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【発明の名称】 バイオマス原料の処理方法、並びに、これを利用した糖の製造方法及びエタノールの製造方法
【発明者】 【氏名】五十嵐 圭日子

【氏名】鮫島 正浩

【要約】 【課題】バイオマス原料の処理工程、並びに、後に続く酵素糖化工程及び発酵工程を連続的に、かつ効率的に行うことのできる、有用なバイオマス原料の処理方法、並びに、前記バイオマス原料の処理方法を利用した糖の製造方法及びエタノールの製造方法を提供すること。

【構成】バイオマス原料を、微生物代謝性有機酸を用いて処理することを特徴とするバイオマス原料の処理方法、並びに、前記バイオマス原料の処理方法を利用した糖の製造方法及びエタノールの製造方法である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス原料を、微生物代謝性有機酸を用いて処理することを特徴とするバイオマス原料の処理方法。
【請求項2】
処理が、蒸煮により行われる請求項1に記載のバイオマス原料の処理方法。
【請求項3】
微生物代謝性有機酸が、クエン酸及びリンゴ酸の少なくともいずれかである請求項1から2のいずれかに記載のバイオマス原料の処理方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のバイオマス原料の処理方法により得られた処理物を、酵素糖化させて、糖を得ることを特徴とする糖の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の糖の製造方法により得られた糖を、発酵させて、エタノールを得ることを特徴とするエタノールの製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス原料の処理方法、並びに、前記バイオマス原料の処理方法を利用した糖の製造方法及びエタノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策の一環として、サトウキビ等のバイオマス原料からエタノールを製造し、各種燃料や化学原料として利用しようとする試みが広く行われている。バイオマス原料からのエタノールの製造は、例えば、収集したバイオマス原料を、糖化工程において糖に分解した後、発酵工程において酵母等の微生物を用いてエタノールに変換することにより行うことができる。前記糖化は、従来、塩酸や硫酸等の強酸を用いて行われることが多かったが、環境負荷を減らす観点から、これらの強酸の使用は避けることが望まれている。
【0003】
そこで、近年は、塩酸や硫酸等の強酸による糖化に代わる手段として、酵素を用いたバイオマス原料の糖化が広く行われるようになっている。酵素による糖化は、環境性の観点から望ましい手段であるが、この酵素糖化のためには、予め、バイオマス原料の処理を行うことが不可欠となる。このバイオマス原料の処理技術としても様々な方法が知られているが、中でも、希硫酸、酢酸等の酸を用いた蒸煮処理が知られている(例えば、特許文献1〜4参照)。
しかしながら、前記したような希硫酸、酢酸等の酸を用いた従来の処理技術では、その後の酵素糖化工程、発酵工程を連続的に行うことができず、非効率であるという問題があった。
【0004】
したがって、バイオマス原料の処理工程、並びに、後に続く酵素糖化工程及び発酵工程を連続的に、かつ効率的に行うことのできる有用なバイオマス原料の処理技術の開発は、未だ望まれているのが現状である。
【0005】
【特許文献1】特開2006−075007号公報
【特許文献2】特開2004−121055号公報
【特許文献3】特表2002−541355号公報
【特許文献4】特開2002−159954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、バイオマス原料の処理工程、並びに、後に続く酵素糖化工程及び発酵工程を連続的に、かつ効率的に行うことのできる、有用なバイオマス原料の処理方法、並びに、前記バイオマス原料の処理方法を利用した糖の製造方法及びエタノールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、バイオマス原料の処理工程においてバイオマス原料を蒸煮する際に、クエン酸、リンゴ酸等の微生物代謝性有機酸を用いることにより、後に続く酵素糖化工程及び発酵工程を連続して行うことができ、更には、処理工程、酵素糖化工程、発酵工程の各工程のより一層の効率化を図ることができるという知見である。
【0008】
従来から、バイオマス原料の処理工程においてバイオマス原料を蒸煮する際に、酢酸等の有機酸を用いることは知られていた。しかしながら、酢酸等では、発酵工程に残った場合、酵母等のアルコール発酵微生物の働きを阻害してしまうため、効率的な発酵のためには発酵工程以前にこの酢酸等を取り除かなくてはならず、手間がかかり、全体として非効率であった。
【0009】
これに対し、クエン酸、リンゴ酸等の微生物代謝性有機酸は、発酵工程で使用される酵母等のアルコール発酵微生物の働きを阻害しないので、前記発酵工程前に取り除かれる必要がなく、そのため、前記処理工程、前記酵素糖化工程、及び前記発酵工程を連続して行うことができ、操作が容易である。
また、クエン酸、リンゴ酸等の微生物代謝性有機酸を使用することにより、処理工程においては、バイオマス原料からのヘミセルロースの溶出を効率化することができる。また、続く酵素糖化工程においては、前記処理工程においてヘミセルロースが効率良く溶出されたため、酵素がセルロースに作用し易い状態となり、そのため、セルロース由来のグルコース生産量を増加させることができる。また、更に、ヘミセルロース由来の糖の生産量を増加させることもでき、したがって、全体として、糖の生産効率を向上させることができる。更に、クエン酸、リンゴ酸等の微生物代謝性有機酸は、発酵工程で酵母等のアルコール発酵微生物のエネルギー源としても利用されるので、発酵工程をより一層効率的に進行させることができる。即ち、バイオマス原料の処理工程においてクエン酸、リンゴ酸等の微生物代謝性有機酸を使用することにより、処理工程、酵素糖化工程、発酵工程の各工程のより一層の効率化を図ることができ、最終的に、エタノールの生産効率を向上させることが可能となる。
また、特にクエン酸は、一般にpH緩衝液にも利用されており、前記酵素糖化工程における酵素反応のために必要な、前記処理工程後のpH調整及びpH安定化を容易に行うことができる点でも、有利である。
【0010】
なお、バイオマス原料の処理工程において、クエン酸、リンゴ酸等の微生物代謝性有機酸を使用すること、また、前記微生物代謝性有機酸を使用することにより、前記したような様々な優れた効果が奏されることは、従来全く知られておらず、本発明者らの新たな知見である。
【0011】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> バイオマス原料を、微生物代謝性有機酸を用いて処理することを特徴とするバイオマス原料の処理方法である。
<2> 処理が、蒸煮により行われる前記<1>に記載のバイオマス原料の処理方法である。
<3> 微生物代謝性有機酸が、クエン酸及びリンゴ酸の少なくともいずれかである前記<1>から<2>のいずれかに記載のバイオマス原料の処理方法である。
<4> 前記<1>から<3>のいずれかに記載のバイオマス原料の処理方法により得られた処理物を、酵素糖化させて、糖を得ることを特徴とする糖の製造方法である。
<5> 前記<4>に記載の糖の製造方法により得られた糖を、発酵させて、エタノールを得ることを特徴とするエタノールの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、バイオマス原料の処理工程、並びに、後に続く酵素糖化工程及び発酵工程を連続的に、かつ効率的に行うことのできる、有用なバイオマス原料の処理方法、並びに、前記バイオマス原料の処理方法を利用した糖の製造方法及びエタノールの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(バイオマス原料の処理方法)
本発明のバイオマス原料の処理方法は、バイオマス原料を、微生物代謝性有機酸を用いて処理すること(処理工程)を含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0014】
<バイオマス原料>
前記バイオマス原料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、農業や林業等の生産活動に伴う残渣として得られる「廃棄物系バイオマス」や、エネルギー等を得る目的で意図的に栽培して得られる「資源作物系バイオマス」などを使用することができる。前記「廃棄物系バイオマス」としては、例えば、廃建材、間伐材、稲わら、麦わら、もみ殻、バガス、サトウキビ搾りかすなどが挙げられ、また、前記「資源作物系バイオマス」としては、例えば、サトウキビ、トウモロコシ等の糖質系作物などが挙げられる。また、バイオマス原料は、木を原料とした「木質バイオマス」、草を原料とした「草本バイオマス」などにも分類される。これらの中でも、前記バイオマス原料としては、資源の有効利用が可能であるという点で、廃棄物系バイオマスが好ましく、中でも、エタノール生産への利用が困難なリグニン含量が少ない点で、稲わら、麦わら、もみ殻、バガス、サトウキビ搾りかす等の草本バイオマスがより好ましい。
また、前記バイオマス原料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
<微生物代謝性有機酸>
前記微生物代謝性有機酸としては、微生物、好ましくは、後述する発酵工程で使用される酵母等のアルコール発酵微生物が代謝可能な有機酸であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸等のTCA回路に関与する各種有機酸;ピルビン酸、2−ホスホグリセリン酸、3―ホスホグリセリン酸等の解糖系に関与する各種有機酸;などが挙げられる。これらの中でも、前記微生物代謝性有機酸としては、TCA回路に関与する各種有機酸が好ましく、中でも、クエン酸、リンゴ酸がより好ましく、クエン酸が特に好ましい。クエン酸は、一般にpH緩衝液にも利用されており、そのため、後述する酵素糖化工程における酵素反応のために必要な、前記処理工程後のpH調整及びpH安定化を容易に行うことができる点で、有利である。
また、前記微生物代謝性有機酸は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
<処理工程>
前記バイオマス原料を、前記微生物代謝性有機酸を用いて処理する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、収集した前記バイオマス原料を、前記微生物代謝性有機酸と共に蒸煮する方法が、特に好ましい。前記蒸煮は、従来公知の方法を利用して行うことができ、例えば、前記バイオマス原料を、前記微生物代謝性有機酸と接触させた状態で、オートクレーブを用いて、飽和水蒸気中で加熱加圧することにより行うことができる。なお、前記バイオマス原料を前記微生物代謝性有機酸と接触させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記バイオマス原料に、前記微生物代謝性有機酸を含む水溶液を噴霧することにより行われてもよいし、前記バイオマス原料を、前記微生物代謝性有機酸を含む水溶液に含浸させることにより行われてもよい。
【0017】
ここで、前記バイオマス原料としては、収集されたものをそのまま使用してもよいが、ある程度小さくしてから使用することが、処理に必要なエネルギーを抑えることができる点で、望ましい。したがって、前記バイオマス原料のサイズとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、5mm径以下が好ましく、1mm径以下がより好ましく、0.1mm径以下が特に好ましい。前記サイズが、5mm径を超えると、処理が不十分となることがある。一方、前記サイズが、前記特に好ましい範囲内であると、処理時間が短縮できる、使用する微生物代謝性有機酸の容量を少なくできるなどの点で、有利である。
【0018】
前記処理に使用する微生物代謝性有機酸の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、0.01〜5.0Mが好ましく、0.05〜2.0Mがより好ましく、0.1〜1.0Mが特に好ましい。前記濃度が、0.01M未満であると、処理が不十分となることがあり、5.0Mを超えると、後述するpH調整(中和)に必要なアルカリ量が多くなることがある。一方、前記濃度が、前記特に好ましい範囲内であると、後述する酵素糖化工程に適した緩衝液濃度を設定し易いなどの点で、有利である。
【0019】
前記処理時の、前記微生物代謝性有機酸の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記バイオマス原料1gに対して、1〜50mLが好ましく、2〜20mLがより好ましく、5〜10mLが特に好ましい。前記微生物代謝性有機酸の使用量が、前記バイオマス原料1gに対して、1mL未満であると、処理が不十分となることがあり、50mLを超えると、後述する酵素糖化工程において得られる糖液が希薄となることがある。一方、前記微生物代謝性有機酸の使用量が、前記特に好ましい範囲内であると、使用する微生物代謝性有機酸の量を少なくすることができる、後述する酵素糖化工程に適した基質濃度を設定し易い、などの点で、有利である。
【0020】
前記処理温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、50〜250℃が好ましく、100〜180℃がより好ましく、121℃が特に好ましい。前記温度が、50℃未満であると、処理が不十分となることがあり、250℃を超えると、副反応によって、後述する酵素糖化工程における糖の収量が落ちることがある。一方、前記温度が、前記特に好ましい範囲内であると、市販のオートクレーブを利用できる点で、有利である。
【0021】
前記処理時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、10分〜3時間が好ましく、20分〜2時間がより好ましく、30分〜1時間が特に好ましい。前記処理時間が、10分未満であると、処理が不十分となることがあり、3時間を超えると、副反応によって、後述する酵素糖化工程における糖の収量が落ちることがある。
【0022】
前記処理により、前記バイオマス原料に含まれるヘミセルロースの大部分はオリゴ糖程度にまで分解されて水に可溶となり、そのため、後述する酵素糖化工程において、酵素が糖化対象となるセルロースや、ヘミセルロース由来のオリゴ糖に作用し易くなる。
前記処理により得られた処理物は、例えば、そのまま後述する本発明の糖の製造方法に供してもよいし、以下のようなその他の工程を経て、後述する本発明の糖の製造方法に供してもよい。
【0023】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記処理工程により得られた処理物を、後述する酵素糖化工程における酵素反応に適切となるようなpHに調整する工程などが挙げられる。前記処理には酸を使用することから、前記処理物は通常、酸性を示す。したがって、前記pH調整工程では通常、前記処理物にアルカリを添加し、所望のpHに調整する。前記アルカリとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。
【0024】
(糖の製造方法)
本発明の糖の製造方法は、前記本発明のバイオマス原料の処理方法により得られた前記処理物を、酵素糖化させて、糖を得ること(酵素糖化工程)を含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0025】
<酵素糖化工程>
前記処理物の酵素糖化に使用する酵素としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、セルラーゼ、セロビアーゼ(β−グルコシダーゼ)などが挙げられる。
【0026】
前記糖化の際の、前記酵素の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記処理物1mLに対して、0.001〜100mgが好ましく、0.01〜10mgがより好ましく、0.1〜1mgが特に好ましい。前記酵素の使用量が、前記処理物1mLに対して、0.001mg未満であると、酵素糖化が不十分となることがあり、100mgを超えると、糖化阻害が起こることがある。一方、前記酵素の使用量が、前記特に好ましい範囲内であると、酵素添加量に対して得られる糖の量が多い点で、有利である。
【0027】
前記糖化温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、10〜70℃が好ましく、20〜60℃がより好ましく、30〜50℃が特に好ましい。前記温度が、10℃未満であると、酵素糖化ができないことがあり、70℃を超えると、酵素が失活することがある。一方、前記温度が、前記特に好ましい範囲内であると、酵素添加量に対して得られる糖の量が多い点で、有利である。
【0028】
前記糖化時のpHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、3.0〜6.0が好ましく、3.5〜5.5がより好ましく、4.0〜5.0が特に好ましい。前記pHが、3.0未満であるか、又は6.0を超えると、微生物代謝性有機酸が緩衝液として働かなくなることがある。一方、前記pHが、前記特に好ましい範囲内であると、微生物代謝性有機酸が緩衝液として働く点で、有利である。
【0029】
前記酵素糖化により、セルロース由来の糖であるグルコースを含む糖液を得ることができる。また、前記酵素糖化により得られた糖液は、好ましくは、ヘミセルロース由来の糖をも含む。へミセルロース由来の糖としては、例えば、キシロース、アラビノースといった五単糖や、グルコース、ガラクトース、マンノースといった六単糖が挙げられる。
前記糖液は、例えば、そのまま後述する本発明のエタノールの製造方法に供してもよいし、以下のようなその他の工程を経て、後述する本発明のエタノールの製造方法に供してもよい。
【0030】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記糖液を、後述する発酵工程に適切となるようなpHに調整する工程などが挙げられる。
【0031】
(エタノールの製造方法)
本発明のエタノールの製造方法は、前記本発明のバイオマス原料の処理方法及び前記本発明の糖の製造方法の少なくともいずれかにより得られた糖を、発酵させて、エタノールを得ること(発酵工程)を含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0032】
<発酵工程>
前記糖を発酵させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記糖を含む溶液に酵母等のアルコール発酵微生物を添加して、アルコール発酵を行わせる方法が、特に好ましい。前記酵母としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、サッカロミセス属酵母などが挙げられる。また、前記酵母としては、有機酸に対する耐性を持つ酵母が好ましく、中でも、前記処理工程において使用した微生物代謝性有機酸に対する耐性を持つ酵母がより好ましい。なお、前記酵母は、天然酵母であってもよいし、遺伝子組み換え酵母であってもよい。
【0033】
前記発酵の際の、前記酵母の使用量、発酵温度、pH、発酵時間等については、特に制限はなく、例えば、アルコール発酵に供する糖の量、使用する酵母の種類等に応じて、適宜選択することができる。
【0034】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記発酵工程により得られたエタノールを分離精製する工程などが挙げられる。前記分離精製の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、蒸留などが挙げられる。
【0035】
前記エタノールの製造方法により得られたエタノールは、例えば、燃料用エタノール、工業用エタノールなどとして好適に利用可能である。前記エタノールはサトウキビ等のバイオマス原料から得ることができるので、前記サトウキビ等の植物を生産できる限りは再生産が可能であり、また、前記植物は栽培時に大気中の二酸化炭素を吸収するため、前記エタノールを燃焼させて二酸化炭素が発生したとしても、大気中の二酸化炭素濃度を増加させることにはならない。したがって、前記エタノールは、地球温暖化防止に望ましいエネルギー源ということができる。また、このようなエタノールは、近年特に、ガソリンに混合し、環境に優しい自動車燃料として使用することが期待されている。
【0036】
[効果]
本発明の、バイオマス原料の処理方法、糖の製造方法、及びエタノールの製造方法によれば、処理工程においてクエン酸、リンゴ酸等の微生物代謝性有機酸を使用することにより、後に続く酵素糖化工程及び発酵工程を連続的に、かつ効率的に行うことが可能となる。クエン酸、リンゴ酸等の微生物代謝性有機酸は、前記発酵工程で使用される酵母等のアルコール発酵微生物の働きを阻害しないので、前記発酵工程前に取り除かれる必要がなく、そのため、前記処理工程、前記酵素糖化工程、及び前記発酵工程を連続して行うことができ、操作が容易である。
また、クエン酸、リンゴ酸等の微生物代謝性有機酸を使用することにより、処理工程においては、バイオマス原料からのヘミセルロースの溶出を効率化することができる。また、続く酵素糖化工程においては、前記処理工程においてヘミセルロースが効率良く溶出されたため、酵素がセルロースに作用し易い状態となり、そのため、セルロース由来のグルコース生産量を増加させることができる。また、更に、ヘミセルロース由来の糖の生産量を増加させることもでき、したがって、全体として、糖の生産効率を向上させることができる。更に、クエン酸、リンゴ酸等の微生物代謝性有機酸は、発酵工程で酵母等のアルコール発酵微生物のエネルギー源としても利用されるので、発酵工程をより一層効率的に進行させることができる。即ち、バイオマス原料の処理工程においてクエン酸、リンゴ酸等の微生物代謝性有機酸を使用することにより、処理工程、酵素糖化工程、発酵工程の各工程のより一層の効率化を図ることができ、最終的に、エタノールの生産効率を向上させることが可能となる。
また、特にクエン酸は、一般にpH緩衝液にも利用されており、前記酵素糖化工程における酵素反応のために必要な、前記処理工程後のpH調整及びpH安定化を容易に行うことができる点でも、有利である。
【実施例】
【0037】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
−処理工程−
500ml容三角フラスコに、10gの粗粉砕バガス(5mm径メッシュ通過分)を入れ、クエン酸(0.1M若しくは1.0M)又は酢酸(0.1M)を100ml加え、各サンプルを準備した。また、同量のバガスにイオン交換水を100ml加え、対照サンプルを準備した。全てのサンプルについて、121℃、30分間オートクレーブ処理を行った。オートクレーブ処理後、クエン酸を含むサンプルと酢酸を含むサンプルは、1.0MのNaOHによってpH5.0に調整した後、イオン交換水で、終容量が200mlになるようにメスアップした。また、対照サンプルには、終濃度が0.05Mになるように酢酸緩衝液(pH5.0)を添加し、同様に終容量が200mlになるように調整した。
【0039】
−酵素糖化工程−
上記処理物に、Trichoderma reesei由来のセルラーゼ(Sigma社製)及びAspergillus niger由来セロビアーゼ(Sigma社製)を、それぞれ終濃度0.1mg/mlになるように添加し、37℃で24時間、回転振とう器(150rpm)によってインキュベートした。その後、不溶性残渣をガラスフィルターによって濾別し、得られた上清(糖液)のグルコース濃度を、グルコーステストCIIワコー(和光純薬社製)によって測定した。結果を図1〜2に示す。
−糖濃度測定−
上述の実験で得られた糖液(180ml)を凍結乾燥し、30mlのイオン交換水に溶解させた。全糖濃度はフェノール硫酸法を用いて測定した。糖液1mlと5%フェノール水溶液を混合し、濃硫酸5mlを加えた後10分間静置した。その後、再度混合した後30分間静置し、490nmにおける吸光度を測定した。各種単糖濃度はパルスドアンペロメトリー検出器を搭載した高速液体クロマトグラフィー(日本ダイオネクス社製)を用いて定量した。結果を図3に示す。
【0040】
図1〜2の結果、バイオマスの処理工程においてクエン酸を使用することにより、同濃度の酢酸を使用した場合と比較して、得られるグルコース量が増加することが確認された。また、少なくとも0〜1.0Mの範囲内では、クエン酸濃度の増加に伴い、得られるグルコース量も増加することが確認された。
また、図3の結果、バイオマスの処理工程においてクエン酸を使用することにより、同濃度の酢酸を使用した場合と比較して、得られる全糖濃度が増加し、特に、ヘミセルロース由来の単糖濃度(特に、グルコース、キシロース、アラビノース、ガラクトース)が増加していることが確認された。
【0041】
クエン酸の使用によるこのような糖濃度の増加に伴い、続く発酵工程により得られるエタノール収量も増加するものと推測される。また更に、クエン酸は発酵工程で酵母のエネルギー源としても利用されるので、このことからも、続く発酵工程がより一層効率的に進行するものと推測される。なお、近年はキシロースやアラビノース等、ヘミセルロース由来の五単糖を利用してエタノールを産生する技術開発も広く行われており、これらの五単糖の増加も、グルコース等の六単糖の増加と併せ、エタノール生産の効率化に有利であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の、バイオマス原料の処理方法、糖の製造方法、及びエタノールの製造方法によれば、バイオマス原料の処理工程においてクエン酸、リンゴ酸等の微生物代謝性有機酸を使用することにより、処理工程、酵素糖化工程、及び発酵工程を連続して行うことが可能となり、かつ、それぞれの工程をより一層効率的に行うことが可能となる。したがって、本発明の、バイオマス原料の処理方法、糖の製造方法、及びエタノールの製造方法は、近年注目されている、環境に優しい燃料を産出することを目的としたバイオマス原料からのエタノール製造に、好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、クエン酸処理が酵素糖化に与える影響を示したグラフである。
【図2】図2は、各処理が酵素糖化に与える影響を示したグラフである。
【図3】図3は、クエン酸処理物又は酢酸処理物を酵素糖化した後の各種糖濃度の違いを示したグラフである。
【出願人】 【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
【出願日】 平成18年9月4日(2006.9.4)
【代理人】 【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一

【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広

【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子


【公開番号】 特開2008−54640(P2008−54640A)
【公開日】 平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願番号】 特願2006−238693(P2006−238693)