トップ :: C 化学 冶金 :: C12 生化学;ビ−ル;酒精;ぶどう酒;酢;微生物学;酵素学;突然変異または遺伝子工学

【発明の名称】 温度応答性基材および細胞
【発明者】 【氏名】近藤 哲司

【氏名】宮野 敦子

【氏名】成瀬 恵寛

【要約】 【課題】

【構成】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維の数平均直径が1nm〜50μmで単繊維の繊維長が0.2mm〜30mmである短繊維の集合体からなる繊維構造体と温度応答性高分子化合物を含み、水溶液中で温度応答性高分子化合物の下限臨界溶解温度より高い温度から下限臨界溶解温度より低い温度にすることによりその構造が崩壊することを特徴とする温度応答性基材。
【請求項2】
短繊維が、単繊維の数平均直径1nm〜500nmのナノファイバーであることを特徴とする請求項1記載の温度応答性基材。
【請求項3】
直径が500nmより大きい単繊維の繊維構成比率が、3重量%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の温度応答性基材。
【請求項4】
短繊維が、有機系ポリマーからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の温度応答性基材。
【請求項5】
温度応答性高分子化合物が、下限臨界溶解温度より高い温度で水に対して不溶性であり、下限臨界溶解温度より低い温度で水に対して溶解性をもつことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の温度応答性基材。
【請求項6】
温度応答性高分子化合物が、ポリN置換アクリルアミドであることを特徴とする請求項5記載の温度応答性基材。
【請求項7】
温度応答性高分子化合物の含量が、繊維構造体の重量に対して1〜20重量%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の温度応答性基材。
【請求項8】
溶媒に短繊維の集合体を分散させた分散液に温度応答性高分子化合物を添加し、該溶媒を除去して形成されたものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の温度応答性基材。
【請求項9】
繊維構造体を構成する短繊維表面に温度応答性高分子化合物が被覆されてなることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の温度応答性基材。
【請求項10】
繊維構造体が、薄層状、紙状、不織布状またはスポンジ状のものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の温度応答性基材。
【請求項11】
他の基体上で形成されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の温度応答性基材。
【請求項12】
他の基体上で所定のパターンを形成していることを特徴とする請求項11記載の温度応答性基材。
【請求項13】
表面および/または内部に機能性物質が保持されていることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の温度応答性基材。
【請求項14】
細胞培養および/または組織再生が係わる分野に使用されることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の温度応答性基材。
【請求項15】
請求項14記載の温度応答性基材の表面および/または内部において培養された細胞。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維構造体と温度応答性高分子化合物を含み、温度に応答してその構造を崩壊させる温度応答性基材およびその温度応答性基材を利用した製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、天然繊維および合成繊維などの様々な繊維は、繊維を様々な方法で加工することにより様々な用途に適した機能を有する繊維構造体が作製されてきた。すなわち、繊維が構造体を形成することによるその空間的な配置、物理的な構造および形状により、様々な機能を発現して用途展開を図ることができ、また、そのようにして作製された繊維構造体の表面や内部に機能性物質を保持させることにより、繊維構造体に対して付加的な機能を付与して用途展開を図ることを可能としてきた。
【0003】
また、作製された繊維構造体を外部からの刺激などにより崩壊させることも重要である。例えば、繊維構造体がその構造を形成していることにより発現している機能を停止させたい場合や、繊維構造体の表面や内部に保持されている機能性物質をとりだして回収したい、あるいは外部に放出させたい場合などである。
【0004】
このように繊維構造体を崩壊させたいとき、従来は、例えば、繊維が溶融あるいは分解する温度で熱処理を施したたり、あるいは繊維が溶解するような有機系溶媒で処理することにより繊維自体を変形、変性または消失させて、繊維構造体を崩壊させることが行われていたのが一般的である。しかしながら、このような方法は、一般的に過激な条件であり、まわりに付帯した環境に悪影響を与える可能性があり、あまり好ましい方法ではないとされている。例えば、プラスチック基材の上に繊維構造体を形成させておき、繊維構造体だけを崩壊させたい場合に、上記のような加熱あるいは有機溶媒を用いた過激な処理条件では、基材であるプラスチックにも変形や溶解などの影響を与えてしまう。また、例えば、繊維構造体の内部に保持されていた機能性物質を回収あるいは放出したい場合において、内部に保持された機能性物質が熱に対して弱かったり、有機系の溶媒に対して溶解してしまったりする場合には、機能性物質の機能を保持したまま回収したり、放出したりすることが難しくなってしまう。
【0005】
その一方で、穏和な条件で構造が変化する材料として温度応答性高分子化合物を用いた材料が知られている。例えば、このような温度応答性高分子化合物を用いて細胞培養用材料を作製し、温度変化によりその性質を変化させて細胞の回収を行うことが提案されている(特許文献1および特許文献2参照。)。しかしながら、温度応答性高分子化合物自身で作製された材料はゲル状物となってしまうため、ゲル状物では構造としての強度が弱く、重力を含めたちょっとした外力を与えるだけでその構造が崩れてしまうため任意の形状を保持することが不可能であり、例えば、振とう、遠心および灌流などの外力がかかる条件での使用は不可能であるという問題があった。
【0006】
また、このような温度応答性高分子化合物自体を加工して繊維のような形状を作製することも不可能である。また、これらの特許文献1と2においては、支持体表面に温度応答性高分子化合物を被覆した細胞培養用材料を作製しているが、この材料は温度応答性高分子化合物の性質によって支持体の表面性質のみを変化させるだけであり、支持体自体の構造が崩壊するわけではないため、例えば、その構造を崩壊させて支持体を形成していることにより発現される機能を消失させることは不可能であり、また例えば、支持体の構造自体が複雑な形状場合、その内部に入り込んでしまった細胞を初めとする機能性物質を温度変化により取り出し、回収することも不可能であった。また、作製できる形状に制約があるため、自由な三次元構造を形成することができず、用途も限定されるという欠点があった。すなわち、上記従来の提案では、温度変化などの穏和な条件で構造が変化(崩壊)する材料として、支持体として適度な強度を有し、支持体として形態および形状に自由度があり、空間的な配置による機能発現に優れ、かつ表面や内部に機能性物質を保持できるような支持体を形成できるような材料は存在していなかったため、支持体として適度な強度を持ち、形状・形態の自由度を有し、かつ、温度変化など穏和な条件によりその構造を崩壊できるような材料が求められていた。
【特許文献1】特開平03−026690号公報
【特許文献2】特開平05−192138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の目的は、上記従来技術の欠点を解消せんとするものであり、基材がその機能を果たした後、穏和な条件でその基材の構造を崩壊させることにより、基材が構造を形成していることにより発現していた機能を終結させることができるような材料、あるいは、機能性物質を表面あるいは内部に保持させてさまざまな用途に使用した後、自由にその機能性物質の機能を停止したり、機能性物質を回収したり、外部に放出したりすることができる材料として、基材として適度な強度を有し、かつ自由な構造と形状をとることができ、さらに穏和な条件として温度変化によりその構造を崩壊できる材料としての温度応答性基材を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、上記の温度応答性基材の表面および/または内部において培養された細胞を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の目的を達成するものであり、本発明の温度応答性基材は、単繊維の数平均直径が1nm〜50μmで単繊維の繊維長が0.2mm〜30mmである短繊維の集合体からなる繊維構造体と温度応答性高分子化合物を含み、水溶液中で温度応答性高分子化合物の下限臨界溶解温度より高い温度から下限臨界溶解温度より低い温度にすることによりその構造が崩壊することを特徴とする温度応答性基材である。
【0010】
本発明の温度応答性基材の好ましい態様によれば、前記の短繊維は、単繊維の数平均直径が1nm〜500nmの範囲のナノファイバーであり、また、前記の直径が500nmより大きい短繊維の構成比率は3重量%以下である。
【0011】
本発明の温度応答性基材の好ましい態様によれば、前記の短繊維は有機系ポリマーからなるものである。
【0012】
本発明の温度応答性基材の好ましい態様によれば、前記の温度応答性高分子化合物は、下限臨界溶解温度より高い温度で水に対して不溶性であり、下限臨界溶解温度より低い温度で水に対して溶解性をもつものであり、好適な温度応答性高分子化合物として、ポリN置換アクリルアミドが挙げられる。また、この温度応答性高分子化合物の好適な含量は、繊維構造体の重量に対して1〜20重量%である。
【0013】
本発明の温度応答性基材の好ましい態様によれば、本発明の温度応答性基材は、溶媒に短繊維の集合体を分散させた分散液に温度応答性高分子化合物を添加し、該溶媒を除去して形成されたものである。
【0014】
本発明の温度応答性基材の好ましい態様によれば、本発明の温度応答性基材は繊維構造体を構成する短繊維表面に温度応答性高分子化合物が被覆されてなるものである。
【0015】
本発明の温度応答性基材の好ましい態様によれば、前記の繊維構造体が薄層状、紙状、不織布状またはスポンジ状のものである。
【0016】
本発明の温度応答性基材の好ましい態様によれば、本発明の温度応答性基材は、他の基材上で形成されているものであり、また、他の基材上で所定のパターンを形成しているものであり、また、表面および/または内部に機能性物質が保持されているのである。
【0017】
本発明の温度応答性基材は、細胞培養および/または組織再生が係わる分野に好適であり、その温度応答性基材の表面および/または内部において細胞を培養することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明が提供する単繊維の数平均直径が1nm〜50μmであり、かつ単繊維の繊維長が0.2mm〜30mmである短繊維の集合体からなる繊維構造体と温度応答性高分子化合物を含み、水溶液中において温度応答性高分子化合物の下限臨界溶解温度より高い温度から下限臨界溶解温度より低い温度にすることによりその構造が崩壊することを特徴とする温度応答性基材により、基材がその機能を果たした後、温度変化によりその構造を崩壊させることにより、基材が構造を形成していることにより果たしていた機能を終結させることができるような材料、あるいは、基材の表面あるいは内部に機能性物質を保持させた後、温度変化という穏和な条件変化により、自由にその機能性物質の機能を停止したり、機能性物質を回収したり、外部に放出したりすることができる材料を得ることができる。また温度応答性基材を構成する繊維構造体は、三次元の構造体として適度な強度を有し、かつ自由な構造と形状をとることができる。
本発明では、このような温度応答性基材を提供することができ、表面あるいは内部に保持させる機能性物質を様々に変えることにより、衣料資材、インテリア製品、生活資材、環境・産業資材製品、IT製品、メディカル製品および研究用製品などに使用することができる。特に、この温度応答性基材に機能性物質として医薬品を保持させて使用すれば、温度変化により医薬品を自由に放出できるため、DDS(ドラッグデリバリーシステム)用途として使用することが可能である。また、この温度応答性基材を細胞培養用として使用すれば、細胞培養後に温度変化させることにより基材を崩壊させて、培養した細胞を表面あるいは内部から取り出すことも可能であり、これにより従来は培養が難しかった基材で培養した細胞の回収が容易になり、細胞医療あるいは組織再生に係わる医療、医薬、診断、研究および分析などの分野、特に再生医療や細胞医療のような医療分野へと応用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る温度応答性基材とその製造方法について、望ましい実施の形態と共に詳細に説明する。
【0020】
本発明の温度応答性基材は、単繊維の数平均直径が1nm〜50μmであり、かつ単繊維の繊維長が0.2mm〜30mmである短繊維の集合体からなる繊維構造体と温度応答性高分子化合物を含み、水溶液中で温度応答性高分子化合物の下限臨界溶解温度より高い温度から下限臨界溶解温度より低い温度にすることによりその温度応答性基材の構造が崩壊する温度応答性基材である。ここでいう基材とは、様々な構造をなすことができる加工品を指す。
【0021】
本発明でいうところの「その構造が崩壊する」とは、繊維によって組み立て形づくられた温度応答性基材が全体的あるいは部分的に構造として不安定な状態になり、元の形状を保つことができなくなって構造全体として崩れ、壊れることを指し、例えば、水溶液中において、自重あるいは振とう、遠心、灌流または旋回などをした際に発生する水流などの微力な外力により元の形状が保てなくなるような状態を指す。
【0022】
本発明で使用される温度応答性高分子化合物は、下限臨界溶解温度(LCST=Lower Critical Solution Temperture)(以下、LCSTと称することがある。)を有する高分子化合物であり、その高分子化合物と溶媒を混合した状態において温度を下げていくと、LCSTを境に溶媒に対して不溶性の状態から溶解性の状態に転移する高分子化合物を指す。特に、様々な用途において溶媒としては水が重要であり、溶媒としての水に対してLCSTを有する温度応答性高分子化合物は、温度を下げることによりLCSTを境に脱水和状態から水和状態に転移する高分子化合物であり、LCSTより高い温度では水に対して不溶性であり、LCSTより低い温度では水に対して溶解性である高分子化合物である。LCSTは高分子化合物を溶媒に混合した溶液を用意し、濁度計を用いて光透過率を測定しながら温度を高温から低温に変化させ、光透過率が急激に低下する温度がLCSTである。
【0023】
本件の温度応答性基材においては、繊維構造体と温度応答性高分子化合物を含んでおり、温度応答性高分子化合物が繊維構造体を構成する短繊維表面を被覆するなどの作用効果により、温度応答性高分子化合物が繊維構造体に対し短繊維と短繊維を結合させるバインダーの役割を担い、短繊維が集合体として構成されたその構造を保持することを可能としている。バインダーとして上記のような温度応答性高分子化合物を使用することにより、LCSTより高い温度ではバインダーである温度応答性高分子化合物が水等の溶媒に対して不溶性であるため、バインダーは溶解せず、温度応答性基材を溶媒中に入れても全体として温度応答性基材の構造を保持したままの状態を保つことが可能となる。逆に、LCSTより低い温度ではバインダーである温度応答性高分子化合物が溶媒に対して溶解性となるため、バインダーが溶媒に溶解し易くなり、結果として温度応答性基材をLCSTより低い温度の状態で溶媒中に入れると、自重、振とうあるいはピペッティングなどの微弱な外力により温度応答性基材の構造が簡単に崩壊してしまう。すなわち、本発明の温度応答性基材は、このような作用により全体として構造の崩壊を温度変化のような穏和な条件により制御することが可能となる。上記のことから、本発明においては、繊維構造体の繊維表面に温度応答性高分子化合物が被覆されていることが好ましい。
【0024】
本発明で用いられる繊維構造体を構成する短繊維は、単繊維の数平均直径が1nm〜50μmであることが重要である。単繊維の数平均直径をかかる範囲内にすることにより、構造として繊維が分散し易くなり繊維構造体を作製する際のハンドリングが向上し、任意の形状の繊維構造体を得やすくなるという利点がある。また、単繊維の数平均直径が50μmを超えると温度応答性高分子化合物のバインダー効果による温度応答性基材の構造保持が難しくなる。
この単繊維の数平均直径は1nm〜10μmであることが好ましく、より好ましくは1〜500nmであり、さらに好ましくは1〜200nmであり、最も好ましくは1〜100nmである。単繊維の繊維径をナノメートルサイズ(すなわち、ナノファイバー/(本発明では、繊維径が1μmより小さい繊維をナノファイバーと呼ぶことがある)にすることにより、さらに自由な形状と構造をもつ繊維構造体を作製し易くなり、また、繊維径をナノサイズにするより繊維構造体の比表面積や空間形成能が増大し、後で述べる機能性物質の保持性能を飛躍的に増大させることが可能となる。特に、単繊維直径が500nm以下のナノファイバーとなると、比表面積が飛躍的に大きくなるだけでなく繊維間に無数の数nm〜数百nmの空隙を形成することができるため、従来のマイクロファイバーでは見られなかったナノファイバー特有の優れた吸着、吸収および放出特性を示す。また、単繊維の数平均直径をナノレベルの繊維径とすることにより、温度変化により構造を崩壊させた後、繊維を取り除いて機能性物質のみを回収することが容易になる。
【0025】
本発明において、単繊維の数平均直径は下記のようにして求めることができる。すなわち、温度応答性基材または繊維構造体の横断面あるいは縦断面を走査型電子顕微鏡(SEM)あるいは透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、同一面内で無作為に抽出した150本の単繊維の断面積を画像処理ソフトにより解析し、さらに円換算直径を求め、数平均を計算する。
【0026】
また、本発明において単繊維の数平均直径が1〜500nmである短繊維を使用する場合には、直径が500nmより大きい短繊維の繊維構成比率が、3重量%以下であることが好ましい。その繊維構成比率は、より好ましくは1重量%以下であり、さらに好ましくは0.1重量%以下である。すなわち、これは500nmを超える粗大な短繊維の存在がゼロに近いことを意味するものである。
【0027】
ここで粗大な短繊維の繊維構成比率とは、直径が1nmより大きい繊維全体の重量に対する粗大な短繊維(直径500nmより大きいもの)の重量の比率のことを意味し、次のようにして計算する。すなわち、繊維構造体中の短繊維のそれぞれの単繊維直径をdiとし、その2乗の総和(d1+d2+・・+dn)=Σdi(i=1〜n)を算出する。また、直径500nmより大きい短繊維のそれぞれの繊維直径をDiとし、その2乗の総和(D1+D2+・・+Dm)=ΣDi(i=1〜m)を算出する。上記の総和Σdiに対する総和ΣDiの割合を算出することにより、繊維構造体中の短繊維全体に対する粗大繊維の面積比率、すなわち重量比率を求めることができる。これらにより、本発明の温度応答性基材および本発明で用いられる繊維構造体の機能を十分に発揮できると共に、品質安定性も良好とすることができる。
【0028】
また、本発明で使用される短繊維の繊維長は、長すぎると温度をLCSTより低い温度にして温度応答性高分子化合物を溶解させても短繊維同士が絡まったままとなり、結果として構造が崩壊しない場合がある。一方、繊維長が短すぎると繊維構造体としたときに短繊維の絡み合いの程度が小さくなり、結果として温度応答性基材および本発明で用いられる繊維構造体の強度が低くなる。これらの観点から、温度応答性基材および本発明で用いられる繊維構造体を構成する短繊維の繊維長は、0.2〜30mmとすることが重要である。
【0029】
本発明で使用される繊維としては、例えば、木材パルプなどから製造されるセルロース繊維、コットン、麻、ウールおよびシルクなどの天然繊維、レーヨンなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、ナイロン、ポリエステルおよびアクリルなどに代表される合成繊維などが挙げられるが、様々な用途に使用できる点から有機系ポリマーからなるものであることが好ましい。中でも、熱可塑性ポリマーからなることがより好ましく、これにより、使用される繊維を溶融紡糸法により製造することができるため、生産性を非常に高くすることができる。
【0030】
本発明でいうところの上記の熱可塑性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンレタフタレート(以下、PETと呼ぶことがある)、ポリブチレンレフタレート(以下、PBTと呼ぶことがある)、ポリ乳酸(以下、PLAと呼ぶことがある)などのポリエステル、ナイロン6(以下、N6と呼ぶことがある)やナイロン66などのポリアミド、ポリスチレン(以下、PSと呼ぶことがある)、ポリプロピレン(以下、PPと呼ぶことがある)などのポリオレフィン、およびポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと呼ぶことがある)等が挙げられ、中でも、融点が高いポリエステルやポリアミドに代表される重縮合系ポリマーが好ましく用いられる。
【0031】
融点が165℃以上の有機系ポリマーは、繊維の耐熱性が良好であり好ましく用いられる。例えば、PLAの融点は170℃であり、PETの融点は255℃であり、そしてN6の融点は220℃である。また、有機系ポリマーには、粒子、難燃剤および帯電防止剤等の添加物を含有させていてもよい。また、有機系ポリマーの性質を損なわない範囲で、他の成分が共重合されていてもよい。さらに、溶融紡糸の容易さから、融点が300℃以下の有機系ポリマーが好ましく用いられる。
【0032】
本発明において使用される繊維の製造方法は特に限定されず、常法の溶融紡糸法等により得ることが可能であるが、特に単繊維の数平均直径が1μmより小さいナノレベルの繊維を得るための製造方法の一例として下記の方法を挙げることができる。
【0033】
すなわち、溶剤に対する溶解性の異なる2種類以上のポリマーをポリマーアロイ溶融体となし、これを紡糸した後、冷却固化して繊維化する。そして、必要に応じて延伸・熱処理を施しポリマーアロイ繊維を得る。そして、易溶解性ポリマーを溶剤で除去することにより、本発明で使用される繊維(ナノファイバー)を得ることができる。
【0034】
ここで、ナノファイバーの前駆体であるポリマーアロイ繊維中で、易溶解性ポリマーを海成分(マトリックス)となし、難溶解性ポリマーが島成分(ドメイン)となし、その島成分のサイズを制御することが重要である。ここで、島成分サイズとは、ポリマーアロイ繊維の横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、直径換算で評価したものである。ナノファイバーの前駆体中での島成分サイズによりナノファイバーの直径がほぼ決定されるため、島成分サイズの分布はナノファイバーの直径分布に準じて設計される。そのため、アロイ化するポリマーの混練が非常に重要であり、混練押出機や静止混練器等によって高混練することが好ましい。単純なチップブレンド(例えば、特開平6−272114号公報や特開平10−53967号公報等参照)では混練が不足するため、数十nmサイズで島成分を分散させることは困難である。
【0035】
具体的に混練を行う際の目安としては、組み合わせるポリマーにもよるが、混練押出機を用いる場合は、2軸押出混練機を用いることが好ましく、静止混練器を用いる場合は、その分割数は100万以上とすることが好ましい。また、ブレンド斑や経時的なブレンド比率の変動を避けるため、それぞれのポリマーを独立に計量し、独立にポリマーを混練装置に供給することが好ましい。このとき、ポリマーはペレットとして別々に供給しても良く、あるいは、溶融状態で別々に供給してもよい。また、2種以上のポリマーを押出混練機の根本に供給しても良いし、あるいは、一成分を押出混練機の途中から供給するサイドフィードとしてもよい。
【0036】
混練装置として二軸押出混練機を使用する場合には、高度の混練とポリマー滞留時間の抑制を両立させることが好ましい。スクリューは、送り部と混練部から構成されているが、混練部の長さをスクリューの有効長さの20%以上とすることにより高混練とすることができる。また、混練部の長さをスクリュー有効長さの40%以下とすることにより、過度の剪断応力を避け、しかも滞留時間を短くすることができ、ポリマーの熱劣化やポリアミド成分等のゲル化を抑制することができる。また、混練部をなるべく二軸押出機の吐出側に位置させることにより、混練後の滞留時間を短くし、島成分ポリマーの再凝集を抑制することができる。加えて、混練を強化する場合は、押出混練機中でポリマーを逆方向に送るバックフロー機能のあるスクリューを設けることもできる。
【0037】
また、島成分を数十nmサイズで超微分散させるには、ポリマーの組み合わせも重要である。
【0038】
島成分ドメイン(ナノファイバー断面)を円形状に近づけるためには、島成分ポリマーと海成分ポリマーは非相溶であることが好ましい。しかしながら、単なる非相溶ポリマーの組み合わせでは島成分ポリマーが十分に超微分散化し難い。そのため、組み合わせるポリマーの相溶性を最適化することが好ましいが、そのための指標の一つが溶解度パラメータ(SP値)である。SP値とは(蒸発エネルギー/モル容積)1/2で定義される物質の凝集力を反映するパラメータであり、SP値が近い物同士では相溶性が良いポリマーアロイが得られる可能性がある。SP値は、種々のポリマーで知られているが、例えば、「プラスチック・データブック」旭化成アミダス株式会社/プラスチック編集部共編、189ページ等に記載されている。2つのポリマーのSP値の差が1〜9(MJ/m1/であると、非相溶化による島成分ドメインの円形化と超微分散化が両立させやすい。例えば、ナイロン6(N6)とPETは、SP値の差が6(MJ/m1/2程度であり好ましい例であるが、N6とポリエチレン(PE)は、SP値の差が11(MJ/m1/2程度であり好ましくない例として挙げられる。
【0039】
また、ポリマー同士の融点差が20℃以下であると、特に押出混練機を用いた混練の際、押出混練機中での融解状況に差を生じにくいため高効率混練しやすい。
【0040】
また、熱分解や熱劣化し易いポリマーを1成分に用いる際は、混練や紡糸温度を低く抑える必要があるが、これにも有利となるのである。ここで、非晶性ポリマーの場合は、融点が存在しないためガラス転移温度あるいはビカット軟化温度あるいは熱変形温度でこれに代える。
【0041】
さらに、溶融粘度も重要であり、海成分ポリマーの溶融粘度は紡糸性に大きな影響を与える場合がある。海成分ポリマーとして100Pa・s以下の低粘度ポリマーを用いると、島成分ポリマーを分散させ易い。また、これにより紡糸性を著しく向上させることができる。このとき、溶融粘度は、紡糸の際の口金面温度で剪断速度1216sec−1での値である。
【0042】
本発明で用いられる超微分散化したポリマーアロイを紡糸する際は、紡糸口金設計が重要であるが、繊維の冷却条件も重要である。上記したように、ポリマーアロイは非常に不安定な溶融流体であるため、口金から吐出した後に速やかに冷却固化させることが好ましい。そのため、口金から冷却開始までの距離は1〜15cmとすることが好ましい。ここで、冷却開始とは糸の積極的な冷却が開始される位置のことを意味するが、実際の溶融紡糸装置ではチムニー上端部でこれに代える。
このようにして紡糸されたポリマーアロイ繊維(海島型繊維)の易溶解性ポリマーを溶剤で除去することにより、本発明で好適に使用される繊維としてのナノファイバーを得ることができる。
上記の製造方法によって製造されたナノファイバーは結晶化度が20%以上であり、通常の衣料用繊維と同等の強度を持つため、様々な加工を施すことが可能である。
【0043】
また、使用される繊維は、表面部分加水分解処理、化学的修飾処理、グラフト処理、電子線処理、放射線処理、イオン注入、加熱処理、蒸気処理、加圧蒸気処理、ガス処理、酸処理、アルカリ処理、火炎処理、エッチング処理、グロー放電処理、プラズマ処理、真空処理、加湿処理、アルコール処理およびポリマー吸着処理などにより、表面処理するなどして表面性状を改質することも可能であり、また、後に挙げる温度応答性高分子化合物や機能性物質の種類に対応して親和性、吸着性および徐放性などを改善することも可能である。これらの処理は、温度応答性基材の形成前、形成中および形成後のいずれのときに行っても良い。
【0044】
本発明で用いられる繊維構造体は、上記の短繊維の集合体からなるものであり、具体的には、薄膜状、紙状物および不織布状物等のシート状の形態あるいはスポンジ状物などの三次元状の形態をとることができる。シート状の形態の場合には、安定性や耐久性の面から目付は2000g/m以下であることが好ましい。また、スポンジ状のなどの三次元形態の場合には、機能性物質の内包性や保持能力の面から密度が0.0002〜0.05g/cmで、空隙率が90%以上99.99%以下であることが好ましい。また、繊維が凝集した壁構造に囲まれた比較的大きな連通孔である空孔の数平均孔径は、10μm〜500μmであることが好ましい。空孔の数平均孔径を500μm以下とすることにより、細胞などの機能性物質物質を添加した際に、効率よく捕集され、保持することが可能となる。また、空孔の数平均孔径の下限は、10μm以上であることが好ましい。空孔の数平均孔径が10μmを下回ると、細胞などの機能性物質が構造体内に侵入しにくくなるという問題がある。
【0045】
本発明で使用される温度応答性高分子化合物は、LCSTより高い温度で水に対して不溶性であり、LCSTより低い温度で水に対して溶解性をもつことが好ましく、このような温度応答性高分子化合物としては、例えば、ポリN置換アクリルアミド、ポリN置換メタクリルアミド、ヒドロキシアルキルセルロース、ポリオキサゾリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸およびそれらの共重合体や誘導体が挙げられる。
【0046】
中でも、入手のし易さや水に対するLCSTが常温付近に存在する点から、温度応答性高分子化合物としてポリN置換アクリルアミドが好ましく使用される。ポリN置換アクリルアミドとしては、例えば、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド、ポリーN、N−ジエチルアクリルアミド、ポリ−N−シクロプロピルアクリルアミド、ポリーN、N−エチルメチルアクリルアミド、ポリ−N−エチルアクリルアミド、ポリアクリロイルピペリジンおよびポリアクリロイルピロリジンなどが挙げられる。中でも、用途展開の面から、LCSTが30〜32℃付近に存在するポリ−N−イソプロピルアクリルアミドが最も好ましく使用される。
【0047】
使用される温度応答性高分子化合物の分子量は、好ましくは100〜5000000であり、より好ましくは1000〜500000であり、さらに好ましくは3000〜100000である。分子量が100未満であると、温度に対する応答性が低下する傾向があり、また、分子量が5000000を超えると、水に対する溶解性が低下する傾向がある。また、温度応答性高分子化合物中のN置換アクリルアミドユニットの数は、10ユニット以上であることが好ましい。また、使用される温度応答性高分子化合物は、25℃の温度において水への溶解性が1重量%以上であることが好ましい。
【0048】
本発明では、これらの温度応答性高分化合物をバインダーとして繊維構造体中に含有させるが、含有させる量を多くすれば、例えば、短繊維としてナノファイバーを使用した場合、そのナノファイバー同士が形成する微小な孔構造を埋めてしまい、微小構造や空間配置による機能発現を阻害してしまうという問題が生じる。また、含有させる量が少なければ、バインダーとしての機能を果たすことができず、短繊維がその構造体としての構造を保持することができなくなる。そのため、温度応答性高分子化合物の含量は、繊維構造体の重量に対して1〜20重量%であることが好ましく、より好ましくは2〜10重量%である。
【0049】
本発明の温度応答性基材は、繊維構造体を構成する短繊維表面に温度応答性高分子化合物が被覆されてなるものである。このような温度応答性基材の形態は、例えば、溶媒に短繊維の集合体を分散させた分散液に温度応答性高分子化合物を添加し、その溶媒を除去することによって好適に形成することができる。
【0050】
そのため、次に、短繊維分散液の調整方法について説明する。
【0051】
例えば、上述のようにして得られた繊維(ナノファイバー)を、はさみ、カッター、ギロチンカッター、スライスマシンやクライオスタット等で、所望の繊維長にカットし短繊維とする。繊維長は、長すぎると温度をLCSTより低い温度にして温度応答性高分子化合物を溶解させても、繊維同士が絡まったままとなり構造が崩壊しない恐れがある。また、繊維長が長すぎると溶媒中において繊維の分散性が不良となり、形成される温度応答性基材の均一性が損なわれる傾向がある。一方、繊維長が短すぎると温度応答性基材としたときに短繊維の絡み合いの程度が小さくなり温度応答性基材としての形状保持が難しくなる。これらの観点から、繊維長としては0.2〜30mmにカットすることが重要である。繊維長は、より好ましくは0.5〜10mmであり、さらに好ましくは0.8〜5mmである。
【0052】
次に、カットされ得られた短繊維を溶媒中に分散させる。溶媒としては水だけでなく、繊維との親和性も考慮してヘキサンやトルエンなどの炭化水素系、クロロホルムやトリクロロエチレンなどのハロゲンか炭化水素系、エタノールやイソプロピルアルコールなどのアルコール系、エチルエーテルやテトラヒドロフランなどのエーテル系、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン系、酢酸メチルや酢酸エチなどのエステル系、エチレングリコールやプロピレングリコールなどの多価アルコール系、トリエチルアミンやN,N−ジメチルホルムアミドなどのアミンおよびアミド系溶媒などの一般的な有機溶媒を好適に用いることができるが、安全性や環境等に考慮すると水を用いることが好ましい。
【0053】
短繊維を溶媒中に分散させる方法としては、ミキサーやホモジナイザー等の攪拌機を用いることができる。ナノファイバーのように、細い短繊維同士が強固に凝集した形態の場合には、撹拌による分散の前処理工程として、溶媒中で叩解することが好ましく、ナイアガラビータ、リファイナー、ソニケーター、カッター、ラボ用粉砕器、バイオミキサー、家庭用ミキサー、ロールミル、乳鉢およびPFI叩解機などでせん断力を与え、短繊維1本1本まで分散させてから溶媒中に投与することができる。
【0054】
また、繊維分散液中での短繊維の分散性を均一にしたり、温度応答性基材とした際に温度応答性基材の力学的強度を向上させたりするために、繊維分散液中の短繊維濃度を分散液全重量に対して0.001〜30重量%の範囲にすることが好ましい。特に、温度応答性基材の力学的強度は分散液中の短繊維の存在状態、すなわち繊維間距離に大きく依存するため、繊維分散液中の短繊維濃度を上記範囲に制御することが好ましい。繊維分散液中の短繊維濃度は、より好ましくは0.01〜10重量%の範囲であり、さらに好ましくは0.05〜5重量%の範囲である。
【0055】
次に、本発明の温度応答性基材の好ましい製造方法について説明する。
【0056】
上記のようにして作製した繊維分散液に、上述した濃度の範囲で温度応答性高分子化合物を添加し分散液としておく。その上で、この分散液から溶媒を除去することにより、バインダーとして温度応答性高分子化合物が短繊維表面を被覆した様々な形態の温度応答性基材が形成される。
【0057】
例えば、短繊維と溶媒と温度応答性高分子化合物を含む分散液から溶媒を除去するために、常法の加熱処理あるいは減圧処理などにより溶媒を除去することにより、短繊維が絡まり合った不織布形態の温度応答性基材を形成することが可能である。また、例えば、その分散液を抄紙することによって単繊維状態で短繊維が分散した紙状の形態も得ることができる。また、分散液を他の基材上にキャストして溶媒を除去することにより、他の基材上でコーティング(膜)形態の温度応答性基材を形成することも可能である。
【0058】
また、上記で得られた分散液中の短繊維を、分散状態で固定化して溶媒を除去することにより、多数の空孔を含むようなスポンジ状の形態に成形することも可能である。その方法としては、次のような方法が挙げられる。すなわち、温度応答性高分子化合物を添加した分散液を適当な容器や型枠に入れる。その後、容器や型枠に入れた分散液から溶媒を除去する。溶媒の除去方法としては特に限定されないが、溶媒を乾燥により除去することが好ましい。乾燥方法としては、自然乾燥、熱風乾燥、真空乾燥および凍結乾燥等が挙げられるが、特に均一な構造体とするためには、凍結乾燥することが好ましい。凍結乾燥では、まず分散液を液体窒素や超低温フリーザーなどで瞬時に凍結させる。これにより、分散液が凍結した状態、すなわち固体中で短繊維の分散状態を固定化することができる。その後、真空化で分散媒を昇華させるが、短繊維の分散状態が固定化されたままで温度応答性高分子化合物がバインダーとなった状態で分散媒のみが除去される。
【0059】
また、上記のスポンジ形態の温度応答性基材を作製する際に、容器や型枠の形状を任意に変更することにより、スポンジ状の構造体を所望の三次元の形状に成型することも可能である。
【0060】
また、本発明の温度応答性基材は、他の基体上で形成されていても良い。ここで、他の基体とは、その表面に、短繊維あるいは短繊維を溶媒に分散した繊維分散液またはそれに温度応答性高分子化合物を添加した分散液を載せることができるような土台、基礎および基盤となるようなまとまった構造を持ち、またさまざまな機能に対して足場としての役割をはたすことができるような材料を指す。また、他の基体の形状は、平面状でも立体構造をとっていても良く、例えば、板状、膜状、シート状、繊維状、棒状、円柱状、らせん状、スポンジ状、粒子状、フレーク状および球状いずれの形状でも良く、具体的にはフラスコ、シャーレ、ウェル、プレート、多穴ウェル、多穴プレート、スライド、フィルム、バック、カラム、タンク、ボトル、中空糸、不織布およびマイクロビーズなどの形状が挙げられる。
【0061】
また、特に薄膜状形態の温度応答性基材を他の基体の表面に形成する際に、他の基体の表面に分散液のパターンを形成させた後、溶媒を除去する方法を用いることにより、他の基体の表面に温度応答性基材のパターンが形成させることができる。ここにおいて、基体上にパターンを形成させる際に、ピペット、スポッターおよびアレイヤー等を使用して基材上に温度応答性高分子化合物を含む分散液をスポットすれば、円形の温度応答性基材のパターンを形成することができる。さらに、分散液を使用して、スタンプ法、ステンシル法およびスプレー法などを使用すると精密なパターンを形成することができるが、これらの方法に限定されない。本発明で言うところのパターンとは、二次元的な広がりのある形状が、型、類型および様式などとして認識できるような対象を指し、一般に図形、絵、像、型、文字および模様など空間的な物の形として認識されるものを指す。パターンは、任意の形状であれば良く、パターン自体に規則性があっても無くても良い。
【0062】
また、他の基体の素材としては、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ乳酸、ポリエステル、ポリビニルアルコール、セルロース、ポリアクリレート、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリウレタンおよびポリイミドなどの成形性に優れたプラスチック、あるいはガラス、金、白金、銅、チタン、タンタル、ジルコニア、シリカ、アルミナ、ハイドロキシアパタイト、リン酸カルシウムおよびリン酸マグネシウム等の無機物を使用することもできる。
【0063】
本発明の温度応答性基材は、基材の内部または表面に、機能性物質を保持させることが可能である。特に、繊維としてナノファイバーを使用することにより繊維表面の比表面積が格段に向上し、また繊維間にナノレベルの空間が形成されるためにこのような機能性物質に対しての保持性能のみならず、ナノレベルの空間的な配置による緊密化や高密度化など特有の保持性能を発現することが可能になる。機能性物質を保持させる方法には特に制限はなく、温度応答性基材を形成させた後、温度応答性基材表面への吸着処理、含浸処理およびコーティング等により後加工で温度応答性基材に保持させても良いし、温度応答性基材を形成する前の分散液に予め含有させておき、温度応答性基材を形成させる際に同時に保持させても良い。
【0064】
本発明で用いられる機能性物質とは、材料としての温度応答性基材の機能を向上し得る物質全般を指す。機能としては、例えば、発色性、撥水性、防水性、防風性、保湿性、難燃性、耐熱性、吸熱性、消音性、断熱性、色彩、光沢、触感、生体適合性および細胞接着性等が挙げられるがこれらに限定されない。また、機能性物質として、色素、帯電防止剤、イオン性物質、吸湿剤、保湿剤、撥水剤、保温剤、耐熱剤、難燃剤、触媒、光触媒、酵素、リガンド、レセプター、発光素子、吸光素子、蛍光素子、燐光素子、反射剤、発熱剤、吸熱剤、冷却剤、還元剤および酸化剤などが挙げられるが、これらに限定されない。機能性物質は、高分子化合物であっても低分子化合物であっても良く、また、その形状も限定されない。
【0065】
これらの機能性物質を、温度応答性基材の表面あるいは内部に保持させることにより、温度応答性基材は様々な機能を発現させることが可能であり、衣料資材、インテリア製品、生活資材、環境・産業資材製品、IT製品、メディカル製品および研究用製品に使用することができ、かつ温度を水溶液中でLCSTより低い温度に下げることにより温度応答性基材が崩壊し、その機能を失活させることも可能となる。例えば、本発明の温度応答性基材内に機能性物質として色素を保持させておき、温度を下げて構造を崩壊させることにより、温度に応答して色素を放出させることも可能である。例えば、温度応答性基材内に、機能性物質として発光素子と励起素子を近接させておくことにより、発光させた後、温度変化により構造を崩壊させることにより消光させることも可能である。
【0066】
また、機能性物質として、例えばサイトカインや抗体などのタンパク質あるいは例えばステロイドやアルカロイドやアミノグリコシドなどの低分子化合物などの薬剤を使用すれば、温度に応答して薬剤を放出できるようなドラッグデリバリーシステムや診断等の用途にも応用できることを意味している。
また、例えば、保持させる機能性物質として、タンパク質、ペプチド、アミノ酸およびビタミン類を使用すれば、温度応答性基材は細胞培養や組織再生用途として細胞の培養に対して好適に使用することができる。培養とは、細胞の付着、接着、増殖、分化、活性化、移動、遊走、形態変化および定着など様々な細胞機能を発現、促進および抑制させることを意味する。このような細胞培養用途のために保持させる機能性物質としては、タンパク質を吸着させておくことが好ましいが、細胞の様々な機能を制御するためには、吸着するタンパク質が細胞の接着、増殖あるいは分化機能制御に関連するタンパク質であることがより好ましい。このようなタンパク質として、例えば、サイトカイン、細胞外マトリックスおよび接着因子等が挙げられるが、これらに限定されない。また、細胞培養液中の血清成分からこれらタンパク質を吸着させることも可能である。
【0067】
また、短繊維としてナノファイバーを使用することは、骨髄、基底膜および羊膜などにおいて細胞を取り囲んでいるコラーゲンを代表とする繊維性の細胞外マトリックスがナノレベルの繊維状物質である点から、ナノファイバーはこれらの細胞外マトリックスを構造的に類似することが可能であり、ナノファイバーを用いることができる本発明の温度応答性基材においては、従来培養が難しかった細胞の培養に利用することも可能となる。
【0068】
本発明の温度応答性基材内部あるいは温度応答性基材上で培養できる細胞としては、例えば、造血幹細胞、神経幹細胞、間葉系幹細胞、中胚葉系幹細胞、ES細胞(胚性幹細胞)、多能性幹細胞、CD34陽性細胞、免疫系細胞、血球系細胞、神経細胞、血管内皮細胞、繊維芽細胞、上皮細胞、肝細胞、膵β細胞、心筋細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、筋芽細胞、骨髄細胞、羊膜細胞および臍帯血細胞などの生体由来の細胞、NIH3T3(エヌアイエイチスリーティースリー)細胞、3T3−L1(スリーティースリーエルワン)細胞、3T3−E1(スリーティースリーイーワン)細胞、Hela(ヒーラ)細胞、PC−12(ピーシーツェルブ)細胞、P19(ピーナインティーン)細胞、CHO(チャイニーズハムスター卵母)細胞、COS(シーオーエス)細胞、HEK(エッチイーケー)細胞、Hep−G2(ヘップジーツー)細胞、CaCo2(カコツー)細胞、L929(エルナインツーナイン)細胞、C2C12(シーツーシーツェルブ)細胞、Daudi(ダウディ)細胞、Jurkat(ジャーカット)細胞、KG−1a(ケージーワンエー)細胞、CTLL−2(シーティーエルエルツー)細胞、NS−1(エヌエスワン)細胞、MOLT−4(エムオーエルティーフォー)細胞、HUT78(エッチユーティーセブンティエイト)細胞およびMT−4(エムティーフォー)細胞などの株化細胞、あるいは抗体産生細胞である各種ハイブリドーマ細胞株、およびこれら細胞を遺伝子工学的に改変した細胞などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
接着系細胞の場合、特別な処理を施さなくても接着などが促進されるが、浮遊系細胞の場合、細胞外マトリックス、接着因子および抗体などのタンパク質を温度応答性基材に保持させることにより、接着を促進することが可能となる。
【0070】
また、細胞として組織由来の細胞を使用することにより、例えば、筋芽細胞を使用すれば筋組織が、心筋細胞を使用すれば心筋が、また血管内皮細胞を使用すれば血管が温度応答性基材の形状に組織形成することができる。すなわち、二次元状態で細胞を培養したい場合は温度応答性基材を薄膜形状や紙形態に、また三次元状態で細胞を培養したい場合には温度応答性基材をスポンジ状態や不織布形態に形成しておくことができる。すなわち、本発明の温度応答性基材は、神経、心臓、血管、軟骨、皮膚、角膜、腎臓、肝臓、毛髪、心筋、筋肉および腱などの組織再生または移植用組織形成に使用する足場成型体の一部または全部に使用することができる。
【0071】
本発明の温度応答性基材を、上記のような細胞培養や組織再生用の培養材料として使用して細胞を培養した後、温度を変化させて温度応答性基材を崩壊させることにより、細胞や組織を温度応答性基材から回収することができる。このような作用効果により、従来細胞を支持構造体から剥離することに使用していたトリプシンなどのタンパク質分解酵素のような細胞剥離剤を使用することなく細胞を回収することが可能となる。細胞剥離剤は、細胞表面のレセプターやリガンドなどのタンパク質にダメージを与えるため細胞を培養する技術にとって好ましくない技術である。温度を変化させて温度応答性基材を崩壊してバラバラになった短繊維は、フィルターなどの篩い構造により分離することも可能であるため、温度変化という穏和な条件で、培養した細胞を回収することが可能となる。
【0072】
また、本発明の温度応答性基材内部あるいは温度応答性基材上で細胞培養を行う際には、5%COインキュベーター内で培養したり、気体透過性バッグ内で培養したり、本発明の構造体が組み込まれたカラムを使用したり、あるいは細胞懸濁液の入ったリザーバー、市販の人工肺などを利用した酸素負荷装置、培地を交換するための透析カラムなどをラインに組み込んだような灌流培養システムを利用して細胞を培養することも可能である。
【0073】
また、本発明の温度応答性基材は動脈瘤コイル、塞栓物質、歯科材料および眼内レンズなどの生体内埋め込み用医療成型体の一部または全部、外科用縫合糸、外科用補填材、外科用補強材、創傷保護材、創傷治療材、骨折接合材、補綴材およびカテーテルなどの医療材料の一部または全部として使用することができ、医療成型体や医療材料として目的を達した後、温度変化により構造を崩壊させてしまうことも可能である。
【0074】
また、温度応答性基材表面に構造体のパターンを形成させておき、構造体にタンパク質を吸着あるいは徐放化させることにより、温度応答性基材表面において細胞の接着性、増殖性、移動性および分化能などの機能をパターンに従って、二次元的あるいは三次元的に制御することが可能となる。特に、パターンに従って特定の形状に細胞を接着させることにより、例えば、ある特定の形状をした組織、細胞集合体を形成させた後、細胞に悪影響を及ぼす細胞剥離剤を使用することなく温度変化により構造体を崩壊させて特定形状を持つ細胞、組織のみを回収することも可能である。このような技術を応用すれば、再生医療、組織工学、細胞培養、バイオセンサー、バイオチップおよびドラッグスクリーニングを用途とした医療、研究および分析分野のデバイス開発が可能となる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明の温度応答性基材について、実施例を用いて詳細に説明する。実施例中の測定方法には、下記の方法を用いた。
【0076】
A.ポリマーの溶融粘度
東洋精機製作所製キャピログラフ1Bにより、ポリマーの溶融粘度を測定した。サンプル投入から測定開始までのポリマーの貯留時間は、10分とした。
【0077】
B.ポリマーの融点
Perkin Elmaer社製 DSC−7を用いて、2nd runでポリマーの融解を示すピークトップ温度をポリマーの融点とした。このときの昇温速度は16℃/分であり、サンプル量は10mgとした。
【0078】
C.口金吐出孔での剪断応力
口金孔壁とポリマーとの間の剪断応力は、ハーゲンポワズユの式(剪断応力(dyne/cm)=R×P/2L)から計算する。ここで、Rは口金吐出孔の半径(cm)であり、Pは口金吐出孔での圧力損失(dyne/cm)であり、Lは口金吐出孔長(cm)である。また、P=(8LηQ/πR4 )であり、ηはポリマー粘度(poise)であり、Qは吐出量(cm/sec)であり、πは円周率である。また、CGS単位系の1dyne/cmはSI単位系では0.1Paとなる。
【0079】
D.ポリマーアロイ繊維のウースター斑(U%)
ツェルベガーウスター株式会社製USTER TESTER 4を用いて、給糸速度200m/分でノーマルモードで測定を行った。
【0080】
E.SEM観察
サンプルに白金を蒸着し、超高分解能電解放射型走査型電子顕微鏡で観察した。SEM装置は、日立製作所(株)製のUHR−FE−SEMを用いた。
【0081】
F.TEMによるナノファイバーの横断面観察
分散前のナノファイバー束を用い、これの横断面方向に超薄切片を切り出してTEM装置でナノファイバーの横断面を観察した。また、必要に応じ金属染色を施した。TEM装置には、日立製作所(株)製H−7100FA型を用いた。
【0082】
G.単繊維の数平均直径
単繊維(ナノファイバー)の数平均直径は、次のようにして求める。すなわち、上記SEM装置もしくはTEM装置観察による写真から、画像処理ソフト(“WinROOF”(登録商標))を用いて繊維の単繊維直径を円換算で計算し、それの単純な平均値を求めた。その際、同一横断面内で無作為に抽出した150本の繊維の直径を解析し、計算に用いた。
【0083】
H.繊維構成比率
短繊維(ナノファイバー)の繊維構成比率は、以下のように評価する。すなわち、上記数平均直径を求める際に使用したデータを用い、単繊維それぞれの直径をdiとし、その2乗の総和(d1+d2+・・+dn)=Σdi(i=1〜n)を算出する。また、直径500nmより大きい単繊維のそれぞれの繊維直径をDiとし、その2乗の総和(D1+D2+・・+Dm)=ΣDi(i=1〜m)を算出する。Σdiに対するΣDiの割合を算出することにより、全繊維に対する粗大繊維の面積比率、すなわち繊維構成比率とした。
【0084】
[分散液の製造例1]
溶融粘度57Pa・s(温度240℃、剪断速度2432sec−1)、融点220℃のN6(ナイロン6)(20重量%)と、重量平均分子量12万、溶融粘度30Pa・s(温度240℃、剪断速度2432sec−1)、融点170℃のポリL乳酸(光学純度99.5%以上)(80重量%)を、2軸押出混練機で220℃の温度で溶融混練してポリマーアロイチップを得た。ここで、ポリL乳酸の重量平均分子量は、次のようにして求めた。すなわち、試料(ポリL乳酸)のクロロホルム溶液にTHF(テトラヒドロフラン)を混合し、測定溶液とした。これをWaters社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)Waters2690を用いて25℃の温度でクロマトグラフを測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。N6の温度262℃、剪断速度121.6sec−1での溶融粘度は、53Pa・sであった。また、このポリL乳酸の温度215℃、剪断速度1216sec−1での溶融粘度は、86Pa・sであった。また、このときの混練条件は、下記のとおりであった。
・ポリマー供給 :N6とポリL乳酸を別々に計量し、別々に混練機に供給した。
・スクリュー型式:同方向完全噛合型 2条ネジ
・スクリュー :直径(D)37mm、有効長さ(L)1670mm、
(L)/(D)=45.1
(混練部長さは、スクリュー有効長さの1/3より吐出側に位置させた。)
・温度 :220℃
・ベント :2箇所
このポリマーアロイチップを230℃の温度の溶融部で溶融し、紡糸温度230℃のスピンブロックに導いた。次いで、限界濾過径15μmの金属不織布でポリマーアロイ溶融体を濾過した後、口金面温度215℃とした口金から溶融紡糸した。このとき、口金は口金孔径0.3mm、孔長0.55mmのものを使用したが、バラス現象はほとんど観察されなかった。また、このときの単孔あたりの吐出量は、0.94g/分とした。さらに、口金下面から冷却開始点(チムニーの上端部)までの距離は9cmであった。吐出された糸条は20℃の温度の冷却風で1mにわたって冷却固化され、口金から1.8m下方に設置した給油ガイドで給油された後、非加熱の第1引き取りローラーおよび第2引き取りローラーを介して巻き取った。次いで、これを第1ホットローラーの温度を90℃とし、第2ホットローラーの温度を130℃として延伸熱処理した。このとき、第1ホットローラーと第2ホットローラー間の延伸倍率を1.5倍とした。得られたポリマーアロイ繊維は、総繊度62dtex、フィラメント数36フィラメント、強度3.4cN/dtex、伸度38%、U%=0.7%の優れた特性を示した。また、得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEMで観察したところ、ポリL乳酸が海成分で、N6が島成分の海島構造を示し、島成分のN6の数平均による直径は55nmであり、N6が超微分散化したN6ナノファイバーの前駆体であるポリマーアロイ繊維が得られた。
【0085】
得られたポリマーアロイ繊維を、95℃の温度の5%水酸化ナトリウム水溶液に1時間浸漬することにより、ポリマーアロイ繊維中のポリL乳酸成分の99重量%以上を加水分解で除去し、酢酸で中和後、水洗、乾燥し、N6ナノファイバーの繊維束を得た。このN6ナノファイバーの繊維束をTEM写真から解析した結果、N6ナノファイバーの単繊維の数平均直径は60nmと従来にない細さであり、直径100nmより大きいN6ナノファイバーの繊維構成比率は0重量%であった。
【0086】
得られたN6ナノファイバーの繊維束を、0.01mm、0.2mm、2mm、30mmおよび50mm長にそれぞれ切断して、N6ナノファイバーの短繊維を得た。タッピースタンダードナイヤガラ試験ビータ((株)東洋精機製作所製)に、水23リットル(L)と先に得られたそれぞれの繊維長の短繊維30gを仕込み、5分間予備叩解し、その後余分な水を切って短繊維を回収した。この短繊維の重量は250gであり、その含水率は88重量%であった。含水状態の短繊維250gをそのまま自動式PFIミル(熊谷理機工業(株)製)に仕込み、回転数1500rpm、クリアランス0.2mmで6分間叩解した。オスターブレンダー(オスター社製)に叩解した短繊維42gと水500gを仕込み、回転数13900rpmで30分間撹拌し、さらに、このようにして得られた繊維分散液に、温度応答性高分子化合物としてポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(アルドリッチ社製、数平均分子量20000〜250000、LCST:30〜32℃)0.25gを添加して回転式振とう機30rpmで30分間撹拌し、N6ナノファイバー1.0重量%と温度応答性高分子化合物0.05重量%を含有するN6ナノファイバー入り分散液1(繊維長0.2mm)、分散液2(繊維長2mm)、分散液3(繊維長30mm)、分散液4(繊維長50mm)および分散液5(繊維長0.01mm)を得た。分散液4は、ナノファイバーが均一に分散されず、ナノファイバー同士が会合した大きな凝集体(フロック)が形成された。また、繊維長2mmの短繊維について、分散液6として、分散液2と同様の作製方法において温度応答性高分子化合物を添加しない分散液を、分散液7として、分散液2と同様の作製方法においてポリ−N−イソプロピルアクリルアミドを0.5g添加して温度応答性高分子化合物の濃度を0.1重量%とした分散液を、分散液8として、分散液2と同様の作製方法においてポリ−N−イソプロピルアクリルアミドを0.05g添加して温度応答性高分子化合物の濃度を0.01重量%とした分散液を、分散液9として、分散液2と同様の作製方法において温度応答性高分子化合物としてポリビニルメチルエーテル(サイエンティフイックポリマー社製、重量平均分子量90000、LCST:37〜38℃)を使用し、これを0.25g添加して温度応答性高分子化合物0.05重量%含有する分散液を、それぞれ作製した。
【0087】
[分散液の製造例2]
溶融粘度120Pa・s(温度262℃、剪断速度121.6sec−1)、融点225℃のPBT(ポリブチレンテレフタレート)(20重量%)と、2エチルヘキシルアクリレートを22モル%共重合したポリスチレン(PS)(80重量%)を用い、混練温度を240℃として分散液の製造例1と同様に溶融混練し、ポリマーアロイチップを得た。このとき、共重合PSの温度262℃、剪断速度121.6sec−1における溶融粘度は140Pa・sであり、温度245℃、剪断速度1216sec−1における溶融粘度は60Pa・sであった。
【0088】
得られたポリマーアロイチップを、溶融温度260℃、紡糸温度260℃(口金面温度245℃)、紡糸速度1200m/分で分散液の製造例1と同様に溶融紡糸した。このとき、口金として、吐出孔上部に直径0.3mmの計量部を備えた、吐出孔径が0.7mm、吐出孔長が1.85mmの口金を使用した。紡糸性は良好であり、1tの紡糸で糸切れは1回であった。このときの単孔あたりの吐出量は、1.0g/分とした。得られた未延伸糸を延伸温度100℃、延伸倍率を2.49倍とし、熱セット温度115℃として分散液の製造例1と同様に延伸熱処理した。得られた延伸糸は、総繊度161dtex、フィラメント数36フィラメント、強度1.4cN/dtex、伸度33%、U%=2.0%であった。得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEMで観察したところ、共重合PSが海成分で、PBTが島成分の海島構造を示し、PBTの数平均による直径は70nmであり、PBTがナノサイズで均一分散化したポリマーアロイ繊維が得られた。
【0089】
得られたポリマーアロイ繊維をトリクロロエチレンに浸漬することにより、海成分である共重合PSの99重量%以上を溶出後、乾燥して、PBTナノファイバーの繊維束を得た。このPBTナノファイバーの繊維束をTEM写真から解析した結果、PBTナノファイバーの単繊維の数平均直径は85nmと従来にない細さであり、直径で200nmより大きいPBTナノファイバーの繊維構成比率は0重量%であり、直径で100nmより大きいPBTナノファイバーの繊維比率は1重量%であった。
【0090】
得られたPBTナノファイバーの繊維束を2mm長に切断して、PBTナノファイバーの短繊維を得た。得られたPBTナノファイバーの短繊維を、分散液の製造例1と同様に予備叩解を施し、含水率80重量%のPBTナノファイバーを得た後、さらに分散液の製造例1と同様に叩解、撹拌、温度応答性高分子化合物の添加を行い、PBTナノファイバー1.0重量%と温度応答性高分子化合物0.05重量%を含有するPBTナノファイバー入り分散液10を得た。
【0091】
[分散液の製造例3]
分散液の製造例1のN6を、溶融粘度350Pa・s(温度220℃、剪断速度121.6sec−1)、融点162℃のPP(ポリプロピレン)(23重量%)としたこと以外は、分散液の製造例1と同様に溶融混練し、ポリマーアロイチップを得た。ポリL乳酸の温度220℃、剪断速度121.6sec−1における溶融粘度は、107Pa・sであった。このポリマーアロイチップを用い、溶融温度230℃、紡糸温度230℃(口金面温度215℃)、単孔吐出量1.5g/分、紡糸速度900m/分で分散液の製造例1と同様に溶融紡糸を行った。得られた未延伸糸を延伸温度90℃、延伸倍率を2.7倍、熱セット温度130℃として分散液の製造例1と同様に延伸熱処理した。
【0092】
得られたポリマーアロイ繊維を、98℃の温度の5%水酸化ナトリウム水溶液に1時間浸漬することにより、ポリマーアロイ繊維中のポリL乳酸成分の99重量%以上を加水分解除去し、酢酸で中和後、水洗、乾燥し、PPナノファイバーの繊維束を得た。このPPナノファイバーの繊維束をTEM写真から解析した結果、PPナノファイバーの単繊維の数平均直径は240nmであり、直径で500nmより大きいPPナノファイバーの繊維比率は0重量%であった。
【0093】
得られたPPナノファイバーの繊維束を2mm長に切断して、PPナノファイバーの短繊維を得た。得られたPPナノファイバーの短繊維を、分散液の製造例1と同様に予備叩解を施し、含水率75重量%のPPナノファイバーを得た後、さらに分散液の製造例1と同様に叩解、撹拌、温度応答性高分子化合物の添加を行い、回転式振とう機30rpmで30分間撹拌し、PPナノファイバー1.0重量%と温度応答性高分子化合物0.05重量%を含有するPPナノファイバー入り分散液11を得た。
【0094】
[分散液の製造例4]
海成分にアルカリ可溶型共重合ポリエステル樹脂60重量%、島成分にN6樹脂40重量%を用い、溶融紡糸で島成分を100島とし、単繊維繊度5.3dtexの高分子配列体複合繊維(以後、複合繊維という)を作成後、2.5倍延伸して単繊維繊度2.1dtexの複合繊維を得た。この複合繊維の強度は2.6cN/dtexであり、伸度は35%であった。その後、この複合繊維を98℃の温度の3%濃度の水酸化ナトリウム水溶液で1時間処理することにより、複合繊維中のポリエステル成分の99重量%以上を加水分解除去し、酢酸で中和後、水洗、乾燥してN6の極細繊維を得た。得られたN6の極細繊維の平均単繊維繊度をTEM写真から解析したところ、単繊維繊度0.02dtex(平均繊維径2μm)相当であった。得られたN6極細繊維を2mm長に切断して短繊維とした後、この短繊維5gと水495gをオスターブレンダー(オスター社製)に仕込み、回転数13900rpmで30分間撹拌して、製造例1と同じ温度応答性高分子化合物0.25gを添加して回転式振とう機30rpmで30分間撹拌し、N6極細繊維1.0重量%と温度応答性高分子化合物0.05重量%を含有する分散液12を得た。
【0095】
[分散液の製造例5]
従来公知の溶融紡糸法により、単繊維繊度10dtex(平均繊維径30μm)のPET(ポリエチレンテレフタレート)繊維を得た後、これを2mm長に切断して、短繊維を得た。この短繊維5gと水495gをオスターブレンダー(オスター社製)に仕込み、回転数10000rpmで1分間撹拌した後、製造例1と同じ温度応答性高分子化合物0.25gを添加して、回転式振とう機30rpmで30分間撹拌し、PET繊維1.0重量%と温度応答性高分子化合物0.05重量%を含有する分散液13を得た。
【0096】
[分散液の製造例6]
従来公知の溶融紡糸法により、単繊維繊度33dtex(平均繊維径55μm)のPET繊維を得た後、これを2mm長に切断して、短繊維を得た。この短繊維5gと水495gをオスターブレンダー(オスター社製)に仕込み、回転数10000rpmで1分間撹拌した後、製造例1と同じ温度応答性高分子化合物0.25gを添加して回転式振とう機30rpmで30分間撹拌し、PET繊維1.0重量%と温度応答性高分子化合物0.05重量%を含有する分散液14を得た。
【0097】
(実施例1〜3)
上記分散液の製造例1で得られた分散液1〜3を用い、スポンジ形態の温度応答性基材を作製した。作製方法は、分散液1〜3を24ウェルプレートのウェル(直径16mm)にそれぞれ1mL入れ、−80℃の温度の超低温フリーザー中に12時間静置した。凍結したサンプルをEYELA社製の凍結乾燥機(FD−5N)のチャンバー内に入れ、0.1kPa以下の真空度で凍結乾燥することにより、スポンジ状三次元構造の温度応答性基材を得た(図1参照)。
【0098】
次に、得られた温度応答性基材をウェルから取り出し、使用した温度応答性高分子化合物のLCSTより高い37℃の温水を添加してピペッティングを行っても温度応答性基材の構造は崩壊しなかった(図2参照)が、LCSTより低い4℃の冷水を添加してピペッティングを行うと温度応答性基材の構造が崩壊し(図3参照)、温度応答性基材として構造の温度応答性を有することを確認することができた。
【0099】
(比較例1)
分散液の製造例1で得られた分散液4を用い、実施例1と同様に凍結乾燥を行い、スポンジ形態の温度応答性基材の形成を試みたが、繊維長が50mmと大きく分散液が不均一な凝集体を形成しているため、スポンジ形態の温度応答性基材を形成することはできなかった。
【0100】
(比較例2)
分散液の製造例1で得られた分散液5を用い、実施例1と同様に凍結乾燥を行い、スポンジ状の温度応答性基材の形成を試みた。しかしながら、得られた構造物は、扁平なシート状の構造のものとなった。さらに、得られた構造物に、37℃の温水を添加してピペッティングを行うと繊維長が0.01mmと小さく構造が崩壊したため、温度による構造制御性が無いことが分かった。
【0101】
(比較例3)
分散液の製造例1で得られた分散液6を用い、実施例1と同様に凍結乾燥を行いスポンジ状の温度応答性基材の形成を試みたところ、きれいなスポンジ状の温度応答性基材が形成された。しかしながら、使用した温度応答性高分子化合物のLCSTより高い37℃の温水を添加してピペッティングを行った時点で構造が崩壊したため、温度による構造制御性が無いことが分かった。
【0102】
(実施例4〜6)
分散液の製造例1で得られた分散液7〜9を用い、実施例1と同様に凍結乾燥を行いスポンジ状の温度応答性基材の形成を試みたところ、それぞれきれいなスポンジ状の温度応答性基材が形成された。得られたそれぞれの温度応答性基材について、実施例1と同様に温水と冷水を個別に添加して構造の崩壊を観察し、温度応答性基材の温度応答性を確認したところ、いずれの温度応答性基材も温度応答性が有ることが確認された。
【0103】
(実施例7〜10)
分散液の製造例2〜5で得られた分散液10〜13を用い、実施例1と同様に凍結乾燥を行いスポンジ状の温度応答性基材の形成を試みたところ、それぞれきれいなスポンジ状の温度応答性基材が形成された。得られたそれぞれの温度応答性基材について、実施例1と同様に温水と冷水を個別に添加して構造の崩壊を観察し、温度応答性基材の温度応答性を確認したところ、いずれの温度応答性基材も温度応答性が有ることが確認された。
【0104】
(比較例4)
分散液の製造例6で得られた分散液14を用い、実施例1と同様に凍結乾燥を行い、スポンジ状の温度応答性基材の形成を試みた。しかしながら、得られた構造物は、扁平なシート状の構造となった。さらに、37℃の温水を添加してピペッティングを行うと平均繊維径が55μmと大きく構造は崩壊したため、温度による構造制御性が無いことが分かった。
【0105】
上記の実施例1〜10と比較例1〜4の結果をまとめて表1に示す。
【0106】
【表1】


【0107】
(実施例11)
分散液の製造例1で作製した分散液2を細胞培養用96ウェルプレートのウェル(直径6.4mm)に100μL添加し、このプレートを−80℃の温度の超低温フリーザー中に12時間静置した。凍結したサンプルを、EYELA社製の凍結乾燥機(FD−5N)のチャンバー内に入れ、0.1kPa以下の真空度で凍結乾燥することによりスポンジ状の温度応答性基材をウェル上に作製した。得られた温度応答性基材上に、マウス骨芽系3T3−E1細胞懸濁液(細胞濃度5×10/mL、10%牛胎児血清添加αMEM(アルファミニマム基礎)培地)を100μL添加し、37℃の温度で1時間静置して温度応答性基材内に細胞を保持させた後、さらに、そこに10%牛胎児血清添加αMEM培地を100μL添加して、温度37℃、5%CO雰囲気下で48時間培養を行った。48時間後、培養液を除去した後、4℃の温度に冷却したPBS(リン酸緩衝液)を200μL添加した後、ピペッティングを行ったところ、図3のように温度応答性基材が崩壊した。
細胞と崩壊した温度応答性基材を回収し、メッシュ間隔が40μmのナイロンメッシュに繰り返し通して繊維(N6ナノファイバー)を除去することにより、培養された細胞を回収した。血球計算版により細胞数を測定したところ、細胞数は4.6倍に増加していた。
【0108】
(実施例12)
分散液の製造例1で作製した繊維を使用し、分散液の製造例1と同様の方法で、繊維長2mmのN6ナノファイバー0.1重量%と温度応答性高分子化合物0.005重量%を含有する分散液15を作製した。この分散液15を、マイクロピペットによりポリスチレン製シャーレ上に0.5μL/スポットでスポットした後、65℃の温度で乾燥したところ、図4に示すような直径約1mmの円形のパターンを持つ膜状の温度応答性基材が形成された。得られた温度応答性基材に、37℃に温めたPBSを吹き付けても温度応答性基材のパターンは保持されたままであったが(図5参照)、4℃に冷却したPBSを吹き付けると温度応答性基材は崩壊し、パターンは見えなくなった(図6参照)ため、温度応答性基材のパターンが温度応答性を有していることが確認された。
【0109】
(実施例13)
実施例12と同様の方法により、円形膜状の温度応答性基材を未処理のポリスチレン製シャーレ上に形成した。1mg/mLのフィブロネクチン(シグマ社製)を含むPBSを温度応答性基材上に添加し、37℃の温度で30分間インキュベートしてフィブロネクチンを温度応答性基材に吸着し保持させた。マウス筋芽系C2C12細胞懸濁液(細胞濃度1×10/mL、10%牛胎児血清添加DMEM(ダルベッコ変法イーグル)培地)を用意し、温度応答性基材にこの細胞懸濁液を100μL添加して温度37℃、5%CO雰囲気下で1時間インキュベートした後、未接着細胞を37℃の温度に温めたPBSで洗浄し、未接着細胞を取り除き、再度10%牛胎児血清添加DMEM培地を添加して温度37℃、5%CO雰囲気下で1週間培養したところ、図7に示すように温度応答性基材のパターン(円形)に従って、細胞が増殖して細胞が会合した組織が形成されるのが観察された。このような組織を形成された細胞を含んだ温度応答性基材に対して、4℃に冷却したPBS溶液を吹き付けたところ、温度応答性基材が崩壊し、細胞が会合した組織が円形の形状を保ったまま温度応答性基材から剥離されるのが確認された(図8参照)。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の単繊維の数平均直径が1nm〜50μmで単繊維の繊維長が0.2mm〜30mmである短繊維の集合体からなる繊維構造体と温度応答性高分子化合物を含み、水溶液中で温度応答性高分子化合物のLCSTより高い温度からLCSTより低い温度にすることによりその構造が崩壊することを特徴とする温度応答性基材は、衣料資材、インテリア製品、生活資材、環境・産業資材製品、IT製品、メディカル製品および研究用製品用途に応用することが可能であり、特に細胞培養、組織再生、DDSおよび診断に使用する材料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】図1は、実施例2で得られたスポンジ状三次元構造の温度応答性基材を示す図面(斜視図)代用写真である(等倍)。
【図2】図2は、図1の温度応答性基材に、使用した温度応答性高分子化合物のLCSTより高い37℃の温水を添加してピペッティングを行った後の状態を示す図面(斜視図)代用写真である(等倍)。
【図3】図3は、図1の温度応答性基材に、使用した温度応答性高分子化合物のLCSTより低い4℃の冷水を添加してピペッティングを行った後の状態を示す図面(斜視図)代用写真である(等倍)。
【図4】図4は、実施例7で得られた円形のパターンを持つ膜状の温度応答性基材を示す図面(平面図)代用写真である(25倍)。
【図5】図5は、図4の温度応答性基材に、使用した温度応答性高分子化合物のLCSTより高い温度の37℃に温めたPBSを吹き付けた後の状態を示す図面(平面図)代用写真である(25倍)。
【図6】図6は、図4の温度応答性基材に、使用した温度応答性高分子化合物のLCSTよりより低い温度の4℃に冷却したPBSを吹き付けた後の状態を示す図面(平面図)代用写真である(25倍)。
【図7】図7は、実施例8で得られた温度応答性基材のパターン(円形)に従って、細胞が増殖して細胞が会合した組織が形成されている状態を示す図面(斜視図)代用写真である(25倍)。
【図8】図8は、図7の細胞が会合した組織を含んだ温度応答性基材に、4℃に冷却したPBS溶液を吹き付けることにより、温度応答性基材が崩壊し、細胞が会合した組織が円形の形状を保ったまま温度応答性基材から剥離された状態を示す図面(斜視図)代用写真である(25倍)。
【出願人】 【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
【出願日】 平成18年7月27日(2006.7.27)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−29226(P2008−29226A)
【公開日】 平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願番号】 特願2006−204232(P2006−204232)