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【発明の名称】 光学活性アミノ酸及びN−アルコキシカルボニルアミノ酸類の製造方法
【発明者】 【氏名】加藤 修

【氏名】森 浩幸

【要約】 【課題】

【解決手段】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(1)〜(5)の工程を含む、光学活性アミノ酸の製造方法:
(1)ラセミ体アミノ酸アミドを含む水溶液の20〜30℃におけるpHを、酸を用いてpH 5.0〜9.8に調整する工程;
(2)前記水溶液に、アミダーゼ活性を有する生体触媒を加えてアミノ酸アミドの立体選択的加水分解反応を行う工程;
(3)(1)工程で使用した酸に対し、0.900〜1.100mol当量の無機塩基化合物を加える工程;
(4)前記水溶液の溶媒を、炭素数3以上のアルコール溶媒で置換する工程;
(5)光学活性アミノ酸アミドをアルコール溶液として分離し、光学活性アミノ酸結晶を回収する工程。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法によって得られた光学活性アミノ酸をさらに精製することなく使用し、該光学活性アミノ酸とN−アルコキシカルボニル化剤とを反応させる、光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸類の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性アミノ酸及び光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸類の製造方法に関するものである。光学活性アミノ酸、及び光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸類は、抗生物質、ペプチド、ポリペプチド、たんぱく質及びアミノ酸配糖体等の化学合成において、ペプチド結合形成の際、目的化合物を選択的に得るための出発物質や中間体として用いられる。
【背景技術】
【0002】
生体触媒を用いた光学活性アミノ酸の製造方法としては、例えばアミダーゼ活性を有する生体触媒による光学分割による製造方法が挙げられる(特許文献1〜4)。該方法においては、加水分解反応後得られる光学活性アミノ酸及び光学活性アミノ酸アミドを含む水溶液から必要に応じ両化合物を分離しなければならない。分離方法としては、該水溶液に低級アルコールなどの水溶性有機溶剤を添加し、光学活性アミノ酸結晶を選択的に回収する方法(特許文献1、2)、水溶液の水を溜去した後、残渣を有機溶媒で洗浄し光学活性アミノ酸アミドを選択的に除去する方法(特許文献3)、水溶液の溶媒を水から炭素数3以上のアルコール溶媒で置換した後、光学活性アミノ酸結晶を得る方法(特許文献4)、が報告されている。しかし何れの報告にもアミノ酸アミドの立体選択的加水分解反応時、水溶液のpHが光学活性アミノ酸の蓄積濃度に与える影響について詳細な報告は無い。また水溶液のpHを調整するために用いた鉱酸が、後段の光学活性アミノ酸の分離、回収操作に与える影響ついての記載もない。
【0003】
一方、光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸類は、光学活性アミノ酸及びN−アルコキシカルボニル化剤とを水性媒体中で反応させ、次いで生成したN−アルコキシカルボニルアミノ酸を反応液から回収、単離することで製造できる。アミノ酸とN−アルコキシカルボニル化剤との水性媒体中での反応は、塩基性化合物存在下、アミノ酸の水性媒体溶液にN−アルコキシカルボニル化剤を滴下して行う方法が報告されている(非特許文献1、非特許文献2)。これら報告では、原料光学活性アミノ酸にはいずれも純品、あるいはそれに近似した純度有する光学活性アミノ酸を用いており、無機塩など不純物含有し純度が低い光学活性アミノ酸、例えば前述した生体触媒反応液から回収された光学活性アミノ酸の粗生成物を、光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸類の製造の原料として利用した報告は無かった。
【非特許文献1】J.Pospisek等、Collect.Czech.Chem.Commun.42,1069 (1977)
【非特許文献2】Guido Bold等、J.Med.Chem.41,3387 (1998)
【特許文献1】特開昭59−159789号公報
【特許文献2】特開平1−186850号公報
【特許文献3】特開昭61−293394号公報
【特許文献4】特開2001−328970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、光学活性アミノ酸結晶を収率良く得ることができる操作性の良好な光学活性アミノ酸の製造方法、及び原料精製操作を必要とせず、製造効率、工程収率が改善された光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、下記の(1)〜(5)の工程を含む、光学活性アミノ酸の製造方法が提供される。
(1)ラセミ体アミノ酸アミドを含む水溶液の20〜30℃におけるpHを、酸を用いてpH 5.0〜9.8に調整する工程;
(2)前記水溶液に、アミダーゼ活性を有する生体触媒を加えてアミノ酸アミドの立体選択的加水分解反応を行う工程;
(3)(1)工程で使用した酸に対し、0.900〜1.100mol当量の無機塩基化合物を加える工程;
(4)前記水溶液の溶媒を、炭素数3以上のアルコール溶媒で置換する工程;
(5)光学活性アミノ酸アミドをアルコール溶液として分離し、光学活性アミノ酸結晶を回収する工程。
また、本発明では、上記製造方法によって得られた光学活性アミノ酸をさらに精製することなく使用し、該光学活性アミノ酸とN−アルコキシカルボニル化剤とを反応させる、光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸類の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、操作性良好な光学活性アミノ酸結晶を収率良く得ることができる光学活性アミノ酸の製造方法、及び原料精製操作を必要とせず、製造効率、工程収率が改善された光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸又はその塩(光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸類)の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0008】
1.光学活性アミノ酸
本発明に関わる光学活性アミノ酸は下記一般式(I)で示される化合物の光学活性体である。
【化1】


上記一般式(I)中、R1及びR2は、同一又は異なっており、水素原子、または任意
の置換基を示す。
任意の置換基としては、例えば、低級アルキル基、置換低級アルキル基、低級アルケニル基、置換低級アルケニル基、シクロアルキル基、置換シクロアルキル基、芳香族基、置換芳香族基、複素環基、又は置換複素環基等が好ましい。
【0009】
一般式(I)で示される化合物としては、例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、セリン、システイン、チロシン、リジン、ヒスチジン、2−アミノ酪酸、シクロヘキシルアラニン、ノルバリン、ノルロイシン、6−ヒドロキシノルロイシン、ネオペンチルグリシン、ペニシラミン、tert−ロイシン、フェニルグリシン、2−クロロフェニルグリシン、3−クロロフェニルグリシン、4−クロロフェニルグリシン等が挙げられる。好ましくはノルバリン、tert−ロイシン、フェニルグリシン、フェニルアラニンであり、特に好ましくはtert−ロイシン、フェニルアラニンである。
【0010】
2.光学活性アミノ酸の調製
光学活性アミノ酸の調製としては、例えばα−ケトカルボン酸のデヒドロゲナーゼ、または同活性を有する生体触媒用いた還元的不斉アミノ化反応、ラセミ体ヒダントインのヒダントイナーゼまたは同活性を有する生体触媒用いた立体選択的加水分解開環反応、ラセミ体N−アシル−アミノ酸のアシラーゼまたは同活性を有する生体触媒用いた立体選択的加水分解反応、ラセミ体アミノ酸エステルのエステラーゼまたは同活性を有する生体触媒用いた立体選択的加水分解反応、及びラセミ体アミノ酸アミドのアミダーゼを用いた立体選択的加水分解反応などの生体触媒反応が挙げられる。これらのうち、本発明にかかる光学活性アミノ酸の製造方法では、原料の汎用性、立体選択性などの観点から、ラセミ体アミノ酸アミドのアミダーゼ活性を有する生体触媒用いた立体選択的加水分解反応が採用される。
【0011】
ラセミ体アミノ酸アミドのアミダーゼ活性を有する生体触媒を用いた立体選択的加水分解反応(以下、「アミダーゼによる立体選択的加水分解反応」とも称する)は、ラセミ体アミノ酸アミド水溶液にアミダーゼまたはアミダーゼ活性を有する生体触媒を加え、アミノ酸アミドに該触媒を作用させて行う。
【0012】
ラセミ体アミノ酸アミド水溶液中のアミノ酸アミドの濃度は、1〜70質量%とすることが好ましい。この範囲内であると光学活性アミノ酸の製造効率の点で好ましい。濃度は、5〜60質量%とすることがより好ましく、10〜50質量%とすることが特に好ましい。
【0013】
アミダーゼによる立体選択的加水分解反応の開始時、ラセミ体アミノ酸アミド水溶液のpHは、室温(具体的には20〜30℃付近)での測定値が5.0〜9.8となるように調整する((1)工程)。この範囲内であるとアミダーゼ活性を有する生体触媒の触媒活性、反応収率、光学活性アミノ酸蓄積濃度などの点で好ましい。pHは、5.5〜9.5とすることがより好ましく、6.0〜9.0とすることがさらに好ましい。ラセミ体アミノ酸アミド水溶液は通常塩基性を示すため、pH調整には酸を用いる。酸としてはリン酸、塩酸、硫酸などの鉱酸が挙げられ、この中で塩酸、硫酸を用いることがより好ましい。使用形態は、化合物そのもの若しくは水溶液の状態で用いることができる。
【0014】
pH調整後、ラセミ体アミノ酸アミド水溶液にアミダーゼ活性を有する生体触媒を加え(以下、単に「触媒」とも称する)、アミノ酸アミドの立体選択的加水分解反応を行う((2)工程)。触媒としては、水性媒体中でラセミ体アミノ酸アミドに立体特異的に作用し、光学活性アミノ酸と対応する光学特性を有するアミノ酸アミドを与える作用を有するものであれば、特に制限はなく使用することができる。
例えば以下に例示する(組換)微生物が産生するアミダーゼが好適に使用される。
・エンテロバクタ−・クロアッセイ N−7901(FERM BP−873)
・バチルス・ステアロサーモフィラス NCIMB8923
・サーマス・アクアティカNCIMB11243
・サーマス属 O−3−1株(FERM BP−8139)
・オクロバクテリウム・アントロピ NCIB40321
・クレブシェラ属 NCIB40322株
・E.coli JM109/pLA205( FERM BP−7132)
・E.coli JM109/pM501KN これらの微生物は、菌体をそのまま又は菌体処理物(洗浄菌体、乾燥菌体、菌体破砕物、菌体抽出物、粗又は精製酵素、及びこれらの固定化物)として反応に使用される。菌体又は菌体処理物の濃度は、その活性量により異なるがアミノ酸アミド質量に対し1/10000〜1質量、好ましくは1/1000〜1/10質量である。この範囲内であると反応時間や触媒除去操作性が容易であるなどの点で好ましい。
【0015】
反応温度は5〜70℃の範囲が好ましい。この範囲内であると、反応時間、反応収率などの点で好ましい。15〜60℃がさらに好ましく、25〜45℃が特に好ましい。
反応中、水溶液のpHを調整するため、適宜酸または無機塩基化合物を添加しても良い。この場合、pHは、20〜30℃での測定値が、5.0〜9.8となるように調整することが好ましく、5.5〜9.5とすることがより好ましく、6.0〜9.0とすることがさらに好ましい。
【0016】
反応時間は、触媒量、ラセミ体アミノ酸アミドの種類により異なるが、通常5〜60時間である。この範囲内であると反応収率、製造工程の操作効率などの点で好ましい。アミダーゼによる立体選択的加水分解反応の反応終了は、触媒や原料アミノ酸アミドの種類により異なるため一概ではないが、例えば下式で定義される原料変換率を高速液体クロマトグラフィーの分析値から算出し、原料変換率が90%以上消費された時点で反応終了とすることが好ましく、95%以上とすることがより好ましく、99%以上とすることが特に好ましい。この範囲内であると、光学活性アミノ酸の収率が向上する。
原料変換率(%)=((目的とする鏡像体の光学活性アミノ酸mol量)X 200)/((目的とする鏡像体の光学活性アミノ酸mol量)+(残アミノ酸アミドmol量))
【0017】
3.酸の中和((3)工程)
アミダーゼによる立体選択的加水分解反応後、光学活性アミノ酸及び光学活性アミノ酸アミド含有水溶液が得られる。反応後該水溶液中の酸がほぼ中和されるmol量の無機塩基化合物を加える。無機塩基化合物を添加する操作は触媒除去前でも触媒除去後何れの段階で行っても構わない。
【0018】
ここでいう酸がほぼ中和されるmol量とは、酸のプロトン(H+)のほとんどが中和される量〜完全に中和される量〜若干過剰量を指し、具体的には、(1)工程で使用した酸((2)工程でpHを調整するために酸を用いた場合はその酸も含む)に対し、0.900〜1.100mol当量の無機塩基化合物を加える。この範囲内であると、α−光学活性アミノ酸の収率、α−光学活性アミノ酸回収工程の操作性などの点で好ましい。無機塩基化合物の量は、0.950〜1.050mol当量であることが好ましく、0.975〜1.025mol当量であることが特に好ましい。例えば、酸として硫酸を使用し、無機塩基化合物として水酸化ナトリウムを使用したとして、水溶液中に硫酸1molが存在している場合、水酸化ナトリウムの添加量は1.80〜2.20molの範囲内である。さらに好ましくは1.90〜2.10molの範囲であり、1.95〜2.05molの範囲が特に好ましい。
【0019】
無機塩基化合物としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられ、これらの中でアルカリ金属塩の強塩基化合物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いることが好ましい。使用形態は、無機塩基性化合物そのもの若しくは水溶液の状態で用いることができる。
無機塩基化合物添加時の光学活性アミノ酸及び光学活性アミノ酸アミド含有水溶液の温度はアミノ酸、アミノ酸アミドの種類や濃度により異なるが、通常5〜70℃の範囲である。
【0020】
4.溶媒置換操作((4)工程)
光学活性アミノ酸及び光学活性アミノ酸アミド含有水溶液の溶媒を水から置換する前に触媒を除去する。除去方法は特に限定しないが例えば、遠心分離、ろ過等の方法を用いて行うことができる。菌体又は該処理物を除去した反応液は必要に応じて減圧濃縮操作を行ってもよい。
【0021】
得られた反応液又は濃縮液中の水を炭素数3以上の直鎖、分岐、あるいは環状アルコールの中から選ばれた少なくとも1種類以上の溶媒に置換する。アルコールとしてはイソプロピルアルコール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、n−アミルアルコール、シクロペンタノール、n−ヘキシルアルコール、シクロヘキサノール、n−オクタノールなどが挙げられる。これら溶媒は収率、操作効率などの点から好ましい。イソプロピルアルコール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、n−アミルアルコール、シクロヘキサノールを用いることがより好ましく、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、i−ブタノール、n−アミルアルコール、シクロヘキサノールを用いることが特に好ましい。
【0022】
溶媒の置換は共沸等の操作によって行なわれ、触媒による立体選択的加水分解反応後得られる光学活性アミノ酸及び光学活性アミノ酸アミド含有水溶液に含まれる水を90質量%以上までアルコール溶媒へと置換する。この値以上であると光学活性アミノ酸の収率などの点で好ましい。置換操作条件については、高い収率で光学活性アミノ酸が回収できるのであれば特に限定はない。たとえば、用いるアルコール、光学活性アミノ酸及び光学活性アミノ酸アミドの種類により異なるが、溶媒置換効率や光学活性アミノ酸結晶の晶径などの点から、通常減圧下、内温30〜80℃の範囲内で置換操作を行う。アルコール溶媒へ置換した後の光学活性アミノ酸の濃度は、光学活性アミノ酸の収率、純度及び操作効率などの点から1〜50質量%が好ましく、より好ましくは5〜40質量%、特に好ましくは10〜30質量%である。この時、光学活性アミノ酸及び/又は光学活性アミノ酸アミド結晶は析出していても、析出していなくてもどちらでもよい。
【0023】
5.光学活性アミノ酸結晶の回収((5)工程)
次に、上述のごとく調製した光学活性アミノ酸及び光学活性アミノ酸アミドを含むアルコール溶媒溶液を冷却して結晶を析出させる。この時純度向上や結晶晶径改善を目的に、冷却前にアルコール溶媒溶液を30〜80℃の範囲で加温しても良い。
冷却速度は、結晶成長、結晶純度などの点から60℃/hr以下とすることが好ましい。また、50℃/hr以下とすることがより好ましく、40℃/hr以下とすることが特に好ましい。
【0024】
光学活性アミノ酸結晶の単離は、ろ過又は遠心分離等により単離することができる。単離温度は操作性、取り扱いに優れた結晶が収率良く得られれば特に制限されないが、−10〜40℃とすることが好ましい。この範囲内であると結晶の収率及び純度が高い点で好ましい。温度は、0〜30℃とすることが特に好ましい。
【0025】
上述のようにして、光学活性アミノ酸及び光学活性アミノ酸アミド含有水溶液から高選択的に光学活性アミノ酸の結晶を単離することができる。通常、結晶中の光学活性アミノ酸アミドの含有量は、光学活性アミノ酸に対し1質量%未満である。この値以下であると後述する光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸類の製造において収率、製品N−アルコキシカルボニルアミノ酸類の化学純度などの点で好ましい。得られた光学活性アミノ酸湿結晶は、保存安定性などの点から必要に応じ真空乾燥などの溶媒除去操作を行っても良い。
【0026】
また、アルコール溶媒溶液として回収された光学活性アミノ酸アミドは公知の方法によってラセミ化し、アミダーゼによる立体選択的加水分解反応の原料に再利用できる。通常、ラセミ化反応は該アルコール溶媒溶液に強塩基化合物を加え加熱して行う。ラセミ化反応後、公知の方法、例えば晶析操作によってラセミ体アミノ酸アミドを回収し、アミダーゼによる立体選択的加水分解反応の原料に再利用する。
【0027】
6.光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸類
本発明に係る光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸は、下記一般式(II)で示される化合物である。
【化2】


上記一般式(II)中、R1及びR2は、同一又は異なっており、水素原子、または任意の置換基を示す。
任意の置換基としては、例えば、低級アルキル基、置換低級アルキル基、低級アルケニル基、置換低級アルケニル基、シクロアルキル基、置換シクロアルキル基、芳香族基、置換芳香族基、複素環基、又は置換複素環基等が好ましい。
【0028】
上記一般式(II)中、−OR3は、アルコキシ基であり、炭素数1〜8の直鎖又は分岐アルコキシ基、ベンジルオキシ基又はフェネチルオキシ基等が好ましく、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、iso−プロポキシ基、ブトキシ基、iso−ブトキシ基、tert−ブトキシ基又はベンジルオキシ基等が特に好ましい。
【0029】
一般式(II)で示される化合物としては、例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、トリプトファン、フェニルアラニン、セリン、システイン、チロシン、リジン、ヒスチジン、2−アミノ酪酸、シクロヘキシルアラニン、ノルバリン、ノルロイシン、6−ヒドロキシノルロイシン、ネオペンチルグリシン、ペニシラミン、tert−ロイシン、フェニルグリシン、2−クロロフェニルグリシン、3−クロロフェニルグリシン、4−クロロフェニルグリシン等のN−アルコキシカルボニル誘導体が挙げられる。好ましくはノルバリン、tert−ロイシン、フェニルグリシン、フェニルアラニンのN−アルコキシカルボニル誘導体であり、特に好ましくは、N−tert−ブトキシカルボニル−tert−ロイシン、N−エトキシカルボニル−tert−ロイシン、N−メトキシカルボニル−tert−ロイシン、N−ベンジルオキシ−カルボニル−tert−ロイシン、N−tert−ブトキシカルボニル−フェニルアラニン、N−エトキシカルボニル−フェニルアラニン、N−メトキシカルボニル−フェニルアラニン又はN−ベンジルオキシカルボニル−フェニルアラニンである。
【0030】
また場合によっては、光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸を酸性化合物の塩、又は塩基化合物の塩として回収しても良い。塩酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、カルシウム塩、メチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩などが操作性、収率などの面で好ましく、ジシクロヘキシルアミン塩がより好ましい。
【0031】
7.光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸の調製
光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸は、光学活性アミノ酸とN−アルコキシカルボニル化剤とを水性媒体中で反応させ調製する。この時光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸製造の原料として、本発明にかかる光学活性アミノ酸の製造方法により、立体選択的加水分解反応の反応液から回収された光学活性アミノ酸の粗生成物を使用できる。例えば、上述アミダーゼによる立体選択的加水分解反応で光学活性アミノ酸は、通常結晶中に酸の中和操作により生じた無機塩を含んでいるが、公知の方法による無機塩除去操作、例えば再結晶又はイオン交換樹脂への吸着、などを行うことなく光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸製造の原料として使用できる。
【0032】
N−アルコキシカルボニル化剤としては、アミノ酸のアミノ基をN−アルコキシカルボニル化できるものであれば良い。好ましくは、クロロギ酸エステル(例えば、クロロギ酸メチル、クロロギ酸エチル、クロロギ酸ベンジル)、ジアルキルジカーボネート(例えば、ジ−tert−ブチルジカーボネート)等から適宜選択され、N−メトキシカルボニル−アミノ酸、N−エトキシカルボニル−アミノ酸、N−ベンジルオキシカルボニル−アミノ酸、N−tert−ブトキシカルボニルアミノ酸等が得られる。
【0033】
本発明において、水性媒体とは、水、あるいは水と水に親和性を有する有機溶媒との混合溶媒又は水と水に実質的に混和しない有機溶媒の二相系溶媒をいう。二相系溶媒を用いる場合は、その水相部分で反応を行う。
【0034】
N−アルコキシカルボニル化反応は、塩基性条件下で行うことが好ましい。
水性媒体を塩基性に調整する際に用いる塩基性化合物としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン又はピリジン等の有機塩基化合物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド又はカリウムtert−ブトキシド等のアルカリ金属アルコラート化合物、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウム等の無機塩基化合物等が挙げられ、これら化合物の1種又は複数種を組み合わせて用いることができる。塩基性化合物の使用形態は、塩基性化合物そのもの若しくは水溶液又は有機溶媒溶液として用いることができる。
【0035】
反応時の水性媒体のpHを10〜50℃での測定値が7.5〜13.5の間で保つことがより好ましく、pHを8〜13の間で保つことが特に好ましい。この範囲内であると反応収率の点で好ましい。
反応液のpHを一定の範囲で保つ場合は上記塩基性化合物の1種又は複数種を組み合わせて適宜添加しても良い。
【0036】
反応時間は、0.1〜100時間が好ましい。この範囲内であると反応収率や反応温度・pH制御等操作性の点で好ましい。反応時間は、0.2〜24時間とすることがより好ましく、1〜15時間とすることが特に好ましい。反応温度は、0〜90℃が好ましい。この範囲内であると反応収率の点で好ましい。反応温度は5〜60℃とすることがより好ましく、10〜30℃とすることが特に好ましい。
【0037】
N−アルコキシカルボニル化反応は、原料であるアミノ酸の量を高速液体クロマトグラフィーにより分析し、90%以上消費された時点で反応終了とすることが好ましく、95%以上とすることがより好ましく、99%以上とすることが特に好ましい。この範囲内であると、N−アルコキシカルボニルアミノ酸の収率が向上する。
【0038】
上述のように、N−アルコキシカルボニル化反応によってN−アルコキシカルボニルアミノ酸水溶液が生成する。N−アルコキシカルボニル化反応後、回収光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸の純度向上を目的として、回収工程前にN−アルコキシカルボニルアミノ酸反応液のpHを、反応時のpHより高く、かつpH14未満に保持する操作を行っても良い。例えば、反応時のpHより、10〜50℃においての測定値で、0.2〜6.0高くすることが好ましく、0.25〜4.0高くすることが更に好ましい。
【0039】
N−アルコキシカルボニルアミノ酸水溶液からのN−アルコキシカルボニルアミノ酸の回収操作については、高純度のN−アルコキシカルボニルアミノ酸を回収できる方法であれば良く、例えば、保持工程後のN−アルコキシカルボニルアミノ酸水溶液を酸性とした後、有機溶媒によってN−アルコキシカルボニルアミノ酸を抽出する方法、有機溶媒を添加した後、水相部分が酸性となるようにpHを調整し、有機溶媒によってN−アルコキシカルボニルアミノ酸を抽出する方法等が挙げられる。水溶液または水相部分のpHは、10〜50℃での測定値が、例えば、0.5〜6.0であることが好ましく、1.0〜5.0であることが更に好ましい。
ここで、水溶液または水相を酸性にするために添加する酸性物質としては、硫酸、塩酸、又は硝酸等の鉱酸が好ましい。
【0040】
抽出に用いる有機溶剤としてはN−アルコキシカルボニルアミノ酸を効率よく抽出できるものであれば良い。例えば、酢酸エチル又は酢酸ブチル等のエステル類、トルエン又はキシレン等の芳香族炭化水素又はクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素、n−ペンタン又はn−ヘキサン等の脂肪族炭化水素、クロロホルム又は塩化メチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。この中でトルエン又はキシレン等の芳香族炭化水素又はクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素が、抽出効率、単離操作の操作収率などの点で好ましく、トルエン又はキシレン等の芳香族炭化水素がより好ましい。
【0041】
抽出操作時の温度は30〜80℃の範囲が好ましい。この範囲であると抽出効率などの点で好ましく、40〜70℃の範囲がより好ましい。
【0042】
光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸類の単離前に、純度向上や単離収率向上を目的として、光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸を含む有機溶媒溶液を、少量の水、及び/又は無機塩を含む水で洗浄する、あるいは/さらに共沸脱水等の脱水処理を行う等の操作を行っても良い。脱水処理後の光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸を含む有機溶媒溶液の水分濃度は、結晶成長、結晶純度、収率等が向上する点で0.5質量%以下とすることが好ましく、0.1質量%以下とすることがより好ましく、0.05質量%以下とすることが特に好ましい。
【0043】
光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸を含む有機溶媒溶液の光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸濃度は、2〜50質量%とすることが好ましい。この範囲内であると操作が容易である。濃度は、5〜40質量%とすることがより好ましく、10〜30質量%とすることが特に好ましい。
【0044】
8.光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸類の単離工程
次に、上述のごとく調製したN−アルコキシカルボニルアミノ酸を含む有機溶媒溶液からN−アルコキシカルボニルアミノ酸類を単離する。
例えば光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸結晶を単離する場合、有機溶媒溶液から冷却晶析により光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸結晶を回収できる。
冷却速度は、結晶成長、結晶純度などの点から25℃/hr以下とすることが好ましい。また、20℃/hr以下とすることがより好ましく、15℃/hr以下とすることが特に好ましい。
【0045】
有機溶媒溶液からN−アルコキシカルボニルアミノ酸の析出してくる析出温度は、光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸の種類、濃度等により異なる。通常は、−10〜80℃のである。例えば、トルエンからN−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシンを析出させる場合の析出温度は、濃度15〜30質量%のとき45〜65℃である。結晶析出後、冷却操作を継続しても良いが、結晶成長、結晶純度、収率等が向上する点で、光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸結晶が析出している有機溶媒溶液を析出した光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸結晶が完全に再溶解しない温度まで昇温し、光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸結晶の一部を残存させて再溶解させた後、再度、該溶液を冷却しても良い。冷却速度は、上述の条件と同じである。
【0046】
単離温度は操作性、取り扱いに優れた結晶が収率良く得られれば特に制限されないが、−10〜50℃とすることが好ましい。この範囲内であると結晶の収率及び純度が高い点で好ましい。温度は、0〜40℃とすることが特に好ましい。
【0047】
また、光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸塩類、例えば光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸ジシクロヘキシルアミン塩を単離する場合、回収した光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸を含む有機溶媒溶液にジシクロヘキシルアミンを加え光学活性N−アルコキシカルボニルアミノ酸ジシクロヘキシルアミン塩を調製した後、前述操作と同様にして晶析操作を行い、該塩を単離することができる。
【0048】
上述のようにして、高い化学純度有する光学活性N−アルコキシカルボニル酸類を回収できる。通常化学純度は98%以上である。光学活性アミノ酸の粗成生物を使用した場合でも、精製した高純度の光学活性アミノ酸を使用した場合と同様の化学純度を有する光学活性N−アルコキシカルボニル酸類を製造できるため、製造工程時間、収率などの点で工業的に優位である。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。
なお、実施例中の化合物の分析は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて行った。
【0050】
<tert−ロイシンアミド及びL−tert−ロイシンのHPLC分析条件>
試料調製: 反応液を純水で希釈する
カラム: イナートシル ODS−3V GLサイエンス社製
移動層: 0.1% リン酸水溶液(v/v)
流速: 1mL/min
検出: RI
tert−ロイシンアミドの保持時間: 約4.5分
L−tert−ロイシンの保持時間: 約8.7分
【0051】
アミダーゼによる立体選択的加水分解反応での原料変換率は、上述分析条件により算出した原料tert−ロイシンアミド残量と生成L−tert−ロイシン量から下式により計算した。
原料変換率(%)=((L−tert−ロイシンmol量)X 200)/((L−tert−ロイシンmol量)+(残tert−ロイシンアミドmol量))
【0052】
<L−tert−ロイシンの結晶の化学純度のHPLC分析条件>
試料調製: 結晶を純水に溶解し、1.0%w/v溶液を調製する
カラム: イナートシル ODS−3V GLサイエンス社製
移動層: 0.1% リン酸水溶液(v/v)
流速: 1mL/min
検出: RI
tert−ロイシンアミドの保持時間: 約4.5分
L−tert−ロイシンの保持時間: 約8.7分
【0053】
<N−tert−ブトキシカルボニル−L−tert−ロイシンのHPLC分析条件>
試料調製:反応液を移動層で希釈する
カラム: イナートシル ODS−3V GLサイエンス社製
移動層: 10mMリン酸2水素1ナトリウム水溶液(pH 3.0):アセトニトリル(40:60)
流速: 1mL/min
検出: UV(210nm)
各化合物の保持時間:
N−tert−ブトキシカルボニル−L−tert−ロイシン 約5.2分
【0054】
<N−tert−ブトキシカルボニル−L−tert−ロイシン結晶の化学純度のHPLC分析条件>
試料調製: 結晶を移動層に溶解し、0.5%w/v溶液を調製する
カラム: イナートシル ODS−3V GLサイエンス社製
移動層: 10mMリン酸2水素1ナトリウム水溶液(pH 3.0):アセトニトリル(40:60)
流速: 1mL/min
検出: UV(210nm)
各化合物の保持時間:
N−tert−ブトキシカルボニル−L−tert−ロイシン 約5.5分
【0055】
<N−ベンジルオキシカルボニル−L−tert−ロイシンのHPLC分析条件>
試料調製:反応液をメタノールで希釈する
カラム: イナートシル ODS−3V GLサイエンス社製
移動層: 0.1% リン酸水溶液(v/v):アセトニトリル(40:60)
流速: 1mL/min
検出: UV(254nm)
各化合物の保持時間:
N−ベンジルオキシカルボニル−L−tert−ロイシン 約5.5分
【0056】
<N−ベンジルオキシカルボニル−L−tert−ロイシン・ジシクロヘキシルアミン塩の化学純度のHPLC分析条件>
試料調製: 塩を移動層に溶解し、0.5%w/v溶液を調製する
カラム: イナートシル ODS−3V GLサイエンス社製
移動層: 0.1% リン酸水溶液(v/v):アセトニトリル(40:60)
流速: 1mL/min
検出: UV(254nm)
各化合物の保持時間:
N−ベンジルオキシカルボニル−L−tert−ロイシン 約5.5分
【0057】
[実施例1]
(1)アミダーゼ活性を有する生体触媒の調製
WO2000/063354号記載の方法に従い、E.coli JM109/pLA205( FERM BP−7132)の培養を行った。培養液1Lを遠心分離し、次いで湿潤菌体を蒸留水に懸濁して菌体懸濁溶液20gを調製した。
【0058】
(2)アミダーゼによる立体選択的加水分解反応
ラセミ体tert−ロイシンアミド250g(1.92mol)を純水717gに溶解した。この時のpHは11.3であった(測定温度23℃)。これに98%硫酸32.7g(0.327mol)を加え該水溶液のpHを8.3に調整し、25質量%ラセミtert−ロイシンアミド水溶液を調製した(pH測定温度26℃)。pH調整後、(1)で調製した菌体懸濁液をラセミtert−ロイシンアミド水溶液に加え、40℃水槽中で26時間振とうし立体選択的加水分解反応を行った。
26時間後の原料変換率は100%であり、L−tert−ロイシン125.9g(0.960mol)が生成していた。
【0059】
(3)無機塩基化合物の添加
反応終了後、40℃水槽中で反応液に25質量%水酸化ナトリウム水溶液104.0g(0.650mol)を加えた。この時、硫酸1molに対して水酸化ナトリウム1.99mol加えたことになる。
【0060】
中和操作後、水溶液にろ過助剤(ラジオライト)及び活性炭を加え、60℃で加温混合した後、加圧ろ過器用い菌体を除去した。ろ残を純水で洗浄、L−tert−ロイシン125.3g(0.955mol)とD−tert−ロイシンアミド124.3g(0.955mol)を含む水溶液1250gを得た。
【0061】
(4)溶媒置換
内温を55〜60℃の範囲に保ちながら、全体量が839.0gになるまで減圧濃縮した後、n−ブタノール(n−BuOH)450gを加えた。次いで内温を55〜65℃の範囲に保ちながら全体量が840.0gになるまで減圧濃縮した。さらにn−BuOH450gを加え、同様の条件で全体量が840.0gになるまで減圧濃縮し共沸脱水し、結果上清の水分濃度が1質量%以下になるまで同様の操作を繰り返し、溶媒を水からn−BuOHへ置換した。
【0062】
(5)結晶の採取
溶媒置換後、L−tert−ロイシン結晶の析出が確認された。また溶媒置換終了時の内温は63℃であった。次いで40℃/hrの冷却速度で内温15℃まで冷却し、その後、15℃で30分間攪拌した。遠心分離機によりL−tert−ロイシン結晶を回収し、次いで少量のn−BuOHで結晶を洗浄した。湿結晶を真空乾燥後、172.0gのL−tert−ロイシン粗結晶が得られた。
【0063】
HPLC分析の結果、粗結晶中に含まれるL−tert−ロイシン純分は124.1gであった(0.946mol、L−tert−ロイシンアミド基準で収率98.5%)。また純分L−tert−ロイシンに対するD−tert−ロイシンアミドの混入量は質量比で0.1%であった。
【0064】
[比較例1]
「(3)無機塩基化合物の添加」の工程の、水酸化ナトリウムによる中和操作を省略した以外は実施例1と同様に操作を行った。
「(4)溶媒置換」の工程において、内温を55〜60℃の範囲に保ちながら、これを全体量が839.0gになるまで減圧濃縮した後、n−BuOH450gを加え、内温を55〜65℃の範囲に保ちながら全体量が840.0gになるまで減圧濃縮した。さらにn−BuOH450gを加え、同様の条件で全体量が840.0gになるまで減圧濃縮した。
結果、上記操作後の溶液は固化しておりL−tert−ロイシンを選択的に回収することは困難であった。
【0065】
[実施例2〜8、比較例2、3]
実施例1の「(3)無機塩基化合物の添加」の工程において、40℃水槽中で硫酸1molに対して、表1に従って各々水酸化ナトリウム1.75〜2.30mol加え中和操作を行い、L−tert−ロイシン粗結晶を回収した。表1に、L−tert−ロイシンアミド基準によるL−tert−ロイシンの収率、および、純分L−tert−ロイシンに対するD−tert−ロイシンアミドの混入量を示す。
【表1】


【0066】
[実施例9]
硫酸の代わりに35質量%塩酸水溶液を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、pH8.3(測定温度28℃)の25質量%ラセミ体tert−ロイシンアミド水溶液1000gを調製した。この時の35質量%塩酸水溶液使用量は63.5g(0.610mol)であった。次に立体選択的加水分解反応を行った。26時間後の原料変換率は100%であり、L−tert−ロイシン125.9g(0.960mol)が生成していた。
【0067】
反応終了後、40℃水槽中で反応液に20質量%水酸化ナトリウム水溶液122.0g(0.610mol)を加えた。この時塩酸1molに対して水酸化ナトリウム1.00mol加えたことになる。
触媒除去操作、溶媒置換操作さらに冷却晶析、L−tert−ロイシン結晶単離操作行い、真空乾燥後、157.9gのL−tert−ロイシン粗結晶が得られた。HPLC分析の結果、粗結晶中に含まれるL−tert−ロイシン純分は124.4gであった(0.948mol、L−tert−ロイシンアミド基準で収率98.8%)。また純分L−tert−ロイシンに対するD−tert−ロイシンアミドの混入量は質量比で0.15%であった。
【0068】
[実施例10〜15、比較例4]
表2に従い、硫酸でpHを5.5〜10に各々調整し、25質量%ラセミ体tert−ロイシンアミド水溶液1000gを調製した。実施例1と同様に立体選択的加水分解反応を行い、22時間後の原料変換率を測定した。表2に、原料変換率の測定結果を示す。
【表2】


【0069】
[実施例16、17]
表3に従い硫酸で各々pHを調整し、29質量%ラセミ体tert−ロイシンアミド水溶液860gを調製した。実施例1と同様に立体選択的加水分解反応を行い、24時間後の原料変換率を測定した。表3に、原料変換率の測定結果を示す。
【表3】


【0070】
[実施例18〜21]
実施例1の「(4)溶媒置換」の工程において、表4に従い、n−ブタノールの代わりにイソプロピルアルコール、n−アミルアルコール、i−ブタノール、シクロヘキサノールを用いて溶媒置換を行い、L−tert−ロイシン粗結晶を回収した。
【表4】


【0071】
[実施例22] N−アルコキシカルボニル化反応
実施例1で得られたL−tert−ロイシン粗結晶172.0g(L−tert−ロイシン純分124.1g、0.946mol)を277.5gの15質量%水酸化ナトリウム水溶液(1.04mol)に添加後、攪拌して溶解させた。次いで、これを攪拌しながらクロロギ酸メチル98.7g(1.04mol)を2時間かけて加えた。
【0072】
N−アルコキシカルボニル化反応中は15〜20℃で反応液のpHが12.2〜12.6になるように適宜25%wtNaOH水溶液を加えた。その後、HPLC分析によりL−tert−ロイシンが99%以上消費されたことを確認し反応を終了した。反応終了後、反応液を20℃でpH13.0〜13.2に5時間保持した。この時、N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシン生成量はHPLC分析より177.2g(収率99.0%)であった。
【0073】
反応終了後の水溶液にトルエン270gを加え、次いで、35質量%塩酸を水相のpHが1.5になるまで加えた。pHを1.5に調整後、この溶液を50℃で0.5時間、撹拌により混合した。その後、静置して分相し、トルエン相にトルエン450.0gを加え、結果N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシンを含むトルエン溶液894.0gを回収した。このトルエン溶液の内温を50℃に保持しながら41gの水で洗浄した。水洗浄後回収したN−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシンを含むトルエン溶液の水分濃度をカールフィッシャー水分測定器で測定したところ、水分濃度は1.5質量%であった。このN−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシン含むトルエン溶液にさらにトルエン200gを加え、内温を55〜65℃に保持しながら全体量が865gになるまで減圧濃縮した。これにトルエン200gを加え、同様の条件で全体量が865gになるまで減圧濃縮し共沸脱水した。以降トルエン溶液の水分量が0.01質量%以下になるまで同様の操作で共沸脱水を行った。トルエン溶液を内温が70℃になるまで加温した後、熱時ろ過して微量不溶分を除去した。ろ液としてN−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシンを含むトルエン溶液860.0g(N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシン濃度20質量%)を回収した。
【0074】
このトルエン溶液を内温70℃で攪拌しながら15℃〜18℃/hrの冷却速度で冷却した。内温52℃でN−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシン結晶が析出したことを目視で確認した。その後、内温を60℃まで昇温してから60℃で1時間攪拌した。この時、析出したN−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシン結晶は完全に溶解せずに一部残存していることを確認した。攪拌後、15℃〜18℃/hrの冷却速度で該溶液を内温10℃まで冷却し、その後、10℃で1時間攪拌した。減圧ろ過によりN−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシン結晶を回収し、次いで少量のトルエンで結晶を洗浄した。湿結晶を真空乾燥後、170.0gのN−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシン結晶が得られた(0.898mol、収率95.0%)。化学純度は99.9%以上であり不純物はHPLC検出限界値以下であった。
【0075】
[比較例5]
(1)精製L−tert−ロイシンの調製
実施例1で得られたL−tert−ロイシン粗結晶90.0g(L−tert−ロイシン純分64.9g)を純水660gに加え、65℃で攪拌し溶解させた。減圧下水溶液をろ過して微量不溶物を除去した後、内温を50−55℃に保ちながらろ過液を380gまで減圧濃縮した。濃縮液の内温を50℃に保ちながらメタノール120gを加えた。25℃〜30℃/hrの冷却速度で該溶液を内温4℃まで冷却し、その後、4℃で3時間攪拌した。減圧ろ過によりL−tert−ロイシン結晶を回収し、次いで少量のメタノールで結晶を洗浄した。湿結晶を真空乾燥後、51.9gのL−tert−ロイシン結晶が得られた。この結晶中のL−tert−ロイシン含量は50.2gであり、純度は97.0%であった(回収率75.0%)。
【0076】
(2)N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシンの合成
実施例1で得られたL−tert−ロイシン粗結晶の代わりに、(1)で調製した精製L−tert−ロイシン結晶を用いて、実施例22と同様の操作を行い、N−メトキシカルボニル−L−tert−ロイシンを合成した。表5に、実施例22と比較例5のL−tert−ロイシンからの収率、L−tert−ロイシンアミドからの収率、および、化学純度を示す。
【表5】


【0077】
[実施例23] N−アルコキシカルボニル化反応
実施例1で得られたL−tert−ロイシン粗結晶172.0g(L−tert−ロイシン純分124.1g、0.946mol)を277.5gの15質量%水酸化ナトリウム水溶液(1.04mol)に添加後、攪拌して溶解させた。次いで、これを攪拌しながらジ−tert−ブチルジカーボネート235.7g(1.09mol)を3時間かけて加えた。
【0078】
N−アルコキシカルボニル化反応中は30〜35℃で反応液のpHが8.8〜9.5になるように、適宜20%wtNaOH水溶液を加えた。その後、HPLC分析によりL−tert−ロイシンが99%以上消費されたことを確認し反応を終了した。この時、N−tert−ブトキシカルボニル−L−tert−ロイシン生成量はHPLC分析より216.6g(収率99.0%)であった。
【0079】
このN−tert−ブトキシカルボニル−L−tert−ロイシン水溶液にトルエン550gを加え、次いで、35質量%塩酸を水相のpHが4.0になるまで加えた。pHを4.0に調整後、この溶液を40℃で0.5時間、撹拌により混合した。静置して分相した後、トルエン相に内温を40℃に保持しながら44gの水で洗浄した。水洗浄後トルエン300gを加え、N−tert−ブトキシカルボニル−L−tert−ロイシンを含むトルエン溶液1090g(N−tert−ブトキシカルボニル−L−tert−ロイシン濃度19質量%)を回収した。回収トルエン溶液を内温40〜45℃に保持しながら全体量が292gになるまで減圧濃縮した。この時の水分濃度は0.01質量%であった。減圧濃縮後、内温40℃でn−ヘプタン515gを加えた後、攪拌しながら15℃〜18℃/hrの冷却速度で該溶液を内温10℃まで冷却し、その後、10℃で2時間攪拌した。減圧ろ過によりN−tert−ブトキシカルボニル−L−tert−ロイシン結晶を回収し、次いで少量のn−ヘプタンで結晶を洗浄した。湿結晶を真空乾燥後、205.7gのN−tert−ブトキシカルボニル−L−tert−ロイシン結晶が得られた(0.889mol、収率95.0%)。化学純度は99.4%であった。
【0080】
[実施例24]
実施例1で得られたL−tert−ロイシン粗結晶81.9g(L−tert−ロイシン純分59.1g、0.451mol)を117.5gの16質量%水酸化ナトリウム水溶液(0.482mol)に添加後、攪拌して溶解させた。次いで、これを攪拌しながらクロロギ酸ベンジル85.3g(0.50mol)を2時間かけて加えた。
【0081】
N−アルコキシカルボニル化反応中は20〜30℃で反応液のpHが12.2〜12.6になるように適宜25%wtNaOH水溶液を加えた。その後、HPLC分析によりL−tert−ロイシンが99%以上消費されたことを確認し反応を終了した。反応終了後、反応液を20℃でpH13.0〜13.2に5時間保持した。この時、N−ベンジルオキシカルボニル−L−tert−ロイシン生成量はHPLC分析より116.1g(収率97.0%)であった。
【0082】
内温30℃に保ちながら、このN−ベンジルオキシカルボニル−L−tert−ロイシン水溶液をトルエン180gで2回洗浄した。さらにトルエン190gを加え、次いで20質量%塩酸を水相のpHが1.4になるまで加えた。pHを1.4に調整後、この溶液を40℃で0.5時間、撹拌により混合した。静置して分相した後、回収した水相にトルエン90gを加え40℃で0.5時間、撹拌により混合した。2回の抽出操作で得られた有機相を合わせ、N−ベンジルオキシカルボニル−L−tert−ロイシンを含むトルエン溶液405g(N−ベンジルオキシカルボニル−L−tert−ロイシン濃度28質量%)を回収した。水分濃度をカールフィッシャー水分測定器で測定したところ、水分濃度は0.3質量%であった。
【0083】
このN−ベンジルオキシカルボニル−L−tert−ロイシン含むトルエン溶液にさらにトルエン300gを加え、内温を55〜65℃に保持しながら全体量が565gになるまで減圧濃縮した。これにトルエン160gを加え、同様の条件で全体量が565gになるまで減圧濃縮し共沸脱水した。以降トルエン溶液の水分量が0.01質量%以下になるまで同様の操作で共沸脱水を行った。共沸脱水後、トルエンで希釈しN−ベンジルオキシカルボニル−L−tert−ロイシン含むトルエン溶液を865g得た。
【0084】
さらにこのトルエン溶液を攪拌しながらジシクロヘキシルアミン79.2g(0.437mol)を1時間かけて加えた。添加中、内温は20℃付近に保持し、添加後、N−ベンジルオキシカルボニル−L−tert−ロイシン・ジシクロヘキシルアミン塩の析出が確認された。内温15℃で3時間攪拌した後、減圧ろ過により、N−ベンジルオキシカルボニル−L−tert−ロイシン・ジシクロヘキシルアミン塩結晶を回収し、次いで少量のトルエンで結晶を洗浄した。湿結晶を真空乾燥後、183.1gのN−ベンジルオキシカルボニル−L−tert−ロイシン・ジシクロヘキシルアミン塩結晶が得られた(0.410mol、収率91.0%)。化学純度は99.5%であった。
【出願人】 【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
【出願日】 平成18年11月16日(2006.11.16)
【代理人】 【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩

【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二

【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄

【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁


【公開番号】 特開2008−125364(P2008−125364A)
【公開日】 平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願番号】 特願2006−310356(P2006−310356)