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【発明の名称】 エタノール及び乳酸の製造方法
【発明者】 【氏名】小杉 昭彦

【氏名】森 ▲隆▼

【氏名】村田 善則

【氏名】田中 良平

【氏名】眞柄 謙吾

【要約】 【課題】効率よく安定して安価に得られるエタノール及び乳酸並びにこれらの製造方法を提供する。

【解決手段】伐採されたオイルパーム幹10から採取した組成物である樹液を微生物で発酵してエタノールを製造する。また、オイルパーム幹から採取した樹液と樹液を採取した後のオイルパーム幹の繊維を加水分解処理して得た単糖及びオリゴ糖の混合糖液とを混合し、微生物で発酵してもよい。一方、伐採されたオイルパーム幹から採取した組成物である樹液を微生物で発酵して乳酸を製造する。このとき、オイルパーム幹から採取した樹液と樹液を採取した後のオイルパーム幹の繊維を加水分解処理して得た単糖及びオリゴ糖の混合糖液とを混合し、微生物で発酵してもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルパーム幹由来の樹皮以外の組成物を、微生物で発酵しエタノールを得ることを特徴とする、エタノールの製造方法。
【請求項2】
前記組成物が樹液からなることを特徴とする、請求項1記載のエタノールの製造方法。
【請求項3】
オイルパーム幹から採取した樹液と、樹液を採取した後のオイルパーム幹の繊維を加水分解処理して得た単糖又はオリゴ糖と、を混合し、該混合物を微生物で発酵してエタノールを得ることを特徴とする、エタノールの製造方法。
【請求項4】
前記組成物又は樹液から分離して得た遊離糖を発酵させることを特徴とする、請求項1又は3に記載のエタノールの製造方法。
【請求項5】
前記微生物は、細菌及び酵母からなる群から選択される一種以上の微生物であることを特徴とする、請求項1又は3に記載のエタノールの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の何れかの製造方法により製造されたことを特徴とする、エタノール。
【請求項7】
オイルパーム幹由来の樹皮以外の組成物を、微生物で発酵し乳酸を得ることを特徴とする、乳酸の製造方法。
【請求項8】
前記組成物が樹液からなることを特徴とする、請求項7に記載の乳酸の製造方法。
【請求項9】
オイルパーム幹から採取した樹液と、樹液を採取した後のオイルパーム幹の繊維を加水分解処理して得た単糖又はオリゴ糖と、を混合し、該混合物を微生物で発酵し乳酸を得ることを特徴とする、乳酸の製造方法。
【請求項10】
前記組成物又は樹液から分離して得た遊離糖を発酵させることを特徴とする、請求項7又は9に記載の乳酸の製造方法。
【請求項11】
前記微生物は細菌及び酵母からなる群から選択される一種以上の微生物であることを特徴とする、請求項7又は9に記載の乳酸の製造方法。
【請求項12】
請求項7〜11に記載の何れかの製造方法により製造されたことを特徴とする、乳酸。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、エタノール及び乳酸並びにこれらの製造方法に関し、より詳細にはオイルパーム幹から高収率かつ安価に製造することができるエタノール及び乳酸並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーム油は、世界で約3,550万トン/年生産され、そのうちの約87%をマレーシアとインドネシアの2カ国で半々を占める東南アジアの代表的な農産物である(2005年実績、アメリカ農務省統計資料による)。パーム油は大豆油等と比較し安価であることから、マーガリンや揚げ物用の油など食用に利用されるほか石鹸や化粧品など工業用途にも多用されている。
【0003】
パーム油生産のために栽培されるオイルパーム(oil palm、学名:Elaeis guineensis、和名:アブラヤシ)は、生産性を維持するために、20〜25年の間隔で再植栽培が必要とされる。マレーシアの場合、1980年からの本格的なプランテーションにより現在年間約4万ヘクタールの再植栽培が行われるため約3000万トンのパーム幹が伐採されている。近い将来には、これまでのプランテーション面積拡大の結果として、毎年約20万〜25万ヘクタールもの再植栽培が必要になると見込まれている。再植栽培による伐採オイルパームは、幹に薬物を注入して立ち枯れさせるか、伐採後プランテーション内で放置又は焼却処分しており、深刻な環境破壊につながることが懸念され、環境負荷を掛けない活用法の開発が求められている。
【0004】
オイルパーム幹は他の木質系バイオマスと異なり、幹の大部分が維管束や維管束を取り巻く繊維質で構成されている。そのため、木材としての耐久性が不十分で、利用方法としては比較的強固な外皮を合板等の表面加工資材として利用する程度であり、その他の部分は未利用、廃棄されていることから、特に幹の内側部分の早急な有効利用法の開発が必要である。
【0005】
一方、近年、石油資源の枯渇や地球温暖化問題の軽減方策として燃料用エタノールなど石油代替エネルギーや乳酸などバイオプラスチック原料の製造技術の開発が活発に行われている。特に燃料用エタノールに関しては、自動車燃料であるガソリンの代替燃料として注目を集めており、その需要は非常に大きい。
しかしながら、現在、燃料用エタノールの多くはトウモロコシ澱粉やサトウキビ汁等の食用農産物から製造されており、将来の人口増に伴う食用農産物需要の増大などにより、食用途とエネルギー用途間での競合が生じることが予想されている。そのため農作物の未利用部分、即ち、農産廃棄物から燃料用エタノールなどへの変換技術の開発が切望されているが、未だ技術開発は困難を極めている状況である。伐採されるオイルパーム幹は、産出される量、持続的なオイルパーム産業の発展及び環境負荷低減の観点からも非常に有望なバイオマス資源である。
【0006】
このような背景から特許文献1には、伐採オイルパーム幹の繊維質を粉砕して、ヘミセルロース、セルロース、リグニンを含有する植物繊維粉末食品を製造する方法が開示されているが、特許文献1にはオイルパーム幹からエタノールや乳酸を製造する方法は開示されていない。
【0007】
特許文献2には、オイルパームのセルロース繊維質廃棄物からなる飼料を製造する方法が開示されているが、この廃棄物としては、セルロース繊維質、空果房、果肉繊維等が使用されている。しかしながら、特許文献2にはオイルパーム幹からエタノールや乳酸を製造する方法は開示されていない。
【0008】
特許文献3には、オイルパームの葉からなる繊維粉末を粉砕して、機能性食品を製造する方法が開示されている。しかしながら、特許文献3にはオイルパーム幹からエタノールや乳酸を製造する方法は開示されていない。
【0009】
非特許文献1には、オイルパームの繊維質を加水分解することにより得られた糖からエタノールを生産する試みが報告されている。
【0010】
【特許文献1】特開平8−221号公報
【特許文献2】特開平9−168367号公報
【特許文献3】特開2005−218425号公報
【非特許文献1】H.H.Yeohら、“Fermentation of oil palm trunk acid hydrolysate to ethanol”、ASEAN Journal on Science and Technology for Development、2001年、18巻(1)、p.1−10
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
非特許文献1には、繊維質を加水分解することにより得られた糖からエタノールを生産することが報告されているが、加水分解効率が悪く、糖回収率が低いために実用化にはほど遠いという課題がある。
【0012】
バイオプラスチック原料である乳酸の製造についても低コスト化が強く求められているが、現在はトウモロコシ澱粉等の高価な食用農産物から製造されており低コスト化は困難である。乳酸の低価格化のためには未利用農産物を原料とした製造技術の開発が必要である。しかしながら、これまでにオイルパーム幹を活用した乳酸を製造する技術に関する報告はない。
【0013】
本発明は上記課題に鑑み、効率よく安定して安価に得られるエタノール及び乳酸並びにこれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意研究を重ねたところ、オイルパーム幹の中心領域から外側領域にかけて各部から得られる樹液中の遊離糖組成及び含量が大きく異なり、内部ほど大量の水分と共に大量のグルコース等の遊離糖が存在していることを見出した。その知見を基にオイルパーム幹や伐採後のオイルパーム幹から得られる組成物である樹液などを原料とし、発酵法によりエタノール、乳酸をそれぞれ製造することに成功し、本発明を完成するに至った。また、オイルパーム幹から樹液を採取後、維管束を取り巻く繊維質を酵素処理し、得られる糖と樹液との混合液にすることで、微生物が発酵可能な糖質を大量に調製でき、微生物を用いてエタノール及び乳酸をそれぞれ製造することに成功し本発明に至った。
【0015】
上記第1の目的を達成するために、本発明のエタノールの製造方法は、オイルパーム幹由来の樹皮以外の組成物を、微生物で発酵してエタノールを得ることを特徴とする。この組成物は、好ましくは樹液からなる。
本発明では、特に、オイルパーム幹から採取した樹液、又はその樹液と、樹液を採取した後のオイルパーム幹の繊維を加水分解処理して得た単糖又はオリゴ糖と、を混合し、混合物を微生物で発酵しエタノールを製造することを特徴とする。
上記構成において、組成物又は樹液から分離して得た遊離糖を発酵させてもよい。微生物は、細菌及び酵母からなる群から選択される一種以上の微生物を用いることが好ましい。
本発明のエタノールは、上記製造方法の何れかを用いて製造される。
【0016】
上記構成によれば、オイルパーム幹由来の組成物を原料として、エタノールが得られ、高収率で安価に安定にエタノールを製造することができる。
【0017】
上記第2の目的を達成するために、本発明の乳酸の製造方法は、オイルパーム幹由来の樹皮以外の組成物を、微生物で発酵して乳酸を得ることを特徴とする。この組成物は、好ましくは樹液からなる。
本発明では、特に、オイルパーム幹から採取した樹液と、樹液を採取した後のオイルパーム幹の繊維を加水分解処理して得た単糖又はオリゴ糖と、を混合し、混合物を微生物で発酵し乳酸を製造することを特徴とする。
上記構成において、組成物又は樹液から分離して得た遊離糖を発酵させてもよい。微生物は、細菌及び酵母からなる群から選択される一種以上の微生物を用いれば好適である。
本発明の乳酸は、上記製造方法の何れかを用いて製造される。
【0018】
上記構成によれば、オイルパーム幹由来の組成物を原料として、乳酸が得られ、高収率で安価に安定に乳酸を製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のエタノールの製造方法によれば、オイルパーム幹由来の樹皮以外の組成物を原料として高収率で安価に安定にエタノールを製造することができる。この製造方法で得られるエタノールは、石油代替エネルギーとしてガソリンへ混合してもよく、エチルターシャリーブチルエーテルのようなガソリン添加剤、その他エチレンなどの化学原料としても用いることができるだけでなく、食品や食品添加物として、ビール、蒸留酒その他の酒類、清涼飲料、漬物、醤油等の製造や、医薬品や医薬部外品等の製造にも利用することができる。
【0020】
本発明の乳酸の製造方法によれば、オイルパーム幹由来の樹皮以外の組成物を原料として高収率で安価に安定に乳酸を製造することができる。この方法で得られる乳酸は、生分解性プラスチックであるポリ乳酸の原料としての利用だけでなく、食品添加物として、ビール、蒸留酒その他の酒類、清涼飲料、漬物、醤油等の製造や、医薬品や医薬部外品等の製造にも利用することができる。
【0021】
上記何れの製造方法においても、従来廃棄物としてしか扱われなかった伐採オイルパーム幹の樹皮以外の組成物を原材料とし、高収率、安価にエタノール、乳酸をそれぞれ製造できるばかりでなく、伐採オイルパーム幹に対する資源価値を高め、持続的なオイルパーム産業の確立と環境負荷の低減化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態について説明する。
本発明のエタノールの製造方法及び乳酸の製造方法は、何れもオイルパーム幹又は伐採されたオイルパーム幹から採取した樹皮以外の組成物を原料とし、この原料を微生物で発酵させてエタノール又は乳酸を得ることを特徴としている。組成物は、オイルパーム幹又は伐採されたオイルパーム幹から採取又は抽出した樹液や繊維質の組成物からなる。先ず、本発明のエタノールの製造方法及び乳酸の製造方法で使用するオイルパーム幹と、このオイルパーム幹由来の組成物に関して説明する。以下の説明においては、樹皮以外の組成物を単に組成物と呼ぶことにする。
【0023】
本発明ではオイルパーム幹を材料又は原料とする。若木、成木、老木の何れも適用可能ではあるが、とくには、オイルパーム果実生産性が落ちたオイルパーム幹又は20年以上経過したオイルパーム幹、さらには伐採されたオイルパーム幹が好ましい。また、樹齢が若く、オイルパーム果実生産性があっても再植栽培や計画的な栽培のために伐採されたオイルパーム幹又は病害虫により伐採を余儀なくされるオイルパーム幹でもよく、樹液及び繊維質などからなる組成物を採取可能なオイルパーム幹であれば何れでも構わない。
【0024】
オイルパーム幹から樹液などの組成物を採取する手法として、物理的な圧搾、粉砕、乾燥、及び遠心分離、水蒸気を伴う加熱、加水、有機溶媒による抽出法を使用することができる。化学的な処理を施し、樹液を採取し易くしてもよい。特に、伐採オイルパーム幹を粉砕後、物理的に圧搾して樹液や繊維を得るのが好ましいが、採取可能であれば何れの方法を採用しても構わない。
【0025】
樹液の採取は、伐採後すぐに樹液の採取を行うのが好ましい。樹液に含まれる遊離糖の量及び/又は状態により、伐採後数ヶ月、好ましくは数週間、特に好ましくは数日間放置した後でもよい。冷凍、冷蔵、加温、蒸気処理、真空処理、化学的処理等の状態で保存されたオイルパーム幹から上記手法を採用して樹液を採取しても構わない。
【0026】
図1(A)は、樹液を採取するオイルパーム幹を軸方向に垂直な方向で切断した輪の斜視図であり、(B)は(A)のX−X方向に沿う断面図である。
樹液を採取するオイルパーム幹10は、図1に示すように、中心領域11と中間領域12と外側領域13とからなる樹幹部分に領域区分される。最外側表面が樹皮14である。オイルパーム幹10の断面直径が33cm程度の場合には、中心領域11は中心軸から外方向に距離5〜8cm程度に亘る領域であり、中間領域12は中心領域から外方向に距離5cm程度に亘る領域であり、樹皮14の厚さは2〜3cm程度であり、残りが外側領域13である。樹液などからなるオイルパーム幹10由来の組成物を採取するには、オイルパーム幹10の中心領域11から採取することが好ましいが、オイルパーム幹10の状況に応じて中心領域11及び中間領域12から採取してもよい。さらに、外側領域13、中間領域12及び中心領域11から採取してもよい。
【0027】
ここで、本発明においてオイルパーム幹から上記手法を用いて採取した樹皮以外の組成物である樹液や、樹液から分離や分離抽出して得た遊離糖、樹液を採取した後の維管束を含む繊維質残渣の何れか又はこれらの混合物を、水や有機溶媒等により抽出することで、残存している糖質を回収しても良い。その際、糖質が分解されない程度の条件により加熱、冷却、pHの変動により抽出しても構わない。回収された繊維残渣から抽出した糖質は、既に採取した樹液と共に用いてもよい。
【0028】
さらに、繊維質に残存している糖を回収した後、オイルパーム幹の維管束と維管束を取り巻く繊維質中に残存する糖質を加水分解で得た糖質を用いてもよい。即ち、図1に示すオイルパーム幹10の中心領域11、中間領域12、外側領域13に存在する維管束と維管束を取り巻く繊維質を用い、セルラーゼやヘミセルラーゼなどの酵素処理を施して加水分解を行い、単糖やオリゴ糖を得ることができる。
【0029】
ここで、繊維質の状態によっては、上記酵素により直接加水分解処理を施してもよいが、酵素加水分解を施す前に最大限に酵素処理効果を得るために熱や化学薬品を用いた前処理を行うことが好ましい。具体的には、上記繊維質を硫酸、塩酸、硝酸その他の酸性又は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、尿素その他のアルカリ性の薬品と共に、常温で長時間処理するか又は高温度で10分から2時間程度の反応時間で加熱処理を行うことが好ましい。
【0030】
硫酸の場合を例にとって具体的に説明すると、硫酸濃度は0.1〜5%、好ましくは、0.5〜3%程度、加熱温度は140℃〜230℃、好ましくは、160℃〜210℃程度、反応時間は1〜20分間、好ましくは、5〜10分間程度である。これらの前処理は、オートクレーブなどを用いて行うことが好ましい。
【0031】
前処理が終了次第、中和処理を行う。前処理物が酸性である場合には水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、尿素、アンモニアなどのアルカリ性の薬品で中和し、前処理物がアルカリ性である場合には塩酸、硫酸、硝酸などの酸性の薬品で中和すればよい。
【0032】
中和処理後、中和された前処理物に酵素であるセルラーゼ及びヘミセルラーゼを添加し、放置又は撹拌しながらpH4〜6程度、温度35〜60℃程度、10〜100時間程度という条件下で酵素加水分解反応させる。この酵素加水分解により得られる二次糖液には、セルロース、ヘミセルロース由来の糖であるグルコース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、ラムノース、マンノースやこれらの成分からなるオリゴ糖が含まれる。
【0033】
オイルパーム幹からの繊維質をより効率よく糖化処理を行う方法としては、酸やアルカリなどの化学薬品による加水分解処理を施しても、糖質を得ることが可能である。具体的には、硫酸、塩酸、硝酸その他の酸性又は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、尿素その他のアルカリ性の薬品を直接用いることができる。場合によっては、上記薬品と共に、常温で処理するか、高温度で10分から1時間程度加熱処理を行っても糖を得ることができる。また上記処理条件以外でも、酸、アルカリ性薬品または高温、高圧などの条件を用いることで糖質を得ることが可能であれば処理条件になんら制限は無い。
【0034】
上記処理の一例として、濃硫酸70%、温度20〜100℃程度、反応時間は5分間〜1時間程度を挙げることができる。本処理方法はセルロース、ヘミセルロースから最大限に糖を回収する条件でもある。
【0035】
上記加水分解処理によって、オイルパーム幹に含まれる繊維質中のセルロース、ヘミセルロースが加水分解され、五炭糖や六炭糖が生成される。次に、加水分解反応物を固液分離する。固液分離の方法は、ろ過や遠心分離などを用いることができる。エネルギー消費の小さいろ過を用いることが好ましい。固液分離したろ液には、セルロースおよびヘミセルロース由来の糖であるグルコース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、マンノース等が含まれる。
【0036】
このオイルパーム幹の繊維を加水分解することにより得られる糖液は、上記した樹液と一緒に、或いはそれぞれ別個に、窒素、リンを含む栄養源と後述する微生物を添加し、適切な温度、pH等の条件下で微生物を培養してアルコール発酵を行い、エタノールの製造を行ったり、乳酸発酵を行い乳酸を製造することができる。
【0037】
オイルパーム幹の繊維懸濁液に直接セルラーゼやヘミセルラーゼ、そして後述する発酵微生物を両方とも加え、酵素加水分解と発酵とを同時並行的に行うこともできる。
【0038】
オイルパーム幹から得られる樹液及び繊維の加水分解により得られる糖液は、最良の形態を得るために水分含量を調節するなどして糖濃度を調整することができる。具体的には、糖含有量5重量%以上から30重量%の範囲が好ましいが、それ以下又はそれ以上の糖濃度でも微生物による発酵が行われれば何れの濃度範囲でも構わない。
【0039】
オイルパーム幹からの組成物である樹液や繊維加水分解から得られる糖液は、最良の形態を得るためにpHを調整しても良い。pHとしては、後述する微生物が生育可能な範囲内にある限り制限されないが、例えば4〜7.5、好ましくは5〜7.0に調整する。このpHの調整には、pH調整剤として通常使用されている塩酸、硫酸、酢酸、クエン酸などの酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニアなどのアルカリ、又は、トリス塩酸塩、リン酸水素塩などの塩類の何れかを用いることができる。
【0040】
必要に応じて、硫酸アンモニウムやリン酸水素アンモニウムなどの窒素塩類や、酵母エキス、コーンスティープリカー、ポリペプトン、肉エキス、カゼイン加水分解物、大豆抽出物等の培養補助成分やその他の任意成分を上記オイルパーム幹からの樹液及び糖液と併用して用いることもできる。その他、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マグネシウム塩、マンガン、亜鉛、鉄等の無機塩類が必要に応じて添加される。また、栄養要求性が付与されている微生物を用いる場合には、生育に要求される栄養物質を添加すればよい。必要であればペニシリン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、ネオマイシンなどの抗生物質類が添加されても良い。
【0041】
栄養補助成分の一例として、酵母エキスを添加する場合、樹液100重量%中に酵母エキス0.01〜2重量%となる範囲に調整するとよい。この添加割合の範囲であれば、微生物の発酵を促進することができる。
【0042】
次に、発酵の際に用いる微生物について説明する。
エタノール発酵の際に用いる微生物として、サッカロミセス属酵母、ザイモモナス属細菌などが挙げられる。乳酸発酵の際に用いる微生物として、ラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス属細菌などが挙げられる。これらの微生物に限らず、オイルパーム幹から採取、回収した樹液や糖液などの組成物から、エタノール、乳酸をそれぞれ発酵できる微生物であればよい。例えば、遺伝子組み換えを行った酵母や乳酸菌などの微生物でもよく、これらの微生物を用いることでエタノールや乳酸を効率的に生産させることができる。また、セルラーゼなどの加水分解酵素を生産する微生物、例えば、バチルス属細菌又はクロストリジウム属細菌などを使用しても構わない。
【0043】
発酵する際の温度としては、25℃〜45℃付近の培養温度が好ましく、この温度範囲で微生物を効果的に発酵させることができる。微生物の種類に応じて、25℃以下の低温域又は40℃以上の高温域で培養、発酵させても構わない。その他の培養条件としては、用いる微生物に応じて、酸素濃度を制限した嫌気条件で培養することや好気的な条件で培養することが好ましい。
【0044】
本発明のエタノールの製造方法によれば、オイルパーム幹由来の樹皮以外の組成物を原料として、高収率で安価に安定にエタノールを製造することができる。組成物としては、樹液や、樹液から分離や分離抽出して得た遊離糖、樹液を採取した後の維管束を含む繊維質残渣の何れか又はこれらの混合物を用いることができる。この製造方法で得られるエタノールは、石油代替エネルギーとしてガソリンへ混合してもよく、エチルターシャリーブチルエーテルのようなガソリン添加剤、その他エチレンなどの化学原料としても用いることができるだけでなく、食品や食品添加物として、ビール、蒸留酒その他の酒類、清涼飲料、漬物、醤油等の製造や、医薬品や医薬部外品等の製造にも利用することができる。
【0045】
本発明の乳酸の製造方法によれば、オイルパーム幹由来の組成物を原料として、高収率で安価に安定に乳酸を製造することができる。この方法で得られる乳酸は、生分解性プラスチックであるポリ乳酸の原料としての利用だけでなく、食品添加物として、ビール、蒸留酒その他の酒類、清涼飲料、漬物、醤油等の製造や、医薬品や医薬部外品等の製造にも利用することができる。
【0046】
上記何れの製造方法においても、従来廃棄物としてしか扱われなかった伐採オイルパーム幹を原材料とし、高収率、安価にエタノール及び乳酸を製造できるばかりでなく、伐採オイルパーム幹に対する資源価値を高め、持続的なオイルパーム産業の確立と環境負荷の低減化が可能となる。
【実施例1】
【0047】
さらに、実施例を挙げて本発明を詳しく説明する。なお、実施例は本発明の範囲を何ら制限するものではない。
伐採後の直径が32〜33cmのオイルパーム幹を、厚さ6.8〜7.0cmでディスク状にスライスし、中心から樹皮14に向かって中心領域11、中間領域12及び外側領域13と約5cm間隔で3等分に切断した。最外部の樹皮14を除いて、外側領域13、中間領域12、中心領域11を、それぞれ大まかに粉砕して、ロータリー粉砕機によりさらに細かく粉砕を行い、オイルパーム幹粉砕物とした。ガラスフィルターを用いて領域毎のオイルパーム幹粉砕物を圧搾ろ過し、樹液を採取した。ろ過で採取した樹液の量は、中心領域11の部分から約140cm3、中間領域12の部分から約80cm3、外側領域13の部分から約40cm3であった。
【0048】
オイルパーム幹10の各領域に含まれる水分を測定した。上記の細かく粉砕したオイルパーム幹粉砕物のおおよそ3〜5gを正確に秤量し、100℃、24時間加熱し乾固させた。乾固後のオイルパーム幹粉砕物を正確に秤量し、加熱乾燥前のオイルパーム幹粉砕物の重量から差し引くことで、水分重量を算出した。その結果、中心領域11の重量に対して83%、中間領域12の重量に対して75%、外側領域13に対して68%の水分含率を示し、オイルパーム幹10には大量の水分が含まれることが分かった。
【0049】
樹液を採取した後に、ガラスフィルター上に残った維管束を含む繊維部分の糖組成を調べるために、繊維は蒸留水にて洗浄後、72%硫酸30℃1時間、3%硫酸121℃1時間の処理により加水分解処理を行った。
【0050】
各部分の樹液及び繊維部分の糖組成や糖含有量を、パルスドエレクトロケミカル検出器(HPAE−PED)法を用いた高速液体クロマトグラフィーにより測定した。分析条件としては、ダイオネックスPA−1カラムを使用し、溶離液としては2%水酸化ナトリウム水溶液(0.6cm3/分、28℃)を用いた。
【0051】
表1は、伐採されたオイルパーム幹の各領域から得られた樹液の遊離糖組成と含量を示した図表である。オイルパーム幹の各領域から得られた樹液の遊離糖として、アラビノース、ガラクトース、グルコース、キシリトール、ラムノース、マンノースなどが含まれていた。中心領域11の部分では、遊離糖が全体として98g/103cm3得られた。遊離糖の各成分量(組成比(%))は、グルコースが86.9%で最も多く、以下、アラビノースが6.6%、マンノースが4.2%、ガラクトースが0.9%、キシロースが0.7%、ラムノースが0.4%であった。
【表1】


【0052】
中間領域12の部分では、遊離糖が全体として60.5g/103cm3得られ、各成分量はグルコースが86.2%で最も多く、以下、マンノースが5.1%、アラビノースが5%、キシロースが1.4%、ガラクトースが1.3%、ラムノースが0.8%であった。
【0053】
外側領域13の部分では、遊離糖が全体として20.5/103cm3得られ、各成分量はグルコースが65.7%で最も多く、以下、マンノースが10.5%、アラビノースが9.3%、キシロースが7.2%、ガラクトースが4.8%、ラムノースが2.5%であった。
【0054】
上記結果から、オイルパーム幹の各領域から得られた樹液の遊離糖は、中心領域11、中間領域12及び外側領域13で、それぞれ、98g/103cm3、60.5g/103cm3、20g/103cm3となり、中心領域11が最も多く、外側領域で最も少ないことが分かった。遊離糖は、オイルパーム幹の各領域の何れでも、グルコースが最も多く約66%以上の組成であり、中心領域11及び中間領域12においては、86%以上含有されていることが分かった。
【0055】
表2は、遊離糖抽出後のオイルパーム幹繊維の各領域中に含まれる構成糖の組成とその含量を示した表であり、糖として、アラビノース、ガラクトース、グルコース、キシロースが含まれていることが分かる。中心領域11の部分では、遊離糖が全体として幹繊維乾物重量1g当たり0.85gが得られた。遊離糖の各成分量は、グルコースが0.61gで最も多く、以下、アラビノースが0.02g、ガラクトースが0.02g、キシロースが0.19gであった。
中間領域12の部分では、幹繊維乾物重量1g当たり糖分が1.04g得られ、糖の各成分量は、グルコースが0.76gで最も多く、以下、キシロースが0.23g、アラビノースが0.03g、ガラクトースが0.02gであった。
外側領域13の部分では、幹繊維乾物重量1g当たり糖分が0.97g得られ、糖の各成分量は、グルコースが0.75gで最も多く、以下、キシロースが0.20g、アラビノース及びガラクトースが、それぞれ、0.01gであった。
【表2】


【0056】
これらの結果から、伐採オイルパーム幹の幹から得られる繊維は、中心領域11、中間領域12及び外側領域13の各部分において、幹繊維乾物重量1g当たり0.85〜1.04g程度の遊離糖が得られ、何れの場合にもグルコースが主成分であった。
【0057】
次に、樹液を得た後の繊維部分を蒸留水で洗浄した後、酵素による加水分解処理を行った。
最初に、繊維1.4gに50mMの酢酸緩衝液20cm3を加えて懸濁液とした。この懸濁液に糸状菌トリコデルマ・リーシエ由来のセルラーゼ(ノボザイム)20ユニットを添加し、50℃に保持し、3日間酵素加水分解を行った。酵素加水分解で得た反応液はガラスフィルターにて不溶性残渣を除き、フィルターろ過を行い透明な糖溶液を得た。この糖溶液にはグルコースが含まれていた。糖溶液のグルコース濃度はテストキット(和光純薬製、グルコースCII)を用いて測定し、オイルパーム幹繊維の重量に換算したところ、オイルパーム幹繊維1g当たり0.2gのグルコースが得られることが分かった。なお、上記の酵素を添加しない場合には、グルコースの分離は認められなかった。
【0058】
上記の伐採されたオイルパーム幹10の中心領域11から採取した樹液を用いて、実施例1の微生物によるエタノール発酵を行った。
具体的には、樹液中のグルコース濃度が55g/103cm3となるよう蒸留水を加えて調整し、この糖溶液に酵母エキス0.5重量%と硫酸アンモニウム0.2重量%とを加え、pHを6.0に調整した後に、フィルターろ過滅菌を行い、酵母(酒類総合研究所製、サッカロミセス・セルビシエ協会7号)を植菌して、30℃、静置条件で24時間発酵を行った。培養後、培養液中に蓄積したエタノール濃度はガスクロマトグラフィー(島津製作所製、モデルBC−2014)を用いて測定した。
【0059】
(比較例1)
次に、実施例1に対する比較例1について説明する。
樹液に含まれる成分の酵母への発酵阻害の有無を検討するために、グルコース試薬(和光純薬製、041−00595、試薬特級)を用い、水で濃度を60g/103cm3とし、実施例1と同様の酵母エキス及び硫酸アンモニウムを添加してフィルターろ過滅菌を行い培地とし、実施例1と同様に酵母を植菌してエタノール発酵を行った。
【実施例2】
【0060】
実施例1とは異なり、伐採されたオイルパーム幹10の中心領域11から調整した樹液と繊維の酵素加水分解物とを混合した原料を用いて、微生物によるエタノール発酵を行った。
ここで、繊維の酵素分解物は50℃で一晩乾燥濃縮し、先に得られた窒素源を含む樹液で溶解し、フィルターろ過滅菌した後に、エタノール発酵試験に供した。その他の条件は実施例1と同じである。
【0061】
実施例1及び2並びに比較例1の結果を説明する。
図2は、実施例1及び2並びに比較例1の発酵時間に対するグルコースの残存量とエタノールの生成量を示すグラフである。図において、横軸は発酵時間(時間)、左縦軸はグルコース残存量(g/103cm3)、右縦軸はエタノール生成量(g/103cm3)である。図中、白丸(○)、白三角(△)、白四角(□)プロットは、それぞれ、実施例1、実施例2及び比較例1における培養液中のグルコース残存量を示し、黒丸(●)、黒三角(▲)、黒四角(■)プロットは、それぞれ、実施例1、実施例2及び比較例1における培養液中に蓄積されるエタノール生成量を示している。
【0062】
図2から明らかなように、実施例1の樹液を用いたエタノール発酵においては、培養約12時間後にはグルコースの大部分が消費されており、24時間後には培養液中にエタノールが30g/103cm3の濃度で蓄積した。この値は、グルコース濃度から計算されるエタノールの理論収率の107%に相当し、樹液に含有されるマンノースやガラクトース等のグルコース以外の糖もエタノールへ変換されているものと考えられる。24時間後に蓄積されるエタノールの1時間当たりのエタノール生成効率も、1.25g/103cm3であった。これらの諸数値は、比較例1の発酵試験と同等であることから、実施例1においては、全く阻害を受けずにエタノール発酵することが分かった。
【0063】
図2から明らかなように、実施例2の樹液と繊維の酵素加水分解物とを混合した原料による発酵においては、発酵開始時のグルコース濃度は65g/103cm3であり、24時間以内にグルコースが消費されて、エタノールの生成が完了し、培養液中には33g/103cm3のエタノールが生成された。これは、グルコース濃度から算出されるエタノール生成の理論収率のほぼ100%に相当し、エタノール生成速度も1時間当たり約1.3g/103cm3と高く、効率良くエタノールを製造できることが分かった。
【実施例3】
【0064】
実施例1のエタノール発酵に用いた同じ樹液を用いて微生物による乳酸発酵を行った。中心領域11から採取した樹液を、樹液中のグルコース濃度が55g/103cm3となるよう蒸留水を加え調整した。この樹液を含む糖溶液に、酵母エキス0.5重量%と肉エキス0.2重量%と加え、pHを7.0に調整した後、フィルター滅菌とろ過とを行い、乳酸菌(アメリカン・タイプカルチャー・コレクション製、ラクトバチルス・ラクティスATCC19435株)を植菌し、30℃に保持して所謂静置培養を48時間行った。乳酸発酵後、培養液中に蓄積した乳酸濃度は、ポストカラムpH緩衝化電気伝導度検出法を用いた高速液体クロマトグラフィー有機酸分析システム(島津製作所製、Prominence)を用いた測定した。
【0065】
(比較例2)
次に、実施例3に対する比較例2について説明する。
樹液に含まれる成分の酵母への発酵阻害の有無を検討するために、グルコース試薬(和光純薬製、041−00595、試薬特級)を用い、水で濃度を60g/103cm3とし、実施例3と同様の酵母エキス及び肉エキスを添加してフィルターろ過滅菌を行い培地とし、実施例3と同様に乳酸菌を植菌して、乳酸発酵を行った。
【実施例4】
【0066】
伐採されたオイルパーム幹10の中心領域11から調整した樹液と繊維の酵素加水分解物とを混合した原料を用いた以外は、実施例3と同様にして乳酸発酵を行った。
ここで、繊維の酵素分解物は50℃で一晩乾燥濃縮し、先に得られた窒素源を含む樹液で溶解し、フィルターでろ過した後に用いた。
【0067】
実施例3及び4並びに比較例2の結果を説明する。
図3は、実施例3及び4並びに比較例2の発酵時間に対するグルコースの残存量と乳酸の生成量とを示すグラフである。縦軸は発酵時間(時間)、左縦軸はグルコースの残存量(g/103cm3)、右縦軸は乳酸生成量(g/103cm3)である。図中、白丸(○)、白三角(△)、白四角(□)プロットは、それぞれ、実施例3、実施例4及び比較例2における培養液中のグルコース残存量を示し、黒丸(●)、黒三角(▲)、黒四角(■)プロットは、それぞれ、実施例3、実施例4及び比較例2における培養液中に蓄積される乳酸生成量を示している。
【0068】
実施例3の樹液を用いた乳酸発酵においては、培養48時間後にはグルコースの大部分が消費されており、培養液中に乳酸が50g/103cm3の濃度で蓄積した。乳酸生成速度も1時間当たり約1.04g/103cm3であった。これらの結果は、対照試験である比較例2のグルコース培地での発酵試験とほぼ同等であった。
【0069】
実施例4は、実施例3の樹液にさらに繊維の酵素分解物を混合した場合の乳酸発酵であるが、発酵開始のグルコース濃度は65g/103cm3であった。培養48時間後にはグルコースが消費されて乳酸の生成が完了し、培養液中には58g/103cm3の濃度で乳酸が蓄積した。乳酸生成速度は1時間当たり約1.2g/103cm3であり、比較例2の乳酸発酵の場合と同等であった。
【実施例5】
【0070】
樹液から遊離糖を分離抽出するために、実施例1に記載の高速液体クロマトグラフィーを用いた糖分析で検出される糖の分取を行った。
図4は、実施例5の樹液に含まれる遊離糖の分離クロマトグラムを示す図である。図において、横軸は溶出時間(分)であり、縦軸は信号強度(mA)である。図4から明らかように、遊離糖中、溶出時間が約32〜44分前後のピークを示すフラクションであるグルコース15が抽出できた。グルコース15と同様に、その他のピークとして認められたフラクションもそれぞれ回収した。回収したグルコース溶液又は同様に回収したその他の遊離糖からなる溶液は、凍結乾燥を行った。このように適当なクロマトグラフィーを用いることで、容易に樹液中の遊離糖を分離回収することが可能であることが分かった。
【実施例6】
【0071】
実施例1で得た樹液のみを用い、実施例1と同じ酵母を用いてエタノール発酵を行った。中心領域11の部分から採取した樹液(グルコース濃度は55g/103cm3)に、実施例2で添加した窒素源を添加せず、pHも調整を行わず、直接フィルターろ過滅菌を行い、実施例1と同様の酵母を接種し、同じ培養条件(30℃、24時間)でエタノール発酵を行った。
【0072】
実施例6においては、上記培養液から実施例1で得られた結果とほぼ同様に、収率100%でエタノールの蓄積を確認した。
【実施例7】
【0073】
実施例1で得た樹液のみを用いて、乳酸菌による乳酸発酵を行った。中心領域11の部分から採取した樹液(グルコース濃度は55g/103cm3)に実施例3で添加した窒素源を添加せず、pHも調整を行わず、直接フィルター滅菌とろ過とを行い、実施例4と同様の微生物を接種し、同じ培養条件(30℃、48時間)で乳酸発酵を行った。
【0074】
実施例7においては、上記培養液から実施例3で得られた結果とほぼ同様に、収率100%で乳酸の蓄積を確認した。
【0075】
上記実施例6及び7の結果から、樹液と実施例1及び3で使用した微生物種だけを用いることで、簡便に効率的にエタノール発酵を行ったり、乳酸発酵を行うことができることが分かった。
【0076】
上記実施例によれば、大量に廃棄されている伐採オイルパーム幹又はその樹液等の組成物を用いて、安価で簡便にエタノール又は乳酸を製造できることを確認した。
【0077】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能である。オイルパーム幹から採取する原料は各種の処理を行うことができ、エタノール発酵や乳酸発酵に用いる培地やこれらの発酵に用いる酵母は、オイルパーム幹から得た原料やその形状に応じて適宜に選択することができ、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、主として大部分が廃棄されているパーム幹の中心部分を用い、安価かつ簡便に燃料用エタノール又はバイオプラスチック用乳酸を生産する技術の開発であり、化石資源消費量の低減化ならびに地球温暖化問題等の環境問題の解決を目指した、新規バイオマス産業の育成・発展に寄与するものである。また、東南アジアを中心とするパームオイル産業の一層の効率化、高収益化及び持続的発展にも大きく貢献すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】(A)は樹液を採取するオイルパーム幹を軸方向に垂直な方向で切断した輪の斜視図であり、(B)は(A)のX−X方向に沿う断面図である。
【図2】実施例1及び2並びに比較例1の発酵時間に対するグルコースの残存量とエタノールの生成量を示すグラフである。
【図3】実施例3及び4並びに比較例2の発酵時間に対するグルコースの残存量と乳酸の生成量とを示すグラフである。
【図4】実施例5の樹液に含まれる遊離糖の分離クロマトグラムを示す図である。
【符号の説明】
【0080】
10:オイルパーム幹
11:中心領域
12:中間領域
13:外側領域
14:樹皮
15:グルコースのピーク
【出願人】 【識別番号】501174550
【氏名又は名称】独立行政法人国際農林水産業研究センター
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】独立行政法人森林総合研究所
【出願日】 平成19年1月25日(2007.1.25)
【代理人】 【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸

【識別番号】100109807
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 哲也


【公開番号】 特開2008−178355(P2008−178355A)
【公開日】 平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願番号】 特願2007−15127(P2007−15127)