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【発明の名称】 機能性を富化するきのこの製造技術
【発明者】 【氏名】原田 陽

【要約】 【課題】素材に内在するグルタミン酸脱炭酸酵素を活性化する方法を見出すことにより、γ−アミノ酪酸の含有量を飛躍的に向上させたエノキタケあるいはシイタケ等の食品素材を提供する。

【解決手段】低温性担子菌であるエノキタケあるいはシイタケ等の子実体を収穫後、低温性担子菌の活性温度域で0〜14日間保存後、グルタミン酸やその塩類等の添加物と混合してから、水に分散させ混合し中低温処理することでγ−アミノ酪酸含有量を高める。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温性担子菌であるエノキタケあるいはシイタケ等の子実体を収穫後、低温性担子菌の活性温度域で0〜14日間保存後、活性温度域でグルタミン酸やその塩類等の添加物と併せて、水に分散混合することを特徴とする、γ−アミノ酪酸含有量を高める方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法によって得られる、γ−アミノ酪酸含有量を高めた担子菌またはその粉末。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、γ−アミノ酪酸(以下「GABA」という)の含有量を飛躍的に高めた食品素材と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GABAは、生体内でグルタミン酸の脱炭酸によって生成するアミノ酸の1種であり、脳や脊髄に存在する抑制系の神経伝達物質として中枢神経において重要な役割を果たしているほか、血圧上昇抑制作用や精神安定作用があることが知られている。
【0003】
近年、適当な処理を施してGABA含有量を高めた食品素材が見受けられる。コメ胚芽を嫌気処理してGABA含量を高めた食品(例えば、特許文献1〜3参照。)、茶葉を嫌気処理してGABA含量を高めたギャバロン茶(特許文献4)が知られている。また、微生物を利用してGABAを富化した食品の製造法として、乳酸菌を用いたもの(特許文献5〜7参照。)、麹菌を用いたもの(特許文献8)、酵母等を用いたもの(特許文献9)がある。担子菌としては、アガリクスの菌糸体や子実体によるもの(特許文献10、11)が報告されているが、pH調整や40℃以上の中高温による処理が必要であり、調整の煩わしさや高温で得られるGABAには着色や雑菌臭が残る、GABAへの変換効率が低い等の課題があった。さらには、エノキタケやシイタケの抽出物が、GABA合成に関わるグルタミン酸デカルボキシラーゼの活性を促進する(特許文献12)ことが報告されているが、外在する酵素を活性化するものである。
【特許文献1】特許第2590423号
【特許文献2】特許第2810993号
【特許文献3】特許第2813771号
【特許文献4】特許第3038373号
【特許文献5】特許第2704493号
【特許文献6】特許第3172150号
【特許文献7】特許第3426157号
【特許文献8】特開2004−147560号公報
【特許文献9】特許第2891296号
【特許文献10】特開2001−213773号公報
【特許文献11】特開2002−247966号公報
【特許文献12】特開2004−107286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エノキタケあるいはシイタケ等の低温性担子菌には、うま味成分であるグルタミン酸が豊富であると同時にGABAが含有されているものの、大量には存在していない(図1)。本発明の目的は、内在するグルタミン酸脱炭酸酵素を活性化する方法を見出すことにより、GABAの含有量を飛躍的に向上させ、安全かつ複数の機能性を持ったGABAを富化したエノキタケあるいはシイタケ等の食品素材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明で使用するきのこは、エノキタケあるいはシイタケ等であり、その子実体の生鮮品あるいは乾燥物である。
【0006】
低温性担子菌の活性温度域の5〜30℃好ましくは5〜20℃で0〜14日間保存したエノキタケ、シイタケ等の子実体の生鮮品あるいは乾燥物に、水と添加物としてのピリドキサルリン酸あるいはグルタミン酸(グルタミン酸塩)を混合し、10〜30℃好ましくは10〜20℃で2〜25時間保持することでGABA含有量を富化させた食品が得られることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法によれば、きのこのGABA含有量を大幅に高めることができる。特に他の栽培されているきのこと比較して、エノキタケやシイタケの低温で活発となる生理特性を有効に活用することにより、低温でGABA含有量を高めることが可能になり、効率的に機能性を富化した食品素材を得ることができる。使用原料であるエノキタケやシイタケは、国内で1位、2位を占めるほど生産量が多く、周年栽培が行われているきのこであることから、安全安心かつ消費者になじみの深い食品素材である。本発明は、エノキタケとシイタケ等の高度利用を可能にすることにより付加価値を高め、購買および消費に対する意欲の一層の向上が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に用いるエノキタケやシイタケは品種を限定しないが、子実体中にグルタミン酸が多く含有されているのみならず、GABAが少なからず含有されているものが望ましい。エノキタケやシイタケの生鮮品は、収穫後14日以内のものを利用することが望ましい。GABAを富化した素材を製造する際、生鮮品あるいは乾燥物のいずれも利用が可能である。
【0009】
生鮮品あるいは乾燥物に一定量のピリドキサルリン酸あるいはグルタミン酸(グルタミン酸塩)を添加し、2〜10倍量の水を加えて混合し、10〜30℃好ましくは10〜20℃で2〜25時間静置あるいは振とうする。この処理により、子実体に内在するグルタミン酸脱炭酸酵素を活性化させ、グルタミン酸をGABAに変換させることが可能であると同時に、プロテアーゼも作用し子実体に含まれるタンパク質が分解され、グルタミン酸が供給される。また、処理開始時に添加するピリドキサルリン酸やグルタミン酸(グルタミン酸塩)により、さらに効率よくGABAに変換することができる。従来のように40℃前後で処理を行うと、細菌等の繁殖により腐敗臭をともなうが、本発明における中低温の処理では腐敗臭をともなう細菌の繁殖はみられない。
【0010】
上記の処理により、子実体中のGABA含有量は乾物100g当り約7,000mgに高めることができる。「ギャバロン茶」中のGABA含有量は乾物100g当り約170mg、「コメ胚芽」中のGABA含有量は乾物100g当り約400mgであるから、エノキタケ子実体中に「ギャバロン茶」の40倍以上、「コメ胚芽」の17倍以上のGABAを蓄積させることができる。
【0011】
回収した子実体やエキスは、乾燥粉末あるいは濃縮液体にすることにより、食品素材として利用することが可能である。
【実施例】
【0012】
本発明を実施例により詳しく説明する。これにより、本発明の範囲が限定されるものではない。
【0013】
収穫直後のエノキタケ子実体を凍結乾燥後にフードミキサーにより粉末化した。この凍結乾燥粉末10gに250〜500mgのピリドキサルリン酸を添加し、10倍量の水を加えてから20℃で25時間振とう(100回/分)した。高速遠心分離機により5,000g30分間で沈殿の固形分を除去し、ろ紙を用いてろ過した。加熱殺菌したろ液を用いて、薄層クロマトグラフィー(以下「TLC」という)で定性的に、高速液体クロマトグラフィー(以下「HPLC」という)によるアミノ酸分析で定量的にGABAの分析を行った。ピリドキサルリン酸無添加の場合は、140mgGABA/100gであった。ピリドキサルリン酸を添加した場合に明らかにGABA含有量の増加が認められ、500mg添加した場合、約600mgGABA/100gとなった。
【0014】
収穫直後のエノキタケ子実体を凍結乾燥後にフードミキサーにより粉末化した。この凍結乾燥粉末10gに500〜1,000mgのグルタミン酸を添加し、10倍量の水を加えてから20℃で25時間振とう(100回/分)した。高速遠心分離機により5,000g30分間で沈殿の固形分を除去し、ろ紙を用いてろ過した。加熱殺菌したろ液を用いて、実施例1と同様にGABAの分析を行った。グルタミン酸を添加した場合に明らかにGABA含有量の増加が認められ、1,000mg添加した場合、約6,000mgGABA/100gとなった。
【0015】
収穫直後のエノキタケ子実体を5〜40℃で0〜14日間保存した。一定期間保存後のエノキタケ子実体を凍結乾燥後にフードミキサーにより粉末化した。この凍結乾燥粉末10gにグルタミン酸を添加せずに、10倍量の水を加えてから20℃で25時間振とう(100回/分)した。高速遠心分離機により5,000g30分間で沈殿の固形分を除去し、ろ紙を用いてろ過した。加熱殺菌したろ液を用いて、同様にGABAの分析を行った。収穫後20℃で3〜7日間保存した後に、加温処理を行うことにより2,000〜5,000mgGABA/100gとなり、GABAの顕著な増加がみられた(図2)。
【0016】
収穫直後のエノキタケ子実体を凍結乾燥後にフードミキサーにより粉末化した。この凍結乾燥粉末10gに1,000mgのグルタミン酸を添加し、10倍量の水を加えてから20℃で2〜25時間振とう(100回/分)した。高速遠心分離機により5,000g30分間で沈殿の固形分を除去し、ろ紙を用いてろ過した。加熱殺菌したろ液を用いて、同様にGABAの分析を行った。処理開始後2時間ですでにGABA含有量の増加が認められ、6〜8時間までに急激な増加がみられ、約7,000mgGABA/100gに達した(図3)。グルタミン酸の変換率は約60%まで高めることが可能であった。
【0017】
収穫直後の担子菌7種類(エノキタケ(ホワイト系、ブラウン系)、シイタケ、ブナシメジ、ナメコ、マイタケ、エリンギ、タモギタケ)の子実体を凍結乾燥後にフードミキサーにより粉末化した。この凍結乾燥粉末10gに1,000mgのグルタミン酸を添加し、10倍量の水を加えてから20℃で6時間振とう(100回/分)した。高速遠心分離機により5,000g30分間で沈殿の固形分を除去し、ろ紙を用いてろ過した。加熱殺菌したろ液を用いて、同様にGABAの分析を行った。TLC分析により、エノキタケの2系統とシイタケで、GABAの強いスポットが得られ、GABAの顕著な増加が示され、約5,000〜6,000mgGABA/100gに達した。GABA含有量は、エノキタケ、シイタケ>タモギタケ>マイタケ、エリンギ>>ナメコ、ブナシメジであった。
【図面の簡単な説明】
【図1】無処理エノキタケのHPLCによる遊離アミノ酸分析例である。
【図2】実施例3の方法によるGABAの顕著な増加を示すグラフである。
【図3】実施例4の方法によるGABAの顕著な増加を示すグラフである。
【出願人】 【識別番号】591190955
【氏名又は名称】北海道
【出願日】 平成19年6月8日(2007.6.8)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−301798(P2008−301798A)
【公開日】 平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願番号】 特願2007−176717(P2007−176717)