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【発明の名称】 γ−アミノ酪酸とオルニチンを含有する食品の製造方法
【発明者】 【氏名】中村 亮太

【氏名】小野 貴博

【氏名】船公 丈由

【氏名】山元 英樹

【要約】 【課題】GABAとオルニチンの両方を同時に効率よく製造できる方法を提供する。また、食品中のGABAとオルニチン含量を、各々の純品又は/及びそれらの塩又は/及びそれらの含有物を添加することなく、かつ、効率よく増加させる方法を提供する。この方法により、GABAとオルニチンを必要量無理なく継続的に摂取することを可能にする組成物および飲食品を提供する。

【構成】グルタミン酸又は/及びその塩類と、アルギニン又は/及びその塩類を含有する、培地或いは食品原料に、γ−アミノ酪酸生産能とオルニチン生産能の両方を有する乳酸菌を接種し乳酸発酵を行う。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルタミン酸又は/及びその塩類と、アルギニン又は/及びその塩類を含有する培地に、γ−アミノ酪酸生産能とオルニチン生産能の両方を有する乳酸菌を接種し乳酸発酵することを特徴とするγ−アミノ酪酸とオルニチンを含有する組成物の製造方法。
【請求項2】
食品原料に、γ−アミノ酪酸生産能とオルニチン生産能の両方を有する乳酸菌を接種し乳酸発酵することを特徴とするγ−アミノ酪酸とオルニチンを含有する食品の製造方法。
【請求項3】
食品原料に、さらにグルタミン酸又は/及びその塩類を含ませる請求項2記載のγ−アミノ酪酸とオルニチンを含有する食品の製造方法。
【請求項4】
食品原料に、さらにアルギニン又は/及びその塩類を含ませる請求項2又は3記載のγ−アミノ酪酸とオルニチンを含有する食品の製造方法。
【請求項5】
食品原料が、あらかじめ蛋白分解酵素により処理されたものである請求項2〜4のいずれかに記載のγ−アミノ酪酸とオルニチンを含有する食品の製造方法。
【請求項6】
γ−アミノ酪酸生産能とオルニチン生産能の両方を有する乳酸菌が、ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)に属する乳酸菌である請求項1〜6のいずれかに記載のγ−アミノ酪酸とオルニチンを含有する組成物又は食品の製造方法。
【請求項7】
食品原料が、アスパラガスから得られるものである請求項2〜6のいずれかに記載のγ−アミノ酪酸とオルニチンを含有する食品の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法によって製造されるγ−アミノ酸とオルニチンを含有する組成物又は食品。


【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌培養によって得られるγ−アミノ酪酸とオルニチンを含有する組成物又は食品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
γ−アミノ酪酸(γ−amino butyric acid、以下、GABAと略す。)は生物界に微量ながら広く存在する非タンパク質構成の遊離アミノ酸であり、ヒトにおいては脳内で神経伝達物質として働くことが知られている。食品素材としてのGABAは血圧降下作用、精神安定作用、脳機能改善作用、更年期障害症状緩和作用、成長ホルモン分泌促進作用、中性脂肪増加抑制作用等の生理作用を有している。
【0003】
一方、オルニチンも生物界に微量ながら広く存在する非タンパク質構成の遊離アミノ酸であり、肝臓のオルニチン回路の重要な成分でアンモニアの代謝に関与していることが知られている。食品素材としてのオルニチンは、成長ホルモン分泌促進作用、肝機能改善作用、免疫機能改善作用、疲労改善作用、美肌作用等の生理作用を有している。
【0004】
このことから、GABAとオルニチンを含有する組成物は、健康維持意識の高い現代人にとって有効な生理作用を多数有することが期待される。
【0005】
従来、GABAとオルニチンを含有する組成物を製造しようとする場合、各々の純品及び/又はその塩及び/又はそれらの含有物を混合する、または、一方のアミノ酸の製造工程でもう一方のアミノ酸の純品及び/又はその塩及び/又はそれらの含有物を添加するしかなく、コストが高くなった。
【0006】
また、GABAは玄米、茶、一部の野菜、果物等の食品に含まれることが分かっているが、その含量は低く、上記の効能を得るだけの有効量を摂取することは困難であった。そのため、食品中のGABA含量を高める方法が種々検討されてきた。
【0007】
食品中のGABA含量を高める方法としては、食品中にGABA産生能を持つ微生物を接種するかあるいは食品のもつ酵素を利用してGABA含量を高める方法と、微生物により生産されたエキス化されたGABAを食品に添加する方法の2種類があった。
【0008】
前者の方法について、食品中にGABA産生能を持つ微生物を接種する方法には、脱脂乳とトマト果汁を含む培地にラクトバチルス・ヘルベチカス(Lactobacillus helveticus)およびラクトバチルス・カゼイ(L.casei)の2種の乳酸菌を添加して乳酸醗酵を行う方法(特許文献1参照)、乳類にグルタミン酸遊離活性を有する乳酸菌およびグルタミン酸デカルボキシラーゼ活性を有する乳酸菌とを接種し乳酸醗酵を行う方法(特許文献2参照)、魚醤油にラクトバチルス・プランタラム(L.plantaram)を添加して乳酸醗酵を行う方法(特許文献3参照)、飲食品または調味食品原料にグルタミン酸またはグルタミン酸含有物と、GABA生産能を有する乳酸菌とを添加し乳酸醗酵を行う方法(特許文献4参照)等が開示されている。
【0009】
また、食品のもつ酵素を利用してGABA含量を高める方法には、米胚芽、米糠、小麦胚芽などの中に元来含まれる酵素の作用を利用してGABA富化穀物を製造する技術(例えば、特許文献5及び6参照)、トマト、カボチャ等の野菜などの中に含まれる酵素の作用を利用してGABA富化組成物を製造する技術(例えば、特許文献7〜9参照)、茶葉を嫌気処理することによってGABA含量の高い茶葉を製造する技術(例えば、特許文献10参照)などが報告されている。
【0010】
しかしながら、これらの方法によってGABA含量を高めた食品は、処理前と比較すると含量が高くなっているものの、いまだ満足いくものでなかった。特に、他の飲食品に添加・混合する場合には、さらにGABA含量を高める必要があった。また、これらの方法は、長期間の醗酵が必要であり生産性が低い、食品によっては該食品中では必ずしも乳酸菌がGABAを産生しない、といった問題があった。また、上記記載の方法の多くではグルタミン酸または/およびその塩または/およびそれらの含有物を添加するが、生産効率の悪さからグルタミン酸が残存し、食品本来の風味を失う、といった問題があった。
【0011】
一方、後者の方法について、微生物によりGABAを生産する方法として、グルタミン酸および/またはその塩を含む醗酵培地中で乳酸菌による乳酸醗酵を行う方法が挙げられる。乳酸菌としては、ラクトバチルス・ヒルガルディーK−3(Lactobacillus hilgardiiK−3)(特許文献11)、ラクトバチルス・ブレビスTY414(L.brevis TY414)(特許文献12)、ラクトバチルスsp.Y−3(Lactobacillus sp.Y−3)(特許文献13)が開示されている。この後者の方法では、食品に後からGABAを添加するために、化学物質の添加物を加えるという悪いイメージを与える。また、醗酵培地由来の香味物質が食品に移行し、食品本来の香味を損なったりする恐れがあった。
【0012】
一方、オルニチンもキノコ類、シジミ、ヒラメ、キハダマグロ、チーズ等に比較的多く含まれることが知られているが、その含量は低く、前記の効能を得るだけの有効量を摂取することは困難であった。
【0013】
例えば、非特許文献1には、シロタモギタケ(現ブナシメジ)の成熟柄には100g中284.4mg、特許文献14には、−20℃緩慢冷却したシジミの抽出液凍結乾燥物100g中758mg、非特許文献2には、白菜漬を7℃で30日間保存したもの100g中に44.62mg、非特許文献3には、Mini St Paulin type cheese100g中に52.8mg含まれるとされている。しかし、これら以外の食品にはほとんど含まれず、固形分100g中のオルニチン量が50mgを超える食品は少なかった。
【0014】
食品中のオルニチン含量を高める方法としては、オルニチンを含有する生物の生体反応を利用してオルニチン含量を高める方法と、工業的に生産されたオルニチンを食品に添加する方法の2種類があった。
【0015】
オルニチンを含有する生物の生体反応を利用してオルニチン含量を高める方法としては、シジミ貝に冷却負荷をかけ、そのオルニチン生合成反応を促進する方法(特許文献14)が知られている。しかし、この方法はシジミにしか応用することができない。
【0016】
オルニチンを工業的に生産する方法としては、化学合成法と発酵法がある。ただし、この方法では、食品に後からオルニチンを添加するために、化学物質の添加物を加えるという悪いイメージを与える。
【0017】
上記したオルニチンを比較的多く含む食品中のGABA含量は、シジミ、Mini St Paulin type cheeseには含有されず、シロタモギタケの成熟柄には100g中12.8mg、白菜漬を7℃で30日間保存したもの100g中に12.42mgしか含有されない。よって、GABAとオルニチンを食品から摂取するには別々の食品から摂取するしかなく、また、その含有量も少量であるためその効能が期待できるほど摂取するのは非現実的であった。
【特許文献1】特許第3426157号公報
【特許文献2】特許第3172150号公報
【特許文献3】特許第2704493号公報
【特許文献4】特開2004−215529号公報
【特許文献5】特許第2590423号公報
【特許文献6】特開2004−159617号公報
【特許文献7】特許第1984200号公報
【特許文献8】特許第1989077号公報
【特許文献9】特開2001−252091号公報
【特許文献10】特許第3038373号公報
【特許文献11】特開2003−070462号公報
【特許文献12】特開2000−210075号公報
【特許文献13】特開2004−357535号公報
【特許文献14】特開2001−204432号公報
【非特許文献1】日本食品工業学会誌第31巻第10号(1994)、649−655
【非特許文献2】日本食品工業学会誌第33巻第10号(1996)、701−707
【非特許文献3】Int.Diary J.、8(1998)、889−898
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
このような背景から、GABAとオルニチンの両方を同時に効率よく製造できる方法が求められていた。また、食品中のGABAとオルニチン含量を、各々の純品又は/及びそれらの塩又は/及びそれらの含有物を添加することなく、かつ、効率よく増加させる方法が求められていた。本発明は、このような状況を鑑みて発明されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは上記した課題について鋭意検討した結果、γ−アミノ酪酸生産能とオルニチン生産能の両方を有する乳酸菌を利用することで上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明の第一は、グルタミン酸又は/及びその塩類と、アルギニン又は/及びその塩類を含有する培地に、γ−アミノ酪酸生産能とオルニチン生産能の両方を有する乳酸菌を接種し乳酸発酵することを特徴とするγ−アミノ酪酸とオルニチンを含有する組成物の製造方法を要旨とするものである。
【0021】
また、本発明の第二は、食品原料に、γ−アミノ酪酸生産能とオルニチン生産能の両方を有する乳酸菌を接種し乳酸発酵することを特徴とするγ−アミノ酪酸とオルニチンを含有する食品の製造方法を要旨とするものであり、好ましくは、食品原料に、さらにグルタミン酸又は/及びその塩類を含ませる前記したγ−アミノ酪酸とオルニチンを含有する食品の製造方法であり、また好ましくは、食品原料に、さらにアルギニン又は/及びその塩類を含ませる前記したいずれかに記載のγ−アミノ酪酸とオルニチンを含有する食品の製造方法であり、また好ましくは、食品原料が、あらかじめ蛋白分解酵素により処理されたものである前記したいずれかに記載のγ−アミノ酪酸とオルニチンを含有する食品の製造方法であり、さらに好ましくは、γ−アミノ酪酸生産能とオルニチン生産能の両方を有する乳酸菌が、ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)に属する乳酸菌である前記したいずれかに記載のγ−アミノ酪酸とオルニチンを含有する組成物又は食品の製造方法であり、さらに好ましくは、食品原料が、アスパラガスから得られるものである前記したいずれかに記載のγ−アミノ酪酸とオルニチンを含有する食品の製造方法である。
【0022】
さらに、本発明の第三は、前記したいずれかに記載の製造方法によって製造されるγ−アミノ酸とオルニチンを含有する組成物又は食品を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、GABAとオルニチンの両方を同時に、効率よく製造することができる。また、食品中のGABAとオルニチン含量を、各々の純品又は/及びそれらの塩又は/及びそれらの含有物を添加することなく、かつ、効率よく増加させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。先ず本発明の第一について説明する。
【0025】
本発明において用いられる乳酸菌は、食品に用いても安全であり、GABA生産能とオルニチン生産能を併せ持つことが必要である。そのような乳酸菌としては、Lactbacillus brevis、L.lactis等に属する乳酸菌が挙げられる。これらに属する乳酸菌株のうち、本発明者らが以前に自然界より見出したL.brevis UAS−4(FERM P−20710)、L.brevis UAS−6(FERM P−20711)はGABA生産能およびオルニチン生産能が高く、より好ましい。本発明においては、これらに属する乳酸菌株を単独で用いても構わないし、2以上の菌株を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
本発明において、乳酸菌を増殖させ、GABA産生とオルニチン産生を行わせるための培地としては、従来公知のあらゆる培地を使用することができる。かかる培地としては、乳酸菌培養に一般的なGYP培地(D−グルコース1%、ペプトン0.5%、酵母エキス1%、酢酸ナトリウム3水和物0.2%、ツイン80 0.05%、硫酸マグネシウム7水和物0.02%、硫酸マンガン4水和物10ppm、硫酸鉄7水和物10ppm、塩化ナトリウム10ppm)、FYP培地(GYP培地の糖がD−フルクトースになったもの)の他、市販のGAM培地(日水製薬)、MRS培地(Difco)等を使用することもできるし、酵母エキス、肉エキス、麦芽エキス、魚肉エキス、大豆分解物、ペプトン、ポリペプトン、ポテト浸出液等を単独で又は2種以上を水に溶解させた培地を使用することもできる。
【0027】
本発明においては、上記した培地にグルタミン酸又は/及びその塩類と、アルギニン又は/及びその塩類を含有させることが必要である。グルタミン酸の塩類としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩が挙げられる。グルタミン酸又は/及びその塩類を含有させる方法として、グルタミン酸又は/及びその塩類を含有する含有物を培地に含ませてもよい。そのような含有物としては、タンパク質の酸加水分解物、酵素分解物、酵母エキス等が挙げられ、そのうち酵母エキスが乳酸菌のGABA産生能を促進する効果が高いという点から好ましい。
【0028】
グルタミン酸又は/及びその塩類の添加量は、グルタミン酸換算で培地に対して0.1質量%〜40質量%であり、0.2質量%〜25質量%が好ましく、1質量%〜20質量%がさらに好ましい。この範囲より少なければ培養液中に蓄積されるGABAの量が少なくなり、この範囲より多ければグルタミン酸及び/又はグルタミン酸塩が残存してしまうか、全量GABAに変換されたとしても培養に長時間要する場合がある。グルタミン酸又は/及びその塩類は、培養に先立って全量を添加してもよいし、培養期間中に複数回に分けて添加してもよい。作業性の面では1回で全量添加することが好ましいが、急激なpHの変化を避けるためには、少量ずつ添加することもでき、その場合好ましくは2回〜10回であり、さらに好ましくは2回〜5回である。
【0029】
アルギニンの塩類としては、塩酸塩、グルタミン酸塩が挙げられる。アルギニン又は/及びその塩類を含有させる方法として、アルギニン又は/及びその塩類を含有する含有物を培地に含ませてもよい。そのような含有物としては、タンパク質の酸加水分解物、酵素分解物、酵母エキス等が挙げられ、そのうち酵母エキスが乳酸菌のオルニチン産生能を促進する効果が高いという点から好ましい。
【0030】
アルギニン又は/及びその塩類の添加量は、アルギニン換算で培地に対して0.1質量%〜40質量%であり、0.2質量%〜25質量%が好ましく、1質量%〜20質量%がさらに好ましい。この範囲より少なければ培養液中に蓄積されるオルニチンの量が少なくなり、この範囲より多ければアルギニン及び/又はアルギニン塩が残存してしまうか、全量オルニチンに変換されたとしても培養に長時間要する場合がある。アルギニン又は/及びその塩類は、培養に先立って全量を添加してもよいし、培養期間中に複数回に分けて添加してもよい。作業性の面では1回で全量添加することが好ましいが、急激なpHの変化を避けるためには、少量ずつ添加することもでき、その場合好ましくは2回〜10回であり、さらに好ましくは2回〜5回である。
【0031】
次に、本発明における培養の条件について述べる。
【0032】
乳酸菌の添加方法は、上記した培地に直接少量の菌体を接種する方法でもよいし、短期間で菌体濃度を上昇させる為に、前培養した菌液を接種する方法でもよい。前培養液としては、本培養と同じく上記した培地を使用することもできる。前培養した菌液を接種する量としては、本培養の培地量の100000分の1〜2分の1であり、1000分の1〜10分の1が好ましく、200分の1〜30分の1がさらに好ましい。この範囲より接種量が少なければ、菌体濃度の増加に時間がかかる問題があり、この範囲より多ければもはや前培養の時点で大きなスケールになっており、本培養を行う必要性がないということである。
【0033】
培養時の温度は、用いる菌株にもよるが、5℃〜45℃であり、好ましくは15℃〜40℃であり、さらに好ましくは20℃〜35℃である。培養温度がこの温度範囲より高くても低くても著しく増殖速度が劣る問題がある。
【0034】
培養液のpHは、用いる菌株にもよるが、3.5〜8.0に調整することが好ましく、4.0〜7.0に調整することがより好ましく、4.5〜6.5に調整するのが最も好ましい。pHがこの範囲を外れると、グルタミン酸脱炭酸酵素の活性が低下し、GABAの産生速度が低下する問題がある。pH調整に用いる薬品はいかなる物も使用でき、例えば塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸、酪酸、乳酸、蟻酸、コハク酸、マレイン酸、リンゴ酸、シュウ酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア水等が挙げられる。本発明ではGABAの産生に応じてpHは上昇する傾向になり調整は主に酸を添加して行うため、これらの中で好ましくは、塩酸、リン酸、酢酸、乳酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸であり、さらに好ましくは塩酸、乳酸、酢酸である。
【0035】
培養時の酸素条件は、用いる菌株にもよるが、嫌気条件下でも好気条件下でも増殖させることができる。ただし、好気条件下では増殖は可能でもGABA生産能が低下する菌株が存在するので、嫌気条件か緩やかに攪拌する程度の好気条件にする方が好ましく、例えばバブリングや速い攪拌等を行う必要は無い。
【0036】
上述のようにして培養を行うことによって、培養液中にGABAとオルニチンが蓄積されことになり、その培養液そのままで、本発明におけるGABAとオルニチンを含有する組成物とすることができる。また、この培養液から菌体を除去して得られた培養上清を本発明におけるGABAとオルニチンを含有する組成物とすることもできる。さらにこの培養上清を濃縮、乾燥してもよいし、また、培養上清に晶析、イオン交換等の処理を施してGABA及び/又はオルニチンの純度を向上させることを行ってもよい。
【0037】
菌体の除去は、従来公知の方法で行えばよく、例えばフィルタープレス、ブフナー漏斗、遠心ろ過器、遠心分離機、デカンタ等を使用することができる。
【0038】
培養上清を濃縮するには、従来公知の濃縮装置を使用することができ、例えばエバポレーター、濃縮缶の他、エバポール(大河原製作所)、ウォールウェッター(関西化学機械製作)等が挙げられる。
【0039】
培養上清を乾燥するには、従来公知の乾燥装置を使用することができ、例えば真空凍結乾燥機、真空棚式乾燥機、温風乾燥機、真空ニーダー、リボコーン乾燥機、ドラムドライヤー、振動流動乾燥機、スプレードライヤー等が挙げられる。乾燥させる液は培養上清そのままでもよいし、濃縮した物でもよいが、固形分濃度5〜70質量%、好ましくは5〜50質量%、さらに好ましくは10〜40質量%まで濃縮したものを使用することが好ましい。
【0040】
上記のようにして乾燥させたものは粉砕して粉末状にすることもできる。粉砕には従来公知の粉砕機が使用でき、例えば乳鉢、ブレンダーミキサー、カッターミル、ハンマーミル、ジェットミル、フェザーミル等が挙げられる。
【0041】
以上のようにして得られたGABAとオルニチンを含有する組成物には、乾燥物の場合、GABAが5質量%以上含まれ、好ましくは10質量%以上含まれ、オルニチンが0.1質量%以上含まれ、好ましくは0.5質量%以上含まれることとなる。
【0042】
産生したGABA及び/またはオルニチンの濃度をさらに向上させるために、さらなる精製を行っても良く、かかる精製方法としては、晶析、限外ろ過、イオン交換、活性炭処理、クロマト分離等が挙げられる。これらの中で、限外ろ過、イオン交換、活性炭処理が好ましい。
【0043】
晶析による精製は、従来公知の方法を用いることができ、例えば濃縮晶析、冷却晶析、加熱溶解・冷却晶析、等電点晶析、有機溶媒を加える晶析法などが挙げられる。GABAとオルニチンは溶解度及び等電点が異なるため、その差を利用して一方のアミノ酸の純度を任意に上げることができる。析出した結晶は従来公知の方法で分離すれば良く、例えば遠心ろ過機、ブフナー漏斗、フィルタープレス等を使用することができる。
【0044】
限外ろ過による精製は、高分子量の成分を除去することができるものであり、目的とするGABA及びオルニチン純度になるように分画分子量を選定することができる。限外ろ過膜の分画分子量は好ましくは1000〜200000であり、さらに好ましくは3000〜10000である。この範囲より低ければ精製に時間がかかる問題があり、この範囲より高ければGABA及びオルニチン純度が向上しない問題がある。
【0045】
イオン交換は従来公知の方法を用いることができるが、好ましくはイオン交換樹脂塔を用いた精製である。イオン交換樹脂としては陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂いずれも使用することができる。例えば、陽イオン交換樹脂を用いる時には酸でH型に変換したところに培養液を通液してGABA及びオルニチンを樹脂に吸着させ、アルカリを通液してGABA及びオルニチンを溶離させる方法が好適に使われる。また例えば、陰イオン交換樹脂を用いる時にはアルカリでOH型に変換したところに培養液を通液してGABA及びオルニチンを樹脂に吸着させ、酸を通液してGABA及びオルニチンを溶離させる方法が好適に使われる。イオン交換樹脂としては陽イオン交換樹脂が好ましく、特に強酸性陽イオン交換樹脂が好ましい。また、GABAとオルニチンはイオン交換樹脂への親和性が異なるので、溶離液を経時的に分画して採取することで一方のアミノ酸の純度を任意に上げることができる。
【0046】
活性炭処理は従来公知の方法を使用でき、活性炭をGABA及びオルニチンを含む培養液の中に投入して攪拌するバッチ法、活性炭をカラムに充填してその中に培養液を通液するカラム法のいずれの方法でも良い。
【0047】
また、本発明によって製造されたGABAとオルニチンを含有する組成物は、素材として既存の飲食品或いは調味食品に添加することも可能である。ベースとなる飲食品或いは調味食品としては特に限定されないが、例えば、うどんやパスタ等の加工麺、ハム・ソーセージ等の食肉加工食品、かまぼこ・ちくわ等の水産加工食品、バター・粉乳・醗酵乳等の乳加工品、ゼリー・アイスクリーム等のデザート類、パン類、菓子類、調味料類等の加工食品、および、清涼飲料水、アルコール類、果汁飲料、野菜汁飲料、乳飲料、炭酸飲料、コーヒー飲料、アルコール類等の飲料が好ましい。
【0048】
このような飲食品或いは調味食品における、GABAとオルニチンを含有する組成物の含有量は、特に限定されないが、GABAに換算して1日当たりに摂取する量が10〜3000mgになるように配合する、あるいは、オルニチンに換算して1日当たりに摂取する量が10〜5000mgになるよう配合することが好ましい。この範囲より少ない場合は効果が望めない可能性、または効果を得るために該飲食品或いは調味食品を過剰に摂取する可能性があり、この範囲より多い場合はもはや効果の増大は見込めない可能性がある。
【0049】
次に、本発明の第二の発明について説明する。ここで用いられる、GABA生産能とオルニチン生産能を併せ持つ乳酸菌としては、本発明の第一で説明したものが同様に用いられる。
【0050】
本発明で用いられる、食品原料としては、乳酸菌が増殖可能であればいかなるものでもよく、例としては、野菜類、果実類、種実類、穀類、いも類、豆類、藻類、キノコ類、魚介類、肉類、乳類、卵類等が挙げられる。これらの中で、アスパラガスが乳酸菌のGABA産性能を高める効果が高い点で好ましい。
【0051】
これらの各種食品原料は、そのまま用いてもよいし、本発明の効果を損なわない限り洗浄、粉砕、細断、抽出、圧搾、濃縮、固液分離、加熱滅菌、濾過滅菌等公知の技術を単独或いは2つ以上組み合せて処理してから用いてもよい。また、必要に応じて水分含量調整、pH調整、加糖、上記した培地に用いられる成分の添加等の操作を行ってもよい。
【0052】
これらの操作により得られた食品原料は、不溶成分を除いた糖濃度(ブリックス(Brix)換算)が0.1〜40%であるのが好ましく、0.1〜20%であるのがより好ましく、0.5〜5%であるのがもっとも好ましい。糖濃度(Brix換算)がこの範囲を下回ると、乳酸菌の増殖が極めて悪くなり、糖濃度(Brix換算)がこの範囲を上回ると、乳酸菌のGABA産生能およびオルニチン産生能が低下する。
【0053】
また、本発明において、GABA及び/又はオルニチン含量を増加させるために、本発明の第一において説明したグルタミン酸又は/及びその塩類、又はアルギニン又は/及びその塩類を、調整された食品原料に添加することができる。グルタミン酸又は/及びその塩類と、アルギニン又は/及びその塩類は、どちらか一方のみを添加してもよいし、両方を添加してもよい。また、添加量は本発明の第一で説明したとおりである。
【0054】
また、本発明において、GABA及び/又はオルニチン含量を増加させるために、調整された食品原料を酵素処理することもできる。この酵素処理は、食品原料に含まれる蛋白質やペプチドを各々の分解酵素で処理することにより遊離グルタミン酸及び遊離アルギニンの含量を増加させたり、グルタミナーゼによりグルタミンをグルタミン酸に変換させ遊離グルタミン酸の含量を増加させるという意味がある。本発明においては、上記した酵素を一種類だけ用いてもよいし、二種以上を同時に又は工程を分けて用いてもよい。使用する酵素の量は、調整された食品又は食品原料中の蛋白質に対して0.01質量%〜10質量%であることが好ましく、0.1質量%〜5質量%であることがより好ましい。この範囲より少なければ酵素を添加する効果がほとんど期待できず、この範囲より多くとももはやこれ以上の効果は期待できない。
【0055】
本発明における培養の条件は、上述した本発明の第一で説明した条件と同様の条件を採用することができる。
【0056】
以上のようにして培養を行うことにより、食品原料中にGABA及び/又はオルニチンが蓄積することとなり、そのままで本発明におけるGABAとオルニチンを含有する食品とすることができるが、必要に応じて殺菌、除菌、固液分離、乾燥等の操作を行い、清澄液や粉末の形態にすることも可能である。
【0057】
以上のようにして得られたGABAとオルニチンを含有する食品中のGABAとオルニチンの含有量は、特に限定されないが、GABAに換算して1日当たりに摂取する量が10〜3000mgになるように配合する、あるいは、オルニチンに換算して1日当たりに摂取する量が10〜5000mgになるよう配合することが好ましい。この範囲より少ない場合は効果が望めない可能性、又は効果を得るために該食品を過剰に摂取する必要があり、この範囲より多い場合はもはや効果の増大は見込めない可能性がある。
【0058】
本発明の第一により得られたGABAとオルニチンを含有する組成物及び本発明の第二により得られたGABAとオルニチンを含有する食品の形態としては、適当な担体を添加した後常法により顆粒状、粒状、錠剤、カプセル、ゲル状、ペースト状、乳状、懸濁状、液状、飲料等の食用に適した形態に成形してもよい。
【0059】
固形状に調整する際には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、着色剤等常法で用いられているものを用いればよく、そのような担体の例としては、賦形剤としては乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビット、デキストリン、デンプン、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デキストラン、プルラン、無水ケイ酸、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム等を、結合剤としては結晶セルロース、白糖、マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、デキストラン、プルラン、水、エタノール等を、崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デキストリン、結晶セルロース等を、滑沢剤としてはステアリン酸およびその金属塩、タルク、ホウ酸、脂肪酸ナトリウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、無水ケイ酸等を、矯味矯臭剤としては白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等を例示できる。
【0060】
液体状に調整する際には、乳化剤、可溶化剤、分散剤、懸濁化剤、粘調剤、緩衝剤、安定化剤、矯味矯臭剤等常法で用いられているものを用いればよく、乳化剤および可溶化剤としてはレシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム等を、分散剤および懸濁化剤としては、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、メチルセルロース、アラビアゴム、ゼラチン等を、粘調剤としてはメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、ゼラチン等を、緩衝剤としてはクエン酸塩、コハク酸塩等を、安定化剤としてはレシチン、アラビアゴム、ゼラチン、メチルセルロースを、矯味矯臭剤としては上記したものを例示できる。
【0061】
また、味質の改善のために、糖類、糖アルコール類、塩類、油脂類、アミノ酸類、有機酸類、果汁、野菜汁、香料、香辛料、アルコール類、グリセリン等を添加することができる。
【0062】
また、pH調整のために、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、酪酸、乳酸、コハク酸、リンゴ酸、シュウ酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア水等を添加することができる。
【0063】
本発明において、GABAを始めとするアミノ酸の含有量は、以下の方法により求められた値である。すなわち、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)により以下の条件で測定し、蛍光検出器を用いて検出した。
HPLC:島津製作所(株)製LC−10A
カラム:Shim−pack Amino−Li(100mmL.×6.0mmI.D.)
移動相:アミノ酸移動相キットLi形 グラディエント溶出
流速:0.6ml/分
カラム温度:39℃
反応液:オルト−フタルアルデヒド(ポストカラム)
反応液速度:0.3ml/分
反応温度:39℃
検出波長:励起波長350nm、蛍光波長450nm
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本実施例中のGABAを始めとするアミノ酸の含有量は前記した方法で測定した。
【0065】
実施例1
5.0重量%のグルタミン酸ソーダ及び1.0重量%のアルギニンを含有するGYP培地1Lに、前培養して定常状態となっているラクトバチルス ブレビス UAS−4の菌体懸濁液を10mL添加して30℃、静置の条件で培養を開始した。24時間後に培養液を遠心し、上清をHPLC分析してグルタミン酸ナトリウム、GABA、アルギニン、オルニチンの量を測定した結果、98%の変換率でGABAが、98%の変換率でオルニチンが生成していた。この培養液上清を凍結乾燥、粉砕したところGABAを41重量%、オルニチンを11重量%含有する褐色の粉末が64.3g得られた。
【0066】
実施例2
1.0重量%のグルタミン酸ソーダ及び3.0重量%のアルギニンを含有するGYP培地1Lに、前培養して定常状態となっているラクトバチルス ブレビス UAS−6の菌体懸濁液を10mL添加して30℃、静置の条件で培養を開始した。24時間後に培養液を遠心し、上清をHPLC分析してグルタミン酸ナトリウム、GABA、アルギニン、オルニチンの量を測定した結果、99%の変換率でGABAが、97%の変換率でオルニチンが生成していた。この培養液上清を凍結乾燥、粉砕したところGABAを9.8重量%、オルニチンを52重量%含有する褐色の粉末が54.9g得られた。
【0067】
実施例3
20%脱脂粉乳溶液に、蛋白質に対し1%のプロテアーゼ(天野製薬社製、プロテアーゼA「アマノG」)を添加し24時間50℃で反応させた。この反応液を15%、脱脂粉乳20%、果糖0.5%、グルタミン酸ソーダ0.05%を含有する培地1Lに、前培養して定常状態となっているラクトバチルス ブレビス UAS−4の菌体懸濁液を10mL添加して30℃、静置の条件で培養を開始した。36時間後発酵乳中の遊離アミノ酸含量を測定した。発酵前後でのグルタミン酸、GABA、アルギニン、オルニチンの含量を表1に示す。
【0068】
【表1】


この発酵乳を凍結乾燥したところ210gの粉末を得た。この粉末のGABA、オルニチン含量は各々0.27%、0.13%であった。
【0069】
実施例4
アスパラガス、トマト、リンゴ、温州ミカン各1kgにそれぞれ水1Lを添加して家庭用のミキサーで粉砕した。破砕液に珪藻土を添加し、ろ紙(ADVANTEC東洋製No.5C)を用いて吸引濾過を行い、清澄な濾液を得た。この各濾液を濃縮或いは水で希釈しBrixを2.5%に調整した後、各原料の濾液1Lに酵母エキスを1w/w%添加し、高圧蒸気滅菌を行った。その後グルタミン酸ソーダを0.5w/w%、アルギニンを0.3w/w%添加し、ラクトバチルス ブレビス UAS−4の前培養液10mlを接種した。30℃で24時間発酵させた後、100℃で5分間加熱殺菌し、ろ紙を用いて吸引濾過を行い、清澄な濾液を得た。この濾液を凍結乾燥して粉末化し、GABAとオルニチンの含量を測定した。各原料ごとに得られた凍結乾燥物中のGABAとオルニチンの含量を表2に示す。
【0070】
【表2】


表に示すように、いずれの原料においてもGABAを8〜9%程度、オルニチンを6〜7%程度含有していた。
【0071】
実施例5
ウーロン茶200mlに実施例1及び2で得られた粉末100mgを溶解させ、GABAとオルニチンを含有するウーロン茶を得た。粉末は速やかに溶解し、味質、臭いにほとんど変化は無かった。
【0072】
実施例6
実施例4にて得られた各植物エキス醗酵液の凍結乾燥品を1w/w%になるよう中力粉と混合し、うどんの麺を作製した。この麺を調理したうどんを食したところ、微かに甘味と爽やかな香りを感じる良好な麺であった。

【出願人】 【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
【出願日】 平成18年7月10日(2006.7.10)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−17703(P2008−17703A)
【公開日】 平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願番号】 特願2006−189435(P2006−189435)