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【発明の名称】 顕微観察用微小培養器
【発明者】 【氏名】四方 哲也

【氏名】一ノ瀬 純也

【氏名】柏木 明子

【氏名】松本 由多加

【要約】 【課題】細胞を収容する空間周囲を確実に密封することが可能であるとともに、熟練を要することなく製造可能であって、且つ、細胞収容空間の寸法精度が非常に高い微小培養器の提供。

【構成】アクリルアミドゲルで覆われたメンブレンフィルタと、該メンブレンフィルタの下方に配される光透過性の基板と、前記メンブレンフィルタの上面を押圧する押圧部材を備え、前記基板が前記アクリルアミドゲルを介して前記メンブレンフィルタに密着することを特徴とする細胞培養器である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルアミドゲルで覆われたメンブレンフィルタと、
該メンブレンフィルタの下方に配される光透過性の基板と、
前記メンブレンフィルタの上面を押圧する押圧部材を備え、
前記基板が前記アクリルアミドゲルを介して前記メンブレンフィルタに密着することを特徴とする細胞培養器。
【請求項2】
前記基板と前記メンブレンフィルタの間の前記アクリルアミドゲルからなる層にチャンバが形成され、
該チャンバ内に観察対象物が収容されることを特徴とする請求項1記載の細胞培養器。
【請求項3】
前記チャンバの厚さが前記アクリルアミドゲルからなる層の厚さより小さいことを特徴とする請求項2記載の細胞培養器。
【請求項4】
前記アクリルアミドゲルからなる層に形成されるチャンバが、
所望のチャンバの形状を有する少なくとも1つの微小構造物を有する面上に、未硬化アクリルアミドゲルを含有する前記メンブレンフィルタを積層することにより形成されることを特徴とする請求項2記載の細胞培養器。
【請求項5】
前記微小構造物が、光造形法、フォトリソグラフィ、切削加工、レーザ加工、放電加工、サンドブラスト加工、FIB加工からなる群から選択される加工方法により形成されることを特徴とする請求項4記載の細胞培養器。
【請求項6】
前記押圧部材が、該押圧部材下面に形成される流路と、該流路に連通する供給口及び排出口を備え、
該供給口から前記押圧部材下面に形成される流路に培養液が供給されることを特徴とする請求項1記載の細胞培養器。
【請求項7】
前記メンブレンフィルタが光透過性であることを特徴とする請求項1記載の細胞培養器。
【請求項8】
前記基板が光学的に透明であることを特徴とする請求項1記載の細胞培養器。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を培養し、観察するための微小培養器であって、より詳しくは、単一の細胞或いは単一の細胞から得られた細胞群を長期にわたって観察、培養可能な微小培養器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生物学、医学及び薬学等の分野において、細胞を取扱い、これらの状態の変化や薬物等に対する応答特性は、細胞集団から得られる特性値の平均値を、一細胞の特性として取扱うことが一般的であった。
しかしながら、細胞集団を構成するそれぞれの細胞の周期が同調していることは、ほとんどなく、それぞれの細胞が異なった周期で蛋白質を発現している。
【0003】
このような課題を解決するために、同調培養の手法が開発されてきている。この手法によれば、細胞集団の個々の細胞の周期を同調可能であるが、培養された細胞の由来が全く同一の一細胞ではないことから、培養前の由来細胞それぞれの遺伝子の相違が蛋白質発現の違いを生み出すものとなる。
このことは、細胞応答の差異の原因の特定を困難とするものである。
【0004】
特許文献1は、上記問題を解決すべく、一細胞を長期にわたって培養し、培養された細胞を観察可能な装置を提案している。図9は、特許文献1に開示される装置のうち、細胞が培養される部分を示す図である。
特許文献1の装置が備える培養部(100)は、複数の凹部(102)を備える基板(101)と、基板(101)上に配され、凹部(102)周囲をシールするメンブレンフィルタ(103)と、メンブレンフィルタ(103)上方に閉空間を形成する培養容器(104)と、該培養容器(104)内部に連通する上流側チューブ(105)と下流側チューブ(106)からなる。
【0005】
凹部(102)内部には、細胞が配される。メンブレンフィルタ(103)は、凹部(102)内の細胞の通過を防ぐ一方で、培養液の通過を可能とする性質を備える。
上流側チューブ(105)から新鮮な培養液が培養容器(104)内部に一次的に収容される。そして、培養容器(104)内部の供給された新鮮な培養液は、古くなった凹部(102)内の培養液とメンブレンフィルタ(103)を介して交換される。古くなった培養液は、凹部(102)からメンブレンフィルタ(103)を介して、培養容器(104)内部に至り、その後、下流側チューブ(106)を介して排出される。
このような構造をもって、特許文献1は、凹部(102)内の細胞に新鮮な培養液を常時供給することを可能にし、長期的な細胞培養を可能としている。
【0006】
図10は、図9に示すメンブレンフィルタ(103)の凹部(102)周囲へのシール状態を示す模式図である。図9において、メンブレンフィルタ(103)には、セルロース膜が用いられ、基板(101)にはガラスが用いられている。
メンブレンフィルタ(103)と基板(101)の間において、メンブレンフィルタ(103)の−OH基が部分的に−CHO基に変換される。この変換部分をアミノ基が修飾されたビオチンと−(CO)−NH−結合させる。このようにして、メンブレンフィルタ(103)表面にビオチン(107)が修飾された状態を作り出す。
【0007】
ガラス基板(101)の表面には、シランカップリング剤によりアミノ基が表面に修飾される。その後、−CHO基を備えるビオチンと反応させることで、メンブレンフィルタ(103)と同様に、基板(101)表面にビオチン(107)を修飾する。
その後、アビジン(108)を添加し、ビオチン−アビチン結合で、基板(101)とメンブレンフィルタ(103)とを接続させる。
【0008】
上記のようなビオチン−アビチン結合によるシール構造は、シールの確実性の面で課題を残している。
例えば、図11に示すような基板(101)に対して、メンブレンフィルタ(103)でシールする形態を考える。
図11に示す基板(101)は、複数の凹部(102)が行列状に配され、凹部(102)は細溝(109)により接続されている。図10に示すようなビオチン−アビチン結合では、メンブレンフィルタ(103)とガラス基板(101)との距離が化学結合を形成するために十分接近する必要があるが、メンブレンフィルタ(103)の表面の−CHO基に変換される−OH基は、均一に存在しているものと考えられるものの、メンブレンフィルタ(103)は網の目構造をしているため、化学結合を生じるために有効な距離にまで近づけない部分も存在する。このため、複数の凹部(102)すべてを均一に密閉する確実性には乏しく、図11に示すような基板(101)の凹部(102)或いは細溝(109)の周囲全てを確実にシールすることは困難である。したがって、ビオチン−アビチン結合が好適になされず、シールが不十分な箇所を備える凹部(102)では、十分な密閉状態である部分は限られてしまい、長期培養するための培地交換に伴い細胞も流れ出てしまう。
【0009】
このような基板上に形成された凹部の密閉に係る問題を解決する手段として、凹部をゲル体で覆う手法が考えられる。
特許文献2は、基板に形成された凹部を密閉する手段としてではないが、アガロースゲル層に細胞収容用の凹部を形成し、このアガロースゲル層をセルロース膜上に載置する形態を開示する。
特許文献2のアガロースゲル層を基板上に配設することで、上記の凹部の密閉性の問題を解決できると考えられる。
【0010】
【特許文献1】特開2002−153260号公報
【特許文献2】特開2006−115723号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図12は、特許文献2に開示される細胞培養用のマイクロチャンバの製造形態を示す。
図12に示すマイクロチャンバ(110)は、ガラス基板(111)及びガラス基板(111)上面に載置される平板状の構造体(112)を備える。構造体(112)には、流路等が形成されている(図示せず)。更に、マイクロチャンバ(110)は、構造体(112)上面に配されるセルロース膜(113)を備え、セルロース膜(113)上にはプラスチック薄板(114)が積層される。プラスチック薄板(114)中央部には、六角形状の開口部が形成され、この開口部内にアガロースゲル層(115)が形成される。
【0012】
図12中には、アガロースゲル層(115)にウェル(119)を形成するためのレーザ光照射システム(116)と、レーザ光が照射されるマイクロニードル(117)が示される。更には、レーザ光照射システム(116)とマイクロニードル(117)による加工状態を観察するための撮像システム(118)が示されている。
レーザ光照射システム(116)からマイクロニードル(117)先端にレーザ光が照射されると、マイクロニードル(117)が加熱し、アガロースゲル層(115)を溶解させる。
そして、マイクロニードル(117)を移動させながら、ウェル(119)を形成する。また、この加工は撮像システム(118)による監視の下、慎重に行われる。
【0013】
上記の製造方法は、マイクロニードル(117)の操作に相当の熟練を要し、要求される加工精度を得るのに相当の熟練を要する。特に、アガロースゲル層(115)の厚さよりも浅いウェル(119)を形成する場合には、ウェル(119)深さ方向の寸法精度を高めることは困難である。
【0014】
他の問題点としてアガロースゲル層(115)の機械的強度が低い点が挙げられる。
アガロースゲル層(115)で基板に形成された凹部を密閉する場合、アガロースゲル層(115)と基板を密着させるために力を負荷する必要がある。この負荷される力が強すぎると、アガロースゲル層(115)が崩れ、もはや良好な空間構造を保つことができなくなる。
【0015】
本発明は上記実情を鑑みてなされたものであって、細胞を収容する空間周囲を確実に密封することが可能であるとともに、熟練を要することなく製造可能であって、且つ、細胞収容空間の寸法精度が非常に高い微小培養器を提供することを目的とする。また、取扱い容易な微小培養器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1記載の発明は、アクリルアミドゲルで覆われたメンブレンフィルタと、該メンブレンフィルタの下方に配される光透過性の基板と、前記メンブレンフィルタの上面を押圧する押圧部材を備え、前記基板が前記アクリルアミドゲルを介して前記メンブレンフィルタに密着することを特徴とする細胞培養器である。
請求項2記載の発明は、前記基板と前記メンブレンフィルタの間の前記アクリルアミドゲルからなる層にチャンバが形成され、該チャンバ内に観察対象物が収容されることを特徴とする請求項1記載の細胞培養器である。
請求項3記載の発明は、前記チャンバの厚さが前記アクリルアミドゲルからなる層の厚さより小さいことを特徴とする請求項2記載の細胞培養器である。
請求項4記載の発明は、前記アクリルアミドゲルからなる層に形成されるチャンバが、所望のチャンバの形状を有する少なくとも1つの微小構造物を有する面上に、未硬化アクリルアミドゲルを含有する前記メンブレンフィルタを積層することにより形成されることを特徴とする請求項2記載の細胞培養器である。
請求項5記載の発明は、前記微小構造物が、光造形法、フォトリソグラフィ、切削加工、レーザ加工、放電加工、サンドブラスト加工、FIB加工からなる群から選択される加工方法により形成されることを特徴とする請求項4記載の細胞培養器である。
請求項6記載の発明は、前記押圧部材が、該押圧部材下面に形成される流路と、該流路に連通する供給口及び排出口を備え、該供給口から前記押圧部材下面に形成される流路に培養液が供給されることを特徴とする請求項1記載の細胞培養器である。
請求項7記載の発明は、前記メンブレンフィルタが光透過性であることを特徴とする請求項1記載の細胞培養器である。
請求項8記載の発明は、前記基板が光学的に透明であることを特徴とする請求項1記載の細胞培養器である。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の発明によれば、基板上に配設された観察対象物をアクリルアミドゲルで覆うこととなり、観察対象物を確実に顕微鏡視野内に収めることが可能となるとともに観察対象物の動きを阻害するために押圧部材で押圧してもアクリルアミドゲル層が崩れることがなく、取扱い容易な細胞培養器となる。
例えば、観察対象物が大腸菌等の数ミクロン程度の微生物である場合、観察対象物が動き回りながら細胞分裂を繰り返すこととなる。本発明においては、上述の如く、アクリルアミドゲルによって観察対象物の移動を防ぐことが可能であるので、分裂後の細胞を容易に特定することが可能となる。
更に、アクリルアミドゲル層が液透過性であるので、培養液をゲル層内部に通過させることが可能となり、高い液交換効率を達成することができる。
請求項2乃至4記載の発明によれば、メンブレンフィルタと基板間の層がアクリルアミドゲルからなるので、この基板と密着するアクリルアミドゲル層の表面に形成されるチャンバの寸法精度を高めることが可能となる。
即ち、アクリルアミドゲル層の表面にチャンバを作製する方法としてチャンバ形状の型となる微小構造物を備える基板上に硬化前のアクリルアミドゲルを含ませたメンブレンフィルタを積層し、アクリルアミドゲル層が硬化した後、メンブレンフィルタを足場としたアクリルアミドゲル層をメンブレンフィルタと共に引き剥がすことで、アクリルアミドゲル層の表面にチャンバを簡便に形成可能となる。硬化したアクリルアミドゲル層は、高い機械的強度を備えるため、微小構造物を備える基板からチャンバが形成されたアクリルアミドゲル層をメンブレンフィルタと共に引き剥がすときにアクリルアミドゲル層が破損することがない。また、チャンバの深さ(厚さ)方向の高い寸法精度を得ることが可能となる。
請求項5記載の発明によれば、高い寸法精度の微小構造物を形成することができ、これに伴い、高い寸法精度のチャンバを形成可能となる。
請求項6記載の発明によれば、アクリルアミドゲルからなる層が押圧部材による押圧力により崩れることがないので、流路から培養液が漏れることがない。
請求項7記載の発明によれば、透過光を妨げることなく観察を行うことが可能となる。
請求項8記載の発明によれば、基板を介して細胞培養の様子を観察可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る微小容器の製造方法並びに微小容器の実施形態について、図を参照しつつ説明する。
図1は、微小培養器(1)の展開斜視図である。
微小培養器(1)は、メンブレンフィルタ(2)と、メンブレンフィルタ(2)下面と接着する基板(3)と、メンブレンフィルタ(2)上面を押圧する押圧部材(4)からなる。
図1に示す例において、押圧部材(4)は、円板状の第1部材(41)と、環状の第2部材(42)から構成され、第1部材(41)がメンブレンフィルタ(2)上面に直接載置され、第1部材(41)上面に第2部材(42)が載置される。
【0019】
基板(3)の下方には、ベースプレート(900)が配される。ベースプレート(900)は、その中央に開口部(901)を備える。開口部(901)周囲には、ベースプレート(900)上面より窪んだ位置に環状の座ぐり面(902)が形成されている。
座ぐり面(902)上に環状の第1パッキン材(903)が配される。第1パッキン材(903)上に基板(3)が載置される。更に、基板(3)上面には環状の第2パッキン材(904)が配される。そして、第2パッキン材(904)上にミドルプレート(910)が配される。
ミドルプレート(910)中央には、開口部(911)が形成される。また、ミドルプレート(910)下面には、下方へ突出する環状の突出平面(912)が形成される。突出平面(912)は開口部(911)を取り囲む。
第2パッキン材(904)上面は、ミドルプレート(910)下面に形成される突出平面(912)と当接する。
このようにして基板(3)は、ベースプレート(900)とミドルプレート(910)との間で挟持される。
【0020】
メンブレンフィルタ(2)は、ミドルプレート(910)の開口部(911)よりも小径に形成され、開口部(911)内部に収容される。メンブレンフィルタ(2)上面に円板状の第1部材(41)が載置される。第1部材(41)は、メンブレンフィルタ(2)と略等しい径を有し、メンブレンフィルタ(2)全面が、基板(3)と第1部材(41)との間で挟持される。
第1部材(41)は、メンブレンフィルタ(2)に接する下面に貫通穴を通じて液を流すための流路(412)と、流路(412)への液を供給排出するための貫通穴(411)を備えている。
【0021】
第1部材(41)の上面は平坦に形成され、第1部材(41)上に第2部材(42)が載置される。第2部材(42)は、第1部材(41)と略同径の外径を備える本体部(421)と、本体部(421)上面から上方に突出する筒状の供給口(422)と排出口(423)を備える。
供給口(422)上端を始端とする供給路は、第1部材(41)が備える一対の貫通穴(411)のうち一方と連通する。そして、他方の貫通穴(411)下端を始点とする排出路は、排出口(423)に繋がる。液は、第1部材(41)底面の流路(412)を通じて流れる。これにより、メンブレンフィルタ(2)と基板(3)との間で狭持された細胞等の生体試料に対して、メンブレンフィルタ(2)を介して液交換がなされ、細胞等の生体試料に培地の供給と老廃物の除去がなされる。
上記説明は、第1部材(41)に貫通穴(411)と流路(412)が形成されて、液交換される場合であるが、図3(c)に関連して後述するように、第1部材(41)の中央部に開口穴を設け、その開口穴に液を溜めておくことで、メンブレンフィルタ(2)を通じて細胞等の生体試料に培地を供給する形でもよい。
【0022】
第2部材(42)上には、トッププレート(920)が配される。トッププレート(920)は中央に開口部(921)を有する。また、トッププレート(920)は、トッププレート(920)下面から窪んだ環状の肩部(922)を備え、肩部(922)は開口部(921)を取り囲み且つ開口部(921)に隣接して配される。肩部(922)は、第2部材(42)の本体部(421)上面周縁部並びに周面部と当接する。また、第2部材(42)の供給口(422)と排出口(423)は、開口部(921)を通り、トッププレート(920)上面に対して上方に突出する。
【0023】
ミドルプレート(910)はベースプレート(900)とボルトで連結され、基板(3)が保持される。これによって、基板(3)が第1パッキン材(903)と第2パッキン材(904)との間で保持される力は、ミドルプレート(910)とベースプレート(900)とを連結する力で調整することが可能となる。
一方、トッププレート(920)は、ミドルプレートを介さずにベースプレート(900)とボルトで連結される。これにより、メンブレンフィルタ(2)及び押圧部材(4)を基板(3)へ押付ける下方への力が、ミドルプレート(910)とベースプレート(900)とを連結する力と独立して、ベースプレート(900)とトッププレート(920)とをボルトで連結する力を増減させることで調整可能となる。
【0024】
図2は、図1に示す微小培養器(1)の組立図である。
図2に示す如く、基板(3)は、ベースプレート(900)とミドルプレート(910)との間で、パッキン材(903,904)を介して挟持される。そして、基板(3)上にメンブレンフィルタ(2)及び押圧部材(4)が載置される。押圧部材(4)の第2部材(42)が、トッププレート(920)により下方に押されることで、メンブレンフィルタ(2)が基板(3)上面に密着され、押圧部材(4)がメンブレンフィルタ(2)上面に密着する。
【0025】
上述のように組み立てられた微小培養器(1)は、顕微鏡等の観察装置に設置される。図2においては、微小培養器(1)の上方に観察に用いられる光源(930)が配される。また、微小培養器(1)の下方に観察に用いられるレンズ(940)が配される。
基板(3)は光透過性材料で形成される。このような基板(3)としては、カバーガラス等が好適に使用可能である。また、メンブレンフィルタ(2)及び押圧部材(4)は観察するための透過光を妨げない可視光を透過する部材であればよい。
したがって、光源(930)からの光は、メンブレンフィルタ(2)、押圧部材(4)及び基板(3)を通過して、レンズ(940)へ至る。レンズ(940)は、微小培養器(1)中の光の通過により得られる像を捕捉する。
【0026】
供給口(422)からは、培養液が供給される。培養液は、その後、押圧部材(4)の第1部材(41)の下面に形成された流路(412)を通り、メンブレンフィルタ(2)の上面を通過する。このとき、培養液の一部が基板(3)上面で広がることとなるが、第2パッキン材(904)に堰き止められる。また万一、第2パッキン材(904)から液漏れが生じた場合でも、第1パッキン材(903)にて堰き止められる。
これにより、微小培養器(1)からの培養液の漏出を防止できる。
培養液の漏出は、周囲の実験環境を汚染する原因となる。更に、培養液が観察対象の菌を含む場合があり、培養液の漏出は実験環境の衛生を損なうものである。上述のように、本発明に係る微小培養器(1)は、完全に培養液の漏出を防止するので、衛生的な実験環境を提供することを可能とする。
【0027】
図3は、上記微小培養器(1)の使用形態の一例を示す部分拡大図である。
図3(a)は、メンブレンフィルタ(2)の平面図である。
メンブレンフィルタ(2)は、複数の液透過用細孔(21)を備える。液透過用細孔(21)は、メンブレンフィルタ(2)を貫通し、メンブレンフィルタ(2)全面にわたって分布している。メンブレンフィルタ(2)は、観察を容易にするために光学的に可視光を通す部材であればよい。
メンブレンフィルタ(2)外面(上面、下面並びに周面)に、アクリルアミドからなるゲル層(22)が形成される。ゲル層(22)は、ゲル層(22)を構成するアクリルアミドゲルを、硬化前に液透過用細孔(21)内部まで浸潤させて硬化させることにより形成される。アクリルアミドゲルは、液透過性である。
ゲル層(22)は、基板(3)上面に密着する。
【0028】
図3(b)は、上記微小培養器(1)の部分断面拡大図である。
基板(3)上面とメンブレンフィルタ(2)との間には大腸菌等の観察対象物(V)が狭持される。
大腸菌は、長径で約1μm、短径で約0.5μmと大変小さいため、わずかな隙間で逃げ出してしまう。本発明において、ゲル層(22)が大腸菌等の微小な観察対象物(V)を覆うことにより、観察対象物(V)周囲の隙間の発生を防止することができ、観察対象物(V)の移動を防ぐことが可能となる。
尚、ゲル層(22)による観察対象物(V)の被覆は、大腸菌等の観察対象物(V)の分裂や培地を介しての栄養分の取り込み等の生体活動を妨げることはない。したがって、本発明は、同一の非常に小さな大腸菌等の観察対象物(V)の観察に好適に使用可能である。
【0029】
メンブレンフィルタ(2)上面は、ゲル層(22)を介して、第1部材(41)下面の流路(412)内の液と接する。また、流路(412)以外の領域では、直接、第1部材(41)の下面がゲル層(22)に接着する。メンブレンフィルタ(2)下面は、基板(3)にゲル層(22)を介して接着する。
供給口(422)から流入した培養液は、第1部材(41)下面の流路(412)中を左方から右方へ流れている。そして、培養液はメンブレンフィルタ(2)の液透過用細孔(21)を上下に通過する。
他の一例として図3(c)に示すように、流路(412)の代わりに、第1部材(41)の中央部に開口穴(413)を設け、その開口穴(413)に液を溜め、ゲル層(22)を介して、観察対象物(V)に培地を供給する形でもよい。
【0030】
図4は、他の使用形態の例を示す部分拡大断面図である。
図4(a)は、基板(3)と接着するゲル層(22)にチャンバ(221)を形成した例である。
チャンバ(221)の厚さはゲル層(22)の厚さよりも薄く形成される。
チャンバ(221)内には、観察対象物(V)が配される。チャンバ(221)はゲル層(22)下面において開口している。チャンバ(221)の開口部周縁輪郭は、ゲル層(22)により構成されるので、チャンバ(221)周縁は、ゲル層(22)と基板(3)により完全に密閉される。
したがって、培養液がゲル層(22)並びにチャンバ(221)を通過しても、チャンバ(221)内部の観察対象物(V)が微小培養器(1)から漏れ出ることがない。チャンバ(221)を形成することによって、大腸菌等の微生物よりも大きな動物細胞や植物細胞を閉じ込めておくことができ、液交換を行っても細胞の位置が変わることなく長時間の観察を行なうことができる。
【0031】
図4(b)は、基板(3)と接着するゲル層(22)に流路(222)を形成した例である。
流路(222)内において観察対象物(V)を送液することができる。流路(222)はゲル層(22)下面において開口している。流路(222)の開口部周縁輪郭はゲル層(22)により構成されるので、流路(222)はゲル層(22)と基板(3)により完全に密閉される。
したがって、培養液がゲル層(22)並びに流路(222)を通過しても、流路(222)内部の観察対象物(V)が微小培養器(1)から漏れ出ることがない。
【0032】
図5は、ゲル層(22)下面に形成した流路(222)の使用形態の一例を示す。図5(a)は、メンブレン(2)の平面図であり、図5(b)は、図5(a)に示すA−A線における断面図である。
ゲル層(22)には、別途一対の貫通穴(223)を形成する。また、第1部材(41)には、ゲル層(22)上面の第1部材(41)の流路への供給口(422)とは別に、追加の貫通穴を設ける。そして、この追加の貫通穴を介して、ゲル層(22)に形成された貫通穴(223)へ観察対象物(V)を導入する。
ゲル層(22)下面には、一対の貫通穴(223)を接続するように流路(222)が形成され、流路(222)はゲル層(22)下面を蛇行して延設している。
流路(222)の幅は、観察対象物(V)の最大径より僅かに大きく形成される。流路(222)の周縁輪郭はゲル層(22)により構成され、密着しているため、観察対象物(V)は流路(222)の経路に沿って、もう一方の貫通穴(223)に向かって流れる。
貫通穴(223)から観察対象物(V)が懸濁された培養液を少量ずつ流路(222)へ流入させる。流路(222)に流入した観察対象物(V)は成長・分裂等をしつつ、下流へ向かって流される。したがって、流路(222)上流側では、成長或いは分裂初期の観察対象物(V)が観察されることとなり、流路(222)下流側では、成長或いは分裂が進んだ観察対象物(V)が観察されることとなる。
これにより、1つの観察領域の中で観察対象物(V)の成長・分裂過程が明瞭に現され、例えば同時に子供の状態の細胞から成長が終わった細胞までを同時に一回で観察することが可能となる。
【0033】
尚、チャンバ(221)及び流路(222)は、基板(3)に設けることも可能である。
図6は、その使用形態の例を示す部分拡大図である。図6(a)は、基板(3)にチャンバ(221)を形成した例を示す。
チャンバ(221)は、基板(3)上面において開口しており、チャンバ(221)の開口部周縁輪郭はゲル層(22)によって完全に密閉され、チャンバ(221)内に配された観察対象物(V)は閉じ込められて出ることができない。
その一方で、ゲル層(22)を介して培地を観察対象物(V)へ供給することが可能であり、長期間の培養と観察が実現できる。
図6(b)は、基板(3)に流路(222)を形成した例である。ゲル層(22)に流路(222)を形成した場合と同様に観察対象物(V)に対して好適な生息環境を維持しつつ、長期間の観察と細胞における世代間同時観察が可能となる。
【0034】
図7は、ゲル層(22)表面のチャンバ(221)若しくは流路(222)を有する微小培養器(1)の製造方法の一例を示すフローチャートである。その工程は、型形成工程、ゲル層形成工程、引抜工程、張合工程からなる。
【0035】
以下、順を追って、各工程について説明する。
図7(a)は、型形成工程により作製された型の一例である。
平坦な基板(5)上にチャンバ(221)及び流路(222)の型となるミクロンオーダーの構造物(51)を形成する。この構造物(51)の加工方法としては、光造形法、フォトリソグラフィ、放電加工、ウエットエッチング、ドライエッチング、切削加工、レーザ加工、サンドブラスト加工、FIB(Focused Ion Beam)加工などが例示できる。
これらの方法を用いることによってミクロンオーダーの構造物(51)を作製し、構造物(51)は、チャンバ(221)或いは流路(222)の型として用いられる。
【0036】
図7(b)は、ゲル層(22)形成工程の一例である。
表面に微小構造物(51)が形成された基板(5)の上に、硬化する前のアクリルアミドゲルを十分にしみこませたメンブレンフィルタ(2)を載置する。この時、予め、未硬化のアクリルアミドゲルを基板(5)表面に垂らしておき、アクリルアミドゲルをしみこませたメンブレンフィルタ(2)を載置することにより、微小構造体(51)とメンブレンフィルタ(2)との間が隙間無くゲル化される。
また、ゲル層(22)がアクリルアミドゲルからなるので、メンブレンフィルタ(2)上面をガラス板等の平坦な面を持つもので上から押さえつけることにより、ゲル層(22)が破損することなく、空気中の酸素がアクリルアミドゲルの重合を阻害するのを防ぐことができる。
このガラス板等とメンブレンフィルタ(2)とを重ね合わせた状態で、一定時間静置することによって、アクリルアミドゲルがメンブレンフィルタ(2)にしみこんだ状態のまま、硬化する。この結果、硬化後のゲル層(22)表面には、型であるチャンバ(221)若しくは流路(222)の形状に応じた構造が形成される。
【0037】
図7(c)は、引抜工程の一例である。
型となる基板(5)表面から硬化したゲル層(22)を含むメンブレンフィルタ(2)を剥がす。メンブレンフィルタ(2)は、硬化したゲル層(22)の土台となるため、引抜操作においてアクリルアミドゲルが型となる基板に残ってしまうことを防止するとともに薄いゲル層(22)の取扱いを容易にする。また、ゲル層(22)がアクリルアミドゲルからなるので、薄いゲル層(22)であっても、この引き剥がし工程の際に、ゲル層(22)が破損することがない。
【0038】
図7(d)は、張合工程の一例である。
引抜工程を経て得られる硬化したゲル層(22)を含むメンブレンフィルタ(2)は透明な基板(3)上に載置されることで、ゲル層(22)に形成されたチャンバ(221)や流路(222)が密閉される。またチャンバ(221)や流路(222)は、ゲル層(22)を介して液交換可能である。
【0039】
ゲル層(22)下面にチャンバ(221)を形成した場合において、ゲル層(22)に形成されたチャンバ(221)内に観察対象物(V)を収容するためには、まず、観察対象物(V)を含有する液を、予め、基板(3)上に滴下する。その後、ゲル層(22)下面にチャンバ(221)を有するメンブレンフィルタ(2)を載置することで、密閉したチャンバ(221)内に観察対象物(V)を含んだ状態となる。ゲル層(22)を介して液交換が可能であるため、長期間の培養と位置を特定した培養が可能となる。
この時、余分な水分を取り除くことで、容器に入りきらなかった観察対象物(V)を取り除くことが可能となるとともにチャンバ(221)の密閉度が向上する。
【0040】
ゲル層(22)下面に流路(222)を形成する場合には、流路(222)へ通ずる貫通穴をメンブレンフィルタ(2)並びにゲル層(22)に形成することが好ましい。これにより、基板(3)上にメンブレンフィルタ(2)を載置し、基板(3)上の密閉状態の流路(222)内に観察対象物(V)を容易に導入可能となる。また、この形成された貫通穴を介して、この流路(222)へ液を供給並びに排出することが可能となる。
【0041】
図8は、基板(5)表面にチャンバ(221)若しくは流路(222)を有する微小培養器(1)の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図8に示す微小培養器(1)の製造工程は、基板(3)表面にチャンバ(221)若しくは流路(222)を形成する工程と、メンブレンフィルタ(2)に未硬化のアクリルアミドゲルを十分含ませた状態で硬化させ、ゲル層(22)を形成する工程と、基板(3)とメンブレンフィルタ(2)との張合工程からなる。
【0042】
図8(a)及び(b)は、基板(3)表面にチャンバ(221)若しくは流路(222)を作製する工程の一例を示す。
基板(3)表面上にチャンバ(221)若しくは流路(222)を作製する微細加工の方法としては、光造形法、フォトリソグラフィ、放電加工、ウエットエッチング、ドライエッチング、切削加工、レーザ加工、サンドブラスト加工、FIB(Focused Ion Beam)加工などが例示できる。
これらの方法を用いることによって、ミクロンオーダーでチャンバ(221)若しくは流路(222)を形成できる。
【0043】
図8(c)及び(d)はゲル層(22)形成工程の一例を示す。
硬化する前のアクリルアミドゲルを十分しみこませたメンブレンフィルタ(2)を平坦な基板(50)上に静置させ、アクリルアミドゲルを硬化させる。
また、ゲル層(22)がアクリルアミドゲルからなるので、メンブレンフィルタ(2)上面をガラス板等の平坦な面を持つもので上から押さえつけることにより、ゲル層(22)が破損することなく、空気中の酸素がアクリルアミドゲルの重合を阻害するのを防ぐことができる。
このガラス板等とメンブレンフィルタ(2)とを重ね合わせた状態で、一定時間静置することによって、アクリルアミドゲルがメンブレンフィルタ(2)にしみこんだ状態のまま、硬化する。この結果、硬化後のアクリルアミドゲルの表面は、平坦な基板(5)の表面と同様の平坦な面が形成される。
【0044】
図8(e)は、チャンバ(221)若しくは流路(222)が形成された基板(3)上にゲル層(22)を含むメンブレンフィルタ(2)を載置することで、チャンバ(221)或いは流路(222)が密閉される。
チャンバ(221)或いは流路(222)は、ゲル層(22)を介して液交換可能である。
【0045】
基板(3)上面にチャンバ(221)を形成した場合において、基板(3)に形成されたチャンバ(221)内に観察対象物(V)を収容するためには、まず、観察対象物(V)を含有する液を、予め、基板(3)上に滴下する。その後、ゲル層(22)を含むメンブレンフィルタ(2)を載置することで、密閉したチャンバ(221)内に観察対象物(V)を含んだ状態となる。ゲル層(22)を介して液交換が可能であるため、長期間の培養と位置を特定した培養が可能となる。
この時、余分な水分を取り除くことで、容器に入りきらなかった観察対象物(V)を取り除くことが可能となるとともにチャンバ(221)の密閉度が向上する。
【0046】
基板(3)上面に流路(222)を形成する場合には、流路(222)へ通ずる貫通穴をメンブレンフィルタ(2)並びにゲル層(22)に形成することが好ましい。これにより、基板(3)上にメンブレンフィルタ(2)を載置し、基板(3)上の密閉状態の流路(222)内に観察対象物(V)を容易に導入可能となる。また、この形成された貫通穴を介して、この流路(222)へ液を供給並びに排出することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、単数細胞或いは単数細胞に由来する細胞群を長期的に培養可能な培養容器に好適に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る微小培養器の分解斜視図である。
【図2】本発明に係る微小培養器の組立断面図である。
【図3】本発明に係る微小培養器のメンブレンフィルタ及び使用形態の一例を示す図である。
【図4】本発明に係る微小培養器の使用形態の一例を示す図である。
【図5】本発明に係る微小培養器のゲル層を含むメンブレンフィルタの底面図であり、使用形態の一例を示す図である。
【図6】本発明に係る微小培養器の微小培養器の一実施形態を示す図である。
【図7】本発明に係る微小培養器の製造方法のフローチャートである。
【図8】本発明に係る微小培養器の製造方法のフローチャートである。
【図9】従来の細胞培養容器を示す図である。
【図10】従来の細胞培養容器の基板に対する接着構造を示す図である。
【図11】従来の細胞培養容器を示す図である。
【図12】従来の細胞培養容器を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1・・・・・微小培養器
2・・・・・メンブレンフィルタ
21・・・・液透過用細孔
22・・・・ゲル層
221・・・チャンバ
222・・・流路
3・・・・・基板
4・・・・・押圧部材
41・・・・第1部材
411・・・貫通穴
412・・・流路
42・・・・第2部材
421・・・第2部材本体部
422・・・供給口
423・・・排出口
900・・・ベースプレート
901・・・開口部
902・・・座ぐり面
903・・・第1パッキン材
904・・・第2パッキン材
910・・・ミドルプレート
911・・・開口部
912・・・突起平面
920・・・トッププレート
921・・・開口部
922・・・肩部
930・・・光源
940・・・レンズ
【出願人】 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
【出願日】 平成18年8月4日(2006.8.4)
【代理人】 【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博


【公開番号】 特開2008−35777(P2008−35777A)
【公開日】 平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願番号】 特願2006−213935(P2006−213935)