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【発明の名称】 細胞転写用部材
【発明者】 【氏名】黒田 正敏

【氏名】服部 秀志

【要約】 【課題】本発明は、パターン培養された細胞であっても、パターンを維持した状態で転写することを可能とする細胞転写用部材、およびその細胞転写用部材を用いた細胞転写用具を提供することを主目的とするものである。

【構成】本発明は、片面に細胞転写層を有する細胞転写基材からなる細胞転写膜と、細胞培養時において、上記細胞転写膜の平坦性を維持する固定部と、上記固定部に接続し、かつ上記細胞転写膜の上記細胞転写層が形成されていない面側に配置された把持部と、からなることを特徴とする細胞転写用部材を提供することにより、上記課題を解決するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
片面に細胞転写層を有する細胞転写基材からなる細胞転写膜と、細胞培養時において、前記細胞転写膜の平坦性を維持する固定部と、前記固定部に接続し、かつ前記細胞転写膜の前記細胞転写層が形成されていない面側に配置された把持部と、からなることを特徴とする細胞転写用部材。
【請求項2】
前記細胞転写層が、細胞をパターン状に培養することができるパターン培養機能を有することを特徴とする請求項1に記載の細胞転写用部材。
【請求項3】
前記細胞転写層が、前記細胞転写層の表面に生理活性物質を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の細胞転写用部材。
【請求項4】
前記細胞転写基材が、微細な多孔質構造であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の細胞転写用部材。
【請求項5】
前記把持部が、前記固定部と脱着可能であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の細胞転写用部材。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の細胞転写用部材と、培養プレートと、からなる細胞転写キットであって、前記細胞転写膜が前記培養プレート内壁と接触しないことを特徴とする細胞転写キット。
【請求項7】
請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の細胞転写用部材を用いることを特徴とする細胞の培養方法。
【請求項8】
請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の細胞転写用部材の前記細胞転写層上に細胞が接着していることを特徴とする細胞転写用具。
【請求項9】
請求項8に記載の細胞転写用具を用いることを特徴とする細胞組織の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の加工や移植等に用いられ、細胞を活性なまま転写可能とする細胞転写用部材、およびその細胞転写用部材を用いた細胞転写用具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞を培養して組織化させたものをそのまま移植するという技術が注目されている。これは、合成高分子を用いた人工皮膚や人工血管等では移植後に拒絶反応が生じる可能性があり、使用が難しいという問題があるが、本人の細胞を培養して組織化させた培養細胞組織等を用いる場合には、拒絶反応の心配がなく、移植用に好ましく用いることができることによるものである。
【0003】
しかしながら、細胞培養基板上で培養された上記培養細胞組織等は、例えば生体組織へ移植することや、加工のために別の培養基板上に移し変えたりすることが難しい、という問題があった。これは、例えば細胞培養基板上でパターン状に培養された培養細胞組織を回収する際、培養細胞組織のみを細胞培養基板から剥離させることが難しいからである。
【0004】
そこで、例えばたんぱく質分解酵素や化学薬品等を用いて細胞培養基板上から剥離させて、培養細胞組織を回収する方法が提案されている。しかしながらこの方法においては、上記薬品や酵素等により細胞が変性もしくは損傷し、細胞本来の機能が損なわれる可能性があった。また、処理工程が煩雑であり、またコンタミネーションの可能性がある等の問題もあった。
【0005】
また特許文献1には、基材上に、感温性高分子によるパターンを形成した細胞培養支持体を作製し、その細胞培養支持体上で細胞を培養した後、細胞組織を剥離する方法も提案されている。この方法によれば、感温性高分子上で培養された細胞を、例えば高分子膜等に密着させた状態で、感温性高分子の温度を変化させることにより、シート状の細胞(細胞シート)を感温性高分子から剥離させ、培養液の表面張力の作用で上記細胞シートを高分子膜に密着させることができる。その後、高分子膜側に保持された細胞シートを、培養基板や生体組織等と密着させることによって、上記細胞シートを別の培養基板上に移し変えたり、生体組織上に移植することができるのである。しかしながらこの方法においては、細胞シートの大きさが非常に小さい場合や、細胞がまばらな状態や小さなコロニーを形成した状態で培養された場合には、高分子膜との間の表面張力の作用が十分でなく、細胞が高分子膜上を流れ滑る等して、高分子膜側に密着させることができない、という問題があった。また、血管やリンパ管等の脈管網や神経網等、パターン状に培養された細胞を高分子膜に密着させた場合には、パターン状の細胞が高分子膜状を流れ滑る等してこれらのパターンが維持できない、という問題があった。
【特許文献1】特開2003−38170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、パターン培養された細胞であっても、パターンを維持した状態で転写することを可能とする細胞転写用部材、およびその細胞転写用部材を用いた細胞転写用具を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、片面に細胞転写層を有する細胞転写基材からなる細胞転写膜と、細胞培養時において、上記細胞転写膜の平坦性を維持する固定部と、上記固定部に接続し、かつ上記細胞転写膜の上記細胞転写層が形成されていない面側に配置された把持部と、からなることを特徴とする細胞転写用部材を提供する。
【0008】
本発明によれば、上記細胞転写膜が固定部により固定されていることにより、上記細胞転写膜は、細胞培養容器からの取り出しの際に、変形・破断を起こすことなく取り出すことができる。
【0009】
また、上記把持部を有していることにより、上記細胞転写層上で培養した細胞を、上記把持部を把持して転写することで、例えば、ピンセット等により上記細胞転写用部材上に培養した細胞を転写する場合において、上記細胞転写用部材を掴むピンセットの先端により、生体組織等の被転写体を損傷するといったことを防ぐことができる。
【0010】
上記発明においては、上記細胞転写層が、細胞をパターン状に培養することができるパターン培養機能を有することが好ましい。血管やリンパ管等の脈管網や神経網等の細胞をパターン状に培養できることで、例えば、培養した細胞組織等にパターン状に培養した血管細胞を転写することにより、細胞組織等への栄養分等の供給や、老廃物の排出等が可能となり、機能を保持した細胞組織等を作製することができるようになるからである。また、細胞を微小な部分にのみ接着させ、配列させるようにパターン培養することで、培養細胞を人工臓器やバイオセンサ、バイオリアクターなどに応用することが可能になるからである。
【0011】
また、上記発明においては、上記細胞転写層が、上記細胞転写層の表面に生理活性物質を有していることが好ましい。上記細胞転写層が、上記細胞転写層の表面に上記生理活性物質を有することで、上記細胞転写層上で培養される細胞の成長、分化、機能等を調節することができるため、所望の機能を与えられた細胞を培養し、転写に用いることができるからである。
【0012】
さらに、上記発明においては、上記細胞転写基材が微細な多孔質構造であることが好ましい。上記細胞転写基材が微細な多孔質構造であることにより、上記細胞転写層に接着した細胞は、上記細胞転写膜の細胞転写層が形成されていない面側から、所望の機能を得るのに必要な因子等の供給を受けることができる。これにより、例えば上皮細胞のように、細胞の表裏で機能の異なる細胞を培養することが可能となるからである。
【0013】
またさらに、上記発明においては、上記把持部が、上記固定部と脱着可能であることが好ましい。上記把持部が上記固定部と脱着可能であることにより、例えば、上記細胞転写層において培養した細胞を、生体組織等の被転写体に転写する場合において、転写が完了するまで、ガーゼその他滅菌された保護素材等で被覆することがあるが、そのような際に、上記把持部を脱着可能としておくことで、上記保護素材での被覆の障害とならないものとするからである。
【0014】
本発明は、上記本発明の細胞転写用部材と、培養プレートと、からなる細胞転写キットであって、上記細胞転写膜が上記培養プレート内壁と接触しないことを特徴とする細胞転写キットを提供する。
【0015】
本発明によれば、上記本発明の細胞転写用部材の上記細胞転写膜と、上記培養プレート内壁とが接触しないことにより、上記細胞転写膜の上記細胞転写層上において細胞を内壁に接着させることなく安定な条件下で培養することができる。また上記細胞転写層上と上記培養プレートの内壁とで細胞を培養する場合においては、上記細胞転写層上で培養する細胞に、上記培養プレートの内壁上で培養する細胞がコンタミネーションすることなく、上記細胞転写層上、および上記培養プレート内壁において細胞を共培養することができる。
【0016】
本発明は、上記本発明の細胞転写用部材を用いることを特徴とする細胞の培養方法を提供する。
【0017】
本発明によれば、上記本発明の細胞転写用部材を用いることにより、上記細胞転写膜の上記細胞転写層の形成されていない面が細胞培養容器の内壁と接触することなく、上記細胞転写層上において細胞を培養することができる。これにより上記細胞転写膜の上記細胞転写層が形成されていない面側から、細胞が所望の機能を得るのに必要な因子等を供給しながら、細胞を培養することができる。したがって、例えば上皮細胞のように、細胞の表裏で機能の異なる細胞を培養することが可能となる。また、上記細胞転写用具を用いることで、培養した細胞を、生体組織等の被転写体に転写することを容易にすることができる。
【0018】
本発明は、上記本発明の細胞転写用部材の上記細胞転写層上に細胞が接着していることを特徴とする細胞転写用具を提供する。
【0019】
本発明によれば、上記細胞転写層が平坦性を維持するように固定されていることから、この細胞転写層上において安定に培養することができ、また培養された細胞は、転写時においては、パターンや機能を損なうことなく転写することができる。
【0020】
本発明は、上記本発明の細胞転写用具を用いることを特徴とする細胞組織の製造方法を提供する。
【0021】
本発明によれば、上記細胞転写用具は細胞の培養パターン、および機能を維持した状態で転写することができることにより、パターン培養された細胞、および機能を維持した細胞を組み合わされた細胞組織を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、細胞の培養パターン、および機能を維持した状態で転写することを可能とする細胞転写用部材、およびその細胞転写用部材を用いた細胞転写用具を提供するといった効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、細胞の培養パターン、および機能を維持した状態で転写することを可能とする細胞転写用部材と、その細胞転写用部材を用いた細胞転写用具、細胞転写キット、および細胞の培養方法と、およびその細胞転写用具を用いた細胞組織の製造方法に関するものである。以下、本発明の細胞転写用部材、細胞転写キット、細胞の培養方法、細胞転写用具、細胞組織の製造方法について詳細に説明する。
【0024】
A.細胞転写用部材
まず、本発明の細胞転写用部材について説明する。本発明の細胞転写用部材は、片面に細胞転写層を有する細胞転写膜と、細胞培養時において、上記細胞転写膜の平坦性を維持する固定部と、上記固定部に接続し、かつ上記細胞転写膜の上記細胞転写層が形成されていない面側に配置された把持部と、からなることを特徴とするものである。
【0025】
次に、本発明の細胞転写用部材について図を参照しながら説明する。図1は、本発明の細胞転写用部材の一例を示す概略断面図である。図1に示すように、本発明の細胞転写用部材10は、細胞転写基材1と、上記細胞転写基材1上に形成された細胞転写層2と、からなる細胞転写膜3と、上記細胞転写膜3を固定する固定部4と、上記固定部4に接続し、かつ上記細胞転写膜3の上記細胞転写層2が形成されていない面側に配置された把持部5と、からなるものである。
【0026】
本発明の細胞転写用部材は、細胞転写性を有する細胞転写層が形成されていることから、上記細胞転写層上で培養された細胞を、直接細胞培養基板や生体組織等の被転写体に転写することができる。また、上記細胞転写膜が上記固定部により固定されていることにより、上記細胞転写膜は、細胞培養容器からの取り出しの際に、変形・破断を起こすことなく取り出すことができる。
【0027】
また、本発明の細胞転写用部材は、上記把持部を有していることにより、上記細胞転写用部材上で培養した細胞の転写作業においては、上記把持部を把持することで、例えば、ピンセット等により上記細胞転写用部材上に培養した細胞を転写する場合において、上記細胞転写用部材を掴むピンセットの先端により、生体組織等の被転写体を損傷するといったことを防ぐことができる。
【0028】
本発明の細胞転写用部材は、細胞転写膜と、固定部と、把持部とからなるものである。以下、本発明の細胞転写用部材の各構成について詳細に説明する。
【0029】
1.細胞転写膜
まず、本発明の細胞転写用部材に用いられる細胞転写膜について説明する。本発明に用いられる細胞転写膜は、片面に細胞転写層を有する細胞転写基材からなるものである。
【0030】
(1)細胞転写層
本発明に用いられる細胞転写膜における細胞転写層について説明する。本発明に用いられる細胞転写層は、上記細胞転写基材上に形成されるものであり、その表面に細胞を接着させて培養することが可能であって、培養された細胞を、その培養パターン、および機能を損なうことなく、他の細胞培養基板や生体組織等の被転写体に転写するものである。
【0031】
本発明における、細胞転写性とは、細胞転写層上で接着培養した細胞を、上記細胞転写層上に接着したままの状態で被転写体に生きたまま接触させ、所定時間後、その細胞を被転写体に転写することができる性質をいう。本発明において、細胞転写層上で接着培養した細胞を被転写体に接触させてから遅くとも48時間以内に、細胞転写層上に接着していた細胞の80%以上の細胞が被転写体に転写されたとき、細胞転写層は細胞転写性を有するものとする。
【0032】
なお、上記細胞転写性の評価は、細胞転写層上に接着した細胞を被転写体に所定時間接触させてから細胞転写層を剥がし、細胞転写層と被転写体とが細胞を介して接触していた所定の領域の細胞転写層および被転写体の表面に存在する細胞の数を、市販の顕微鏡で観察することにより評価することができる。被転写体が生体組織等の場合は、被転写体の顕微鏡観察が困難である場合があるが、この場合は、転写操作前の細胞転写層の所定の領域の細胞数をあらかじめ数えておき、細胞転写後、細胞転写層の上記領域に残存する細胞の数を数えることにより評価することができる。
【0033】
また、本発明に用いられる細胞転写層は、上記細胞転写層上で培養された細胞のうちの80%以上を転写するのに必要な時間が、24時間以内であるものが好ましく、6時間以内であるものがより好ましい。
【0034】
上記細胞転写層は、上記細胞転写性を有する材料からなるものであれば特に限定されるものではない。このような材料としては、例えばフッ素および酸素を含有する材料等が挙げられ、具体的にはナフィオン(商品名)等のイオン性フッ素高分子や、フッ素系シランカップリング剤、フルオロアルキル鎖と水酸基を含むゲル、エチレングリコール系シランカップリング剤等が挙げられる。
【0035】
また、上記細胞転写層としては、親水性の高分子材料も用いることができる。具体的にはポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)等の感温性高分子や、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体等のポリアルキレングリコールおよびその誘導体、リン脂質極性基を有するMPCポリマー(商品名)等の両性イオン高分子等が挙げられる。
【0036】
さらに、上記細胞転写層は、光触媒を含有していてもよい。具体的には上記細胞転写層を、上記細胞転写性を有する材料と光触媒微粒子との混合物からなる層とすることや、上記細胞転写層を、少なくとも光触媒を含有する光触媒含有層と上記細胞転写性を有する材料からなる層との2層からなる層等とすることができる。この際、用いられる光触媒としては、例えば特開2001−249219号公報に記載されているものと同様とすることができる。
【0037】
本発明に用いられる細胞転写層は、細胞転写性を有するものであれば特に限定されるものではなく、他の機能を付与しても良い。本発明においては、細胞をパターン状に培養することができるパターン培養機能を有することが好ましい。血管やリンパ管等の脈管網や神経網等の細胞をパターン状に培養できることで、例えば、培養した細胞組織等にパターン状に培養した血管細胞を転写できることにより、細胞組織等への栄養分等の供給や、老廃物の排出等が可能となり、機能を保持した細胞組織等を作製することができるようになるからである。また、細胞を微小な部分にのみ接着させ、配列させるようにパターン培養することで、培養細胞を人工臓器やバイオセンサ、バイオリアクターなどに応用することが可能になる。
このようなパターン培養機能を付与する方法としては、例えば、図2に示すように、細胞転写層2が、細胞との接着性を有する細胞接着領域6と細胞接着性を有しない細胞接着阻害領域7とからなるものとする方法が挙げられる。細胞転写層が、細胞接着領域と細胞接着阻害領域とを有する場合、細胞接着領域上にのみ細胞を接着させて培養することが可能となり、パターン状に細胞を転写することが可能となる。細胞転写層に形成された細胞接着領域は一箇所であってもよいし複数個所であってもよい。その形状も特に限定されず、円形、多角形、ライン、分岐を有するライン、ネットワーク状、リング状、これらが組合された形状など様々な態様が考えられる。
【0038】
上記細胞転写層にパターン培養機能を付与するために、細胞接着領域および細胞接着阻害領域を形成する方法としては、特に限定されるものでないが、例えば、水との接触角を調整する接触角調整法、水和能を調整する水和能調整法、細胞と結合することができるバインダー物質をパターン状に付与するバインダー付与法、表面の凹凸形状により調整する形状調整法等を挙げることができる。
【0039】
上記接触角調整法としては、細胞接着領域および細胞接着阻害領域の水との接触角を異なるように設定することによりパターン培養機能を付与するものである。ここで、細胞を培養し、かつ転写するために用いられる細胞接着領域は、転写する細胞の種類等により適宜選択されるものであるが、通常、細胞転写層表面の水との接触角が10°〜60°程度の領域、中でも15°〜55°の範囲内の領域とされていることが好ましい。このような水との接触角を有するものとすることにより、細胞を細胞転写層上に接着させて培養し、活性なまま被転写体に転写することができるからである。また上記範囲より水との接触角が大きい場合には、細胞を細胞転写層上に接着させることは可能であるが、転写することが困難となり、上記範囲より水との接触角が小さい場合には、細胞を細胞転写層上に接着させることが困難となるからである。なお、細胞を転写するパターンの幅が1mm以下のラインやドットである場合等には特に、上記細胞接着領域表面の水との接触角が、10°〜45°の範囲内、中でも15°〜35°の範囲内とされていることが好ましい。このような範囲内とすることにより、高精細なパターン状に細胞を転写することが可能となるからである。
【0040】
また、細胞転写層が細胞接着阻害領域を有する場合には、この細胞接着阻害領域は、細胞接着領域の水との接触角より10°〜40°程度、中でも15°〜35°程度水との接触角が小さい領域とすることが好ましい。このような領域では、細胞との接着性が悪いものとすることができるからである。また、細胞接着領域の水との接触角より、50°〜160°程度、中でも60°〜150°程度水との接触角が大きい領域も細胞との接着性を悪いものとすることができ、当該領域は細胞接着阻害領域とすることができる。
【0041】
上記細胞転写層に、上記細胞接着領域と、上記細胞接着阻害領域とを形成する方法としては、例えば細胞と接着阻害性を有する層を形成した後、細胞接着領域とする部分のみ水との接触角を変化させる方法や、細胞接着性を有する層を形成した後、細胞接着阻害領域とする部分のみの水との接触角を変化させる方法等が挙げられる。例えば上述したような材料を用いて細胞転写層を形成した後、細胞接着領域とする部分のみ、もしくは細胞接着阻害領域とする部分のみ、水との接触角を低下させる方法や、上述したような材料を用いて細胞転写層を形成した後、細胞接着領域とする部分のみ、もしくは細胞接着阻害領域とする部分のみ水との接触角を高くする方法等が挙げられる。
【0042】
上述したような細胞転写層の水との接触角を大きいものとする方法としては、例えば細胞転写層表面に微細な凹凸を形成する方法等が挙げられ、例えば、資料ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス、パート2、32巻、L614〜L615、1993年 Ogawaら、に開示されている方法や、資料ラングミュア、19巻、10624〜10627、2003年 Teshimaら、に開示されている方法を用いることができる。
【0043】
また、上記細胞転写層の水との接触角を小さくする方法としては、例えばエネルギー照射に伴う光触媒の作用を利用し、撥液性を有する基を分解または変性させる方法や、熱照射、紫外光照射、電子線照射等により撥液性を有する基を分解または変性させる方法等が挙げられる。上述したように、細胞転写層中に光触媒が含有されている場合には、この細胞転写層中の光触媒の作用を利用して、細胞転写層との水との接触角を低下させることができる。また、細胞転写層中に光触媒が含有されていない場合には、例えば特開2001−249219号公報に記載されている光触媒を用いたパターニング方法や、特開2003−222626号公報に記載されている光触媒を用いたパターニング方法等を用いて、細胞転写層の水との接触角を低下させることができる。また、熱照射や紫外光照射、電子線照射等によるパターニングは、これらのエネルギーを用いてパターニングする一般的な方法と同様とすることができるので、ここでの詳しい説明は省略する。
【0044】
上記水和能調整法としては、細胞接着領域および細胞接着阻害領域の水との水和能が異なるように設定することによりパターン培養機能を付与するものである。ここで、細胞接着領域は、転写する細胞の種類等により適宜選択されるものであるが、水和能の小さい材料により形成し、細胞接着阻害領域は水和能の高い材料を用いて形成される。水和能の高い材料を用いることにより、材料の周りに水分子が集まった水和層が形成される。このような水和能の高い物質は水分子との親和性の方が細胞との親和性より高いことから、細胞が上記水和能の高い材料と接着することができず、細胞接着阻害領域となるのである。ここで、上記水和能とは、水分子と水和する性質をいい、水和能が高いとは、水分子と水和しやすいことをいうこととする。
また、上記細胞転写層の細胞接着領域としたい部分の水和能を小さくする方法としては、例えば、上記接触角の調整に用いたものと同様に光触媒の作用を用いる方法や、熱照射、紫外光照射、電子線照射等により水和能を有する基を分解または変性させる方法等が挙げることができる。
【0045】
上記バインダー付与法としては、通常は、バインダー物質を付与された領域が細胞接着領域として機能し、バインダー物質が付与されていない領域が細胞接着阻害領域として機能することになる。このようなパターニング方法としては、例えば、細胞転写層の全面に細胞接着阻害領域を形成した後、所望のパターン状にバインダー物質を付与してもよく、細胞転写層の全面にバインダー物質を付与した後、上記接触角の調整に用いたものと同様に光触媒の作用を用いる方法や、熱照射、紫外光照射、電子線照射等によりバインダー物質を分解または変性させる方法等が挙げることができる。
ここでバインダー物質としては、細胞と結合できるものであれば特に限定されないが、例えば、細胞表面に発現しているレセプターと結合可能な糖鎖、蛋白質等を挙げることができる。本発明においては、なかでも細胞特異的に発現しているレセプターと特異的結合をすることができるバインダー物質を用いることが好ましい。このような細胞特異的結合を行うバインダー物質を上記細胞転写層上にパターニングすることで、例えば、同一細胞転写層上に、二以上の異なる細胞が混ざることなくパターニングすることを可能とするからである。
【0046】
上記形状調整法としては、後述するように細胞転写層が形成される細胞転写基材表面に凹凸形状を付与して、例えば上記凸部上にのみ、もしくは凹部上にのみ細胞転写層を形成して高精細なパターン状に細胞を培養し、転写することが可能となる。
【0047】
本発明においては、上記パターン培養機能は、上述した1種類の方法によって形成したものであっても良く、また2種類以上の方法を組み合わせたものであってもよい。
【0048】
また、本発明に用いられる細胞転写層は、上記細胞転写層の表面に生理活性物質を有することが好ましい。本発明に用いられる生理活性物質は、何らかの生物学的機能を有する物質のことで、例えば、抗体、接着分子、サイトカイン、成長因子、酵素阻害剤やレセプターに限らず、アミノ酸、オリゴペプチド、ポリペプチド、蛋白質、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、糖蛋白質、単糖類、多糖類、及びビタミン類など低分子物質から高分子物質までの種々の物質を用いることができる。上記細胞転写層が、このような生理活性物質を有することで、上記細胞転写層上で培養される細胞の成長、分化、機能等を調節することができるため、所望の機能を与えた細胞を培養し、転写に用いることができるからである。
【0049】
本発明に用いられる細胞転写層の形成方法としては、上記細胞転写層の種類や、上記細胞転写用部材の形状等に合わせて適宜選択されるものであるが、通常ロールコート法、ダイコート法、ビードコート法、スピンコート法等の湿式コーティング法や、熱CVD法、シランカップリング法、吸着法、交互吸着法等を用いることができる。
【0050】
ここで、上述したような細胞転写層の膜厚としては、上記細胞転写層の種類等により適宜選択されるものであるが、通常1nm〜1000nmの範囲であり、好ましくは1.5nm〜750nmの範囲が好ましく、中でも20nm〜500nmの範囲が好ましい。上記細胞転写層の厚みを上記範囲内とすることにより、細胞を安定して培養し、転写することが可能となるからである。
【0051】
(2)細胞転写基材
本発明に用いられる細胞転写基材について説明する。本発明に用いられる細胞転写基材は、上記細胞転写層を均一に形成可能なものであり、公知の方法で滅菌できることが可能なものであれば細胞転写基材の種類等は特に限定されるものではない。公知の滅菌方法としては、例えばγ線を照射して滅菌する方法、紫外光を照射して滅菌する方法、電子線を照射して滅菌する方法、オートクレーブにより滅菌する方法、アルコールにより滅菌する方法、エチレンオキサイドガスにより滅菌する方法等が挙げられる。
【0052】
このような細胞転写基材としては、一般的な細胞培養基板の基材として用いることが可能なものを用いることができる。具体的には、ガラスや金属、シリコン等の無機材料、およびプラスチックに代表される有機材料等を用いることができる。これは、培養条件等により適宜選択されるものであるが、本発明においては、なかでも、有機材料からなるものが好ましい。上記有機材料は、成形性に優れ、かつ柔軟性等の調整が容易であることから、例えば、上記細胞転写基材を、柔軟性の高いものとすることにより、上記細胞転写基材からなる細胞転写膜についても柔軟性を有する膜とすることで、曲面を有する生体組織等の被転写体にも、パターンおよび機能を維持したまま細胞を転写することを可能とする等、種々の用途に用いることが容易であるからである。
【0053】
このような有機材料としては可撓性や透明性等、上記細胞転写基材を用いた上記細胞転写膜に必要とされる機能に基づき適宜選択され、例えば、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリプロピレン共重合体、テフロン(登録商標)やエチレン−テトラフロオロエチレン共重合体等のフッ素樹脂、ポリカーボネート、アセタール樹脂、ポリサルフォン、ポリ塩化ビニル、シリコーン樹脂、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、ポリイミド、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、コラーゲン、エラスチン等の生体吸収性高分子等を用いることができる。また、不織布や織布等も用いることができる。
【0054】
本発明において、上記有機材料としてポリエステルなどの高分子基材を用いる場合において、上記細胞転写基材は、上記細胞転写層との密着性を向上させるために中間層を設けてもよい。上記中間層は、上記細胞転写基材および細胞転写層と接着し細胞転写層を均一に設けることができれば特に限定されないが、極性高分子や金属酸化物であることが好ましい。上記極性高分子としては、例えばポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリリジン等を挙げることができる。上記金属酸化物としては、例えばケイ素系酸化物、チタン系酸化物、アルミ系酸化物、りん酸化物等を挙げることができる。これら金属酸化物層は有機物やフッ化物を含んでいても良い。
【0055】
このような中間層の成膜方法は、ロールコート、ダイコート、ビードコートなどの湿式コーティング法、スパッタ、PVD(physical vapor deposition)、CVD(chemical vapor deposition)、プラズマなどの乾式コーティング法を好適に用いることができる。
【0056】
本発明に用いられる細胞転写基材は、微細な多孔質構造であることが好ましい。上記細胞転写基材が、微細な多孔質構造であることにより上記細胞転写層に接着した細胞は、上記細胞転写膜の細胞転写層が形成されていない面側から、所望の機能を得るのに必要な因子等の供給を受けることができる。これにより、例えば上皮細胞のように、細胞の表裏で機能の異なる細胞を培養することが可能となるからである。
【0057】
このような微細な多孔質構造である細胞転写基材は、細胞転写層上に培養された細胞を転写する前に、フィーダー細胞を用いて共培養する必要がある場合等に特に有用である。またこの場合、細胞転写操作時に、培養液や酸素が全ての細胞に均一に行き渡るという効果もある。この場合、孔の平均の大きさは細胞の種類に依存するが、通常0.1μm〜5μmであることが好ましく、特に0.2μm〜1.5μmであることがさらに好ましい。孔の大きさが0.1μm未満だと栄養や液性因子などの培養細胞への供給効率が悪くなるからである。また孔の大きさが5μmを超えると孔の中や細胞転写基材の裏面まで培養細胞が接着する割合が増し、培養細胞を効率良く転写できなくなるからである。
【0058】
ここで、上述した細胞転写基材の厚みは、選択する材料によって異なるが、1μm〜250μmの範囲が好ましく、なかでも5μm〜200μmの範囲であることが好ましい。上記細胞転写基材の厚みが、上記範囲より薄い場合には、柔軟性が非常に高いため、強度が不足し、簡単に裂けたり破れたりする場合があるなど、取り扱いが非常に難しくなるからである。また上記範囲より厚みが厚い場合には、柔軟性が不足することから、細胞転写用部材上に培養された細胞を転写する際、被転写物との密着性が悪くなる場合があるからである。
【0059】
また、例えば図3に示すように、上記細胞転写基材1は細胞転写層2が形成されるパターン状に凹部や凸部が形成されたものであってもよい。この場合、上記凸部上にのみ、もしくは凹部上にのみ細胞転写層を形成して高精細なパターン状に細胞を培養し、転写することが可能となる。このような凹部や凸部の幅としては、通常10μm〜500μm程度、中でも20μm〜200μm程度とすることができる。また、上記凹部や凸部の高さとしては、0.1μm〜100μm程度、中でも0.2μm〜20μm程度とすることができる。本発明において上記細胞転写基材の凹凸を上記範囲に規定したのは、上記範囲より大きいと、上記細胞転写基材の凹部の厚みが薄くなりすぎることにより強度が不足し、簡単に裂けたり破れたりする場合があるからである。
【0060】
(3)細胞転写膜
本発明に用いられる細胞転写膜は、上記細胞転写基材と、上記細胞転写基材の片面に形成された細胞転写層とからなるものである。
【0061】
上記細胞転写膜は、上記細胞転写基材、および細胞転写層を有するものであれば、特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜他の層を有していてもよく、例えば上記細胞転写層上に細胞転写補助層等が形成されているもの等とすることができる。以下、本発明に用いられる細胞転写補助層について説明する。
【0062】
(細胞転写補助層)
上記細胞転写補助層としては、細胞転写層上に形成されるものであり、この細胞転写補助層上に細胞が接着されることとなる。このような細胞転写補助層は、細胞転写補助層上で細胞を培養した後、細胞を転写する際、細胞と一緒に被転写体側に少なくとも一部が一緒に転写される。本発明においては、このような細胞転写補助層が形成されていることにより、より効率よく細胞を被転写体上に転写させることが可能となるのである。このような細胞転写補助層としては、被転写体側に影響を及ぼさないものが選択され、例えばコラーゲン等のポリペプチドや、ヒアルロン酸等の多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アルギン酸、ポリビニルアルコール、ポリリジン等が挙げられる。また上記細胞転写補助層中には、カルシウムイオンやマグネシウムイオン等の金属イオンが含まれていてもよい。
【0063】
本発明において、上記細胞転写膜の形状およびサイズは、特に限定されるものではなく、本発明の細胞転写用部材の用途に応じて選択することができる。
【0064】
2.固定部
次に、本発明の細胞転写用部材に用いられる固定部について説明する。本発明に用いられる固定部は、上記細胞転写膜を固定し、細胞培養時において、上記細胞転写膜の平坦性を維持するものであり、細胞培養容器からの取り出しの際に、上記細胞転写膜を、変形・破断を起こすことなく取り出すことができるものであれば、特に限定されるものではない。
【0065】
このような固定部としては、図4に示すように、上記細胞転写膜の上記細胞転写層が形成されていない面側に接続したリング状のもの、図5に示すように上記細胞転写膜の上記細胞転写層が形成されていない面側に張り合わせたシート状のもの、図6に示すように、固定部4を、上側固定部8と下側固定部9とからなる分割可能な部材とし、上記上側固定部8と上記下側固定部9との間に上記細胞転写膜3を配置し、上記上側固定部8と上記下側固定部9を嵌め合わせることで、上記細胞転写膜3を固定するものなどが挙げられる。また、上記上側固定部と上記下側固定部とからなる分割可能な固定部としては、図7に示すように、リング状の上側固定部8と下側固定部9との隙間に上記細胞転写膜3を巻き込むように固定するものとしてもよい。本発明においては、なかでも、図4に示すような上記細胞転写膜の上記細胞転写層が形成されていない面側に接続したリング状のものが好ましい。細胞転写時において、被転写体に損傷を与えることなく転写を行うことができるからであり、また上記細胞転写層上で培養する細胞に、上記細胞転写膜の上記細胞転写層が形成されていない面側から、細胞に必要な因子等を供給することが容易である、上記細胞転写膜が柔軟性を有している場合には、上記柔軟性を損なうことなく上記細胞転写膜を固定することができる、といった利点があるからである。
【0066】
本発明において、図4に示すような固定部の上記細胞転写膜の固定方法は、上記細胞転写膜と上記固定部を積層したものを加熱圧着して固定する方法や、接着剤を介して固定する方法が挙げられる。本発明においては、細胞を培養する部材であることを考慮して、加熱圧着して固定する方法が好ましい。また接着剤を使用する際には、細胞への影響がない成分からなることが好ましい。
【0067】
このような固定部に用いられる材料としては、上記「1.細胞転写膜」の項に記載した、細胞転写基材と同様のものを用いることができるため、ここでの説明は省略する。
【0068】
3.把持部
次に、本発明の細胞転写用部材に用いられる把持部について説明する。本発明に用いられる把持部は、上記細胞転写膜を固定する固定部に接続し、かつ上記細胞転写膜の上記細胞転写層が形成されていない面側に配置されたものであり、上記細胞転写層上で培養した細胞を、上記把持部を把持して転写することが可能なものであれば、特に限定されるものではない。
【0069】
このような把持部としては、上記固定部との接続位置が、図8に示すように上記細胞転写膜を上記固定部により固定してなる膜固定物20の上記細胞転写層が形成されていない面側である固定部面21であるものや、図9に示すように上記固定部の上記固定部面と垂直な面である固定部側面22であるものを挙げることができる。
また、上記把持部5の配置は、図8に示すように、上記固定部の全周に配置した円錐台状のものや、離間した柱状の把持部を用いるものが挙げられる。離間した柱状の把持部の一例を示す概略図を図10に示す。図10(a)に示すように上記離間した柱状の把持部は、上記固定部に接続し、上記細胞転写膜の上記細胞転写層が形成されていない面側に配置したものである。図10(b)は図10(a)の矢視断面を示す概略断面図であり、上記細胞転写膜と上記固定部が円形であり、かつ上記離間した柱状の把持部が4本配置された場合を示すものである。本発明の細胞転写用部材を用いた細胞培養時の安定性のために、上記離間した柱状の把持部は、3本以上からなることが好ましい。また、上記把持部は、上記把持部が上記離間した柱状である場合において、図11に示すように、収束部30に接続したものであってもよい。本発明の細胞転写用部材のサイズによっては、転写の際に上記離間した柱状の把持部が上記収束部に接続していることにより、より安定的に把持することができるからである。上記収束部の数は、上記離間した柱状の把持部の数より少ない数であれば、特に限定されない。本発明において、上記収束部の数は、取り扱い性の観点から1乃至2本が好ましい。
【0070】
本発明における、上記把持部と上記固定部との接続位置、および上記把持部の配置は、培養条件等に応じて適宜組み合わせて用いることができる。本発明においては、上記把持部と上記固定部との接続位置を、上記固定部の上記固定部面とするのが好ましい。転写時において被転写体に損傷を与える可能性を小さくすることができるからである。また本発明においては、上記把持部の配置を、図8に示すような、上記固定部の全周に配置した円錐台状のものとすることが好ましい。培養容器上に上記本発明の細胞転写用部材を配置し、細胞を培養する場合において、上記細胞転写用部材の安定性を良好なものとするからである。この場合、上記把持部5と上記固定部の固定部面21とがなす角度23が、45°〜135°の範囲が好ましく、特に65°〜115°の範囲が好ましい。本発明において、上記把持部と上記固定部の固定部面とがなす角度を上記範囲とするのは、上記範囲より小さいと細胞培養時の、上記細胞転写用部材の安定性が低下し、上記範囲より大きいと、転写の際に、上記把持部の把持が困難となるからである。
【0071】
また、本発明に用いられる把持部は、上記把持部が図8に示すような上記固定部の全周に配置した円錐台状のものである場合において、側面に孔を配置したものであってもよい。上記転写用部材の細胞転写層上において培養される細胞に、所望の機能を得るのに必要な因子等を産生させる目的で、培養容器の底面においてフィーダー細胞を培養する場合において、培養容器の底面で培養するフィーダー細胞への、栄養分の補給、培地の交換が容易となったり、培養容器の底面で培養するフィーダー細胞に産生させた因子等を、上記細胞転写層上で培養する細胞へ、上記細胞の上記細胞転写層と接着している面側からだけでなく、上記細胞転写層と接着していない面側からも供給することができるからである。また、上記把持部の孔の有無、孔のサイズ等については特に限定されるものではなく、本発明の細胞転写用部材の用途等に応じて選択することができる。
【0072】
本発明に用いられる把持部は、上記固定部と脱着可能であることが好ましい。上記把持部が上記固定部と脱着可能であることにより、例えば、上記細胞転写層において培養した細胞を、生体組織等の被転写体に転写する場合において、転写が完了するまでガーゼその他滅菌された保護素材で被覆することがあるが、そのような際に、上記把持部を脱着可能としておくことで、上記保護素材での被覆の障害とならないものとするからである。
【0073】
このような脱着可能とする方法としては、上記固定部と上記把持部の接続部に粘着剤を塗布しておく方法や、上記固定部に配置した孔に上記把持部の一端を挿入することにより固定する、嵌め込み式とする方法が挙げられる。本発明においては、細胞転写用の細胞を培養する部材であることから、嵌め込み式とすることにより脱着可能とすることが好ましい。また粘着剤を使用する際には、細胞への影響がない成分からなることが好ましい。
【0074】
本発明に用いられる把持部の材料としては、上記「1.細胞転写膜」の項に記載した、細胞転写基材と同様のものを用いることができるため、ここでの説明は省略する。
【0075】
4.細胞転写用部材
本発明の細胞転写用部材は、片面に細胞転写層を有する細胞転写基材からなる細胞転写膜と、細胞培養時において、上記細胞転写膜の平坦性を維持する固定部と、上記固定部に接続し、かつ上記細胞転写膜の上記細胞転写層が形成されていない面側に配置された把持部と、を有するものであれば、特に限定されるものではない。
【0076】
本発明の細胞転写用部材は、上記細胞転写層上で培養された細胞を、加工のために別の培養基板上に移し変えたり、上記細胞を生体組織等の被転写体に転写することに用いられることとなる。
【0077】
B.細胞転写キット
次に、本発明の細胞転写キットについて説明する。本発明の細胞転写キットは、上記本発明の細胞転写用部材と、培養プレートと、からなる細胞転写キットであって、上記細胞転写膜が上記培養プレート内壁と接触することがないことを特徴とするものである。
【0078】
本発明によれば、上記本発明の細胞転写用部材の上記細胞転写膜と、上記培養プレート内壁とが接触しないことにより、上記細胞転写膜の上記細胞転写層上において細胞を、振動等がない安定な条件下で培養することができる。また上記細胞転写層上と上記培養プレートの内壁とで細胞を培養する場合においては、上記細胞転写層上で培養する細胞に、上記培養プレートの内壁で培養する細胞がコンタミネーションすることなく、上記細胞転写層上、および上記培養プレート内壁において細胞を共培養することができる。
【0079】
本発明の細胞転写キットは、細胞転写用部材と培養プレートとからなるものである。以下、本発明の細胞転写キットの各構成について詳細に説明する。
【0080】
1.細胞転写用部材
まず、本発明に用いられる細胞転写用部材について説明する。本発明に用いられる細胞転写用部材については、上記「A.細胞転写用部材」の項に記載したものと同様の内容であるので、ここでの説明は省略する。
【0081】
2.培養プレート
次に、本発明に用いられる培養プレートについて説明する。本発明に用いられる培養プレートは、上記細胞転写膜と、上記培養プレート内壁とが接触することがないものであれば、特に限定されるものではない。このような培養プレートとしては、上記培養プレートが、上記細胞転写膜と上記培養プレート内壁とが接触しない状態で、上記細胞転写用部材を固定可能なものとするものが挙げられる。
【0082】
本発明において、上記培養プレートが、上記細胞転写用部材を固定する固定方法は、特に限定されるものではないが、接着剤を用いる方法や、上記培養プレートに配置した孔に上記細胞転写用部材の上記把持部の片端を挿入することにより固定する、嵌め込み式とする方法が挙げられる。本発明においては、細胞転写に用いる細胞を培養するものであることを考慮して、嵌め込み式等の方法が好ましい。このような培養プレートとしては、例えば、図12に示すように、上記細胞転写用部材10の把持部5の一端を挿入することで固定可能とする底面凹部42を備えた培養プレート41を挙げることができる。
【0083】
また、本発明において、上記培養プレートが上記細胞転写用部材を固定可能とすることにより、上記細胞転写膜と上記培養プレート内壁とを接触しないものとした場合には、上記細胞転写用部材の上記細胞転写層上において、不要な振動を与えることなく細胞を培養することができ、さらに、上記細胞転写用部材上、および上記培養プレート底面上の両方で細胞を培養する際に、上記細胞転写用部材が上記培養プレート底面上を移動しないことにより、上記培養プレート底面上の細胞に損傷を与えることなく、上記細胞転写用部材上、および上記培養プレート底面上で細胞を共培養することができる。
【0084】
本発明においては、上記培養プレートが、上記細胞転写用部材を2個以上挿入可能なものとしてもよい。このように上記培養プレートを、上記細胞転写用部材を2個以上挿入可能なものとすることは、例えば、2種類以上の細胞種を互いにコンタミネーションすることなく共培養することが必要な場合において有用である。
【0085】
本発明において、上記培養プレートに用いられる材料としては、一般的な細胞培養基板の基材として使用されるものを用いることができる。具体的には、ガラスや金属、シリコン等の無機材料、およびプラスチックで代表される有機材料等を用いることができ、必要に応じて、上記培養プレートの底面に、表面処理を施しても良い。このような表面処理としては、上述した「A.細胞転写用部材」の項に記載した、細胞転写性を有する層や、生理活性物質を有する層を形成するもの等が挙げられる。
【0086】
3.細胞転写キット
本発明の細胞転写キットは、細胞転写用部材と培養プレートとからなるものであれば、特に限定されるものではない。このような細胞転写キットとしては、例えば、既に説明した、図12に示すように、本発明の細胞転写キット40が、上記本発明の細胞転写用部材10と、上記細胞転写用部材10を固定可能な底面凹部42を備えた培養プレート41と、からなるものを挙げることができる。また、本発明の細胞転写キットは、上記細胞転写用部材の上記細胞転写層が、上記培養プレートの底面と対向するように固定するものであってもよい。このような細胞転写キットとしては、図13に示すように、上記細胞転写用部材10の上記把持部5と上記培養プレート41の内壁に設けられた壁面凹部43とを、嵌め合わせることで固定するものが挙げられる。本発明においては、上記細胞転写層と上記培養プレートの底面とを対向させるものとするか、対向させないものとするかは、目的とする細胞培養条件等によって適宜選択されるものであり、特に限定するものではない。
【0087】
C.細胞の培養方法
次に、本発明の細胞の培養方法について説明する。本発明は、上記本発明の細胞転写用部材を用いることを特徴とするものである。本発明によれば、上記本発明の細胞転写用部材を用いることにより、上記細胞転写膜の上記細胞転写層の形成されていない面が細胞培養容器の内壁と接触することなく、上記細胞転写層上において細胞を培養することができる。これにより上記細胞転写膜の上記細胞転写層が形成されていない面側から、細胞が所望の機能を得るのに必要な因子等を供給しながら、細胞を培養することができる。したがって、例えば上皮細胞のように、細胞の表裏で機能の異なる細胞を培養することが可能となる。また、上記細胞転写用具を用いることで、培養した細胞を、生体組織等の被転写体に転写することを容易にすることができる。
【0088】
本発明の細胞の培養方法は、上記本発明の細胞転写用部材を用いて細胞を培養するものであれば、特に限定されるものではない。このような細胞の培養方法としては、細胞培養プレートに細胞転写用部材を挿入し、細胞培養用部材とする細胞培養用部材準備工程と、上記細胞培養用部材の上記細胞転写層に細胞を播種し、接着させ、上記細胞を培養する細胞培養工程と、からなるものを挙げることができる。以下、これらの各工程について説明する。
【0089】
1.細胞培養用部材準備工程
まず、本発明における細胞培養用部材準備工程について説明する。本工程は、細胞転写用部材を細胞培養プレートに挿入し細胞培養用部材とする工程である。本工程に用いられる細胞転写用部材としては、上記本発明の細胞転写用部材を用いるものである。上記本発明の細胞転写用部材については、上述した「A.細胞転写用部材」の項に記載したものと同様の内容であるので、ここでの説明は省略する。
【0090】
本工程に用いられる細胞培養プレートは、一般的な細胞培養プレートを用いることができ、特に限定されるものではない。本発明においては、なかでも、上述した「B.細胞転写キット」の項に記載した培養プレートを最も好ましく用いることができる。上記細胞培養プレートに挿入する細胞転写用部材が上記本発明の細胞転写用部材であるため、上記細胞培養プレートとして、上記本発明の細胞転写キットに用いられた上記細胞転写用部材を固定可能な培養プレートを用いることで、上記細胞転写用部材の上記細胞転写膜が上記細胞培養プレート内壁と接触することなく、上記細胞培養層上において細胞を培養することができる細胞培養用部材とすることができるからである。
【0091】
また、本工程に用いられる細胞培養プレートは、上記細胞培養プレートの底面に表面処理を施しても良い。このような表面処理としては、上述した「A.細胞転写用部材」の項に記載した、細胞転写性を有する層や、生理活性物質を有する層を形成するもの等が挙げられる。
【0092】
本工程において、上記細胞転写用部材を上記細胞培養プレートに挿入する方法としては、上記細胞転写用部材と上記細胞培養プレートを、公知の方法で滅菌した後、挿入するものであれば、特に限定されるものではない。公知の滅菌方法としては、例えばγ線を照射して滅菌する方法、紫外光を照射して滅菌する方法、電子線を照射して滅菌する方法、オートクレーブにより滅菌する方法、エチレンオキサイドガスで滅菌する方法、アルコールで滅菌する方法等が挙げられる。本発明においては、上記細胞転写用部材の上記細胞転写層を上記細胞培養プレートの底面と対向させるように配置してもよく、配置しなくてもよい。本工程における挿入方法は、本発明に用いられる細胞培養条件に応じて適宜選択されるものである。
【0093】
2.細胞培養工程
次に、本発明における細胞培養工程について説明する。本工程は、上記細胞培養用部材の上記細胞転写層上に細胞を播種し、細胞を接着させ、培養する工程である。
【0094】
このような細胞の播種方法としては、例えば細胞を培養可能な培地を上述した「1.細胞培養部材準備工程」において準備した細胞培養用部材に添加した後、上記培地上に細胞を播種する方法が挙げられる。
【0095】
本工程において、上記細胞転写層上に播種し、接着させ、培養する細胞としては、血球系細胞やリンパ系細胞などの浮遊細胞でもよく、また接着性細胞でもよい。本工程においては、特に接着性を有する細胞であることが好ましい。このような接着性を有する細胞としては、例えば、肝臓の実質細胞である肝細胞、血管内皮細胞、繊維芽細胞、表皮角化細胞などの表皮細胞、気管上皮細胞、消化管上皮細胞、子宮頸部上皮細胞、水晶体上皮細胞などの上皮細胞、乳腺細胞、平滑筋細胞や心筋細胞などの筋細胞、腎細胞、膵ランゲルハンス島細胞、末梢神経細胞や視神経細胞などの神経細胞、軟骨細胞、骨細胞などが挙げられる。またこれらの細胞は、組織や器官から直接採取した初代細胞でもよく、あるいは、それらを何代か継代させたものでもよい。また株化された細胞でもよい。さらにこれら細胞は、未分化細胞であるES細胞、多分化能を有する多能性幹細胞、単分化能を有する単能性幹細胞、分化が終了した細胞の何れであっても良い。また、細胞は単一種を培養してもよいし二種以上の細胞を共培養したものであってもよい。
【0096】
本工程においては、上記細胞培養用部材の上記細胞培養プレートの底面に、フィーダー細胞を播種し、培養してもよい。上記細胞培養プレートの底面においてフィーダー細胞を培養することで、上記細胞培養用部材の上記細胞転写層上において培養する細胞に必要な因子等を、産生させることができるためである。
【0097】
本工程においては、細胞転写層上で効率よく細胞培養するために、上記細胞転写層表面に細胞が接着するまでの間、細胞転写層を細胞転写層と密着し適当な高さを有するリング状の囲いで囲ってもよい。囲いの形状は特に限定されないが、O−リング状が好ましい。このような囲いの材質としては、公知の方法で滅菌できるものであれば特に限定されないが、例えば、シリコーン樹脂製であることが好ましい。シリコーン樹脂製は、上記細胞転写層に対する密着性がよいからである。また上記囲いの高さは、用いる培地の量に応じて選択することができるが、2mm〜20mmが好ましい。
【0098】
3.細胞の培養方法
本発明の細胞の培養方法は、上記本発明の細胞転写用部材を用いて細胞を培養するものであれば、特に限定されるものではない。本発明において、上記細胞転写層上で培養する細胞に必要な因子等を供給させる目的で、上記細胞培養プレートの底面でフィーダー細胞を培養する場合には、上記細胞転写用部材を上記細胞培養プレートに挿入する前に、上記細胞培養プレートの底面上に、フィーダー細胞の播種、接着、培養をしておいてもよい。先にフィーダー細胞を播種し、接着させておくことで、後述する細胞培養工程において、上記細胞培養用部材の上記細胞転写層上で培養する細胞へのフィーダー細胞のコンタミネーションを防ぐことができるからである。
【0099】
また、本発明において、上記細胞転写用部材と上記細胞培養プレートとを、上記細胞転写層と上記細胞培養プレートの底面とが対向するように挿入する場合には、予め、上述した細胞培養工程において、上記細胞転写層上に細胞を播種し、接着させた後、上記細胞培養用部材準備工程において、上記細胞転写用部材を上記細胞培養プレートに挿入してもよい。上記細胞転写層と上記細胞培養プレートの底面とが対向するように挿入した場合に、上記細胞転写層上に所望の細胞を播種し、接着させ、培養させるのは困難だからである。
【0100】
本発明においては、細胞転写層上で効率よく細胞培養するために、上記細胞転写層表面に細胞が接着するまでの間、細胞転写層を細胞転写層と密着し適当な高さを有するリング状の囲いで囲ってもよい。囲いの形状は特に限定されないが、O−リング状が好ましい。このような囲いの材質としては、公知の方法で滅菌できるものであれば特に限定されないが、例えば、シリコーン樹脂製であることが好ましい。シリコーン樹脂製は、上記細胞転写層に対する密着性がよいからである。また上記囲いの高さは、用いる培地の量に応じて選択することができるが、2mm〜20mmが好ましい。
【0101】
D.細胞転写用具
次に、本発明の細胞転写用具について説明する。本発明の細胞転写用具は、上記本発明の細胞培養用部材の細胞転写層上に細胞が接着していることを特徴とするものである。
【0102】
本発明の細胞転写用具について図を参照しながら説明する。図14は、本発明の細胞転写用具の一例を示す概略断面図である。図14に示すように、上記本発明の細胞転写用具60は、上記本発明の細胞転写用部材10と、上記細胞転写用部材10の細胞転写層2上において培養された細胞50と、からなるものである。
【0103】
本発明によれば、上記細胞転写層が平坦性を維持するように固定されていることから、この細胞転写層上において安定に培養することができ、また培養された細胞は、転写時においては、パターンや機能を損なうことなく転写することができる。したがって、細胞の培養パターン、および機能を維持した状態で転写することができる細胞転写用具とすることができる。
【0104】
本発明の細胞転写用具は、上記本発明の細胞転写用部材と、細胞とからなるものである。以下、本発明の細胞転写用具の各構成について詳細に説明する。
【0105】
1.細胞転写用部材
本発明に用いられる細胞転写用部材については、上記「A.細胞転写用部材」の項に記載したものと同様の内容であるので、ここでの説明は省略する。
【0106】
2.細胞
本発明に用いられる細胞としては、上記「C.細胞の培養方法」の項において記載したものと同様のものを用いることができるため、ここでの説明は省略する。
【0107】
3.細胞転写用具
本発明の細胞転写用具は、上記本発明の細胞転写用部材、および上記細胞転写用部材の細胞転写層上に細胞を有するものであれば、特に限定されるものではない。本発明の細胞転写用具の製造方法としては、上記「C.細胞の培養方法」に記載したものと同様のものを用いることができるため、ここでの説明は省略する。
【0108】
本発明の細胞転写用具は、上記細胞転写用部材の細胞転写層上で培養された細胞を、加工のために別の培養基板上に移し変えたり、上記細胞を生体組織等の被転写体に転写する際に用いられることとなる。
【0109】
E.細胞組織の製造方法
本発明の細胞組織の製造方法は、上記本発明の細胞転写用具を用いることを特徴するものである。本発明によれば、上記細胞転写用具を用いることにより、細胞の培養パターン、及び機能を維持した状態で転写することができるため、種々の機能を持った細胞を組み合わせた細胞組織を製造することができる。したがって、例えば、細胞組織としての機能を維持するためには、血管等により、必要な栄養分の供給や、老廃物の排出等が必要になるが、血管をパターン培養した細胞を転写し、血管網を張り巡らせた細胞組織を構築することにより、人工的に構築した細胞組織でありながら、恒常的に機能を維持することが可能な細胞組織とすることができる。
【0110】
本発明は、上記本発明の細胞転写用具を用いて、細胞組織を製造する方法であれば、特に限定されるものではない。このような方法としては、上記細胞転写用具を製造する細胞転写用具製造工程と、上記細胞転写用具上において培養された細胞を被転写体へと転写する転写工程からなるものを挙げることができる。以下、これらの各工程について説明する。
【0111】
1.細胞転写用具製造工程
本発明における細胞転写用具製造工程は、上記本発明の細胞転写用具を製造するものである。このような方法としては上記「D.細胞転写用具」の項において記載したものと同様の内容であるため、ここでの説明は省略する。
【0112】
2.転写工程
本発明における転写工程は、上記細胞転写用具上の細胞を、被転写体の被転写先細胞に転写させる工程である。本工程においては、上記細胞転写用具上の細胞を、被転写体の被転写先細胞に転写させることができるものであれば、特に限定されるものではない。このような工程としては、例えば、図15(a)に示すように、上記細胞転写用具製造工程において製造された細胞転写用具60と、被転写先細胞培養基材71、および上記被転写先細胞培養基材71上において培養した被転写先細胞72からなる被転写体70とを、上記細胞転写用具60の細胞50と上記被転写先細胞72とが対向するように配置した後、図15(b)に示すように、上記細胞50と上記被転写先細胞72とを接触させ、両者を培養可能な培地を加え、共培養する。次いで、図15(c)に示すように、上記細胞転写用部材10を剥がすことにより、上記被転写体70を、上記被転写先細胞72上に上記細胞50が接着した細胞組織体73を有する被転写体80とする工程を挙げることができる。本工程において、上記共培養の条件は、上記細胞転写用具の細胞、被転写体の被転写先細胞の条件等により、適宜選択させるものである。
【0113】
本工程に用いられる被転写体としては、特に限定されるものではなく、一般的な培養容器上において培養された細胞でもよく、上記本発明の細胞転写用部材上で培養された細胞でもよい。また、生体組織や臓器でもよい。上記被転写体は目的とする細胞組織に応じて、適宜選択するものである。また上記被転写体の被転写先細胞としては、平面上のものに限らず、立体的な形状を持った細胞塊であってもよい。
【0114】
本工程に用いられる細胞としては、上記「C.細胞の培養方法」の項において記載したものと同様のものを用いることができるため、ここでの説明は省略する。
【0115】
なお、本発明の細胞組織の製造に用いられる細胞としては、1種類に限定されるものではなく、複数種類の細胞を組み合わせて用いられるものであってもよい。
【0116】
3.細胞組織の製造方法
本発明は、上記本発明の細胞転写用具を用いて、細胞組織を製造する方法であれば、特に限定されるものではない。本発明においては、上記細胞転写用具上の細胞を、被転写体の被転写先細胞に転写し、細胞組織としたり、またその細胞組織を有する被転写体に対して、上記細胞転写用具の細胞を転写する作業を複数回行うことにより、より高度な機能を有する細胞組織とすることもできる。
【0117】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0118】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
【0119】
[実施例1]
1.細胞転写用部材の準備
(1)中間層の形成
細胞転写基材は厚み10μmの多孔質なポリエステルフィルムを使用した。フィルムサイズ25mmφ、ポアサイズ0.4μm、ポア密度1.6×10個/cm、水接触角65°であった。これをCVDチャンバー内に設置し、ヘキサメチルジシロキサン、酸素ガス、ヘリウムガスをそれぞれ所定量投入した。その際の真空度を30MPaに制御した。これにより、プラズマ気相成長法(CVD法)による酸化珪素系薄膜(中間層)を厚さ約100nmで形成した。
【0120】
(2)細胞転写層の形成
次いで、CVD処理を施したフィルムをペンタフルオロフェニルプロピルトリメトキシシラン0.2ccを含むテフロン(登録商標)容器に入れ、容器を密閉し100℃のオーブン内で5時間保持した。上記の方法で得られた細胞転写層の水接触角は120°であった。
【0121】
(3)細胞転写層の露光処理
酸化チタン系光触媒を全面に塗布した5インチ角の石英板の光触媒含有層と、上記細胞転写層とを対向させ、上記石英板側より水銀ランプにより3.5J/cmの照射量で紫外線照射を行った。これにより、上記細胞転写層を構成するペンタフルオロフェニルプロピルトリメトキシシランが酸化分解処理(露光処理)された細胞転写膜を得た。露光処理後における上記細胞転写膜の上記細胞転写層の水接触角は15°であった。
【0122】
(4)細胞転写用部材の形成
上記細胞転写膜に取り付ける固定部及び把持部は、ポリスチレンからなるものを使用した。上記の方法で作製した細胞転写膜をオートクレーブ滅菌し、上記固定部及び把持部は70%エタノール滅菌した。上記細胞転写膜と、上記固定部及び把持部との接着に一液型RTVゴム脱オキシムタイプ(信越シリコーン製)を使用し、バイオクリーンベンチ内で図1と同じ構成にした。
【0123】
2.細胞培養
上記細胞転写層をシリコーン樹脂性のO−リングで囲った後、細胞転写用部材を上記細胞転写層が上面となるように、培養プレート内に配置した。次いで、5%血清を含むMEM培地をO−リングが培地に触れる程度にまで培養プレート内に加えた。次いで、予め上記MEM培地に懸濁させたウシ血管内皮細胞(bEC)を5.3×10個/cmになるようO−リング内の細胞転写層上に播種し、37℃、5%COで、16時間培養した。細胞転写層上に細胞がコンフルエントに接着していることを位相差顕微鏡で確認した。これにより上記細胞転写部材の細胞転写層上に細胞が接着した細胞転写用具とした。
【0124】
3.細胞転写
あらかじめ市販の細胞培養用ディッシュ内でコンフルエントになるように培養しておいたマウス由来線維芽細胞シートと、上記細胞転写用部材上の細胞(bEC)とを接触させ、5%FBS(ウシ胎児血清)含有DMEM培地を加え、37℃、5%COでインキュベートした。24時間後に上記細胞転写用部材を除去した後、位相差顕微鏡で観察した結果、上記細胞転写層上に接着していた全ての細胞は、線維芽細胞シート上に転写されていることを確認した。また、上記細胞転写層が形成された細胞転写膜は、上述した細胞培養操作、および細胞転写操作において変形・破断を起こすことはなかった。
【0125】
[実施例2]
1.細胞転写用部材の準備
(1)中間層の形成
細胞転写基材は厚み20μmの多孔質なポリエステルフィルムを使用した。フィルムサイズ25mmφ、ポアサイズ1.0μm、ポア密度1.6×10個/cm、水接触角70°であった。これをCVDチャンバー内に設置し、ヘキサメチルジシロキサン、酸素ガス、ヘリウムガスをそれぞれ所定量投入した。その際の真空度を30MPaに制御した。これにより、プラズマ気相成長法(CVD法)による酸化珪素系薄膜を厚さ約100nmで形成した。
【0126】
(2)細胞転写層の形成
次いで、CVD処理を施したフィルムをペンタフルオロフェニルプロピルトリクロロシラン0.2ccを含むテフロン(登録商標)容器に入れ、容器を密閉し100℃のオーブン内で5時間保持した。上記の方法で得られた細胞転写層の水接触角は115°であった。
【0127】
(3)細胞転写層の露光処理
100μm角の開口部が100μmピッチで均一に配置された碁盤パターンで、且つ、接触角測定用として周囲に幅約1.5cmの開口部を有するフォトマスクに、酸化チタン系光触媒を全面に塗布した5インチ角の露光用フォトマスクを作製した。次いで、上記露光処理用フォトマスクの光触媒含有層と、上記細胞転写層とを対向させ、フォトマスク側から、水銀ランプにより4.0J/cm2の照射量で紫外線照射を行った。これにより、上記細胞転写層を構成するペンタフルオロフェニルプロピルトリメトキシシランが酸化分解処理(露光処理)され、100μm角の細胞接着領域が100μmピッチで均一に配置したパターン状の細胞接着領域を有する細胞転写層が形成された細胞転写膜を得た。また、接触角測定用として上記マスク周囲に形成した幅1.5cmの開口部箇所において表面水接触角を測定したところ、表面水接触角は15°であった。
【0128】
(4)細胞転写用部材の形成
上記露光処理をした細胞転写膜に取り付ける固定部及び把持部は、ポリスチレンからなるものを使用した。上記の方法で作製した細胞転写膜をオートクレーブ滅菌し、上記固定部及び把持部は70%エタノール滅菌した。上記細胞転写膜と、上記固定部及び把持部との接着には、一液型RTVゴム脱オキシムタイプ(信越シリコーン製)を使用し、バイオクリーンベンチ内で図1と同じ構成にした。
【0129】
2.細胞培養
上記細胞転写層をシリコーン樹脂性のO−リングで囲った後、細胞転写用部材を上記細胞転写層が上面となるように、培養プレート内に配置した。Cascade製のMedium 106S(2%FBS&supplement)をO−リングが培地に触れる程度まで加え、同培地に懸濁させた正常ヒト皮膚線維芽細胞(HDFa)を2.0×10個/cmになるようO−リング内の細胞転写層上に播種し、37℃、5%COで、16時間培養した。位相差顕微鏡による観察の結果、細胞転写層の露光処理を受けた箇所にのみ細胞が接着していることを確認した。これにより上記細胞転写部材の細胞転写層上にパターン状に細胞が接着した細胞転写用具を得た。
【0130】
3.細胞転写
ピンセットでO−リングを除去した後、氷冷した成長因子低減マトリゲル(ベクトン・ディッキンソン)200μlをセルスクレイパーを用いて35mmディッシュ(ファルコン)上に広げ、室温で約2分間放置した後、上記細胞転写層上で接着させた細胞(HDFa)を所定時間接触させ5%血清を含むMEM培地を加え、37℃、5%COでインキュベートした。12時間後に細胞転写用部材を除去した後、位相差顕微鏡で確認した結果、上記細胞転写層上に接着していた全ての細胞は、パターンを維持した状態でマトリゲル上に転写されていることを確認した。また、上記パターン状の細胞接着領域を有する細胞転写層が形成された細胞転写膜は上述した細胞培養操作、および細胞転写操作において変形・破断を起こすことはなかった。
【0131】
[実施例3]
1.細胞転写用部材の準備
細胞転写基材として、厚み25μmの豚皮由来I型コラーゲンシートを用い、上記細胞転写基材上に、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を物理吸着させた細胞転写層を有する細胞転写膜を作製した。以下、細胞転写用部材の作製方法を示す。
【0132】
(1)細胞転写用部材の形成
細胞転写基材として用いるコラーゲンシートは、あらかじめ紫外線滅菌処理を施した。次いでポリスチレンからなる固定部及び把持部を、70%エタノール滅菌した。細胞転写基材と固定部及び把持部との接着には、一液型RTVゴム脱オキシムタイプ(信越シリコーン製)を使用し、バイオクリーンベンチ内で図1と同じ構成にした。このようにして作製した細胞転写層形成前の部材の細胞転写層形成面にO−リングを密着させた。
【0133】
(2)細胞転写層の形成
次いで、濃度100ng/mLのフィルタ滅菌済みのVEGFリン酸バッファー溶液を上記O−リングで囲まれた細胞転写基材上に展開し、当該部材を密閉容器内に配置し、室温で2時間保持した。これにより細胞転写層としてVEGF吸着層が形成された細胞転写膜からなる細胞転写用部材を得た。
【0134】
2.細胞培養
O−リングを配置したままの上記細胞転写用部材を培養プレート内に配置し、VEGF溶液を吸引除去した後、速やかに、クラボウ製のHuMedia-EG2(2%FBS&supplement)をO−リングが培地に触れる程度まで加え、同培地に懸濁させた正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を5.3×10個/cmになるようO−リング内の細胞転写層上に播種し、37℃、5%COで、16時間培養した。細胞転写層に細胞がコンフルエントに接着していることを位相差顕微鏡で確認した。
【0135】
3.細胞転写
ピンセットでO−リングを除去した後、氷冷した成長因子低減マトリゲル(ベクトン・ディッキンソン)200μlをセルスクレイパーを用いて35mmディッシュ(ファルコン)上に広げ、室温で約2分間放置した後、上記細胞転写層上で接着させた細胞(HUVEC)を接触させHuMedia-EG2(2%FBS&supplement)を加え、37℃、5%COでインキュベートした。12時間後に細胞転写用部材を除去した後、位相差顕微鏡で確認した結果、上記細胞転写層上に接着していた全ての細胞は、マトリゲル上に転写されていることを確認した。また上記細胞転写基材としてコラーゲンシートを用いた細胞転写膜は上述した細胞培養操作、および細胞転写操作において変形・破断を起こすことはなかった。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本発明の細胞転写用部材の一例を示す概略図である。
【図2】本発明に用いられる細胞転写膜の一例を示す概略図である。
【図3】本発明に用いられる細胞転写膜の他の例を示す概略図である。
【図4】本発明に用いられる固定部の一例を示す概略図である
【図5】本発明に用いられる固定部の他の例を示す概略図である
【図6】本発明に用いられる固定部の他の例を示す概略断である
【図7】本発明に用いられる固定部の他の例を示す概略図である
【図8】本発明に用いられる把持部の一例を示す概略図である。
【図9】本発明に用いられる把持部の他の例を示す概略図である。
【図10】本発明に用いられる把持部の他の例を示す概略図である。
【図11】本発明に用いられる収束部の一例を示す概略図である。
【図12】本発明の細胞転写キットの一例を示す概略図である。
【図13】本発明の細胞転写キットの他の例を示す概略図である。
【図14】本発明の細胞転写用具の一例を示す概略図である。
【図15】本発明の細胞組織の製造方法の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0137】
1 … 細胞転写基材
2 … 細胞転写層
3 … 細胞転写膜
4 … 固定部
5 … 把持部
6 … 細胞接着領域
7 … 細胞接着阻害領域
8 … 上側固定部
9 … 下側固定部
10 … 細胞転写用部材
30 … 収束部
40 … 細胞転写キット
41 … 培養プレート
42 … 底面凹部
43 … 壁面凹部
50 … 細胞
60 … 細胞転写用具
70、80 … 被転写体
71 … 被転写先細胞培養基材
72 … 被転写先細胞
73 … 細胞組織体
【出願人】 【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
【出願日】 平成18年8月11日(2006.8.11)
【代理人】 【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦

【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人


【公開番号】 特開2008−43239(P2008−43239A)
【公開日】 平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願番号】 特願2006−220686(P2006−220686)