トップ :: C 化学 冶金 :: C12 生化学;ビ−ル;酒精;ぶどう酒;酢;微生物学;酵素学;突然変異または遺伝子工学

【発明の名称】 光学活性エステル誘導体および/または光学活性カルボン酸の製造方法
【発明者】 【氏名】上沼 敏彦

【氏名】牧野 まゆみ

【氏名】青木 裕一

【要約】 【課題】光学的に純度の高いる光学活性カルボン酸エステル(4)の工業的実施可能な製造方法を提供する。

【解決手段】光学異性体混合物(1)に、2位の炭素原子の絶対配置がSである化合物(1)を加水分解する酵素を作用させることによって、化合物(2)および化合物(3)の混合物を得て、つぎに、該混合物から化合物(3)を分離する光学活性カルボン酸(3)の製造方法。および、該光学活性カルボン酸(3)をエステル化する光学活性カルボン酸エステル(4)の製造方法。Rは、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキル基、または、置換アルキル基を示し、Rは、2級または3級のアルキル基を示し、Rは、アルキル基、または置換アルキル基。Sは絶対配置がS、Rは絶対配置がR、#は絶対配置がRであるものとSであるものの両方が共存することを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で表される光学異性体混合物に、該混合物中の2位の炭素原子の絶対配置がSである化合物を加水分解する酵素を作用させることによって、下式(2)で表される化合物および下式(3)で表される化合物の混合物を得て、つぎに、該混合物から式(3)で表される化合物を分離することを特徴とする、下式(3)で表される光学活性カルボン酸の製造方法。
ただし、式中のRは、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキル基、または、置換アルキル基を示し、Rは、2級または3級のアルキル基を示し、Rは、アルキル基、または置換アルキル基を示す。式中のSはSを付した不斉炭素原子の絶対配置がSであることを示し、RはRを付した不斉炭素原子の絶対配置がRであることを示し、#は#を付した不斉炭素原子の絶対配置がRであるものとSであるものの両方が共存することを示す。
【化1】


【請求項2】
酵素が、酵母由来のリパーゼである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
酵素が、キャンディダ属アントアークティカに属する酵母由来のリパーゼである請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
が、2−クロロビニル基であり、Rがイソプロピル基であり、Rがアルキル基である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法で得た式(3)で表される光学活性カルボン酸をエステル化してカルボキシル基を式−COORで表される基に変換することを特徴とする式(4)で表される光学活性エステル誘導体の製造方法。ただし、RおよびRは、前記と同様の意味を示し、Rはアルキル基、置換アルキル基、アリル基、または置換アリル基を示す。SはSを付した不斉炭素原子の絶対配置がSであることを示す。
【化2】


【請求項6】
エステル化反応が、式(3)で表される光学活性カルボン酸と式ROH(ただし、Rは前記と同じ意味を示す。)との反応である請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
エステル化反応を、式(3)で表される化合物に対して0.1〜20倍モルの酸を用い、50〜150℃の反応温度で行う請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
が2−クロロビニル基であり、Rがイソプロピル基であり、Rがアルキル基である請求項5〜7のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬または医薬の中間体として有用な光学活性カルボン酸誘導体および光学活性エステル誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エステル結合のカルボキシル基が結合する2位の炭素原子が不斉炭素原子であるエステル化合物の光学異性体混合物に、酵素を作用させて、光学異性体の一方を加水分解する方法としては、つぎの方法が知られている。
【0003】
(1)R体を認識するブタ肝臓由来のエステラーゼを用いる方法を用いて、(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸エチルエステルにブタ肝臓由来のエステラーゼ(Roche Diagnostics社製 Technical Grade)を作用させて(S)−(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸エチルエステルと(R)−(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸とを得る方法(特許文献1参照。)。
【0004】
(2)(1)の方法の具体的な改良方法であり、反応系中にポリエチレングリコール類とポリオール類を共存させる方法(特許文献2参照。)。
【0005】
(3)(1)の方法の具体的な改良方法であり、エステラーゼを一定速度で連続添加する方法(特許文献3参照。)。
【0006】
【特許文献1】国際公開第01/09079号パンフレット
【特許文献2】特開2005−000164号公報
【特許文献3】特開2004−350522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明の基質において、2位炭素原子がS体である化合物(以下、2−(S)体と記す。)を認識し、該2−(S)体のみを加水分解する酵素は知られていなかった。また(1)の文献の酵素量をそのまま適用すると多量の酵素が必要になり工業的に実施するには不利な方法であると考えられた。また、反応を実施するために必要な条件が記載されていないため追試ができない問題もあった。(2)および(3)の方法で得られるS体の光学過剰率は95から96%ee程度であり、これ以上の光学純度の生成物を得るには、精密な光学分割操作が必要になると考えられた。
【0008】
本発明は、不斉炭素を有するエステル誘導体の2−(R)体と2−(S)体との光学異性体混合物に、酵素を作用させて光学過剰率の2−(S)体の光学活性カルボン酸を得る方法、および該カルボン酸をラセミ化させることなくエステル化して2−(S)体のカルボン酸エステルを高い光学過剰率で得る方法であり、かつ工業的な製造方法として採用可能な製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、医薬中間体として有用な(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸エチルエステル等の2位の炭素原子の絶対配置がSであるエステルを、高い光学純度で得る方法を検討してきた。その結果、2位の炭素原子の絶対配置がRである化合物(以下、2−(R)体という。)と2−(S)体のエステルの両方を含む光学異性体混合物から、2−(S)体のエステルを分離する方法として、2−(S)体のみを選択的に加水分解する酵素を用いて2−(S)体のカルボン酸を得る方法と該カルボン酸をラセミ化させることなくエステル化する方法とを組み合わせる方法が、光学過剰率の高い2−(S)体のエステルを得る方法として採用できることを見いだした。
【0010】
すなわち本発明は、つぎの発明を提供する。
<1>下式(1)で表される光学異性体混合物に、該混合物中の2位の炭素原子の絶対配置がSである化合物を加水分解する酵素を作用させることによって、下式(2)で表される化合物および下式(3)で表される化合物の混合物を得て、つぎに、該混合物から式(3)で表される化合物を分離することを特徴とする、式(3)で表される光学活性カルボン酸の製造方法。
【0011】
ただし、式中のRは、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキル基、または、置換アルキル基を示し、Rは、2級または3級のアルキル基を示し、Rは、アルキル基、または置換アルキル基を示す。式中のSはSを付した不斉炭素原子の絶対配置がSであることを示し、RはRを付した不斉炭素原子の絶対配置がRであることを示し、#は#を付した不斉炭素原子の絶対配置がRである場合とSである場合との両方の場合が共存することを示す。
【0012】
【化1】


【0013】
<2>前記製造方法で得た式(3)で表される光学活性カルボン酸をエステル化してカルボキシル基を式−COORで表される基に変換することを特徴とする式(4)で表される光学活性エステル誘導体の製造方法。ただし、RおよびRは、前記と同様の意味を示し、Rはアルキル基またはアリル基を示す。SはSを付した不斉炭素原子の絶対配置がSであることを示す。
【0014】
【化2】


【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本明細書においては式(1)で表される化合物を「化合物(1)」のように記す。他の式で表される化合物についても同様に記す。
「アルキル基」としては、炭素数1〜18のアルキル基が好ましく、後述するR〜Rにおいては、炭素数1〜8のアルキル基が特に好ましい。アルキル基の構造は直鎖構造であっても分枝を有する構造であってもよい。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、およびn−オクチル基等が挙げられる。
【0016】
「2級アルキル基」としては、炭素数3〜6の基が好ましい。2級アルキル基の例としては、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基等が挙げられる。
「3級アルキル基」としては、炭素数4〜8の基が好ましい。3級アルキル基の例としては、t−ブチル基、ネオペンチル基等が挙げられる。
「アルケニル基」としては、炭素数2〜8のアルケニル基が好ましく、炭素数2〜6のアルケニル基が特に好ましい。アルケニルの構造は直鎖構造であっても分枝を有する構造であってもよい。アルケニル基に存在する不飽和結合の立体配置はEであってもZであってもよい。アルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、2−(1−プロペニル)基、1−ブテニル基、3−ブテニル基、1−ヘキセニル基、および2−ヘキセニル基等が挙げられる。
【0017】
「置換アルキル基」とは、アルキル基の水素原子の1個以上が置換基で置換された基をいい、「置換アルケニル基」とは、アルケニル基中の水素原子の1個以上が置換基で置換された基をいう。置換基の例としては、フッ素原子、臭素原子、塩素原子、水酸基等が挙げられる。
本発明方法の原料化合物である化合物(1)は公知の化合物であり、たとえば国際公開公報2004/52828号パンフレット等に記載される法により得られる。
【0018】
本発明方法における式(1)〜式(4)において、エステル結合のカルボキシル基が結合する2位の炭素原子は不斉炭素原子である。本明細書の化学式の表記においては、該不斉炭素原子の絶対配置がSである場合にはSを、絶対配置がRである場合にはSを、絶対配置がRである場合とSである場合の両方の場合には#を、該不斉炭素原子に付す。該不斉炭素原子の絶対配置が#である場合に、R体とS体の比率が1:1(モル比)である場合の化合物は、化合物をラセミ体混合物と記載することもある。
【0019】
式(1)〜式(4)において、2位の炭素原子は不斉炭素原子であることから、RおよびRは、互いに異なる基であり、それぞれ、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキル基、または、置換アルキル基を示す。Rは、置換アルケニル基が好ましく、ハロゲン化アルケニル基が特に好ましく、クロロ化されたアルケニル基がとりわけ好ましく、2−クロロビニル基がさらに好ましい。Rは、2級アルキル基が好ましく、炭素数3〜5のアルキル基が特に好ましく、イソプロピル基がとりわけ好ましい。Rは、RまたはRと同一の基であっても異なる基であってもよく、アルキル基が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基が特に好ましく、メチル基またはエチル基がとりわけ好ましい。
【0020】
式(4)中のRは、アルキル基またはアリル基が好ましく、アルキル基が特に好ましい。Rがアルキル基である場合には、炭素数1〜3の該基が好ましく、メチル基、エチル基が特に好ましい。R〜R中には不斉炭素原子は存在しないのが好ましい。
化合物(1)としては、Rが置換アルケニル基でありRが2級アルキル基である化合物が好ましく、5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸メチルエステルが特に好ましい。化合物(1)は、光学異性体の混合物であり、該混合物とは2−S体と2−R体の混合物である。S体とR体の量比は特に限定されず、入手容易性の観点からは、ラセミ体混合物であるのが好ましい。
【0021】
本発明においては、2位の炭素原子が不斉炭素原子である化合物(1)の光学異性体混合物に、2位の炭素原子の絶対配置がSであるカルボン酸エステルを加水分解する酵素を作用させる。ここで2位とは、エステルの番号付与にしたがい、エステル結合のカルボニル基を形成する炭素原子を1位とする。酵素としては、リパーゼに分類される酵素が好ましく、リパーゼとしては、試薬、医薬品、および工業用等の用途に使用されるリパーゼを使用できる。
【0022】
本発明における酵素は2−(S)体であるカルボン酸エステルに作用して、エステル部分を加水分解させ、光学活性な化合物(3)を生成させる。該酵素は2−(R)体には作用しない。よって、酵素を作用させた後の反応液中には、2−(R)体のエステルである化合物(2)と2−S体のカルボン酸である化合物(3)が含まれる。2−(S)体に対する酵素の作用が不十分である場合には、未反応の2−(S)体のエステルも含まれうる。
【0023】
本発明方法に用いる酵素は、動物由来以外のものが好ましい。特に酵母(Candida antarctica)は、Candida antarcticaに由来する酵母が好ましい。酵母を起源とする酵素とは、酵母が生産した酵素をいい、通常は、酵母体内で生産された酵素を酵母を分解して抽出する、または、酵母が体内外生産し体外に放出したものを培養液から抽出する、等の方法により入手できる。また、他の入手方法としては、酵素を生産する植物や微生物から酵素を生産する遺伝子を単離し、該遺伝子を各種ベクターに組込み、発現した蛋白質を本発明の酵素として使用してもよい。酵素は、量産化されているものや市販品を用いることができる。
酵素は、不活性担体に固定化されていてもよい。該不活性担体としては、特開2005−000164号公報に記載される担体が挙げられる。
【0024】
酵素の量は、化合物(1)に対する加水分解活性により適宜変更され、通常の場合には、化合物(1)量に対する酵素の蛋白質量が1×10−5〜1×10質量%であるのが好ましく、特に1×10−3〜1×10質量%であるのが、反応速度の点で好ましい。実際の酵素量は、実施例に記載される条件で測定した酵素量をUnit換算した単位で表現される。
【0025】
化合物(1)と酵素との反応は、通常の酵素反応の手法をそのまま適用できる。たとえば溶媒中に化合物(1)を添加して反応温度にした後に酵素を添加する方法、溶媒中に酵素を添加して反応温度にした後に化合物(1)を添加する方法、等が挙げられる。
【0026】
酵素反応は酵素の種類や量等に応じて、条件を適宜変更し、反応温度および撹拌速度を制御しながら行うのが好ましい。リパーゼを用いる場合の反応温度は−10℃〜+90℃が好ましく、20〜70℃が特に好ましく、30〜60℃がとりわけ好ましい。pHは、2〜10が好ましく、4〜9が特に好ましく、5〜8がとりわけ好ましい。pHは、反応系中にアルカリを適宜滴下することにより、調節してもよい。
【0027】
本発明の製造方法には、溶媒を用いるのが好ましい。溶媒としては、水系溶媒が好ましい。水系溶媒としては、水または緩衝液が挙げられる。緩衝液としては、一般的に使用されているものであれば特に制限されない。たとえば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、HEPES緩衝液、TRIS緩衝液、酢酸緩衝液、またはMES緩衝液等が挙げられる。水系溶媒の量は化合物(1)に対して1〜10倍容量が好ましい。
【0028】
水系溶媒中には、酵素や基質の反応系中への溶解性や分散性を改善する添加剤として、有機溶媒を添加してもよい。有機溶媒量は、化合物(1)と同容量以下とするのが好ましい。
有機溶媒としては、エステル系溶媒以外の特開2005−000164号公報に記載される溶媒が使用できる。有機溶媒は単独で使用しても、または2種以上の混合溶媒として使用してもよい。
【0029】
本発明の製造方法では、化合物(1)に酵素を作用させると、酵素が2−(S)体のエステルに作用してエステル部分を加水分解することによって、2−(S)体のカルボン酸である化合物(3)が生成する。2−(R)体のエステルである化合物(2)と、2−(S)体のカルボン酸である化合物(3)とは、物性が異なるため、容易に分離でき、高光学過剰率で、化合物(3)が得られる。
【0030】
酵素反応の反応時間は、酵素の活性が維持される時間内であり、工業的な製造の観点からは1時間から10日間が好ましく、さらに5〜96時間が好ましい。
【0031】
本発明の方法によれば、酵素は化合物(1)のS体のみに作用する。一方、酵素が作用しない化合物(1)のR体は、そのままR体として反応系中に残る。化合物(2)と化合物(3)は、化合物(2)中の−COOR基と化合物(3)中の−COOH基との性質の差を利用した分離方法により分離できる。2−(S)体に作用する酵素を用いて2−(S)体の生成物を得る本発明方法は、2−(R)体に作用する酵素を使用して残余物から2−(S)体を得る従来の方法と比較して、光学純度の高い生成させる点で有利な方法である。なぜなら、本発明の方法は酵素の作用が不十分で、転換率が低かったとしても、目的化合物である2−(S)体は、酵素が作用した生成物側から得るため、該生成物中には未反応の光学異性体混合物が混入しない。よって、生成物は光学純度が高い生成物となる。
【0032】
本発明においては、化合物(2)と化合物(3)の分離方法として、抽出法を採用するのが好ましい。
たとえば、酵素反応を水系溶媒の存在下に行って得た反応粗液に、例えばアセトンやエタノールなどの有機溶媒や硫酸アンモニウムや塩化ナトリウムなどの無機塩を加えて酵素を沈殿させてから酵素残渣を遠心分離あるいはろ過で除く。つぎに、液性をアルカリ性とするために、たとえば、アルカリ金属炭酸塩またはアルカリ水酸化物を加える。アルカリ金属炭酸塩としては炭酸ナトリウムが好ましく、アルカリ水酸化物としては水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリの量としては、アルカリ金属炭酸塩またはアルカリ水酸化物の濃度が1〜20質量%程度となる量が好ましく、3〜7%質量となる量が好ましい。
【0033】
つぎに、アルカリ性の反応粗液に非水系溶媒(たとえば、ヘキサン、トルエンなどの炭化水素系溶媒;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;t−ブチルメチルエーテル、またはジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒等であり、t−ブチルメチルエーテル、酢酸エチルまたは酢酸メチルなどが好ましい。)を添加して、分液ロート中で混合させた後、水系溶媒層と、非水系溶媒層とを分離する抽出操作を行う方法が挙げられる。非水系溶媒による分離抽出操作は、2回以上繰返してもよい。2回以上繰り返す場合には、2回目以降の非水系溶媒量は1回目よりも少ない量にするのが好ましい。該操作によって、化合物(2)は、非水系溶媒層に抽出(以下、抽出した非水系溶媒層を非水系溶媒層Aと記載する。)され、化合物(3)は水系溶媒層に残留する。
【0034】
つぎに化合物(3)を含む水層を塩酸等の酸で酸性(pH4以下にするのが好ましい。)にし、つぎに非水系溶媒(たとえば、ヘキサン、トルエンなどの炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、t−ブチルメチルエーテル、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒等)で抽出することによって、非水系溶媒層に化合物(3)を抽出し、該非水系溶媒層を減圧濃縮または蒸留することによって、純度の高い化合物(3)を単離できる。
【0035】
一方、非水系溶媒層(A)に含まれる化合物(2)は、非水系溶媒層を減圧濃縮または蒸留することによって回収できる。回収した化合物(2)は、ラセミ化処理を実施し、出発原料である化合物(2)として再利用できる。ラセミ化の方法としては、アルカリ金属アルコキシド(ナトリウムメトキシドが好ましい。)のメタノール溶液に化合物(2)を添加し、撹拌しながら加熱する方法が挙げられる。アルカリ金属アルコキシド量は、化合物(2)に対して0.01〜2倍モルが好ましく、0.1〜1.0倍モルが特に好ましい。反応温度は20〜120℃が好ましく、50〜100℃が特に好ましい。反応時間は10分〜10時間が好ましく、0.5〜3時間が特に好ましい。
【0036】
酵素反応を有機溶媒を含む水系溶媒の存在下に実施した場合、水系溶媒層と、非水系溶媒層との分離が困難になる場合がある。その場合には、水を添加する、または非水系溶媒を大量に添加する等の操作を行い、相分離を容易にするのが好ましい。また、化合物(2)と化合物(3)とを非水系溶媒相に移した後で、蒸留分離等の操作を行う方法も併用するのが好ましい。
【0037】
前記の方法によれば、反応粗液中に含まれる酵素は、水相中に残るため、分離精製した化合物(2)および化合物(3)は高純度の化合物として得られる。
【0038】
つぎに、分離した化合物(3)をエステル化反応して化合物(4)に変換する。エステル化反応は、化合物(3)と式ROH(Rはアルキル基またはアリル基を示す)で表されるアルコール類を酸の存在下に反応させる方法が、化合物(4)のラセミ化を防止し、高光学活性の生成物が得られるため好ましい。具体的には、エステル化反応は、化合物(3)にアルコール類を添加して撹拌した後に酸を添加する方法、が好ましい。
【0039】
式ROHで表されるアルコール類におけるRが、アルキル基である場合には、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、特にメチル基またはエチル基が好ましい。アルコール類の例としては、メチルアルコール、エチルアルコールが挙げられ、メチルアルコール、またはエチルアルコールが好ましい。アルコールの量は、化合物(3)に対して、1〜1×10倍モルが好ましく1〜50倍モルが特に好ましい。
【0040】
酸としては、硫酸、塩酸、パラトルエンスルホン酸が好ましく、硫酸が特に好ましい。
エステル化反応においては、ラセミ化を防ぐために、酸の量と反応温度を調節するのが好ましい。好ましい酸の量は、化合物(3)に対して0.1〜20倍モルであるのが好ましい。反応温度は、50〜150℃であるのが好ましい。
【0041】
本発明の方法により得られる化合物(4)は農薬または医薬の中間体として有用な光学活性エステル誘導体である。本発明方法によれば、該化合物(4)を高い光学純度で得ることができる。本発明方法は、光学分割カラムや光学活性試薬等を使用する必要もないことから、経済的にも有利な方法である。本発明方法で得られる化合物(4)の光学過剰率は従来の方法では達成できない99%enantiomeric excess(以下、eeと記す)以上となりうる。
【実施例】
【0042】
以下本発明の実施例を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されない。化合物の構造は、公知のデータと比較することにより決定した。光学純度と光学過剰率は、ガスクロマトグラフィー(以下、「GC」と記す。)において、カラムとしてLipodex E 50m×0.25mm(Macherey−Nagel社製)を用いた。リパーゼの量は、「Units」で示す。リパーゼ(キャンディダ属アントアークティカ由来)における1Unitとは、pH7.0、30℃において、1μmolのトリブチリンから1μmolのブチレートを1分間に生成させるリパーゼ量をいう。
【0043】
eeは、光学分割カラムによるクロマトグラフィーにおけるピークエリアにより求まる。すなわち、ee(単位:%)=[[(化合物(4)のピークエリア)−(化合物(2)のピークエリア)]/[(化合物(4)のピークエリア)+(化合物(2)のピークエリア)]]×100なる式から求まる値である。
【0044】
[実施例1]
100mmol/Lのリン酸緩衝液(pH 8.0、172mL)に、(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸メチルエステルのラセミ体(RとSのモル比は1:1、20g)を添加し、温度を50℃に設定した。その後、キャンディダ属アントアークティカ(Candida antarctica)由来リパーゼA(Novozymes社製 商品名:Novozym735、8.0gを添加し、撹拌しながら反応を実施した。41.5時間後に同じリパーゼA(4.0g)を追加し、最終的に91.5時間まで同様の条件で反応を継続した。
【0045】
反応生成物にアセトン(700mL)を加えて撹拌し、1時間静置した後ろ過した。ろ液を200mL程度になるまで減圧濃縮し、炭酸ナトリウム(4g)を加えてpH10とした。酢酸エチルで抽出後、さらに有機溶媒層を5%炭酸ナトリウム水溶液で洗浄し、(S)−(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸を水層に移した。回収した(S)−(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸水層に塩酸を添加し、pH1とした。白色沈殿を酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水で洗浄した。有機溶媒を減圧留去して(S)−(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸(4.943g)を得た。
【0046】
得られた(S)−(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸にメタノールを4モル当量、硫酸(0.89倍モル)を混合し、撹拌しながら88℃で15時間反応した。室温まで冷却後、トルエンを(S)−(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸に対し1.3倍重量を添加し、上清をGC分析した結果、光学過剰率は99.5%eeであった。GC分析の結果、R体は0.24%含まれていた。
【0047】
[比較例1]
5mmol/L リン酸緩衝液(pH 7.0)230mLに、(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸メチルエステルのラセミ体(20g)を添加し、温度を40℃に調整した。その後、ブタ肝臓由来エステラーゼ(Roche Diagnostics社製 Technical Grade)1840Unitsを添加し、撹拌しながら反応を実施した。0.5mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を滴下しながら、pHを8.0にコントロールして24時間反応を継続した。
【0048】
反応生成物をt−ブチルメチルエーテルで抽出後、さらに有機溶媒層を5%炭酸ナトリウム水溶液で洗浄し、(R)−(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸を水層に移した。有機溶媒層に回収された(S)−(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸メチルエステルをGC分析した結果、光学過剰率は90%eeであり、収率は35%であった。
【0049】
[実施例2]
100mmol/L リン酸緩衝液(pH7.0、172mL)に、(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸メチルエステルのR/S比が1/1であるラセミ体(20g)を添加し、温度を50℃に設定する。その後、実施例1と同じリパーゼAを分子量1万の膜(再生セルロース:有効濾過面積0.1m)を用いて、限外濾過を実施し、低分子を除去した後、凍結乾燥した48万Units分のリパーゼAを、100mmol/Lのリン酸緩衝液(pH 7.0、5mL)に溶解して添加し、撹拌しながら反応を実施する。
【0050】
反応生成物をt−ブチルメチルエーテルで抽出後、さらに有機溶媒層を5%炭酸ナトリウム水溶液で洗浄し、(S)−(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸を水層に移す。回収した(S)−(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸水層に塩酸を添加し、pH2.0とした。白色沈殿をt−ブチルメチルエーテルで抽出する。有機溶媒層に回収された(S)−(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸を有機溶媒留去後、メタノールを4倍モル、硫酸を0.85倍モル添加し、撹拌しながら88℃、15時間反応する。室温まで冷却後、トルエンを(S)−(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸に対し、0.65倍容量添加して上清をGC分析した結果、光学過剰率は99.5%ee以上である。
【0051】
[実施例3]
100mmol/L リン酸緩衝液(pH 8)3.5Lに、(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸メチルエステルのラセミ体(RとSのモル比は1:1)(500g)を添加し、温度を50℃に設定した。その後、実施例1と同じリパーゼA(1000mL)を添加し、撹拌しながら反応を実施した。47時間まで同様の条件で反応を継続した。
反応生成物にアセトン10Lを加えて撹拌し、5000rpmで5分間遠心して、沈殿を除去した。上清を5L程度になるまで減圧濃縮し、炭酸ナトリウム100gを加えてpH10とした。酢酸エチル2.5Lおよび2Lで抽出し、(S)−(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸を水層に移した。回収した(S)−(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸水層に塩酸180mLを撹拌しながら添加し、pH2とした。白色沈殿を酢酸エチル1L、0.75Lおよび0.5Lで抽出した。有機溶媒を減圧留去して(S)−(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸179.4gを得た。
【0052】
得られた(S)−(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸(10mg)を酢酸エチル(0.5mL)に溶解してメタノール(0.2mL)を加え、室温で撹拌しながらトリメチルシリルジアゾメタン(0.60mol/Lヘキサン溶液、0.1mL)を加えた。室温で1時間撹拌した後、溶媒を窒素気流下で蒸発させ、濃縮物をアセトニトリルで希釈してGC分析した結果、光学過剰率は99.3%eeであった。このGC分析においては、R体は0.36%であった。
【0053】
上記の(S)−(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸(83.0g)にメタノール(60.2g)、濃硫酸(42.7g)を加え、83℃で16時間撹拌した。室温まで放冷後、トルエン(107g)を加えて減圧濃縮した。分液して硫酸層を除去したのち、有機層を水で、つぎに20%食塩水で洗浄した。減圧蒸留(bp.77〜80℃/400−533Pa)により精製し、(S)−(4E)−5−クロロ−2−イソプロピル−4−ペンテン酸メチル(53.3g)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の製造方法によれば、農薬または医薬の中間体として有用であり、光学純度の高い化合物(3)および化合物(4)を、高収率および高光学過剰率で得ることができる。本発明方法の生成物は、従来より光学過剰率が高い利点がある。また、反応で生成する化合物(2)は、再度ラセミ化後、化合物(1)に戻すことができるためロスなく目的物への変換が可能となることから、経済性に優れる。また、本発明の方法は、特別な反応装置を用いることなしに実施でき、反応の収率も非常に高いことから、工業的な製造方法として有用な方法である。
【出願人】 【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
【出願日】 平成17年9月15日(2005.9.15)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−295302(P2008−295302A)
【公開日】 平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願番号】 特願2005−267883(P2005−267883)