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【発明の名称】 細胞培養容器、その製造方法、及び細胞培養方法
【発明者】 【氏名】吉川 義洋

【氏名】中谷 奈穂美

【氏名】松尾 桂

【氏名】福光 智彦

【氏名】伊藤 茂樹

【要約】 【課題】付着細胞が付着し得る培養領域を有し、培養中において容易に変形しない細胞培養容器を提供する。

【構成】細胞培養容器1は、付着性細胞の培養に要する培地を保持する形状の容器本体2を有する。容器本体2は、曲げ剛性が20mm以下である合成樹脂シートからなり、その内面に細胞付着性官能基を有する培養領域が形成されている。培養中において、例えば細胞培養容器1が移動されたり反転されたりしても、容器形状が変形されることなく維持される。これにより、付着性細胞の剥離や死滅が生じることなく、付着性細胞の培養を簡易且つ確実に行うことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
付着性細胞を培養するための細胞培養容器であって、
下記試験方法(A)による曲げ剛性が20mm以下である合成樹脂シートが、付着性細胞の培養に要する培地を保持する容器形状に形成されてなる容器本体を有し、該合成樹脂シートの内面に、細胞付着性官能基を有する培養領域が形成されたものである細胞培養容器。
試験方法(A):上記合成樹脂シートから縦×横が100mm×10mmの試験片を切り出して、該試験片の縦寸法に対して50mmだけ試験台の水平な上面から水平方向へはみ出した状態で試験台に固定し、その後3分以内に、試験台からはみ出した試験片の先端が試験台の上面を含む水平面から鉛直下方へ垂れ下がった距離を測定する。
【請求項2】
上記合成樹脂シートは、少なくとも上記容器本体の内面側にポリオレフィン系樹脂層を有するものであり、
上記培養領域は、上記ポリオレフィン系樹脂層がプラズマ処理された領域である請求項1に記載の細胞培養容器。
【請求項3】
上記培養領域は、上記ポリオレフィン系樹脂層が酸素又は窒素雰囲気下でプラズマ処理された領域である請求項2に記載の細胞培養容器。
【請求項4】
付着性細胞を培養するための細胞培養容器の製造方法であって、
下記試験方法(A)による曲げ剛性が20mm以下である合成樹脂シートをプラズマ処理することにより、細胞付着性官能基を有する培養領域を形成し、該培養領域を内面として培地を保持可能な容器形状に上記合成樹脂シートを形成する工程を含む細胞培養容器の製造方法。
試験方法(A):上記合成樹脂シートから縦×横が100mm×10mmの試験片を切り出して、該試験片の縦寸法に対して50mmだけ試験台の水平な上面から水平方向へはみ出した状態で試験台に固定し、その後3分以内に、試験台からはみ出した試験片の先端が試験台の上面を含む水平面から鉛直下方へ垂れ下がった距離を測定する。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の細胞培養容器を用いた細胞培養方法であって、
上記容器本体に培地を保持させ、上記培養領域に付着性細胞を播種してインキュベートする工程を含む細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、付着性細胞を培養するための細胞培養容器、その製造方法、及び細胞培養方法に関し、特に、細胞培養容器の容器本体が所定の曲げ剛性を有する合成樹脂シートからなるものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、哺乳動物の付着性細胞や懸濁細胞を生体外で培養する方法が知られている。このような培養は、例えばガラス製や合成樹脂製のフラスコ又はシャーレに代表される培養容器内で行われる。一般に、このような培養容器は容量の小さいものが多く、大量培養には不向きである。また、培地を交換する際に雑菌が混入しやすいという問題がある。
【0003】
一方、浮遊性細胞を培養する容器として、バッグ形状の細胞培養容器が考案されている(特許文献1)。この細胞培養容器は、合成樹脂シートを貼り合わせて内部に培地を封入可能な密閉空間を形成し、該密閉空間にポートを通じて培地や細胞浮遊液を流出入可能とされている。
【0004】
また、バッグ形状の細胞培養容器には、付着性細胞に適応すべく、バッグの内壁をコロナ放電で処理して親水性を高め、細胞が付着し易くされたものがある(特許文献2,3)。
【0005】
【特許文献1】特開平3−65177号公報
【特許文献2】特開平3−160984号公報
【特許文献3】特開平6−98756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バッグ形状の細胞培養容器の合成樹脂シートには、ガス透過性などを考慮してポリオレフィン系樹脂製のシートが採用されている。また、細胞培養容器のガス透過性を高めるために、合成樹脂シートの厚みは薄くされる傾向にある。この合成樹脂シートは非常に柔軟性が高く、細胞培養容器に皺が生じやすい。付着性細胞の培養において、細胞が付着する面に皺が生じると、その皺を境界として面に沿った細胞の増殖が阻害されるという問題がある。
【0007】
また、細胞培養容器が柔軟に変形するので、培養中に細胞培養容器を移動させると、その変形や変形に伴う衝撃によって、バッグの内壁に付着していた細胞が剥離することがある。剥離した細胞が培地中で凝集塊を形成することにより、細胞培養容器内から細胞の凝集塊を回収することが困難になったり、細胞が死滅するおそれがあったりする。
【0008】
また、細胞培養容器の変形により、バッグの内壁同士が近接すると、それら各内壁に付着されて培養されている細胞同士が接着することがある。さらに細胞培養容器が変形されると、接着した細胞が一方の内壁から剥がれて前述と同様の問題が生じることがある。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、付着細胞が付着し得る培養領域を有し、培養中において容易に変形しない細胞培養容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1) 本発明は、付着性細胞を培養するための細胞培養容器であって、下記試験方法(A)による曲げ剛性が20mm以下である合成樹脂シートが、付着性細胞の培養に要する培地を保持する容器形状に形成されてなる容器本体を有し、該合成樹脂シートの内面に、細胞付着性官能基を有する培養領域が形成されたものである。
試験方法(A):上記合成樹脂シートから縦×横が100mm×10mmの試験片を切り出して、該試験片の縦寸法に対して50mmだけ試験台の水平な上面から水平方向へはみ出した状態で試験台に固定し、その後3分以内に、試験台からはみ出した試験片の先端が試験台の上面を含む水平面から鉛直下方へ垂れ下がった距離を測定する。
【0011】
容器本体には、培地が充填されて保持される。容器本体の内面には、細胞付着性官能基を有する培養領域が形成されている。細胞付着性官能基は、例えばカルボキシル基やアミノ基に代表される化学官能基である。培養領域には、付着性細胞が播種される。培養領域が形成された合成樹脂シートは、前述された所定の曲げ剛性を有するので、容器形状は変形されることなく維持される。培養領域に播種された付着性細胞は、培地環境下で培養領域に沿って培養される。
【0012】
(2) 上記合成樹脂シートは、少なくとも上記容器本体の内面側にポリオレフィン系樹脂層を有するものであり、上記培養領域は、上記ポリオレフィン系樹脂層がプラズマ処理された領域であることが考えられる。これにより、培養領域に細胞付着性官能基を生成させることができる。
【0013】
(3) 上記培養領域は、上記ポリオレフィン系樹脂層が酸素又は窒素雰囲気下でプラズマ処理された領域であることが好適である。これにより、例えばカルボキシル基やアミノ基が培養領域に形成される。
【0014】
(4) 本発明は、付着性細胞を培養するための細胞培養容器の製造方法であって、上記試験方法(A)による曲げ剛性が20mm以下である合成樹脂シートをプラズマ処理することにより、細胞付着性官能基を有する培養領域を形成し、該培養領域を内面として培地を保持可能な容器形状に上記合成樹脂シートを形成する工程を含むものとして捉えることもできる。
【0015】
(5) 本発明は、上記細胞培養容器を用いた細胞培養方法であって、上記容器本体に培地を保持させ、上記培養領域に付着性細胞を播種してインキュベートする工程を含むものとして捉えることもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る細胞培養容器によれば、前述された所定の曲げ剛性を有する合成樹脂シートに、細胞付着性官能基を有する培養領域が形成されて容器本体とされているので、培養中において、例えば容器が移動されたり反転されたりしても、容器形状が変形されることなく維持される。これにより、付着性細胞の剥離や死滅が生じることなく、付着性細胞の培養を簡易且つ確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の好ましい実施形態が説明される。なお、本実施形態は本発明の一実施態様にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で実施態様が変更されてもよいことは言うまでもない。図1は、本発明の実施形態に係る細胞培養容器1の外観構成を示す斜視図である。図2は、細胞培養容器1の詳細な構成を示す分解斜視図である。図3及び図4は、合成樹脂シートの曲げ剛性の試験方法(A)を説明するための図である。
【0018】
図1及び図2に示されるように、細胞培養容器1は、容器本体2と、容器本体2の内部に培地などの流動体を流出入可能とするポート3,4とを有する。容器本体2は、平面視において矩形であって、その内部に一定容量の培地を封入可能なものであり、一般に、バッグ形状と称される。容器本体2の形状は、特に限定されるものではなく、後述される培養領域の面積や充填される培地の容量、操作性などを考慮して、形状及び容量が設定される。要するに、容器本体2は、培養領域を有し、所望の容量の培地を保持できるものであればよいが、本実施形態にように、容器本体2が培地を保持する密閉空間を形成するものであれば、容器本体2の内部空間に雑菌などが侵入するおそれが低減される。容器本体2の容量としては、例えば、20〜400mLが採用され、操作性を考慮すれば、50〜200mLが好ましい。
【0019】
図2に示されるように、平面視において矩形の樹脂シート(合成樹脂シート)20,21が貼り合わせられて、容器本体1を形成している。樹脂シート20,21は、図2における上下方向に対象形状をなしており、四方の周縁領域22,23が接着され、該周縁領域22,23に囲繞される中央に、培地が封入される所定容量の密閉空間24が形成されている。
【0020】
周縁領域22,23は、2枚の樹脂シート20,21が貼り合わされる際の接着領域である。樹脂シート20,21の貼り合わせは、例えば、周縁領域22,23を熱溶着することにより行われる。周縁領域22,23の一縁側には、樹脂チューブ26,27が介設される。樹脂チューブ26,27が介在された状態で周縁領域22,23が張り合わされることにより、樹脂チューブ26,27が容器本体2の内部にアクセスするためのポート3,4となる。なお、本実施形態では、容器本体2に2つのポート3,4が設けられているが、ポートの数は適宜変更されてよい。
【0021】
密閉空間24は、容器本体2の内部空間である。密閉空間24を区画する樹脂シート20,21の内面のうち培地と接触する部分は培養領域である。培養領域は、付着性細胞が付着し得る細胞付着性官能基を有する。この細胞付着性官能基については後述される。密閉空間24に培地が充填されることにより、培養領域は培地と接触する。つまり、培養領域は、樹脂シート20,21における培地との接触面でもある。なお、培養領域は、容器本体2の内面のすべてである必要はなく、一部のみに形成されていてもよいが、後述される表面処理を施すには、樹脂シート20,21の内面の周縁領域22,23以外のすべてを培養領域とすることが好ましい。
【0022】
樹脂シート20,21は、容器形状を維持できる曲げ剛性が必要である。樹脂シート20,21の曲げ剛性は、下記試験方法(A)による規定される。
試験方法(A):樹脂シート20,21から縦×横が100mm×10mmの試験片を切り出して、該試験片の縦寸法に対して50mmだけ試験台の水平な上面から水平方向へはみ出した状態で試験台に固定し、その後3分以内に、試験台からはみ出した試験片の先端が試験台の上面を含む水平面から鉛直下方へ垂れ下がった距離を測定する。
【0023】
曲げ剛性試験に用いられる樹脂シート20,21は、少なくとも成形後3日間経過したものとする。試験片は、樹脂シート20,21の任意の位置から切り出されるが、培養領域において試験片が切り出されることが好ましい。図3に示されるように、試験片40は短冊形状であり、縦寸法(長手方向)が100mmであり、横寸法が10mmである。試験片40の厚みは樹脂シート20,21の厚みである。曲げ剛性を測定するための試験片40の個数は特に限定されないが、再現性があり且つ正確な測定値を得るためには3枚以上の試験片40を測定し、その数平均値を測定値として用いることが好適である。また、樹脂シート20,21から切り出した試験片40は、温度25℃、湿度60%の恒温恒湿槽内に3時間以上保管する。
【0024】
試験台41は、上面42が水平面であって試験片40を載置するに十分な面積を有するものとする。試験台41の高さは、試験片40の縦寸法(100mm)以上あれば十分である。また、試験台41は試験片40の垂れ下がりを側方から確認しやすい形状のものが好適であり、例えば直方体形状とすればよい。
【0025】
恒温恒湿槽から取り出された試験片40は、図3に示されるように、縦寸法に対して50mmだけ水平方向にはみ出した状態で試験台41の上面42に載置される。つまり、試験片40は、縦寸法の50mmに相当する部分が試験台41の上面42に載置されており、縦寸法の残りの50mmに相当する部分は試験台41の上面42の縁から水平方向に飛び出して支持されていない状態とされる。試験台41の上面42に載置された試験片40の一部分に対して適当な錘43を載せて、試験片40を試験台41上に固定する。
【0026】
そして、30秒経過後から3分経過以内に、図4に示すように、試験台41からはみ出した試験片40の先端44が鉛直下方へ垂れ下がった寸法Lを測定する。この寸法Lは、試験台41の上面42を含む水平面45から、試験片41の先端44までの最短距離である。試験片41の先端44は、試験片41の横寸法の中央であっても、試験片41の先端44の最下位置であってもよい。寸法Lの測定は、例えば、図4に示すように、試験台の側面に水平面45をゼロとして鉛直下方へ向かって延びる寸法目盛り46を付しておき、試験台41の側方から先端44に対応する目盛り46を目視で読み取ることにより測定できる。また、試験片40を含む試験台41の側面の画像を撮影して、得られた画像を解析することにより測定してもよい。
【0027】
樹脂シート20,21の曲げ剛性は、前述された試験方法(A)により得られた値が20mm以下であり、より好ましくは、15mm以下であり、特に好ましくは、10mm以下である。樹脂シート20,21が上記範囲の曲げ剛性を有することにより、容器本体2が培養中においてバッグ形状を維持し、対向する樹脂シート20,21の各培養領域が接触することが防止される。
【0028】
本発明の樹脂シート20,21は、前述された所定の曲げ剛性を満足するものであればよい。樹脂シート20,21の曲げ剛性は、素材、厚み、ラミネート構造などに依存して変動する。換言すれば、樹脂シート20,21の素材の選択のみならず、厚みやラミネート構造を適宜設定することにより、前述された所定の曲げ剛性を満足する樹脂シート20,21とすることができる。例えば、樹脂シート20,21の素材として低密度ポリエチレンを選択した場合には厚みを200μm以上とすることにより前述された所定の曲げ剛性を満足する。また、樹脂シート20,21の素材として超高分子量ポリエチレンを選択した場合には厚みを25μm以上とし、環状ポリオレフィン系樹脂を選択した場合には厚みを100μm以上とすることにより前述された所定の曲げ剛性を満足する。
【0029】
また、樹脂シート20,21の各素材における厚みが前述された厚み未満である場合でも、他の素材とのラミネート構造を採用することにより、前述された所定の曲げ剛性を満足させることができる。例えば、樹脂シート20,21として、厚み25μmの低密度ポリエチレン層と厚み25μmの超高分子量ポリエチレン層とのラミネート構造を採用することにより、前述された所定の曲げ剛性を満足する。また、樹脂シート20,21として、厚み50μmの環状ポリオレフィン樹脂層と厚み50μmのポリテトラフルオロエチレン層とのラミネート構造を採用することにより、前述された所定の曲げ剛性を満足する。
【0030】
樹脂シート20,21の内面側は、細胞毒性を低くするという観点から、ポリオレフィン系樹脂層が好ましい。ポリオレフィン系樹脂として、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリエチレン−ポリテトラフルオロエチレン共重合体、ポリエチレン−1,2−ジクロロエタン共重合体などが挙げられる。樹脂シート20,21は、必ずしも1種のポリオレフィン系樹脂単独のシートである必要はなく、2種以上のポリオレフィン系樹脂層又は他の合成樹脂層が積層されたラミネート構造であってもよい。その場合、容器本体2において培地と接触する面、すなわち内面をポリオレフィン系樹脂層とする。
【0031】
ラミネート構造において積層される樹脂シートとしては、例えば、ポリエチレン、ポリ酢酸エチル、ポリビニルアルコール、ポリ−1,2−ジクロロエタンなどが挙げられる。また、樹脂シート20,21の形状を維持する観点からは、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミドなどが挙げられる。ラミネート構造は特に限定されないが、材料及び製造のコストや成形加工性の観点から、内層に環状ポリオレフィン重合体、中間層にポリエチレン、外層にポリエチレンテレフタレートの3層構造のラミネートフィルムが好ましい。
【0032】
ポリオレフィン系樹脂層は、環状ポリオレフィン系重合体からなるものであってもよい。環状ポリオレフィン系重合体とは、分子内に脂環式炭化水素基(環状オレフィンモノマーユニット)を含む重合体の総称であり、1種以上の環状オレフィンモノマーの開環重合体若しくは付加重合体に代表され、非晶質且つ高透明性である。
【0033】
環状ポリオレフィン系重合体の種類は特に限定されないが、開環重合体がモノマーやオリゴマーの溶出が少ないので好ましく、水素付加された開環共重合体がより好ましい。環状ポリオレフィン系重合体の重量平均分子量は特に限定されないが、成形体(樹脂シート20,21)の機械的強度及び成形加工性の観点から、5000〜500000が好ましく、より好ましくは8000〜250000であり、さらに好ましくは10000〜200000である。
【0034】
上記脂環式炭化水素基は、分子内に脂環式構造を有するものであれば特に限定されず、例えば、飽和環状炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和環状炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられる。特に、機械的強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造が最も好ましい。脂環式構造は、分子内の主鎖にあっても側鎖にあってもよいが、機械的強度、耐熱性などの観点から、分子内の主鎖に脂環式構造が存在することが好ましい。脂環式構造を構成する炭素原子数は、機械的強度、耐熱性、及び樹脂シートの成形性の観点から4〜30個が好ましく、より好ましくは5〜20個であり、さらに好ましくは5〜15個である。
【0035】
脂環式炭化水素基を有する化合物(環状オレフィンモノマー)は、シクロペンタジエン類又はその熱分解中間体のシクロペンタジエンと、オレフィン類とを、ディールス・アルダー(Diels-Alder)反応により縮合されて得られる(化1)。
【0036】
【化1】


【0037】
このような脂環式炭化水素基を有する化合物として、例えば、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン系化合物(慣用名:ノルボルネン、化2)、トリシクロ[4,3,0,12.5]−3−デセン系化合物(慣用名:ジシクロペンタジエン、化3)、テトラシクロ[4,4,0,12.5,17.10]−3−ドデセン系化合物(化4)、ヘキサシクロ[6,6,1,13.6,110.13,02.7,09.14]−4−ヘプタデセン系化合物(化5)、ペンタシクロ[6,6,1,13.6,02.7,09.14]−4−ヘキサデセン系化合物(化6)などが挙げられる。
【0038】
【化2】


【0039】
【化3】


【0040】
【化4】


【0041】
【化5】


【0042】
【化6】


【0043】
前述されたビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン系化合物などのように「〜系化合物」とは、「〜」に記載された化合物を基本とし、その誘導体を含む概念である。例えば、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン系化合物の場合は、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン系化合物(化2)の他に、6−メチルビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン(化7)、5,6−ジメチルビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン(化8)、1−メチルビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン(化9)、6−エチルビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン(化10)、6−n−ブチルビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン(化11)、6−イソブチルビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン(化12)、7−メチルビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン(化13)などが挙げられる。
【0044】
【化7】


【0045】
【化8】


【0046】
【化9】


【0047】
【化10】


【0048】
【化11】


【0049】
【化12】


【0050】
【化13】


【0051】
環状オレフィンモノマーの付加重合体とは、α−オレフィンモノマーと環状オレフィンモノマーとの付加重合体であって、環状オレフィンモノマーの橋架け構造が維持されたものをいう。付加重合は、主に、遷移金属/アルキル金属化合物からなるチグラー触媒、又は遷移金属錯体/アルミ系助触媒からなるメタロセン触媒を用いて行われる。付加重合体の一般式を以下に示す(化14)。
【0052】
【化14】


【0053】
付加重合体に使用されるα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネンなどが挙げられる。
【0054】
これら環状ポリオレフィン系付加重合体の市販品としては、例えば、三井化学社のアベル(三井化学社所有商標)、ティコナ社のTopas(ティコナ社所有商標)などが挙げられる。
【0055】
環状オレフィンモノマーの開環重合体とは、環状オレフィンモノマーの二重結合が開環され、環状オレフィンモノマーの橋架け構造がなくなった重合体をいう。開環重合は、主にメタシス重合触媒が用いられて行われる。開環重合体の一般式を以下に示す(化15)。
【0056】
【化15】


【0057】
開環重合体は、酸化安定性を向上させる観点から、二重結合に水素付加されたものが好ましい。水素付加は、通常、開環重合体の重合溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加して行われる。開環重合体における水素付加の一般式を以下に示す(化16)。
【0058】
【化16】


【0059】
環状オレフィンモノマーの開環重合体の市販としては、例えば、日本ゼオン社のゼオネックス及びゼオネア(共に日本ゼオン社所有商標)、ジェイ・エス・アール社のアートン(ジェイ・エス・アール社所有商標)などが挙げられる。
【0060】
環状ポリオレフィン系重合体は、共重合体であってもよい。環状オレフィンモノマーと共重合されるモノマーの共重合体中における割合は、共重合体の物性などにより選択されるものであって特に限定されないが、通常、環状オレフィンモノマーと共重合されるモノマーとの重量比が30:70〜99:1であり、好ましくは50:50〜97:3、より好ましくは70:30〜95:5である。
【0061】
また、本実施形態では、容器本体2は、2枚の樹脂シート20,21が張り合わされたバッグ形状とされているが、本発明において容器本体の形状は他の形状であってもよい。例えば、1枚の樹脂シートが二つ折りに折り畳まれて貼り合わされることによりバッグ形状が形成されてもよい。また、例えば、培地が充填される密閉空間を有するボトル形状が他の形状として考えられる。
【0062】
樹脂シート20,21の内面に形成される培養領域は、細胞付着性官能基を有する。細胞付着性官能基とは、細胞との親和性に優れた化学官能基という。細胞付着性官能基として、例えば、アミノ基、アミン基、水酸基、スルホン基、スルフェン基、スルフィン基、エーテル基、カルボキシル基、カルボニル基などが挙げられる。これらのうち、細胞との付着性が高いアミノ基及びカルボキシル基が好ましい。
【0063】
培養領域は、樹脂シート20,21の内面がプラズマ処理されることにより形成される。プラズマ処理により樹脂シート20,21の内面のポリオレフィン系樹脂層が細胞付着性官能基化される。プラズマ処理とは、特定ガス雰囲気下で放電して、特定ガスの電離作用によって生じるプラズマを処理対象物に照射することにより、処理対象物の表面に、エッチング、親水性(濡れ性)の向上、官能基の導入などの効果を付与する処理である。プラズマ処理における放電としては、一般に、コロナ放電(高圧低温プラズマ)、アーク放電(高圧高温プラズマ)、グロー放電(低圧低温プラズマ)、大気圧プラズマが挙げられるが、製造コストが安価であることから大気圧プラズマが好ましい。
【0064】
大気圧プラズマは大気圧下で行われるプラズマ処理であり、通常、8.88×10−2〜10.85×10−2MPaの圧力下で行われる。その他の条件は適宜設定されるものであるが、例えば、温度が約25〜50℃、出力が約100〜500W、放電時間が約1〜10000秒の範囲で行われる。また、プラズマ処理の回数は特に限定されないが、通常、1〜10回程度である。
【0065】
プラズマ処理に用いられる上記特定ガスは、少なくとも酸素原子又は窒素原子を含む気体であれば、当業者により任意に選択される。このような特定ガスとして、例えば、酸素、窒素、空気、一酸化炭素、二酸化炭素、亜酸化窒素、アンモニア、三フッ化窒素などの他、混合ガスとして、酸素/希ガス、窒素/希ガス、空気/希ガス、一酸化炭素/希ガス、亜酸化窒素/希ガス、又は三フッ化窒素/希ガスなどが挙げられる。また、酸素元素又は窒素元素を含む水、ヒドラジンなどの液体を気化させたものであってもよい。さらに、本発明の効果を損なわない限り、これらのガス以外に、水素、メタン、四フッ化炭素などが特定ガスに含まれていてもよい。また、上記希ガスとしては、例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノンが挙げられる。
【0066】
プラズマ処理は、容器本体2として貼り合わされる前の樹脂シート20,21に施されてもよいし、容器本体2とした後に施されてもよい。また、樹脂シート20,21にプラズマ処理を施す場合には、熱溶着される周縁領域22,23をマスキングして一部にのみ行うこともできる。
【0067】
プラズマ処理は、通常、プラズマ処理装置を用いて行われる。プラズマ処理装置のチャンバー内を特定ガス雰囲気にした後、該チャンバー内に樹脂シート20,21又は容器本体2を入れ、チャンバー内の対向する電極間に位置せしめて放電を行う。これにより、樹脂シート20,21又は容器本体2にプラズマ処理が施される。その後、樹脂シート20,21又は容器本体2を、チャンバーから取り出す。
【0068】
プラズマ処理により、ポリオレフィン系樹脂層が細胞付着性官能基化されて樹脂シート20,21の内面に細胞付着性が付与される。プラズマ処理の効果は、樹脂シート20,21の内面と水との接触角として評価することができる。プラズマ処理がされた樹脂シート20,21の内面の接触角は、細胞の付着性の観点から70°以下が好ましく、より好ましくは45°以下である。なお、ポリオレフィン系樹脂層を細胞付着性官能基化する方法はプラズマ処理に限定されず、例えば、イオンビームを照射することにより行うことも考えられる。
【0069】
以下、細胞培養容器1の使用方法について説明する。細胞培養容器1は、付着性細胞の培養に用いられる。付着性細胞とは、基材に付着して、該基材を足場として増殖することができる細胞であり、浮遊性細胞と対立する概念である。付着性細胞としては、例えば、骨膜細胞、間葉系幹細胞、神経細胞、上皮細胞、繊維芽細胞などが挙げられる。
【0070】
培養される付着性細胞は、培地との懸濁液(細胞懸濁液)としてポート3,4の一方から容器本体2へ注入する。密閉空間24に懸濁液(培地)を充填することにより、樹脂シート20,21の互いの内面、すなわち培養領域が離間された状態に維持される。細胞懸濁液における付着性細胞の濃度は適宜設定されるものではあるが、通常、容器本体2の培養領域の単位面積当たり、約2000〜3000cells/cmが目安とされる。容器本体2に細胞懸濁液を注入した後、容器本体2のいずれかの培養領域(両面にある場合にはいずれでもよい)を下側にした状態で、10〜40分間程度、細胞培養容器1を静置する。これにより、細胞懸濁液中の付着細胞が沈殿して容器本体2の内面、すなわち培養領域に付着する。つまり、容器本体2の培養領域に付着性細胞が播種される。本実施形態のように、容器本体2の内面の両側が培養領域である場合には、その後、容器本体2を表裏が逆になるように反転させ、反対側の培養領域にも付着性細胞を付着させる。そして、二酸化炭素環境下、37℃などの所定の培養条件でインキュベートして細胞培養を行う。
【0071】
容器本体2は、所定の曲げ剛性を有する樹脂シート20,21からなるので、インキュベートの間において、その形状は変形されることなく維持される。換言すれば、インキュベートの間に、容器本体2の培養領域に皺が生じたり、対向する内面同士が近接することがないので、付着性細胞の剥離や死滅が生じることがない。これにより、付着性細胞の培養を簡易且つ確実に行うことができる。また、容器本体2への細胞懸濁液の注入はポート3,4を通じて行われ、培地の交換もポート3,4を通じて行われるので、容器本体2内に雑菌が侵入するおそれが低減される。
【実施例】
【0072】
以下に、本発明の実施例が説明される。実施例は、本発明の一実施形態であり、本発明が実施例に記載されたものに限定されないことは言うまでもない。
【0073】
(実施例1)
低密度ポリエチレン(LDPE、三菱ファーマケミカル)単層、厚み300μmの樹脂シートを縦180mm×横180mmの長方形に裁断した。裁断した樹脂シートの周縁領域の約25mmをマスキングして大気圧プラズマ処理を行った。大気圧プラズマ処理は、約25℃、アルゴン68容量%、ヘリウム29容量%、窒素3容量%の混合ガス雰囲気下、大気圧で行った。また、高圧電極及び低圧電極は板状(335mm×250mm)とし、電極間距離を3mmに設定した。また、電源として周波数が5kHzの交流電源を用い、高圧電極と低圧電極との間に2.2kVの電圧を与えた。このプラズマ処理を30秒間行うことにより、上記樹脂シートの中央部(縦130mm×横130mm)に細胞付着性官能基を導入した。
【0074】
プラズマ処理された2枚の樹脂シートを重ね、ポートとしてポリエチレン製のチューブをフィルム間に配置して、周縁領域をヒートシールで溶着することにより、上記実施形態と同様の細胞培養容器1を得た。得られた細胞培養容器1に対して、エチレンオキサイドガスを用いて滅菌処理を行った。細胞培養容器1の容器本体2の内面、すなわち培養領域をFT−IR(フーリエ変換型赤外分光)装置(日本分光、商品名:FT/IR−420)及び元素分析装置(日本電子、JMS−6360LP)を用いて分析したところ、アミノ基が官能基化されていることが確認された。また、樹脂シートの曲げ剛性を前述された試験方法(A)に基づいて行った。その結果を表1に示す。
【0075】
【表1】


【0076】
(実施例2)
低密度ポリエチレン単層、厚み200μmの樹脂シートを用いた他は、上記実施例1と同様にして大気圧プラズマ処理を行い、細胞培養容器1を得た。細胞培養容器1の容器本体2の内面には、アミノ基が官能基化されていることが確認された。また、樹脂シートの曲げ剛性を前述された試験方法(A)に基づいて行った。その結果を表1に示す。
【0077】
(実施例3)
内層が厚み25μmの低密度ポリエチレン層、外層が厚み25μmの超高分子量ポリエチレン(UHWPE、作新工業、商品名:ニューライト)層であるラミネート構造の樹脂シートを用いた他は、上記実施例1と同様にして大気圧プラズマ処理を行い、細胞培養容器1を得た。細胞培養容器1の容器本体2の内面には、アミノ基が官能基化されていることが確認された。また、樹脂シートの曲げ剛性を前述された試験方法(A)に基づいて行った。その結果を表1に示す。
【0078】
(実施例4)
内層が厚み50μmの環状ポリオレフィン系重合体(COP、日本ゼオン社製:ゼオノア)、外層が厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET、三菱ファーマケミカル)であるラミネート構造の樹脂シートを用いた他は、上記実施例1と同様にして大気圧プラズマ処理を行い、細胞培養容器1を得た。細胞培養容器1の容器本体2の内面には、アミノ基が官能基化されていることが確認された。また、樹脂シートの曲げ剛性を前述された試験方法(A)に基づいて行った。その結果を表1に示す。
【0079】
(実施例5)
大気圧プラズマ処理において使用するガスを、アルゴン67容量%、ヘリウム29容量%、酸素4容量%の混合ガスとしたこと以外は、上記実施例4と同様にして細胞培養容器1を得た。細胞培養容器1の容器本体2の内面には、カルボキシル基が官能基化されていることが確認された。また、樹脂シートの曲げ剛性を前述された試験方法(A)に基づいて行った。その結果を表1に示す。
【0080】
(実施例6)
プラズマ処理時間を5秒間とした他は、上記実施例1と同様にして細胞培養容器1を得た。細胞培養容器1の容器本体2の内面には、アミノ基が官能基化されていることが確認された。また、樹脂シートの曲げ剛性を前述された試験方法(A)に基づいて行った。その結果を表1に示す。
【0081】
(実施例7)
大気圧プラズマ処理において使用するガスを、アルゴン68容量%、ヘリウム29容量%、二酸化炭素3容量%の混合ガスとしたこと以外は、上記実施例1と同様にして細胞培養容器1を得た。細胞培養容器1の容器本体2の内面には、カルボキシル基が官能基化されていることが確認された。また、樹脂シートの曲げ剛性を前述された試験方法(A)に基づいて行った。その結果を表1に示す。
【0082】
(実施例8)
大気圧プラズマ処理において使用するガスを、アルゴン70容量%、ヘリウム30容量%の混合ガスとしたこと以外は、上記実施例1と同様にして細胞培養容器1を得た。細胞培養容器1の容器本体2の内面には、カルボキシル基が官能基化されていることが確認された。また、樹脂シートの曲げ剛性を前述された試験方法(A)に基づいて行った。その結果を表1に示す。
【0083】
(比較例1)
低密度ポリエチレン単層、厚み100μmの樹脂シートを用いた他は、上記実施例1と同様にして大気圧プラズマ処理を行い、細胞培養容器1を得た。細胞培養容器1の容器本体2の内面には、アミノ基が官能基化されていることが確認された。また、樹脂シートの曲げ剛性を前述された試験方法(A)に基づいて行った。その結果を表1に示す。
【0084】
(比較例2)
低密度ポリエチレン単層、厚み300μmの樹脂シートを用い、大気圧プラズマ処理を行わなかったほかは、上記実施例1と同様にして細胞培養容器1を得た。また、樹脂シートの曲げ剛性を前述された試験方法(A)に基づいて行った。その結果を表1に示す。
【0085】
(比較例3)
低密度ポリエチレン単層、厚み200μmの樹脂シートを用い、大気圧プラズマ処理を行わなかったほかは、上記実施例1と同様にして細胞培養容器1を得た。また、樹脂シートの曲げ剛性を前述された試験方法(A)に基づいて行った。その結果を表1に示す。
【0086】
(比較例4)
低密度ポリエチレン単層、厚み100μmの樹脂シートを用い、大気圧プラズマ処理を行わなかったほかは、上記実施例1と同様にして細胞培養容器1を得た。また、樹脂シートの曲げ剛性を前述された試験方法(A)に基づいて行った。その結果を表1に示す。
【0087】
(N/CまたはCOO/Nの測定)
実施例1、実施例6〜8、比較例2の細胞培養容器1を用いて、N/CまたはCOO/Nの測定を行った。測定装置として、島津製作所製ESCA3300を用いた。また、測定条件を、励起X線:MgKα,10kV,20mA、光電子脱出角度:90°、測定エネルギー間隔:wide測定1.0eV,narrow測定0.1eVとした。得られた測定結果から、N/CまたはCOO/Cを算出した。測定結果の例として、図5に、実施例6の細胞培養容器1のESCA測定結果(wide測定)を示し、図6に、実施例8の細胞培養容器1のESCA測定結果(narrow測定)を示し、図7に、比較例2の細胞培養容器1のESCA測定結果(wide測定及びnarrow測定)を示す。
【0088】
N/Cは、得られた測定結果より、Nのピーク面積をCのピーク面積で除して100を乗じることにより算出した。なお、ピーク面積を算出する際のバックグラウンド設定には直線法を用いた。一方、COO/Cは、得られた測定結果より、COOに帰属するピーク面積をC全体のピーク面積の波形分離により求め、得られた値をC全体のピーク面積で除して100を乗じることにより算出した。なお、Cのピーク範囲は、280.1〜292.2eVに設定し、バックグラウンド設定には直線法を用いた。COO結合ピークは289eVとし、ピーク強度がバックグラウンドよりも高いかどうかを目視により判定し、その結果ピークが確認できないものを計測不能とした。
【0089】
(培養実験)
実施例1、実施例2、実施例6〜8、比較例1〜比較例4の細胞培養容器1を用いて、線維芽細胞の培養実験を行った。詳細には、10%牛胎児血清を含有するDMEM培地に、線維芽細胞を濃度が1.0×10cells/mLとなるように加えて細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液100mLをポートから細胞培養容器1の容器本体2内に注入した。細胞培養容器1を寝かせた状態、つまり、対向する容器本体2の内面のうち一方を下側にして約20分間静置した後、細胞培養容器1を表裏面が逆になるように反転させて、他方の内面を下側にして約20分間静置して、容器本体2の両側の内面(培養領域)に線維芽細胞を付着させた。そして、5%CO、37℃に設定したインキューベーター内で培養を開始した。培養3日目及び6日目に、培地の半量交換を行った。培養7日経過後に、容器本体2内で培養された線維芽細胞に細胞染色を施して、容器本体2から培地を抜いて外観を観察した。
【0090】
培養7日経過後の線維芽細胞の様子については、ギムザ染色により評価した。具体的には、培養7日経過後に容器本体2内の培地を取り除き、メタノール(和光純薬)約100mLをポートから細胞培養容器1の容器本体2内に注入して30分間静置した。つぎに、容器本体2からメタノールを取り除き、純水を用いて7%に希釈されたギムザ染色液(メルク)約100mLをポートから細胞培養容器1の容器本体2内に注入して60分間静置した。そして、容器本体2からギムザ染色液を取り除いた後、容器本体2内を純水約100mLで3回洗浄してから容器本体2を十分に乾燥させた。実施例1、実施例2、実施例6から8及び比較例1から比較例3の細胞培養容器1の容器本体2について、このギムザ染色を行った結果を図8から図16に示す。これらの染色結果から目視判定により細胞の培養が確認されれば「○」とし、細胞の培養が確認できなければ「×」とした。その結果を表1に示す。なお、図8から図16においては、染色された領域が黒色で示されているが、実際には、染色された領域は紫色を呈した。また、薄紫色を呈した領域を細胞が培養された領域と判断し、透明な領域を細胞が培養されなかった又は剥離した領域と判断したが、白黒で示された各図においては薄紫色と透明との相違が明確ではない。
【0091】
(評価)
表1に示されるように、実施例1から実施例8で用いた樹脂シートは、いずれも曲げ剛性が20mm以下であった。これに対し、比較例1及び比較例4で用いた樹脂シートは曲げ剛性が20mmを超えた。樹脂シートの素材が同一であり厚みの異なる実施例1及び実施例2、比較例2〜比較例4において曲げ剛性を比較すると、樹脂シートの厚みが厚くなることにより曲げ剛性が高くなる(値が小さくなる)ことがわかる。また、樹脂シートの素材についてみれば、環状ポリオレフィン系重合体とポリエチレンテレフタレートとのラミネート構造である実施例4及び実施例5において、最も曲げ剛性が高く且つ厚みを薄くできることがわかる。また、N/CまたはCOO/Cより、実施例1,6〜8で用いた樹脂シートには、アミノ基またはカルボキシル基が導入されているのに対し、比較例2で用いた樹脂シートには、アミノ基またはカルボキシル基のいずれも確認することができなかった。また、実施例1,6では、プラズマ処理時間が長いほどN/Cが高いことが確認された。これにより、プラズマ処理によって、同素材の樹脂シートより多くのアミノ基またはカルボキシル基が導入されることがわかる。
【0092】
図8〜12に示すように、実施例1,2,6〜8では、培養実験で容器本体2の内面に沿って線維芽細胞が培養されることが確認された。なお、各図において黒色(実際は紫色)を呈している部分が染色された細胞であり、容器本体2において細胞が付着していない部分は透明である。これに対し、図13に示すように、比較例1では、容器本体2の内面からの細胞の剥離が多く、内面に沿って培養された線維芽細胞が実施例1及び実施例2よりも明らかに少ないことが確認された。実施例1,2と比較例1とでは、樹脂シートの曲げ剛性がことなるほかは同様の構成であるので、樹脂シートの曲げ剛性が20mm以下であれば、培養中のハンドリングなどにより容器本体2の内面に付着している細胞が剥離することがなく、取り扱いが容易であることが確認された。また、図14〜図16に示すように、プラズマ処理が行われずに細胞付着性官能基を有しない容器本体2、つまり細胞培養領域が形成されていない容器本体2では、付着性細胞が培養されないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る細胞培養容器1の外観構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、細胞培養容器1の詳細な構成を示す分解斜視図である。
【図3】図3は、曲げ剛性の試験方法を説明するための斜視図である。
【図4】図4は、試験台の側面図である。
【図5】図5は、実施例6の細胞培養容器1のESCA測定結果(wide測定)である。
【図6】図6は、実施例8の細胞培養容器1のESCA測定結果(narrow測定)である。
【図7】図7は、比較例2の細胞培養容器1のESCA測定結果(wide測定及びnarrow測定)である。
【図8】図8は、実施例1に係る細胞培養容器1の培養試験結果を示す図である。
【図9】図9は、実施例2に係る細胞培養容器1の培養試験結果を示す図である。
【図10】図10は、実施例6に係る細胞培養容器1の培養試験結果を示す図である。
【図11】図11は、実施例7に係る細胞培養容器1の培養試験結果を示す図である。
【図12】図12は、実施例8に係る細胞培養容器1の培養試験結果を示す図である。
【図13】図13は、比較例1に係る細胞培養容器1の培養試験結果を示す図である。
【図14】図14は、比較例2に係る細胞培養容器1の培養試験結果を示す図である。
【図15】図15は、比較例3に係る細胞培養容器1の培養試験結果を示す図である。
【図16】図16は、比較例4に係る細胞培養容器1の培養試験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0094】
1・・・細胞培養容器
2・・・容器本体
3,4・・・ポート
【出願人】 【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
【識別番号】000126115
【氏名又は名称】エア・ウォーター株式会社
【出願日】 平成19年6月15日(2007.6.15)
【代理人】 【識別番号】100117101
【弁理士】
【氏名又は名称】西木 信夫

【識別番号】100120318
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 朋浩


【公開番号】 特開2008−17839(P2008−17839A)
【公開日】 平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願番号】 特願2007−158936(P2007−158936)