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【発明の名称】 抗ヒト可溶性フィブリンモノクローナル抗体の製造方法
【発明者】 【氏名】松尾 正直

【氏名】海老沼 宏幸

【氏名】宮崎 修

【氏名】田中 恭子

【氏名】鈴木 明子

【要約】 【課題】初期の血液凝固亢進のみを反映する、プラスミンが作用していない可溶性フィブリンに対するモノクローナル抗体の製造。

【構成】1)フィブリンモノマー、可溶性フィブリン、フィブリノゲンにプラスミンを作用させて切り離されるAα鎖のC末端フラグメント、及び当該Aα鎖のC末端フラグメントの一部と同一配列のポリペプチドから選ばれる1種以上を免疫原として用い、2)プラスミンの作用を受けていない可溶性フィブリンに特異的に反応し、フィブリノゲン、フィブリンモノマーのプラスミン分解物及び安定化フィブリンのプラスミン分解物には反応しない抗体を産生するハイブリドーマを選択することを特徴とする、フィブリノゲンのトロンビン消化によって生成する可溶性フィブリンを特異的に認識するモノクローナル抗体の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)フィブリンモノマー、可溶性フィブリン、フィブリノゲンにプラスミンを作用させて切り離されるAα鎖のC末端フラグメント、及び当該Aα鎖のC末端フラグメントの一部と同一配列のポリペプチドから選ばれる1種以上を免疫原として用い、2)プラスミンの作用を受けていない可溶性フィブリンに特異的に反応し、フィブリノゲン、フィブリンモノマーのプラスミン分解物及び安定化フィブリンのプラスミン分解物には反応しない抗体を産生するハイブリドーマを選択することを特徴とする、フィブリノゲンのトロンビン消化によって生成する可溶性フィブリンを特異的に認識するモノクローナル抗体の製造方法。
【請求項2】
フィブリンモノマーのプラスミン分解物が、フィブリンフラグメントX、Y、又はEである請求項1記載のモノクローナル抗体の製造方法。
【請求項3】
安定化フィブリンのプラスミン分解物が、安定化フィブリン分解物(XDP)である請求項1記載のモノクローナル抗体の製造方法。
【請求項4】
可溶性フィブリンが、フィブリンモノマー複合体を含むものである請求項1〜3のいずれか1項記載のモノクローナル抗体の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、フィブリノゲンには反応せず、フィブリノゲンのトロンビン消化によって生成する可溶性フィブリンのAα鎖C末端領域に新たに生じる構造変化部位を特異的に認識する可溶性フィブリンに対するモノクローナル抗体であって、当該モノクローナル抗体の認識部位がプラスミン消化によって可溶性フィブリンから切り離されることにより当該モノクローナル抗体と当該プラスミン消化を受けた可溶性フィブリンとの反応性が消失することを利用して、可溶性フィブリンプラスミン分解物及び安定化フィブリンプラスミン分解物の影響を受けることなく、可溶性フィブリンを特異的に検出するためのモノクローナル抗体、及び当該モノクローナル抗体を用いる免疫学的測定方法に関する。さらにまた、当該免疫学的測定方法によって被検試料中の可溶性フィブリンを測定し、被検体試料の血液凝固亢進状態を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
凝固線溶系の活性化に伴い血中に出現してくる分子マーカーの検出は、播種性血管内凝固症候群(DIC)の早期診断や病態の把握に重要である。その中で、初期の凝固亢進を表すマーカーとして、可溶性フィブリンモノマー複合体(SFMC)が臨床応用されている。
【0003】
血管内で活性化され、生成したトロンビンは、フィブリノゲンのAα鎖のN末端を切断し、フィブリノゲンをdesAAフィブリンモノマーとし、更にBβ鎖のN末端を切断して、desAABBフィブリンモノマーを生成するが、生成したフィブリンモノマーは血中のフィブリノゲンなどと複合体を形成し、SFMCとして血中を循環する。このSFMCを検出することにより、血栓形成を早期に予測できることが知られている。
【0004】
このSFMCを検出するために、これまで多くの特異的抗体や免疫学的測定方法が報告されている。例えば、G.Soe等により、フィブリンモノマーがフィブリノゲンと結合したフィブリン・フィブリノゲン複合体が形成される際にE画分に生じた構造変化を認識するモノクローナル抗体として、IF−43抗体が報告されている。IF−43抗体のエピトープは、Aα鎖のN末端側の連鎖17−78のアミノ酸配列に存在する。IF−43抗体は、フィブリノゲン、フィブリンモノマー、プラスミンによるフィブリノゲン分解物及びフィブリン分解物には作用せず、血液凝固系を反映するという特徴を有する(特許文献1及び非特許文献1)。
【0005】
しかしながら、IF−43抗体を用いた可溶性フィブリン測定用試薬(イアトロSF、ヤトロン社製)では、フィブリンモノマーのプラスミン分解物(フィブリンフラグメントX、Y及びE)とフィブリノゲンとの反応生成複合体や、フィブリンモノマーのプラスミン分解物とフィブリノゲンのプラスミン分解物(フラグメントX、Y又はD)との反応生成複合体にも作用することが知られている(特許文献2)。このように、IF−43抗体はプラスミンが作用した可溶性フィブリンにも作用することから、純粋に凝固系のみを反映する抗体とは言い難い。
【0006】
トロンビンによってフィブリノゲンAα鎖が切断を受けたN末端のアミノ酸配列を認識する抗体も報告されている。U.SCHEEFERS−BORCHEL等は、フィブリンのN末端のアミノ酸配列と同一の合成ヘキサペプチド(GPRVVE)を免疫し、可溶性フィブリンに特異的な抗体を作製している(非特許文献2)。一方、A.Hamano等は、フィブリノゲンをバトロキソビン処理したフィブリンモノマーを免疫原として、可溶性フィブリンに特異的な抗体(F405)を得ている(特許文献3及び非特許文献3)。
【0007】
しかしながら、これらの抗体のエピトープは、Aα鎖にトロンビンが作用して生成するN末端アミノ酸配列部位であることから、フィブリンモノマーのプラスミン分解物やそれらの複合体、更に安定化フィブリンのプラスミン分解物であるXDP画分(DY、DXDなど)に作用すると考えられる。従って、凝固系及び線溶系の両方を反映することになり、純粋に凝固系のみを反映する抗体とは言えない。
【0008】
また、フィブリノゲンのAα鎖の連鎖148−161のアミノ酸配列からなるペプチドと反応するモノクローナル抗体も報告されている(特許文献4)。この抗体の認識部位は、プラスミンによって消化されるAα鎖C末端側には存在しないことから、可溶性フィブリンのプラスミン分解物や安定化フィブリンのプラスミン分解物に反応すると考えられ、純粋に凝固系を反映する抗体とは言い難い。
【0009】
以上のように、凝固系の亢進によって生成される可溶性フィブリンに対する従来の抗体は、線溶系が働いたことによって生じる可溶性フィブリンのプラスミン分解物や安定化フィブリンのプラスミン分解物を同時に認識するものが多く、プラスミンが作用していない可溶性フィブリンを特異的に認識する抗体は知られておらず、純粋に血液凝固系を反映する測定法も報告されていなかった。
【特許文献1】国際公開第95/012617号パンフレット
【特許文献2】特開2004−53359公報
【特許文献3】国際公開第98/59047号パンフレット
【特許文献4】特開平2−028197公報
【非特許文献1】G.Soe.,et al,Blood.88,2109−2117,1996.
【非特許文献2】U.SCHEEFERS−BORCHEL et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.82,7091−7095,1985.
【非特許文献3】A.Hamano et al,Clinica Chimica Acta.318,25−32,2002.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、初期の血液凝固亢進を反映し、プラスミンが作用していない可溶性フィブリンのみを特異的に測定できるモノクローナル抗体、当該モノクローナル抗体を産生可能なハイブリドーマ、当該モノクローナル抗体を用いる可溶性フィブリンの免疫学的測定方法、及び当該免疫学的測定方法によって被検試料中の可溶性フィブリンを測定し、被検試料の血液凝固亢進状態を評価する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究した結果、フィブリノゲンのトロンビン消化によって生成する可溶性フィブリンのAα鎖C末端領域に新たに生じる構造変化部位を特異的に認識するモノクローナル抗体であって、可溶性フィブリンがプラスミン消化されると該抗体の認識部位が切り離されることにより、当該抗体の作用が消失するモノクローナル抗体を見出した。また、当該抗体を用いれば、血漿中のプラスミンが作用していない可溶性フィブリンを特異的に測定できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、フィブリノゲンのトロンビン消化によって生成する可溶性フィブリンのAα鎖C末端領域に新たに生じる構造変化部位であって、可溶性フィブリンがプラスミン消化されると切り離される該部位を特異的に認識する可溶性フィブリンに対するモノクローナル抗体を提供するものである。
【0013】
また本発明は、上記モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを提供するものである。
【0014】
また本発明は、被検試料に上記モノクローナル抗体を反応させることを特徴とする試料中の可溶性フィブリンの免疫学的測定方法を提供するものである。
【0015】
また本発明は、上記モノクローナル抗体を含有する可溶性フィブリン測定試薬を提供するものである。
【0016】
更に本発明は、上記免疫学的測定方法によって被検試料中の可溶性フィブリンを測定し、被検体試料の血液凝固亢進状態を評価する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明のモノクローナル抗体によれば、可溶性フィブリンのプラスミン分解物や安定化フィブリンのプラスミン分解物を認識することなく、プラスミンが作用していない可溶性フィブリンを特異的に認識することができる。従って、本発明のモノクローナル抗体を用いることにより、血液凝固形成の初期の段階を高感度かつ迅速に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本明細書において「可溶性フィブリン」とは、フィブリンモノマー(desAAフィブリンモノマー及びdesAABBフィブリンモノマー)、並びにフィブリンモノマー複合体(フィブリンポリマー、フィブリンモノマー・フィブリノゲン複合体、フィブリンモノマー・FDP複合体及びフィブリンモノマーとその他生体中の蛋白質との複合体)を示す。
【0019】
本発明のモノクローナル抗体は、上記可溶性フィブリンに作用し、フィブリノゲン、フィブリンモノマーのプラスミン分解物及び安定化フィブリンのプラスミン分解物には作用しない特徴を有する。
【0020】
また、本発明のモノクローナル抗体のエピトープは、フィブリノゲンのトロンビン消化によって生成する可溶性フィブリンのAα鎖C末端領域に新たに生じる構造変化部位であって、可溶性フィブリンのプラスミン消化によって切り離される部位に存在する。プラスミン消化を受けた可溶性フィブリンに対するモノクローナル抗体の認識作用は消失する。詳細には、当該エピトープは、フィブリノゲンがプラスミンで消化を受けた際に生成するフラグメントの内、フィブリノゲンAα鎖上のC末端フラグメントにあって、Aα鎖の425番目のアミノ酸をN末端とする分子量約16KDaの消化断片ペプチド中に存在する。
さらに詳細には、当該エピトープは、当該フィブリノゲンAα鎖の502−521番目のアミノ酸配列を有するポリペプチド中に存在する。本発明のモノクローナル抗体は、当該フィブリノゲンAα鎖の502−521番目のアミノ酸配列を有するポリペプチドを認識するものであれば特に制限されない。
【0021】
このように、フィブリノゲン自体とは反応せず、フィブリノゲンのトロンビン消化によって生成する可溶性フィブリンのAα鎖C末端領域に新たに生じる構造変化部位であって、可溶性フィブリンのプラスミン消化によって切り離される部位に存在するモノクローナル抗体は今まで知られておらず、本発明のモノクローナル抗体は新規なものである。可溶性フィブリンのAα鎖のC末端部位の構造変化については、これまで明確な報告はなされていないが、Y.I.Veklichらの報告によれば(J Bio Chem,1993;268,13577−13585.)、プラスミンによってAα鎖から切り離されるフラグメントは、Aα鎖のアミノ酸配列220番目をN末端とする分子量40KDaの消化断片である。このことから、本発明のモノクローナル抗体の認識部位が、プラスミンによって切り離されるフラグメントに含まれていることが分かる。また、この報告ではフィブリノゲンの存在形態が電子顕微鏡によって明らかにされている。2本存在するフィブリノゲンのAα鎖のC末端領域は、中性条件下では中央のEドメインに結合し、トロンビン消化によってフィブリノペプチドが切断されると、Eドメインに結合していたAα鎖のC末端領域は解離する。この解離によりAα鎖のC末端領域の構造変化が生じるが、本発明のモノクローナル抗体はこの構造変化部位を特異的に認識するものである。
【0022】
本発明のモノクローナル抗体は、以下のようにして作製することができる。
使用する免疫原としては、生成したフィブリンモノマー又は可溶性フィブリンが好ましい。トロンビン作用のみを受けた(プラスミン作用を受けていない)フィブリノゲンやバトロキソビン処理したフィブリノゲンなどを用いてもよい。フィブリンモノマーは、例えばU.SCHEEFERS−BORCHEL等の方法[Proc.Natl.Acad.Sci.USA.82,7091−7095,1985.]に従って調製できる。具体的には、desAAフィブリンモノマーは、フィブリノゲン溶液にバトロキソビンを作用させ、生じたフィブリンクロットを尿素又は酸により可溶化することにより得られ、desAABBフィブリンモノマーは、フィブリノゲン溶液にトロンビンを作用させ、生じたフィブリンクロットを尿素又は酸により可溶化することにより得られる。また、フィブリノゲンにバトロキソビンやトロンビンを作用させる際に、非常に少量で処理することにより、クロットを生じない条件下の処理液をそのまま用いることもできる。更に、フィブリノゲンにプラスミンを作用させ、切り離されるAα鎖のC末端フラグメントを用いてもよく、Aα鎖のC末端フラグメントの一部と同一配列のポリペプチド、好ましくは前記502−521ポリペプチドを合成し、その合成ペプチドを用いてもよい。
【0023】
免疫に用いる動物は特に限定されないが、例えばマウス、ラットなどが挙げられる。免疫方法は、一般的な手法に従って行うことができる。例えば、免疫原を通常の緩衝液や生理食塩水に懸濁させたもの、あるいは免疫原と完全フロイントアジュバンドなどの補液との混合物を、動物の皮下、皮内、腹腔などに投与して一時刺激後、必要に応じて同様の操作を繰り返し行う。抗原の投与量は投与経路、動物種に応じて適宣決定されるが、通常の投与量は1回当たり10μg〜1mg程度が好ましい。
【0024】
細胞融合に用いる免疫細胞は、最終免疫の3〜4日後に摘出した脾臓細胞が好適である。また、前記免疫細胞と融合させる骨髄腫細胞(ミエローマ細胞)としては、既に確立されている公知の各種細胞株が好ましく、例えばマウスにおけるNS1(P3/NSI/I−Ag4−1)[Eur.J.Immunol.6:511−519(1976)]、SP2/O−Ag14[Nature 276:269(1978)]、P3-X63−Ag8.653[J.Immunol.123:1548(1979)]、P3-X63−Ag8U.1[Curr.Top.Microbiol.Immunol.81:1(1978)]等や、ラットにおけるY3−Ag1.2.3.[Nature 277:131−133(1979)]、YB2/O(YB2/3HL/P2.G11.16Ag.20)[Methods Enzymol.73B:1(1981)]等が挙げられる。
【0025】
細胞融合には、通常用いられるポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等を使用することができる。細胞融合の手法は通常の方法と同様であり、例えば骨髄細胞と骨髄細胞に対して約1〜10倍の免疫細胞との混合ペレットに、平均分子量1000〜6000のポリエチレングリコールを30〜60%の濃度で滴下し、混合する。ハイブリドーマの選択は、通常の選択培地、例えばHAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む培地)を使用する。HAT培地で培養して得られたハイブリドーマを用いて、通常の限界希釈法により、目的とする抗体産生株の検索及び単一クローン化を行えばよい。
【0026】
目的とする抗体産生株は、例えばELISA法、RIA法等により、プラスミンの作用を受けていない可溶性フィブリンに特異的に反応し、フィブリノゲン、フィブリンモノマーのプラスミン分解物及び安定化フィブリンのプラスミン分解物には反応しない抗体を産生するハイブリドーマを選択することにより得られる。
具体的には、まず培養上清中のモノクローナル抗体を、抗マウスIgG抗体等を介して固定化し、可溶性フィブリン及びフィブリノゲンを含有する試料を反応させる。次に、酵素などで標識した抗フィブリノゲン抗体を反応させ、可溶性フィブリンのみに反応し、かつフィブリノゲンとは反応しないモノクローナル抗体を選択する。更に、プラスミン分解物であるフィブリンフラグメントX、Y又はEや安定化フィブリン分解物(XDP)とは反応しないモノクローナル抗体を選択する。このようにして、エピトープがプラスミンによって切り離されるフラグメントに存在するモノクローナル抗体を作製すればよい。
【0027】
当該モノクローナル抗体は、常法に従いハイブリドーマを培養し、培養上清から分離する方法、前記ハイブリドーマをこれと適合性のある哺乳類動物に投与し、腹水として回収する方法により製造できる。
【0028】
従来の任意の免疫学的測定方法に本発明のモノクローナル抗体を適用することにより、ヒト体液中のプラスミンの作用を受けていない可溶性フィブリンを特異的に測定することができる。
例えば、ELISA法で測定する場合には、精製した可溶性フィブリンを標準品として次のような方法で可溶性フィブリンを定量できる。即ち、本発明のモノクローナル抗体を固定化したELISAプレートに、希釈した検体試料を添加し反応させた後、酵素標識した抗フィブリノゲン ポリクローナル抗体を反応させ、発色後の吸光度の変化から試料中に存在するプラスミンの作用を受けていない可溶性フィブリンを特異的に定量できる。LTIA法で測定する場合には、精製した可溶性フィブリンを標準品として次のような方法で定量することができる。即ち、本発明のモノクローナル抗体の少なくとも1種を不溶性担体であるラテックス粒子に感作し、検体試料に接触させることにより、試料中の可溶性フィブリンを介して抗体感作ラテックス粒子同士が架橋し凝集を生じるため、この凝集度の変化から当該可溶性フィブリンを特異的に定量できる。検体試料としては、可溶性フィブリンを含有するヒト体液であれば特に制限されず、例えば血液、尿等が挙げられる。
【0029】
LTIA法等における抗体感作ラテックス粒子のラテックス粒子としては、ラテックス凝集反応を利用した免疫学的凝集反応及び凝集阻止反応において、一般的に用いられている微粒子の担体であれば特に制限されないが、工業的に大量生産することができる有機系微粒子が好ましい。このような有機系微粒子としては、例えば、スチレン、塩化ビニル、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のビニル系モノマーの単独重合体又は共重合体;スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等のブタジエン系共重合体等が挙げられる。また、このような有機系微粒子に、カルボキシル基、第一級アミノ基、カルバモイル基、水酸基、アルデヒド基等の官能基が結合した反応性有機系微粒子も好ましく使用することができる。上記のラテックス粒子の中では、抗原又は抗体の吸着性に優れ、生物学的活性を長期間安定に保持できる点から、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体等のポリスチレン系ラテックス粒子が好ましい。
【0030】
ラテックス粒子の形状は特に制限されないが、その平均粒子径は、ラテックス粒子表面の蛋白質と測定対象物質との凝集反応の結果生じる凝集体が肉眼又は光学的に検出できるに充分な大きさが望ましい。好ましい平均粒子径としては0.02〜1.6μmであり、特に0.03〜0.5μmが好ましい。
【0031】
ラテックス粒子に本発明のモノクローナル抗体を感作する方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えばラテックス粒子表面に物理的に吸着させる方法、官能基を有するラテックス粒子表面に共有結合、免疫的結合によって感作する方法などが挙げられる。
【0032】
本発明の可溶性フィブリン測定試薬には、本発明のモノクローナル抗体を感作したラテックス粒子の他に、BSA、ショ糖等の安定剤、アジ化ナトリウム等の防腐剤を適宜加えてもよい。本発明の可溶性フィブリン測定試薬に、更に希釈液を組み合わせてラテックス凝集反応用キットとしてもよい。この希釈液には、必要に応じて上記の安定剤や防腐剤を添加することができる。
【実施例】
【0033】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0034】
実施例1 モノクローナル抗体の調製
(1)ハイブリドーマの調製
PBSに溶解したヒト精製フィブリノゲンにバトロキソビン処理を行い生成した可溶性フィブリンを免疫原とした。この免疫原を完全フロイントアジュバンド(GIBCO社製)と1対1で混和乳化し、0.1mg/0.1mL(エマルジョン)で6週齢の雌BALB/Cマウスの皮下に1週間間隔で6回投与後、最終免疫の3日後に脾臓を摘出した。摘出した脾臓から得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞SP2/O−Ag14とを6対1の割合で混合し、50%ポリエチレングリコール1540(和光純薬工業社製)存在下にて細胞融合させた。融合細胞は脾臓細胞として2.5×106/mLになるようにHAT培地に懸濁し、96穴培養プレート(CORNING社製)に0.2mLずつ分注した。これを5%CO2インキュベーター中で37℃にて培養し、おおよそ2週間後に、ハイブリドーマの生育してきたウェルの培養上清について、次に示すELISA法にしたがって、可溶性フィブリンに対する抗体の産生が有望な株を選択した。
【0035】
まず、マイクロプレート(NUNC社製)にヤギ抗マウスIgG(Fc)抗体(JACKSON社製)を介し、各培養上清中のIgGを固相化した。これに、可溶性フィブリン及びフィブリノゲン、フィブリンX、Y、E、安定化フィブリン分解物(XDP)を反応させた。さらにペルオキシダーゼ標識抗フィブリノゲンウサギポリクローナル抗体(DAKO社製)を反応させた後、オルトフェニレンジアミン(東京化成社製)を含むペルオキシダーゼ基質溶液を加え発色させ、1.5N硫酸を加え発色を停止した後、マイクロプレートリーダー(Abs.492nm)で測定し、可溶性フィブリンに対して高い反応性を示すが、フィブリノゲン、フィブリンX、Y、E、及び安定化フィブリン分解物(XDP)には反応性を示さなかった株を選択した。このハイブリドーマを限界希釈法によるクローン化を行い、抗可溶性フィブリンモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ(J2−23)を1種樹立した。このハイブリドーマは、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1−1−1 中央第6)に2004年12月3日に寄託番号(FERM BP−10172)として寄託された。尚、以下の記載において、ハイブリドーマ(J2−23)から分泌される抗可溶性フィブリンモノクローナル抗体をJ2−23抗体と称する。
【0036】
(2)モノクローナル抗体の調製
2週間前にプリスタン0.5mLを腹腔内に注射しておいた12週齢の雌BALB/Cマウスに、上記で得られたハイブリドーマを細胞数0.5×106個の量で腹腔内に投与した。約14日後に腹水を採取し、遠心処理して上清を得た。上清を等量の吸着用緩衝液(3mol/L NaCl−1.5mol/L Glycine−NaOH、pH8.5)と混和後、濾過した。この濾液を吸着用緩衝液で平衡化したプロテインAカラム(ファルマシア社製)に通して抗体をカラムに吸着させた後、0.1mol/Lクエン酸緩衝液(pH3.0)でカラムより溶出させ、抗可溶性フィブリンモノクローナル抗体(J2−23抗体)を精製した。
【0037】
実施例2 抗可溶性フィブリンモノクローナル抗体(J2−23抗体)の免疫グロブリンクラス及び特異性の同定(1)
J2−23抗体の免疫グロブリンクラスをELISA法(ZYMED社製)により同定したところ、IgG1、κ軽鎖であった。
J2−23抗体を、PBSで5μg/mLの濃度に調整後、96穴ELISAプレート(NUNC社製)に50μL/ウェル加え、4℃で一夜インキュベートした。プレートをPBSで3回洗浄後、ブロッキング液(1%BSAを含むPBS)を100μL/ウェル加え、1時間ブロッキングした。ブロッキング液を除去後、ブロッキング液により希釈した表1に記載の各種抗原を50μL/ウェル加え、室温で1時間インキュベートした。ブロッキング液で3回洗浄した後、ペルオキシダーゼ標識抗フィブリノゲンウサギポリクローナル抗体を加え、室温で1時間インキュベートした。再びブロッキング液で3回洗浄した後、実施例1のペルオキシダーゼ基質溶液を50μL/ウェル加えた。10分後、1.5N硫酸を50μL/ウェル加え、492nmにおける吸光度を測定した。
【0038】
表1中、フィブリノゲン(以下、Fbgと表記することがある)はシグマ社製の精製品をゲルろ過法によりさらに精製して用いた。desAAフィブリンモノマー(以下、desAAFbnと表記することがある)及びdesAABBフィブリンモノマー(以下、desAABBFbnと表記することがある)は、精製されたFbgに、バトロキソビン又はトロンビンをそれぞれ作用後、生じたクロットを酸で可溶化して調製した。更に、desAAFbn−Fbg複合体及びdesAABBFbn−Fbg複合体は、酸可溶化desAAFbn及びdesAABBFbnを各々Fbg溶液に添加し、複合体形成によって高分子化した画分をゲルろ過法により分離し調製した。FbgフラグメントX及びYは、いずれも市販品(国際バイオ社製)を使用した。フィブリンフラグメントX及びYは、前記FbgフラグメントX及びYをトロンビン処理して、フィブリンフラグメントX及びYとした。FbgフラグメントE、フィブリンフラグメントE、Dダイマー(DD)及びDモノマー(D)は、市販品(国際バイオ社製)を用いた。DD/Eを含むXDP画分は、フィブリン塊にプラスミンを作用させ、消化物をゲルろ過で分離後、高分子画分をXDP画分とした。
【0039】
結果を表1に示す。表1において、「+」は、サンドイッチELISA法で反応し、「−」は、反応しなかったことを表す。
【0040】
【表1】


【0041】
表1から明らかなように、本発明のモノクローナル抗体(J2−23抗体)は、各種液相の抗原に対して、desAAFbn、desAAFbn−Fbg複合体、desAABBFbn、及びdesAABBFbn−Fbg複合体に反応し、未処理のFbg、プラスミンによるフィブリノゲン分解物(FbgDPすなわち、フィブリノゲンフラグメントX、フィブリノゲンY、フィブリノゲンE及びD)及びフィブリン分解物(FbnDPすなわち、フィブリンフラグメントX、フィブリンフラグメントY、フィブリンフラグメントE、DD/Eを含むXDP画分、DD)には反応しないことが判明した。
【0042】
実施例3 抗可溶性フィブリンモノクローナル抗体(J2−23抗体)の特異性の同定(2)
実施例2で評価した各種抗原を、非還元条件下でSDS−PAGE分離後、PVDF膜に転写し、3%スキムミルクを含むPBST(0.05%Tween20を含むPBS)で1時間ブロッキング後、一次抗体としてモノクローナル抗体(J2−23抗体)、二次抗体としてペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体(Biosource international社製)を反応させた。PVDF膜をPBSTで洗浄後、ジアミノベンチジンを基質として加え、発色させた。その結果、desAAFbn及びdesAABBFbn以外にFbgにも反応することが確認されたが、各種FbgDPには反応は認められなかった。更に、Fbgを還元条件下で処理し同様の操作を行ったところ、Aα鎖に強い反応が認められた(図1)。
【0043】
以上の結果より、本発明のモノクローナル抗体(J2−23抗体)のエピトープは、液相中の未変性のFbgには出現しておらず、Fbgを変性させることにより、FbgのAα鎖上に出現することが判明した。その部位は、J2−23抗体が各種FbgDPには反応しないことから、可溶性フィブリンにプラスミンが作用して切り離されたフラグメントに存在することが判明した。
【0044】
実施例4 抗可溶性フィブリンモノクローナル抗体(J2−23抗体)のエピトープ解析(1)
実施例3で得られた知見をもとに、Aα鎖上のエピトープ位置を以下に示す方法で解析した。精製Fbgを10mmol/Lトリス緩衝液(pH8.0)を用いて10mg/mLとなるように溶解した溶液に、プラスミン(クロモジェニックス社製)を最終濃度0.2単位/mLとなるように添加し、37℃で30分消化させた。その後、最終濃度500単位/mLとなるようにアプロチニン(三菱ウェルファーマ社製)を加え、プラスミン活性を失活させた。この消化液を還元処理した後、SDS−PAGE 15−25%で分離後、PVDFへ転写し、CBB染色及び上記実施例3と同様に本発明のモノクローナル抗体(J2−23抗体)を用いてイムノブロティングを行った。
【0045】
その結果、約16kDaのJ2−23抗体と反応する消化断片が認められた(図2の矢印のバンド)。CBB染色されたその消化断片を切り出し、N末端アミノ酸配列を調べた結果、Fbg Aα鎖の425番目をN末端とする配列(TGKEKVTS)であった。
この配列は、Fbgがプラスミン消化によってFbg−Xに変化する際に、切り離されるフラグメント中にあることから、本発明のモノクローナル抗体のエピトープは、FbgのAα鎖上にあり、かつプラスミンで消化を受け、切り離されるAα鎖のC末端領域に存在することが判明した。更に、本発明の抗体のエピトープは、このプラスミン消化フラグメントの内、Aα鎖の425番目以降に存在することが判明した。プラスミン消化Aα鎖C末端フラグメントに反応性を示す可溶性フィブリンに対する抗体は、これまで知られていない新規な抗体である。
【0046】
実施例5 抗可溶性フィブリンモノクローナル抗体(J2−23抗体)のエピトープ解析(2)
実施例4で得られた知見をもとに、Aα鎖上のエピトープ位置を以下に示す方法で、さらに解析を進めた。
【0047】
Doolittleらの方法(Biochemistry 1977,16:1703)に基づき、FbgからAα鎖を分離精製した。精製Aα鎖をEndoproteinase Asp−N(シグマ社製)を用いて消化後、実施例4と同様にして、イムノブロッティングを行った。
その結果、7〜8kDaに消化断片が認められ、その消化断片のN末端アミノ酸配列を調べた結果、Fbg Aα鎖の502番目をN末端とする配列(DTAST)であった。この消化断片の分子量及びAsp−Nの切断部位がアスパラギン酸のアミノ基側であることから推察して、502〜573番目のペプチドであると推測した。
【0048】
次に、上記消化断片のアミノ酸配列に相当するペプチドを、502番目を始めとして6種類(AA502−521、AA512−531、AA522−541、AA532−551、AA542−561、AA552−571)を合成し、以下に示す方法で、本発明のモノクローナル抗体(J2−23抗体)のエピトープの絞込みを行った。
【0049】
まずヤギ抗マウスIgG(Fc)抗体をPBSで5μg/mLの濃度に調整後、マイクロプレートに50μL/ウェル加え、4℃で1夜インキュベートした。プレートをPBST(0.05%Tween20を含むPBS)にて3回洗浄後、ブロッキング液(BSA−PBST)を100μL/ウェル加え、室温で1時間インキュベートした。PBSTで3回洗浄後、本発明のモノクローナル抗体(J2−23抗体)をBSA−PBSTで0.2μg/mLの濃度に調整後50μL/ウェル加え、室温で1時間インキュベートした。PBSTで3回洗浄後、0〜100μg/mLにBSA−PBSTで希釈した各合成ペプチドを25μL/ウェル加え、室温で30分間インキュベートした。続いて、後述する実施例6で調製した可溶性フィブリンをBSA−PBSTで1μg/mLに調製後、25μL/ウェル加え、室温で1時間インキュベートした。PBSTで3回洗浄後、BSA−PBSTで5000倍に希釈したHRP−ウサギ抗ヒトFibrinogen抗体(DAKO社製)を50μL/ウェル加え、室温で1時間インキュベートした。PBSTで3回洗浄後、実施例1のペルオキシダーゼ基質溶液を50μL/ウェル加えた。10分後、1.5N硫酸を50μL/ウェル加え、492nmにおける吸光度を測定した。
【0050】
その結果を図3に示す。6種類の合成ペプチドの内、AA502−521のみ競合阻害反応が認められたことから、本発明のモノクローナル抗体(J2−23抗体)のエピトープは、FbgのAα鎖の502〜521番目のアミノ酸配列を認識することが確認された。このことは、Fbgにトロンビンが作用した際に生成する可溶性フィブリンのAα鎖C末端領域、少なくとも502〜521番目付近の構造が変化することを示すものであり、本発明のモノクローナル抗体(J2−23抗体)は、この構造変化を特異的に認識する、可溶性フィブリンに特異的な抗体といえる。
【0051】
実施例6 ラテックス凝集反応(LTIA)を用いた可溶性フィブリンの測定
(1)抗体感作ラテックスの調製
モノクローナル抗体(J2−23抗体)を20mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH7.5)で0.7mg/mLとなるように希釈した抗体液と、1%ラテックス溶液(粒径0.2μm、積水化学工業社製)を等量ずつ混和し、4℃で約2時間攪拌した。更に、1%BSAを等量加え1時間攪拌した後、遠心(100,000×g、5分間)処理した。沈降したラテックスを0.5%BSAを含む5mmol/L MOPS(pH7.0)で懸濁し、抗体感作ラテックスを得た。
【0052】
(2)可溶性フィブリンの調製
実施例2と同様に、酸可溶性desAAFbn又はdesAABBFbnを調製し、ヒトクエン酸血漿にそれぞれ最終濃度0〜50μg/mLとなるように添加したものを可溶性フィブリンとした。
【0053】
(3)可溶性フィブリンの測定
0.4%BSA及び0.5mol/L塩化ナトリウムを含む30mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH8.5)を調製し(第1試薬)、上記で調製した抗体感作ラテックス(第2試薬)を用いて、生化学自動分析装置日立7170形にて測定した。自動分析装置内の37℃の反応セルに、上記で調製した可溶性フィブリン3μL及び第1試薬100μL添加し、第1試薬添加から5分後、第2試薬100μLを添加し、5分間抗原抗体反応をさせた。そして、主波長570nm及び副波長800nmにて、ポイント18から34の間の、反応前後の吸光度変化を測定した(図4)。添加したdesAAFbn又はdesAABBFbnの濃度に対応した吸光度変化が認められたことから、本発明のモノクローナル抗体を使用することにより、血中の可溶性フィブリン量を測定できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例3で行った、還元条件下で処理したフィブリノゲンに対するJ2−23抗体の反応性を解析した図である(A:CBB染色、B:ウェスタンブロット)。
【図2】実施例4で行った、プラスミン消化したフィブリノゲンの各消化断片に対するJ2−23抗体の反応性をウェスタンブロット法で解析し、反応する消化断片を、CBBにより蛋白染色した泳動図である。
【図3】6種類の合成ペプチドと本発明モノクローナル抗体との競合阻害を示す図である。
【図4】実施例6で行った、可溶性フィブリンとLTIA試薬との反応性を示した図である。
【出願人】 【識別番号】390037327
【氏名又は名称】第一化学薬品株式会社
【出願日】 平成19年10月12日(2007.10.12)
【代理人】 【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所

【識別番号】100068700
【弁理士】
【氏名又は名称】有賀 三幸

【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄

【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫

【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹

【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人


【公開番号】 特開2008−29353(P2008−29353A)
【公開日】 平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願番号】 特願2007−266099(P2007−266099)