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【発明の名称】 醗酵生産された3−ヒドロキシアルカン酸共重合体の分離精製方法
【発明者】 【氏名】小畑 恒方

【氏名】堂野 宜久

【氏名】浅井 洋介

【要約】 【課題】PHAを含有する微生物菌体から、有機溶媒を使用することなく少ない工程数で,さらには高価な分離装置を使用することなく高純度のPHAを得ることができるPHAの分離精製方法を提供すること。

【構成】3−ヒドロキシアルカン酸共重合体を含有する微生物菌体の培養ブロスに、2価以上の金属塩水溶液に添加したらゲル化する多糖類を溶解させたのち,得られる混合液を2価以上の金属塩水溶液に添加することにより造粒させ、脱液して造粒物を回収することを特徴とする本発明の方法を用いて、3−ヒドロキシアルカン酸共重合体を分離精製すること。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−ヒドロキシアルカン酸共重合体を含有する微生物菌体の培養ブロスに、2価以上の金属塩水溶液に添加したらゲル化する多糖類を溶解させたのち、得られる混合液を2価以上の金属塩水溶液に添加することにより造粒させ、脱液して造粒物を回収することを特徴とする醗酵生産された3−ヒドロキシアルカン酸共重合体の分離精製方法。
【請求項2】
多糖類が、アルギン酸ナトリウム及び/又はカラギーナンであることを特徴とする請求項1記載の醗酵生産された3−ヒドロキシアルカン酸共重合体の分離精製方法。
【請求項3】
2価以上の金属塩水溶液が、カルシウム塩、マグネシウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の醗酵生産された3−ヒドロキシアルカン酸共重合体の分離精製方法。
【請求項4】
回収された造粒物をさらに酸化剤処理することにより3−ヒドロキシアルカン酸共重合体以外の成分を除くことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の醗酵生産された3−ヒドロキシアルカン酸共重合体の分離精製方法。
【請求項5】
酸化剤が次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素、過酢酸、過炭酸ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項4記載の醗酵生産された3−ヒドロキシアルカン酸共重合体の分離精製方法。
【請求項6】
3−ヒドロキシアルカン酸共重合体が、3−ヒドロキシブチレート及び3−ヒドロキシヘキサノエートまたは他の3−ヒドロキシアルカン酸との共重合体である請求項1〜5の何れかに記載の醗酵生産された3−ヒドロキシアルカン酸共重合体の分離精製方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、3−ヒドロキシアルカン酸共重合体を含有する微生物菌体から、醗酵生産された3−ヒドロキシアルカン酸共重合体を分離精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3−ヒドロキシアルカン酸共重合体(以後、PHAと略す)は、多くの微生物種の細胞にエネルギー蓄積物質として生成、蓄積される熱可塑性ポリエステルであり、生分解性を有している。現在、環境への社会意識の高まりからプラスチック廃棄物はリサイクルシステムに組み入れられる傾向にある。しかし、リサイクル可能な用途には限りがあり、実際には、プラスチック廃棄処理方法としては、焼却、埋立て、リサイクルだけでは対応しきれず、自然界に放置されたままになるものも多いのが現状である。そこで、廃棄後は自然界の物質循環に取り込まれ、分解生成物が有害とならないPHAの様な生分解性プラスチックが注目されており、その実用化が切望されている。特に、微生物が菌体内で生成蓄積するPHAは、自然界の炭素循環プロセスに取り込まれることから生態系への悪影響がほとんどないと予想されている。
【0003】
微生物が生成するPHAは、通常顆粒体を形成してその微生物の菌体内に蓄積されるため、PHAをプラスチックとして利用するためには、微生物の菌体内からPHAを分離して取り出すという工程が必要である。PHAを微生物菌体から分離精製する既知の方法として、大別すると、PHAが可溶である有機溶媒を用いて菌体からPHAを抽出する方法と、PHA以外の菌体構成成分を破砕もしくは可溶化させて除くことによりPHAを得る方法とに分けられる。
【0004】
有機溶媒による抽出を利用したPHAの分離精製方法では、例えばアセトン、アセトニトリル、ベンゼン、酢酸ブチルなどの溶剤を用いる方法がある(特許文献1)。しかし、この方法によってPHAを実用に値する濃度(例えば5%)以上に溶解すると抽出液は極めて粘稠となり流動性が低下するため、不溶解性成分との分離が非常に困難である。さらに抽出液からPHAを高い回収率で析出させるためにはさらに4から5倍容のPHA不溶性溶媒が必要となるなど、溶媒の使用量が膨大なため、溶媒の回収コストと損失溶媒のコストがかさむことになる。抽出操作を基本としている方法は、PHAを溶解した抽出液が粘稠であることに起因する問題を根本的に解決する方策が必要とされている。
【0005】
他方、PHA以外の細胞構成成分を化学的処理あるいは物理的破砕処理によって可溶化させて除き、PHAを回収する方法が種々報告されている。PHA含有微生物菌体を破砕する処理と界面活性剤処理を組み合わせる方法(特許文献2)、アルカリ添加し加熱処理を行った後に破砕処理を行う方法(特許文献3)などが挙げられる。これらの手段については、様々な方法が提案されているが、破砕もしくは可溶化だけでは十分なPHA純度が得られず、高価な酵素を使用するなどの問題を抱えている。さらには固液分離操作性に関する詳細記述はないが,ミクロンオーダーの微生物菌体中から得られるさらにサイズの小さいPHAの懸濁液を,常温常圧条件下でフィルターろ過により固液分離することは相当な時間を要することが予想される。また膜分離システムや高回転数の遠心分離機による固液分離では、工業的規模での生産性を確保することと生産コストとの両立が困難であると考えられる。
【0006】
さらにはPHA以外の菌体構成成分を可溶化させて除くことによりPHAを得る方法として、非特許文献1には、微生物菌体懸濁液を次亜塩素酸ナトリウムで処理してPHA以外の菌体構成成分を可溶化し、PHAを得る方法が記載されている。次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤は入手しやすく、またこれらによる処理は、処理温度が100℃未満で実施でき、また工程が簡便である。特許文献4では塩基性成分によりPHA含有菌体を処理する工程と、次亜塩素酸塩を添加して高純度のPHAが得られると述べられている。また、特許文献5には処理に用いる酸化剤の濃度、温度条件が記載されている。
【0007】
ところで特許文献6には、ゴムラテックス粒子のブロッキング問題を解決する目的で、ゴムラテックスとアルギン酸ソーダなどの高分子量ポリアニオンを含む混合溶液を、塩化カルシウム水溶液などのアルカリ土類金属塩水溶液に滴下することにより、粘着性の少ない粒状ゴムを製造する方法が記載されている。
【0008】
いずれにしても、前記に挙げられたPHAを含有した微生物菌体からのPHA分離・精製法では、固液分離がまだまだ複雑かつ困難であり、そのため工程数も多く、生産コストの更なる低減が望まれている。
【特許文献1】特願平09−509489号公報
【特許文献2】特願平11−226841号公報
【特許文献3】国際公開第03/091444号パンフレット
【特許文献4】特開2005−348640号公報
【特許文献5】特開2002−306190号公報
【特許文献6】特開昭52−037987号公報
【非特許文献1】J.Gen.Microbiology,1958年,第19巻,p.198−209
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、PHAを含有する微生物菌体から、有機溶媒を使用することなく少ない工程数で、さらには高価な分離装置を使用することなく、高純度のPHAを得ることができるPHAの分離精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは少ない工程数でPHAを含有する微生物菌体からPHA以外の菌体構成成分を効率よく取り除き、かつ純度の高いPHAを簡便な固液分離手段により得るために鋭意研究を重ねた結果、PHA含有菌体の培養ブロスに例えばアルギン酸ナトリウムのような多糖類を溶解させ、得られる混合液を2価以上の金属塩水溶液に添加してゲル化することを利用し、造粒させることにより固液分離が容易になること、得られた造粒物に例えば次亜塩素酸ナトリウム水溶液などの酸化剤で処理することにより純度の高いPHA粉体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の第一は、3−ヒドロキシアルカン酸共重合体を含有する微生物菌体の培養ブロスに、2価以上の金属塩水溶液に添加したらゲル化する多糖類を溶解させたのち、得られる混合液を2価以上の金属塩水溶液に添加することにより造粒させ、脱液して造粒物を回収することを特徴とする醗酵生産された3−ヒドロキシアルカン酸共重合体の分離精製方法に関する。好ましい実施態様は、多糖類が、アルギン酸ナトリウム及び/又はカラギーナンであることを特徴とする上記記載の醗酵生産された3−ヒドロキシアルカン酸共重合体の分離精製方法に関する。より好ましくは、2価以上の金属塩水溶液が、カルシウム塩、マグネシウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記記載の醗酵生産された3−ヒドロキシアルカン酸共重合体の分離精製方法、更に好ましくは、回収された造粒物をさらに酸化剤処理することにより3−ヒドロキシアルカン酸共重合体以外の成分を除くことを特徴とする上記記載の醗酵生産された3−ヒドロキシアルカン酸共重合体の分離精製方法、特に好ましくは、酸化剤が次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素、過酢酸、過炭酸ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記記載の醗酵生産された3−ヒドロキシアルカン酸共重合体の分離精製方法、最も好ましくは、3−ヒドロキシアルカン酸共重合体が、3−ヒドロキシブチレート及び3−ヒドロキシヘキサノエートまたは他の3−ヒドロキシアルカン酸との共重合体である上記記載の醗酵生産された3−ヒドロキシアルカン酸共重合体の分離精製方法、に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のPHAの分離精製方法を用いれば、PHAを含有する微生物菌体から,有機溶媒を使用することなく少ない工程数で、しかも高価な分離装置を使用することなく、高純度のPHAを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明における微生物は、細胞内にPHAを蓄積する微生物であれば特に限定されない。例えば、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、ラルストニア属(Ralstonia)、シュウドモナス属(Pseudomonas)、バチルス属(Bacillus)、アゾトバクター属(Azotobacter)、ノカルディア属(Nocardia)、アエロモナス属(Aeromonas)、カプリアビダス属(Cupriavidus)等の微生物が挙げられる。具体的な例としてカプリアビダス・ネケーター(Cupriavidus necator)、アルカリゲネス・リポリティカ(A.lipolytica)、アルカリゲネス・ラトゥス(A.latus)、アエロモナス・キャビエ(A.caviae)、アエロモナス・ハイドロフィラ(A.hydrophila)、ラルストニア・ユートロファ(R.eutropha)等の菌株、更には、アエロモナス・キャビエ由来のPHA合成酵素群をコードする遺伝子を導入した菌株、特にカプリアビダス・ネケーター(C.Necator)(旧名Alcaligenes eutrophus AC32株)(ブダペスト条約に基づく国際寄託、国際寄託当局:独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地 中央第6)、寄託日1997年8月7日、寄託番号FERM BP−6038、原寄託FERM P−15786より移管)(J.Bacteriol.,179,4821−4830頁(1997))等が挙げられる。
【0014】
本発明におけるPHAとは、3−ヒドロキシアルカン酸から構成される共重合体である。3−ヒドロキシアルカン酸成分としては特に限定されないが、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート(以下、3HBとも記載する)、3−ヒドロキシバレレート、3−ヒドロキシヘキサノエート(以下、3HHとも記載する)、3−ヒドロキシヘプタノエート及び3−ヒドロキシオクタノエートからなる群より選択される2種以上のモノマーから構成される共重合体なども挙げられる。なかでもモノマー成分として3HHを含む共重合体、例えば、3HBと3HHとの2成分共重合体(PHBH)(Macromolecules,28,4822−4828(1995))、または3HBと3−ヒドロキシバレレート(以下、3HVとも記載する)と3HHとの3成分共重合体(以下、PHBVHとも記載する、特開平08−289797号公報)が、得られるポリエステルの物性の面からより好ましい。ここで3HBと3HHの2成分共重合体PHBHを構成する各モノマーユニットの組成比については特に限定されるものではない。
【0015】
本発明における、3−ヒドロキシアルカン酸共重合体を含有する微生物菌体の培養ブロスとは、前記の微生物を適切な条件で培養して菌体内にPHAを蓄積させた微生物菌体が懸濁した液である。その培養方法については特に限定されないが、例えば特開平05−93049号等に挙げられる方法が用いられる。通常、前記懸濁液には、微生物が分泌したタンパク質や培養基質残分が混入している。
【0016】
後で酸化剤処理工程を通す場合の付加軽減のために、培養ブロス中の微生物菌体を物理的または化学的方法で破砕しておくことが望ましい。なぜなら、酸化剤処理工程にて行う酸化剤による分解処理を効率的に実施することができるからである。物理的破砕の方法としては特に限定されないが、公知のプレンチプレスやホモジナイザー、X−プレス、ボールミル、コロイドミル、DYNOミル、超音波ホモジナイザーなどの流体せん断力や固体せん断力、磨砕による方法が物理的破砕の手段として挙げられる。また、酸やアルカリ、界面活性剤、有機溶剤、細胞壁合成阻害剤などの薬剤を用いる方法、リゾチーム、ペクチナーゼ、セルラーゼ、チモリアーゼなどの酵素を用いる方法、その他の方法として超臨界流体を用いる方法や、浸透圧破砕法、凍結法、乾燥粉砕法などが挙げられる。また、細胞自身が作るプロテアーゼなどの作用を利用する自己消化法も破砕法の一種として挙げられる。またこれらの破砕方法は単独で用いてもよいし、複数の方法を組み合わせても良い。
【0017】
通常、前記懸濁液には、微生物が分泌したタンパク質や培養基質残分、また破砕処理を行った場合には菌体構成成分などが混入しているが、これらのタンパク質等を含む水を脱水しておいても構わない。脱水の方法としては特に限定されないが、ろ過や遠心分離、沈降分離による方法が挙げられる、これらを促進させるために無機塩や高分子凝集剤を添加してもよい。また当該懸濁液中のPHAの濃度は特に限定されないが、500g/Lが好ましく、300g/Lがより好ましい。PHAの濃度を調整するために水を脱水してもよいし、また新たに水を加えても構わない。
【0018】
2価以上の金属塩水溶液に添加したらゲル化する多糖類として、コンニャクマンナン,寒天,カラギーナン,アルギン酸ナトリウム,カルボキシメチルセルロースなどが挙げられ、それらの群より選ばれる少なくとも1種が用いられる。これらの多糖類は、マグネシウムイオンやカルシウムイオンなど2価以上の金属陽イオンを添加するとゲル化する性質がある。前記多糖類は生産コストの観点からアルギン酸ナトリウム及び/又はカラギーナンを使用することが好ましい。添加するアルギン酸ナトリウム量は造粒・操作性の観点から、培養ブロス100重量部に対して0.01重量部以上が好ましく、さらに好ましくは0.5〜1.5重量部である。またアルギン酸ナトリウム中のα−L−グルロン酸、β−D−マンヌロン酸の存在比率は特に限定されない。アルギン酸塩ゲルの作製に用いるアルギン酸ナトリウムは、主に褐藻に含まれる多糖類の一種であり、α−L−グルロン酸、β−D−マンヌロン酸がピラノース型で1,4−グリコシド結合で結合した構造を持っている。アルギン酸のゲル化は、分子中のカルボン酸基が多価金属塩とキレート性の塩を形成することにより起こる。多価イオンがゲル化を引き起こす傾向は、マグネシウムが最も強く以下、鉄,マンガン,コバルト,ニッケル,亜鉛,カルシウム,カドミウム,ストロンチウム,銅,鉛,バリウムの順に弱くなることが知られている(A.Haug,et al.,Acta.Chem.Scand.,19,341(1965))。
【0019】
本発明において使用する2価以上の金属塩水溶液としては、多糖類とゲル化反応が起こるものであれば特に限定されるものではないが、安全性の観点から、水銀は用いないことが好ましい。具体的には塩化カルシウム,塩化マグネシウムなどの塩化物塩、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウムなどの酢酸塩の水溶液などが挙げられる。
【0020】
造粒体の作製には、前記のアルギン酸ナトリウムを溶解させた混合液をノズルや多孔板を用いて金属陽イオンの存在する水溶液中に供給する方法が挙げられるが、当該混合液の液滴の平均径が5mm以下に分散する方法であればノズルや多孔板のサイズや種類は特に限定されるものではない。ここでいう平均径とは液滴断面の長径と短径の算術平均値であり、具体的には液滴と造粒体の平均径は同じとし、ノギスを用いて造粒体の短径と長径を測定した値から計算して求めることができる。なお、金属塩水溶液の量は作製した造粒体の総容積以上となる量であれば何ら規定されるものではなく、造粒体作製に用いる容器の体積と生産コストとの相関により適宜判断してよい。
【0021】
簡便な固液分離を行うという観点から、造粒体の形態は膜状よりも粒状が好ましい。また粒径は、後述の酸化剤処理の障害とならない大きさであれば特に限定はないが、0.1mm以上が好ましく、酸化剤処理の効率から考えると、目開き0.1〜1.0mmのふるいでろ過した際の捕捉収率が重量基準で99%以上となる粒径、即ち1.0〜5.0mmがより好ましい。
【0022】
本発明の酸化剤としては、次亜塩素酸ナトリウム,過酸化水素,過酢酸,過炭酸ナトリウムといった化合物を挙げることができ、それらの群より選ばれる少なくとも1種が用いられる。これらの酸化剤水溶液中の有効成分から発生する活性酸素は有機物を酸化分解する作用を持つ。入手容易性、入手コスト、常温付近での操作性の観点から、次亜塩素酸ナトリウムの使用が好ましい。次亜塩素酸ナトリウムは、一般的に苛性ソーダに塩素ガスを吸収させ化学反応により生成する化合物である。分解する際に放出する活性酸素の強力な酸化力を利用して、パルプの漂白、プールの殺菌、上下水道の殺菌、消毒、産業廃水処理等の各方面で使用されている。この酸化力により当該造粒体に含まれる培養基質残分、菌体構成成分などを分解できる。
【0023】
本発明の醗酵生産された3−ヒドロキシアルカン酸共重合体の分離精製方法について、以下に説明する。まず、その工程は、(1)造粒体作製工程、(2)酸化剤処理工程、(3)回収工程の3つに分けられる。
【0024】
<(1)造粒体作製工程>
まず、3−ヒドロキシアルカン酸共重合体の醗酵生産後に得られた培養ブロスに2価以上の金属塩水溶液に添加したらゲル化する多糖類を所定量溶解させる。前記多糖類を溶解させた培養ブロスを、所定濃度の2価以上の金属塩水溶液にノズルや多孔板を介して滴下していくと、液滴が造粒し、造粒体を含んだ混合液を得る。前記混合液から造粒体を取り出す方法としては、遠心分離や膜分離といった高価な分離機器は必要なく、例えば目開き1mmのふるいで造粒体を含んだ混合液を濾すだけよい。
【0025】
<(2)酸化剤処理工程>
濃度を好ましくは0.1〜13重量%、より好ましくは3〜6.5重量%に調整した次亜塩素酸水溶液中に、(1)造粒体作製工程で得られた造粒体を浸漬する。その際の次亜塩素酸水溶液温度は、0〜60℃が好ましく、浸漬時間は0.5〜5.0時間が好ましい。処理中は溶液を攪拌してもよいがせん断により造粒体が崩壊しないように特に注意が必要である。なお、次亜塩素酸ナトリウムを酸化剤として使用する場合は、亜硫酸ナトリウムやチオ硫酸ナトリウム水溶液を添加して、未反応の次亜塩素酸ナトリウムを中和・分解する必要がある。
【0026】
<(3)回収工程>
(2)酸化剤処理工程終了後の処理液中からPHA固形分を回収するには、工業生産における設備費の観点から、濾過による回収が好ましい。ここで、ろ過の方法については特に限定はしないが、例えばフィルターろ過機、バスケット型分離機などを用いて行うことができる。濾過した後のPHA固形分は、40〜50℃、常圧で18〜54時間乾燥する。
【0027】
すなわち本発明は、微生物が産出したPHAを精製する方法であって、PHAを含む水性懸濁液、または該当培養ブロスを予め物理的、化学的に処理した溶液にアルギン酸ナトリウムなどの多糖類を溶解させ、例えばカルシウムイオンを含む2価以上の金属塩水溶液と接触させて造粒体を作製し、この造粒体に酸化剤を添加して微生物の菌体構成成分を分解し、有機溶媒を使用することなく簡便な固液分離手段によりPHAを得る方法に関するものである。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0029】
<PHA乾燥粉末中の残存窒素測定法>
重合体中の残留窒素量は、実施例および比較例で得た各サンプルをダイヤインスツルメンツ社製の微量窒素分析装置(製品名:TN−110)、を用いて測定した。なお、同様の測定は、ヤナコ社製の炭素・水素・窒素同時定量装置(製品名:CHN−CORDER MT−5)を用いても行うことができる。
【0030】
<PHA純度の定義>
残存不純物量として、得られたPHAの乾燥粉末中の窒素濃度に6.38を乗じた数値を使用し、全体から不純物量を減算し百分率で表示したものを純度とする。
【0031】
<培養ブロスからのPHA水性懸濁液調整法>
PHAの懸濁液は、アエロモナス・キャビエ由来のPHA合成酵素群遺伝子を導入したラルストニア・ユウトロファ AC32株(旧名アルカリゲネス・ユウトロファス AC32株(寄託番号FERM BP−6038))を特開2001−340078号公報の実施例1に記載された方法で112時間培養し得られた溶液を、80℃で60分間、攪拌しながら加熱滅菌した。機械的菌体破砕の方法として、得られた滅菌処理済み培養ブロスを、高圧ホモジナイザー処理(PA2K型、Niro Soavi S.P.A)によって処理した。高圧ホモジナイザー処理では培養ブロスにNaOH水溶液を添加してpHを12.5まで上げながら処理を行い、pH=12.5まで達した時点から一定時間、一定ホモジナイズ圧を保った。
【0032】
(実施例1)
滅菌済PHA水性懸濁液(PHA含量=158g/L)を機械的破砕処理(高圧ホモジナイザー処理、pH=12.5以上かつ600bar以上で90分保持)した。この処理液にアルギン酸ナトリウムを処理液100重量部に対し0.5重量部添加し、完全に溶解させた(60℃に加熱して1時間撹拌)。得られた混合液を2重量%塩化カルシウム水溶液に5mlの駒込ピペットを用いて、塩化カルシウム水溶液の液面より10cmの位置から滴下し、平均径3〜5mmの造粒物を得た。この混合液から目開き1mmのふるいにより造粒物を取りだし、ふるい中に回収した造粒物を次亜塩素酸ナトリウム溶液中に浸漬した(系中有効塩素濃度5%、室温、30分)。得られた固形物を大過剰の純水中に浸し、一昼夜以上静置した。これを吸引ろ過(使用濾紙:アドバンテック東洋社製5A)により固液分離し、得られた固形分を40〜50℃で一昼夜常圧乾燥した。さらに乾燥粉末中の窒素含量を微量窒素分析装置で測定したところ750ppmであり、純度約99%まで精製できることが分かった。
【0033】
(実施例2)
滅菌済PHA水性懸濁液(PHA含量=158g/L)を機械的破砕処理(高圧ホモジナイザー処理、pH=12.5以上且つ600bar以上で90分間保持)した。この処理液100重量部に対してアルギン酸ナトリウムを0.5重量部添加し、完全に溶解させた(60℃に加熱して1時間撹拌)。得られた混合液を2重量%塩化カルシウム水溶液に5mlの駒込ピペットを用いて、塩化カルシウム水溶液の液面より10cmの位置から滴下し、平均径3〜5mmの造粒物を得た。この混合液から目開き1mmのふるいにより造粒物を取りだし、ふるい中に回収した造粒物を次亜塩素酸ナトリウム溶液中に浸漬した(系中有効塩素濃度5%、室温、60分)。得られた固形物を大過剰の純水中に浸し、一昼夜以上静置した。これを吸引ろ過(使用濾紙:アドバンテック東洋社製5A)により固液分離し、得られた固形分を40〜50℃で一昼夜常圧乾燥した。さらに乾燥粉末中の窒素含量を微量窒素分析装置で測定したところ500ppmであり、実施例1に記載の方法から、次亜塩素酸ナトリウム浸漬時間を延ばすことでさらに粉末の純度を高めることができた。
【0034】
(実施例3)
滅菌済PHA水性懸濁液(PHA含量=158g/L)を機械的破砕処理(高圧ホモジナイザー処理、pH=12.5以上かつ600bar以上で90分間保持)した。この処理液100重量部に対してアルギン酸ナトリウムを0.5重量部添加し、完全に溶解させた(60℃に加熱して1時間撹拌)。得られた混合液を2重量%塩化カルシウム水溶液に5mlの駒込ピペットを用いて,塩化カルシウム水溶液の液面より10cmの位置から滴下し、平均径3〜5mmの造粒物を得た。この混合液から目開き1mmのふるいにより造粒物を取りだし、ふるい中に回収した造粒物を次亜塩素酸ナトリウム溶液に浸漬させることなく、大過剰の純水中に浸し、一昼夜以上静置した。これを吸引ろ過(使用濾紙:アドバンテック東洋社製5A)により固液分離し、得られた固形分を40〜50℃で一昼夜常圧乾燥した。さらに乾燥粉末中の窒素含量を微量窒素分析装置で測定したところ12000ppmであり、次亜塩素酸ナトリウム溶液に浸漬させなければ純度が約92%にとどまっており高純度で精製することができない。
【0035】
(実施例4)
滅菌済PHA水性懸濁液(PHA含量=158g/L)を機械的破砕処理(高圧ホモジナイザー処理、pH=12.5以上かつ600bar以上で90分間保持)した。この処理液100重量部にアルギン酸ナトリウムを0.2重量部添加し、完全に溶解させた(60℃に加熱して1時間撹拌)。得られた混合液を2重量%塩化カルシウム水溶液に5mlの駒込ピペットを用いて,塩化カルシウム水溶液の液面より10cmの位置から滴下し、平均径3〜5mmの造粒物を得た。ただし、アルギン酸ナトリウムを混合させた液の粘度が低いため、塩化カルシウム水溶液に添加した際、1mm以下の小粒子が発生した。また塩化カルシウム水溶液の液面でアルギン酸ナトリウムを混合させた液が分散するため、粒子形状をとらず膜状にゲル化し、そのため操作性が悪化した。
【0036】
(実施例5)
滅菌済PHA水性懸濁液(PHA含量=158g/L)を機械的破砕処理(高圧ホモジナイザー処理、pH=12.5以上かつ600bar以上で90分間保持)した。この処理液100重量部にアルギン酸ナトリウムを1.0重量部添加し、完全に溶解させた(60℃に加熱して1時間撹拌)。得られた混合液を2重量%塩化カルシウム水溶液に5mlの駒込ピペットを用いて,塩化カルシウム水溶液の液面より10cmの位置から滴下し、平均径3〜5mmの造粒物を得た。この場合、実施例4とは異なり、1mm以下の小粒子や膜状ゲル化の発生は全く見られなかった。
【0037】
(比較例1)
滅菌済PHA水性懸濁液(PHA含量=158g/L)を機械的破砕処理(高圧ホモジナイザー処理、pH=12.5以上かつ600bar以上で90分間保持)した。この処理液にアルギン酸ナトリウムを添加することなく、次亜塩素酸ナトリウムで処理(系中有効塩素濃度5%、室温、60分間攪拌)した。この混合液を吸引ろ過(使用濾紙:アドバンテック東洋社製5A)により固液分離することはできす、PHAの粉末を回収することはできなかった。
【0038】
(比較例2)
滅菌済PHA水性懸濁液(PHA含量=158g/L)を機械的破砕処理(高圧ホモジナイザー処理、pH=12.5以上かつ600bar以上で90分間保持)した。この処理液にアルギン酸ナトリウムを添加することなく、9500Gで30分間遠心分離してPHAを含有する固形物を得た。この固形物を5倍量の純水に懸濁し、再び9500Gで30分間遠心分離した。この懸濁・分離操作を8回実施した。途中3回目の懸濁操作時には洗濯用合成洗剤(商品名:アタック,花王株式会社製)を純水100重量部に対して3重量部添加した。8回目の遠心分離により得られた固形物を50℃で一昼夜真空乾燥した。さらに乾燥粉末中の窒素含量を微量窒素分析装置で測定したところ830ppmであり、純度約99%以上のPHA粉末を回収することができた。
【出願人】 【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
【出願日】 平成18年8月30日(2006.8.30)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−54541(P2008−54541A)
【公開日】 平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願番号】 特願2006−233030(P2006−233030)