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【発明の名称】 遊離カルボン酸・アミンの直接縮合反応を触媒する酵素の設計方法及びナイロンオリゴマーの酵素的製造方法
【発明者】 【氏名】根来 誠司

【氏名】武尾 正弘

【氏名】加藤 太一郎

【氏名】樋口 芳樹

【氏名】柴田 直樹

【要約】 【課題】遊離カルボキシル基と遊離アミノ基との間の直接縮合を触媒する酵素、及びその様な酵素を用いる非天然アミドの酵素的合成方法を提供する。

【構成】6−アミノカプロン酸を基質として、特定な配列のナイロンオリゴマー合成酵素を用いて、有機溶媒/水混合溶媒中でナイロンオリゴマーを合成する。この酵素は、30℃程度の温和な条件で、極めて短時間に遊離カルボキシル基と遊離アミノ基との間の直接縮合を触媒し、ナイロンオリゴマーを合成できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
6-アミノカプロン酸を基質とし、配列番号2に記載のナイロンオリゴマー合成酵素を用いて、有機溶媒/水混合溶媒中でナイロンオリゴマーを合成することを特徴とするナイロンオリゴマーの酵素的製造方法。
【請求項2】
ナイロンオリゴマー分解酵素内のフレキシブルループの長さとループ内アミノ酸残基の種類、クレフト内の基質結合に関わるアミノ酸の種類を、タンパク質工学・分子進化工学的手法で改変することで、基質と酵素との相互作用を変化させることを原理とする非天然アミド化合物の合成酵素の設計方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、ナイロンオリゴマーを微水系で合成しうる酵素を用いるナイロンオリゴマーの酵素的製造方法に関する。また、本発明は、タンパク質工学・分子進化工学的な手法に基づく非天然アミド化合物の合成酵素の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
6-ナイロンは6-アミノカプロン酸が100量体以上重合したポリマーであり、カプロラクタムに水、ナイロン塩、アミノカプロン酸、塩基等を少量添加して、220℃〜300℃ で数時間〜数十時間加熱して重合させることにより製造される。また、縮合剤を用いることにより、常温でアミド結合の生成が可能となる。
【0003】
一般にカルボン酸のカルボニル基自体には求電子性が低いため、反応性の高い活性エステルに誘導するか、N,N -ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)等の種々の活性化剤を用いて活性中間体を発生させた後、アルコールやアミンと反応させる。この方法では原料と等モルの縮合剤が必要であるが、縮合剤は一般に高価である。また、反応後は副産物の分離精製工程を要し、製造コストがさらに高くなるという欠点がある。
【0004】
一方、酵素を触媒として基質から目的物を合成する酵素的合成方法は、基質特異性及び立体特異性が高く、常温常圧での実施可能であるという特徴を有している。このような酵素を用いる有機物の合成方法として、Streptomyces属に属する微生物由来の加水分解酵素を用いるアミドの合成方法が、特許文献1に開示されている。
【0005】
また、オリゴ糖が化学結合したモノマーをプライマーとし、酵素(マルトペンタオースの場合はホスホリラーゼ)を用いて、オリゴ糖鎖を多糖誘導体モノマーまで合成する方法が、特許文献2に開示されている。
【0006】
ここで、本発明者等は、6-ナイロン工業の副産物として合成される非天然アミド化合物(ナイロンオリゴマー)をモデル系とし、非天然物質に対する微生物適応機構に関する研究を行ってきた。Arthrobacter 属細菌 KI72株の6-アミノカプロン酸直鎖状二量体加水分解酵素(EII/EII’)及び変異酵素Hyb-24については、1.4〜1.8Åの高分解能で立体構造解析が完了している(非特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−81107号公報
【特許文献2】特開平6−199883号公報
【非特許文献1】Negoro et al. J. Biol. Chem. 280, 39644-39652 (2005).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非水系又は微水系(有機溶媒と少量の水との混合溶媒系)で、加水分解の逆反応を利用した例として、これまでリパーゼを用いた脂肪酸エステル類の合成、プロテアーゼを用いたペプチド合成等の報告があるが、副生する水分子が逆反応の加水分解に関わるため、通常、予め、カルボン酸エステルに変換することが必要である。しかし、このような条件においても、順方向の加水分解速度に比べて、微水系におけるペプチド合成は遅く、脱水縮合には数時間〜10日間(通常10〜20時間程度)を要する。
【0008】
遊離カルボキシル基とアミノ基からの直接アミド結合が生成できれば、保護プロセスが省略できるため、種々のアミド化合物の合成が容易になるが、上述したとおり、化学的合成法及び酵素的合成法とも、遊離カルボキシル基とアミノ基との間の直接縮合は、非常に起こりにくい。また、リパーゼ・プロテアーゼを用いたエステル・ペプチドは、いずれも生理的基質を対象としたもので、非天然化合物への適用は困難である。
【0009】
本発明は、遊離カルボキシル基と遊離アミノ基との間の直接縮合反応を触媒する酵素を用いる非天然アミドの酵素的合成方法の提供を目的とする。また、本発明は、上記酵素を設計するためのタンパク質工学・分子進化学的手法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、ナイロンオリゴマー分解菌であるArthrobacter sp. KI72株の6-aminohexanoate-oligomer hydrolase(アミノカプロン酸直鎖状二量体加水分解酵素)(高活性型EII、低活性型EII’、変異酵素Hyb-24)に着目し、その立体構造を解析した。そして、機能が大きく異なる各種変異酵素を得た。その中に90%tert-ブチルアルコール/10%水混合系の微水系において、6-アミノカプロン酸からナイロンオリゴマーの合成反応を触媒する酵素を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
具体的に、本発明は、
6-アミノカプロン酸を基質とし、配列番号2に記載のナイロンオリゴマー合成酵素を用いて、有機溶媒/水混合溶媒中でナイロンオリゴマーを合成することを特徴とするナイロンオリゴマーの酵素的製造方法に関する(請求項1)。
【0012】
配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するナイロンオリゴマー合成酵素は、Hyb-24(配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する)の2個のアミノ酸残基を置換した構造を有する変異酵素であり、微水系において6-アミノカプロン酸からナイロンオリゴマー(2〜6量体)を合成することができる。
【0013】
また、本発明は、
ループの長さとループ内アミノ酸残基の種類、クレフト内の基質結合に関わるアミノ酸の種類を選択することで、基質と酵素との相互作用を変化させることを原理とする、タンパク質工学・分子進化工学的な非天然アミド化合物の合成酵素の設計方法に関する(請求項2)。
【発明の効果】
【0014】
本発明のナイロンオリゴマー合成酵素は、30℃程度の温和な条件で、極めて短時間に遊離カルボキシル基と遊離アミノ基との間の直接縮合を触媒し、ナイロンオリゴマーを合成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、これらに限定されない。
【0016】
<ナイロンオリゴマー合成酵素Hyb-24DNの製造>
はじめに、Arthrobacter sp. KI72株の6-aminohexanoate-oligomer hydrolase(アミノカプロン酸直鎖状二量体加水分解酵素)の変異酵素であるHyb-24DNの製造方法について説明する。なお、Hyb-24DNの製造工程の概略を、図1に示す。
【0017】
(粗Hyb-24DN液の調製)
Hyb-24DN(配列番号2)は、Hyb-24(配列番号1)にG181D/H266Nの2置換を含む変異型酵素(配列番号1の181番目をGly→Asp、266番目をHis→Asnにそれぞれ置換)である。このHyb-24DN酵素をコードする遺伝子を大腸菌ベクター(pKP1500)へ組み込んだ組換えプラスミド(pHY3DN1)を、大腸菌KP3998株へ形質転換で導入した。同菌株を300mL のTBA培地 (組成:バクトトリプトン 20 g/L、 酵母エキス 5g/L、NaCl 0.5 g/L、MgCl2 0.19 g/L、グルコース 0.9 g/L、アンピシリン 100 mg/L、pH 7.0)を用いて、37℃で対数増殖期まで培養した(約4時間)。
【0018】
次に、IPTG(isopropyl β-D-thiogalactoside)を終濃度1 mMとなるように加え、さらに、20時間培養を継続した。遠心分離(4℃、8000 rpm、5分間)により集菌し、緩衝液A(10%グリセロールを含む20 mMリン酸緩衝液pH 7.3)で2回洗浄した後、20 mLの緩衝液Aに再懸濁させた。この菌体懸濁液を超音波破砕処理(20 kHz、5分間×4回)後、遠心分離(4℃、17000 rpm、30分間)し、その上澄液を細胞抽出液とした。
【0019】
(イオン交換カラムクロマトグラフィーによる変異酵素の精製)
上で得た細胞抽出液を、予め緩衝液Aで平衡化しておいたHi-Trap Q Sepharose(登録商標)カラム(カラム容量5 mL)にチャージした。15 mLの緩衝液Aで洗浄後、0 Mから0.5 Mまで食塩濃度を直線的に変えて全容300 mLで溶出させた。流速は3 mL/minで行い、6 mLずつ分取した。
【0020】
その後、各フラクションをSDS-PAGE分析に供し、目的タンパク質が溶出しているフラクションを特定し、遠心型濃縮器(MILLIPORE製、YM-10)で濃縮した。このHyb-24DN溶液(5 mg/mL)を、後述するナイロンオリゴマー合成反応に使用した。
【0021】
(ナイロン基本ユニットの合成に適した反応条件の選定)
表1に示す有機溶媒各450 μLに、100mMの6-アミノヘキサン酸(Ahx)50 μL及びHyb-24DN溶液(5 mg/mL)10 μLを加え、30℃で24時間反応させた。
【0022】
【表1】


【0023】
反応溶液1μLを、シリカ薄層プレート(Merck製)に負荷し、展開溶媒(1-プロパノール:水:酢酸エチル:アンモニア水=24:12:4:1.5(容積比))で展開後、0.2%ニンヒドリン溶液を噴霧し、反応生成物を確認した。
【0024】
その結果、図2に示すように、n-プロピルアルコール(n-Propanol)、n-ブチルアルコール(n-Butanol)及びtert-ブチルアルコール(tert-Butanol)を使用した場合にはAhx二量体の合成が確認された。また、tert-ブチルアルコールを使用した場合には、Ahx三量体及びAhx四量体の合成も確認された。なお、図2中のAl2はAhx二量体、Al3はAhx三量体、Al4はAhx四量体をそれぞれ表している。
【0025】
一方、これら3種類以外の有機溶媒を使用した場合には、Ahx二量体の合成は確認されなかった。
【0026】
[実施例1]
Hyb-24DN溶液(5 mg/mL)を希釈して、1.25 mg/mLの酵素濃度とした。tert-ブチルアルコール90容量%及び水10容量%の混合溶媒450 μLに、100 mMの6-アミノヘキサン酸(Ahx)50 μL及びHyb-24DN稀釈溶液(1.25 mg/mL)10 μLを加え、30℃で180分間反応させた。
【0027】
この間、経時的に反応溶液1μLをサンプリングし、上述した0.2%ニンヒドリン溶液を用いる方法で反応生成物を確認した。その結果を、図3に示す。
【0028】
反応時間5分で基質の約50%がAl2へと変換され、この後、180分まで緩やかに二量体から四量体への合成が進むことが明らかになった。
【0029】
次に、原料の約60〜70%がAl2へと変換された後、反応が停止する理由が、酵素の不安定性に起因するのか、反応がその時点で平衡になるのかについて検討した。
【0030】
tert-ブチルアルコール450 μL及びHyb-24DN溶液(1.25 mg/mL)5 μLをマイクロチューブ10本にそれぞれ採取し、0、5、10、15、30、45、60、90、120及び180分後に100 mM Ahxを50 μL加え、30℃で酵素反応を行った。その結果、図4に示すように、180分後においても合成活性に顕著な低下が認められなかったことから、合成反応が停止するのは、合成と分解が平衡になっているためであると考えられた。
【0031】
[実施例2]
tert-ブチルアルコール90容量%及び水10容量%の混合溶媒450 μLに、100 mMの4-アミノブタン酸50 μL及びHyb-24DN稀釈溶液(1.25 mg/mL)10 μLを加え、30℃で180分間反応させた。
【0032】
[実施例3]
tert-ブチルアルコール90容量%及び水10容量%の混合溶媒450 μLに、100 mMの5-アミノヘプタン酸50 μL及びHyb-24DN稀釈溶液(1.25 mg/mL)10 μLを加え、30℃で180分間反応させた。
【0033】
実施例2及び実施例3について、180分後の反応溶液1μLをサンプリングし、上述した0.2%ニンヒドリン溶液を用いる方法で反応生成物を確認した。その結果、図5に示すように、6-アミノヘキサン酸と同様、5-アミノペンタン酸及び4-アミノ酪酸からもニ量体の合成が認められた。
【0034】
<類似酵素との活性比較>
Hyb-24DNの類似酵素として、Hyb-24(配列番号1)にG181E/H266Nの2置換を含む変異型酵素(配列番号1の181番目をGly→Glu、266番目をHis→Asnにそれぞれ置換)であるHyb-24EN(配列番号3)を使用した。Hyb-24ENの製造方法は、Hyb-24DNと同様である。
【0035】
Hyb-24DN及びHyb-24ENの分解活性及び合成活性の比較を、図6に示す。まず、Hyb-24ENの分解活性はHyb-24DNと比較して非常に低かった。また、分解反応についても、Hyb-24ENは6-アミノヘキサン二量体の合成反応を触媒するだけであった。
【0036】
(Hyb-24DNの立体構造上の特徴)
Hyb-24DNは、EII(配列番号4)、EII’(配列番号5)及びHyb-24と同じく、β-ラクタマーゼフォールドを有する酵素群に属する。β-ラクタマーゼフォールドを有する酵素群は、β-ラクタム加水分解、カルボン酸エステル加水分解、DD-ペプチド加水分解等多様な機能を有するが、Hyb-24DNの立体構造を解析した結果、N末端から167〜177番目のアミノ酸残基の位置が基質の結合に伴い大きく移動する(ループ移動を伴う誘導適合)というユニークな性質を有することを見出した。
【0037】
すなわち、Hyb-24DNでは、Hyb-24DNと基質結合との結合段階(図7)から、基質がアシル化する段階(図8)にかけて、触媒クレフト内の水分子の大半(7分子)が排除される。そして、逆反応(Al2合成反応)においては、アミド結合生成のための効率的な反応場となる。このため、30℃程度の温和な条件で、極めて短時間の反応で遊離カルボキシル基と遊離アミノ基からのアミド結合の生成が可能になる。
【0038】
このようなクレフト内の非水性環境は、167番目〜177番目のフレキシブルループの移動に起因している。ループの移動を伴う誘導適合は、ヘキソキナーゼ等の糖代謝に関係する酵素群では知られているが、Serを活性中心とする各種プロテアーゼ、β-ラクタマーゼ等の近縁酵素群では報告例がない。
【0039】
ループ移動の後、Tyr170側鎖の回転により、同残基が触媒中心に配位される。Tyr170は、基質アミド窒素からの距離が、触媒中心Tyr215とほぼ等価な位置にある。すなわち、アミド加水分解・合成反応に関与する新たな触媒中心が形成される。
【0040】
ループの長さとループ内アミノ酸残基の種類、クレフト内の基質結合に関わるアミノ酸の種類を選択することで、基質と酵素との相互作用を変化させることができる。従って、酵素のクレフト内の非水空間を利用することにより、種々のカルボン酸とアミンの直接縮合が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
立体構造情報を基盤として、ナイロンオリゴマー分解酵素のクレフト内に変異を導入した遺伝子ライブラリーを構築することにより、これらを利用して種々の有用アミド化合物の生産等を行うことが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】Hyb-24DNの製造工程の概略を示す図である。
【図2】6種類の有機溶媒を使用した場合における薄層クロマトグラフィーの写真である。
【図3】実施例1における反応時間と反応生成物の変化を示す薄層クロマトグラフィーの写真である。
【図4】実施例1におけるHyb-24DN/tert-ブチルアルコールの接触時間と、反応生成物の変化を示す薄層クロマトグラフィーの写真である。
【図5】実施例1〜実施例3における反応生成物を示す薄層クロマトグラフィーの写真である。
【図6】Hyb-24DN及びHyb-24ENの分解活性及び合成活性の比較を表す図である。
【図7】Hyb-24DNのクレフト内の構造を表す図である。
【図8】Hyb-24DNと基質結合との結合段階におけるクレフト内の構造を表す図である。
【出願人】 【識別番号】592216384
【氏名又は名称】兵庫県
【出願日】 平成18年9月4日(2006.9.4)
【代理人】 【識別番号】100065868
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 嘉宏

【識別番号】100106242
【弁理士】
【氏名又は名称】古川 安航

【識別番号】100110951
【弁理士】
【氏名又は名称】西谷 俊男

【識別番号】100114834
【弁理士】
【氏名又は名称】幅 慶司

【識別番号】100127982
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 優


【公開番号】 特開2008−61501(P2008−61501A)
【公開日】 平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願番号】 特願2006−239119(P2006−239119)