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【発明の名称】 不飽和脂肪酸誘導体の製造方法
【発明者】 【氏名】岸本 憲明

【氏名】愛水 哲史

【氏名】松田 靖史

【氏名】藤田 藤樹夫

【要約】 【課題】不飽和脂肪酸化合物から簡便な操作でかつ高い効率で不飽和脂肪酸誘導体を得る手段を提供する。

【解決手段】以下の式(I)の不飽和脂肪酸化合物を不飽和脂肪酸誘導体に変換する能力を有するカンジダ属に属する微生物又はヤロウイア属に属する微生物等とを接触させる不飽和脂肪酸誘導体の製造方法(式において、R1は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、R2の炭素数2〜15のアルキル基をヒドロキシル基又はケトン基を有する炭素数2〜15のアルキル基を有する誘導体に変換する)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式(I):
【化1】


(式中、R1は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基、R2は炭素数2〜15のアルキ
ル基を示す)
で表される不飽和脂肪酸化合物と、
(B)一般式(I)で表される不飽和脂肪酸化合物を一般式(II):
【化2】


(式中、R1は前記と同じ。R3はヒドロキシル基またはケトン基を有する炭素数2〜15
のアルキル基を示す)
で表される不飽和脂肪酸誘導体に変換する能力を有し、かつカンジダ(Candida)
属もしくはヤロウイア(Yallowia)属に属する微生物、前記微生物の細胞破砕物
または前記微生物の無細胞抽出物と
を接触させることを特徴とする一般式(II)で表される不飽和脂肪酸誘導体の製造方法

【請求項2】
前記微生物が、カンジダ マルトーザ(Candida maltosa)、カンジダ
スクシフィラ(Candida succiphila)、カンジダ ピグナリエ(C
andida pignaliae)、カンジダ ニトラトフィラ(Candida n
itratophila)およびヤロウイア リポリチカ(Yallowia lypo
lytica)からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1記載の不飽和脂肪
酸誘導体の製造方法。
【請求項3】
一般式(I)で表される不飽和脂肪酸化合物を含有する培地中で前記微生物を培養する
請求項1または2記載の不飽和脂肪酸誘導体の製造方法。
【請求項4】
一般式(I)で表される不飽和脂肪酸化合物が、トランス−2−デセン酸である請求項
1〜3いずれか記載の不飽和脂肪酸誘導体の製造方法。
【請求項5】
一般式(I)で表される不飽和脂肪酸において、R1が炭素数1〜4のアルキル基であ
るとき、該不飽和脂肪酸アルキルエステルから一般式(II)で表される不飽和脂肪酸誘
導体を製造した後、さらに該不飽和脂肪酸誘導体に、該不飽和脂肪酸誘導体のエステル結
合を加水分解させる酵素を作用させる請求項1〜3いずれか記載の不飽和脂肪酸誘導体の
製造方法。
【請求項6】
(a)一般式(I):
【化3】


(式中、R1は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基、R2は炭素数2〜15のアルキ
ル基を示す)
で表される不飽和脂肪酸化合物を一般式(II):
【化4】


(式中、R1は前記と同じ。R3はヒドロキシル基またはケトン基を有する炭素数2〜15
のアルキル基を示す)
で表される不飽和脂肪酸誘導体に変換する能力を有し、かつカンジダ(Candida)
属もしくはヤロウイア(Yallowia)属に属する微生物、前記微生物の細胞破砕物
または前記微生物の無細胞抽出物と、
(b)一般式(I)で表される不飽和脂肪酸化合物およびグルコースを含有する培地と
を含有してなる不飽和脂肪酸誘導体製造用キット。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和脂肪酸誘導体の製造方法に関する。さらに詳しくは、例えば、不飽和
脂肪酸化合物からヒドロキシ不飽和脂肪酸、オキソ不飽和脂肪酸などの所望の不飽和脂肪
酸誘導体を得るのに有用な不飽和脂肪酸誘導体の製造方法および前記不飽和脂肪酸誘導体
を製造するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸は、ヒトなどの生体内で一般にエネルギー源として好気的に代謝される化合物で
あることから、近年、脂肪酸の生体内における機能が注目されている。例えば、脂肪酸の
一種である共役リノール酸は、マウス前胃新生物形成を阻害すること(例えば、非特許文
献1参照)、動物の体重または脂肪の低下をもたらすこと(例えば、特許文献1および2
参照)などが知られている。
【0003】
しかしながら、脂肪酸は、その種類によっては動物、植物などにごく微量でしか含まれ
ないため、一般に、脂肪酸を工業的に大量に生産し、安定的に供給することが困難である
と考えられている。そこで、脂肪酸を化学的に合成する方法が考えられるが、この方法に
は、通常、煩雑な工程を必要とし、生産効率が低いという欠点がある。
【0004】
【特許文献1】特表2001−508085号公報
【特許文献2】特開2002−223722号公報
【非特許文献1】ワイエル ハー(YL Ha)ら著、「リノール酸の共役二重結合型誘導体によるベンゾ(ザ)ピレン誘導マウス前胃新生物形成の阻害(Inhibition of benzo(a)pyrene-induced mouse forestomach neoplasia byconjugated dienoic derivatives of linoleic acid)」、キャンサー・リサーチ(Cancer Res.)、1990年発行、第50巻、第1097頁−第1101頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、簡便な操作で不飽和脂肪酸誘導体を製造すること、不飽和脂肪酸化合物から
不飽和脂肪酸誘導体を高い効率で得ることなどの少なくとも1つの目的を達成しうる不飽
和脂肪酸誘導体の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、不飽和脂肪酸
化合物から不飽和脂肪酸誘導体を高い効率で得ることができる不飽和脂肪酸誘導体製造用
キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
(1)(A)一般式(I):
【0007】
【化1】


【0008】
(式中、R1は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基、R2は炭素数2〜15のアルキ
ル基を示す)
で表される不飽和脂肪酸化合物と、
(B)一般式(I)で表される不飽和脂肪酸化合物を一般式(II):
【0009】
【化2】


【0010】
(式中、R1は前記と同じ。R3はヒドロキシル基またはケトン基を有する炭素数2〜15
のアルキル基を示す)
で表される不飽和脂肪酸誘導体に変換する能力を有し、かつカンジダ(Candida)
属もしくはヤロウイア(Yallowia)属に属する微生物、前記微生物の細胞破砕物
または前記微生物の無細胞抽出物と
を接触させることを特徴とする一般式(II)で表される不飽和脂肪酸誘導体の製造方法

(2)前記微生物が、カンジダ マルトーザ(Candida maltosa)、カン
ジダ スクシフィラ(Candida succiphila)、カンジダ ピグナリエ
(Candida pignaliae)、カンジダ ニトラトフィラ(Candida
nitratophila)およびヤロウイア リポリチカ(Yallowia ly
polytica)からなる群より選ばれた少なくとも1種である前記(1)記載の不飽
和脂肪酸誘導体の製造方法、
(3)一般式(I)で表される不飽和脂肪酸化合物を含有する培地中で前記微生物を培養
する前記(1)または(2)に記載の不飽和脂肪酸誘導体の製造方法、
(4)一般式(I)で表される不飽和脂肪酸化合物が、トランス−2−デセン酸である前
記(1)〜(3)のいずれかに記載の不飽和脂肪酸誘導体の製造方法、ならびに
(5)一般式(I)で表される不飽和脂肪酸において、R1が炭素数1〜4のアルキル基
であるとき、該不飽和脂肪酸アルキルエステルから一般式(II)で表される不飽和脂肪
酸誘導体を製造した後、さらに該不飽和脂肪酸誘導体に、該不飽和脂肪酸誘導体のエステ
ル結合を加水分解させる酵素を作用させる前記(1)〜(3)いずれか記載の不飽和脂肪
酸誘導体の製造方法、および
(6)(a)一般式(I)で表される不飽和脂肪酸化合物を一般式(II)で表される不
飽和脂肪酸誘導体に変換する能力を有し、かつカンジダ(Candida)属もしくはヤ
ロウイア(Yallowia)属に属する微生物、前記微生物の細胞破砕物または前記微
生物の無細胞抽出物と、
(b)一般式(I)で表される不飽和脂肪酸化合物およびグルコースを含有する培地と
を含有してなる不飽和脂肪酸誘導体製造用キット
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の不飽和脂肪酸誘導体の製造方法によれば、簡便な操作で不飽和脂肪酸誘導体を
製造することができるという優れた効果が奏される。また、本発明の不飽和脂肪酸誘導体
の製造方法によれば、不飽和脂肪酸化合物から不飽和脂肪酸誘導体を高い効率で得ること
ができるという優れた効果が奏される。さらに、本発明の不飽和脂肪酸誘導体製造用キッ
トによれば、不飽和脂肪酸化合物から不飽和脂肪酸誘導体を高い効率で得ることができる
という優れた効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の不飽和脂肪酸誘導体の製造方法は、前記したように、
(A)一般式(I):
【0013】
【化3】


【0014】
(式中、R1は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基、R2は炭素数2〜15のアルキ
ル基を示す)
で表される不飽和脂肪酸化合物(以下、単に「不飽和脂肪酸化合物」という)と、
(B)前記不飽和脂肪酸化合物を一般式(II):
【0015】
【化4】


【0016】
(式中、R1は前記と同じ。R3はヒドロキシル基またはケトン基を有する炭素数2〜15
のアルキル基を示す)
で表される不飽和脂肪酸誘導体(以下、単に「不飽和脂肪酸誘導体」という)に変換する
能力を有し、かつカンジダ(Candida)属もしくはヤロウイア(Yallowia
)属に属する微生物、前記微生物の細胞破砕物または前記微生物の無細胞抽出物と
を接触させることを特徴とする。
【0017】
本発明は、不飽和脂肪酸誘導体を製造する際に、前記微生物、前記微生物の培養物、前
記微生物の細胞破砕物または前記微生物の無細胞抽出物が用いられている点に、1つの大
きな特徴を有する。
【0018】
したがって、本発明によれば、例えば、化学的合成法によって不飽和脂肪酸誘導体を製
造する場合のような煩雑な工程を必要としないので、より簡便な操作で不飽和脂肪酸誘導
体を製造することができるという優れた効果が奏される。また、本発明によれば、不飽和
脂肪酸誘導体を製造する際に前記微生物などが用いられているので、本質的に内在してい
る酵素を利用して不飽和脂肪酸化合物から不飽和脂肪酸誘導体への変換反応を行なうこと
ができることから、安定した変換活性が得られるという優れた効果が奏される。
【0019】
本発明に用いられる微生物としては、不飽和脂肪酸化合物を不飽和脂肪酸誘導体に変換
する能力を有し、かつカンジダ(Candida)属に属する微生物およびヤロウイア(
Yallowia)属に属する微生物が挙げられる。
【0020】
前記微生物としては、例えば、カンジダ マルトーザ(Candida maltos
a)、カンジダ スクシフィラ(Candida succiphila)、カンジダ
ピグナリエ(Candida pignaliae)、カンジダ ニトラトフィラ(Ca
ndida nitratophila)、ヤロウイア リポリチカ(Yarrowia
lipolytica)などが挙げられる。前記微生物のなかでは、例えば、不飽和脂
肪酸誘導体として10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸を製造する場合、この10
−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸を高い効率でより短時間で製造する観点から、カ
ンジダ マルトーザ(Candida maltosa)およびヤロウイア リポリチカ
(Yarrowia lipolytica)が好ましく、カンジダ マルトーザ(Ca
ndida maltosa)がより好ましい。
【0021】
カンジダ マルトーザ(Candida maltosa)としては、例えば、カンジ
ダ マルトーザ(Candida maltosa) IAM 12247株、IAM
12248株などが挙げられる。カンジダ スクシフィラ(Candida succi
phila)としては、例えば、カンジダ スクシフィラ(Candida succi
phila) IAM 12485株などが挙げられる。カンジダ ピグナリエ(Can
dida pignaliae)としては、例えば、カンジダ ピグナリエ(Candi
da pignaliae) IAM 12906株などが挙げられる。カンジダ ニト
ラトフィラ(Candida nitratophila)としては、例えば、カンジダ
ニトラトフィラ(Candida nitratophila) IAM 12883
株などが挙げられる。ヤロウイア リポリチカ(Yarrowia lipolytic
a)としては、例えば、ヤロウイア リポリチカ(Yarrowia lipolyti
ca) ATCC 20460株などが挙げられる。
【0022】
なお、前記IAM株の微生物は、当業者が東京大学分子細胞生物学研究所 細胞機能情
報研究センター(IAM)から容易に入手しうる微生物である。また、前記ATCC株の
微生物は、当業者がアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から容易に入
手しうる微生物である。
【0023】
カンジダ マルトーザ(Candida maltosa) IAM 12247株は
、識別の表示:Candida maltosa KU83と命名・表示され、受託日:
2006年10月4日、受託番号:NITE P-266として、独立行政法人製品評価
技術基盤機構 特許微生物寄託センター〔日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8(
郵便番号:292−0818)〕に寄託されている。
【0024】
カンジダ マルトーザ(Candida maltosa) IAM 12247株(
Candida maltosa KU83株)は、
(i)菌の形態は、球形または短卵形であり、偽菌糸を形成する、
(ii)菌の大きさは、(3.6〜7.2μm)×(3.6〜7.9μm)である、
(iii)25℃で1ヵ月間培養したコロニーは、クリーム色を呈し、円滑な外観を有し
、偽菌糸の周縁部にはシワを形成する、
(iv)グルコース、シュクロースおよびトレハロースをそれぞれ発酵する、
(v)ガラクトース、シュクロース、マルトース、トレハロース、メレジトース、D−キ
シロース、グリセロール、D−マンニトール、D−グルシトール、サリシンおよびコハク
酸をそれぞれ資化することができる、
(vi)アルブチンを分解することができる、
(vii)キノンの種類は、Q9である、
(viii)G+C含量は、35.6〜36.8mol%である
という微生物学的性質を有する。
【0025】
前記微生物の選別は、例えば、
(1)トランス−2−デセン酸を含有する液体培地中で候補となるカンジダ(Candi
da)属に属する微生物を培養するステップ、
(2)前記ステップ(1)で得られた培養物から微生物細胞を除去して培養上清を得るス
テップ、および
(3)前記ステップ(2)で得られた培養上清中における9−ヒドロキシ−トランス−2
−デセン酸および/または10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸の存在の有無を評
価するステップ
を含み、培養上清中に9−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸および/または10−ヒ
ドロキシ−トランス−2−デセン酸が検出された場合、前記培養上清に対応する微生物が
、前記トランス−2−デセン酸を9−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸および/また
は10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸に変換する能力を有する微生物、すなわち
前記(B)の微生物であることの指標となる微生物のスクリーニング方法によって行なう
ことができる。
【0026】
前記ステップ(1)において、微生物の培養は、微生物の生育状態を良好に維持する観
点から、好ましくは20〜37℃、より好ましくは22〜30℃、さらに好ましくは26
〜29℃の培養温度で、24〜60時間の培養時間で行なうことができる。
【0027】
前記ステップ(1)で用いられるトランス−2−デセン酸を含有する液体培地としては
、特に限定されないが、例えば、イーストアンドモールド(YM)培地、ポテトデキスト
ロース(PD)培地、サブロー培地、ツァペック酵母エキス培地、ソイビーン・カゼイン
・ダイジェスト・ブロス(SCD)培地、半合成培地などの培地にトランス−2−デセン
酸を添加して得られた培地などが挙げられる。
【0028】
トランス−2−デセン酸を含有する液体培地としては、特に限定されないが、例えば、
トランス−2−デセン酸とグルコースとKH2PO4とNa2HPO4と酵母エキスとを含有
し、さらに任意にポリペプトン、尿素、MnCl2・4H2O、FeSO4・7H2O、Zn
SO4・7H2Oなどを含有する培地などが挙げられる。
【0029】
トランス−2−デセン酸を含有する液体培地としては、特に限定されないが、例えば、
トランス−2−デセン酸0.1質量%と、グルコース3.0質量%と、KH2PO4 0.
2質量%と、Na2HPO4 0.35質量%と、MgSO4・7H2O 0.05質量%と
、酵母エキス0.025質量%と、ポリペプトン0.025質量%と、尿素0.3質量%
と、MnCl2・4H2O 0.002質量%と、FeSO4・7H2O 0.002質量%
と、ZnSO4・7H2O 0.002質量%とを含有する培地(pH6.9)、トランス
−2−デセン酸0.1質量%を含有し、イーストアンドモールド(YM)培地を基本培地
とした培地〔組成:酵母エキス0.3質量%、麦芽エキス0.3質量%、ポリペプトン0
.5質量%、グルコース1.0質量%、蒸留水(残部)〕などが挙げられる。
【0030】
前記ステップ(2)において、培養上清は、前記ステップ(1)で得られた培養物を遠
心分離に供し、微生物細胞とそれ以外の液体成分とを分離する方法、前記培養物を適切な
孔径(例えば、0.45μm)のフィルターに供し、微生物細胞とそれ以外の液体成分と
を分離する方法などによって得ることができる。
【0031】
前記ステップ(3)において、前記ステップ(2)で得られた培養上清中における9−
ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸および/または10−ヒドロキシ−トランス−2−
デセン酸の存在の有無は、例えば、前記培養上清を、適切な溶離液を用いた高速液体クロ
マトグラフィー(以下、HPLCという)に供し、波長215nmにおける吸光度をモニ
ターし、9−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸の標品および/または10−ヒドロキ
シ−トランス−2−デセン酸の標品と同じ保持時間のピークの有無を検出することにより
、確認することができる。
【0032】
前記HPLCには、例えば、全多孔性球状シリカゲル(例えば、平均粒子径:約5μm
、平均細孔径:約120Å、比表面積:約300m2/g、化学結合:三反応性基型オク
タデシル基結合など)を用いたカラム(カラムの大きさ:4.6mm×250mm)など
を用いることができる。カラムとしては、特に限定されないが、ナカライテスク(株)製、
商品名:COSMOSIL 5C18−AR−II Waters typeカラム(カラ
ムの大きさ:4.6mm×250mm、Code No.38145−21)などが挙げ
られる。
【0033】
このカラムを用いる場合、例えば、カラム温度35℃および流速1mL/minで、溶
出液A〔アセトニトリル/テトラヒドロフラン/蒸留水(容量比)=40.6/17.4
/42.0〕による15分間の溶出、溶出液B(アセトニトリル)による15分間の溶出
、および前記溶出液Aによる25分間の溶出を順に行なうことにより、HPLCを行なう
ことができる。
【0034】
前記ステップ(3)において、9−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸の標品および
/または10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸の標品と同じ保持時間のピークが検
出されることは、培養上清に9−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸および/または1
0−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸が存在することの指標となる。このようにして
、9−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸および/または10−ヒドロキシ−トランス
−2−デセン酸が検出された培養上清に対応する微生物として、目的の微生物を得ること
ができる。
【0035】
本発明においては、不飽和脂肪酸化合物と、前記微生物、前記微生物の細胞破砕物また
は前記微生物の無細胞抽出物とを接触させる点にも、1つの大きな特徴がある。本発明は
、前記特徴を有するので、不飽和脂肪酸化合物を不飽和脂肪酸誘導体に高い効率で安定し
て変換することができる。
【0036】
前記微生物、前記微生物の細胞破砕物および前記微生物の無細胞抽出物のなかでは、不
飽和脂肪酸誘導体を安定的に製造する観点から、前記微生物が好ましい。
【0037】
一般式(I)において、R1は、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。こ
のアルキル基の炭素数は、前記微生物による基質特異性の観点から、1以上、好ましくは
2以上であり、工業的生産性の観点から、4以下、好ましくは3以下である。炭素数1〜
4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基およびブチル基が挙げられる

【0038】
一般式(I)において、R2は、炭素数2〜15のアルキル基である。このアルキル基
の炭素数は、前記微生物による基質特異性の観点から、2以上、好ましくは3以上であり
、工業的生産性の観点から、15以下、好ましくは9以下である。炭素数2〜15のアル
キル基としては、例えば、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、
ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などに代表される炭素数2〜15の直鎖ア
ルキル基、およびイソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル
基などに代表される分岐鎖を有する炭素数2〜15のアルキル基などが挙げられる。R2
のなかでは、前記微生物による基質選択性の観点から、ヘキシル基が好ましい。
【0039】
一般式(II)において、R1は、一般式(I)におけるR1と同じである。また、R3
は、一般式(I)におけるR2がヒドロキシル化またはケトン化された基であり、より具
体的には、ヒドロキシル基またはケトン基を有する炭素数2〜15のアルキル基である。
3の炭素数は、前記微生物による基質特異性の観点から、2以上、好ましくは3以上で
あり、工業的生産性の観点から、15以下、好ましくは9以下である。R3の具体例とし
ては、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、
3−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシブチル基、4−ヒドロキシブチル基、4−ヒ
ドロキシペンチル基、5−ヒドロキシペンチル基、5−ヒドロキシヘキシル基、6−ヒド
ロキシヘキシル基、6−ヒドロキシヘプチル基、7−ヒドロキシヘプチル基、7−ヒドロ
キシオクチル基、8−ヒドロキシオクチル基などに代表される炭素数2〜15のヒドロキ
シアルキル基;2−プロパノニル基、3−ブタノニル基、4−ペンタノニル基、5−ヘキ
サノニル基などに代表される炭素数2〜15のケトン基含有アルキル基などが挙げられる
。R3のなかでは、前記微生物による基質選択性の観点から、5−ヘキサノニル基が好ま
しい。
【0040】
不飽和脂肪酸化合物と前記微生物との接触は、例えば、不飽和脂肪酸化合物を含有する
培地中で前記微生物を培養する方法、前記微生物を担体に固定化させた固定化微生物担体
または前記微生物を包括剤に包括固定化させた微生物包括物を、不飽和脂肪酸化合物を含
有する培地または不飽和脂肪酸化合物を含有する緩衝液中で維持する方法などによって行
うことができる。
【0041】
不飽和脂肪酸化合物を含有する培地中で前記微生物を培養する場合、用いられる培地(
以下、「変換培地」ともいう)としては、例えば、不飽和脂肪酸化合物とグルコースとを
含有する培地などが挙げられる。
【0042】
前記変換培地中の不飽和脂肪酸化合物の濃度は、不飽和脂肪酸誘導体への変換率を高め
る観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり
、微生物を良好な生育状態で維持させる観点から、好ましくは10質量%以下、より好ま
しくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0043】
また、前記培地中のグルコース濃度は、微生物による不飽和脂肪酸化合物から不飽和脂
肪酸誘導体への変換効率をより高める観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましく
は5質量%以上、さらに好ましくは7.5質量%以上であり、不飽和脂肪酸誘導体への変
換を十分に行ない、かつ不飽和脂肪酸誘導体への変換の経済性を高める観点から、好まし
くは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
【0044】
前記変換培地のpHは、微生物の生育を良好にする観点から、好ましくは5以上、より
好ましくは6.5以上であり、高い効率で変換反応を行なう観点から、好ましくは8以下
、より好ましくは7.5以下である。前記変換培地には、所望のpHとなるようにするた
めに、例えば、KH2PO4、Na2HPO4などを用いることができる。前記変換培地中の
KH2PO4の濃度は、微生物による不飽和脂肪酸化合物から不飽和脂肪酸誘導体への変換
効率をより高める観点から、好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.1〜1
質量%、さらに好ましくは0.1〜0.3質量%である。また、前記変換培地中のNa2
HPO4の濃度は、微生物による不飽和脂肪酸化合物から不飽和脂肪酸誘導体への変換効
率をより高める観点から、好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.1〜1質
量%、さらに好ましくは0.3〜0.5質量%である。
【0045】
前記変換培地には、前記微生物の生育能や前記微生物による変換効率を高める観点から
、酵母エキスが含まれていてもよい。前記変換培地中の酵母エキスの濃度は、前記微生物
による不飽和脂肪酸化合物から不飽和脂肪酸誘導体への変換効率をより高める観点から、
好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上であり、不飽和脂肪
酸誘導体への変換を十分に行なうとともに、不飽和脂肪酸誘導体への変換の経済性を高め
る観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは
0.03質量%以下である。
【0046】
前記変換培地には、必要により、ポリペプトン、尿素、MnCl2・4H2O、FeSO
4・7H2O、ZnSO4・7H2Oなどが含まれていてもよい。
【0047】
前記変換培地としては、特に限定がないが、例えば、不飽和脂肪酸化合物がトランス−
2−デセン酸である場合、トランス−2−デセン酸を0.01〜10質量%(例えば、0
.1質量%など)と、グルコースを3〜20質量%(例えば、3質量%など)と、KH2
PO4を0.05〜5質量%(例えば、0.2質量%など)と、Na2HPO4を0.05
〜5質量%(例えば、0.35質量%など)と、MgSO4・7H2Oを0.01〜1質量
%(例えば、0.05質量%など)と、酵母エキスを0.01〜5質量%(例えば、0.
025質量%など)と、ポリペプトンを0〜1質量%(例えば、0.025質量%など)
と、尿素を0.03〜3質量%(例えば、0.3質量%など)と、MnCl2・4H2Oを
0.0001〜0.01質量%(例えば、0.002質量%など)と、FeSO4・7H2
Oを0.0001〜0.01質量%(例えば、0.002質量%など)と、ZnSO4
7H2Oを0.0001〜0.01質量%(例えば、0.002質量%など)と、蒸留水
(残部)とを含有する培地〔pH5〜8(例えば、pH6.9など)〕、トランス−2−
デセン酸を0.01〜10質量%(例えば、0.1質量%など)を含有し、かつイースト
アンドモールド(YM)培地を基本培地とした培地などが挙げられる。前記変換培地は、
例えば、乾燥状態の組成物として入手することができる。前記変換培地は、例えば、乾燥
状態の変換培地の組成物を水に溶解させ、滅菌フィルターなどで濾過することにより、得
ることができる。
【0048】
前記微生物の培養温度は、微生物の生育状態を良好に維持する観点から、好ましくは2
0〜37℃、より好ましくは24〜30℃、さらに好ましくは27〜29℃である。前記
微生物の培養時間は、不飽和脂肪酸誘導体の生産性を高める観点から、好ましくは12〜
120時間、より好ましくは24〜60時間である。
【0049】
なお、より高い変換効率で10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸を製造する観点
から、前記ステップ(1)において、例えば、ドデカンなどの中鎖の炭化水素、好ましく
は炭素数5〜12の炭化水素を含む培地を用いて前培養を行なった後、前記変換培地で培
養することが好ましい。
【0050】
前記微生物を担体に固定化させた固定化微生物担体は、物理的吸着法、イオン結合法、
共有結合法、生化学的特異的結合法などの方法により、前記微生物を適切な担体に固定化
させることによって得ることができる。前記担体としては、特に限定されないが、例えば
、セルロース、アガロースなどに代表される多糖;多孔質ガラス、金属酸化物などに代表
される無機物質;ポリアクリルアミド、ポリスチレンなどの合成高分子化合物などが挙げ
られる。
【0051】
前記微生物を包括剤に包括固定化させた微生物包括物は、包括剤で前記微生物を包むこ
とによって得ることができる。前記包括剤としては、特に限定されないが、例えば、アル
ギン酸、カラギーナンなどの多糖;ポリアクリルアミドなどが挙げられる。
【0052】
不飽和脂肪酸化合物と前記微生物とを接触させる際に用いられる緩衝液としては、例え
ば、リン酸緩衝化生理的食塩水などが挙げられる。
【0053】
また、不飽和脂肪酸化合物と前記微生物の細胞破砕物または前記微生物の無細胞抽出物
との接触は、前記と同様の緩衝液中で不飽和脂肪酸化合物と前記微生物の細胞破砕物とを
混合することなどによって行なうことができる。
【0054】
本発明においては、前記微生物、前記微生物の細胞破砕物または前記微生物の無細胞抽
出物が不飽和脂肪酸化合物に作用するので、不飽和脂肪酸化合物が目的とする不飽和脂肪
酸誘導体に変換し、変換した不飽和脂肪酸誘導体が培養上清または緩衝液中に蓄積される

【0055】
前記不飽和脂肪酸誘導体が蓄積された培養上清または緩衝液を、適切な溶離液が用いら
れたHPLCなどの分取手段に供し、波長215nmにおける吸光度をモニターし、不飽
和脂肪酸化合物の標品と同じ保持時間を示す画分を分取することにより、不飽和脂肪酸誘
導体を実質的に単離することができる。
【0056】
より具体的には、例えば、10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸が蓄積された培
養上清または緩衝液を、全多孔性球状シリカゲル(例えば、平均粒子径:約5μm、平均
細孔径:約120Å、比表面積:約300m2/g、化学結合:三反応性基型オクタデシ
ル基結合など)を用いたカラム(カラムの大きさ:4.6mm×250mm)、例えば、
商品名:COSMOSIL 5C18−AR−II Waters typeカラム〔カラ
ムの大きさ:4.6mm×250mm、ナカライテスク(株)製、Code No.381
45−21〕などに供し、カラム温度35℃で、溶出液A〔アセトニトリル/テトラヒド
ロフラン/蒸留水(容量比)=40.6/17.4/42.0〕による15分間の溶出、
溶出液B(アセトニトリル)による15分間の溶出、および前記溶出液Aによる25分間
の溶出をこの順序で流速1mL/minで行ない、10−ヒドロキシ−トランス−2−デ
セン酸の標品(保持時間約3.2分間)に相当する画分を分取することにより、10−ヒ
ドロキシ−トランス−2−デセン酸を単離することができる。
【0057】
また、9−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸が蓄積された培養上清または緩衝液を
用いる場合、前記と同様にして9−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸の標品に相当す
る画分を分取することにより、9−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸を単離すること
ができる。
【0058】
本発明においては、不飽和脂肪酸化合物としてトランス−2−デセン酸を用いた場合、
9−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸または10−ヒドロキシ−トランス−2−デセ
ン酸を効率よく得ることができる。より具体的には、例えば、不飽和脂肪酸化合物として
トランス−2−デセン酸を用いた場合、トランス−2−デセン酸から実質的に単離された
10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸を高い変換効率で得ることができる。
【0059】
なお、本発明において、一般式(I)で表される不飽和脂肪酸化合物において、R1
炭素数1〜4のアルキル基であるとき、対応する不飽和脂肪酸誘導体を効率よく製造する
観点から、前記不飽和脂肪酸アルキルエステルから一般式(II)で表される不飽和脂肪
酸誘導体を製造した後、さらに該不飽和脂肪酸誘導体に、該不飽和脂肪酸誘導体のエステ
ル結合を加水分解させる酵素を作用させることが好ましい。これにより、一般式(II)
において、R1が水素原子であり、R3がヒドロキシル基またはケトン基を有する炭素数2
〜15のアルキル基である不飽和脂肪酸アルキルエステルを得ることができる。
【0060】
前記酵素としては、例えば、リパーゼ、エステラーゼなどが挙げられる。
【0061】
前記酵素を作用させる不飽和脂肪酸誘導体として、9−ヒドロキシ−トランス−2−デ
セン酸アルキルエステルを用い、該9−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸アルキルエ
ステルに、前記酵素を作用させた場合、9−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸を効率
よく得ることができる。
【0062】
また、前記酵素を作用させる不飽和脂肪酸誘導体として、10−ヒドロキシ−トランス
−2−デセン酸アルキルエステルを用い、該10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸
アルキルエステルに、前記酵素を作用させた場合、10−ヒドロキシ−トランス−2−デ
セン酸を効率よく得ることができる。
【0063】
以上説明したように、本発明の製造方法によれば、簡便な操作で不飽和脂肪酸誘導体を
製造することができる。また、本発明の製造方法によれば、不飽和脂肪酸化合物から不飽
和脂肪酸誘導体を高い効率で製造することができる。
したがって、本発明の製造方法は、例えば、不飽和脂肪酸化合物からヒドロキシ不飽和
脂肪酸、オキソ不飽和脂肪酸などの所望の不飽和脂肪酸誘導体を製造するのに有用である

【0064】
本発明の不飽和脂肪酸誘導体製造用キットは、(a)不飽和脂肪酸化合物を不飽和脂肪
酸誘導体に変換する能力を有し、かつカンジダ(Candida)属またはヤロウイア(
Yallowia)属に属する微生物、前記微生物の細胞破砕物または前記微生物の無細
胞抽出物と、(b)不飽和脂肪酸化合物およびグルコースを含有する培地とを含有する。
【0065】
本発明の代表的なキットとして、(a)不飽和脂肪酸化合物を不飽和脂肪酸誘導体に変
換する能力を有し、かつカンジダ(Candida)属またはヤロウイア(Yallow
ia)属に属する微生物と、(b)不飽和脂肪酸化合物およびグルコースを含有する培地
とを含有するキットが挙げられる。このキットは、前記微生物および前記培地を有するの
で、本発明のキットを用いることにより、前記微生物による不飽和脂肪酸化合物から不飽
和脂肪酸誘導体への変換を至適条件下で行なうことができる。
【0066】
したがって、前記キットを用いれば、このキットに含まれている前記微生物と前記培地
とを混合するだけで、不飽和脂肪酸化合物から不飽和脂肪酸誘導体を簡便にかつ効率よく
製造することができる。
【0067】
本発明のキットは、前記微生物に代えて、(a’)不飽和脂肪酸化合物を不飽和脂肪酸
誘導体に変換する能力を有し、かつカンジダ(Candida)属に属する微生物もしく
はヤロウイア(Yallowia)属に属する微生物の細胞破砕物または前記微生物の無
細胞抽出物を含有し、かつ前記培地に代えて、(b’)不飽和脂肪酸化合物およびグルコ
ースを含有する溶液を有するキットであってもよい。このキットは、前記(a’)細胞破
砕物または無細胞抽出物および前記(b’)溶液を有するので、このキットを用いること
により、不飽和脂肪酸化合物から不飽和脂肪酸誘導体を簡便にかつ効率よく製造すること
ができる。
【0068】
なお、本発明のキットは、不飽和脂肪酸誘導体の単離をより容易に行なう観点から、前
記微生物および前記培地を含有することが好ましい。前記微生物は、生菌体、凍結乾燥微
生物、および凍結保護剤に懸濁させた凍結保存微生物のいずれであってもよい。また、前
記微生物は、例えば、アンプルなどの滅菌済容器に封入されていてもよい。さらに、乾燥
粉末培地であってもよく、滅菌培養液であってもよい。前記培地は、例えば、培養用フラ
スコ、培養用試験管、保存用容器などの滅菌済容器に封入されていてもよい。
【0069】
前記微生物は、前記固定化微生物担体または微生物包括物であってもよい。前記培地と
しては、本発明の製造方法に用いられる変換培地と同様の培地が挙げられる。
【0070】
なお、本発明のキットには、必要により、他の助剤などが含まれていてもよい。
【0071】
以上説明したように、本発明のキットを用いることにより、不飽和脂肪酸化合物から不
飽和脂肪酸誘導体を高い効率で製造することができる。したがって、本発明のキットは、
不飽和脂肪酸誘導体の製造用キットとして有用である。
【実施例】
【0072】
次に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例によって
限定されるものではない。
【0073】
なお、各実施例などで用いられた培地は、あらかじめオートクレーブ中で120℃の温
度で15分間滅菌された培地である。
【0074】
(実施例1)
種々の供試微生物を、それぞれ、YM寒天培地{培地(1000mL)の組成:酵母エ
キス〔ベクトン、ディッキンソン・アンド・カンパニー(Becton,Dickins
on and Company)社製〕3.0g(0.3質量%)、麦芽エキス3.0g
(0.3質量%)、グルコース10.0g(1.0質量%)、ポリペプトン〔日本製薬(
株)製〕5.0g(0.5質量%)、寒天〔ナカライテスク(株)製〕15.0g(1.5
質量%)、蒸留水(残部)、pH6.2}に塗布し、28℃で48時間培養した。その後
、前記培地から微生物細胞を回収した。得られた微生物細胞を滅菌生理食塩水に懸濁し、
OD660が1.0である供試微生物懸濁液を得た。
【0075】
次に、前記供試微生物懸濁液0.1mLを、L字型試験管中のAM−1培地〔培地(1
000mL)の組成:KH2PO4 0.2質量%、Na2HPO4 0.35質量%、Mg
SO4・7H2O 0.05質量%、酵母エキス〔ベクトン、ディッキンソン・アンド・カ
ンパニー社製〕0.025質量%、ポリペプトン〔日本製薬(株)製〕0.025質量%、
尿素0.3質量%、MnCl2・4H2O 0.002質量%、FeSO4・7H2O 0.
002質量%、ZnSO4・7H2O 0.002質量%、トランス−2−デセン酸〔東京
化成工業(株)製〕0.1質量%、蒸留水(残部)、pH6.9〕4.9mLに添加した。
その後、微生物細胞を71rpmで振盪しながら28℃で培養した。なお、AM−1培地
による培養開始から0時間、24時間、48時間、72時間、96時間、120時間およ
び168時間の時点で、0.5mLずつ培養物を採取した。
【0076】
得られた培養物を、内部標準(1−ナフトール)を含有する溶出液A〔アセトニトリル
/テトラヒドロフラン/蒸留水(容量比)=40.6/17.4/42.0〕で10倍に
希釈し、試料を得た。
【0077】
得られた試料を、(株)島津製作所製、商品名:SHIMADZU SCL−6Aおよび
ナカライテスク(株)製、商品名:COSMOSIL(登録商標) 5C18−AR−II
Waters typeカラム(4.6mm×250mm、Code No.38145
−21)を用いて高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供し、トランス−2−デセ
ン酸およびその変換産物の存在を分析した。
【0078】
なお、HPLCは、カラム温度35℃および流速1mL/minで、溶出液A〔アセト
ニトリル/テトラヒドロフラン/蒸留水(容量比)=40.6/17.4/42.0〕に
よる15分間の溶出、溶出液B(アセトニトリル)による15分間の溶出、および前記溶
出液Aによる25分間の溶出を順に行なうことによって実施した。また、トランス−2−
デセン酸およびその変換産物を215nmの波長で検出した。各試料を分析した結果の一
部を表1に示す。
【0079】
表1には、10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸に対応するピーク面積(保持時
間3.2分間)から算出された、試料中における10−ヒドロキシ−トランス−2−デセ
ン酸量が示されている。
【0080】
表1中の「−」はピークなし(試料中に10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸が
検出されず)、「+」は試料中の10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸量が0質量
ppmを超え20質量ppm未満、「++」は試料中の10−ヒドロキシ−トランス−2
−デセン酸量が20質量ppm以上であることを示す。
【0081】
【表1】


【0082】
表1に示された結果から、前記AM−1培地を用いることにより、前記培地中に含まれ
るトランス−2−デセン酸を10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸に変換する微生
物を選別することができることがわかる。また、表1に示されるように、選別された微生
物のなかでも特にKU83株は、他の供試微生物と対比して、より高い効率でトランス−
2−デセン酸を10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸に変換することができること
がわかる。
【0083】
次に、前記KU83株の培養物中におけるトランス−2−デセン酸量および10−ヒド
ロキシ−トランス−2−デセン酸量の経時的変化を調べた。それらのうち、10−ヒドロ
キシ−トランス−2−デセン酸量の経時的変化を図1に示す。
【0084】
図1に示されるように、培養物中における10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸
量は、AM−1培地による培養開始から約24時間経過後に最も多くなることがわかる。
【0085】
なお、KU83株によるトランス−2−デセン酸から10−ヒドロキシ−トランス−2
−デセン酸へのモル変換率は、AM−1培地による培養開始から24時間の時点で35%
であった。
【0086】
表1に示される供試微生物のうち、KU83株およびKU84株は、カンジダ マルト
ーザ(Candida maltosa)〔カンジダ マルトーザ(Candida m
altosa) IAM 12247株、カンジダ マルトーザ(Candida ma
ltosa) IAM 12248株〕である。KU123株は、カンジダ スクシフィ
ラ(Candida succiphila)〔カンジダ スクシフィラ(Candid
a succiphila) IAM 12485株〕である。KU110株は、カンジ
ダ ピグナリエ(Candida pignaliae)〔カンジダ ピグナリエ(Ca
ndida pignaliae) IAM 12906株〕である。KU103株は、
カンジダ ニトラトフィラ(Candida nitratophila)〔カンジダ
ニトラトフィラ(Candida nitratophila) IAM 12883株
〕である。KU129株は、ヤロウイア リポリチカ(Yarrowia lipoly
tica)〔ヤロウイア リポリチカ(Yarrowia lipolytica) A
TCC 20460株〕である。
【0087】
前記IAM株の微生物は、東京大学分子細胞生物学研究所 細胞機能情報研究センター
(IAM)から入手しうる微生物である。前記ATCC株の微生物は、アメリカンタイプ
カルチャーコレクション(ATCC)から入手しうる微生物である。また、前記カンジダ
マルトーザ(Candida maltosa) IAM 12247株は、Cand
ida maltosa KU83株と命名・表示され、受託日:2006年10月4日
、受託番号:NITE P-266として、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微
生物寄託センター〔日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8(郵便番号:292−0
818)〕に寄託されている。
【0088】
(比較例1)
実施例1において、AM−1培地の代わりに2DA−1培地〔培地(1000mL)の
組成:イーストナイトロジェンベース(ベクトン、ディッキンソン・アンド・カンパニー
社製)0.67質量%、塩化アンモニウム0.5質量%、ポリ(オキシエチレン)スルビ
タンモノオレエート〔商品名:Tween(登録商標)80〕0.02質量%、トランス
−2−デセン酸0.1質量%、蒸留水(残部)、pH6.8〕を用いたことを除き、実施
例1と同様にして、供試微生物の培養物中のトランス−2−デセン酸およびその変換産物
の存在を分析した。
【0089】
その結果、いずれの試料からもトランス−2−デセン酸の変換産物である10−ヒドロ
キシ−トランス−2−デセン酸が検出されなかった。この結果から、前記供試微生物に2
DA−1培地を用いた場合には、トランス−2−デセン酸を10−ヒドロキシ−トランス
−2−デセン酸に変換することができる微生物の選別が困難であることが示唆される。
【0090】
(比較例2)
実施例1において、AM−1培地の代わりに2DA−2培地〔培地(1000mL)中
の組成:イーストナイトロジェンベース(ベクトン、ディッキンソン・アンド・カンパニ
ー社製)0.67質量%、塩化アンモニウム0.5質量%、トランス−2−デセン酸0.
1質量%、蒸留水(残部)、pH6.8〕を用いたことを除き、実施例1と同様にして、
供試微生物の培養物中のトランス−2−デセン酸およびその変換産物の存在を分析した。
【0091】
その結果、トランス−2−デセン酸の変換産物である10−ヒドロキシ−トランス−2
−デセン酸は、いずれの試料中にも検出されなかった。この結果から、前記供試微生物を
培養する際に2DA−2培地を用いた場合には、トランス−2−デセン酸を10−ヒドロ
キシ−トランス−2−デセン酸に変換することができる微生物の選別が困難であることが
示唆される。
【0092】
(比較例3)
実施例1において、AM−1培地の代わりにEL培地〔培地(1000mL)中の組成
:KH2PO4 0.8質量%、塩化ナトリウム0.1質量%、MgSO4・7H2O 0.
1質量%、酵母エキス0.05質量%、ポリペプトン0.015質量%、尿素0.15質
量%、MnCl2・4H2O 0.0001質量%、FeSO4・7H2O 0.0001質
量%、ZnSO4・7H2O 0.0001質量%、トランス−2−デセン酸0.1質量%
、蒸留水(残部)、pH6.8〕を用いたことを除き、実施例1と同様にして、供試微生
物の培養物中のトランス−2−デセン酸およびその変換産物の存在を分析した。
【0093】
その結果、トランス−2−デセン酸の変換産物である10−ヒドロキシ−トランス−2
−デセン酸は、いずれの試料中にも検出されなかった。この結果から、前記供試微生物の
培養に際し、EL培地を用いた場合には、トランス−2−デセン酸を10−ヒドロキシ−
トランス−2−デセン酸に変換することができる微生物の選別が困難であることが示唆さ
れる。
【0094】
(試験例1)
KU83株を前記YM寒天培地に塗布し、28℃で48時間培養した。その後、このY
M寒天培地からKU83株の細胞を回収した。得られた細胞を滅菌生理食塩水に懸濁し、
OD660が1.0であるKU83株懸濁液を得た。
【0095】
また、前記AM−1培地中のKH2PO4濃度が0質量%(実験番号1)、0.05質量
%(実験番号2)、0.1質量%(実験番号3)、0.15質量%(実験番号4)、0.
2質量%(実験番号5)または0.3質量%(実験番号6)となるように調整された変換
培地を作製した。
【0096】
前記KU83株懸濁液0.1mLを実験番号1〜6の各変換培地4.9mLに添加した
。その後、微生物細胞を140rpmで振盪しながら28℃で培養した。なお、培養開始
から0時間、24時間、48時間、72時間、96時間および120時間の時点で、各変
換培地から培養物0.5mLを採取した。各時点で得られた培養物について、pHおよび
OD660を測定した。
【0097】
また、内部標準(1−ナフトール)を含有する溶出液A(アセトニトリル/テトラヒド
ロフラン/蒸留水(容量比)=40.6/17.4/42.0)で前記培養物を10倍希
釈し、試料を得た。得られた試料を、(株)島津製作所製、商品名:SHIMADZU S
CL−6Aおよびナカライテスク(株)製、商品名:COSMOSIL(登録商標) 5C
18−AR−II Waters typeカラム(4.6mm×250mm、Code
No.38145−21)を用いてHPLCに供し、トランス−2−デセン酸およびその
変換産物の存在を分析した。
【0098】
なお、HPLCは、カラム温度35℃、流速1mL/minで、溶出液A(アセトニト
リル/テトラヒドロフラン/蒸留水(容量比)=40.6/17.4/42.0)による
15分間の溶出、溶出液C(アセトニトリル/テトラヒドロフラン(容量比)=40.6
/17.4)による15分間の溶出、および前記溶出液Aによる25分間の溶出を順に行
なうことにより実施した。また、トランス−2−デセン酸および10−ヒドロキシ−トラ
ンス−2−デセン酸の検出は、波長215nmで行なった。10−ヒドロキシ−トランス
−2−デセン酸に対応するピーク面積(保持時間3.2分間)より、試料中における10
−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸量を算出した。また、トランス−2−デセン酸に
対応するピーク面積(保持時間9.1分間)より、試料中におけるトランス−2−デセン
酸量を算出した。
【0099】
各KH2PO4濃度における培地のpH、OD660、トランス−2−デセン酸量および1
0−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸量の経時的変化を調べた。その結果をそれぞれ
順に図2のパネル(A)〜(D)に示す。
【0100】
図2中の黒丸、黒四角、黒三角、白丸、白四角および白三角は、それぞれ順に、培地中
のKH2PO4濃度が0質量%(実験番号1)、0.05質量%(実験番号2)、0.1質
量%(実験番号3)、0.15質量%(実験番号4)、0.2質量%(実験番号5)およ
び0.3質量%(実験番号6)における測定結果を示す。
【0101】
図2のパネル(B)および(C)に示されるように、培養初期にODが増加すると、K
U83株によって培地中のトランス−2−デセン酸がより多く消費されることがわかる。
より具体的には、図2のパネル(B)および(C)に示されるように、KH2PO4濃度が
0質量%の場合、培養開始から24時間の時点で、KH2PO4濃度が0.05質量%の場
合、培養開始から48時間の時点で、また、KH2PO4濃度が0.1質量%の場合、培養
開始から72時間の時点で、それぞれトランス−2−デセン酸量が0質量%(0質量pp
m)となることがわかる。
【0102】
特に、図2のパネル(B)、(C)および(D)に示されるように、KU83株は、K
2PO4濃度が0.1質量%の場合、ODの上昇、すなわち菌の増殖とともにトランス−
2−デセン酸が消費される傾向があり、培養開始から48時間の時点で、培地中で約0.
0124質量%(124質量ppm)の10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸を生
産することがわかる。また、図2のパネル(A)および(B)に示されるように、ODが
上昇するとpHが7.0以上に上昇し、その後、pHは6.9〜7.2の範囲で推移する
ことがわかる。
【0103】
これらの結果より、培地中におけるKH2PO4濃度は、0.1質量%前後が好適である
ことがわかる。
【0104】
(試験例2)
試験例1において、AM−1培地中のKH2PO4濃度が0.2質量%、Na2HPO4
度が0質量%(実験番号7)、0.05質量%(実験番号8)、0.1質量%(実験番号
9)、0.15質量%(実験番号10)、0.2質量%(実験番号11)または0.3質
量%(実験番号12)となるように調整し、変換培地を作製したことを除き、試験例1と
同様にして、各Na2HPO4濃度における培地のpH、OD660、トランス−2−デセン
酸量および10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸量の経時的変化を調べた。その結
果を図3に示す。
【0105】
図3において、パネル(A)〜(D)は、それぞれ順に、各Na2HPO4濃度における
培地のpH、OD660、トランス−2−デセン酸量および10−ヒドロキシ−トランス−
2−デセン酸量の経時的変化の測定結果を示す。
【0106】
図3中の黒丸、黒四角、黒三角、白丸、白四角および白三角は、それぞれ順に、培地中
のNa2HPO4濃度が0質量%(実験番号7)、0.05質量%(実験番号8)、0.1
質量%(実験番号9)、0.15質量%(実験番号10)、0.2質量%(実験番号11
)および0.3質量%(実験番号12)であるときの測定結果を示す。
【0107】
図3のパネル(A)および(B)に示されるように、pHが約6.0以下の場合、KU
83株の生育が阻害される傾向があることがわかる。また、図3のパネル(A)、(B)
および(C)に示されるように、培養初期にODが増加すると、KU83株によって、培
地中のトランス−2−デセン酸がより多く消費される傾向があり、pHが6.6〜6.9
の範囲で推移することがわかる。また、図3のパネル(D)に示されるように、Na2
PO4濃度が0.3質量%の場合、KU83株は、培養開始から72時間の時点で、培地
中で約0.0174質量%(174質量ppm)の10−ヒドロキシ−トランス−2−デ
セン酸を生産することがわかる。これらの結果から、培地中のNa2HPO4濃度は、0.
3質量%前後が好適であることが示唆される。
【0108】
(試験例3)
試験例1において、AM−1培地中のKH2PO4濃度およびNa2HPO4濃度の組み合
わせを、「0.1質量%および0.3質量%」(実験番号13)、「0.1質量%および
0.4質量%」(実験番号14)、「0.2質量%および0.2質量%」(実験番号15
)、「0.2質量%および0.3質量%」(実験番号16)、「0.2質量%および0.
4質量%」(実験番号17)または「0.2質量%および0.5質量%」(実験番号18
)となるように調整して変換培地を作製したことを除き、試験例1と同様にしてKH2
4濃度およびNa2HPO4濃度の各組み合わせにおける培地のpH、OD660、トランス
−2−デセン酸量および10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸量の経時的変化を調
べた。その結果を図4に示す。
【0109】
図4において、パネル(A)〜(D)は、それぞれ順に、KH2PO4濃度およびNa2
HPO4濃度の各組み合わせにおける培地のpH、OD660、トランス−2−デセン酸量お
よび10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸量の経時的変化の測定結果を示す。
【0110】
図4中の黒丸、黒四角、黒三角、白丸、白四角および白三角は、それぞれ順に、培地中
のKH2PO4濃度およびNa2HPO4濃度の組み合わせがそれぞれ「0.1質量%および
0.3質量%」(実験番号13)、「0.1質量%および0.4質量%」(実験番号14
)、「0.2質量%および0.2質量%」(実験番号15)、「0.2質量%および0.
3質量%」(実験番号16)、「0.2質量%および0.4質量%」(実験番号17)な
らびに「0.2質量%および0.5質量%」(実験番号18)であるときの測定結果を示
す。
【0111】
図4のパネル(A)〜(C)に示されるように、高いpH条件になるほど、KU83株
によってトランス−2−デセン酸がより多く消費され、かつODが高くなることがわかる
。また、図4のパネル(A)、(B)および(D)に示されるように、pHが6.6〜7
.2である場合、10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸がKU83株によってより
多く生産される傾向があることがわかる。一方、培地中のKH2PO4濃度およびNa2
PO4濃度の組み合わせが「0.2質量%および0.2質量%」である場合、pHが6.
5である条件下であっても、KU83株によって培地中で最大で約0.0224質量%(
224質量ppm)の10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸が生産されることがわ
かる。
【0112】
これらの結果から、培地中におけるKH2PO4濃度/Na2HPO4濃度の比(質量比)
が1/3〜2/5であることが好適であることがわかる。
【0113】
(試験例4)
試験例1において、AM−1培地中のKH2PO4濃度を0.2質量%に、Na2HPO4
濃度を0.35質量%に、酵母エキス濃度を0質量%(実験番号19)、0.025質量
%(実験番号20)、0.05質量%(実験番号21)、0.075質量%(実験番号2
2)、0.1質量%(実験番号23)または0.2質量%(実験番号24)に調整して変
換培地を作製したことを除き、試験例1と同様にして各酵母エキス濃度における培地のp
H、OD660、トランス−2−デセン酸量および10−ヒドロキシ−トランス−2−デセ
ン酸量の経時的変化を調べた。その結果を図5に示す。
【0114】
図5において、パネル(A)〜(D)は、それぞれ順に、各酵母エキス濃度における培
地のpH、OD660、トランス−2−デセン酸量および10−ヒドロキシ−トランス−2
−デセン酸量の経時的変化の測定結果を示す。
【0115】
図5中の黒丸、黒四角、黒三角、白丸、白四角および白三角は、それぞれ順に、培地中
の酵母エキス濃度が0質量%(実験番号19)、0.025質量%(実験番号20)、0
.05質量%(実験番号21)、0.075質量%(実験番号22)、0.1質量%(実
験番号23)および0.2質量%(実験番号24)であるときの測定結果を示す。
【0116】
図5のパネル(A)に示されるように、培地のpHは、6.6〜7.2の範囲で推移す
ることがわかる。また、図5のパネル(B)および(C)に示されるように、酵母エキス
濃度が0.05質量%、0.075質量%または0.1質量%であるとき、培養開始から
48時間の時点からトランス−2−デセン酸がKU83株によって消費されはじめ、OD
も増加する傾向があることがわかる。さらに、酵母エキス濃度が0.025質量%または
0.2質量%であるとき、培養開始から72時間の時点から、トランス−2−デセン酸が
KU83株によって消費されはじめ、ODも増加する傾向があることがわかる。
【0117】
なかでもパネル(D)に示されるように、酵母エキス濃度が0.1質量%であるとき、
培養開始から96時間の時点で10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸の生産量が最
大となり、培地中で約0.0266質量%(266質量ppm)の10−ヒドロキシ−ト
ランス−2−デセン酸が生産されることがわかる。これらの結果から、培地中における酵
母エキス濃度は、0.025質量%以上、好ましくは0.1質量%前後であることが好適
であることが示唆される。
【0118】
(試験例5)
試験例1において、AM−1培地中のKH2PO4濃度を0.2質量%、Na2HPO4
度を0.35質量%に、酵母エキス濃度を0.1質量%に、ポリペプトン濃度を0質量%
(実験番号25)、0.005質量%(実験番号26)、0.01質量%(実験番号27
)、0.015質量%(実験番号28)、0.02質量%(実験番号29)または0.0
3質量%(実験番号30)に調整して変換培地を作製したことを除き、試験例1と同様に
して各ポリペプトン濃度における培地のpH、OD660、トランス−2−デセン酸量およ
び10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸量の経時的変化を調べた。その結果を図6
に示す。
【0119】
図6において、パネル(A)〜(D)は、それぞれ順に、各ポリペプトン濃度における
培地のpH、OD660、トランス−2−デセン酸量および10−ヒドロキシ−トランス−
2−デセン酸量の経時的変化の測定結果を示す。
【0120】
図6中の黒丸、黒四角、黒三角、白丸、白四角および白三角は、それぞれ順に、培地中
のポリペプトン濃度が0質量%(実験番号25)、0.005質量%(実験番号26)、
0.01質量%(実験番号27)、0.015質量%(実験番号28)、0.02質量%
(実験番号29)および0.03質量%(実験番号30)であるときの測定結果を示す。
【0121】
図6のパネル(A)〜(D)に示されるように、培地中のポリペプトン濃度が0質量%
であるとき、培養開始から48時間の時点で、10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン
酸の生産量が最大となり、約194質量ppmの10−ヒドロキシ−トランス−2−デセ
ン酸が生産されることがわかる。これらの結果から、10−ヒドロキシ−トランス−2−
デセン酸の生産には、ポリペプトンが用いられなくてもよいことが示唆される。
【0122】
(試験例6)
実施例1で用いた各試料について、変換培地〔培地(1000mL)中の組成:KH2
PO4 0.2質量%、Na2HPO4 0.35質量%、MgSO4・7H2O 0.05
質量%、酵母エキス(ベクトン、ディッキンソン・アンド・カンパニー社製)0.025
質量%、ポリペプトン〔日本製薬(株)製〕0.025質量%、尿素0.3質量%、MnC
2・4H2O 0.002質量%、FeSO4・7H2O 0.002質量%、ZnSO4
・7H2O 0.002質量%、トランス−2−デセン酸〔東京化成工業(株)製〕0.1
質量%、蒸留水(残部)、pH6.9〕を用いたことを除き、実施例1と同様にしてトラ
ンス−2−デセン酸およびその変換産物の存在を分析した。
【0123】
その結果、用いられた試料のうち、KU83株、KU123株およびKU129株のそ
れぞれの培養上清から10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸が特に顕著に検出され
、各培養上清には、それぞれ350質量ppm、140質量ppmおよび140質量pp
mの10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸が含まれていた。このことから、KU8
3株、KU123株およびKU129株を用いた場合には、より高い効率でトランス−2
−デセン酸から10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸を得ることができることがわ
かる。
【0124】
なお、KU129株は、ヤロウイア リポリチカ ATCC20460株として容易に
入手しうる株である。
【0125】
(実施例2)
KU83株を前記YM寒天培地に塗布し、28℃で48時間培養した。その後、前記培
地から微生物細胞を回収した。得られた微生物細胞を滅菌生理食塩水に懸濁し、OD660
が100である供試微生物懸濁液を得た。
【0126】
次に、前記供試微生物懸濁液1mLを変換培地{培地(1000mL)中の組成:KH
2PO4 0.2質量%、Na2HPO4 0.35質量%、MgSO4・7H2O 0.05
質量%、酵母エキス〔ベクトン、ディッキンソン・アンド・カンパニー社製〕0.025
質量%、ポリペプトン〔日本製薬(株)製〕0.025質量%、尿素0.3質量%、MnC
2・4H2O 0.002質量%、FeSO4・7H2O 0.002質量%、ZnSO4
・7H2O 0.002質量%、トランス−2−デセン酸〔東京化成工業(株)製〕0.1
質量%、蒸留水(残部)、pH6.9}100mLに添加した。その後、微生物細胞を1
40rpmで振盪しながら28℃で、24〜48時間培養した。
【0127】
得られた培養物を、内部標準(1−ナフトール)を含有する溶出液A〔アセトニトリル
/テトラヒドロフラン/蒸留水(容量比)=40.6/17.4/42.0〕で10倍に
希釈し、試料を得た。得られた試料を(株)島津製作所製、商品名:SHIMADZU S
CL−6Aおよびナカライテスク(株)製、商品名:COSMOSIL(登録商標) 5C
18−AR−II Waters typeカラム(4.6mm×250mm、Code
No.38145−21)を用いてHPLCに供した。
【0128】
なお、HPLCは、カラム温度35℃で、溶出液A〔アセトニトリル/テトラヒドロフ
ラン/蒸留水(容量比)=40.6/17.4/42.0〕による15分間の溶出、溶出
液B(アセトニトリル)による15分間の溶出、および前記溶出液Aによる25分間の溶
出をそれぞれ流速1mL/minで順に行なうことによって実施した。また、トランス−
2−デセン酸および10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸の検出は、波長215n
mで行なった。
【0129】
反応液にクロロホルムを添加し、振盪してクロロホルム層を回収した。減圧乾固してク
ロロホルムを除去した後、残渣を溶出液Aに溶解した。得られた試料を(株)日立製作所製
、商品名:D−2000HPLCおよびナカライテスク(株)製、商品名:COSMOSI
L(登録商標) 5C18−AR−II Waters typeカラム〔10.0×25
0mm、Code No.38149−81〕を用いてHPLCに供し、保持時間3.2
分間で溶出される画分を分取した。
【0130】
その後、分取した画分を減圧乾固することによって得られた物質をGC−MS分析、1
H−NMR分析、13C−NMR分析およびIR分析に供した。なお、GC−MS分析に際
して、三フッ化ホウ素メタノール錯体のメタノール溶液により、前記物質をメチルエステ
ル化させた。GC−MS分析の結果を図7に示す。
【0131】
得られた物質は、以下の物性を有していることから、10−ヒドロキシ−トランス−2
−デセン酸であることが確認された。
【0132】
1H−NMR(CDCl3)δ(質量ppm):1.33(2H,s,C6〜C8),1.
48(2H,m,C5),1.56(2H,m,C9),2.23(2H,d,J=7.
0Hz,C4),2.27(1H,s,OH),3.65(2H,t,J=7.0Hz,
C10),5.82(1H,d,J=16.0Hz,C2),7.10(1H,m,C3
),11.0(1H,s,OH)
【0133】
13C−NMR(CDCl3)δ(質量ppm):25.6(C8),27.8(C5),2
9.0(C6),29.1(C7),32.2(C9),32.6(C4),63.0(
C10),76.5〜77.4(CHCl3),120.5(C2),152.1(C3
),171.1(C1)
【0134】
IR(液膜法):1652.9cm-1(trans−CH=CH−),1695.3,2
931.6cm-1(−COOH),3394.5cm-1(−CH−OH)
【0135】
GC−MS:分子イオンピークは検出されなかったが、168、113および59m/z
にフラグメントピークが検出された。
【0136】
(試験例7)
YM培地〔組成:酵母エキス0.3質量%、麦芽エキス0.3質量%、ポリペプトン0
.5質量%、グルコース1.0質量%、蒸留水(残部)、pH6.2〕を用いて28℃の
温度で48時間、KU株の前培養を行なった。得られた培養物を遠心分離に供し、菌体を
回収した。得られた菌体を滅菌生理食塩水に懸濁し、OD660が100である懸濁液を得
た。
【0137】
次に、得られた懸濁液1mLを各種濃度でグルコースを含有する変換培地〔培地(10
00mL)中の組成:トランス−2−デセン酸〔東京化成工業(株)製〕0.1質量%、グ
ルコース1質量%(実験番号31)、2質量%(実験番号32)または3質量%(実験番
号33)、KH2PO4 0.2質量%、Na2HPO4 0.35質量%、MgSO4・7
2O 0.05質量%、酵母エキス〔ベクトン、ディッキンソン・アンド・カンパニー
社製〕0.025質量%、ポリペプトン〔日本製薬(株)製〕0.025質量%、尿素0.
3質量%、MnCl2・4H2O 0.002質量%、FeSO4・7H2O 0.002質
量%、ZnSO4・7H2O 0.002質量%、蒸留水(残部)、pH6.9〕 100
mLに添加した。その後、微生物細胞を140rpmで振盪しながら28℃で培養した。
【0138】
次に、試験例1と同様にして各グルコース濃度における培地のpH、OD660、トラン
ス−2−デセン酸量および10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸量の経時的変化を
調べた。その結果を図8に示す。
【0139】
図8において、パネル(A)〜(D)は、それぞれ順に、各グルコース濃度における培
地のpH、OD660、トランス−2−デセン酸量および10−ヒドロキシ−トランス−2
−デセン酸量の経時的変化の測定結果を示す。
【0140】
また、図8中の黒丸、黒四角および黒三角は、変換培地中のグルコース濃度が、それぞ
れ順に、1質量%(実験番号31)、2質量%(実験番号32)および3質量%(実験番
号33)であるときの測定結果を示す。
【0141】
図8の黒三角(実験番号33)に示されるように、YM培地で前培養した菌を、3質量
%グルコースを含有する変換培地で培養を行なった場合、より早くトランス−2−デセン
酸を10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸に変換することができることがわかる。
【0142】
(試験例8)
試験例7において、YM培地の代わりに中鎖の炭化水素であるドデカンを含有する培地
(前培養ドデカン培地)〔組成:ドデカン1質量%、ポリペプトン0.5質量%、酵母エ
キス0.3質量%、蒸留水(残部)、pH6.2〕で前培養したことを除き、試験例7と
同様にして培養を行ない、培地のpH、OD660、トランス−2−デセン酸量および10
−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸量の経時的変化を調べた。その結果を図9に示す

【0143】
図9において、パネル(A)〜(D)は、それぞれ順に、培地のpH、OD660、トラ
ンス−2−デセン酸量および10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸量の経時的変化
の測定結果を示す。
【0144】
図9中の黒丸、黒四角および黒三角は、それぞれ順に、培地中のグルコース濃度が1質
量%(実験番号34)、2質量%(実験番号35)および3質量%(実験番号36)であ
るときの測定結果を示す。
【0145】
図9に示された結果から、前培養ドデカン培地で前培養した場合、効率よくトランス−
2−デセン酸を10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸に変換することがわかる。ま
た、実験番号36の結果に示されるように、前培養ドデカン培地で前培養することによっ
て得られた菌体を、3質量%グルコースを含有する変換培地で培養すると、より一層早く
トランス−2−デセン酸を10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸に変換することが
できることがわかる。
【0146】
(試験例9)
ドデカン培地〔ドデカン1質量%、ポリペプトン0.5質量%、酵母エキス0.3質量
%〕を用いて28℃の温度で48時間、KU83株の前培養を行なった。得られた培養物
を遠心分離に供し、菌体を回収した。得られた菌体を滅菌生理食塩水に懸濁し、OD660
が100である懸濁液を得た。
【0147】
次に、得られた懸濁液1mLを、トランス−2−デセン酸無添加グルコース含有培地〔
培地(1000mL)中の組成:グルコース3質量%、KH2PO4 0.2質量%、Na
2HPO4 0.35質量%、MgSO4・7H2O 0.05質量%、酵母エキス(ベクト
ン、ディッキンソン・アンド・カンパニー社製)0.025質量%、ポリペプトン〔日本
製薬(株)製〕0.025質量%、尿素0.3質量%、MnCl2・4H2O 0.002質
量%、FeSO4・7H2O 0.002質量%、ZnSO4・7H2O 0.002質量%
、蒸留水(残部)、pH6.9〕、または3、5もしくは7.5質量%グルコースを含有
する変換培地〔培地(1000mL)中の組成:トランス−2−デセン酸〔東京化成工業
(株)製〕0.1質量%、グルコース3質量%、5質量%または7.5質量%、KH2PO4
0.2質量%、Na2HPO4 0.35質量%、MgSO4・7H2O 0.05質量%
、酵母エキス(ベクトン、ディッキンソン・アンド・カンパニー社製)0.025質量%
、ポリペプトン〔日本製薬(株)製〕0.025質量%、尿素0.3質量%、MnCl2
4H2O 0.002質量%、FeSO4・7H2O 0.002質量%、ZnSO4・7H
2O 0.002質量%、蒸留水(残部)、pH6.9〕100mLに添加した。その後
、微生物細胞を140rpmで振盪しながら28℃で培養した。
【0148】
次に、試験例1と同様にして培地のpH、OD660、トランス−2−デセン酸量および
10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸量の経時的変化を調べた。その結果を図10
に示す。
【0149】
図10において、パネル〜(D)は、それぞれ順に、培地のpH、OD660、トランス
−2−デセン酸量および10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸量の経時的変化の測
定結果を示す。
【0150】
図10中の黒丸、黒四角、黒三角、および白丸は、それぞれ順に、トランス−2−デセ
ン酸無添加・3質量%グルコース含有培地(実験番号37)、3質量%グルコースを含有
する変換培地(実験番号38)、5質量%グルコースを含有する変換培地(実験番号39
)および7.5質量%グルコースを含有する変換培地(実験番号40)であるときの測定
結果を示す。
【0151】
図10に示された結果から、さらにドデカン培地で前培養した菌を3〜7.5質量%グ
ルコースを含有する変換培地で培養した場合、トランス−2−デセン酸を10−ヒドロキ
シ−トランス−2−デセン酸に効率よく変換することができることがわかる。また、7.
5質量%グルコースを含有する変換培地で培養した場合、10−ヒドロキシ−トランス−
2−デセン酸がより効率よく得られることがわかる。
【0152】
(参考例1)
寒天平板希釈法にしたがって、カンジダ マルトーザ(Candida maltos
a)KU83株に対するトランス−2−デセン酸および10−ヒドロキシ−トランス−2
−デセン酸それぞれの最小発育阻止濃度を調べた。その結果を表2に示す。
【0153】
【表2】


【0154】
表2に示されているように、トランス−2−デセン酸および10−ヒドロキシ−トラン
ス−2−デセン酸の最小発育阻止濃度は、それぞれ5.9mMおよび6.7mMであるこ
とがわかる。この結果より、トランス−2−デセン酸から10−ヒドロキシ−トランス−
2−デセン酸に変換するに際して、培地中におけるトランス−2−デセン酸の濃度が5.
9mM以上である場合には、カンジダ マルトーザ(Candida maltosa)
KU83株によるトランス−2−デセン酸から10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン
酸への変換効率が低下する可能性が示唆される。
【0155】
(実施例3)
カンジダ マルトーザ(Candida maltosa)KU83株に対する種々の
トランス−2−デセン酸アルキルエステルの最小発育阻止濃度を調べ、トランス−2−デ
セン酸よりも最小発育阻止濃度が高く、抗菌活性が低いトランス−2−デセン酸アルキル
エステルをスクリーニングした。
【0156】
その結果、トランス−2−デセン酸エチルエステルが、カンジダ マルトーザ(Can
dida maltosa)KU83株に対して、50mMを超える最小発育阻止濃度を
示し、トランス−2−デセン酸と比べて抗菌活性が著しく低いことが確認された。この結
果から、カンジダ マルトーザ(Candida maltosa)KU83株を培養す
る際に、トランス−2−デセン酸に代えてトランス−2−デセン酸エチルエステルを用い
ることにより、10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸エステルを高い効率で製造す
ることができる可能性があることが示唆される。
【0157】
(実施例4)
カンジダ マルトーザ(Candida maltosa)KU83株をYM寒天培地
{培地(1000mL)の組成:ベクトン・ディッキンソン社製、商品名:YM bro
th 2.1g(2.1質量%)、寒天〔ナカライテスク(株)製〕15g(1.5質量
%)、蒸留水(残部)、pH6.2}で、28℃で24時間培養した。その後、前記培地
から微生物細胞を回収した。得られた微生物細胞を滅菌生理食塩水に懸濁し、OD660
100である供試微生物懸濁液を得た。
【0158】
次に、前記供試微生物懸濁液1mLをトランス−2−デセン酸エチルエステル変換培地
{培地(1000mL)中の組成:KH2PO4 0.2質量%、Na2HPO4 0.35
質量%、MgSO4・7H2O 0.05質量%、酵母エキス〔ベクトン、ディッキンソン
・アンド・カンパニー社製〕0.025質量%、ポリペプトン〔日本製薬(株)製〕0.0
25質量%、尿素0.3質量%、MnCl2・4H2O 0.002質量%、FeSO4
7H2O 0.002質量%、ZnSO4・7H2O 0.002質量%、トランス−2−
デセン酸エチルエステル〔東京化成工業(株)製〕35質量%(350000質量ppm
)、蒸留水(残部)、pH6.9}100mLに添加した。その後、微生物細胞を140
rpmで振盪しながら28℃で、48時間培養した。
【0159】
次に、得られた培養物の上清に、該上清に対して等量の酢酸エチルを添加した。得られ
た混合物を撹拌し、静置した後、得られた混合物から、酢酸エチル層の溶液を分取し、減
圧乾固した。得られた減圧乾固物をn−ヘキサン5mLに溶解させた。得られた溶液をシ
リカゲルカラムクロマトグラフィーに供した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーは、
シリカゲルカラム〔和光純薬(株)製、商品名:Wakogel C−200、22mm×
350mm〕を用い、カラム温度35℃で、溶出液D(n−ヘキサン)による1500分
間の溶出、溶出液E〔n−ヘキサン/酢酸エチル(容量比)=9/1〕による530分間
の溶出および溶出液F〔n−ヘキサン/酢酸エチル(容量比)=8/2〕による530分
間の溶出を順序で流速1mL/minで行なうことにより実施した。前記溶出液Fで溶出
された画分を回収し、減圧乾固した。
【0160】
その後、得られた乾固物を、アセトニトリル1mLに溶解させ、試料を得た。得られた
試料を(株)島津製作所製、商品名:SHIMADZU SCL−6Aおよびナカライテス
ク(株)製、商品名:COSMOSIL(登録商標) 5C18−AR−II Waters
typeカラム(4.6mm×250mm、Code No.38145−21)を用
いてHPLCに供した。なお、対照として、トランス−2−デセン酸エチルエステル変換
培地を用いて、前記と同様に、HPLCを行なった。
【0161】
HPLCは、カラム温度35℃で、溶出液A〔アセトニトリル/テトラヒドロフラン/
蒸留水(容量比)=40.6/17.4/42.0〕による15分間の溶出、溶出液B(
アセトニトリル)による15分間の溶出、および前記溶出液Aによる25分間の溶出をこ
の順序で流速1mL/minで行なうことにより実施した。溶出される画分は、波長21
0nmでモニターした。実施例4におけるHPLCのクロマトグラムを図11に示す。図
11中、パネル(A)は、対照のクロマトグラムであり、パネル(B)は、48時間培養
後の培養物から得られた画分のHPLCのクロマトグラムである。
【0162】
図11に示された結果から、前記トランス−2−デセン酸エチルエステル変換培地中で
、カンジダ マルトーザ(Candida maltosa)KU83株を培養すること
により、トランス−2−デセン酸エチルエステルに対応すると考えられるピーク1の保持
時間とは異なる保持時間8.9分間において、新たな単一のピークが出現することがわか
る。
【0163】
前記保持時間8.9分間の画分に含まれる物質のH−NMRを調べた。実施例4で得
られた画分に含まれる物質のH−NMRの測定結果を以下および図12に示す。
【0164】
H−NMR(CDCl)δ(質量ppm):1.33(2H,m,C1,C7〜C1
0),1.48(2H,m,C11),1.96(2H,m,C6),3.65(2H,
t,C12),4.23(2H,m,C2),5.83(1H,d,C4),6.92(
1H,m,C5)
【0165】
図12に示された結果から、保持時間8.9分間の画分に含まれる物質は、10−ヒド
ロキシ−トランス−2−デセン酸エチルエステルであることが確認された。
【0166】
また、図11および図12の結果から、カンジダ マルトーザ(Candida ma
ltosa)が、トランス−2−デセン酸エチルエステルを、10−ヒドロキシ−トラン
ス−2−デセン酸エチルエステルに変換することができることがわかる。
【0167】
(実施例5)
0.01M CaCl2を含有する0.05M 酢酸緩衝液(pH5.6)5.0mL
に、実施例4で得られた10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸エチルエステルを含
む画分(画分中における10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸エチルエステル含有
量:0.3質量%)1.0mLと、リパーゼ溶液(シグマ・アルドリッチ社製、商品名:
Lipase、187U/mL)0.1〜0.5mLを添加した。得られた混合物を50
0rpmで撹拌しながら30℃で、30分間保温した。その後、保温後の混合物にエタノ
ール20mLを添加した。得られた混合物を減圧濃縮することにより、エタノールを除去
した。エタノールを除去した後、この混合物に、該混合物と等量の酢酸エチルを添加した
。得られた混合物を撹拌し、静置した。静置後の混合物から、酢酸エチル層の溶液を分取
し、減圧乾固した。得られた乾固物を実施例4と同様にしてHPLCに供した。
【0168】
その結果、10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸の保持時間と同じ保持時間3.
1分間において、図11のピーク1およびピーク2とは異なる新たなピークが出現するこ
とが確認された。
【0169】
また、保持時間3.1分間におけるピークの画分に含まれる物質のH−NMRを調べ
た。その結果を以下に示す。
【0170】
1H−NMR(CDCl3)δ(質量ppm):1.33(2H,s,C6〜C8),1.
48(2H,m,C5),1.56(2H,m,C9),2.23(2H,d,J=7.
0Hz,C4),2.27(1H,s,OH),3.65(2H,t,J=7.0Hz,
C10),5.82(1H,d,J=16.0Hz,C2),7.10(1H,m,C3
),11.0(1H,s,OH)
【0171】
上記の結果から、前記物質が10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸であることが
確認された。
【0172】
また、上記の結果から、リパーゼにより、実施例4で得られた10−ヒドロキシ−トラ
ンス−2−デセン酸エチルエステルから10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸を製
造することができることがわかる。
【0173】
(実施例6)
実施例5で用いられたリパーゼ溶液(シグマ・アルドリッチ社製、商品名:Lipas
e)の代わりに、リパーゼ溶液(アマノエンザイム社製、商品名:Lipase PS)
を用いたこと以外は、実施例5と同様の操作を行なったところ、実施例5と同様に、10
−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸エチルエステルから10−ヒドロキシ−トランス
−2−デセン酸を得ることができた。
【0174】
以上の結果から、カンジダ マルトーザ(Candida maltosa)により、
トランス−2−デセン酸エチルエステルから変換された10−ヒドロキシ−トランス−2
−デセン酸エチルエステルに、10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸エチルエステ
ルのエステル結合を加水分解するリパーゼなどの酵素を作用させることにより、10−ヒ
ドロキシ−トランス−2−デセン酸を得ることができることがわかる。
【0175】
また、以上の結果から、本発明の不飽和脂肪酸誘導体の製造方法によれば、簡便な操作
で不飽和脂肪酸誘導体を製造することができ、不飽和脂肪酸化合物から不飽和脂肪酸誘導
体を高い効率で得ることができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1】実施例1において、培養物中における10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸量の経時的変化の測定結果を示すグラフである。
【図2】パネル(A)〜(D)は、それぞれ順に、試験例1において、各KH2PO4濃度における培地のpH、OD660、トランス−2−デセン酸量および10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸量の経時的変化の測定結果を示すグラフである。
【図3】パネル(A)〜(D)は、それぞれ順に、試験例2において、各Na2HPO4濃度における培地のpH、OD660、トランス−2−デセン酸量および10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸量の経時的変化の測定結果を示すグラフである。
【図4】パネル(A)〜(D)は、それぞれ順に、試験例3において、KH2PO4濃度およびNa2HPO4濃度の各組み合わせにおける培地のpH、OD660、トランス−2−デセン酸量および10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸量の経時的変化の測定結果を示すグラフである。
【図5】パネル(A)〜(D)は、それぞれ順に、試験例4において、各酵母エキス濃度における培地のpH、OD660、トランス−2−デセン酸量および10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸量の経時的変化の測定結果を示すグラフである。
【図6】パネル(A)〜(D)は、それぞれ順に、試験例5において、各ポリペプトン濃度における培地のpH、OD660、トランス−2−デセン酸量および10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸量の経時的変化の測定結果を示すグラフである。
【図7】実施例2におけるGC−MSの結果を示すグラフである。
【図8】パネル(A)〜(D)は、それぞれ順に、試験例7において、培地中の各グルコース濃度における培地のpH、OD660、トランス−2−デセン酸量および10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸量の経時的変化の測定結果を示すグラフである。
【図9】パネル(A)〜(D)は、それぞれ順に、試験例8において、培地のpH、OD660、トランス−2−デセン酸量および10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸量の経時的変化を示すグラフである。
【図10】パネル(A)〜(D)は、それぞれ順に、試験例9において、培地のpH、OD660、トランス−2−デセン酸量および10−ヒドロキシ−トランス−2−デセン酸量の経時的変化を示すグラフである。
【図11】パネル(A)は、実施例4における対照のクロマトグラムであり、パネル(B)は、実施例4において48時間培養後の培養物から得られた画分のHPLCのクロマトグラムである。
【図12】実施例4で得られた画分に含まれる物質のH−NMRの測定結果を示すチャートである。
【出願人】 【識別番号】801000061
【氏名又は名称】財団法人大阪産業振興機構
【出願日】 平成19年11月8日(2007.11.8)
【代理人】 【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所


【公開番号】 特開2008−136488(P2008−136488A)
【公開日】 平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願番号】 特願2007−291062(P2007−291062)