じて表面処理を施すことを特徴とする、組成と組み合わされたハードディスクボイスコイルモータヨーク用鉄合金板材の製造方法を開発した。前記ヨーク形状に加工処理された板材に、その飽和磁束密度が2.07テスラ以上2.2テスラ以下、最大比透磁率が1000以上20000以下、保磁力が10A/m以上400A/m以下なる磁気特性を備えるような調整処理することが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、磁気記録装置ボイスコイルモータ用磁気回路部材として使用される厚さ0.5mmから5mmのヨーク材の磁気特性を向上させることによって、構成する磁気回路に磁石から投入される磁束を有効に利用してギャップ間の磁束密度を向上させ、しかも周辺の磁気記録媒体や制御機器に対して磁気的に影響を及ぼさない磁気回路の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明者らは、上述の目的を達成するべく、まず、種々の材料の検討を行い、SPCC材等の成分から磁束密度の低下に影響を及ぼす元素を調べた。鉄に対しては、C、Al、Si、P、S、Mnは磁気モーメントを持っていないか、磁気モーメントが鉄母体と異なるために、これら元素の存在によって周囲の鉄の磁気モーメントを低下させる現象が起こる。特にP、Sは、磁束密度の低下以外に耐蝕性においても悪影響を及ぼす。しかし、これらの元素をむやみに低減させるのは、原料の製造コストの面から不利であり、性能的にも少量の範囲内であれば含有していても満足できる。
【0008】
以上の観点から、まず、組成の面では、C:0.0001質量%以上0.02質量%以下、Si:0.0001質量%以上0.03質量%未満、Mn:0.001質量%以上0.2質量%以下、P:0.0001質量%以上0.05質量%以下、S:0.0001質量%以上0.05質量%以下、Al:0.0001質量%以上0.1質量%以下の範囲とすることができることを確認した。
OおよびNも同様に、磁気特性に影響し、O:0.001質量%以上0.1質量%以下およびN:0.0001質量%以上0.03質量%以下とすることが好ましく、この範囲であれば、飽和磁束密度を特には劣化させない。
さらに、本発明では、飽和磁束密度を2.07テスラ以上2.2テスラ以下とすることが、ヨークの性能の面では好ましく、飽和磁束密度が高くても最大比透磁率が小さいか、または保磁力が大きすぎてしまっては、磁気回路の磁気抵抗が増大し、ギャップ磁束密度が低くなってしまう。このため、最大比透磁率は1000以上20000以下の範囲とし、保磁力は10A/m以上400A/m以下の範囲とする。
【0009】
合金成分は、原料材料や製鋼方法によって目的とする範囲に調整されるが、生産性、品質上からは連続鋳造法が好ましく、また小ロット生産には真空溶解法などが適する。鋳造後、所定板厚の鋼材とするために、熱間圧延、冷間圧延などが実施される。このようにして得られた鉄合金板材は、機械式プレスや、油圧式プレスもしくはファインブランキングプレス等にて、打抜き、型取り、穴あけ、曲げ、エンボスなどの塑性加工により、所定のヨーク形状に加工処理され、バリ取り、面取り、酸洗の後、Ni、Cu、Cr、Al等の電気メッキ、無電解メッキ、PVD、CVD、イオンプレーティング等により表面処理を施し、ハードディスクボイスコイルモータに用いるヨーク材として製造することができる。
ここで、ヨーク材の板厚が0.1mm未満の場合は、薄すぎて板材の飽和磁化を多少向上させても磁気回路の特性向上効果があまり見られず、また5mmを超える場合は、逆に充分に厚いため、本発明によらなくても磁気回路が飽和する問題は生じない。
【実施例】
【0010】
以下に実施例を述べるが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
[実施例1]
表1の実施例1に示す成分組成の鋼合金塊を溶解・連続鋳造して、幅200mm、長さ500mm、板厚50mmの合金塊を得た。
その合金塊を1200℃に加熱して熱間圧延を開始し、950℃以下で60%の累積圧下率とし、850℃で熱間圧延を終了した。熱間圧延終了後は、室温まで空冷した。その後、冷間圧延した後、900℃で仕上焼鈍し、酸洗を実施し、厚さ1mmの鋼板とした。
得られた鋼板を機械式打抜きプレス機にてヨーク形状に打抜き加工し、上下ヨーク2種を得た。
【0011】
得られたヨークは、被膜厚み約8ミクロンの無電解NiPメッキを施した。それら上下ヨークの内側に、最大エネルギー積380kJ/m3の永久磁石をヨークの中央位置に接着し磁気回路を作製した。
比較例として、一般的な市販のSPCCSD品、板厚1mmの材料を同様に機械式打抜きプレス機にてヨーク形状に打抜き加工し、上下ヨーク2種を得た。得られたヨークは、被膜厚み約8ミクロンの無電解NiPメッキを施し、それら上下ヨークの内側に、最大エネルギー積380kJ/m3の永久磁石をヨークの中央位置に接着し磁気回路を作製した。
作製した本発明のヨーク材と比較SPCC材を約4mm角に切断し、最大磁界1.9MA/mの振動試料型磁力計にて飽和磁束密度を測定した。
【0012】
また、ヨーク形状に打抜いた残りの板材から、外径45mm、内径33mmのリング試料を作製し、JIS C 2531(1999)に記載される方法に準拠し、前述のリング試料を、間に紙を挟み2枚重ね、絶縁テープを巻いた後、励磁用コイル、磁化検出用コイルとしてそれぞれ50ターンづつ0.26mmφの銅線を巻き、最大磁界±1.6kA/mの直流磁化特性自動記録装置にて磁気ヒステリシス曲線を描き、最大比透磁率及び保磁力を測定した。
さらに、作製したボイスコイルモータ用磁気回路の性能を調べるために、実際の磁気記録装置に使用されている平面コイルを用い磁束計(Lakeshore製480Fluxmeter)を用いて、その磁気回路ギャップ間の総磁束量を測定した。
以上の実験結果を表1に示す。
【0013】
【表1】


【0014】
表1から、実施例1の合金は、SPCCに対して飽和磁束密度が上昇し、それに対応して、磁気回路ギャップにおける総磁束量も増加したことが判る。
なお、表1における比率は、比較例のギャップ磁束量を100として相対比率で表してある。
【0015】
[実施例2]
同じく表1の実施例2に示す成分組成の鋼塊を電炉、転炉−脱ガス、連続鋳造工程を経て溶製・鋳造し、厚さ200mmのスラブを得た。溶銑はRH脱ガスおよびVOD法(真空−酸素脱炭法)により精製した。
得られた200mm板厚のスラブを1100〜1200℃に加熱・均熱し、熱間圧延機で圧延し、仕上げ温度850〜950℃で板厚約10mmとした。再結晶焼鈍(850〜900℃)後、酸洗、冷間圧延により約4mmの板厚とした。その後約850℃で仕上焼鈍後酸洗して供試用鋼板を得た。得られた鋼板を機械式打抜きプレス機にてヨーク形状に打抜き加工し、上下ヨーク2種を得た。得られたヨークは、被膜厚み約6ミクロンの無電解NiPメッキを施した。
【0016】
それら上下ヨークの内側に、最大エネルギー積400kJ/m3の永久磁石をヨークの中央位置に接着し磁気回路を作製した。
作製したヨーク板材の磁気特性を実施例1に示した方法にて測定した。
また、ボイスコイルモータ用磁気回路の性能を調べるために、実際の磁気記録装置に使用されている平面コイルを用いて、その磁気回路ギャップ間の永久磁石上の範囲を走引、総磁束量を測定した。
以上の実験結果を表1に併せて示す。
その結果、実施例2の組成の鋼板は、SPCCに対して飽和磁束密度が向上し、それに対応して、磁気回路ギャップにおける総磁束量も増加した。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明によって、磁気回路に磁石から投入される磁束を有効に利用してギャップ間の磁束密度を向上させ、しかも周辺の磁気記録媒体や制御機器に対して磁気的に影響を及ぼさない磁気回路が提供されるので、磁気記録装置ボイスコイルモータを用いる技術分野に裨益する処大である。
【出願人】 【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
【出願日】 平成19年7月13日(2007.7.13)
【代理人】 【識別番号】100093735
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 鐘司

【識別番号】100105429
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 尚孝

【識別番号】100108143
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎


【公開番号】 特開2008−1990(P2008−1990A)
【公開日】 平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願番号】 特願2007−184250(P2007−184250)