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【発明の名称】 二糖製造方法
【発明者】 【氏名】天野 良彦

【氏名】野崎 功一

【氏名】水野 正浩

【要約】 【課題】安価な基質を用いて、短工程で簡便に、大量かつ効率良く、また不要な副生成物を生じることなく、所望の二糖を製造することができる方法を提供する。

【構成】二糖製造方法は、リン酸及びオリゴ糖ホスホリラーゼ共存下で、オリゴ糖を単糖生成物と単糖−1−リン酸とに分解させ、共存している多糖産生菌により該単糖生成物を多糖に変換すると共に、該単糖生成物以外の単糖原料と該単糖−1−リン酸とを共存させて前記オリゴ糖ホスホリラーゼで結合させ、リン酸を脱離、再生させることにより、二糖を産生するというものである。さらに多糖分解酵素を共存させていてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸及びオリゴ糖ホスホリラーゼ共存下で、オリゴ糖を単糖生成物と単糖−1−リン酸とに分解させ、共存している多糖産生菌により該単糖生成物を多糖に変換すると共に、該単糖生成物以外の単糖原料と該単糖−1−リン酸とを共存させて前記オリゴ糖ホスホリラーゼで結合させ、リン酸を脱離、再生させることにより、二糖を生産することを特徴とする二糖製造方法。
【請求項2】
前記多糖が、さらに共存させた多糖分解酵素により前記と同種のオリゴ糖に再生されることを特徴とする請求項1に記載の二糖製造方法。
【請求項3】
前記多糖産生菌が酢酸菌であることを特徴とする請求項1または2に記載の二糖製造方法。
【請求項4】
前記オリゴ糖が、グルコース構成単位を含有していることを特徴とする請求項1または2に記載の二糖製造方法。
【請求項5】
前記オリゴ糖及び前記オリゴ糖ホスホリラーゼが夫々、セロビオース及びセロビオースホスホリラーゼ、マルトース及びマルトースホスホリラーゼ、又はトレハロース及びトレハロースホスホリラーゼであることを特徴とする請求項1または2に記載の二糖製造方法。
【請求項6】
前記単糖原料が、キシロース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、2−デオキシグルコース、6−デオキシグルコース、グルコサミン、マンノサミン、フコース、アラビノース、アルトロース、グルクロナミド、イソマルトース、ゲンチオビオース及びメリビオースから選ばれた単糖であることを特徴とする請求項1または2に記載の二糖製造方法。
【請求項7】
前記多糖分解酵素が、セルラーゼ、アミラーゼ、又はβ−1,3−グルカナーゼであることを特徴とする請求項2に記載の二糖製造方法。
【請求項8】
オリゴ糖とオリゴ糖ホスホリラーゼとが夫々セロビオースとセロビオースホスホリラーゼとであり、単糖生成物と単糖−1−リン酸とが夫々グルコースとグルコース−1−リン酸とであり、単糖原料がキシロースであり、多糖と多糖産生菌と多糖分解酵素とが夫々セルロースと酢酸菌とセルラーゼとであって、該二糖がグルコシルキシロースであることを特徴とする請求項2に記載の二糖製造方法。
【請求項9】
グルコシルキシロースが、β−D−グルコシル−(1,4)−D−キシロースであることを特徴とする請求項8に記載の二糖製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴ糖から酵素および菌を用いて、医薬品原料や食品原料として有用な二糖を、製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オリゴ糖や多糖のような糖質は、生体中で最も量が多い生体分子である。単糖が2〜5個程度結合しているオリゴ糖は、生体を構成したり、細胞タンパクや脂質と結合したりして、生体の制御機能に関与する重要な糖である。とりわけ二糖は、直接摂取や多糖類の消化吸収によって、生体に取り込まれるもので、生体のエネルギー源や生体構成物質の合成素材として、生体の重要な役割を担っている。
【0003】
このようなオリゴ糖を製造する方法として、糖質加水分解酵素の逆反応による合成方法、合成酵素による合成方法、糖質加リン酸分解酵素の逆反応による合成方法が知られている。
【0004】
糖質加水分解酵素の逆反応による方法は、安価な基質を原料に用いて簡便な反応系で行うことができる反面、高糖濃度にしなければならず、溶解度に限度があるため、収率が悪く、純度を高めるために精製が必要なものである。
【0005】
合成酵素による合成方法は、基質が高価なため、工業的大量生産に適しないものである。
【0006】
一方、平衡反応である糖質加リン酸分解酵素の逆反応による二糖類の製造方法は、安価な基質を用いることができるうえ、リン酸濃度の調整により反応を制御し易いものである。例えば特許文献1に開示された方法は、糖質加リン酸分解酵素の逆合成反応の平衡を、分解酵素による副生成物の分解により偏らせ、反応を進行させるというものである。しかし、概してこの反応は、副生成物を分解して除去しなければならず、またリン酸濃度を制御しても収率が30〜数10%にしかならないものであるから、工業的大量生産に適しない。
【0007】
【特許文献1】特開平7−59584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安価な基質を用いて、短工程で簡便に、大量かつ効率良く、また不要な副生成物を生じることなく、所望の二糖を製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載の二糖製造方法は、リン酸及びオリゴ糖ホスホリラーゼ共存下で、オリゴ糖を単糖生成物と単糖−1−リン酸とに分解させ、共存している多糖産生菌により該単糖生成物を多糖に変換すると共に、該単糖生成物以外の単糖原料と該単糖−1−リン酸とを共存させて前記オリゴ糖ホスホリラーゼで結合させ、リン酸を脱離、再生させることにより、二糖を産生することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の二糖製造方法は、請求項1に記載されたもので、前記多糖が、さらに共存させた多糖分解酵素により前記と同種のオリゴ糖に再生されることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の二糖製造方法は、請求項1または2に記載されたもので、前記多糖産生菌が酢酸菌であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の二糖製造方法は、請求項1または2に記載されたもので、前記オリゴ糖が、グルコース構成単位を含有していることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の二糖製造方法は、請求項1または2に記載されたもので、前記オリゴ糖及び前記オリゴ糖ホスホリラーゼが夫々、セロビオース及びセロビオースホスホリラーゼ、マルトース及びマルトースホスホリラーゼ、又はトレハロース及びトレハロースホスホリラーゼであることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の二糖製造方法は、請求項1または2に記載されたもので、前記単糖原料が、キシロース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、2−デオキシグルコース、6−デオキシグルコース、グルコサミン、マンノサミン、フコース、アラビノース、アルトロース、グルクロナミド、イソマルトース、ゲンチオビオース及びメリビオースから選ばれた単糖であることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の二糖製造方法は、請求項2に記載されたもので、前記多糖分解酵素が、セルラーゼ、アミラーゼ、又はβ−1,3−グルカナーゼであることを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の二糖製造方法は、請求項2に記載されたもので、オリゴ糖とオリゴ糖ホスホリラーゼとが夫々セロビオースとセロビオースホスホリラーゼとであり、単糖生成物と単糖−1−リン酸とが夫々グルコースとグルコース−1−リン酸とであり、単糖原料がキシロースであり、多糖と多糖産生菌と多糖分解酵素とが夫々セルロースと酢酸菌とセルラーゼとであって、該二糖がグルコシルキシロースであることを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の二糖製造方法は、請求項8に記載されたもので、グルコシルキシロースが、β−D−グルコシル−(1,4)−D−キシロースであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の二糖製造方法によれば、安価な基質であるオリゴ糖から、付加価値の高い二糖を、簡便かつ効率よく製造することができる。
【0019】
その際に副生するオリゴ糖由来の単糖生成物は、多糖産生菌の働きにより多糖となったり、必要に応じさらに多糖分解酵素により基質であるオリゴ糖となって、反応に供されたりする。基質のオリゴ糖及び単糖原料と、リン酸、オリゴ糖ホスホリラーゼ、必要に応じ多糖産生菌、多糖分解酵素とを、混合しておくという簡便な操作ですむので、複雑な反応制御の必要がない。この方法は、平衡反応である糖質加リン酸分解酵素の逆合成反応を利用するものであるから、副生成物が多糖又はそれが分解された基質へ変換され、平衡が偏って、最終的には、ほぼ定量的に所望の二糖を得ることができるというものである。しかも、不要なこの副生成物の面倒な除去操作も、所望の二糖の煩雑な精製操作も必要ないため、工業的大量生産に適している。
【0020】
この方法で得られる二糖、とりわけグルコシルキシロースは、難消化性や低カロリー性等の性質、及び腸内微生物層の改善効果、虫歯を生じさせ難い効果等の機能が期待できる付加価値の高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
本発明の好ましい一例を、図1を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の二糖製造方法を用いて、セロビオースからグルコシルキシロースを製造する過程を示した反応模式図である。
【0024】
まず、図1に示した反応に関わる原料成分として、オリゴ糖であるセロビオースと、リン酸と、オリゴ糖ホスホリラーゼであるセロビオースホスホリラーゼと、多糖産生菌である酢酸菌と、多糖分解酵素であるセルラーゼと、単糖原料であるキシロースとを、緩衝液中に全て混合する。
【0025】
セロビオースは、セロビオースホスホリラーゼの酸触媒作用によってグリコシド結合が切断され、グリコシル残基のオキソニウムイオン中間体と、オリゴ糖由来の単糖生成物であるグルコースとに分解される。グリコシル残基のオキソニウムイオン中間体は、リン酸の水酸基で攻撃されて、リン酸との間にグリコシド結合を形成し、単糖−1−リン酸であるグルコース−1−リン酸を生成する。
【0026】
前記グルコース−1−リン酸は、前記セロビオースホスホリラーゼの酸触媒作用によって、リン酸を結合しているグリコシド結合が切断されてリン酸を脱離し、グリコシル残基のオキソニウムイオン中間体を生成する。それへキシロースの水酸基が攻撃してグリコシド結合を形成し、所望の二糖であるグルコシルキシロースを生成する。
【0027】
一方前記グルコースは、酢酸菌の働きで多糖化されて、セルロースに変換される。さらにこのセルロースがセルラーゼによって分解される結果、セロビオースが再生する。この再生されたセロビオースは、図1に示すように、グルコースとグルコース−1−リン酸とに分解する反応と、グルコース−1−リン酸からグルコシルキシロースを生成する反応とを繰り返す。
【0028】
グルコースからセロビオースを再生する反応は、グルコースが副生しなくなるまで続く。よって、反応の平衡は、図1中のグリコシルキシロースを合成する方向へ完全に偏り、セロビオースのほぼ全量が反応に使用される。その結果、所望の二糖であるグリコシルキシロースのみを高収率で得ることができる。
【0029】
なお、前記多糖産生菌は、オリゴ糖由来の単糖生成物を多糖化できるもので、なおかつ単糖原料を消費しないものでなければならない。そのような多糖産生菌として、酢酸菌、中でもグルコースを多糖化してセルロースを産生できる酢酸菌が最も好ましい。具体的には、Gluconoacetobacter属の酢酸菌、特にGluconoacetobacter xylinus (American Type Culture Collection No.53582)であると好ましい。
【0030】
前記セロビオースに代えて、マルトース、トレハロース、スクロースをオリゴ糖として使用してもよい。前記オリゴ糖は、グルコース構成単位を含有しているものであると好ましく、グルコース構成単位のみを含有しているものであるとより好ましい。また、前記オリゴ糖は、市販品を用いてもよく、自然界の生物資源から取り出したものや多糖を分解したものを使用してもよい。
【0031】
前記オリゴ糖ホスホリラーゼとしては、前記オリゴ糖を分解できるものが使用される。例えば、オリゴ糖としてマルトースを使用する場合はマルトースホスホリラーゼを、オリゴ糖としてトレハロースを使用する場合はトレハロースホスホリラーゼを、オリゴ糖ホスホリラーゼとして用いる。これらのオリゴ糖ホスホリラーゼは市販品を使用できる。
【0032】
前記多糖産生菌の働きにより生成される多糖としては、前記セルロース以外にも、アミロース、β−1,3−グルカンが挙げられる。多糖としてアミロースが生成する場合は前記セルラーゼに代えてアミラーゼを、多糖としてβ−1,3−グルカンが生成する場合は前記セルラーゼに代えてβ−1,3−グルカナーゼを、多糖分解酵素として使用する。
【0033】
単糖原料として、前記キシロースに代えて、マンノース、ガラクトース、フルクトース、2−デオキシグルコース、6−デオキシグルコース、グルコサミン、マンノサミン、フコース、アラビノース、アルトロース、グルクロナミド、イソマルトース、ゲンチオビオース、メリビオースを使用してもよい。単糖原料は、前記多糖産生菌に消費されないもの、なおかつ前記オリゴ糖由来の単糖生成物とは異なるものであれば特に限定はない。
【0034】
これら原料成分は、pH6.0〜8.0、液温10〜50℃のトリス−塩酸緩衝液中で全て混合されることが好ましい。
【0035】
各成分の添加量は、セロビオース1モルに対して、リン酸0.1〜10mM、セロビオースホスホリラーゼ0.1〜100unit/mL、酢酸菌10〜10個/mL、セルラーゼ0.01〜1.0%、キシロース1〜10モルであることが好ましい。また、リン酸は、0.5〜2.0mM程度の低濃度であることが好ましい。他の原料成分の場合も同様な量が用いられる。
【0036】
二糖製造方法として、原料成分として、前記多糖分解酵素を添加した例を示したが、多糖分解酵素を添加していなくてもよい。前記多糖分解酵素を添加しない場合、所望の二糖と多糖との二つの糖質のみが同時に得られる。
【0037】
この二糖製造方法に従い、オリゴ糖としてセロビオースを用い、単糖原料としてキシロースを用いた場合、所望の構造のグルコシルキシロースが得られる。このグルコシルキシロースは、グルコースとキシロースとが結合した二糖であり、具体的には、β−D−グルコースの1位の炭素とβ−D−キシロースの4位の炭素とがグリコシド結合したβ−D−グルコシル−(1,4)−D−キシロースである。オリゴ糖と単糖原料との組み合わせを変えると、β−D−グルコシル−(1,1)−D−マンノースやβ−D−グルコシル−(1,1)−D−ガラクトースが得られる。
【実施例】
【0038】
本発明を適用する二糖を製造した例を実施例1〜2に示す。
【0039】
(実施例1)
β−D−グルコシル−(1,4)−D−キシロースの合成
pH7.5、0.5Mのトリス塩酸緩衝液100mLに、オリゴ糖として50mMのD−(+)−セロビオースと、2mMのリン酸と、オリゴ糖ホスホリラーゼとしてセルビブリオ・ギルバス由来のセロビオースホスホリラーゼ100Unitと、単糖原料として100mMのβ−D−キシロースと、多糖産生菌として酢酸菌(Gluconoacetobacter xylinus;American Type Culture Collection No.53582)の10個を加えた。pH7.5、温度30℃で48時間反応させて、β−D−グルコシル−(1,4)−D−キシロースを、使用したセロビオースに対して95%の収率で得た。また、副産物として89mgのセルロースを得た。
【0040】
(実施例2)
多糖分解酵素としてセルラーゼ(Irpex lacteus由来のEx−1成分、CBH Iタイプの酵素)を0.1unit/mL添加したこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。β−D−グルコシル−(1,4)−D−キシロースを、使用したセロビオースに対して110%の収率で得た。
【0041】
実施例1及び2で得られたβ−D−グルコシル−(1,4)−D−キシロースの13C−NMR測定およびマススペクトル測定を行った。実施例1で得られたβ−D−グルコシル−(1,4)−D−キシロースの13C−NMRの重水中でのケミカルシフトを表1に示す。
【0042】
【表1】


【0043】
上記の測定から、実施例で得られた二糖は、目的のβ−D−グルコシル−(1,4)−D−キシロースであると同定された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の二糖製造方法によれば、これまで大量生産が困難であった二糖を工業的に大量生産することが可能となる。従ってこの製造方法は、製菓分野、健康食品分野、医薬品を含む薬品分野、醸造分野に大きく寄与すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明を適用する二糖製造方法の反応模式図である。
【出願人】 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
【出願日】 平成18年8月29日(2006.8.29)
【代理人】 【識別番号】100088306
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮 良雄

【識別番号】100126343
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 浩之


【公開番号】 特開2008−54506(P2008−54506A)
【公開日】 平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願番号】 特願2006−231696(P2006−231696)