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【発明の名称】 キシロオリゴ糖の製造方法
【発明者】 【氏名】安住 尚也

【氏名】大渕 貴之

【要約】 【課題】高濃度のオリゴ糖液を得ること。また、廃棄物量が少なく安価に大量生産可能なキシロオリゴ糖の製造方法を提供すること。

【解決手段】キシラン含有セルロース材料を水性スラリー中でキシラナーゼ処理してキシロオリゴ糖を製造する方法において、キシラナーゼによりキシロオリゴ糖を溶出させる反応工程、セルロース材料とキシロオリゴ糖溶出液を分離する分離工程を有し、分離されたキシロオリゴ糖溶出液の一部を反応工程に戻し、残部を濃縮して、キシロオリゴ糖を得るキシロオリゴ糖の製造方法。キシラン含有セルロース材料として、セルロース系工業製品の製造工程における原料または中間製品を取り出して用い、分離工程で分離されたセルロース材料は、該セルロース系工業製品の製造工程に戻して使用されることが望ましい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キシラン含有セルロース材料を水性スラリー中でキシラナーゼ処理してキシロオリゴ糖を製造する方法において、キシラナーゼによりキシラン含有セルロース材料からキシロオリゴ糖を溶出させる反応工程、セルロース材料とキシロオリゴ糖溶出液を分離する分離工程を有し、分離されたキシロオリゴ糖溶出液の一部を反応工程に戻し、残部を濃縮して、キシロオリゴ糖を得ることを特徴とするキシロオリゴ糖の製造方法。
【請求項2】
キシラン含有セルロース材料として、セルロース系工業製品の製造工程における原料または中間製品を取り出して用い、分離工程で分離されたセルロース材料は、該セルロース系工業製品の製造工程に戻して使用されることを特徴とする、請求項1に記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
【請求項3】
キシラン含有セルロース材料が化学パルプである、請求項1または2に記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
【請求項4】
化学パルプが広葉樹クラフトパルプである、請求項3に記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
【請求項5】
化学パルプは、パルプ製造工場において漂白工程から採取し、前記分離工程で分離されたパルプを漂白工程に戻すことを特徴とする請求項3または4に記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
【請求項6】
前記キシロオリゴ糖溶出液を濃縮した濃縮液をpH2〜4、温度100〜170℃で1分〜120分加熱することによりキシロースの2量体〜15量体を含むキシロオリゴ糖混合組成物を得ることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、人や動物に整腸作用などの有用な作用をもたらすキシロオリゴ糖の製造方法に関する。特に、キシラン含有セルロース材料を酵素処理してキシロオリゴ糖を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オリゴ糖類は腸内有用細菌の選択的な増殖促進効果を通しておなかの調子を良好に保つ機能を有し、特定保健用食品として認定された乳酸菌飲料等に利用され、チョコレートなどの菓子類にも利用されている有用な糖類である。また、ヒトの食品用途だけではなく家畜の飼料としての用途もある。さらに、医薬、サニタリー製品の分野でも、乳化剤、皮膚保湿成分としての用途がある。
一般に、特定保健用食品に用いられるオリゴ糖類は、そのほとんどが整腸作用、即ち腸内悪玉菌である大腸菌や腸内腐敗発酵菌であるクロストリジウム属やオイバクテリウム属の菌の数を減らし、相対的に腸内善玉菌といわれるビフィズス菌を増加させる作用を持っている。いろいろあるオリゴ糖類の中でも、例えば、小麦フスマやコーンコブに由来するキシロオリゴ糖は有名である。キシロオリゴ糖の作用については、他のオリゴ糖と同様に腸内善玉菌のビフィズス菌の選択的増殖を促す一方で、腸内悪玉菌である大腸菌の数を相対的に低下させると言われている。大腸菌や腸内腐敗発酵菌は、腸内で増殖しながら発ガン性物質を生産することが知られていることから、大腸菌や腸内腐敗発酵菌の数を腸内で減らすことは長期にわたる健康を考えた場合に重要である(非特許文献1参照)。
【0003】
整腸作用を期待し、経口でオリゴ糖類を摂取した場合に関しては、胃酸や消化酵素の酸加水分解に起因するオリゴ糖の重合度の低下が大きな問題である。オリゴ糖は、酸や酵素による加水分解により徐々に低分子化し、最終的には大腸菌やクロストリジウム属に属する腐敗性嫌気性菌でも資化することが可能な単糖にまで分解されることが知られている。しかし、2量体や3量体を主成分とするキシロオリゴ糖組成物は、オリゴ糖の中でも胃酸に対する抵抗性が他のオリゴ糖に比べて比較的高く(特許文献1参照)、それほど分解されずに腸内に届けられる可能性が高い。
現在は、2量体や3量体よりずっと分子量の大きな5量体程度の平均重合度を有するキシロオリゴ糖(特許文献2参照)も製造可能である。また、本発明者らは平均重合度が12量体前後である長鎖キシロオリゴ糖も提案している(特許文献3参照)。鎖長が長いキシロオリゴ糖は腸内でも単糖であるキシロースには変換されにくく、より有効な整腸作用が期待される為、重合度の大きなキシロオリゴ糖の開発が望まれている。
更に本発明者らは、酸性キシロオリゴ糖組成物及びその製造方法(特許文献4参照)に関しても提案している。
【0004】
キシロオリゴ糖を製造する方法については、植物からキシランを抽出し、これを酵素処理する方法が代表的な方法である。
前記特許文献1では、コーンコブ、綿実殻、麦芽粕などからKOH溶液によりキシランを抽出し、ついで、トリコデルマ属由来のキシラナーゼで酵素処理することによりキシロオリゴ糖を得ている。
非特許文献2では、広葉樹あるいは針葉樹からキシランを抽出する方法として、木粉を脱リグニンした後、アルカリ抽出でキシランを得て、酵素処理によりキシロオリゴ糖を得る方法が記載されている。
【0005】
これらの方法は一旦キシランを抽出するもので、キシラン抽出残渣を処理しなければならないという問題があり、いずれの方法もキシラン抽出残渣の利用も含めた安価且つ大量生産可能なキシロオリゴ糖の製造方法を述べていない。
【特許文献1】特許第2549638号公報
【特許文献2】特開2001-226409号公報
【特許文献3】特開2003−48901号公報
【特許文献4】特開2003−183303号公報
【非特許文献1】金沢ら:大腸細菌叢-とくに胆汁酸代謝と大腸発癌について-(総合臨床,vol.26,1042〜1050(1977))
【非特許文献2】石原:木質系バイオマスからキシロオリゴ糖の製造(バイオインダストリー vol.18、No.12、P35〜44、2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在上市されているキシロオリゴ糖は、小麦フスマやコーンコブ等の草本類農産廃棄物を原料として製造されているが、キシロオリゴ糖抽出後の残繊維分等の有効利用はなされておらず、廃棄物処理の問題がある。また、酵素処理によりオリゴ糖を製造する際に、オリゴ糖の濃度が低く濃縮にエネルギーを要するという問題もある。本発明では高濃度のオリゴ糖液を得ることを課題とする。また、廃棄物量が少なく安価に大量生産可能なキシロオリゴ糖の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、キシラン含有セルロース材料のキシラナーゼ処理により生ずるキシロオリゴ糖に着目し、鋭意研究を重ねた結果、キシロオリゴ糖溶出液の一部を反応工程に戻すことによって高重合度且つ高濃度のキシロオリゴ糖を含む原料を回収し、同時に分離回収されるセルロース材料を再利用する方法を見出すことにより、大量且つ安価に高重合度のキシロオリゴ糖を製造する方法を開発にするに至った。
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の(1)〜(6)の構成を採用する。
(1)キシラン含有セルロース材料を水性スラリー中でキシラナーゼ処理してキシロオリゴ糖を製造する方法において、キシラナーゼによりキシラン含有セルロース材料からキシロオリゴ糖を溶出させる反応工程、セルロース材料とキシロオリゴ糖溶出液を分離する分離工程を有し、分離されたキシロオリゴ糖溶出液の一部を反応工程に戻し、残部を濃縮し、キシロオリゴ糖を得ることを特徴とするキシロオリゴ糖の製造方法。
(2) キシラン含有セルロース材料として、セルロース系工業製品の製造工程における原料または中間製品を取り出して用い、分離工程で分離されたセルロース材料は、該セルロース系工業製品の製造工程に戻して使用されることを特徴とする、(1)に記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
(3) キシラン含有セルロース材料が化学パルプである、(1)または(2)に記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
(4) 化学パルプが広葉樹クラフトパルプである、(3)に記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
(5) 化学パルプは、パルプ製造工場において漂白工程から採取し、前記分離工程で分離されたパルプを漂白工程に戻すことを特徴とする(3)または(4)に記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
(6) 前記キシロオリゴ糖溶出液を濃縮した濃縮液を、pH2〜4、温度100〜170℃で1分〜120分加熱することによりキシロースの2量体〜15量体を含むキシロオリゴ糖混合組成物を得ることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、重合度が高いという特徴を維持しながら反応濾液中のオリゴ糖濃度を高めることができ、結果として、オリゴ糖の製造効率を上げることができる。また、製造に費やすエネルギーを低減することができる。
更に、パルプ製造工程などからキシラン含有セルロース材料を取り出して利用する方式を取れば、草本類農産廃棄物を原料とするキシロオリゴ糖製造のように、残繊維分に代表される廃棄物が発生せず、環境負荷が少なく且つ廃棄物処理コストも殆ど発生しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の方法によりキシロオリゴ糖組成物を得ることができる原料としては、木本性植物、非木本性植物、あるいは、それらから作られた繊維状物質、粒状物質などであり、セルロースとキシランを含有するものである。以下、本発明では、キシラン含有セルロース材料と称する。木本性植物としては、針葉樹、広葉樹のいずれでも良い。非木本性植物としては、ケナフ、麻、綿、竹、バガス、イネ等のいずれでも良い。
繊維状物質あるいは粒状物質としては、製紙用パルプ、充填材用微細木粉・微細繊維、糸などであり、それらから形成された紙のようなシートでも良い。
【0011】
本発明に使用するキシラン含有セルロース材料は、セルロースを主たる構成要素とする工業製品の原料あるいは中間製品であることが好ましい。その理由は、キシラナーゼ処理によりキシロオリゴ糖を溶解させた後のセルロース材料を、そのまま工業製品材料として使用することにより廃棄物が発生しないという利点がある。上記原料や中間製品をキシラナーゼ処理するに際しては、その全部を処理しても良いが、一部を取り出して使用しても良い。
このような条件に当てはまるのは、例えば、製紙におけるパルプ製造工程、古紙処理工程などが挙げられ、また、糸の製造工程、微細粉末セルロースの製造工程、非木本植物繊維からの容器、網、簾などの製造工程、セルロース繊維食品の製造工程などが挙げられる。中でも製紙におけるパルプ製造工程が最も適しており、以下パルプの製造工程から、パルプの一部または全部をキシラナーゼ処理し、処理後のパルプは引き続き製紙工程で使用される場合を例に説明する。
【0012】
本発明に使用されるパルプは、化学パルプ、機械パルプ、脱墨パルプ等何でもよいが、広葉樹化学パルプが好ましい。化学パルプを得るための蒸解法としては、クラフト蒸解、ポリサルファイド蒸解、ソーダ蒸解、アルカリサルファイト蒸解等の公知の蒸解法を用いることができるが、パルプ品質、エネルギー効率等を考慮するとクラフト蒸解法が好適に用いられる。また更には、蒸解後の広葉樹クラフトパルプを酸素漂白したパルプがより好適に用いられる。酸素漂白されたパルプは遊離のリグニンが除去されており、キシラナーゼ処理によりキシロオリゴ糖が生成すると同時に、パルプに吸着していたリグニンとキシランの複合体が溶出し、これから更にキシロオリゴ糖が得られるためオリゴ糖収率が良くなるためである。特に広葉樹クラフトパルプを用いた場合、グルコース、アラビノースなどの構成糖がほとんどなく、キシロースがほぼ100%近いという特徴がある。
【0013】
本発明の反応工程で使用するキシラナーゼは、キシラナーゼ活性を含む酵素であればいずれも用いることができる。たとえば商品名カルタザイム(クラリアント社製)、パルプザイム(ノボノルディスク社製)、エコパルプ(ローム・エンザイム社製)、スミチーム(新日本化学工業社製)、マルチフェクトキシラナーゼ(ジェネンコア社製)、キシラナーゼコンク(アドバンスド・バイオケミカルス社製)などの市販の酵素製剤や、トリコデルマ属、テルモミセス属、オウレオバシヂウム属、ストレプトミセス属、アスペルギルス属、クロストリジウム属、バチルス属、テルモトガ属、テルモアスクス属、カルドセラム属、テルモモノスポラ属などの微生物により生産されるキシラナーゼを使用することができる。
【0014】
本発明においては、キシラン含有セルロースとしてパルプ製造工程中のパルプを用いるが、工程中の全部のパルプをキシラナーゼ処理するよりも、一部のパルプを取り出して処理することが好ましい。
即ち、パルプ製造の本流とは別ルートで、キシロオリゴ糖の製造を目的として必要最小量のパルプを処理するため、蒸解や酸素晒の工程で生じる種々の不純物を事前に洗い流すことが可能となる。このことによりキシラナーゼ処理後の反応液に残留する不純物量が減少し、精製負荷を低減できる。また、パルプ製造工程の反応条件による制約を受けないため、パルプ濃度、酵素添加量、反応pH、反応温度及び反応時間等、キシロオリゴ糖の溶出に最適な条件でキシラナーゼ処理が実施できるようになる。このため、パルプのキシラナーゼ処理条件を任意に変更することが可能となる。
【0015】
また、パルプに対する必要以上のキシラナーゼ処理は、パルプ中のヘミセルロース含量を低下させ、パルプ収量を低下させるため、パルプ製造工程中のキシラナーゼ処理液を出発原料としてキシロオリゴ糖を製造する場合、原料中のオリゴ糖濃度を高くできないという問題があった。本発明では、オリゴ糖生産量に合わせた必要最小量のパルプをパルプ製造工程より取り出して原料とすることができるため、パルプの収率低下を最小限に抑えながら、より効率的にキシロオリゴ糖を製造できるようになる。
【0016】
キシロオリゴ糖製造に使用するパルプをパルプ製造工程より抜き出す手段としては、低濃度のパルプであればポンプによるライン移送が可能であるし、高濃度のパルプであればベルトコンベア等の移送手段を用いることができるが、オリゴ糖製造に必要とする量のパルプを抜き出し移送することができれば、その手段は特に限定されない。
【0017】
キシロオリゴ糖精製時の負荷低減を目的としてパルプを洗浄し、微細な懸濁性不純物、リグニンおよび有機酸等の溶解性不純物を除く手段としては、たとえばドラムフィルターを用いて、パルプを希釈置換洗浄することが可能であるが、パルプを洗浄することができれば、いかなる装置も利用可能である。また、pH調整剤の添加、洗浄水の温度調整等、キシラナーゼの至適反応条件に合わせた洗浄水で置換洗浄を実施することにより、パルプのキシラナーゼ処理を実施する際の反応条件を事前に整えておくこともできる。
【0018】
パルプのキシラナーゼ処理を実施する反応装置に関しても、形状・形式共に、いかなる装置も利用可能である。中高濃度のパルプであれば、中濃度・高濃度パルプポンプあるいはスクリューフィーダー等を用いて円筒形の反応槽内へ押し込み移送し、キシラナーゼ処理に最適な滞留時間をもたせた後、オリゴ糖を含む反応液とキシラナーゼ処理後のパルプを押し出し回収すればよい。低濃度のパルプであれば、攪拌機を備えた反応槽内で攪拌しながらキシラナーゼ処理を実施し、キシロオリゴ糖の溶出に最適な平均滞留時間で反応させながら、オリゴ糖を含む反応液とキシラナーゼ処理済みのパルプを連続的に抜き出すこともできる。中・高濃度パルプをキシラナーゼ処理する場合は、スクリューミキサー等の混合機を用いて反応槽へ移送される前にパルプとキシラナーゼを均一に混和させておくのが良い。一方、低濃度パルプをキシラナーゼ処理する場合は、反応槽内にキシラナーゼを添加して、反応槽内でパルプとキシラナーゼを均一に混和することもできる。これらの反応槽は、キシラナーゼの至適反応温度を維持する為に温度調節用のジャケットや断熱材ケーシングを具備することが好ましい。
【0019】
パルプのキシラナーゼ処理によりキシロオリゴ糖を溶出させる工程では、パルプに対するキシラナーゼ添加量と反応時間を変更することにより、溶出させるキシロオリゴ糖の濃度やキシロオリゴ糖の重合度を変化させることが可能となる。一般に、キシラナーゼ添加量が多いほど、また反応時間が長いほどキシロオリゴ糖濃度は高くなり、且つキシロオリゴ糖の重合度は小さくなる。単にキシラナーゼの添加量を増やしたり、反応時間を長くしたりするだけでは、高濃度のキシロオリゴ糖を含む濾液は得ることができても、高重合度のキシロオリゴ糖を得ることはできない。キシラナーゼによって分解されて溶出した高重合度キシロオリゴ糖が更に分解され、キシロースやキシロビオース、キシロトリオースのような鎖長の短いオリゴ糖にまで過分解されてしまうからである。
高濃度・高重合度のキシロオリゴ糖を安定的に得るためには、キシロオリゴ糖を含む濾液の一部を反応系に循環させるのが良い。キシロオリゴ糖を含む反応濾液の一部を反応槽入り口に戻してやることにより、キシロオリゴ糖の重合度を高いままに維持しながら、経時的に糖濃度を高めることができる。おそらくは、キシラナーゼが未反応のパルプに対して優先的に作用するため、反応槽に戻した反応濾液に含まれる高重合度キシロオリゴ糖が加分解されず、未反応のパルプから新たに溶出されたキシロオリゴ糖と合わさって濃度が高まっていくものと考えられる。
【0020】
反応槽内でのパルプ濃度、反応時間、キシラナーゼ添加量は任意に設定可能であるが、パルプ濃度は2%から20%、より好ましくは7%から15%が良い。パルプ濃度が低すぎるとキシロオリゴ糖濃度を高めにくく、液量が増えてしまうため、設備が大型化するという問題が生じる。一方、パルプ濃度が高すぎるとキシラナーゼとパルプの均一な混合やパルプの移送が困難になるだけではなく、糖液の回収量が減ってしまう。反応時間とキシラナーゼ添加量に関しては、用いる酵素の種類によって異なるが、たとえばキシラナーゼコンクであれば、反応時間は10分から240分、より好ましくは30分から90分がよく、酵素添加量は2〔unit/g−乾燥パルプ〕から200〔unit/g−乾燥パルプ〕、より好ましくは10〔unit/g−乾燥パルプ〕から100〔unit/g−乾燥パルプ〕がよい。反応時間が短すぎたり酵素添加量が少なすぎると糖濃度を高めることができず、反応時間が長すぎたり酵素添加量が多すぎると重合度が小さくなってしまう。
【0021】
本発明により、パルプをキシラナーゼで処理した反応濾液中に生じるキシロオリゴ糖の構成比は、用いる酵素の種類や反応条件によって変わり様々であるが、例えば、キシラナーゼコンクを利用する場合、パルプ濃度10%、反応時間45分、反応温度50℃、反応pH6.0、酵素添加量50〔unit/g−乾燥パルプ〕の条件に整えてやれば、
2量体〜15量体のオリゴ糖分布を持ち、平均重合度が5量体前後であるキシロオリゴ糖を製造することができる。
【0022】
キシラナーゼ処理済みのパルプからキシロオリゴ糖を含むキシロオリゴ糖溶出液を分離する工程について説類する。
当該工程における分離手段は特に限定されないが、例えばスクリュープレス等の装置を使用してパルプを圧搾しても良いし、ドラムフィルター等の装置を使用してパルプを置換洗浄し、キシロオリゴ糖を含む濾液を回収してもよい。このようにして得られた、キシロオリゴ糖を含む濾液の一部は反応槽に戻され、一部はキシロオリゴ糖原料として回収されることになる。
この場合、戻す量としては、全濾液の20〜80質量%であり、好ましくは40〜60質量%である。戻す割合は、希望するキシロオリゴ糖濃度、重合度などにより変わるが、80質量%を越えて戻すことは生産効率が悪く、20質量未満ではオリゴ糖濃度が上がりにくい。同様の理由で、全体のバランスを考慮すると40〜60質量%が好ましい。
【0023】
パルプのキシラナーゼ反応処理濾液中に含まれるキシロオリゴ糖複合体は、例えばエバポレーションや溶媒抽出、膜濃縮などの物理的、化学的処理により濃縮する。本発明により得られる糖液を濃縮する場合、キシロビオース、キシロトリオースのような重合度の小さいキシロオリゴ糖の一部は透過し、キシロオリゴ糖複合体は膜内に残り濃縮されるような膜により濃縮する方法が工業的に有利である。その理由の1つは、相変化を伴わない膜濃縮は運転コストが安価で、溶媒などの特殊な化学物質を使用しないで済む点であり、また、キシロオリゴ糖と同時に酵素反応処理液中に含まれる種々の無機物や、グルコース、キシロース、アラビノースなどの単糖ないしは少糖類、有機酸、リグニンなどに由来する低分子の有機物の一部は、膜濃縮の際、透過水と一緒に排出され、分離除去できるからである。
【0024】
一般に、逆浸透膜、NF膜、限外濾過膜等の膜エレメントを運転すると、原水中に存在するコロイド性物質や微細な懸濁物質等が膜面上に付着、蓄積、濃縮され、時間の経過とともに濾過比抵抗が増大して透過流束が低下する。更には操作圧力が上昇して運転コスト増加の要因となる。このような膜エレメントの性能劣化を最小限にとどめ、長時問にわたり安定して運転することが実用上重要であるため、凝集沈殿、清澄濾過等による除濁処理が前処理として行われている。パルプのキシラナーゼ処理反応濾液中には、パルプ、懸濁物質等の微細な不溶成分が懸濁しており、膜濃縮を行う際の透過流束低下の原因となったり、膜差圧上昇による膜破損の原因となったりする。
【0025】
膜濃縮前の前処理としては、バッグフィルター、フィルタープレス、プレコートフィルター、セラミックフィルターの精密濾過処理や凝集沈殿処理、あるいはこれらを併用しても良い。精密濾過を行う場合はサブミクロンオーダーの濾過精度を持つフィルターがより好ましく、凝集沈殿処理を行う場合は、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム等の無機系凝集剤や、ポリアクリルアミド系、ポリアミジン系等の高分子凝集剤あるいはキトサン等の天然高分子凝集剤を用いることができるが、パルプ、懸濁物質等の微細な不溶成分を除去することができれば、その方法は特に限定されない。
【0026】
キシロオリゴ糖は、2量体以上のオリゴマーである。また、キシロースの分子量は150であり2量体は282であり、3量体は414、以下、キシロース残基が1つ増えるごとに分子量は132ずつ増加し、10量体は1338である。濃縮されたキシロオリゴ糖複合体はパルプのキシラナーゼ反応処理濾液中でキシロオリゴ糖が何らかの物質、おそらくはリグニン又はリグノセルロース物質、或いはヘミセルロース由来のフラン誘導体等の蒸解過程で生じた高分子物質と複合体を形成しているものと考えられる。
この膜濃縮物中に含まれる全糖は、ほぼキシロースのみからなり、膜濃縮物に酸を添加してpHを5より低く調整し、高温で加熱することによりキシロオリゴ糖を遊離させることができる。この場合の酸は、特に限定されるものでなく、いずれの酸を用いることができ、たとえば硫酸、塩酸などの鉱酸のほか、シュウ酸、酢酸などの有機酸が例示される。濃縮液の酸処理時のpHは2から4が好ましく、さらに好ましくはpHが3から3.5の範囲であるである。pHが1.5以下になるとキシロースへの加水分解が促進され、キシロオリゴ糖の回収率は低下する。またpHが5以上では150℃程度までの温度ではキシロオリゴ糖の遊離が促進されない。
キシロオリゴ糖の遊離に必要な加熱温度は、キシロオリゴ糖が遊離する温度であれば、特に限定されるものではないが、100から200℃までの温度、特に105から170℃が好ましく、さらに好ましい温度は110℃から125℃である。100℃未満の処理温度では、キシロオリゴ糖複合体からキシロオリゴ糖は遊離しない。また、170℃を越えると、単糖であるキシロースへの分解反応が促進されキシロオリゴ糖の収率が低下する。
【0027】
酸処理後のキシロオリゴ糖組成物には、まだリグニンなどの不溶物や着色物質が含まれている。不溶物は遠心分離、フィルターろ過、濾布による濾過等の処理で取り除くことができる。溶解している着色物質などの不純物を除去する方法は、特に限定されるものではなく、これまで知られた活性炭を用いる方法、アンバーライトなどの強塩基性陰イオン交換樹脂、弱塩基性陰イオン交換樹脂、強酸性陽イオン交換樹脂、弱酸性陽イオン交換樹脂を用いる方法、膜ろ過法をそれぞれ繰り返すか、又はこれらの組み合わせにより行うことができる。
【実施例】
【0028】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下に示す%は、特に断らない限りすべて質量%を意味するものであり、対パルプの添加率はパルプの絶乾質量に対する質量の比率である。なお、各測定法は以下のとおりである。
【0029】
<測定法の概要>
(1)全糖量の定量
全糖量は検量線をD−キシロース(和光純薬工業製)を用いて作製し、フェノール硫酸法(還元糖の定量法;学会出版センター)にて定量した。
(2)還元糖量の定量
還元糖量は検量線をD−キシロース(和光純薬工業製)を用いて作製、ソモジ−ネルソン法(還元糖の定量法;学会出版センター)にて定量した。
(3)平均重合度の決定法
サンプル糖液を50℃に保ち15000rpmにて15分遠心分離し不溶物を除去し、上清液の全糖量を還元糖量(共にキシロース換算)で割って平均重合度を求めた。
(4)酵素力価の定義
酵素として用いたキシラナーゼの活性測定にはバーチウッドキシラン(シグマ社製)を用いた。酵素力価の定義はキシラナーゼがキシランを分解することで得られる還元糖の還元力をDNS法(還元糖の定量法;学会出版センター)を用いて測定し、1分間に1マイクロモルのキシロースに相当する還元力を生成させる酵素量を1ユニットとした。
【0030】
<実施例1>
原料として、国内産広葉樹チップ20%、ユーカリ材80%からなる混合広葉樹チップをクラフト蒸解、酸素脱リグニンを行ったパルプを用いた。このパルプを洗浄、希硫酸を加えてpH5に調整した後、パルプ濃度を20%に調整した。20%パルプ50gに、キシラナーゼコンク(アドバンスド・バイオケミカルス社製)が対パルプ50〔ユニット/g〕となるように添加しておいた50℃の温水50mlを用いて希釈し、パルプの終濃度を10%とした。50℃で45分間処理した後、100メッシュの濾布で濾過して、パルプのキシラナーゼ反応濾液を得た。続いて、20%パルプ50gに、キシラナーゼが対パルプ50〔ユニット/g〕となるように添加しておいた前記キシラナーゼ反応濾液を加えて希釈し、パルプの終濃度を10%として50℃で45分間処理した後、同様にしてパルプのキシラナーゼ反応濾液を得た。前記と同様な手順を更にもう1回繰り返し、合計3回反応させたパルプの酵素処理液を得た。このようにして得られたキシラナーゼ反応濾液中に含まれるキシロオリゴ糖は、全糖濃度0.98%、平均重合度は4.8であった。
【0031】
<比較例1>
実施例1と同様に調整した20%パルプ50gに、キシラナーゼコンクが対パルプ50〔ユニット/g〕となるように添加しておいた50℃の温水50mlを用いて希釈し、パルプの終濃度を10%とした。50℃で135分間処理した後、100メッシュの濾布で濾過して、パルプのキシラナーゼ反応濾液を得た。このようにして得られたキシラナーゼ反応濾液中に含まれるキシロオリゴ糖は、全糖濃度0.49%、平均重合度は3.4であった。
【0032】
<比較例2>
実施例1と同様に調整した20%パルプ50gに、キシラナーゼコンクが対パルプ150〔ユニット/g〕となるように添加しておいた50℃の温水50mlを用いて希釈し、パルプの終濃度を10%とした。50℃で135分間処理した後、100メッシュの濾布で濾過して、パルプのキシラナーゼ反応濾液を得た。このようにして得られたキシラナーゼ反応濾液中に含まれるキシロオリゴ糖は、全糖濃度0.61%、平均重合度は2.7であった。
【0033】
<比較例3>
実施例1と同様に調整した20%パルプ50gに、キシラナーゼコンクが対パルプ50〔ユニット/g〕となるように添加しておいた50℃の温水50mlを用いて希釈し、パルプの終濃度を10%とした。50℃で360分間処理した後、100メッシュの濾布で濾過して、パルプのキシラナーゼ反応濾液を得た。このようにして得られたキシラナーゼ反応濾液中に含まれるキシロオリゴ糖は、全糖濃度0.68%、平均重合度は2.1であった。
実施例1と比較例1〜3との比較から明らかなように、パルプのキシラナーゼ処理において、単にキシラナーゼ添加量を増加させたり、反応時間を長くしたりするだけでは高重合度かつ高濃度のキシロオリゴ糖を含有する反応濾液を得ることはできない。反応濾液の一部を反応系に戻し、反応基質としてのパルプから新たにキシロオリゴ糖を溶出させることにより、高重合度かつ高濃度のキシロオリゴ糖を含有する反応濾液を得ることができる。高濃度の糖液を得ることは、膜濃縮やエバポレーションに代表される単位操作を実施する際、設備費を低減でき且つランニングコストを抑えることができるという点において有利である。
【0034】
<実施例2>
原料として、国内産広葉樹チップ20%、ユーカリ材80%からなる混合広葉樹チップをクラフト蒸解、酸素脱リグニンを行ったパルプを用いた。60℃の高温水を用いて、パルプ濃度を1.6%に希釈し、容積10m3のタンクに受け入れた。続いて、タンクに濃硫酸を添加、攪拌してpH5.5に調整した後、ドラムフィルター(新菱製作所製:φ2000×600SUF)でパルプを脱水洗浄した。脱水後のパルプ濃度は約20%であった。この20%パルプに50℃の温水を加え、パルプ濃度を10%に希釈すると同時に、キシラナーゼコンクが対パルプ50〔ユニット/g〕となるように連続添加して、トランポスクリューで十分に混合した。混合後のパルプを中濃度ポンプ(新菱製作所製:200×RPK)で容積2m3の円筒型反応槽(φ800mm×4000mmH)に押し込み、反応時間が40分間となるように連続処理した後、反応後のパルプをスクリュープレス(新菱製作所製:250×1000SPH−EN)で約40%に脱水して、パルプのキシラナーゼ反応濾液を得た。反応開始から60分目以降は、50℃温水ではなく、キシラナーゼ反応濾液の50質量%をトランポスクリューに戻し、ドラムフィルターで脱水した20%パルプを10%に希釈してキシラナーゼ処理を連続的に行った。反応開始150分目以降には、キシラナーゼ反応濾液中の全糖濃度は0.92%に増加しており、このときのキシロオリゴ糖の平均重合度は4.7であった。このようなパルプに対するキシラナーゼ処理を24時間連続して実施することにより、反応開始150分目以降、糖濃度約0.9%の反応濾液を安定して取り出すことができ、最終的に糖濃度0.9%のキシラナーゼ反応濾液を15m3得ることができた。得られた反応濾液を、ミクロンレート1μmのバックフィルター(ISPフィルターズ製)、続いてミクロンレート0.2μmのセラミックフィルター(日本ポール製)で濾過して、清澄な反応濾液を得た。更に逆浸透膜(日東電工製:NTR−7450)で15倍に濃縮することにより、全糖濃度11%の濃縮液を1m3得ることができた。スクリュープレスで脱水したパルプを回収し、パルプ製造工程へ返送した。
【0035】
<実施例3>
実施例2で得られた濃縮糖液1m3を、濃硫酸を用いてpH3.5に調整後、121℃で45分間酸処理した。50℃まで冷却した後、酸処理後に生成した不溶性残渣をミクロンレート0.2μmのセラミックフィルター(日本ポール製)で除去して、UF膜(クラレ製:MU−6025)で脱色後、更に活性炭(三倉化成製:PM−SX)を10kg添加して、50℃・2時間処理して、脱色処理した糖液を得た。得られた糖液を、SV1.5で強カチオン樹脂(三菱化学製:PK−218、300L)→弱アニオン樹脂(三菱化学製:WA30、300L)→強カチオン樹脂(三菱化学製:PK−218、300L)→弱アニオン樹脂(三菱化学製:WA30、300L)からなる4床4塔式でイオン交換処理して脱塩・脱色することにより、精製済みのキシロオリゴ糖溶液(糖濃度4.3%、1100L)を得た。得られたキシロオリゴ糖溶液を、スプレードライヤー(大川原化工機製:ODA−25型)で処理して、45kgのキシロオリゴ糖粉末を得た。得られたキシロオリゴ糖の平均重合度は5.1であった。
【0036】
<実施例4>
実施例3で、精製済みのキシロオリゴ糖溶液を得た後、2塔目及び4塔目の弱アニオン樹脂に75mMの塩化ナトリウム水溶液をSV1.5で流して、酸性キシロオリゴ糖溶液(糖濃度2.8%、600L)を回収した。回収した酸性キシロオリゴ糖溶液を、強カチオン樹脂でpH5に調整後、糖濃度20%まで濃縮して、スプレードライヤー(大川原化工機製:ODA−25型)で処理して、15kgの酸性キシロオリゴ糖粉末を得た。得られた酸性キシロオリゴ糖の平均重合度は10.8であった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明により、機能性食品素材や皮膚外用剤として優れた機能を持つキシロオリゴ糖及び酸性キシロオリゴ糖を、大量かつ安価に製造できる技術が提供される。
【出願人】 【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子製紙株式会社
【出願日】 平成18年11月30日(2006.11.30)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−136390(P2008−136390A)
【公開日】 平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願番号】 特願2006−324437(P2006−324437)