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【発明の名称】 細胞機能が制御できる細胞固定用基板および製造装置
【発明者】 【氏名】▲高▼橋 淳

【氏名】本間 務

【氏名】伊比井 崇向

【要約】 【課題】生体外(インビトロ)環境下で細胞培養を行なうに際して、培養担体表面にある細胞の接着状態や機能に対して積極的な制御を与えることができる細胞培養担体、及びその製造方法を提供すること。

【構成】細胞を固定して培養を行うための細胞固定用基板であって、表面に少なくとも1種類の微粒子を固定化した固体基板を有し、前記微粒子表面に細胞が接着、固定する細胞固定用基板。さらに、微粒子を誘電泳動力により固体基板表面にアレイ状に配列させる工程と、微粒子の固体基板上への配列化の後、この微粒子を前記固体基板表面に固定化する工程と、を有する細胞固定用基板の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を固定して培養を行うための細胞固定用基板であって、
表面に凹凸を形成する微粒子を固定化した固体基板を有し、
前記微粒子が細胞の接着、固定を可能とする表面を有することを特徴とする細胞固定用基板。
【請求項2】
前記細胞がヒト細胞、動物細胞、植物細胞、これらの細胞のいずれかからなる細胞群もしくは生体組織、細菌,原生動物、または酵母であることを特徴とする請求項1に記載の細胞固定用基板。
【請求項3】
前記微粒子が、該微粒子表面に接着、固定された前記細胞の細胞活性に影響を与えることを特徴とする請求項1または2に記載の細胞固定用基板。
【請求項4】
前記微粒子の直径が1000nm以上50000nm以下の範囲であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の細胞固定用基板。
【請求項5】
前記微粒子が誘電体であって、その材質がガラス、ラテックス、プラスチックから選択されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の細胞固定用基板。
【請求項6】
前記微粒子が下記の(a)から(f)の内、少なくとも1つをその表面に保持していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の細胞固定用基板。
(a)細胞接着性置換基、
(b)細胞外マトリックス蛋白質、
(c)細胞表面に提示された抗原に対して特異的に結合する抗体、
(d)細胞表面に提示された抗体に対して特異的に結合する抗原、
(e)特定の細胞膜レセプター蛋白質に対して特異的に結合するリガンド、
(f)多糖類と結合する結合する蛋白質。
【請求項7】
前記微粒子が下記の(g)から(j)の内、少なくとも1つを放出可能に内包していることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の細胞固定用基板。
(g)増殖因子・サイトカイン、
(h)ホルモン、
(i)酵素、
(j)抗体。
【請求項8】
前記微粒子が前記固体基板表面にアレイ状に配列された請求項1乃至7のいずれかに記載の細胞固定用基板。
【請求項9】
請求項8に記載の細胞固定用基板の製造方法であって、
前記微粒子を誘電泳動力により前記固体基板表面にアレイ状に配列させる工程と、
前記配列された微粒子を前記固体基板表面に固定化する工程と、
を有することを特徴とする細胞固定用基板の製造方法。
【請求項10】
前記誘電泳動力が電界強度の強い方向に働く正の誘電泳動力である請求項9に記載の細胞固定用基板の製造方法。
【請求項11】
前記誘電泳動力が電界強度の弱い方向に働く負の誘電泳動力である請求項9に記載の細胞固定用基板の製造方法。
【請求項12】
前記微粒子の固定化を、下記の(k)乃至(q)の内、少なくとも1つから選択される手法により行うことを特徴とする請求項9乃至11のいずれかに記載の細胞固定用基板の製造方法。
(k)化学吸着、
(l)物理吸着、
(m)ゲル包埋、
(n)電気的な相互作用、
(o)表面の親水・疎水性、
(p)熱、
(q)生化学反応。
【請求項13】
請求項9乃至12のいずれかの製造方法によって製造された細胞固定用基板。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は細胞固定用基板およびその製造方法に関する。より詳しくは,固体基板と、該固定基板表面に誘電泳動によって配列化された後に固定化された微粒子とで構成される細胞固定用の培養基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生命工学とマイクロマシニング技術を融合することで核酸,酵素,抗体,細胞等の生体由来材料を機能素子材料として用いたマイクロチップ(バイオチップ)の開発が盛んに検討されている。バイオチップを作製するに当たっては、半導体製造プロセスによって培われたマイクロマシニング技術を用いることにより、微小領域への測定対象の集積化や微小量での測定が可能になるといったスケールの違いによる有意な効果を得ることができる。種々のマイクロチップの詳細について、例えば、非特許文献1あるいは2で詳細に論じられている。そして、上記の生体由来材料の中でもより高度な生命現象を内包している細胞をターゲットとした技術分野に対して特に注目が集まっている。一部の細胞群を除いて、一般に動物細胞は接着性細胞であり、細胞自身が担体表面に接着することで接着,増殖,分化,生存,未分化状態の維持,細胞死等の細胞機能を呈することが知られている。そして基板に細胞をアレイ状に集積させた細胞アレイは、種々の薬物に対する安全性試験や変異原性試験,薬物代謝活性試験,薬物スクリーニング等への応用が期待されている。細胞アレイの製造については温度応答性高分子を用いる方法や微小液滴吐出手段を用いる方法等が開示されている(特許文献1あるいは2参照)。また、近年注目が集まっている再生医療の分野においても、目的の細胞や臓器を生体外(インビトロ)で培養することで所望の組織又は臓器の構築を目指す試みが行われている。このように、生体外(インビトロ)で細胞機能を保持した状態で培養を行なうことの出来る試みは現在非常に多くの研究が成されている。例えば、特許文献3においてはインビトロで間質組織を構築する方法が開示されている。
【0003】
一方で生体外(インビトロ)での細胞培養に際して接着細胞の接着状態や細胞の機能に関して積極的な制御を与える要素として、培養担体表面にマイクロメートルレベルの微細な溝や凹凸等の表面形状が重要であることが知られている(非特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2003―33177号公報
【特許文献2】特開2003―329682号公報
【特許文献3】特開2001―157574号公報
【特許文献4】特WO02/008387号公報
【特許文献5】特開2004―267562号公報
【特許文献6】特開昭61―111680号公報
【特許文献7】特開2003―223号公報
【特許文献8】特表2000―505545号公報
【非特許文献1】マイクロ化学チップの技術と応用:丸善株式会社
【非特許文献2】Microfluidic Technology and Applications: Research Studies Press LTD.
【非特許文献3】Surgery Frontier, vol.10(3), p.21−24 (2003)
【非特許文献4】Lab on a Chip, vol. 5, p.111−118 (2005)
【非特許文献5】Analytical chemistry, vol. 74, p.3984−3990 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は細胞接着や細胞機能に対して積極的な制御を与え得る細胞固定用の培養担体、およびその製造方法を提供することである。より詳しくは、細胞固定用基板、細胞固定用基板の製造方法に係り、固体基板上にマイクロメートルレベルの大きさを有する微粒子を固定化した細胞培養担体,細胞培養担体の製造方法を提供することにある。
【0005】
生体外(インビトロ)で細胞に対する試験を行なうための技術開発はすでに報告がなされている。
【0006】
例えば、非特許文献4は平板マイクロ電極が配置された流路内で誘電泳動力を発生させることにより細胞を任意の領域にマニピュレートする。その後光開始剤を含むハイドロゲルの前駆体溶液で満たされた空間に対して紫外光(UV)を照射し、ゾル・ゲル転移を引き起こすことによって、流路内でハイドロゲル表面に細胞アレイを製造する方法を開示するものである。ところが、流路中で細胞を捕捉する際や、細胞を含む空間をゲル化する際に、細胞に対して電場勾配やUVを直接暴露するという製造方法をとっている。
【0007】
また、特許文献4は表層部に光変形を起こす材料を配置した担体にマスクを介して光を照射することで目的の領域に生体材料等を固定化する方法を開示するものである。ところが、光照射による生体物質の変性や生体物質を固定化することによる細胞活性への影響に関しては不明な点が残されていた。
【0008】
そこで本発明においては生体外(インビトロ)環境下で細胞培養を行なうに際して、そのための細胞培養担体を提供するためのものであり、具体的には培養担体表面にある細胞の接着状態や機能に対して積極的な制御を与えることができる細胞培養担体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一は、細胞を固定して培養を行うための細胞固定用基板であって、
表面に凹凸を形成する微粒子を固定化した固体基板を有し、
前記微粒子が細胞の接着、固定を可能とする表面を有することを特徴とする細胞固定用基板である。
【0010】
本発明の第二は、微粒子がアレイ状に配列された態様の第一の細胞固定用基板を製造する方法であって、
前記微粒子を誘電泳動力により前記固体基板表面にアレイ状に配列させる工程と、
前記配列された微粒子を前記固体基板表面に固定化する工程と、
を有することを特徴とする細胞固定用基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
微粒子の固定化により固体基板表面にマイクロメートルレベルの凹凸形状を付与することで細胞接着に影響を与えることが出来る構造体であると共に薬剤や遺伝子等を担持した微粒子を固定化することで細胞機能制御が可能な細胞固定化用担体を提供することが可能となる。また微粒子の配列には誘電泳動力を駆動力として使うことを特徴としており、微粒子の帯電状態によらないマニピュレーションが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の細胞固定用基板は、固体基板上に固定化されたマイクロメートルレベルの微粒子を備えることで担体表面にマイクロメートルレベルの構造変化を作り出す。その結果細胞の接着,増殖,分化,生存,未分化状態の維持,細胞死等の細胞機能に影響を及ぼすことを特徴とする。微粒子上での細胞培養法はビーズ状の担体表面に細胞を接着させて、ビーズを含む培地を攪拌しながら培地を循環させるマイクロキャリア培養という浮遊培養が公知である。基板上に置かれた微粒子間隙で動物細胞を培養して骨や軟骨組織の再生を行なう培養担体に関しては特許文献5等において報告がなされている。しかし、いずれの場合においても細胞のサイズに比べて培養ビーズが遥かに大きなサイズであり、具体的に微粒子直径は100000 nmを超える大きさのものを用いて細胞培養を行なっている。また、マイクロキャリア培養は浮遊培養であり、培養液及びビーズをスターラー等で攪拌させながら培養を行なうものである。よって本明細書記載の固体基板上に微粒子が固定化されている細胞固定用基板とは構成を異にする。一般に、マイクロメートルレベルの構造体が細胞機能に与える影響については非特許文献4等において公知であった。しかし、マイクロメートルレベルの微粒子を用いて細胞固定用基板を製造する方法および静置培養で細胞機能を制御する試みに関する報告は成されていなかった。本発明は固体基板表面にマイクロメートルレベルの微粒子を固定化する際に、(i)配列、(ii)固定化という2段階の工程を経て作製され、微粒子を配列させる際に駆動力として誘電泳動力を用いることを特徴とする細胞固定用基板の製造方法である。誘電泳動力(dielectrophoresis : DEP)とは、空間的に高周波数帯域の交流電圧を印加することによって生じる不均一電場中での分極可能な物質または物体の移動である。周知の電気泳動の現象とは完全に異なり、誘電泳動力はクーロン力からの寄与を受けないことから、電荷を帯びない物質または物体の捕捉やマニピュレーションに対しても適用することができる。誘電泳動を利用した力は電場の不均一性と、電界によって誘導された分離対象粒子内での電荷の再分布との間の相互作用によって生じる。誘電泳動を駆動力とした物質または物体捕捉やマニピュレーションに関しては特許文献6、特許文献7、特許文献8、非特許文献5等において公知であり微粒子や細胞を用いた報告がなされている。また、誘電泳動力は高周波数帯域の交流電圧によって発生する不均一電場によって誘起されるものなので、電気二重層の緩和時間が有限であるために電気二重層が微粒子に与える影響は無視できる。このようなことから、誘電泳動における物体捕捉やマニピュレーションは電気泳動のそれと比べると脆弱な力であるものの、非帯電物質等への適用が可能であること、対象物に対する影響も小さなものであること等が特徴として挙げられる。不均一電場中においてプローブ電極と微粒子を考えた場合、微粒子の性質に関連して2種類の誘電泳動力が考えられる。例えば微粒子が溶媒等の周囲環境よりも分極されやすい場合、微粒子がより高磁場の領域に引っ張られる誘電泳動力(正の誘電泳動力;ポジティブDEP)が観察される。逆に微粒子が周囲環境よりも分極されにくい場合、微粒子がより弱い磁場領域に向かって押される誘電泳動力(負の誘電泳動力;ネガティブDEP)がそれぞれ観察される。本発明ではその目的や用途に応じてポジティブDEPおよびネガティブDEPを適宜用いる。
【0013】
本発明の態様に従うと、固体基板表面に少なくとも1種類の微粒子を固定化した構造体であり、微粒子アレイの表面に細胞を接着,固定する構成であることを特徴とする細胞固定用基板が提供される。細胞、特に接着細胞が基板に接着、固定するとは次のような状態を指す。接着細胞は底面基板上に接着することによって増殖等の細胞機能を発現するが、細胞は懸濁状態で系に導入された後に、基板表面に接触し、底面の足場を認識した後に細胞体の伸展を伴って基板表面に接着する。このように、接着とは細胞自身が自発的に足場を選択して自らの力で基板表面に付くことを指し、基板表面への細胞の接触から細胞体の伸展までを含んでいる。一方で、固定とは、ある一定領域内で細胞体の伸展及び遊走が制限されている状態を含む。たとえば、細胞表面に有する置換基と基板とを化学的な結合で結びつける状態がこれに含まる。更に詳しく述べれば、細胞表面に有するアミノ基と表面に適当な置換基を配した基板(例えばアミノ基)を作成し、両者を化学的に結合させる架橋剤(NHS基)を介して細胞を化学的に固定化するという一例が挙げられる。また、基板と細胞間がビオチン−アビジン結合や、抗原−抗体反応による結合であってもよい。さらに、細胞の伸展および遊走を細胞の非接着領域をパターンすることで制御する態様では、細胞は接着、固定の両方の状態を含むことになる。よって、本発明の態様に従うと、この細胞固定用基板は細胞活性を制御し得る表面を与える。本明細書中で使用されるとき、“細胞活性”とは前記基板を構成する基材である微粒子と接触できる細胞、組織、の細胞機能に影響を有する能力を指す。ここで言う細胞機能とは例えば、細胞接着,細胞増殖,細胞分化,生存,細胞未分化状態の維持,細胞分化状態の制御,細胞死の誘導等のことである。前記基板表面は、該表面への細胞の付着を促進または阻害するように調製でき、または表面に対する細胞,接着蛋白質の非特異吸着防止等の消極的な相互作用により細胞反応を起こさせるためにも使用できる。該細胞反応性表面は、固体基板表面に微粒子を固定化された表面を与えることによって表面形状により細胞機能に影響を与えることができる。例えば、適当な寸法の表面形状が存在すると、その凹凸構造が特定の細胞種の細胞機能や相互作用に対して寄与することが非特許文献4に示されているので、細胞の相互作用を促進または阻害するために使用できる。微粒子はまた、細胞表面蛋白質との相互作用を付与させる構成も好ましく用いられるものであり、かつ細胞反応を誘発できる様々な部分にカップリングできるものを適宜用いることができる。該細胞固定用基板は例えば生体外(インビトロ)で使用されて、細胞機能評価をはじめとする細胞機能評価試験や機能性細胞の創出,細胞培養のための担体として使用することができる。ここで言う機能性細胞とは、例えば肝細胞や神経細胞等の生体を構成する体性細胞のことを指す。細胞機能評価試験を行なう場合、固体基板上に目的の微粒子を固定化して細胞培養基板を作製した後に、微粒子表面に検出対象である接着性の細胞を通常播種により微粒子表面に培養することができる。つまり、微粒子上に接着した細胞が特に影響を受けるような細胞固定用基板が提供される。さらに、目的微粒子をパターン状に配列あるいはアレイ状に集積させることによって固体基板上に微粒子を接着足場とした細胞アレイを作製することも可能である。前記微粒子アレイを細胞固定用基板として用いることで細胞アレイを構築することが可能となる。細胞アレイを用いて、蛍光,発光,電気化学法,等の任意の検出方法で細胞機能の創出を行なう。
【0014】
機能性細胞の創出を行なう場合は、例えば、播種した実質細胞に対して分化や機能制御を与えつづけるようなサイトカイン等の薬剤を内包した微粒子を固定化させておくことができる。例えば造血幹細胞を固定化した微粒子担体表面で成長因子が除放されるようにしておくことで血管新生モデルの構築が可能となる。更に機能性細胞を微粒子の上に単純に固定化するだけでなく、微粒子上で2種類以上の有意な細胞を培養する担体としても用いることができる。より詳しくは細胞の共培養系の培養担体としての利用挙げられる。共培養系の構成としては例えば機能性細胞と機能性細胞の働きを助ける細胞の2種類の細胞を同一基板上で培養する構成が挙げられる。この構成を実現することによって、例えば生体内の細胞―細胞間相互作用を再現することができ、生体の有用なモデルの再構築を容易に実現できるといった利点が挙げられる。より具体的には例えば非実質細胞に血管内皮細胞,実質細胞に肝細胞を選択することで薬剤代謝試験等に有効な幹細胞モデルを構築することが可能となる。ここで言う実質細胞とは例えば、肝臓においては肝細胞といった、対象となる臓器や組織における最も重要な働きを担う細胞のことである。本態様において実質細胞と機能性細胞とは同義に扱われる。更にここで言う非実質細胞とは例えば、神経系におけるグリア細胞といった、実質細胞の機能を補助する能力を有する細胞または、実質細胞の間を埋める間質細胞のことを言う。さらに本明細書における細胞培養担体は、再生医療における分野に利用することができ、例えば皮膚や臓器の一部等の微小組織を構築し、その後微粒子を固体基板上から遊離,破壊,消化させるなどといった方法で回収するための培養担体として用いられても良い。
【0015】
(細胞固定用基板、及びこれを含む装置)
以下、本発明を実施するための好適な形態について、添付図面を参照しながら説明する。まず、図1は、本発明の細胞固定用基板を製造するに当たって用いられる装置の概略図であり、本発明に係る微粒子を捕捉する固体基板上の領域(以下、「捕捉部」と略称)の基本構成の概念を簡略に示す上方から見た平面図である。図2は、図1のA−A線に沿った断面図である。
【0016】
本発明の態様に従うと当該装置は、天井部6と底面部7を構成する2枚の固体基板と側壁となるスペーサ8とを有し、これらにより形成される微小空間内に固体基板上に微粒子を捕捉するための捕捉部3を有する。当該装置は、さらに試薬等の導入口1を少なくとも1つ備えている。導入口1から容器内にポンプのような送液機器により流体が導入され、該装置の内部の捕捉部3を経て、余剰流体は排出口2から排出されるような流路構造を備えていてもよい。本発明における装置内の当該微小空間の高さ(天井部と底面部間の距離)は100μm程度であり、用いる微粒子の大きさや後述する捕捉部3の構造等に応じて適宜選択するものとする。
【0017】
本発明の態様に従うと、上述の天井部基板6及び底面部基板7の材料としてはガラス,シリコン,石英,またはケイ素をベースとする材料,プラスチック類およびポリマー類等の絶縁性の材料を利用することができる。より望ましくは倒立顕微鏡等の光学顕微鏡での観察が可能な程度の光透過性を有し、該微粒子を表面に固定化する前に、清浄化、前処理等により基板の表面改質を行なえる材質であることが望ましい。本発明における基板の表面改質とは例えば、スライドガラスおよび石英基板等を固体基板として用いる場合に予め、酸、プラズマ、オゾン、有機系溶剤、水系溶剤、界面活性剤等から選択されるものを利用した方法等を行う工程、シランカップリング等の処理により所望置換基を固体基板表面へ導入する工程または表面自由エネルギーを制御する工程のことである。
【0018】
本発明の態様に従うと、図2に示された符号8は流路の側壁を示しており例えばガラス、テフロン等の高分子材料、その他の好適材料から製造されるスペーサを用いることができる。このスペーサ8の厚みが、流路内の高さ(天井部と底面部間の距離)を規定しており、このスペーサの形状が捕捉部自体の形状や容量を規定している。
【0019】
(微粒子の捕捉、配列化)
本発明の態様に従うと、図2に示された符号3の捕捉部によって微粒子は捕捉,配列される。微粒子を固体基板上に配列させるための捕捉手段とは、当該微粒子を捕捉してかつマイクロメートルレベルの表面形状を有する構造体を作製するための手段であり、微粒子の材質や状態に依存しない汎用性の高い捕捉力を有することが望ましい。本発明においては例えば、誘電泳動力による捕捉、微小液滴製造装置による基板表面への滴下等から選択される。本発明で用いられる誘電泳動力(dielectrophoresis : DEP)とは、空間的に高周波数帯域の交流電圧を印加することによって生じる不均一電場中での分極可能な物質または物体の移動であると理解されている。
【0020】
固体基板表面に微粒子を捕捉する手段として誘電泳動力によるものを用いる場合の態様を以下に説明する。微粒子の捕捉は前記流路中の捕捉部で行なわれ、捕捉部の一部または全部に沿って、少なくとも1個の電極を取り付ける。これら1個以上の電極は各々電気導線に電気的に結合される。電極は前述の捕捉部の天井部、底面部のいずれか、または両方に配置させることができる。本明細書において使用される電極とは、一定の電気シグナルを印加するために備えられているものであり、周囲より導電性の高い材料で作られた構造体を示す。さらに、電極は電気シグナルを発生させるための電極構成物と電気的に接続されている。電極構成物としてはマルチファンクションシンセサイザと,該マルチファンクションシンセサイザと電極とをつなぐ電気導線部分と、該電気導線部分と電極との接触箇所である接合部とを有する構成を好適に用いることができる。マルチファンクションシンセサイザは、本発明において少なくとも1つの電気シグナルを発生させるために必要な電圧、周波数、位相、波形のパラ―メータを調節することができる。電極は流路内の捕捉部に置かれていて、必ずしも基板の表面に露出している必要はなく、内部に配置されていても構わない。一形態として例えば、平板電極が選択される。電極材料は前記の通り周囲より導電性の高い材料で作られた物で、電極間が絶縁されている物を指す。電極は望ましくは金属で構成される。更に望ましくは金、白金、クロム、チタニウムおよびITO(インジウム―スズ―酸化物)等から選択される。電極はスパッタリング法,蒸着法,めっき法のいずれかの方法により固体基板上に形成される。ここで例えば金を最表面の電極材料に選択した場合、金と基板間の結合力が弱いので、これらの間の結合力を向上させるために、クロム、チタニウム、タングステン等の金属薄膜を形成した後、金をスパッタ法、蒸着法、めっき法等により成膜する。電極はフォトリソグラフィー法およびリフトオフ法等の一般的に電極を形成するのに使用される他の方法を使用して形成することができる。更に、平板電極として固体基板上に配置させる場合には電極同士が流路内において独立に存在していれば良く、金属等の導電性物質を全面にコートした後にレジスト等の絶縁薄膜で周囲を区切ることで目的の形状を露出させ電極として用いてもよい。
【0021】
本発明の態様に従うと、捕捉手段を有した電極が配置された装置が提供される。当該装置は電極を適切な位置に配置することで少なくとも1種類の微粒子を所望の位置に捕捉および配列できる。さらに、捕捉のための印加手段および印加電圧の条件を時間的に制御することで、使用者は所望の位置に複数種類の微粒子を配置できる。
【0022】
本発明の態様に従うと、微粒子は底面部の固体基板表面に配列される。微粒子の捕捉力としては、電界強度の強い方向に働く正の誘電泳動力または電界強度の弱い方向に働く負の誘電泳動力の少なくとも一方を任意に選択する。微粒子捕捉は微粒子を溶解または懸濁させた溶媒中で行なわれる。ここに、溶媒の種類は制限されないが、その後に細胞を培養することを考慮すると水系の液状媒体が好ましく用いられる。ここで更に好ましくは電気伝導率が6×10-8S/cm以下に調整された脱イオン水、または脱イオン水を主媒体とする組成液が好ましく用いられる。
【0023】
本発明の態様に従うと、誘電泳動力の発生手段として捕捉領域で印加せられる電気信号は高周波数帯の正弦交流波である。ここで高周波数の範囲は10kHz〜100MHzの周波数帯域にあるものを指す。本発明においては微小空間内へのジュール熱や装置への影響を考慮すると100k〜10MHzの範囲で行なわれるのが好ましい。また、その際に印加する電圧は1〜10Vの範囲から選ばれる。
【0024】
(固体基板に固定される微粒子)
本発明において誘電泳動力による捕捉が行なわれる場合、用いられる微粒子は望ましくは誘電体から選択される。ここで言う誘電体とは、電界を加えると誘電分極を生ずる物質を言い、一般的には絶縁体として理解される物質である。本発明における誘電体微粒子の材質は例えば、合成ポリマー,分解性のポリマー,ガラス類等の中から選択される。ここで言う分解性のポリマーとは種々の酵素反応や外部的な刺激等によって時間変化とともに構造が崩壊する性質を有するものを言う。分解性のポリマーを基材として用いた分解性微粒子は細胞に対して非毒性であるが、幾つかの場合において、該微粒子が細胞の接着,細胞増殖,細胞分化,生存,細胞未分化状態の維持,細胞分化状態の制御,細胞死の誘導等に有用な薬剤を含むことができる。当該薬剤として、例えば分化制御因子または抗微生物剤が挙げられる。分解性微粒子は、該微粒子の崩壊により、コートする基材の表面から放出できる生物学的に活性な薬剤を含むことができる。
【0025】
更に具体的には、例えば誘電体微粒子の材質としての合成ポリマーはポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)等から選択される。誘電体微粒子の材質としての分解性のポリマーは、例えばデキストラン、ポリ乳酸、ポリ(乳酸・グリコール酸)共重合体、ポリカプロラクトン、ポリオルトエステル、ポリアルケン無水物、ポリペプチド、ポリ酸無水物およびポリエステル(ポリヒドロキシアルカノエート)等から選択される。誘電体微粒子の材質としてのガラス類としては制御された多孔質ガラス(CPG)およびシリカ(非多孔質ガラス)を包含するガラス等の中から適宜選択される。さらに例えば酸化チタンを含有するセラミック等からも選択され得る。
【0026】
本発明の分解性微粒子の基材として生分解性ポリマーを用いる場合の実施形態を以下に説明する。生分解性ポリマーは滅菌処理が可能な、非毒性および生分解性である物質から形成される。ここで言う滅菌処理とはオートクレーブ,アルコール,UV,プラズマ等による処理工程のことを示す。本発明の態様における生分解性ポリマーには、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリオルトエステル、ポリ無水物が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の微粒子の基材として用いる生分解性ポリマーとして、好ましくはポリ(α−ヒドロキシ酸)を用いる。特に好ましくは、ポリ(ラクチド)(「PLA」)またはD,L−ラクチドとグリコリドもしくはグリコール酸とのコポリマー、またはD,L−ラクチドとカプロラクトンとのコポリマーを用いる。D,L−ラクチドとグリコリドもしくはグリコール酸とのコポリマーとして、例えば、ポリ(D、L−ラクチド−コ−グルコリド)(「PLG」)またはポリ(D、L−ラクチド−コ−グリコール酸)(「PLGA」)が挙げられる。
【0027】
生分解性ポリマーを基材とする微粒子は、種々の分子量、そしてPLGのようなコポリマーの場合、所望の分解時間に応じた任意のラクチド:グリコリド比を有する。一般に50:50(ラクチド:グリコシド:%)である場合に比べて60:40,80:20と変化させることによって高い分解速度を得ることができ、一方で40:60,20:80と変化させることによって低い分解速度を得ることになる。この性質は増加及び減少したラクチドに依存して変化させ得る。種々のラクチド:グリコリド比を有するPLGポリマーの入手は容易であり、例えば和光純薬社,Birmingham Polymers社等から入手できる。本発明の微粒子に用いる生分解性ポリマーは機械的な強度は必要ないため50000程度の分子量(数平均)を有するポリマーであってよい。
【0028】
本発明の態様に従うと、本発明で用いられる微粒子は直径が1000 nm以上50000 nm以下の範囲の球体であることが好ましい。更に直径の他に以下の少なくとも1つに特徴を備えていても良い。(1)材質または表面置換基に特徴を有するもの,(2)除放性を有するもの。
【0029】
(1)は細胞もしくは細胞外マトリックス蛋白質の接着を促進する機能を有している材質もしくは表面置換基を有する微粒子群である。この微粒子群は、例えば、疎水性材質のもの、又は細胞接着性置換基表面、細胞外マトリックス蛋白質、細胞表面提示抗体、細胞表面提示抗原、特定の細胞膜受容体蛋白質と特異的に結合するリガンドもしくは多糖類と結合する蛋白質、を有するものから選択される。更に1つの態様においては疎水性材質とはポリスチレン等のプラスチック微粒子から選ばれる。また、細胞接着性置換基表面を有するものとは結合対象となる細胞の足場蛋白質や架橋剤の構成により適当に選択され、例えばカルボニル基,チオール基,アルデヒド基,またはアミノ基表面から選ばれる。アルデヒド基を有する微粒子を用いることで細胞の足場蛋白質またはアミンに固定化させるために用いることができるし、アミノ基を有する微粒子を用いることで固体基板上に様々な反応性部分を介して固定化することができる。例えばハプテン及びスクシンイミド基およびイソチオシアネート、または細胞の足場たんぱく質のカルボン酸にカップリングするために使用できる。
【0030】
(2)は細胞機能を制御し得る薬剤を内に含むもので、さらに外殻を構成する物質が除放(タイムリリース)能を有すること高分子であることを特徴とする。ここで言う薬剤とは生物学的に活性な化合物であれば良い。当該薬剤は、例えば抗生物質,防腐剤,酵素阻害剤,解熱剤,消炎剤,増殖因子,抗増殖因子,トランキライザー,サイトカイン,ホルモン,ステロイド,エストロゲン,酵素,抗原,抗体,ペプチドの中から選択される。微粒子は、例えばCayman Chemical Company社,Polysciences社,Moritex社,DYNAL BIOTECH社,Invitrogen社,および大日精化社等から市販で入手できる。
【0031】
(微粒子の前処理)
本発明の態様において当該微粒子へ機能を付加する目的や当該微粒子を固体基板表面へ固定化する目的を達成するために、固体基板に固定化する前に当該微粒子に対して前処理を行なうことができる。ここで言う前処理とは当該微粒子への置換基の導入,当該微粒子への物質の導入,当該微粒子への被覆または当該微粒子への薬剤の封入等のことである。上記の前処理を行なうに当たっては界面重合法、懸濁重合法、乳化重合法、in−situ重合法、コアセルベーション(相分離)法、液中乾燥法、等の化学的方法を適用することができる。界面重合法とは2種のモノマーもしくは反応物を分散相と連続相に別々に溶解しておき、両者の界面においてモノマーを重合させて壁膜を形成させる方法である。懸濁重合法とは、水性媒体中で芯物質をモノマー中に分散し、次いで系の温度を上昇することで壁膜を形成させる方法である。乳化重合法とは、界面活性剤を溶解した水媒体中に水不溶のモノマーを添加して攪拌し、乳化剤のミセルにモノマーを取り込ませ、ミセル内でモノマーを重合して壁膜を形成させる方法である。in−situ重合法とは、液体または気体のモノマーと触媒もしくは反応性の物質2種を連続相核粒子側のどちらか一方から供給して反応を起こさせ壁膜を形成させる方法である。コアセルベーション(相分離)法とは、芯物質粒子を分散している高分子溶液を高分子濃度の高い濃厚相と希薄相に分離させ、壁膜を形成させる方法である。液中乾燥法とは、芯物質を壁膜物質の溶液に分散した液を調製し、この分散液の連続相が混和しない液中に分散液を入れて複合エマルションとし、壁膜物質を溶解している媒質を徐々に除くことで壁膜を形成させる方法である。
【0032】
上記の1つの態様として、微粒子表面へ抗体分子を導入する際の前処理に関しては、微粒子を分散させた懸濁溶液中で高濃度の所望の抗体溶液をスターラー等で攪拌させた状態で接触させることで実現される。微粒子当たりに導入された置換基等の決定には、免疫蛍光フローサイトメトリー法や一般的な蛋白質定量法として公知の方法によって行なうことができる。具体的にはLowry法,Bicinchoninate(BCA)法,Biuret法,Bradfold法等の比色法を適宜用いることができる。蛋白質定量法に関しては各社から市販の測定キットが市販されておりSERVA社,INVITROGEN社,同仁化学社等から購入できる。更に別の1つの態様として、内部に薬剤を含む分解性のポリマーの合成方法は一般的には、W/O/W(Water in Oil in Water)型エマルション法、O/W(Oil in Water)型エマルション法等によって調製することができる。具体的にはラクチドまたはラクチド―グリコシド共重合体をクロロホルム等の有機溶媒に溶解させ、そこへ薬剤を含む水溶液を添加して乳化させ、W/O型エマルションを得る。その後減圧条件下での蒸発等により、有機溶剤を除去することにより、微小球状の沈澱物を生成させ、必要に応じて回収及び乾燥を行い、分解性の薬剤を含有する微粒子を調製することができる。
【0033】
(微粒子の固定化方法)
本発明の態様に従うと、微粒子を固定化させるための手段は、前記の微粒子が保持力によって捕捉部に留め置かれている途中もしくはその直後に行なうことが望ましい。上記何れの場合も微粒子が目的の領域に配列している状態で行なわれる。固体基板と微粒子との固定化方法は種類および特性に応じて、それ自身公知の方法を用いて行ってよい。例えば、結合および相互作用を介した固定化,熱を利用した固定化,生化学反応を利用した固定化等の中から選択される。ここで言う結合とは共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合、ファン・デル・ワールス結合等の少なくとも1つから選択される結合を介して固体基板表面に微粒子が固定化されることを意味する。本発明の態様においてより好ましくは共有結合が好ましく形成される。固体基板表面への微粒子の結合は分子のカップリングによって行なわれるものである。当該結合は、固体基板表面と微粒子表面の両者の置換基が直接的に結合される構成、または適当なクロスリンカー(架橋剤)による結合を介して両者が間接的に結合される構成のいずれかの形から選択される。微粒子がクロスリンカーを介して固体基板表面に結合される場合、該微粒子表面または固体基板表面を予めクロスリンカーでコートしておくことも出来る。目的に応じて様々なクロスリンカーが適宜選択される。例えば微粒子及び固体基板上に導入されたアミノ残基により微粒子を固定化する場合には両末端にスクシンイミド基,アルデヒド基,またはマレイミド基を有するクロスリンカー等を選択する。様々な置換基を活性化するクロスリンカーは同仁化学社,PIERCE社等から入手可能である。相互作用を介した固定化とは、非化学的相互作用(例えば疎水性相互作用)を介して固体基板表面に微粒子が固定化されることを意味する。更に詳しくは化学吸着を利用した固定化とは例えば表面置換基や架橋剤を介する化学的な架橋を利用した固定化を指す。また、熱を利用した固定化とは例えばアニールによる固定化を指す。また生化学反応とは例えばストレプトアビジン、アビジン、ビオチン、プロテインA、IgG抗体等を介する免疫抗体反応を指す。更にこれらの変性微粒子はInvitrogen社等から購入することが可能である。
【0034】
(基板表面の前処理)
本発明の態様に従うと本発明において、細胞は固体基板上に固定化された微粒子表面に接着することで、細胞機能に影響を受け得る。そのため、細胞と接触しない領域または意図的に接触させたくない領域に対して予め細胞を接着させないための前処理を行なっても良い。ここで言う細胞と接触しない領域とは例えば、微粒子が固定化されない部分,固体基板表面全面,微粒子を捕捉する電極パターン形状等を指す。細胞を微粒子表面に選択的に接着させたい場合には予め固定基板担体表面の所望の領域に細胞足場蛋白質の非特異的な吸着を制御し得る物質で処理をしておくことが可能である。その際に用いられる物質は一般にブロッキング剤として知られている物質を用いれば良く、被検対象でない蛋白質の当該基材上への非特異的な吸着の防止、展開の容易性、並びに固定化した特異的結合物質の保存安定性の観点から、公知の方法に従ってブロッキング剤、界面活性剤及び所望により糖を含有する溶液に浸漬し、乾燥して用いるのが好ましい。ここで、使用するブロッキング剤としては、ウシ血清アルブミン、カゼイン、ゼラチン、スキムミルク、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール,リン脂質およびそれらを含む化合物等の中から選択される。界面活性剤としては、ポリオキシエチレン,オクチルフェニルエーテル,ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート,ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられる。糖としては、サッカロース、トレハロース,ヘパリン,低分子ヘパリン等が挙げられる。なお、前記処理液中のブロッキング剤の含有量は、好ましくは0.1〜10重量%である。前記処理液中の界面活性剤の含有量は、好ましくは0.01〜1重量%である。前記処理液中の糖の含有量は、好ましくは0.1〜10重量%である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を用いて本発明の実施形態を示すが本発明を限定することを意図するものではない。
【0036】
本発明の態様に従うと、本例において微粒子によって固体基板上に形成される表面トポグラフィは細胞の接着に影響を与える程度の大きさを備えるものであることが望ましい。細胞は種類によって様々な大きさを有するが、おしなべて10〜100μmの範囲にあり、かつ流路の高さが100μm程度の高さである。これらから、微粒子は直径が1000 nm以上50000 nm以下の範囲に含まれる大きさを有する微粒子群の中から選択されることが望ましい。
【0037】
<固体基板表面への微粒子の固定化の評価>
固体基板表面に微粒子を固定化するに当たって、その固定化の強さを比較するために結合を利用した固定化、物理的な相互作用を用いた固定化を利用して下記の実施例に示す方法に従って構造体の作製を行なう。さらに誘電泳動以外の手法を用いて微粒子の固定化を比較例に示す方法に従って行い、評価する。
【0038】
(実施例1)
本発明の細胞固定用基板の製造に用いる装置は、図1に示したように流路の内部に微粒子を捕捉する捕捉部3を備える構造となっている。流路は天井部6と底面部7を構成する2枚の基板、および高さを規定しかつ側壁を構成するためのスペーサ8とによって形成される。天井部および底面部を構成する基板は、例えばガラス、シリコン、ポリスチレン等のプラスチック類およびPDMSポリマー類等の絶縁性物質を用いて形成することが可能である。スペーサ8は、例えばガラス、テフロン等の高分子材料、その他の好適材料から製造される。また、流路を構成する材料は流通させる溶液に浸食されない物質で、かつ顕微鏡で流路内が観察可能な透明な材質が選択されることが好ましい。本実施例では天井部および底面部は共にスライドガラス(matsunami)を選択した。前記の2枚の基板をスペーサ8で挟み込み、さらに天井部に流入口1,排出口2およびシリンジポンプ等の液体流通装置を取り付けることにより流路となる。流通装置には特に制限はなく、例えばシリンジポンプ,ペリスタポンプ等から選択される。天井部6と底面部7との間隙を決するスペーサ8の厚みは微粒子,細胞またはその両方のサイズに依存する。本発明の方法を実施するためには当該間隙の高さは1 mmを下回ることが好ましい。更に好ましくは50 〜 500μmの範囲の厚みである。本実施例においては厚さが90 μmのスペーサを用いた。微粒子の捕捉は捕捉部3で行われ、本発明においては流路内に配置した平板電極で発生させた誘電泳動力を用いる。本実施例では天井部および底面部の捕捉部3にアレイ電極4および5を配置して正の誘電泳動力により微粒子を捕捉する。平板電極の材料には、チタニウムを下地に金を用いる。天井部の電極5はガラス基板上の捕捉部3内にチタニウムおよび金を各5 nm,40 nmずつ蒸着法により成膜して完成する。底面部の電極4の形成は、まずガラス基板上の捕捉部3内にチタニウムおよび金を各5 nm、40 nmずつ蒸着法により成膜する。さらにその後一般的なフォトリソグラフィーによって直径100 μmのホール状の孔を有するレジストパターン(厚さ1.5 μm)を作製し、電解めっき法によりホール内のレジストの高さに及ぶまで金をめっきする。
【0039】
120℃でベークすることにより基板とレジストとの密着性を高めた後、最後に全面に二酸化ケイ素を蒸着法により成膜して作製する。その後両基板は有機系溶剤,アルコール系溶剤,水系溶剤,脱イオン水で順に洗浄を行ない、使用する直前まで脱イオン水中で保管した。天井部および底面部はスペーサ―を介して互いに孤立しているため、電気的に絶縁されている。天井部および底面部はそれぞれ銀ペースト(アサヒ化学研究所)により電気的にリード9に接合させる。さらにリードはマルチファンクションシンセサイザ10(nf corp.)に接続されている。本実施例においては底面部基板7表面を酸素プラズマによりクリーニングし、アミノプロピルトリエトキシシラン(信越シリコーン)を用いて基板表面にアミノ基を導入する。ここで更にアレイ状に配置した電極4上にのみ選択的にアミノ基を導入されていても良い。具体的にはリフトオフ法またはステンシルを用いた方法等により固体基板表面の電極上に選択的にアミノ基を導入する方法等が選択される。固体基板とシラン化合物との反応は有機系溶媒中に静置することによって行なわれる。この際に用いられる有機系溶剤は親油的なもので鎖長の長いアルカン,例えばデカン,ヘキサデカンまたはベンゼン溶液等の溶媒から選択される。さらにアミノ基を介してスクシンイミド基末端(NHS)を有するビオチン(NHS−Biotin, VECTOR lab.)を固定化し、固体基板表面をビオチン化する。本実施例で用いられる微粒子は表面にストレプトアビジンが被覆されている直径20 μmのポリマー微粒子(INVITROGEN)、溶媒には脱イオン水を用いた。流路内に微粒子の懸濁水溶液を導入しマルチファンクションシンセサイザを用いて印加周波数を2 MHz、 印加電圧を±5 Vの正弦交流波を5分間印加することにより、正の誘電泳動力を発生させ、底面部の電極上に微粒子を捕捉する。懸濁水溶液中の微粒子濃度は1×106 particles / mLである。
【0040】
図3に正の誘電泳動力によって底面部に捕捉された微粒子の模式図を示す。底面部の電極によって捕捉された微粒子はさらにビオチン−ストレプトアビジンの結合により固体基板表面に固定化される。その後基板表面をクリーンベンチ内にて室温下で30分間静置する。微粒子表面はさらに細胞外蛋白質等をコーティングすることによって細胞接着を促す工夫をすることができる。具体的には末端がビオチンで修飾された抗フィブロネクチン抗体(INVITROGEN)を用いて微粒子表面と反応させる。さらにビオチンが導入された微粒子表面に細胞外基質蛋白質であるフィブロネクチン水溶液を接触させることで微粒子表面をフィブロネクチンによってコーティングして、細胞固定化用の微粒子固定化基板を作製することができる。各工程の間には余剰な未反応の物質を基板表面から取り除くために、脱イオン水を送液することで十分に洗浄をしてから次の工程へと進んだ。
【0041】
(実施例2)
固体基板への微粒子の固定化方法以外は実施例1と同じ工程により細胞固定用基板を製造した。また、実施例1と同様の電極構成で正の誘電泳動力を用いて微粒子の配列を行なった。微粒子は表面の相互作用を用いて固定化した。本実施例で用いた固定化基板はスライドガラスを用いて、有機系溶剤,水系溶剤,およびプラズマ洗浄で処理したものを用いる。スライドガラスにスパッタリング,フォトリソグラフィーおよびリフトオフ法により金の平板電極を構築する。オクタデシルトリエトキシシラン(関東化学)を用いて電極表面にのみアルキル基を導入する。スライドガラスに目的のアルキル基が導入されているかは基板表面に微小水滴を滴下し、その際の接触角を測定することで判定する。水の接触角計測は液滴法により行なった(FAMAS;協和界面科学)。具体的には材料の上から液滴を滴下し、横からCCD で液滴の観察を行い付属のソフトにより接触角を計測する。接触角の算出はθ/2法により行なう。θ/2法とは、固液界面・水平線と液滴端での接線、この2つの線がなす角を接触角とした場合に、液滴頂点と液滴端を結ぶ線がなす角(測定角)が接触角の半分(1/2) の関係になることを利用して測定角から接触角を算出する方法である。接触角は0〜180度の間の値で表され、表面の疎水性が高くなればその角度は大きなもの(値が180度に近づく)となる。基板表面へのアルキル基の導入を接触角測定により確認した後に基板をさらに有機系溶媒,水系溶媒の順に洗浄して底面部とする。電極構成および印加した電圧の条件は実施例1と同様である。微粒子には直径が10μmのポリスチレンを用いた。溶媒には脱イオン水を用いた。交流電圧を印加して正の誘電泳動力を発生させて微粒子の捕捉を行なう。疎水相互作用により固体基板上の電極上にポリスチレン粒子の配列・固定化を行なう。
【0042】
(実施例3)
固体基板への微粒子の固定化方法以外は実施例1と同じ工程により細胞固定用基板を製造する。また、実施例1と同様の電極構成で正の誘電泳動力を用いて微粒子の配列を行なう。配列時の溶媒には脱イオン水を用いる。微粒子の固定化は、微粒子と固体基板表面に導入された置換基を用いて架橋剤を介して行なう。具体的には微粒子にアミノ基,固体基板表面にメルカプト基を導入したものに対して、各々に対して反応を示す架橋剤を用いて固定化を行なうものである。本実施例で用いた微粒子は表面にアミノ基が導入された直径6μmのラテックス微粒子(Polysciences, Inc)を用いる。金電極表面上に3―メルカプトプロピルトリエトキシシラン(信越化学)を用いてメルカプト基を導入する。その後N−(4−マレイミドブチロキシ)スクシンイミド(同仁化学)を流路内に導入して、メルカプト基とマレイミド基との反応を起こすことにより固体基板表面にスクシンイミド基を導入する。さらに実施例1と同様にして正の誘電泳動力でアミノ基を有する微粒子を捕捉する。基板表面に導入したスクシンイミド基と微粒子表面のアミノ基が反応することで固体基板上に微粒子の配列・固定化を行なう。
【0043】
(実施例4)
固体基板への微粒子の固定化方法以外は実施例1と同じ工程により細胞固定用基板を製造する。また、実施例1と同様の電極構成で正の誘電泳動力を用いて微粒子の配列を行なう。微粒子の固定化は、固体基板表面に微粒子を配列させた後に基板をアニールさせることにより粒子を固体基板表面に配列・固定化させる。本実施例で用いた微粒子は直径20μmのポリエチレン微粒子(Polysciences, Inc)を用いた。溶媒には脱イオン水を用いた。作製法は実施例1と同様にして正の誘電泳動力でポリエチレン微粒子を捕捉しその後、150℃で10〜30分間アニールすることで固体基板上にポリエチレン微粒子の配列・固定化を行なう。
【0044】
(比較例1)
実施例1のビオチン―ストレプトアビジン相互作用を用いた固定化法により微粒子の固定化を行う。作製した微粒子パターンは実施例1で用いた電極形状と同様の直径100μmのポストであり、シリコーンエラストマーのスタンプを用いて微粒子のパターンを形成させる。本比較例ではエラストマーにpolydimethylsiloxane(PDMS: sylgard184, Dow Corning)を用いて、フォトリソグラフィーによりスライドガラス上にレジストパターンを形成し、鋳型とする。レジストには市販のネガレジスト(SU−8; MicroChem Corp.)を用いてフォトリソグラフィーを行った。PDMSのプレポリマーを鋳型に流し込み、鋳型とプレポリマーをスライドガラスで挟んだ状態で90 ℃ 1時間オーブンで加熱し、ポリマーを固化させる。その後、鋳型からPDMSを剥離しガラス等の固体平面基板に貼り付けることでPDMSスタンプを得る。なお、鋳型とスライドガラスはPDMSスタンプの剥離を容易にするために予め3,3,4,4,5,5,6,6,6−Nonafluorohexyltrichlorosilane(信越化学)等を用いて撥水処理をしておいても良い。PDMSスタンプを使用する前には有機系溶剤、水系溶剤で洗浄して、酸素プラズマ(80W,30秒)処理をしておく。スタンプ表面を上向けにして脱イオン水に懸濁させたストレプトアビジン微粒子水溶液をスタンプ表面に滴下して、室温雰囲気下で溶媒を徐々に蒸発させてスタンプ表面に微粒子を自発的にパッキングさせる。スタンプ表面が完全に乾燥してしまう前にスタンプを下向きにして、ビオチンを表面に導入した固体基板上に押し付けて湿度80%以上および温度30℃に制御した環境下で3時間静置してピラー部分の凸部分を転写する。その際にPDMSスタンプには変形を生じない程度の適当な圧力を印加しておく。その後、固体基板表面からPDMSスタンプを静かに剥離して微粒子パターンを形成する。
【0045】
(比較例2)
実施例2の固定化手法およびPDMSスタンプを用いた比較例1の条件下で、疎水相互作用により固体基板上の電極上にポリスチレン粒子の配列・固定化を行なう。
【0046】
(比較例3)
PDMSスタンプを用いた比較例1の条件下で、実施例3と同様の固定化手法である、基板表面に導入したスクシンイミド基と微粒子表面のアミノ基との反応により微粒子の配列・固定化を行なう。
【0047】
(比較例4)
PDMSスタンプを用いた比較例1の条件下において、実施例4と同様の固定化手法である、150℃で10〜30分間のアニーリングによりすることで固体基板上にポリエチレン微粒子の配列・固定化を行なう。
以上の実施例1〜4および比較例1〜4の比較を行なう。以後の実施例においては実施例3によるものを用いて評価を行なう。
【0048】
<細胞固定化用担体上での細胞接着性評価>
続いて図4に示す手順に従って、正の誘電泳動力を用いて微粒子を表面に配置して更に、微粒子の上で細胞の培養を行なう。具体的には(1)微粒子の導入と交流電圧の印加、(2)正の誘電泳動力による微粒子の捕捉、(3)捕捉した微粒子の固定化、(4)細胞の導入、(5)細胞培養である。図の矢印は送液の方向を示している。なお、誘電泳動の条件および微粒子の固定化は実施例3の方法を用いて行なう。そして、様々な粒径を有する微粒子に対して細胞接着状態の観察を行なう。
【0049】
[微粒子径における細胞の接着状態の観察]
(実施例5)
実施例3の手法で表面置換基にアミノ基を有する直径6 μmのラテックス微粒子(Polysciences, Inc)を架橋剤で固定化させた細胞固定用基板上でウシ大動脈由来の内皮細胞の培養を行なう。
【0050】
(実施例6)
実施例3の手法で表面置換基にアミノ基を有する直径3 μmのラテックス微粒子(Polysciences, Inc)を架橋剤で固定化させた細胞固定用基板上でウシ大動脈由来の内皮細胞の培養を行なう。
【0051】
(実施例7)
実施例3の手法で表面置換基にアミノ基を有する直径1 μmのラテックス微粒子(Polysciences, Inc)を架橋剤で固定化させた細胞固定用基板上でウシ大動脈由来の内皮細胞の培養を行なう。
【0052】
(実施例8)
実施例3の手法で表面置換基にアミノ基を有する直径0.75 μmのラテックス微粒子(Polysciences, Inc)を架橋剤で固定化させた細胞固定用基板上でウシ大動脈由来の内皮細胞の培養を行なう。
【0053】
(実施例9)
実施例3の手法で表面置換基にアミノ基を有する直径0.5 μmのラテックス微粒子(Polysciences, Inc)を架橋剤で固定化させた細胞固定用基板上でウシ大動脈由来の内皮細胞の培養を行なう。
【0054】
(実施例10)
実施例3の手法で表面置換基にアミノ基を有する直径0.2 μmのラテックス微粒子(Polysciences, Inc)を架橋剤で固定化させた細胞固定用基板上でウシ大動脈由来の内皮細胞の培養を行なう。
【0055】
(実施例11)
実施例3の手法で表面置換基にアミノ基を有する直径0.1 μmのラテックス微粒子(Polysciences, Inc)を架橋剤で固定化させた細胞固定用基板上でウシ大動脈由来の内皮細胞の培養を行なう。
【0056】
(比較例5)
スライドガラス表面にアミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学)を用いてアミノ基を導入した平板の細胞培養基板を作製し、ウシ大動脈由来の内皮細胞の培養を行なう。
【0057】
(比較例6)
市販のPSディッシュ(FALCON)上でウシ大動脈由来の内皮細胞の培養を行なう。
【0058】
実施例5〜11および比較例から作製された微粒子アレイ表面でウシ大動脈由来の内皮細胞の培養を行なう。細胞を播種する前に予めフィブロネクチン等の細胞外足場蛋白質で前処理を行っておくことも可能である。細胞培養液には10 %ウシ血清を添加したハイグルコースのダルベッコ調整培地(INVITROGEN)を用いる。流路中に5.0×106 cells / mLの濃度に調整した内皮細胞懸濁液を流通させて空間内を満たす、その後流れを止めて30分間静置することで基板表面に細胞を接着させる。更にDMEMを流通させ余分な細胞を基板表面から洗浄により取り除いた後に37 ℃,5 %CO2の雰囲気下で24時間培養を行なう。その後内皮細胞の細胞骨格のアクチンフィラメントをFITC−ファロイジン(SIGMA)を固定染色し蛍光顕微鏡で観察を行う。固定染色は培養液を取り除いた後に、中性緩衝ホルムアルデヒド液(和光純薬)を入れて室温で10分間静置して細胞を固定する。さらに、Triton X−100 溶液を入れて室温で5分間静置して、細胞膜を溶解させることで細胞の透過処理をする。その後、FITC−ファロイジン水溶液に20分間浸漬させることで内皮細胞のアクチンフィラメントの固定染色を行った。最後にリン酸緩衝液でさらに十分に洗浄し、余分な蛍光試薬を取り除いてから蛍光観察を行う。培養基板上に接着した血管内皮細胞の形状を細胞の伸展率から算出する。細胞の伸展率は細胞を楕円に近似した際の長軸と短軸の比で定義する。伸展率を算出するに当たっての楕円の長軸および短軸長さは顕微鏡のデータをPCに取り込み、Scion image(NIH)を用いて数値化したものを用いて計算する。
すると、微粒子サイズを変化させることで細胞の伸展率を様々に変化させることが可能であることが分かる。上記の特長は様々サイズを有する微粒子を単一基板上に導入することで伸展率を変化させた細胞形状を基板加工技術を直接用いることなく簡便に再現できる可能性を示したものである。
(実施例12)
本実施例においては、負の誘電泳動力を用いて微粒子を固定化して細胞固定用担体の作製を行なった。用いた電極構成の概略図を図5,図6に示す。本実施例においては用いたスペーサ厚みは75 μmとする。流路内の天井部にくし型電極12を配置し、負の誘電泳動力を用いて底面部で微粒子を捕捉する構成である。負の誘電泳動力を用いる方法は電気的な反発力を用いて対向する壁面に微粒子を押し付けるために、電極部分に直接捕捉させる正の誘電泳動力に比べると弱い捕捉力である。しかし電極部に直接微粒子を捕捉する訳ではないので、電極部分が繰り返し利用できる等の特徴がある。電極材料には、ITO(インジウム―スズ―酸化物)を用いる。ITO薄膜基板を酸素プラズマ処理によりクリーニングした後に一般的なフォトリソグラフィー法によってレジストパターンを形成する(厚さ1.5 μm)。濃塩酸と塩化第2鉄を等量混合したエッチャントに浸漬させて(45℃, 3 min)、露出しているITO部分を取り除く。その後流水で基板表面を洗浄し剥離材でレジストを取り除くことでITOくし型電極を作製する。その後両基板は有機系溶剤,アルコール系溶剤,水系溶剤,脱イオン水で順に洗浄を行ない、使用する直前まで脱イオン水中で保管する。天井部および底面部はそれぞれリードを介してマルチファンクションシンセサイザに接続する。底面部には表面にアミノ基を導入したガラス基板、微粒子はポリスチレンからなり、外殻がアミノ基修飾されているもの(直径10 μm)、溶媒には脱イオン水をそれぞれ用いる。ここで更にリフトオフ法またはステンシルを用いた方法等によりアレイ状にアミノ基が導入されていても良い。マルチファンクションシンセサイザを用いて印加周波数を10 MHz, 印加電圧を±5 Vに設定した正弦交流波を5分間印加することにより、微粒子を底面部の所望の位置に捕捉する。交流電圧を印加している際に、目的領域外へのブロッキング処理や液体を流通させる等の非特異吸着防止のための処置は適宜行なう。微粒子を捕捉した後にアミノ基認識部位を両末端に備える架橋剤によって固体基板上に微粒子を固定化する。例えばアルデヒド基やスクシンイミド基を末端に有するものから選択される。その後100℃で2時間加熱することで基板表面に微粒子を強固に固定化する。さらに、微粒子表面を細胞外基質蛋白質等でコーティングすることで細胞固定用担体を提供できる。
【0059】
(実施例13)
本実施例においては、流路内の空間ごとゲルによって固定することによってソフトマテリアル表面に微粒子を固定化し、電極および流路系の繰り返し使用を検討する。微粒子は正の誘電泳動を用いて基板上に配列される。電極構成は実施例1と同様となる。厚さ100 μmのスペーサを介して天井部と底面部の固体基板を貼り付けて、液の導入口と排出口を備えた流路内で行なう。固体基板にはスライドガラス、電極材料にはITOを用いた。底面部においてはITO基板を酸素プラズマ処理によりクリーニングした後に一般的なフォトリソグラフィー法によってネガタイプのレジストパターンを形成する(厚さ10 μm)。その後基板表面にフッ素化合物等を導入して基板表面の撥水性を予め高めておく。例えば末端にフッ素化合物が修飾されているシランカップリング材等を用いる。上記処理は後述のように基板とハイドロゲルとの密着性を軽減し、ゲル化した後に基板からの容易な剥離を可能にするためである。撥水処理は上下の両面の基板について施しておく。マルチファンクションシンセサイザを用いて印加周波数を10 MHz, 印加電圧を±5 Vに設定した正弦交流波を5分間印加することにより、微粒子を底面部の所望の位置に捕捉する。微粒子には直径が0.5〜50 μmのポリスチレンを、ハイドロゲルは生体適合性が高い材料として公知のポリエチレングリコール(PEG)を架橋剤として用いた。誘電泳動は導電率を15 mSm-1以下に調整したHEPESバッファーに2アクリル酸PEG(PEGDA, Mw500)と光重合開始材をそれぞれ重量%濃度で10 % と0.1 %ずつで混合した溶液中で行なう。正の誘電泳動力によって微粒子が所望の位置に捕捉されている状態で、UVランプを30〜100秒間照射してPEGハイドロゲルの作製を行なった。脱イオン水およびリン酸バッファー等でゲル表面の洗浄をした後にゲル自体を基板から剥離し、ソフトマテリアル表面に微粒子が固定化された細胞固定用担体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の細胞固定用基板の製造に用いる装置を上方から示した平面図である。
【図2】図1の線A−Aに沿った断面図である。
【図3】本発明の態様に従う正の誘電泳動力による微粒子捕捉の模式図である。
【図4】本発明の態様に従う細胞培養担体としての利用法の一例を示す模式図。
【図5】実施例12の細胞固定用基板の製造に用いる装置を上方から示した平面図である。
【図6】図5の線B−Bに沿った断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1.導入口
2.排出口
3.捕捉部
4.電極
5.電極
6.天井部基板
7.底面部基板
8.スペーサ
9.配線(リード)
10.マルチファンクションシンセサイザ
11.微粒子
12.電極
【出願人】 【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
【出願日】 平成18年8月25日(2006.8.25)
【代理人】 【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫

【識別番号】100106138
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 政幸

【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭


【公開番号】 特開2008−48684(P2008−48684A)
【公開日】 平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願番号】 特願2006−229658(P2006−229658)