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【発明の名称】 レーザー照射型外来物質導入デバイス
【発明者】 【氏名】坪井 泰之

【氏名】三澤 弘明

【氏名】ヨードカジス サウリウス

【氏名】大嶋 茂樹

【氏名】小山 芳一

【要約】 【課題】生体組織に火傷を生じさせずに衝撃波を繰り返し与えることができるレーザー照射型外来物質導入デバイスを提供すること。

【構成】レーザー照射型外来物質導入デバイスは、外部から照射されたレーザー光が透過する光透過体110と、透過してきたレーザー光を吸収することにより衝撃波を発生する衝撃波発生層120と、外来物質を導入したい細胞に衝撃波を伝達する衝撃波伝達体130とを有する構成を採る。デバイスにパルスレーザー光を繰り返し照射することにより、衝撃波発生層120において、熱エネルギーと生体内の細胞に外来物質を取り込ませるように作用する衝撃波とが発生する。衝撃波伝達体130は、熱エネルギーと衝撃波の伝播速度の差を利用して、衝撃波のみを生体組織に伝達させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
近傍に外来物質を導入された生体組織内の細胞に、レーザー光によって誘起される衝撃波を与えることで、前記細胞に前記外来物質を導入する、レーザー照射型外来物質導入デバイスであって、
外部から照射されたレーザー光が透過する光透過体と、
前記光透過体を透過するレーザー光を吸収することにより、衝撃波を発生する衝撃波発生層と、
前記衝撃波発生層で発生する衝撃波を前記生体組織に伝達する衝撃波伝達体と、
を有するレーザー照射型外来物質導入デバイス。
【請求項2】
前記光透過体はサファイア板である、請求項1記載のレーザー照射型外来物質導入デバイス。
【請求項3】
前記衝撃波伝達体はサファイア板である、請求項1記載のレーザー照射型外来物質導入デバイス。
【請求項4】
前記衝撃波発生層は黒色顔料または黒色ゴム板である、請求項1記載のレーザー照射型外来物質導入デバイス。
【請求項5】
前記レーザー光はパルスレーザー光である、請求項1記載のレーザー照射型外来物質導入デバイス。
【請求項6】
前記パルスレーザー光はナノ秒パルスレーザー光である、請求項5記載のレーザー照射型外来物質導入デバイス。
【請求項7】
前記パルスレーザー光の照射回数は10〜1000回である、請求項5記載のレーザー照射型外来物質導入デバイス。
【請求項8】
前記衝撃波発生層への照射面における前記パルスレーザー光のレーザーフルエンスは、2〜10J/cmである、請求項5記載のレーザー照射型外来物質導入デバイス。
【請求項9】
前記パルスレーザー光の波長は700〜1500nmである、請求項5記載のレーザー照射型外来物質導入デバイス。
【請求項10】
前記外来物質はDNA、RNA、ポリペプチド、タンパク質、脂質および糖類のいずれかである、請求項1記載のレーザー照射型外来物質導入デバイス。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光によって誘起される衝撃波を与えることで細胞に外来物質を導入するレーザー照射型外来物質導入デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療は、遺伝子疾患だけでなく、癌やエイズなどの様々な難病の治療へ適用できる可能性がある治療法である。遺伝子治療を成功させるには、標的となる細胞に安全かつ効率的に目的の遺伝子(DNA)を導入する技術を確立することが必須である。
【0003】
これまでに様々な遺伝子導入法が開発されている。例えば、生体内(in vivo)のレベルで遺伝子(DNA)を細胞に導入する手法としては、遺伝子を導入したウイルスベクターを用いるウイルスベクター法、DNAでコーティングしたナノメートルサイズの金微粒子を高速で細胞に打ち込む遺伝子銃(ジーンガン/パーティクルガン)法、細胞に電気刺激を印加する電気穿孔(エレクトロポレーション)法などがある。
【0004】
ウイルスベクター法は、導入効率が比較的高いことから広く用いられているが、ウイルスを使用するため安全性に問題がある。遺伝子銃法は、組織の表層にしか遺伝子(DNA)を導入できない上、導入効率が低いという問題がある。電気穿孔法は、電極を標的部位に設置するため侵襲的である上、導入効率が低いという問題がある。このように、生体内の細胞に遺伝子(DNA)を導入する方法は、導入効率や安全性の面から大きな問題を有している。
【0005】
上記問題点を解消する方法として、レーザー誘起応力波を用いて生体内の細胞にDNAなどの外来物質を導入する方法が提案されている(非特許文献1)。固体媒質にパルスレーザー光を照射すると、パルスレーザー光を照射された媒質は、プラズマ化し、その膨張に伴い強い衝撃波(レーザー誘起応力波)と熱エネルギーを発生させる。この衝撃波を細胞に作用させると、この細胞は周囲にある外来物質を取り込む(非特許文献2)。
【0006】
図3は、非特許文献1の方法の概略図である。まず、プラスミドDNA(外来物質)をラット背部皮膚15の真皮内に注入し、その上にポリエチレンテレフタレートの透明な板10を接着した黒色ゴムの円板11を配置する。次に、QスイッチNd:YAGレーザーの第二高調波(波長532nm、最大レーザーフルエンス1.9J/cm)12を黒色ゴムの円板11に数回(1〜5回)照射することでプラズマ13および衝撃波14を発生させ、直下の真皮内の細胞に衝撃波を作用させる。この方法により、プラスミドDNAが、比較的高い導入効率で表皮細胞に導入される(非特許文献1,2)。
【0007】
このように、レーザー誘起応力波を用いることで、ウイルスによる安全性の問題を心配することなく、生体組織内の細胞にDNAなどの外来物質を比較的高い導入効率で導入することができる。
【非特許文献1】Ogura M., Sato S., Nakanishi K., Uenoyama M., Kiyozumi T., Saito D., Ikeda T., Ashida H. and Obara M. 2004. "In Vivo Targeted Gene Transfer in Skin by the Use of Laser-Induced Stress Waves". Lasers in Surgery and Medicine 34: 242-248.
【非特許文献2】杉岡幸次、矢部明監修、「レーザーマイクロ・ナノプロセッシング」、シーエムシー出版、p.334−336.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1の方法では、外来物質の導入効率をさらに高めるためにパルスレーザー光を繰り返し照射すると、生体組織が火傷してしまうという問題がある。すなわち、黒色ゴムの円板にパルスレーザー光を繰り返し照射すると、黒色ゴムの円板の温度が上昇し、直接接触している生体組織が火傷(紅斑などの症状が生じる)してしまうのである。
【0009】
レーザー誘起応力波を用いた外来物質導入法では、パルスレーザー光の照射回数を増やすことで導入効率を向上させることができる。しかし、非特許文献1の方法では、パルスレーザー光を数回照射しただけで紅斑が生じてしまっているため、安全性を考慮すると照射回数をこれ以上増やすことはできない。したがって、パルスレーザー光の照射による生体組織の火傷を回避することは、外来物質の導入効率を向上させる上で大きな課題となっている。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、パルスレーザー光を繰り返し照射しても、生体組織に火傷を生じさせずに、生体組織内の細胞に衝撃波を繰り返し作用させることができるレーザー照射型外来物質導入デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のレーザー照射型外来物質導入デバイスは、近傍に外来物質を導入された生体組織内の細胞に、レーザー光によって誘起される衝撃波を与えることで、細胞に外来物質を導入する、レーザー照射型外来物質導入デバイスであって、外部から照射されたレーザー光が透過する光透過体と、前記光透過体を透過するレーザー光を吸収することにより衝撃波を発生する衝撃波発生層と、前記衝撃波発生層で発生する衝撃波を前記生体組織に伝達する衝撃波伝達体とを有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生体組織に火傷を生じさせずに、生体組織内の細胞に衝撃波を繰り返し作用させることができるので、外来物質の導入効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施の形態に係るレーザー照射型外来物質導入デバイスの構造を示す図である。
【0015】
本実施の形態に係るレーザー照射型外来物質導入デバイス100は、光透過体110と衝撃波伝達体130との間に衝撃波発生層120を挟んだ構成を採る。安全性およびハンドリング性の観点から、衝撃波発生層120は、光透過体110および衝撃波伝達体130と圧着または接着されていることが好ましい。
【0016】
光透過体110は、外部から照射されるレーザー光が衝撃波発生層120に透過する部材である。したがって、光透過体110の材質は、光透過性を有するものが好ましく、無色透明であるものが特に好ましい。
【0017】
また、光透過体110は、衝撃波発生層120で発生するプラズマを閉じ込めることで、衝撃波発生層120で発生する衝撃波の圧力を増大させる機能も有する。したがって、光透過体110の材質は、衝撃波発生層120で発生するプラズマおよび衝撃波に耐えうる強度を有するものが好ましく、衝撃波発生層120で繰り返しプラズマおよび衝撃波が発生しても、それらの衝撃に耐えうる高い強度を有するものが特に好ましい。
【0018】
このように、光透過体110の材質は、特に限定されないが、光透過性を有し、かつ、高い強度を有するものが好ましい。したがって、光透過体110の材質は、例えば、透明樹脂(ポリエチレンテレフタレートなど)または透明無機材料(ガラス、石英、セラミックス、サファイア)などでありうるが、好ましくは透明無機材料であり、特に好ましくはサファイアである。無色透明のサファイア板は、レーザーフルエンスが高いパルスレーザーを繰り返し照射されても破損しにくいため、光透過体110として特に好ましい。
【0019】
光透過体110の厚さは、特に限定されず、光透過体110の素材の強度に基づき決定すればよい。例えば、光透過体110がサファイア板の場合、その厚さは1.0mm以上であることが好ましい。
【0020】
光透過体110の大きさ(縦×横のサイズ)は、特に限定されないが、レーザー光の照射面積より大きいことが好ましく、衝撃波発生層120の大きさより大きいことが特に好ましい。
【0021】
本発明者が行った予備実験では、厚さ1.2mmの無色透明のサファイア板を光透過体として用いた本発明のレーザー照射型外来物質導入デバイスに、レーザーフルエンス3J/cmのパルスレーザー光を周波数10Hzで500回照射しても、光透過体は破損しなかった。
【0022】
衝撃波発生層120は、レーザー光を吸収すると衝撃波および熱エネルギーを発生させる。衝撃波発生層120の材質は、特に限定されないが、照射されたレーザー光を吸収し、そのエネルギーによりアブレーションを起こす性質、またはそのエネルギーによりプラズマを発生させる性質を有する材質が好ましい。例えば、レーザー光がNd:YAGレーザーの基本波(波長1064nm)である場合、衝撃波発生層120の材質は、近赤外光を吸収する黒色顔料や黒色ゴム板などが挙げられる。レーザー光の照射により衝撃波発生層120内で誘起される反応は、レーザーフルエンスの増大に応じてレーザーアブレーションからプラズマの発生に移行するが、いずれの反応が誘起された場合であっても、衝撃波は、衝撃波発生層120において発生する。
【0023】
また、衝撃波発生層120の厚さは、特に限定されないが、例えば1.0mm〜3.0mmであればよい。衝撃波発生層120が薄すぎると、衝撃波発生層120は一回の外来物質導入処理の間に照射されるレーザー光に耐えることができず、レーザー光が衝撃波発生層120を貫通してしまう。また、衝撃波発生層120が厚すぎると、衝撃波発生層120は衝撃波を吸収してしまい、生体組織への衝撃波の伝達効率が落ちてしまう。
【0024】
衝撃波発生層120の大きさ(縦×横のサイズ)は、特に限定されないが、レーザー光の照射面積より大きいことが好ましい。
【0025】
衝撃波伝達体130は、衝撃波発生層120で発生する衝撃波を生体組織に伝達する部材である。したがって、衝撃波伝達体130の材質は、衝撃波に耐えうる強度を有し、かつ、衝撃波が伝播しうるものが好ましい。一般に、高い硬度を有する材質は衝撃波を伝播しうるので、衝撃波伝達体130の材質は、高強度かつ高硬度を有するものが特に好ましい。
【0026】
また、衝撃波伝達体130は、衝撃波発生層120で発生する熱エネルギーが生体組織に伝達するのを妨げる機能も有する。したがって、衝撃波伝達体130は、熱容量(比熱)が大きいことが好ましい。
【0027】
このように、衝撃波伝達体130の材質は、特に限定されないが、高強度および高硬度を有し、かつ、比熱が大きい材質が好ましい。この条件を満たすものとしては、例えば、サファイア板が挙げられる。サファイア板は、高強度および高硬度(モース硬度9)を有し、かつ比較的大きい比熱(0.75kJ/kg・℃:25℃)を有するので、衝撃波伝達体130として好ましい。
【0028】
衝撃波伝達体130の厚さは、衝撃波伝達体130の素材の強度および比熱に基づき決定すればよい。例えば、衝撃波伝達体130がサファイア板の場合、その厚さは、特に限定されないが、1.0mm〜3.0mmであればよい。衝撃波伝達体130が薄すぎると、衝撃波により破損しやすくなり、かつ生体組織に熱が伝わりやすくなってしまう。また、衝撃波伝達体130が厚すぎると、生体組織に衝撃波が伝わりにくくなってしまう。
【0029】
衝撃波伝達体130の大きさ(縦×横のサイズ)は、特に限定されないが、衝撃波発生層120の大きさより大きいことが好ましい。
【0030】
本発明者が行った予備実験では、厚さ1.0mmの無色透明のサファイア板を衝撃波伝達体として用いた本発明のレーザー照射型外来物質導入デバイスに、レーザーフルエンス3J/cmのパルスレーザー光を周波数10Hzで500回照射しても、衝撃波伝達体は破損しなかった。また、上記条件で衝撃波を発生させても、衝撃波伝達体130と接触する生体組織に火傷は観察されなかった(実施例参照)。
【0031】
次に、本発明に係るレーザー照射型外来物質導入デバイスを用いて外来物質を生体組織内の細胞に導入する手順を説明する。
【0032】
図2は、図1のレーザー照射型外来物質導入デバイス100を用いて外来物質を導入する方法を説明するための図である。ここでは、レンズ140を用いてレーザー光150をレーザー照射型外来物質導入デバイス100に照射することで、生体組織160内の細胞170に外来物質180を導入する例を示す。
【0033】
ここでいう「生体組織」は、特に限定されず、例えば、上皮組織、結合組織、筋組織、神経組織などが挙げられる。また、ここでいう「細胞」は、特に限定されず、例えば、繊維芽細胞、筋細胞、神経細胞またはグリア細胞などの分化した細胞や、造血幹細胞または神経幹細胞などの未分化細胞などが挙げられる。また、ここでいう「外来物質」は、特に限定されず、例えば、DNA、RNA、ポリペプチド、タンパク質、脂質、糖類などが挙げられる。
【0034】
まず、外来物質180を細胞170の近傍に導入する。このとき、図2に示すように、細胞170の周囲に外来物質180が一時的に定位するのが好ましい。外来物質180を導入する方法は特に限定されないが、例えば、生体組織160に外来物質180を含む溶液を注射すればよい。
【0035】
次に、生体組織160の表面にレーザー照射型外来物質導入デバイス100を配置する。このとき、衝撃波伝達体130が生体組織160に接触するように、レーザー照射型外来物質導入デバイス100を配置する。レーザー照射型外来物質導入デバイス100を配置する場所は、外来物質を導入する細胞170の直上が好ましい。また、生体組織160の表面と衝撃波伝達体130との接触面に、衝撃波伝播剤を塗布してもよい。衝撃波伝播剤を塗布することにより、衝撃波伝達体130と生体組織160との接触面における衝撃波の反射が抑制されるため、衝撃波をより効率的に生体組織160に伝えることができる。衝撃波伝播剤は、例えば、市販の超音波ゼリーやシリコングリースなどが挙げられる。
【0036】
次に、レンズ140を用いて、レーザー光150を衝撃波発生層120の上側表面(光透過体110との接触面)に集光照射し、衝撃波発生層120に衝撃波および熱エネルギーを発生させる。衝撃波は、衝撃波伝達体130を介して速やかに生体組織160内の細胞170に伝播する。一方、熱エネルギーは、衝撃波伝達体130により生体組織160に伝播することが妨げられる。
【0037】
レーザー光150の種類は、衝撃波を繰り返し発生させる観点からパルスレーザー光が好ましく、その強度を十分に大きくする観点からナノ秒パルスレーザー光が特に好ましい。
【0038】
レーザー光150の波長は、特に限定されないが、安全性の観点から生体組織160に吸収されない波長が好ましい。例えば、マウスやヒトなどの皮膚または皮下組織に外来物質を導入する場合、レーザー光150の波長は、700nm〜1500nmが好ましく、900nm〜1200nmが特に好ましい。これは、血液中のヘモグロビンおよび組織中の水の光吸収が、この波長領域で特に弱くなるからである。
【0039】
レーザー光150の照射面(衝撃波発生層120の上側表面)におけるレーザーフルエンスは、特に限定されないが、導入効率の観点から光透過体110が破損しない範囲内でできるだけ高いことが好ましい。例えば、光透過体110がサファイア板の場合、レーザーフルエンスは、0.5J/cm〜10J/cmが好ましく、2J/cm〜5J/cmが特に好ましい。
【0040】
レーザー光150の照射面(衝撃波発生層120の上側表面)における照射面積は、特に限定されず、任意に決定すればよい。
【0041】
パルスレーザー光150の照射回数は、特に限定されないが、外来物質180の導入量の観点から光透過体110が破損しない範囲内で適宜設定すればよい。例えば、光透過体110がサファイア板の場合、1〜5000回が好ましく、10〜1000回が特に好ましい。
【0042】
パルスレーザー光150の連続照射時間(一連の照射において、最初のパルスレーザー光を照射してから最後のパルスレーザー光の照射が終わるまでの時間)は、衝撃波発生層120で発生した熱エネルギーが生体組織160に伝播するまでの時間よりも短くすることが好ましい。外来物質を十分量導入するのに必要な照射回数が多い場合、パルスレーザー光の照射を複数回に分けることで、連続照射時間を短くすることができる。例えば、5000回照射する場合、連続100回の照射を、間に休憩を挟みながら50回繰り返せばよい。このようにすることにより、パルスレーザー光の照射回数が多いときであっても、衝撃波発生層120で発生した熱エネルギーが生体組織160に伝播することを防ぐことができる。
【0043】
以上の手順により、衝撃波を受けた細胞170は、細胞膜の構造が一時的に変化し、周囲にある外来物質180を細胞内に取り込む。
【0044】
このように、本発明によれば、レーザー光を照射することにより発生する衝撃波および熱エネルギーのうち、衝撃波のみを生体組織に伝播することができる。したがって、生体組織に火傷を生じさせずに衝撃波を繰り返し生体組織に作用させることができるので、安全かつ効率よく、外来物質を生体組織内の細胞に導入することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明のより具体的な実施の形態(実施例)について説明する。なお、本発明は、本実施例に限定して解釈されるものではない。
【0046】
本実施例では、本発明に係るレーザー照射型外来物質導入デバイスを用いて、マウスの前脛骨筋の細胞にルシフェラーゼ遺伝子を導入する例を示す。
【0047】
本実施例で用いたレーザー照射型外来物質導入デバイスは、光透過体としての無色透明のサファイア板((株)アイ・アール・システム、厚さ1.5mm、直径27mm)と、衝撃波発生層としての黒色顔料(カーボンブラックまたはアニリンブラック、厚さ2mm)と、衝撃波伝達体としての無色透明のサファイア板((株)アイ・アール・システム、厚さ1.0mm、直径27mm)とから成り、図1に示す構成を採る。また、本実施例では、パルスレーザー光として、Nd:YAGレーザー基本波(波長1064nm、パルス幅10ナノ秒、繰り返し周波数10Hz、照射領域0.5cm、レーザーフルエンス3J/cm)を用いた。
【0048】
まず、麻酔したマウス(BALB/c、8〜10週齢、雌、体重約20g、ホクドー(株))の脛部を剃毛し、ルシフェラーゼ遺伝子発現プラスミド(CAGプロモーター)のTE溶液(1μg/μl)を前脛骨筋(深さ1〜2mm)に25μl注射した。次に、前脛部の剃毛した領域にシリコングリースを塗布した後、前記レーザー照射型外来物質導入デバイスを図2に示すように皮膚に密着させた。最後に、このデバイスに前記パルスレーザー光を200〜500回照射して衝撃波を発生させ、直下の前脛骨筋の細胞にルシフェラーゼ遺伝子発現プラスミドを導入した。照射後に前脛骨部の皮膚組織を観察したが、火傷の症状は見られなかった。
【0049】
プラスミドを導入してから3日後に、ルシフェラーゼ遺伝子の導入効率を調べた。マウスを麻酔下で屠殺後、前脛骨筋を摘出した。摘出した前脛骨筋をその3倍重の1%NP−40含有リン酸緩衝生理食塩水中でホモゲナイズし、遠心分離することで組織抽出液を得た。組織抽出液に含まれるルシフェラーゼ活性は、ピッカジーン(東洋インキ)およびルミノメーター(TD−20/20、ターナーデザイン社)を用いて測定した。組織抽出液に含まれるタンパク質の濃度は、タンパク質濃度測定キット(バイオラッド社)を用いて測定した。単位タンパク質量あたりのルシフェラーゼの活性値を求め、それをルシフェラーゼの相対活性値とした。
【0050】
表1は、本実施例における、パルスレーザー光の照射回数とルシフェラーゼの相対活性値との関係を示す表である。この表から、照射回数を増やすとルシフェラーゼ遺伝子の導入効率が高まることがわかる。
【表1】


【0051】
比較例として、代表的な従来法である電気穿孔法を用いて、同じ組織の細胞に同じ遺伝子を50秒の処理時間で導入を試みた(本実施例における500回照射に相当する時間)。その結果、電気穿孔法による相対活性値は、75であった。すなわち、本発明のデバイスを用いた遺伝子の導入効率は、同じ処理時間の電気穿孔法の導入効率に対して133%であった。
【0052】
以上のように、本発明によれば、従来法(電気穿孔法)を上回る導入効率で、生体組織内の細胞に遺伝子を安全に導入することができた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係るレーザー照射型外来物質導入デバイスは、従来よりも高い導入効率で、かつ安全に、DNAなどの外来物質を生体組織内の細胞に導入することができるので、遺伝子治療、新規ワクチンの開発、遺伝子の機能解析などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施の形態に係るレーザー照射型外来物質導入デバイスの構造を示す図
【図2】本発明の一実施の形態に係るレーザー誘起応力波を用いた外来物質導入法を説明するための図
【図3】従来のレーザー誘起応力波を用いた外来物質導入法を説明するための図
【符号の説明】
【0055】
10 ポリエチレンテレフタレート
11 黒色ゴムの円板
12 レーザー光
13 レーザーによって誘起されたプラズマ
14 衝撃波
15 皮膚組織
100 レーザー照射型外来物質導入デバイス
110 光透過体
120 衝撃波発生層
130 衝撃波伝達体
140 レンズ
150 レーザー光
160 生体組織
170 細胞
180 外来物質
【出願人】 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人 北海道大学
【出願日】 平成18年7月11日(2006.7.11)
【代理人】 【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一


【公開番号】 特開2008−17739(P2008−17739A)
【公開日】 平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願番号】 特願2006−190630(P2006−190630)