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【発明の名称】 酸素存在下におけるアルコールによる植物系バイオマスの処理方法
【発明者】 【氏名】佐々木 義之

【氏名】遠藤 貴士

【氏名】井上 宏之

【要約】 【課題】植物原料からエタノール、リグニン、パルプ等の有用成分を容易に回収できる植物原料の処理方法の提供を目的とする。

【構成】酸素雰囲気下にて植物系原料をアルコール溶媒中で加熱処理し第1液状成分と第1固形成分とを含有する加熱処理物を得、両成分を固液分離する工程を包含する植物系原料の処理方法。酸素の存在下、アルコール溶媒中で植物系バイオマスを加熱処理することによって、植物系バイオマス中のリグニンの大部分が酸化分解されて処理溶媒中に溶解し、植物系バイオマス中のセルロース及びヘミセルロースの大部分が処理溶媒に不溶な固形分残渣となることを見出した。植物原料中に含まれるリグニン成分が、セルロースやヘミセルロースのような炭水化物成分に比べて酸化されやすいという特徴を生かして比較的マイルドな条件下で酸素酸化することにより効率的に製紙用パルプや酵素糖化のための前処理物を得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素雰囲気下にて植物系原料をアルコール溶媒中で加熱処理し、第1液状成分と第1固形成分とを含有する加熱処理物を得、両成分を固液分離する工程を包含することを特徴とする植物系原料の処理方法。
【請求項2】
アルコール溶媒が水、有機酸及び有機酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
アルコールがエタノールであることを特徴とする請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
酸素雰囲気が酸素あるいは空気雰囲気である請求項1〜3のいずれかに記載の処理方法。
【請求項5】
固液分離により得られる第1固形成分を糖化酵素処理し、酵素糖化糖を得る工程を包含する請求項1〜4のいずれかに記載の処理方法。
【請求項6】
酵素糖化糖をエタノール発酵して得られるエタノール発酵物を固液分離し、得られる液状物からエタノールを回収する工程を包含する請求項5に記載の処理方法。
【請求項7】
酵素糖化糖をエタノール発酵して得られるエタノール発酵物を固液分離し、リグニンを固形物として得る工程を包含する請求項5に記載の処理方法。
【請求項8】
固液分離により得られる第1固形成分を製紙用パルプとして利用する請求項1〜4のいずれかに記載の処理方法。
【請求項9】
固液分離により得られる第1液状成分を蒸留し、蒸留により得られる気体状物からアルコールを回収する工程、及び/又は、蒸留により得られる液状物から有機酸及び有機酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種を回収する工程を包含する請求項1〜4のいずれかに記載の処理方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース、リグニン、ヘミセルロース等を含有する植物原料(植物系バイオマス)、例えばパルプ原料等として利用される木材を処理し、処理物から成分を分離する、例えば有用成分を回収又は不要成分を除去する、植物系バイオマスの処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
古来、木質や草本等の植物由来原料(植物系バイオマス)から利用されていた有用物としてパルプが代表的である。近年では、植物系バイオマスから分離された各成分を化学的又は生物的に変換して、エタノールやフェノール等の有用物質を製造できることに着目し、温暖化、資源枯渇等の問題を抱える石油等の化石資源の代替として、バイオマス由来の有用物質を利用する試みが活発である。一般に、植物系バイオマスの成分分離は、その成分の化学的な特徴を活かした利用を目指しているために、分離過程での原料の過度の化学的変性を避ける必要がある。そのため、ガス化や燃焼処理の場合に比べて、マイルドな反応条件下で行われることが多い。また、バイオマスは基本的に固体であるために、液相での反応が好ましく用いられ、特に環境面、経済面を考慮して、水溶液中での反応が特に好ましく用いられる。
【0003】
バイオマスの水溶液中での成分分離は、これまでも行われており、例えばリグノセルロースを水蒸気処理してその一部を有機溶媒可溶性成分に変える方法(特許文献1参照)、パルプスラッジに水熱反応を施して分解し、水溶性糖類を形成させる方法(特許文献2参照)、セルロース粉末を加圧熱水により加水分解して水溶性オリゴ糖を製造する方法(特許文献3参照)などが提案されている。
【0004】
しかしながら、これらの方法において利用される水は分解活性が低いため、十分な成分分離を達成するためには処理温度を高温とする必要がある。しかし、バイオマスを高温条件で反応させると過分解が起こって好ましくないため、短時間で反応を行う必要がある。その方法としては、原料バイオマスを微粉砕し、スラリー状にして装置内に送り込むことにより、反応を短時間で終了させる方法(特許文献2参照)、及びパーコレーター反応器を用いて、分解物だけを速やかに反応系外に抜き出す方法(特許文献3、非特許文献1参照)が考案されている。前者に関しては、高温高圧下での高濃度スラリー輸送が困難であるため、低濃度での処理となり、後者に関しては、必然的にバッチ式の処理にならざるを得ないため、実用化には問題がある。いずれの場合も大量の水を必要とするため、エネルギー消費が過大となる。
【0005】
そこで、石灰、水酸化ナトリウム、アンモニア等のアルカリ性物質、又は、硫酸、リン酸、塩酸等の酸性物質を添加することにより、化学的にバイオマスの分解を促進する方法が多数考案されているが、これらの方法では、活性の高い物質を外部から供給することになり、コストの増大につながる。また、装置の腐食が問題になる場合もある。更に、これらの活性物質は後段の酵素糖化を阻害するため、あらかじめ除去しておく必要があるが、そのための中和や塩の分離工程が複雑になる上、環境負荷の高い物質を生成する場合もある。
【0006】
そこで、バイオマスの水熱処理に際して分解するヘミセルロース等の成分として含まれる酢酸やギ酸等の有機酸を触媒にして前処理を行う方法が考案されている(非特許文献2参照)。しかし、この方法では、酸素等の酸化性のある物質が共存していないため、リグニンの分解が十分ではなく、有機酸の分解活性も鉱酸に比べて低いため、コーンストーバー等の草本系バイオマスや広葉樹等の比較的処理しやすいバイオマスに適用が限られるという問題がある。
【0007】
一方、リグニンを部分酸化することにより、セルロースの酵素糖化を促進する方法が知られている。この目的のためには過酸化水素やオゾンが用いられることが多いが、コストの増大が問題となる。そこで、より安価な空気や酸素を添加することで前処理効果を高める湿式酸化と呼ばれる方法が考案されている。湿式酸化により前処理されたバイオマスは、硫酸(非特許文献3)又は酵素(非特許文献4)により糖化される。後者の場合には、前処理効果を高めるために、アルカリ(炭酸ナトリウム)又は酸(硫酸)によってpHを調整しながら湿式酸化を行う方法(非特許文献4)も試みられているが、酸もアルカリも添加しない中性条件下での処理が最も効果的であるという結果になっている。いずれにしてもこの方法によるリグニン除去率は50%以下、前処理物を酵素糖化して得られる糖収量は、原料の針葉樹木材チップ基準で最大257mg/gと、比較的低い値に留まっている。
【0008】
一方、バイオマス中のリグニン、ヘミセルロースを分離する方法としては、古くから水と有機溶媒の混合系によるオルガノソルブと呼ばれる処理が行われている。これまでに用いられた有機溶媒としては、アルコール類、ケトン類、グリコール類などがある(非特許文献5)。また、脱リグニンを促進するために、これらの有機化合物に加えて、鉱酸、有機酸、無機塩、アルカリなどの触媒が用いられることがある。しかし、これらの方法では、酸化剤が存在しないため、リグニンの分解が十分ではなく、高品質なパルプや酵素糖化に適した処理物を得るためには、適用可能なバイオマス種が草本系バイオマスや広葉樹等の比較的処理しやすいバイオマスに限られるという問題がある。一方、水と酢酸の混合溶媒を用いて、酸素の存在下でリグニンを酸化的に除去する方法が知られている(非特許文献6)。しかし、この方法では、水と有機酸によるセルロースの加水分解が過剰に進行するため、セルロースの分子量が低下して良質なパルプが得られないという問題がある。また、この方法を酵素糖化のための前処理として用いる場合には、可溶化する糖の割合が多くなり液状物に比較的多くの糖が存在することとなるため、固形物に含まれる糖が減少し、酵素糖化に利用できる糖の量が減少することとなる。酵素糖化に利用できる糖の量が減少すると、次の工程であるアルコール発酵に利用できる糖の量が減少することとなり、アルコール収量が低下することとなる。一方、これを補うため可溶化糖を利用しようとすると、液状処理物中には可溶化糖と溶媒等の有機化合物が存在しているため、両者を分離する操作が必要となり、工程が複雑になる。
【特許文献1】特開2004−243541号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特開2001−79595号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献3】特開平10−327900号公報(特許請求の範囲その他)
【非特許文献1】Ind. Eng.Chem. Res., 31, 1157 (1992)
【非特許文献2】Bioresource Tech., 96, 1986 (2005)
【非特許文献3】Ind. Eng.Chem. Prod. Res. Dev., 22, 352 (1983)
【非特許文献4】Appl. Biochem. Biotech., 117, 1 (2004)
【非特許文献5】Biotechnol. Bioeng., 31, 643 (1988)
【非特許文献6】Holzforschung, 46(3), 233 (1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明は、植物原料からエタノール、リグニン、パルプ等の有用成分を回収するにあたって有利な植物原料の処理方法の提供を目的とする。より詳細には、植物原料中に含まれるリグニン成分が、セルロースやヘミセルロースのような炭水化物成分に比べて酸化されやすいという特徴を生かして、比較的マイルドな条件下で酸素酸化することにより、針葉樹等の脱リグニン処理が困難な植物系バイオマスからでも効率的に製紙用パルプや酵素糖化のための前処理物を得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記従来技術の問題点に鑑み鋭意検討を重ねた結果、酸素の存在下、アルコール溶媒中で植物系バイオマスを加熱処理することによって、植物系バイオマス中のリグニンの大部分が酸化分解されて処理溶媒中に溶解し、植物系バイオマス中のセルロース及びヘミセルロースの大部分が処理溶媒に不溶な固形分残渣となることを見出し、本発明を完成させた。これは、酸素が植物系バイオマスに作用して有機酸が生成し、有機酸がアルコールと反応して有機酸エステルが生成し、酸素及び有機酸がリグニンに作用してリグニンの酸化分解を促進し、溶媒に可溶なリグニン分解物を生成する一方で、セルロース及びヘミセルロースの大部分は処理溶媒に溶解しないためと推定される。この処理によって得られる不溶性残渣はリグニン含有量が少ないため、酵素糖化原料、製紙原料等としての利用に適したものである。
【0011】
すなわち、本発明は下記の植物系原料の処理方法を包含するものである。
項1.酸素雰囲気下にて植物系原料をアルコール溶媒中で加熱処理し、第1液状成分と第1固形成分とを含有する加熱処理物を得、両成分を固液分離する工程を包含することを特徴とする植物系原料の処理方法。
項2.アルコール溶媒が水、有機酸及び有機酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする項1に記載の処理方法。
項3.アルコールがエタノールであることを特徴とする項1又は2に記載の処理方法。
項4.酸素雰囲気が酸素あるいは空気雰囲気である項1〜3のいずれかに記載の処理方法。
項5.固液分離により得られる第1固形成分を糖化酵素処理し、酵素糖化糖を得る工程を包含する項1〜4のいずれかに記載の処理方法。
項6.酵素糖化糖をエタノール発酵して得られるエタノール発酵物を固液分離し、得られる液状物からエタノールを回収する工程を包含する項5に記載の処理方法。
項7.酵素糖化糖をエタノール発酵して得られるエタノール発酵物を固液分離し、リグニンを固形物として得る工程を包含する項5に記載の処理方法。
項8.固液分離により得られる第1固形成分を製紙用パルプとして利用する項1〜4のいずれかに記載の処理方法。
項9.固液分離により得られる第1液状成分を蒸留し、蒸留により得られる気体状物からアルコールを回収する工程、及び/又は、蒸留により得られる液状物から有機酸及び有機酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種を回収する工程を包含する項1〜4のいずれかに記載の処理方法。
【0012】
本発明において、原料として用いられる植物系原料は植物系のバイオマスであり、特に制限はないが、例えば木質系又は草本系植物原料(繊維質原料)が挙げられる。この木質系原料としては、例えば間伐材、製材屑、解体家屋残材、木材加工屑、家具廃材などがあり、また草本系原料としては、例えばバガス、籾殻、稲藁、麦藁、竹、コウリャン茎、パイナップルやバナナの葉、ココナッツヤシ殻、サトウキビ茎、米糠、農産物廃棄物などがある。これらは一例であり、本発明において植物系原料はこれらに限定されず、炭水化物及びリグニンを含有する植物体により構成される物質であれば広く使用できる。
【0013】
これらのバイオマスは、成分分離処理を行いやすいように、あらかじめ30mm以下のサイズに粗粉砕しておくのが好ましい。この粗粉砕はハンマーミル、ロータリーミル、クラッシャーなどの通常の粗粉砕加工に慣用されている粉砕機を用いて行うことができる。
【0014】
本発明において、「酸素を含む気体」とは、酸素濃度が10重量%以上である気体であればよく、例えば、空気を包含する。
【0015】
本発明に用いる反応容器としては、特に制限されないが、例えば、図1に示すような、高温高圧に耐え、酸素を含む気体と木粉やチップ等の植物系原料の供給装置、及び反応後の残渣と溶液の系外への抜き出し装置を備えた容器が用いられる。本容器は、処理槽、バイオマス供給装置(バイオマス投入口とバイオマス供給スクリュー)、酸素供給バルブ、保圧弁、撹拌装置(撹拌翼)及び処理物の抜き出し部から構成される。
【0016】
本発明において植物系原料に適用されるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール等の一価アルコール;エチレングリコール、1,2−プロパンジオール等の二価アルコール;グリセリン等の三価アルコールが挙げられ、好ましくは炭素数1〜4の一価低級アルコール、より好ましくはエタノールが用いられる。
【0017】
本発明において、処理溶媒として使用されるアルコールには、水、有機酸、有機酸エステル等を含有させることができる。処理溶媒が水、有機酸及び有機酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種を含有する場合、好ましい水、有機酸及び有機酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の含有量(容積)は、処理溶媒中のアルコール容積の1/2以下、より好ましくは1/5以下、より一層好ましくは1/10以下である。処理用溶媒におけるアルコールの好ましい含有量(容積)は50〜100%、より好ましくは80〜100%、より一層好ましくは90〜100%、さらにより一層好ましくは95〜100%である。また、処理溶媒には水、有機酸、有機酸エステルに加え、本発明の効果が大きく損なわれない範囲において、植物原料の処理に使用される他の各種添加剤を配合することも可能である。
【0018】
本発明では、植物系バイオマスを酸素の存在下、アルコール溶媒中で加熱処理することにより、製紙パルプや酵素糖化原料に適したアルコール不溶性の残渣を得ることができる。この場合の処理温度としては、通常100〜250℃、好ましくは120〜190℃である。反応時間は、特に制限されないが、通常0.1〜72時間、好ましくは1〜24時間、より好ましくは5〜20時間である。また、反応圧力は、酸素の場合、通常0.1〜2MPa、好ましくは0.5〜1MPa、空気の場合、通常0.5〜10MPa、好ましくは2.5〜5MPaである。なお、製紙用パルプの製造を目的とする場合には、長繊維のセルロースを得るために、できるだけ粒子径の大きい植物原料を用いることが好ましく、その場合には、比較的低温度で長時間処理することが好ましい。酵素糖化の前処理として用いる場合には、できるだけ粒子径の小さい植物原料を用いることが好ましく、その場合には、比較的高温度で短時間の処理が可能となる。
【0019】
次に、添付図面に従って本発明方法によりエタノール及びリグニン分解物を製造するのに好適なプロセスの一例について説明する。図2は、木粉からエタノールとリグニン分解物(例えば、マロン酸やコハク酸)を製造するプロセスの概要図を示す。粉砕したバイオマスを、酸素(又は空気)の加圧下、アルコールで処理(第1処理)することにより、第1液状成分と第1固形成分(不溶性残渣)が生成する。バイオマス中のリグニンは酸化分解して有機酸、さらには溶媒であるアルコールと反応して有機酸エステルとなり、溶媒に可溶となって第1液状成分に含まれることとなる。一方、第1固形成分はセルロースとヘミセルロースを主とし、リグニン含有量の少ない溶媒不溶の残渣である。したがって、第1固形成分は、炭水化物含量が高く酵素糖化原料として非常に有用であり、また、リグニン含量が低いため製紙パルプ原料として非常に有用である。さらに、サイレージ処理すれば、家畜飼料としても使用可能である。
【0020】
第1固形成分と第1液状成分を固液分離(例えばろ過、遠心分離等)し、第1固形成分は酵素糖化処理される。酵素糖化処理では、第1固形成分を水等の酵素に適した溶媒の存在下でセルロース糖化酵素(例えばアクレモ等)により処理する。酵素作用により生ずる糖類(主としてグルコース)は酵母(Saccharomyces cerevisiae等)、バクテリア(Zymomonas属菌等)等を添加されてエタノール発酵処理に供される。エタノール発酵処理によって生成するエタノールと未反応のセルロース及びリグニンは固液分離(例えば遠心分離、ろ過等)し、エタノールを含む液状成分は蒸留等により濃縮され、高純度エタノールとして回収される。未反応のセルロース及びリグニンからなる固形成分はボイラー等で燃焼され、熱エネルギーとして利用できる。
【0021】
第1液状成分は蒸留等によりエタノールと有機酸(あるいは有機酸エステル)とに分離され、回収されたエタノールは第1処理用の溶媒として再利用できる。また、必要に応じて、前述のエタノール発酵処理物から回収されたエタノールを第1処理用の溶媒として利用できる。
【0022】
以上、本発明の好適な一例を説明したが、本発明はこのプロセスに限定されるものではなく、当業者であればこのプロセスを適宜改変でき、そのような改変されたプロセスも本発明に包含される。
【0023】
また、従来は、植物系原料の蒸解により生ずるパルプ(粗パルプ)はリグニンを一定量含み着色されたままであるため、この着色パルプはさらし粉、塩素、二酸化塩素、亜塩素酸ソーダ、ジンクハイドロ(ZNS2O4)等の漂白剤で処理されていた。本発明による方法で粗パルプを処理する場合には、第1固形成分(不溶性残渣)として、着色の抑制されたパルプを得ることができる。これは、第1処理における酸素が、酸化漂白剤と同じように、リグニン等の着色物質に対して酸化漂白作用を発揮するためであるが、アルコールに対する酸素の溶解度が水の7倍程度であることから、きわめて効率的に酸素酸化反応が進行するためと考えられる。また、本処理によれば、パルプ表面のリグニン成分から優先的に酸化除去されるため、原料パルプの重量減少を抑制しつつ、漂白を行うことができる。
【0024】
以上のように、本発明の処理方法は、鉱酸、アルカリ等を使用せずとも、セルロース及びヘミセルロースの分解を抑制しつつ、植物系バイオマスからリグニンの大部分を除去できるものである。そして、この方法によって、様々な応用が可能となる。例えば、本発明の処理方法は植物系バイオマス中のリグニンを効率的に除去できることから、該処理方法によって得られる固形成分はリグニンフリーのセルロース及びヘミセルロース含有物として利用可能である。また、本発明の処理方法によって得られる液状成分は、アルコール、該アルコールが酸化されて生じる有機酸、該アルコールが該有機酸に作用して生じる有機酸エステルを含有するものであり、これらを回収することによって、アルコール、有機酸、有機酸エステルを製造することができる。例えば、アルコールとしてエタノールを使用して処理すると、有機酸として酢酸、有機酸エステルとしては酢酸エチルが生成する。
【0025】
したがって、本発明は、
・第1処理により生成した第1固形成分に、セルロースを基質として糖を生成する酵素を添加して糖化し、糖を製造する方法、
・前記糖を製造する方法により得られた糖に、アルコール発酵微生物(特にエタノール発酵微生物)を添加して、アルコール(特にエタノール)を製造する方法、
・リグニン含有パルプ原料を植物系バイオマスとして使用した第1処理により漂白パルプを製造する方法、
・第1処理により生成した第1液状成分を蒸留して有機酸及び/又は有機酸エステルを製造する方法、
等を包含しうる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、植物系バイオマスから効率よくリグニンを分離することができる。したがって、本発明はリグニンやリグニン分解物の回収、漂白されたパルプの製造、糖の製造、エタノール等のアルコールの製造などとしても有用である。例えば、マンノース、アラビノース、キシロース、グルコース等の酵素糖化糖を高収量で得ることができ、さらにはこれらの糖を原料としてアルコール発酵させることにより、バイオアルコールを製造することもできる。また、本発明は鉱酸やアルカリを必要としないため環境負荷も少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
<実施例1>
50mL容のオートクレーブ中に、米松木粉(粒子径0.25〜0.42mm)1000mg、エタノール10mLを仕込み、オートクレーブの蓋を閉め、空気を圧入(室温で5MPa)した後、加熱を開始した。反応液の温度が160℃になったところで当該温度に3時間保持した後、加熱を止め、オートクレーブを冷却した。反応溶液から遠心分離器にて残留物を分離し、エタノールで数回洗浄した後、減圧乾燥して重量を測定した。淡黄色の残留物は電子顕微鏡写真(図3)に示すように微細な繊維状の物質であった。これは木質繊維からリグニンが除去されたミクロフィブリル構造を示していると考えられる。乾燥後の残留物(581mg)から約10mgを精秤し、水に懸濁させ、セルラーゼ40FPUにて糖化した。48時間反応後に生成した酵素糖化糖(グルコースとマンノース)の合計量は、原料の米松基準で、468mg/gであった。
【0029】
一方、反応溶液から残留物を除去して得られるエタノール溶液をガスクロマトグラフ質量分析計で分析したところ、酢酸エチル、ギ酸エチル、マロン酸ジエチル、コハク酸ジエチル等のエステルが検出された。さらに、該エタノール溶液を水で希釈し、液体クロマトグラフィーで分析したところ酢酸(5mg)及びギ酸(8mg)が生成していた。これらの生成物はエタノールあるいは米松成分が酸化されて生成したと考えられる。
【0030】
<比較例1>
エタノールの代わりに、水10mLを用いた以外は実施例1と同様にして米松木粉(粒子径0.25〜0.42mm)を処理したところ、黒色の残留物が得られた。これは電子顕微鏡写真(図4)に示すようにアモルファス状の物質であった。乾燥後の黒色粉末(507mg)から約10mgを精秤し、セルラーゼ40FPUにて糖化した。48時間反応後に生成した酵素糖化糖(グルコースとマンノース)の合計量は、原料の米松基準で、76mg/gであった。また、反応溶液から残留物を除去して得られる水溶液を液体クロマトグラフィーで分析したところ、グルコースとマンノースが合計で130mg/g生成していた。また、エタノールあるいは米松成分が酸化されて生成したと考えられる酢酸(27mg)、ギ酸(56mg)、グリコール酸(38mg)、及びレブリン酸(2mg)が検出された。
【0031】
<比較例2>
空気の代わりにアルゴンを圧入(室温で5MPa)し、210℃で1時間反応させた以外は、実施例1と同様にして反応を行い、得られた前処理残留物(991mg)をセルラーゼ40FPUにて糖化した。48時間反応後に生成した酵素糖化糖(グルコースとマンノース)の合計量は、原料の米松基準で、16mg/gであった。
【0032】
<実施例2>
50mL容のオートクレーブ中に、リグニン含有量25.3%の米松木粉(粒子径0.42〜1mm)1000mg、エタノール10mLを仕込み、オートクレーブの蓋を閉め、空気を圧入(室温で5MPa)した後、加熱を開始した。反応液の温度が150℃になったところで当該温度に18時間保持した後、加熱を止め、オートクレーブを冷却した。反応溶液から遠心分離器にて淡黄色繊維状の残留物を分離し、エタノールで数回洗浄した後、減圧乾燥して重量を測定した。乾燥後の前処理残留物(665mg)から約10mgを精秤し、水に懸濁させ、セルラーゼ40FPUにて糖化した。48時間反応後に生成した酵素糖化糖(グルコースとマンノース)の合計量の合計量は、原料の米松基準で、457mg/gであった。また、前記残留物から300mgを精秤し、JIS−P8211に準拠した方法でリグニン含有量を測定したところ、リグニン含有量は3.5%であった。
【0033】
<実施例3>
空気の代わりに酸素を圧入(室温で1MPa)した以外は実施例3と同様にしてリグニン含有量25.3%の米松木粉(粒子径0.42〜1mm)を処理したところ、淡黄色繊維状の残留物(703mg)が得られた。乾燥後の残留物から約10mgを精秤し、水に懸濁させ、セルラーゼ40FPUにて糖化した。48時間反応後に生成した酵素糖化糖(グルコースとマンノース)の合計量は、原料の米松基準で、463mg/gであった。また、前記残留物から300mgを精秤し、JIS−P8211に準拠した方法でリグニン含有量を測定したところ、リグニン含有量は5.0%であった。
【0034】
<実施例4>
ガラス内管付きの20mL容のオートクレーブ中に、米松木粉(粒子径0.25mmアンダー)200mg、エタノール1mL、及び水3mLを仕込み、オートクレーブの蓋を閉め、空気を圧入(室温で5MPa)した後、加熱を開始した。約1時間25分後に反応液の温度が200℃になったところで加熱を止め、オートクレーブを冷却した。反応溶液を濾過して、残留物を水で数回洗浄した後、減圧乾燥して重量を測定した。反応溶液と水洗浄液を合わせた溶液を液体クロマトグラフィーにて分析した結果、糖類が原料の米松基準で、131mg/g生成していた。乾燥後の前処理残留物(106mg)を水に懸濁させ、30分間超音波にかけた後、セルラーゼ20FPUにて糖化した。24時間反応後に生成したグルコースの量は、原料の米松基準で、184mg/gであった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明方法は、リグノセルロース系バイオマスから、セルロース、ヘミセルロース、及びリグニンの成分分離を行い、分離された各成分から、エタノール、リグニン分解物等の各種有用物質を製造するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】反応装置の例を示す図である。
【図2】本発明方法を実施するためのバイオマス成分分離プロセスの説明図である。
【図3】実施例1で得られた残留物の電子顕微鏡写真である。
【図4】比較例1で得られた残留物の電子顕微鏡写真である。
【出願人】 【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
【出願日】 平成19年5月25日(2007.5.25)
【代理人】 【識別番号】100065215
【弁理士】
【氏名又は名称】三枝 英二

【識別番号】100076510
【弁理士】
【氏名又は名称】掛樋 悠路

【識別番号】100099988
【弁理士】
【氏名又は名称】斎藤 健治


【公開番号】 特開2008−5832(P2008−5832A)
【公開日】 平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願番号】 特願2007−139241(P2007−139241)