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糖脂質の製造方法 - 特開2008−301748 | j-tokkyo
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【発明の名称】 糖脂質の製造方法
【発明者】 【氏名】宮▲崎▼ 勇介

【氏名】仙波 尚

【要約】 【課題】微生物を用いた糖脂質の製造方法において、品質の良い糖脂質を製造する方法を提供する。

【解決手段】本発明に係る糖脂質の製造方法は、炭素源を含む培地中で微生物を培養する培養工程と、培養工程により得られた生成物を析出させる析出工程と、析出工程により得られた析出物から、水と相溶せずかつ糖脂質が可溶である溶媒を用いて糖脂質を抽出する抽出工程を包含しているため、不純物の含有量が低下した糖脂質を製造することが可能である。本発明によって製造された糖脂質は、純度が高く、水に溶けやすいため、化粧品、食品等の添加剤として好適に用いられ得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素源を含む培地中で微生物を培養する培養工程と、
前記培養工程により得られた生成物を析出させる析出工程と、
前記析出工程により得られた析出物から、水と相溶せず、かつ糖脂質が可溶である溶媒を用いて糖脂質を抽出する抽出工程と、を包含することを特徴とする糖脂質の製造方法。
【請求項2】
前記溶媒は、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、または炭化水素系溶媒であることを特徴とする請求項1に記載の糖脂質の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒は、酢酸エチル、1−ブタノール、またはキシレンであることを特徴とする請求項1に記載の糖脂質の製造方法。
【請求項4】
前記微生物は、ロドコッカス属に属する微生物であることを特徴とする請求項1に記載の糖脂質の製造方法。
【請求項5】
前記微生物は、ロドコッカス・エリスロポリス SD−74株、ロドコッカス・エスピーTB−42株、またはロドコッカス・バイコヌレンシス NBRC 100611株であることを特徴とする請求項4に記載の糖脂質の製造方法。
【請求項6】
前記炭素源は、天然油脂、炭化水素、脂肪酸、脂肪酸エステル、および高級アルコールからなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の糖脂質の製造方法。
【請求項7】
前記析出工程において、前記培養工程において微生物を培養した培地を酸性にし、培地中の酸性物質を析出させることを特徴とする請求項1に記載の糖脂質の製造方法。
【請求項8】
前記抽出工程により得られた抽出物から脂溶性物質を除去する脂溶性物質除去工程をさらに包含することを特徴とする請求項1に記載の糖脂質の製造方法。
【請求項9】
前記脂溶性物質除去工程において、前記抽出工程により得られた抽出物に、糖脂質と相溶せず、脂溶性物質が可溶である溶媒を添加し、溶媒層を除去することを特徴とする請求項8に記載の糖脂質の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9に記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする糖脂質。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物による糖脂質の製造方法に関するものであり、より具体的には、炭素源を含む培地中で培養された微生物による生成物を培地から取り出すことによって、糖脂質を製造する製造方法、および当該製造方法によって製造された糖脂質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微生物が作り出す機能性物質であるバイオサーファクタントは、疎水性部分と親水性部分とを有する両親媒性物質である。特に、糖脂質型のバイオサーファクタントは、優れた生分解性を示す天然の界面活性剤として注目されており、さらに高い保湿効果および乳化作用を示すため、化粧品、食品等の添加剤としても用いられ得ることが知られている(非特許文献1)。
【0003】
このようなバイオサーファクタントは、天然油脂、炭化水素等の炭素源を添加した培地中で微生物を培養することによって、工業的に効率よく生産することが可能である。この生産方法においては、培地中に添加する炭素源の種類、または培養する微生物の種類によって、生産されるバイオサーファクタントの種類が異なる。
【0004】
微生物を用いたバイオサーファクタントの生産方法として、ロドコッカス(Rhodococcus)属に属する微生物を用いた方法が知られている。特許文献1および非特許文献2では、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)SD−74株を、脂肪酸または植物油脂を含む培地中で好気的に培養することによって、サクシニルトレハロース脂質(STL:Succinoyl Trehalose Lipid)を生産している。また、特許文献2においては、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)TB−42株を、不飽和炭化水素、ハロゲン炭化水素等を含む培地中で好気的に培養することによって、STLを生産している。
【0005】
上述した生産方法においては、微生物によって生成された糖脂質を培養液中から分離することによって、目的とする糖脂質を回収する。培養液中から糖脂質を分離するために、非特許文献3では、まず、糖脂質を含む培養液から菌体、残存基質等を除去した後、培養液を酸性にすることで糖脂質を析出させている。そして、この析出物を水で2回洗浄後にメタノールに溶解させ、この溶液をヘキサンにより3回洗浄した後に、メタノールを留去することによって糖脂質を回収している。
【特許文献1】特開昭62−83896号公報(1987年4月17日公開)
【特許文献2】特開平10−72478号公報(1998年3月17日公開)
【非特許文献1】Y.Ishigamiら、J.Jpn.Oil Chem.Soc.,36(11):847−851(1987)
【非特許文献2】Y.Uchidaら、Agric.Biol.Chem.,53(3):765−769(1989)
【非特許文献3】Y.Uchidaら、Agric.Biol.Chem.,53(3):757−763(1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献3に記載の方法によれば、ヘキサンによる洗浄後の溶液を濃縮し、減圧下においてPと共に乾燥させることによって、薄茶色の固形物として糖脂質を回収している。薄茶色の糖脂質を化粧品、食品等の添加剤として用いる場合、これらの製品を不必要に着色してしまい好ましくない。また、このような糖脂質を液体に溶かした場合、水溶液が濁ってしまい十分に溶解させることができない。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、微生物を培養することによって得られた糖脂質から不純物を除去することによって、高品質な糖脂質を製造するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、炭素源を含む培地中で微生物を培養し、この培地から取り出された目的の糖脂質を含む析出物中には、多量の水溶性物質が取り込まれているという新たな知見を得、そして、特定の抽出処理を施すことで水溶性物質の含有量が低下した糖脂質を取り出すことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る糖脂質の製造方法は、炭素源を含む培地中で微生物を培養する培養工程と、上記培養工程により得られた生成物を析出させる析出工程と、上記析出工程により得られた析出物から、水と相溶せず、かつ糖脂質が可溶である溶媒を用いて糖脂質を抽出する抽出工程と、を包含することを特徴としている。
【0010】
本発明に係る糖脂質の製造方法において、上記溶媒は、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、または炭化水素系溶媒であることが好ましい。この溶媒としては、酢酸エチル、1−ブタノール、またはキシレンであることが好ましい。
【0011】
また本発明に係る製造方法において、上記微生物は、ロドコッカス属に属する微生物であることが好ましい。この微生物は、ロドコッカス・エリスロポリス SD−74株、ロドコッカス・エスピーTB−42株、またはロドコッカス・バイコヌレンシス NBRC 100611株であることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明に係る糖脂質の製造方法において、上記炭素源は、天然油脂、炭化水素、脂肪酸、脂肪酸エステル、および高級アルコールからなる群より選択されることが好ましい。
【0013】
本発明に係る糖脂質の製造方法は、上記析出工程において、上記培養工程において微生物を培養した培地を酸性にし、培地中の酸性物質を析出させることが好ましい。
【0014】
本発明に係る糖脂質の製造方法は、上記抽出工程により得られた抽出物から脂溶性物質を除去する脂溶性物質除去工程をさらに包含することがこのましい。また、当該脂溶性物質除去工程において、前記抽出工程により得られた抽出物に、糖脂質と相溶せず、脂溶性物質が可溶である溶媒を添加し、溶媒層を除去することが好ましい。
【0015】
本発明に係る糖脂質は、上記製造方法によって製造されたことを特徴としている。
【0016】
本発明にかかる製造方法によれば、高品質な糖脂質を製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る糖脂質の製造方法は、炭素源を含む培地中で微生物を培養することによって得られる生成物を培地から析出させ、水に相溶せず、糖脂質が可溶である溶媒を用いて当該析出物から糖脂質を抽出する工程を含んでいるため、不純物の含有量が低下した糖脂質を製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る糖脂質の製造方法は、炭素源を含む培地中で微生物を培養する工程と、上記培養工程により得られた生成物を析出する析出工程と、上記析出工程により得られた析出物から、水と相溶せず、かつ糖脂質が可溶である溶媒を用いて糖脂質を抽出する抽出工程とを包含することを特徴としている。
【0019】
本明細書中で使用する限り、「糖脂質」は、糖に由来する疎水性部分と脂肪酸に由来する疎水性部分とを有する両親媒性物質であり、バイオサーファクタントと称することもある。本発明に係る製造方法によって製造される糖脂質は、糖脂質含有組成物を含むことが意図される。本明細書中で使用される限り、「バイオサーファクタント」は、微生物によって生成される機能性物質であり、特に明示しない限り、糖脂質型のバイオサーファクタントであることが意図される。
【0020】
本発明に係る製造方法により製造される糖脂質は、トレハロース脂質であり得、特にトレハロースに脂肪酸およびコハク酸がエステル結合したサクシニルトレハロース脂質(STL)であり得る。本発明に係る製造方法により製造されるSTLは、糖部分がトレハロースであり、トレハロース1モル当りコハク酸および脂肪酸がそれぞれ1〜2モルエステル結合した糖脂質である。この糖脂質の脂肪酸部分は、培養基質である炭素源を変えることによって、それぞれ異なった脂肪酸が結合する。
【0021】
本明細書中で使用する限り、「微生物」は、糖脂質を産生し得る微生物であることが意図される。一実施形態において、本発明に係る製造方法において用いられる微生物は、トレハロース脂質を産生し得る微生物であり得る。このような微生物は、特に限定されないが、ロドコッカス属に属する微生物であることが好ましく、ロドコッカス・エリスロポリス SD−74株、ロドコッカス・エスピー TB−42株、またはロドコッカス・バイコヌレンシス NBRC 100611株であることが好ましい。
【0022】
本明細書中で使用する限り、「炭素源」とは、上記微生物が培養中に吸収利用する炭素化合物であり、特に天然油脂、炭化水素、脂肪酸、脂肪酸エステル、または高級アルコールであることが好ましい。ここで、炭素化合物は、炭素と水素、窒素等との化合物が意図される。一実施形態において、本発明に係る製造方法において用いられる炭素源は天然油脂であり得、動物油脂であっても植物油脂であってもよいが、入手がより容易であるため、植物油脂であることが好ましい。本発明に係る製造方法において用いられる植物油脂は、例えばパーム油、ヤシ油、大豆油、オリーブ油、サフラワー油、菜種油、トウモロコシ油、綿実油、トール油等であることが好ましいが、これに限定されない。
【0023】
また、炭素源として用いる炭化水素としては、n−デカン、n−ウンデカン、n−トリデカン、n−テトラデカン、n−ペンタデカン、n−ヘキサデカン、n−ヘプタデカン、n−オクタデカン、n−ノナデカン等のノルマルアルカン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン等のノルマルアルケン、等を好適に使用することが可能である。
【0024】
炭素源として用いる脂肪酸としては、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸(ラウリン酸)、トリデカン酸、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)、オレイン酸等を好適に使用することが可能である。また、脂肪酸エステル、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール(ラウリルアルコール)等の高級アルコールを炭素源として用いてもよい。
【0025】
〔培養工程〕
本発明に係る糖脂質の製造方法は、炭素源を含む培地中で微生物を培養する培養工程を包含する。微生物を培養する方法は、炭素源を含む培地中で培養することによって、微生物が糖脂質を生成し得るような方法であれば特に限定されず、慣用的な方法に従って行われる。炭素源を添加した培地には、必要に応じて窒素源、無機塩等の栄養分を添加してもよい。培地中に添加される炭素源としては、上述した各炭素源が好適に用いられ、培地中の炭素源の添加濃度は、5〜20%であることが好ましく、10%であればより好ましい。培地中に添加される窒素源としては、微生物の培養に際して通常使用される窒素含有の有機物または無機物が用いられ、例えば硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、リン酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム等を使用可能である。上述した他に、微生物の生育に必要であれば、酵母エキス、ペプトン等の栄養素を培地に添加してもよい。
【0026】
培養は、振とう攪拌による好気的条件下で行われ、培養温度は、20〜35℃であることが好ましく、30℃であることがより好ましい。培養pHは、5.5〜9.5であることが好ましい。また、培養期間は、15〜50g/lの濃度の糖脂質が生成されるまで培養することが好ましく、後述する実施例においては、培養5日後に糖脂質濃度15g/lに達していることから、5〜12日間培養することが好ましい。
【0027】
本発明に係る糖脂質の製造方法において、炭素源を含む培地中で微生物を培養する工程においては、当該微生物を本培養する前にシード培養してもよい。微生物をシード培養することによって、本発明に係る糖脂質の製造方法に用いるのに最適な条件に微生物を調整することが可能であり、その結果効率よく糖脂質を製造することができる。
【0028】
〔析出工程〕
本発明に係る糖脂質の製造方法は、上記培養工程によって得られた生成物を析出させる析出工程を包含する。つまり、微生物が培地中に生成する糖脂質を含む培地あるいは培養液に対して析出を行う。このとき、析出の対象となる当該培地あるいは当該培養液は、微生物を培養した培養液を遠心分離し、培養液中から菌体および残存基質を取り除いたものであってもよい。ここで、「析出させる」とは、培地中に溶解した物質を、固体として取り出すことが意図される。すなわち、本発明に係る析出工程においては、培養工程において微生物が培地中に生成した糖脂質を、培地中から固形物として取り出すことができる。
【0029】
析出工程では、培養液中から糖脂質を固形物として分離することができる方法であれば特に限定されず、慣用的な方法が用いられ得る。一実施形態において、本発明に係る析出工程は、上記培養工程において微生物を培養した培地を酸性にし、培地中の酸性物質を析出させることが好ましい。
【0030】
本発明に係る培養工程において、例えば炭素源としてパーム油を用いてロドコッカス・エリスロポリス SD−74株を培養したとき、培地中には酸性の糖脂質であるSTLが生成される。本発明に係る析出工程において、当該培地を酸性にすることによって、培地中に含まれるSTLを固形物として析出させることができる。
【0031】
本発明に係る析出工程において培地から酸性物質を析出させる方法として、培養液中にHClを添加し培養液のpHを低下させることによって、培養液中の酸性物質を析出させることができる。ついで、析出工程における析出物を取り出す。析出物の取り出しは、例えば、遠心分離することにより実現できる。
【0032】
〔抽出工程〕
次に、本発明に係る糖脂質の製造方法は、上述した析出工程により析出させた析出物から、水と相溶せず、かつ糖脂質が可溶である溶媒を用いて糖脂質を抽出する抽出工程を包含する。本発明に係る抽出工程では、析出工程により得られた析出物に上記溶媒を添加することによって、析出物中に含まれる糖脂質を溶媒層に溶解させる。ついで、糖脂質が溶解した溶媒層を分離することによって、糖脂質から水溶性物質を除去することができる。
【0033】
すなわち、本発明に係る抽出工程は、微生物を培養することによって得られた生成物を析出させた析出物から、上記溶媒を用いて水溶性物質を除去する水溶性物質除去工程である。本明細書中で使用される限り、「水溶性物質」は、水に対して可溶な物質であり、培地中から析出させた固形物状の析出物が水と共に包含している塩等の水溶性の不純物であるといえる。ここで、「塩」とは酸の水素原子を金属または他の金属性基で置き換えた化合物である。
【0034】
本発明に係る析出工程において、微生物を培養した培地から析出させた析出物は、含水しており水溶性の不純物を多く含んでいる。このような析出物は、さらに脂溶性の不純物を含んでおり、固形物状であるため、これを水で洗浄しても析出物内部に含まれる水溶性物質を十分に取り除くことは困難である。本発明に係る抽出工程を用いれば、析出工程によって析出させた析出物から、水と相溶せず、かつ糖脂質が可溶である溶媒を用いて糖脂質を抽出するため、糖脂質から水溶性物質を十分に除去することが可能である。
【0035】
本発明に係る抽出工程においては、溶媒を添加して抽出する対象物である析出物から完全に水溶性物質を取り除く必要はなく、抽出処理の前後において、析出物中の水溶性物質の量が減少していればよい。これにより、不純物の含有量が低下した糖脂質を得ることが可能である。
【0036】
ここで、析出物に添加する溶媒は、水溶性物質を溶解しえる他の溶媒(たとえば水)と相溶せず、かつ糖脂質が可溶である溶媒である。一実施形態において、本発明に係る抽出工程において用いられる溶媒は、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、または炭化水素系溶媒である。このような溶媒として、例えば酢酸エチル、1−ブタノール、キシレン等が挙げられるが、これらに限定されない。析出物に添加する溶媒の量は、析出物量に対して0.1〜10倍重量であることが好ましく、析出物量と同等であることがより好ましい。
【0037】
具体的な抽出工程について、溶媒として酢酸エチルを用いた場合を例にして説明する。まず、培養液から培養生成物を析出させ、析出した析出物に酢酸エチルを添加し十分に攪拌し、酢酸エチル層および水層の2層に分離させる。ついで、上層に形成された酢酸エチル層を分液漏斗等によって分離する。酢酸エチル層には水溶性物質は溶解せず、糖脂質が溶解しているため、酢酸エチル層を分離することによって糖脂質から水溶性物質を除去することが可能である。ついで、例えばエヴァポレーター等を用いて、酢酸エチル層から酢酸エチルを除去することによって、水溶性物質が除去された固体状の糖脂質を得ることができる。
【0038】
本発明に係る抽出工程においては、培養工程によって得られた生成物を培地または培養液中から析出させずに、生成物が溶解した培地または培養液に溶媒を添加し溶媒層を分離することによって、水溶性物質を取り除いた糖脂質を得ることも可能である。このとき、微生物を培養した培養液から、遠心分離等によって、菌体および残存基質を取り除いたものを、溶媒を用いて水溶性物質を除去する対象としてもよい。すなわち、本発明に係る抽出工程において、溶媒を用いて水溶性物質を除去する対象となる物質は、培養中の微生物が培地中に生成する糖脂質を含む培地あるいは培養液、または、反応系から分離された固体状の糖脂質混合物であってもよい。
【0039】
炭素源を含む培地中で培養されている微生物は、培地中に糖脂質を生成する。培地中には、塩などの水溶性の不純物が包含されており、この反応系から糖脂質を分離するとき、糖脂質中に塩などの水溶性物質が含有してしまう。このような糖脂質を水で洗浄しても十分に水溶性物質を取り除くことができず、得られる糖脂質は薄茶色であり、水に対する溶解度も低いことが報告されている。これは、糖脂質中の水溶性物質が十分に取り除かれておらず、精製が不十分であるためと考えられる。
【0040】
本発明に係る製造方法を用いれば、培養工程により得られた生成物を析出させた析出物から、溶媒を用いて糖脂質を抽出する抽出工程を包含しているため、水溶性物質が十分に除去された糖脂質を得ることができる。特に、抽出工程を含む製造方法により得られたSTLは、白色で純度が高く、水に対する溶解度も非常に高いため、化粧品等の添加剤として好適に用いることが可能である。
【0041】
〔脂溶性物質除去工程〕
さらに、本発明に係る糖脂質の製造方法は、上記抽出工程によって得られた抽出物から脂溶性物質を取り除く脂溶性物質除去工程を包含していてもよい。ここで「脂溶性物質」とは、脂に対して可溶な物質であることが意図される。本発明に係る脂溶性物質除去工程において脂溶性物質を取り除く対象となる抽出物は、上記抽出工程において、溶媒を用いて水溶性物質が取り除かれた固形物状の糖脂質である。
【0042】
微生物を培養する培地中に炭素源として油脂を用いた場合、反応系から分離された糖脂質には油脂成分が含まれてしまうことがある。また、微生物の培養培地に含まれる着色物質も糖脂質に含まれてしまうことがある。本発明に係る脂溶性物質除去工程によれば、培養液から析出した糖脂質から水溶性物質を取り除いたものから、さらに残存する油脂、着色物質等の脂溶性の不純物を取り除くため、上述した工程において分離および精製された糖脂質をさらに精製することが可能である。これにより、不純物の含有量が低下した糖脂質を得ることが可能である。
【0043】
水溶性物質が取り除かれた固形物状の糖脂質から脂溶性物質を取り除く方法は、糖脂質と脂溶性物質とを分離させることが可能な方法であれば特に限定されず、慣用的な方法が用いられ得る。一実施形態において、脂溶性物質除去工程では、まず、抽出工程によって得られた糖脂質が溶解した溶媒層から溶媒を留去する。ついで、溶媒を留去して得られた固形物に糖脂質と脂溶性物質とを分離させることが可能な溶媒を添加し、当該溶媒層を除去することによって、脂溶性物質が除去された糖脂質を得ることができる。これにより、糖脂質から効率よく脂溶性の不純物を取り除くことができる。
【0044】
ここで、糖脂質と脂溶性物質とを分離させることが可能な溶媒とは、糖脂質が難溶または不溶であり、脂溶性物質が可溶な溶媒である。このような溶媒として、例えばヘキサンを用いた場合、培養液から析出した生成物から、溶媒を用いて水溶性物質を除去した後、この溶媒を留去して得られる固形物をヘキサンに懸濁し、ろ過または遠心分離してヘキサンを除去する。これにより、糖脂質から効率よく脂溶性の不純物を取り除くことができる。
【0045】
本発明はまた、上述した本発明に係る糖脂質の製造方法によって製造された糖脂質を提供する。従来の糖脂質の製造方法によって製造された糖脂質は薄茶色であり、十分に精製されておらず、水に対する溶解度も低かった。本発明に係る糖脂質は、上述した工程によって不純物が取り除かれているため、純度が高くかつ水に対する溶解度も非常に高い。したがって、本発明に係る糖脂質は化粧品、食品等の添加剤として好適に用いることが可能である。
【0046】
上述したように、本発明に係る糖脂質の製造方法を用いれば、不純物の含有量が低下した糖脂質を得ることが可能である。特に、本発明に係る製造方法によって製造されたSTLは、純度が高く白色であるため、化粧品等に添加した場合であってもこれらを着色することがない。また、水に対する溶解度も非常に高い。したがって、本発明に係る製造方法によって製造された糖脂質は、特に化粧品、食品等の添加剤として有用である。
【0047】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0048】
〔1.STLの生産〕
非特許文献2に記載の方法に従って、ロドコッカス・エリスロポリス SD−74株を以下の条件でシード培養した。本実施例において用いたロドコッカス・エリスロポリス SD−74株は、植物油脂資化性菌として分離され、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに、「受託番号:FERM AP−21299」として寄託されている。
500ml容坂口フラスコ中のFPY培地100ml(フルクトース2%、ポリペプトン0.5%、酵母エキス0.5%、NaNO0.1%、KHPO0.1%、MgSO−7HO0.02%)にプレート上に形成された菌体コロニーを植菌し、30℃で38時間振とう培養を行った。
【0049】
改変MedD培地(1L当たり、KHPO5.44g、KHPO10.45g、KNO3g、MgSO−7HO0.1g、KSO35g、酵母エキス3g、パーム油100mlを含む溶液を、水道水で1Lにメスアップ)6000mlに、シード培養後の培養液全量を接種し、以下の条件で本培養を開始した。10Lジャー培養槽を用いて、培養温度30℃で、500rpmで攪拌させながら培養した。培地のpHを7.0に設定し、5N KOHを自動添加することによって培地のpHを維持した。
【0050】
〔2.STLの定量〕
上記本培養中の培地から、2日に1回程度サンプリングを行い、培養液中のSTL濃度を以下に示すように定量した。
【0051】
サンプリングした培養液を15000rpmで10分間遠心分離し、上層の油成分が混入しないように注意して水層を抜き出した。抜き出した液体を適宜希釈した後、以下に示すアンスロン硫酸法によってトレハロース濃度を定量した。まず、希釈した試料1mlにアンスロン試薬(75%硫酸に0.2%の濃度でアンスロンを溶解させることによって、測定時に調整)5mlを添加し攪拌した。攪拌後の溶液を沸騰水中で10分間反応させ、5分間氷冷することによって反応を停止させた後、室温で20分間放置した。
【0052】
得られた反応液に対して波長620nmの吸光度を測定した。スタンダードとして4mMトレハロースを20倍希釈したものを用いた。STLは1分子のトレハロースを含んでいるため、トレハロース濃度としてSTL濃度を定量した。STLの分子量を840としてSTLの重量濃度を算出した。結果を図1に示す。培養開始120時間後にパーム油600mlを追加し、200時間後にパーム油300mlをさらに追加した。図1のSTL生産のタイムコースに示すように、培養285時間後に培養液のSTL濃度が37g/Lになった。
【0053】
〔3.STLの分離・精製〕
上記1.で得られた培養285時間後の培養液860mlを、6000rpmで30分間遠心分離し、液中の菌体および残存基質を除去した後、6N HCLを40ml添加し、溶液のpHを2.98にした。溶液中に白色のゲル状析出物が析出した。この溶液を6000rpmで30分間遠心分離することによって、液層を除去した結果、湿重量182gの析出物が得られた。
【0054】
得られた析出物に186gの酢酸エチルを添加し、十分に攪拌した。水層と酢酸エチル層とに分離した溶液を、分液漏斗を用いて分離し上層の酢酸エチル層を回収した。回収した酢酸エチル溶液から、エヴァポレーターを用いて酢酸エチルを除去した。酢酸エチルを除去して得られた固形物を等量のヘキサンで懸濁した後、懸濁液を遠心分離してヘキサンを除去する工程を3回繰り返した。ヘキサンを除去して得られた液体をエヴァポレーターで乾固し、白色固形物12.6gを得た。この白色固形物を50g/lの濃度で蒸留水中に加え、NaOHを添加して中性にしたところ、白色固形物が蒸留水中で溶解し始めた。さらに溶液を超音波処理したところ、約5分後には白色固形物が蒸留水中に完全に溶解した。
【0055】
このように、上述した本発明に係る方法を用いれば、STLが白色固形物として得られた。本発明によって製造されたSTLは、非特許文献3に記載の方法により製造された薄茶色固形物状態のSTLよりも精製度が高いといえる。また、従来の方法で製造したSTLは、1%の濃度でも水溶液中に溶解しなかったが、本発明によって製造されたSTLは、7.5%の濃度であっても水溶液中に均質に溶解させることが可能であった。
【0056】
〔4.STLの保水力測定〕
上記3.で得られたSTLの保水力測定を以下の方法で行った。まず、5wt%の濃度でSTLを蒸留水に溶解し、NaOHによりpHを7.0にすることによって、STL(ナトリウム塩)の5wt%水溶液を調整した。また、比較対照として、グリセリンの5wt%水溶液を調整した。
【0057】
ついで、5×5cmに切り取ったろ紙に、上記のように調整した各5wt%水溶液10μlを浸透させ、ろ紙の重量変化を毎分8分まで測定した。経時的な重量変化をグラフ化し、グラフの傾きから水分蒸発速度を算出した。さらに水のみを浸透させたろ紙の重量変化を測定し、産出した傾きを100として、相対水分蒸発速度を算出した。相対水分蒸発速度から、次式により相対保水力を算出した。結果を表1に示す。
相対保水力(%)=100−相対水分蒸発速度
【0058】
【表1】


【0059】
表1に示すように、保水力を有することが一般的に知られているグリセリンよりも、本発明により得られたSTLは高い保水力を示した。すなわち、本発明に係る製造方法によって製造したSTLは、高い保水力を有しているため、例えば保湿剤として化粧品用途等に好適に用いられ得る。
【0060】
本発明は上述した実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係る製造方法を用いれば、不純物の含有量が低下した糖脂質を製造することが可能である。すなわち本発明により製造した糖脂質は、純度が高く、また水に対する溶解度が高いため、化粧品、食品等の添加剤として有用である。したがって、本発明は、化粧品産業、食品産業等に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、STL生産のタイムコースを示す図である。
【出願人】 【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
【出願日】 平成19年6月6日(2007.6.6)
【代理人】 【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所


【公開番号】 特開2008−301748(P2008−301748A)
【公開日】 平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願番号】 特願2007−150795(P2007−150795)