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【発明の名称】 植物性バイオマスの保存方法
【発明者】 【氏名】山本 哲史

【氏名】斎藤 祐二

【氏名】屋祢下 亮

【氏名】寺島 和秀

【要約】 【課題】糖の消費を回避し、かつ低コストで環境適応性のある植物性バイオマスの保存方法を提供する。

【解決手段】植物性バイオマスをアルカリ水溶液の存在下で保持することを含む植物性バイオマスの保存方法であり、アルカリ剤としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩など、或いはアンモニアなどであり、最も好ましいアルカリの濃度は、植物性バイオマス中に生息する微生物を死滅させるか又は増殖を抑制するのに十分なモル濃度の250〜1250mMである。更にアルカリ水溶液のpHは8〜14、好ましい保存温度は常温である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性バイオマスをアルカリ水溶液の存在下で保持することを含む、植物性バイオマスの保存方法。
【請求項2】
植物性バイオマスをアルカリ水溶液中で酸素を含む気体を通気しながら保持することを含む、植物性バイオマスの保存方法。
【請求項3】
アルカリ水溶液のpHが11〜14であることを特徴とする、請求項1又は2記載の保存方法。
【請求項4】
以下の工程:
(a)請求項1〜3のいずれか1項記載の方法によって植物性バイオマスを保存する工程;
(b)植物性バイオマスとアルカリ水溶液とを固液分離する工程;
(c)分離したバイオマスをセルラーゼ糖化処理する工程;及び
(d)分離したアルカリ水溶液を工程(a)に再利用する工程
を含む、バイオマス由来の糖の製造方法。
【請求項5】
以下の工程:
(a)請求項1〜3のいずれか1項記載の方法によって植物性バイオマスを保存する工程;及び
(b)植物性バイオマスとアルカリ水溶液とを固液分離して液体を回収する工程
を含む、バイオマス由来の糖が溶解した液体の回収方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、発生時期が異なる植物性バイオマスを長期的に保存することで、植物性バイオマスを資源として効率的に活用する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
植物性バイオマスは、主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンにより構成されており、特に、グルコースやキシロースなどの高分子であるセルロースやヘミセルロースは、地球上で最大の再生可能な炭水化物資源である。これらの糖は、燃料としてのエタノールやコハク酸、乳酸、酢酸などのプラスチックの原料を製造することが可能である。それ故に石油資源に依存しないエネルギー生産の構築が積極的に進められている。
【0003】
植物性バイオマスには、針葉樹や広葉樹などの樹木や、ボタンウキクサやホテイアオイなどの水生植物などがあり、成長時期や発生時期が種類によって異なっている。特に、産業廃棄物である小麦や稲などのワラ、トウモロコシや野菜の茎葉、さらに周辺環境に生息している雑草などは個々の時期に大量に発生する。
【0004】
これらの植物性バイオマスは、従来、野積したり倉庫に保管していたが、植物性バイオマスの中には含水率が高いものが存在しており、これらはかかる環境下で増殖し易い微生物による腐敗の影響を著しく受け易く、バイオマス中の糖が消費され易いという状態にある。したがって、ある時期に大量に発生した植物性バイオマスを年間を通じて安定的に利用・活用していくことが困難であるという問題がある。
【0005】
また腐敗による糖の消費の問題を回避するために、積極的な乾燥や防腐剤の散布などの処理が必要であるが(特許文献1)、乾燥の場合はエネルギーコスト負担が大きくなり、防腐剤の場合は環境汚染の問題が懸念される。
【0006】
【特許文献1】特開平11−246303
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、糖の消費を回避し、かつ低コストで環境適応性のある植物性バイオマスの保存方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明はまた、上記方法で保存された植物性バイオマスからセルラーゼによる糖化処理によって糖を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、植物性バイオマスをアルカリ水溶液の存在下で保持することによって微生物による糖の消費を防止することができることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の特徴を包含する:
(1)植物性バイオマスをアルカリ水溶液の存在下で保持することを含む、植物性バイオマスの保存方法。
(2)植物性バイオマスをアルカリ水溶液中で酸素を含む気体を通気しながら保持することを含む、植物性バイオマスの保存方法。
(3)前記気体は空気中の酸素濃度以上の酸素を含むことを特徴とする、(2)記載の保存方法。
(4)アルカリ水溶液のアルカリ濃度が12.5mM以上であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の保存方法。
(5)アルカリ水溶液のアルカリ濃度が250〜1250mMであることを特徴とする、(4)記載の保存方法。
(6)アルカリ水溶液のpHが11〜14であることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の保存方法。
(7)アルカリ水溶液が水酸化ナトリウム水溶液であることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載の保存方法。
(8)保存温度が常温であることを特徴とする、(1)〜(7)のいずれかに記載の保存方法。
(9)保存時間が12時間以上であることを特徴とする、(1)〜(8)のいずれかに記載の保存方法。
(10)植物性バイオマスを攪拌することを特徴とする、(1)〜(9)のいずれかに記載の保存方法。
(11)以下の工程:(a)(1)〜(10)のいずれかに記載の方法によって植物性バイオマスを保存する工程;(b)植物性バイオマスとアルカリ水溶液とを固液分離する工程;及び(c)分離した植物性バイオマスを糖化処理する工程を含む、バイオマス由来の糖の製造方法。
(12)(d)分離したアルカリ水溶液を工程(a)に再利用する工程をさらに含む、(11)に記載の製造方法。
(13)工程(b)を濾過により実施することを特徴とする、(11)又は(12)に記載の方法。
(14)工程(c)の糖化処理を、酵素を用いて実施することを特徴とする、(11)〜(13)のいずれかに記載の方法。
(15)酵素がセルラーゼであることを特徴とする、(14)に記載の方法。
(16)以下の工程:(a)(1)〜(10)のいずれかに記載の方法によって植物性バイオマスを保存する工程;及び(b)植物性バイオマスとアルカリ水溶液とを固液分離して液体を回収する工程を含む、バイオマス由来の糖が溶解した液体の回収方法。
(17)(16)に記載の方法により得られるバイオマス由来の糖が溶解した液体。
【発明の効果】
【0011】
本発明の保存方法によれば、植物性バイオマスをアルカリ水溶液の存在下で保持することで、微生物による糖の消費を防止しながら、長期的な保存が可能となる。そのため、ある時期に大量に発生したバイオマスをこの方法により保存することで、年間を通じて植物性バイオマスを活用できる。さらに糖の消費を防ぐ本発明の保存方法の特性に基づき、該方法で保存された植物性バイオマスから糖を高収量で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る植物性バイオマスの保存方法、植物性バイオマス由来の糖の製造方法及びバイオマス由来の糖が溶解した液体の回収方法について説明する。
【0013】
本明細書で使用する「植物性バイオマス」とは、主成分としてセルロース、ヘミセルロース及び/又はリグニンにより構成される、植物や藻類由来の植物性原料を指し、以下のものに限定されないが、例えば小麦ワラ、サトウキビの絞り粕、稲ワラ、籾殻、トウモロコシの茎葉、野菜など農業の過程にて発生するもの(農業性植物バイオマス)や、樹木、潅木、雑草やそれらが伐採されたものなど非農業性植物バイオマス、また、お茶の原料である茶葉など工業的に利用された後の植物性バイオマスの残渣、さらに河川や湖沼に生息するウキクサや、アオサをはじめとした海藻などが含まれる。バイオマスは、必要に応じて粉砕や切断によってチップなどの形態に断片化されていてもよい。
【0014】
本発明の一態様では、本発明は、植物性バイオマスをアルカリ水溶液の存在下で保持することを含む植物性バイオマスの保存方法に関する。本明細書で使用する「アルカリ水溶液の存在下で保持する」という用語は、植物性バイオマスとアルカリ水溶液との接触を維持する任意の状態を含み、例えば植物性バイオマスをアルカリ水溶液中に浸漬させること、アルカリ水溶液を植物性バイオマスに散布すること等による前記接触もこの用語に含まれる。後者においては、保存の間に植物性バイオマスの全体がアルカリ水溶液と接触していることが好ましい。
【0015】
本発明の保存方法において、植物性バイオマスの保持は、アルカリ水溶液中で酸素を含む気体、例えば空気を通気しながら行うことが好ましい(以下、「アルカリ酸素保存」とも称する)。具体的に、植物性バイオマスをアルカリ水溶液中に浸漬させ、アルカリ水溶液に酸素を含む気体を通気することによって行えばよい。通気する気体に含まれる酸素濃度は、アルカリ水溶液が嫌気性にならない濃度であれば特に制限はないが、空気を使用する場合には、酸素富化膜などを用いて酸素を(例えば20%以上に)濃縮して使用することが好ましい。通気手段は当業者に公知のいずれの手段を用いてもよく、例えばエアポンプ、コンプレッサーとマイクロバブル発生器の組合せなどを使用することができ、必要に応じて攪拌翼による強制攪拌を併用する。通気速度は、保存に供する植物性バイオマスの量やアルカリ水溶液の量、通気手段の規模等に応じて変化し、当業者は適宜適切な通気速度を選択することができる。これにより、アルカリ水溶液の存在下で植物性バイオマスを保存した場合に比べて、保存後の糖化処理による植物性バイオマスの糖化率をさらに向上させることができる。
【0016】
本発明で使用するアルカリ水溶液は、例えば適当なアルカリ剤を溶解することにより調製することができる。本発明のアルカリ水溶液で使用することができるアルカリ剤として、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩(具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウム)など、或いはアンモニアなどを挙げることができる。またアルカリ剤を溶解するための溶媒として、例えば水、蒸留水、水道水、地下水、雨水や雪解け水などを挙げることができる。好ましいアルカリ水溶液は水酸化ナトリウム水溶液である。
【0017】
本発明で使用するアルカリ水溶液のアルカリ濃度は、植物性バイオマス中に生息する微生物を死滅させるか又は増殖を抑制するのに十分な濃度であり、典型的にはモル濃度で12.5mM以上に設定するが、好ましくは糖がアルカリ加水分解を受けないために過剰に高いアルカリ濃度は避けるべきである。例えば、本発明で使用するアルカリ水溶液の濃度は、モル濃度で12.5mM以上、好ましくは100〜1250mM、最も好ましくは250〜1250mMである。
【0018】
本発明で使用するアルカリ水溶液のpHは、8〜14、好ましくは9〜14、より好ましくは10〜14、最も好ましくは11〜14の範囲である。
【0019】
本発明の植物性バイオマスの保存方法において、保存温度は特に制限されないが、好ましい保存温度は、過熱の必要性がないという点でエネルギーコストの面でも優れている常温である。
【0020】
本発明の植物性バイオマスの保存方法において、アルカリ水溶液のアルカリ濃度又はpHが本発明で意図する範囲内で維持される限り、保存期間は特に制限されない。したがって、本発明の保存方法では、植物性バイオマスをアルカリ水溶液の存在下で少なくとも12時間以上、少なくとも1日以上、少なくとも3日以上、少なくとも6日以上、少なくとも10日以上、少なくとも1ヶ月以上、少なくとも3ヶ月以上、少なくとも6ヶ月以上、又は少なくとも1年以上保持することができる。
【0021】
また本発明の一実施形態では、植物性バイオマスをアルカリ水溶液中で攪拌しながら維持する。攪拌手段は、保存するバイオマスの形態、体積などに応じて当業者が適宜選択することができる。例えば攪拌手段として攪拌装置の使用を挙げることができ、この場合に使用することができる攪拌装置として、例えば一方向に槽内の攪拌翼が回転する一方回転型や往復回転型などを挙げることができる。これによりアルカリ水溶液を植物性バイオマスに十分に接触かつ浸透させることができる。
【0022】
本発明の別の態様では、本発明は上記の保存方法により保存した植物性バイオマスから糖を製造する方法に関する。具体的には、本発明の植物性バイオマス由来の糖の製造方法は、上記のように植物性バイオマスを保存することに加えて、植物性バイオマスとアルカリ水溶液とを固液分離する工程;及び分離した植物性バイオマスを糖化処理する工程を含む。
【0023】
上記方法において、植物性バイオマスとアルカリ水溶液との固液分離は、アルカリ水溶液から植物性バイオマスを湿潤状態で分離する任意の手段によって実施することができる。例えば上記固液分離は、これに限定されるものではないが、減圧もしくは加圧濾過、布濾過、遠心分離などの手段により達成することができるが、布濾過又は遠心分離により固液分離を行うことが好ましい。
【0024】
糖化処理は、植物性バイオマスを蒸煮及び必要により爆砕処理にかけて、バイオマスを繊維化し、水抽出やアルカリ抽出などの処理を経てセルロース成分を取得した後に、実施することができる。
【0025】
上記方法において、分離した植物性バイオマスの糖化処理は、場合により中和処理及び/又は水洗を行った後で、酵素処理により実施することができる。この場合に使用する酵素は、典型的にはセルラーゼである。処理温度及びpHは、それぞれ至適温度及び至適pH又はその近位の値に設定するものとし、処理時間及び添加する酵素の量は、処理する植物性バイオマスの種類、量などに応じて当業者が適宜設定することができる。
【0026】
本発明で使用するセルラーゼは、セルロースをグルコースへと効率的に変換できるものであれば特に限定されず、例えば、微生物が生成するセルラーゼをこの目的に使用することができる。セルラーゼを生成する微生物として、アスペルギウス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギウス・フォエティダス(Aspergillus foetidus)、イルペックス・ラクテウス(Irpex lacteus)、ノイロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)、セルロモナス・フィミ(Cellulomonas fimi)、セルロモナス・ウダ(Cellulomonas uda)、エルウィニア・クリサンセミ(Erwinia chrysanthemi)、シュードモナス・フルオレセンス(Pscudomonas fluorescence)、ストレプトマイセス・フラボグリスカス(Streptmyces flavogriscus)などが挙げられる(例えば「セルロース資源−高度利用のための技術開発と基礎」越島哲夫編、(株)学会出版センター、1991年参照)。また、セルラーゼ生成遺伝子を生物工学的に導入した微生物も報告されており(例えばCloning of the cellulase gene from Ruminococcus albus and its expression in Escheria coli.,K.Ohmiya,K.Nagashima,T.Kajino,E.Gto,A.Tsukada,and S.Shimizu,Appl.Envir.Microbiol.1988 54:1511−1515参照)、このような微生物は当技術分野では公知である。
【0027】
本発明の一実施形態では、本発明の植物性バイオマス由来の糖を製造する方法は、一旦植物性バイオマスの保存に使用したアルカリ水溶液を別の植物性バイオマスの保存に再利用する工程をさらに含む。具体的には、植物性バイオマスのアルカリ水溶液との固液分離後に生じる液分を、別の植物性バイオマスの保存に再利用する工程を含む。これによりアルカリ水溶液を効率的にリサイクルすることができ、保存コストを削減することができる。
【0028】
また上記のようにして分離された液分は、保存によってアルカリ水溶液中に溶解した植物性バイオマス由来の糖を含んでいるため、それ自体有用な炭水化物資源として利用することができる。
【0029】
したがって、本発明は、本発明の保存方法により植物性バイオマスをアルカリ水溶液の存在下で維持する工程と、植物性バイオマスとアルカリ水溶液とを固液分離して液分を回収する工程とを含む、バイオマス由来の糖が溶解した液体の回収方法をさらに含む。この実施形態において、植物性バイオマスとアルカリ水溶液との固液分離は上記と同様にして実施することができる。
【0030】
生産される糖類は、主にグルコース、キシロースやマンノースもしくは、それらのオリゴマーであり、これらは特にエタノールの製造のための原料として使用できる。
【実施例】
【0031】
[実施例1]アルカリ水溶液中の微生物数の検証
植物性バイオマスとしてススキを試験に供した。予め濃度の異なる2種類のアルカリ水溶液(それぞれアルカリ水溶液A:NaOH:25mM、pH13.0、アルカリ水溶液B:250mM、pH13.1)を調製した。試験は250mL容のバイアル(医薬用の蓋付き容器)に5.0gススキ及び100mLのアルカリ水溶液A又はBを添加し、30℃にて120rpmで攪拌しながら保存した(実験1及び2)。6日間保存した後、系内から1.0mL溶液をサンプリングし、微生物数を測定した。溶液中の微生物数は、生理食塩水にて段階的に希釈した保存液200μLを標準寒天培地に稙種して、培養3日後のコロニー数から算出した。尚、上記実験1及び2において、比較としてアルカリ水溶液の代わりに蒸留水を用いて同様の試験を行った。
【0032】
実験1及び2の結果をそれぞれ表1及び2に示す。
【0033】
下記表1及び2から分かる通り、蒸留水にて保存を行った場合には、微生物が存在していたが(実験1:4.3×10CFU/mL、実験2:2.7×10CFU/mL)、アルカリ水溶液の場合には、微生物は確認されなかった(表1及び2)。また、植物性バイオマスをアルカリ水溶液もしくは蒸留水で6日間保存した後のpHは、それぞれ以下の通りであった:実験1(アルカリ水溶液;12.3、蒸留水;6.6);実験2(アルカリ水溶液;12.9、蒸留水;7.3)。以上のことから、植物性バイオマスをアルカリ水溶液に浸漬させることで、溶液中の微生物数の低減が行えることが示され、ゆえに微生物によるバイオマス由来の糖の消費を抑制できることが示唆された。
【0034】
【表1】


【0035】
【表2】


【0036】
[実施例2]アルカリ水溶液中で保存した植物性バイオマスの糖化率の検証
植物性バイオマスとして、稲ワラ及びススキを試験に供した。試験は250mL容のバイアルに5.0g植物性バイオマス及び、上記実施例1で調製したアルカリ水溶液A又はBを100mL添加し、20℃にて攪拌しながら12時間保存した(実験3及び4)。なお、実験3及び4において、12時間後のpHはそれぞれ以下の通りであった:実験3(稲ワラ:12.4、ススキ:12.2)、実験4(稲ワラ:12.8、ススキ:12.5)。その後、吸引濾過により固液分離を行い、固形物に対してはセルラーゼによる糖化試験を行った。糖化試験は、100mL容量のバイアルに乾燥重量で2.5gになるように湿残渣を添加し、液量の全量が50mLになるようにセルラーゼ溶液(200mM酢酸バッファー、pH4.8)を添加した。セルラーゼ溶液は、GC220(ジェネンコア社製)を使用し、乾燥重量当たり15FPU/gになるように調整した。糖化反応は40℃にて系内を攪拌して行い、反応144時間後の溶液中のグルコース濃度をHPLCにて測定した。また、実験3及び4において、比較としてアルカリ水溶液の代わりに蒸留水を用いて同様の試験を行った。実験3及び4の結果を、それぞれ図1及び2に示す。なお、結果は、溶液中のグルコース量をセルロース量に換算して糖化されたセルロースの割合を糖化率として示した。
【0037】
アルカリ水溶液にて保存した場合では、蒸留水での保存と比べ糖化率が高い値であった。このことから、アルカリ水溶液の浸漬により糖化率が著しく向上することが示された。
【0038】
実施例1及び2から、アルカリ水溶液に植物性バイオマスを保存することで、バイオマスからの糖抽出を効率的に行えることが示された。
【0039】
[実施例3]植物性バイオマスの糖化率に及ぼすアルカリ濃度の影響の検証
植物性バイオマスとして稲ワラ及びススキを試験に供した。試験は、250mL容量のバイアルに5.0g植物性バイオマス及び100mLのアルカリ水溶液を添加し、20℃にて攪拌しながら12時間保存を行った。尚、アルカリ水溶液の濃度は、12.5〜1250mMとした。その後、吸引ろ過により固液分離を行い、固形物に対してはセルラーゼによる糖化試験を行った。糖化試験は、100mL容量のバイアルに乾燥重量で5.0gになるように湿残渣を添加し、液量が50mLになるようにセルラーゼ溶液(200mM酢酸バッファー、pH4.8)を添加した。セルラーゼ溶液は、GC220(ジェネンコア社製)を使用し、乾燥重量当り15FPU/gになるように調整した。糖化試験は、40℃にて攪拌して行い、144時間後の溶液中のグルコース濃度をHPLCにて測定した。結果は、溶液中のグルコース量をセルロース量に換算して糖化されたセルロースの割合を糖化率として示した(図3)。
【0040】
図3に示すとおり、アルカリ水溶液のアルカリ濃度が高いほど植物性バイオマスの糖化率は向上し、少なくとも1250mM濃度までこの傾向があることが示された。
【0041】
[実施例4]アルカリ酸素保存による植物性バイオマスの糖化率の検証
保存方法として、アルカリ保存並びにアルカリ条件下で酸素供給を行うアルカリ酸素保存を行った。
【0042】
250mL容量のバイアルに10.0g稲ワラ及び100mLのアルカリ水溶液(NaOH:250mM)を添加した実験系をアルカリ保存とした。また、アルカリ酸素保存では、アルカリ保存の条件下でエアポンプにより空気を20ml/分にて吹き込む実験系(アルカリ/酸素系)を行った。それぞれの系にて12時間保存した後、吸引ろ過により固液分離を行い、固形物に対してはセルラーゼによる糖化試験を行った。糖化試験は、100mL容量のバイアルに乾燥重量で5.0gになるように湿残渣を添加し、液量が50mLになるようにセルラーゼ溶液(200mM酢酸バッファー、pH4.8)を添加した。セルラーゼ溶液は、GC220(ジェネンコア社製)を使用し、乾燥重量当り15FPU/gになるように調整した。糖化試験は、40℃にて攪拌して行い、144時間後の溶液中のグルコース濃度をHPLCにて測定した。結果は、溶液中のグルコース量をセルロース量に換算して糖化されたセルロースの割合を糖化率として示した(図4)。
【0043】
図4に示すとおり、植物性バイオマスをアルカリ酸素保存に供する場合の方が、アルカリ保存に供する場合に比べて、保存後の糖化処理による植物性バイオマスの糖化率が高いことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の保存方法は、簡便かつ低コストであり、生息又は増殖する微生物による糖の消費を回避しながら植物性バイオマスを長期的に保存することができるため、年間を通じて安定的に植物性バイオマスを利用・活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH:25mM、pH13.0)中で保存した稲ワラ及びススキと蒸留水中で保存した稲ワラ及びススキとの糖化率の比較を示す。
【図2】図2は、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH:250mM、pH13.1)中で保存した稲ワラ及びススキと蒸留水中で保存した稲ワラ及びススキとの糖化率の比較を示す。
【図3】図3は、植物性バイオマスの糖化率に及ぼすアルカリ濃度の影響を示す。
【図4】図4は、アルカリ酸素保存による植物性バイオマスの糖化率が、アルカリ保存による場合よりも高いことを示す。
【出願人】 【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
【出願日】 平成20年5月13日(2008.5.13)
【代理人】 【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔

【識別番号】100096183
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 貞次

【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節


【公開番号】 特開2008−307047(P2008−307047A)
【公開日】 平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願番号】 特願2008−125594(P2008−125594)