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【発明の名称】 4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの工業的製造方法
【発明者】 【氏名】二宮 康裕

【氏名】佐藤 栄治

【要約】 【課題】本発明は、未反応の1,3-ジハロ-2-プロパノール及びシアニドドナーを再利用し、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの工業上有利な製造方法を提供する。

【解決手段】1,3-ジハロ-2-プロパノールとシアニドドナーとから、水系での酵素反応により4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法において、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,3-ジハロ-2-プロパノールとシアニドドナーとから、水系での酵素反応により4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法において、
(1) 酵素反応終了後の反応水溶液を蒸留し、未反応のシアニドドナー及び1,3-ジハロ-2-プロパノールを回収する工程、
(2) 回収したシアニドドナー及び1,3-ジハロ-2-プロパノールを、少なくとも1回以上、繰り返し酵素反応に使用する工程、
を含む、4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルの製造方法。
【請求項2】
蒸留の際の温度が、蒸留中の圧力における1,3-ジハロ-2-プロパノールの沸点未満である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
蒸留の際の温度が、0℃〜110℃、圧力が1〜760torrである、請求項1又は2記載の方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の医薬品や生理活性物質の合成原料として有用な物質である、4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルの工業的製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,3-ジハロ-2-プロパノールとシアニドドナーとから酵素反応により4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを製造するに際し使用される酵素として、ハロヒドリンエポキシダーゼが例示できる。ハロヒドリンエポキシダーゼとしては、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、オウレオバクテリウム(Aureobacterium)属のものが知られている。本出願人らは先に、コリネバクテリウム属、ミクロバクテリウム属、オウレオバクテリウム属の脱ハロゲン化酵素の作用により、1,3-ジハロ-2-プロパノールから光学活性4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法(特許文献1、特許文献2参照)及びエピハロヒドリンから光学活性4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法(特許文献3参照)を提案している。さらに遺伝子組換え技術を利用し、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属由来のハロヒドリンエポキシダーゼ酵素遺伝子DNAを有する組換えベクターを得、この組換えベクターを導入した形質転換体を使用し4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを製造することに成功している(特許文献4、特許文献5、非特許文献1参照)。また、Janssenらはアグロバクテリウム ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter) AD1株、マイコバクテリウム(Mycobacterium) sp. GP1、アースロバクター(Arthrobacter) sp. AD2のハロヒドリンエポキシダーゼを見出し、アグロバクテリウム ラジオバクターAD1株においては、その酵素の立体構造を明らかにしている。(非特許文献2,3)
【0003】
このような酵素反応によって生成した4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルは、通常、反応液から有機溶媒で抽出を行い、次いで減圧下で溶媒を留去することにより回収される。このとき、留去した有機溶媒には、未反応の1,3-ジハロ-2-プロパノール及びシアニドドナーが含まれている。反応の効率性を考慮すれば、これら未反応原料は再利用することが好ましいが、酵素反応は通常、水系で反応を実施するため、未反応原料を再利用するにはさらなる有機溶媒の蒸留等の煩雑な操作が必要となる。また、廃液処理にかかるコスト面・環境面の負担が大きい。よって、工業的に好適であるとはいえなかった。そこで、これら未反応原料ならびに反応溶媒を効率的に回収、再利用し、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルを工業上有利に製造するための方法が望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特許2840722号
【特許文献2】特許3168202号
【特許文献3】特許2840723号
【特許文献4】特許3073037号
【特許文献5】特許3026367号
【非特許文献1】Biosci. Biotech. Biochem.,58(8), 1451-1457, 1994
【非特許文献2】The EMBO Journal.,22(19), 4933-4944, 2003
【非特許文献3】J.Bacteriology 183(17), 5058-5066, 2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、未反応の1,3-ジハロ-2-プロパノール及びシアニドドナーを再利用し、4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの工業上有利な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、酵素反応終了後の反応液を蒸留することにより、未反応のシアニドドナー及び1,3-ジハロ-2-プロパノールを4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルから効率的に分離回収でき、容易に再利用できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
1,3-ジハロ-2-プロパノールとシアニドドナーとから、水系での酵素反応により4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法において、
(1) 酵素反応終了後の反応水溶液を蒸留し、未反応のシアニドドナー及び1,3-ジハロ-2-プロパノールを回収する工程、
(2) 回収したシアニドドナー及び1,3-ジハロ-2-プロパノールを、少なくとも1回以上、繰り返し酵素反応に使用する工程、
を含む、4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、未反応のシアニドドナー及び1,3-ジハロ-2-プロパノールを効率良く分離回収、再利用できる。よって、生産性が高く、工業的に好適な4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルの製造方法を提供することができる。さらには、この蒸留を蒸留中の圧力における1,3-ジハロ-2-プロパノールの沸点未満で実施できるため、蒸留にかかるエネルギーが節約できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、1,3-ジハロ-2-プロパノールとシアニドドナーとから、水系での酵素反応により4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを製造する方法において、
(1) 酵素反応終了後の反応水溶液を蒸留し、未反応のシアニドドナー及び1,3-ジハロ-2-プロパノールを回収する工程、
(2) 回収したシアニドドナー及び1,3-ジハロ-2-プロパノールを、少なくとも1回以上、繰り返し酵素反応に使用する工程、
を含む、4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルの製造方法である。
【0010】
1.用語の説明
(1) 1,3-ジハロ-2-プロパノール
1,3-ジハロ-2-プロパノールとは、下記一般式(1)で表される化合物のことをいう。
【化1】


(式中、X1、X2はハロゲン原子を示す。)
式1において、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好ましい。具体的には1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、1,3−ジブロモ−2−プロパノール、1,3−ジヨード−2−プロパノールが挙げられ、好ましくは、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、1,3−ジブロモ−2−プロパノールである。
【0011】
(2) シアニドドナー
シアニドドナーとは、反応液中に添加した際にシアンイオン(CN)又はシアン化水素を生じる化合物を意味し、特に制限されないが、青酸(HCN)、シアン化カリウム(KCN)、シアン化ナトリウム(NaCN)、アセトンシアンヒドリン(ACH)が例示される。青酸、シアン化カリウム、シアン化ナトリウムが好ましく使用され、特に青酸が回収リサイクルが容易な点から好ましく使用される。
【0012】
(3) 4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリル
4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルとは、下記一般式(2)で表される化合物のことをいう。
【化2】


(式中X1はハロゲン原子を示す。*は不斉炭素を示す。)
式2において、X1のハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好ましい。その立体配置は(R)-体、(S)-体、ラセミ体のいずれでも構わないが、(R)-体が好ましい。
【0013】
具体的には、4-フルオロ-3-ヒドロキシブチロニトリル、4-クロロ-3-ヒドロキシブチロニトリル、4-ブロモ-3-ヒドロキシブチロニトリル、4-ヨード-3-ヒドロキシブチロニトリルが挙げられ、好ましくは、4-クロロ-3-ヒドロキシブチロニトリル、4-ブロモ-3-ヒドロキシブチロニトリルである。また、光学活性4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルとは、一方の鏡像異性体(例えばR体)が他方の鏡像異性体(例えばS体)より多く含まれている4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルのこと、または、いずれか一方の鏡像異性体のみからなる4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルのことをいう。なお、4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルがいずれか一方の鏡像異性体のみからなる場合、光学純度100%という。
【0014】
(4) ハロヒドリンエポキシダーゼ
ハロヒドリンエポキシダーゼとは、上記一般式(1)で表される1,3-ジハロ-2-プロパノールを脱ハロゲン化水素し、下記一般式(3) で表されるエピハロヒドリンを合成する活性、及びその逆反応を触媒する活性を有する酵素(EC number: 4.5.1.-)を意味する。
【0015】
【化3】


(図中、X1はハロゲン原子を示す。)
式3において、X1は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、塩素、臭素が特に好ましい。具体的にはエピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリンが挙げられ、特に好ましくはエピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンである。
【0016】
この酵素を産生する微生物としては、コリネバクテリウム(Corynebacterium)sp.N-1074(FERM BP-2643)、ミクロバクテリウム(Microbacterium)sp.N-4701(FERM BP-2644)、アグロバクテリウム ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter) AD1、マイコバクテリウム(Mycobacterium)sp.GP1、アースロバクター(Arthrobacter)sp.AD2等が挙げられる。特に好ましい微生物は、コリネバクテリウム(Corynebacterium)sp.N-1074(FERM BP-2643)である。コリネバクテリウム(Corynebacterium)sp.N-1074由来の ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子(hheB)はGenBankに公表されており、のAccession番号は D90350である。
【0017】
前記ハロヒドリンエポキシダーゼは、上記微生物からの抽出によって調製することができるが、ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子をクローニングし、当該遺伝子を組み込んで作製した遺伝子組換え微生物によって生産することもできる。また、天然型のハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を改変し、酵素機能を改変したハロヒドリンエポキシダーゼについても、上記の活性を有するものであれば本発明に用いることができる。抽出は常法によって実施すればよく、調製物にはハロヒドリンエポキシダーゼ以外の成分が含まれていても反応に悪影響を与えなければ特に精製する必要はない。ハロヒドリンエポキシダーゼ遺伝子を組み込んで作成した遺伝子組換え微生物を培養して得られるハロヒドリンエポキシダーゼが、調製が容易なことから好ましく使用される。また、形質転換に用いる宿主微生物としては大腸菌(Escherichia coli)あるいはロドコッカス (Rhodococcus)属細菌に属する微生物が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではなく、他の宿主微生物を用いることも出来る。
【0018】
前記ハロヒドリンエポキシダーゼを生産する微生物を培養するための培地としては、通常これらの微生物が生育し得るものであれば何れのものでも使用できる。炭素源としては、例えば、グルコース、シュークロース、マルトースやフルクトース等の糖類、酢酸、クエン酸やフマル酸等の有機酸あるいはその塩、またはエタノールやグリセロール等のアルコール類等を使用できる。窒素源としては、例えば、ペプトン、肉エキス、酵母エキスやアミノ酸等の一般天然窒素源の他、各種無機、有機酸アンモニウム塩等が使用できる。その他、硫酸、塩酸、燐酸やホウ酸などの無機酸あるいはその塩、用いられる微生物が利用可能なナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウムなどを含む無機塩、鉄、マンガン、亜鉛、コバルト、ニッケル微量金属塩、微生物育成促進剤としてビタミンB1、B2、C、K等のビタミン等が必要に応じて適宜添加される。本発明の微生物の培養は、通常は液体培養で行われるが、固体培養によっても行うことができる。培養は10〜50℃の温度で、pH 2〜11の範囲で行われる。微生物の生育を促進させるために通気攪拌を行ってもよい。培養により得られた微生物は、培養液そのまま若しくは該培養物から遠心分離等の集菌操作によって得られる微生物菌体、若しくは菌体処理物(例えば、菌体破砕物、粗酵素、精製酵素)あるいは常法により固定化した菌体または菌体処理物の形で、ハロヒドリンエポキシダーゼとして利用することができる。
【0019】
2.酵素反応
本製造方法において、ハロヒドリンエポキシダーゼによる、1,3-ジハロ-2-プロパノールとシアニドドナーを基質とする酵素反応は、使用する酵素の至適pH4〜10の付近である水または緩衝液の存在下で行うことが好ましい。緩衝液としては、例えば、青酸、リン酸、ホウ酸、クエン酸、グルタル酸、リンゴ酸、マロン酸、o-フタル酸、コハク酸又は酢酸等の塩等によって構成される緩衝液、トリス緩衝液あるいはグッド緩衝液等が例示され、青酸とその塩によって構成される緩衝液、トリス緩衝液が好ましく、特に、青酸とその塩によってのみ構成される緩衝液が緩衝剤由来の不純物が混入しない点で好ましい。
【0020】
上記緩衝液を含む反応系へのシアニドドナー、1,3−ジハロ−2−プロパノール及びハロヒドリンエポキシダーゼの投入順序については、1,3−ジハロ−2−プロパノールとハロヒドリンエポキシダーゼが接触して反応開始する前に、反応系内に反応開始時における濃度が0.01〜1.5mol/kgとなる量のシアニドドナーを存在させておくことが、反応開始時に高い反応速度を得られる点、及びエピハロヒドリンの副生を抑えることができる点で好ましい。0.8〜1.5mol/kgのシアニドドナーを存在させておくことがより好ましい。
【0021】
1,3−ジハロ−2−プロパノールは、反応開始時において0.01mol/kg以上となるように予め投入しておくことが、反応開始時に高い反応速度を得られる点で好ましい。
【0022】
1,3−ジハロ−2−プロパノールの濃度は、酵素の安定性の観点から1mol/kg以下とすることが好ましい。また、反応速度向上、高生産性の観点から1,3−ジハロ−2−プロパノールを1mol/kgを超えないよう追添加することが好ましい。
【0023】
反応開始以降、反応液中のシアニドドナーは反応により消費されるため、シアニドドナーを追添加することが好ましい。その場合、反応系内に0.05mol/kg以上存在させておくよう追添加することが好ましい。酵素の安定性の観点から1.5mol/kgに超えないようにすることがさらに好ましい。
【0024】
また、シアニドドナーの使用量は、最終的に使用する1,3−ジハロ−2−プロパノールの1.2当量以上とすることが反応の円滑な進行の点から好ましく、2当量以下とすることがシアニドドナーの効率的な利用の観点から好ましい。最終的に使用する1,3−ジハロ−2−プロパノールの量とは、反応開始から反応終了までに使用した1,3−ジハロ−2−プロパノールの全量のことを意味する。
【0025】
反応温度は、10〜30℃とすることが酵素の安定性が良く、円滑に反応が進行する点から好ましい。
【0026】
反応が進行するに際して、反応液中にハロゲン化水素が生成するためpHが低下していくが、反応系内にアルカリを逐次添加することにより系内のpHを酵素の活性が発揮される領域に維持することが好ましい。pHは7.0〜8.5とすることが反応の円滑な進行や副反応の抑制の点から特に好ましい。
【0027】
アルカリとしては、ハロゲン化水素と塩を形成し、その塩の水溶液が酵素の活性が発揮されるpH領域にあるものであれば特に制限されず、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属またはアンモニアの、水酸化物あるいは弱酸との塩が例示される。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、シアン化ナトリウム、シアン化カリウムが好ましい。アルカリの使用形態としては、特に制限されないが、取り扱いの容易さから水溶液が好ましい。
【0028】
ハロヒドリンエポキシダーゼの使用量は特に制限されず、反応が円滑に進行する量を使用すればよい。例えば、反応開始時において反応液1gあたり1U〜1000U使用することができる。ここで、1U(ユニット)とは、20℃、pH8.0の緩衝液中において、1,3-ジクロロ-2-プロパノールから1分間に1μmolのエピクロロヒドリンを生成することができる酵素量のことを意味する。
【0029】
反応系内の1,3-ジハロ-2-プロパノール、及び4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルの濃度は、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって定量することができる。また、反応系内のシアニドドナーの濃度は、例えば滴定によって定量することができる。これらの定量結果を反応進行の指標として、追添加する1,3-ジハロ-2-プロパノール及びシアニドドナーの量を決定することができる。
【0030】
反応時間は基質等の濃度、菌体濃度、又はその他の反応条件等によって適時選択するが、1〜120 時間で反応が終了するように条件を設定するのが好ましい。
【0031】
3.蒸留・再利用
酵素反応終了後の4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルを含む反応液からの、反応溶媒及び未反応のシアニドドナー及び1,3-ジハロ-2-プロパノールの分離回収は、蒸留することにより行う。また、蒸留対象となる反応液に、酵素反応で使用したハロヒドリンエポキシダーゼ由来の固形物が存在する場合、蒸留前に固形物を除去しても構わない。上記固形物の除去は、常法によって行えば良く、例えば、ろ過、遠心分離といった方法が例示される。
【0032】
蒸留は、未反応のシアニドドナー及び1,3-ジハロ-2-プロパノールの反応液からの分離効率を上げるために、空気または不活性気体を吹き込みながら実施することが好ましい。不活性気体としては、蒸留の際に生成物である4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルや、未反応のシアニドドナー及び1,3-ジハロ-2-プロパノールと実質的に反応しない気体であればよく、水蒸気、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴンが例示される。これらの気体は単独で用いても2種類以上混合されていても、蒸留の間において組成が一定であっても変化しても良い。空気としては、蒸留を行う系内に過剰の酸素が導入されないよう、上記不活性気体により希釈して使用することが好ましい。上記気体の流量については、1〜120時間で反応容器内の気相部が置換されるように設定することが好ましい。
【0033】
また、この蒸留操作においては、未反応のシアニドドナーの反応液からの分離効率を上げ、1,3-ジハロ-2-プロパノール及び4−ハロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの分解を防ぐために、反応液に青酸より強い酸を添加し、蒸留ボトムを酸性に維持することが好ましい。蒸留ボトムのpHについては、8以下が好ましく、5以下がより好ましい。添加する酸としては、青酸より強い酸、すなわち、青酸と強塩基からなる塩の水溶液と混合することにより青酸ガスが発生するものであれば、特に制限されない。例えば、p-トルエンスルホン酸、酢酸等の有機酸、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸等の無機酸である。
【0034】
減圧度及び温度は、用いる装置の種類に応じて適宜決定することができる。蒸留中の圧力における1,3-ジハロ-2-プロパノールの沸点より低い温度においても、1,3−ジハロ−2−プロパノールが得られることから、蒸留の温度は1,3-ジハロ-2-プロパノールの沸点より低い温度であることがエネルギー節約の面から好ましい。通常、蒸留温度を0〜110℃、好ましくは40〜110℃にし、減圧度は1〜760torr、好ましくは50〜760torrとする。蒸留の温度が高いと、光学活性4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルが、未反応の1,3-ジハロ-2-プロパノールとシアニドドナーが非酵素的に反応することにより、ラセミ体の4-ハロ-3-ヒドロキシブチロニトリルが一部生成し、光学純度が低下することとなるため好ましくない。
【0035】
したがって、蒸留ボトムのシアニドドナー濃度を適宜測定し、1000ppm未満、好ましくは500ppm未満、より好ましくは100ppm未満となるまでは、蒸留の温度は40〜80℃としておくことが好ましい。留出した反応溶媒、シアニドドナー及び1,3-ジハロ-2-プロパノールは、それぞれを捕集するのに十分な温度、例えば、10℃以下に冷却された冷却管を使い捕集することができる。
【0036】
こうして回収した未反応のシアニドドナー及び1,3-ジハロ-2-プロパノールを含む溶液は、次の酵素反応の溶媒として用いることができる。
【0037】
本製造方法において、回収された未反応の1,3-ジハロ-2-プロパノールは、酵素反応中の反応液と同様、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって定量することができる。また、反応系内のシアニドドナーも酵素反応中の反応液と同様に、例えば滴定によって定量することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。なお、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、エピクロロヒドリン、及び4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの定量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて下記の分析条件で行った。
【0039】
[HPLC分析条件]
試料調製方法 : 反応液を移動相に溶解
カラム : Inertsil ODS-3V, 4.6mm I.D.×250mm, 粒径5μm
(GLサイエンス製)
カラムオーブン温度 : 40℃
移動相 : 水/アセトニトリル/燐酸= 70/30/0.1, 1mL/min
検出 : 示差屈折計(RI)
リテンションタイム : 1,3-ジクロロ-2-プロパノール 15.7min
: エピクロロヒドリン 11min
: 4-クロロ-3-ヒドロキシブチロニトリル 7.2min
【0040】
<参考例1> 菌体懸濁液の調製
ハロヒドリンエポキシダーゼ活性を持つ大腸菌(Escherichia coli) JM109/pST111(FERM P-12065、特開平5-317066号公報参照)を、LB培地(1%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、0.5%NaCl、1mM IPTG、50μg/mlアンピシリン) 100mL×20本植菌し、37℃で20時間振盪培養した。培養菌体を50mM トリス−硫酸緩衝液(pH 8.0)で洗浄し、50mM トリス−硫酸緩衝液(pH 8.0)を20gになるように加え、懸濁した。この菌体懸濁液0.25gを50mM トリス−硫酸緩衝液(pH 8.0)100mLに加え、さらに50mMとなるように1,3-ジクロロ-2-プロパノールを加え、20℃で10分間反応した。HPLCにより反応液中のエピクロロヒドリンの量を測定したところ、11mMであった。すなわち、10分当たり1100μmolのエピクロロヒドリンが生成したことになり、この菌体懸濁液の活性は菌体懸濁液1gあたり440Uであることがわかった。この菌体懸濁液を50mM トリス−硫酸緩衝液(pH 8.0)で菌体懸濁液1gあたり400Uになるように希釈した。
【0041】
<実施例1>
(1)4-クロロ-3-ヒドロキシブチロニトリルの合成-1回目
pH電極、ならびにpHコントローラーにより制御されたアルカリ投入配管を装着した1L容フラスコに水319.4g、HCN10.9gを入れ、30%NaOH 1.0gで、pH7.5に調整した。1,3-ジクロロ-2-プロパノール25.0gを入れ、均一に溶解するまで攪拌した。
系内のpHを7.5〜7.6に維持するよう、30%NaOHを投入するようにpHコントローラーを設定し、参考例1で調製した菌体懸濁液43.2g(19.0kU)を加え、20℃で反応を開始した。
反応開始直後より、1,3-ジクロロ-2-プロパノール25.0g, HCN6.5gを2時間かけて均等に滴下した。その後、20℃で系内のpHを7.5~7.6に維持しながら、22時間(反応開始から24時間)反応させた。反応終了時、30%NaOHは、47.1g投入されており、反応液の全量は478.1gであった。反応終了液の組成を表1に示す。
【0042】
(2)4-クロロ-3-ヒドロキシブチロニトリル合成反応液の蒸留
上記(1)で得られた反応終了液に、35%塩酸を1.1g添加し、pHを4.6とした後、窒素ガスを毎分10mL吹き込みながら常圧蒸留し、2℃に冷却した冷却管を用いて341.5gの留出液を得た。留出液、ならびに釜残の組成を表1に示す。
【0043】
(3)4-クロロ-3-ヒドロキシブチロニトリルの合成-2回目
上記蒸留で得られた留出液のうち329.2gに、HCN6.6gを加え、30%NaOH 1.2gで、pH7.5に調整し、1,3-ジクロロ-2-プロパノール21.2gを加えて、均一に溶解するまで攪拌した後、上記と同様に反応を行った。反応終了時、30%NaOHは、47.5g投入されており、反応液の全量は480.4gであった。反応終了液の組成を表1に示す。
【0044】
【表1】


【0045】
上記の結果より、反応液内に残存していた1,3-ジクロロ-2-プロパノールおよびHCNを80%前後の回収率で回収できた。生成物である4-クロロ-3-ヒドロキシブチロニトリルはほぼ全量釜残に残り、ロスは殆どないことがわかった。また、蒸留した水、未反応の1,3-ジクロロ-2-プロパノールおよびHCNをリサイクル使用しても、酵素反応にはまったく悪影響がなく、新しい水、HCNおよび1,3-ジクロロ-2-プロパノールを使用した場合となんら変わらない反応結果が得られた。
【0046】
<実施例2> 4-クロロ-3-ヒドロキシブチロニトリル合成反応液の蒸留(2)
実施例1(3)で得られた反応終了液に、35%塩酸を1.1g添加し、pHを4.6とした後、窒素ガスを毎分10mL吹き込みながら、110Torr, 50℃で減圧蒸留し、2℃に冷却した冷却管を用いて336.4gの留出液を得た。
【0047】
【表2】


【0048】
上記の結果より、反応液内に残存していた1,3-ジクロロ-2-プロパノールを70%の回収率で回収できた。生成物である4-クロロ-3-ヒドロキシブチロニトリルはほぼ全量釜残に残り、ロスは殆どないことがわかった。また、4-クロロ-3-ヒドロキシブチロニトリルの光学純度は蒸留の前後において92.0%eeであり、蒸留による光学純度の低下はみられなかった。
【出願人】 【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
【出願日】 平成18年11月27日(2006.11.27)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−131861(P2008−131861A)
【公開日】 平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願番号】 特願2006−318380(P2006−318380)