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【発明の名称】 マイクロインジェクション装置及び自動焦点調整方法
【発明者】 【氏名】安藤 護俊

【氏名】陽奥 幸宏

【要約】 【課題】付着細胞に対する効率的な遺伝子注入作業を可能とするマイクロインジェクション装置及び自動焦点調整方法を提供する。

【構成】付着細胞の有無を判定する細胞有無判定部160と、付着細胞の存在が検出されたシャーレの観測位置において第1の焦点間隔の各焦点位置で撮像された付着細胞の画像に基づく微分総和分布が最大値を取る対物レンズの最大焦点位置を検出する微分総和分布最大焦点位置算出部155と、この観測位置における最大焦点位置を含む所定範囲内で第1の焦点間隔よりも狭い第2の焦点間隔の各焦点位置で撮像された付着細胞の画像基づく微分総和分布が最小値を取る対物レンズの最小焦点位置を検出する微分総和分布最小焦点位置算出部156とを備え、マイクロインジェクションにおいて自動的に付着細胞を検出して焦点を調整することを可能とした、マイクロインジェクション装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基底面上の細胞に突き刺した微細な針を通して該細胞に目的物を注入するマイクロインジェクション装置であって、
光源から光が照射される前記細胞の画像を、レンズを通して該レンズの異なる焦点位置毎に撮像する細胞画像撮像手段と、
前記レンズの基準となる焦点位置において前記細胞画像撮像手段により撮像された前記細胞の画像である参照画像と、前記レンズの基準となる焦点位置とは異なる各焦点位置において前記細胞画像撮像手段により撮像された前記細胞の画像との差分画像に基づいて該細胞の状態を計測する細胞状態計測手段と
を備えたことを特徴とするマイクロインジェクション装置。
【請求項2】
前記細胞状態計測手段により前記細胞の状態が計測された前記基底面における観測位置において、前記参照画像と前記レンズの第1の焦点間隔の各焦点位置で前記細胞画像撮像手段により撮像された前記細胞の画像との差分画像に基づいて算出された、該第1の焦点間隔の焦点位置に応じた微分総和分布が最大値を取る前記レンズの第1の焦点位置を検出する第1の焦点位置検出手段と、
前記参照画像と、前記観測位置において前記第1の焦点位置検出手段により検出された前記第1の焦点位置を含む所定範囲内で前記第1の焦点間隔よりも狭い第2の焦点間隔の各焦点位置で前記細胞画像撮像手段により撮像された前記細胞の画像との差分画像に基づいて算出された、該第2の焦点間隔の各焦点位置に応じた微分総和分布が最小値を取る前記レンズの第2の焦点位置を検出する第2の焦点位置検出手段と
をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載のマイクロインジェクション装置。
【請求項3】
前記基底面における少なくとも3箇所の前記観測位置において、前記第1の焦点位置検出手段により検出された前記第1の焦点位置に基づき前記第2の焦点位置検出手段により検出された前記第2の焦点位置に基づいて該基底面の傾斜を算出する基底面傾斜算出手段をさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載のマイクロインジェクション装置。
【請求項4】
前記基底面傾斜算出手段により算出された前記基底面の傾斜に応じて、前記観測位置に関わらず該基底面と前記針の先端との距離を一定に保持する距離保持手段をさらに備えたことを特徴とする請求項3に記載のマイクロインジェクション装置。
【請求項5】
レンズを通して視認可能な基底面上の細胞に突き刺した微細な針を通して該細胞に目的物を注入するマイクロインジェクション装置において該細胞に対する該レンズの焦点を自動で調整する自動焦点調整方法であって、
光源から光が照射される前記細胞の画像を、前記レンズの異なる焦点位置毎に撮像する細胞画像撮像工程と、
前記レンズの基準となる焦点位置において前記細胞画像撮像工程により撮像された前記細胞の画像である参照画像と、前記レンズの基準となる焦点位置とは異なる各焦点位置において前記細胞画像撮像工程により撮像された前記細胞の画像との差分画像に基づいて該細胞の状態を計測する細胞状態計測工程と
を含んだことを特徴とする自動焦点調整方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、基底面上の細胞に突き刺した微細な針を通して該細胞に目的物を注入するマイクロインジェクション装置及び自動焦点調整方法に関し、特に、基底面に付着する細胞の焦点位置を自動的に効率よく正確に計測し、以って細胞に対する効率的な遺伝子注入作業を可能とするマイクロインジェクション装置及び自動焦点調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
顕微鏡を使用して対象とする細胞内に微細な針を通して遺伝子を注入することにより細胞の遺伝情報を改変させる研究は、遺伝子の役目を明らかにするとともに、個人の遺伝的特性に合わせた遺伝子治療を行うテーラメード医療を可能にする。かかる研究により、従来は治療ができなかった遺伝的な原因による病気の治療も可能となってきている。
【0003】
遺伝子を細胞に注入する方式には、電気的な方式(エレクトロポレーション)、化学的な方式(リポフェクション)、生物的な方式(ベクター法)、機械的な方式(マイクロインジェクション)などがある。
【0004】
上記の方式のうち、電気的な方式は、大電流を流し細胞膜を破るため、細胞に与えるダメージが大きい。化学的な方式は、導入できる遺伝子に制限があり、導入効率が悪い。生物的な方式は、導入できる材料の種類が限られ、安全性が確認できない等の欠点がある。
【0005】
そこで、現在では、機械的な方式が、最も安全で効率が高い方法として採用されることが多くなっている。例えば、特許文献1には、細胞を規則正しく配列させ、マイクロインジェクションを自動的に実行するマイクロインジェクション装置に関する技術が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特許第2624719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に代表される従来技術では、次の問題点があった。先ず、第1の問題点としては、対象とする細胞及び該細胞を付着させるシャーレが透明であることから、細胞の存在自体が明確でなく細胞自体を検出して観測位置まで移動させなければならなかったり細胞の高さや細胞とシャーレとの境界が判別しづらかったりするため、遺伝子注入作業に熟練した技術を要するのみならず、顕微鏡は1本の対物レンズを使用するために細胞及びシャーレの立体感をつかみづらいことから、低倍率の対物レンズと高倍率の対物レンズとを交換しながら作業を行わなければならず非効率であることが挙げられる。
【0008】
また、第2の問題点としては、シャーレの底面自体が傾いているために遺伝子注入作業を行う位置に応じて細胞の垂直方向の絶対的な位置が変化するため、顕微鏡の焦点位置をその都度調整して針の位置を調整しなければならならず非効率であることが挙げられる。さらには、シャーレの底面の厚みや傾きはシャーレの固体毎に異なり均一ではなく、またシャーレを顕微鏡のステージへの配置の仕方によってもシャーレの底面の厚みや傾きが異なってくるために、シャーレ自体を変えたりステージへの配置方法を変えたりする毎に顕微鏡の焦点位置を調整して針の位置を調整しなければならならないという問題点があった。
【0009】
そこで、従来は、シャーレの底面の高さを計測する方法として、シャーレにマークを書き込む方法やグリッドが描かれた細胞捕捉プレートに細胞を付着させてシャーレ内に配置する方法が行われていたが、これらの方法では、シャーレにマークを書き込む際に細胞を汚染させてしまったり試料作成に手間がかかったりするという問題があった。
【0010】
また、第2の問題点を解決するために、シャーレの底面を、細胞観測系とは異なる専用の光学系を使用して計測するという方法も考えられてきたが、この方法では、少なくとも2系統の光学系をマイクロインジェクション装置に持たせなければならず、装置の構成を複雑にして装置を高価にしたり装置の可用性及びメンテナンス性を低下させたりという問題点があった。
【0011】
また、細胞を観測する方法として、従来から、微分干渉法や位相差コントラスト光学系などがあったが、これらの方法は、目視で細胞を見やすくするために開発された方法であって、細胞のエッジが強調されすぎるという問題点を有するために、細胞焦点調節の自動化には適さないものであった。
【0012】
本発明は、上記問題点(課題)を解消するためになされたものであって、シャーレの底面に付着する細胞の焦点位置を自動的に効率よく正確に計測し、以って細胞に対する効率的な遺伝子注入作業を可能とするマイクロインジェクション装置及び自動焦点調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した問題を解決し、目的を達成するため、本発明は、基底面上の細胞に突き刺した微細な針を通して該細胞に目的物を注入するマイクロインジェクション装置であって、光源から光が照射される前記細胞の画像を、レンズを通して該レンズの異なる焦点位置毎に撮像する細胞画像撮像手段と、前記レンズの基準となる焦点位置において前記細胞画像撮像手段により撮像された前記細胞の画像である参照画像と、前記レンズの基準となる焦点位置とは異なる各焦点位置において前記細胞画像撮像手段により撮像された前記細胞の画像との差分画像に基づいて該細胞の状態を計測する細胞状態計測手段とを備えたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記発明において、前記細胞状態計測手段により前記細胞の状態が計測された前記基底面における観測位置において、前記参照画像と前記レンズの第1の焦点間隔の各焦点位置で前記細胞画像撮像手段により撮像された前記細胞の画像との差分画像に基づいて算出された、該第1の焦点間隔の焦点位置に応じた微分総和分布が最大値を取る前記レンズの第1の焦点位置を検出する第1の焦点位置検出手段と、前記参照画像と、前記観測位置において前記第1の焦点位置検出手段により検出された前記第1の焦点位置を含む所定範囲内で前記第1の焦点間隔よりも狭い第2の焦点間隔の各焦点位置で前記細胞画像撮像手段により撮像された前記細胞の画像との差分画像に基づいて算出された、該第2の焦点間隔の各焦点位置に応じた微分総和分布が最小値を取る前記レンズの第2の焦点位置を検出する第2の焦点位置検出手段とをさらに備えたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上記発明において、前記基底面における少なくとも3箇所の前記観測位置において、前記第1の焦点位置検出手段により検出された前記第1の焦点位置に基づき前記第2の焦点位置検出手段により検出された前記第2の焦点位置に基づいて該基底面の傾斜を算出する基底面傾斜算出手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、上記発明において、前記基底面傾斜算出手段により算出された前記基底面の傾斜に応じて、前記観測位置に関わらず該基底面と前記針の先端との距離を一定に保持する距離保持手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、レンズを通して視認可能な基底面上の細胞に突き刺した微細な針を通して該細胞に目的物を注入するマイクロインジェクション装置において該細胞に対する該レンズの焦点を自動で調整する自動焦点調整方法であって、光源から光が照射される前記細胞の画像を、前記レンズの異なる焦点位置毎に撮像する細胞画像撮像工程と、前記レンズの基準となる焦点位置において前記細胞画像撮像工程により撮像された前記細胞の画像である参照画像と、前記レンズの基準となる焦点位置とは異なる各焦点位置において前記細胞画像撮像工程により撮像された前記細胞の画像との差分画像に基づいて該細胞の状態を計測する細胞状態計測工程とを含んだことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、人為的な作業を排除して細胞の状態を計測することができ、技能の熟練を必要とせず効率的に簡単にマイクロインジェクションを行う際に細胞の状態を確認することができるという効果を奏する。
【0019】
また、本発明によれば、第1の焦点間隔で第1の焦点位置を検出した後に、この第1の焦点位置を含む所定範囲内で第1の焦点間隔よりも狭い第2の焦点間隔で第2の焦点位置を検出するので、大まかに第1の焦点位置を検出した後に精密に第2の焦点位置を検出することとなり、より効率的により正確な焦点位置を検出することができるという効果を奏する。
【0020】
また、本発明によれば、基底面の細胞の焦点位置を少なくとも3箇所において検出することのみで該基底面の傾斜を算出することが可能になり、より簡便により高速に基底面の傾斜を算出することが可能となるという効果を奏する。
【0021】
また、本発明によれば、基底面の傾斜に応じて、観測位置に関わらず該基底面と針の先端との距離を一定に保持し、観測位置が変化しても針が基底面に衝突するという事故を回避することが可能となるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に添付図面を参照し、本発明のマイクロインジェクション装置及び自動焦点調整方法に係る実施例1及び2を詳細に説明する。実施例1は、照明光源とシャーレの底面に配置した付着細胞を顕微鏡の対物レンズを通して撮影するためのCCDカメラを備えたマイクロインジェクション装置において、付着細胞の焦点を自動的に計測するマイクロインジェクション装置及び自動焦点調整方法に係る実施例である。また、実施例2は、実施例1で示すマイクロインジェクション装置及び自動焦点調整方法を応用して、複数の観測位置で求めた付着細胞の焦点位置に基づいて、シャーレの底面の傾斜を算出する実施例である。
【0023】
まず、実施例1及び2の説明に先立って、マイクロインジェクションの概要について説明する。図1は、付着細胞へのマイクロインジェクションを説明するための説明図である。なお、付着細胞とは、互いの細胞が付着する性質を有し、同種の細胞が集結することによって生命体の一部を構成する細胞である。付着細胞は、例えば赤血球などの付着する性質を有さず、単独で浮遊して機能する浮遊細胞とは反対の性質を有する細胞である。
【0024】
同図に示すように、付着細胞に対してマイクロインジェクションを行う場合、培養液等の液体を満たしたシャーレ200の底面に付着細胞等の細胞が配置される。そして、シャーレ200の下方に配した対物レンズ132によって得られる拡大画像に基づいて針122が細胞へ誘導され、インジェクションが実行される。拡大画像を明瞭にするため、シャーレ200の上方からは照明光源131によって光が照射される。
【0025】
なお、マイクロインジェクションを行う場合、シャーレの底面上に微細な孔を有するプレートを設け、この微細な孔に細胞を補足した上でインジェクションをおこなう場合もあるが、以下の説明では、プレートを用いない場合を示すこととし、シャーレの底面を基底面と称することとする。
【0026】
付着細胞は、シャーレ200の底面上では、シャーレ底面に沿って伸展した形状となり、水平方向に20〜30μmの面積を有する一方で、5μm程度の厚さしかもたない。このため、付着細胞に針122の先端を突き刺して遺伝子等を注入するには、針122の先端を基底面から1μm程度の距離まで高速に下降させつつ、針122が基底面に接触しないように、針122のコントロールに熟練が必要となる。
【0027】
このように、針122のコントロールの作業を難しくしているのは、付着細胞が透明であることと、底面に付着細胞を付着させるシャーレ200が透明な材質からなることによって、細胞とシャーレとの境界が明確でないことと、基本的に1本の対物レンズ132のみを使用して観測を行うために、遠近感や立体感が掴みづらいことによる。
【0028】
また、付着細胞はシャーレ200の基底面にランダムに存在するために、対物レンズ132の対象視野をある一点の観測位置に置いたとしても、この視野内に全く付着細胞が存在しない場合が発生しうる。シャーレ200の位置を動かしたり付着細胞自体の位置を動かしたりして対物レンズ132の視野内に付着細胞が入るように手作業で調整すると、かなりの回数の試行錯誤を行わなければならないという可能性もあり、非常に煩わしいこととなる場合がある。本発明は、これらの問題点(課題)を解消するためになされたものである。
【実施例1】
【0029】
以下に図2〜16を参照して、本発明の実施例1のマイクロインジェクション装置及び自動焦点調整方法を説明する。先ず、図2−1〜3を参照して、実施例1に係る自動焦点調整方法の特徴を説明する。図2−1〜3は、実施例1に係る自動焦点調整方法の特徴を説明するための説明図である。
【0030】
図2−1は、自動焦点調整方法において、基底面上の付着細胞に対する対物レンズの焦点を付着細胞から離れた位置に置いてデフォーカス画像を得る状況を示す。図示するように、基底面に付着する付着細胞の上方に配置された照明光源131から付着細胞に照明を照射し、基底面の下方に配置される対物レンズ132を通してCCDカメラ135により付着細胞のデフォーカス画像を撮影する。
【0031】
先ず事前に、付着細胞上1mm上方に焦点を置いたデフォーカス画像を撮影しておく。これを基準となる参照画像とする。この参照画像は、付着細胞の予想される表面位置に近い位置に焦点を置いたデフォーカス画像よりも大変ぼやけた画像となるが、照明光源からの光の強度の分布は近似しており、また、シャーレの基底面の傾斜による高さ変動が高々100〜200μmと、1mmに比べて小さいので画像特性に大差がないため、画像の輝度の参照画面として使用することができる。
【0032】
次に、付着細胞の上方200μmの焦点位置に焦点を置いたデフォーカス画像を撮影し、前述の参照画像との差分画像を取得する。若しくは、付着細胞の予想される表面位置に近い位置において、複数の異なる位置に焦点を置いたデフォーカス画像を撮影し、前述の参照画像との差分画像を取得する。焦点をおく複数の異なる位置を定めるスライスレベルは、参照画像の輝度値より10〜20%小さな輝度値とする。
【0033】
次に、図2−2に示すように、付着細胞の上方200μmの焦点位置に焦点を置いて撮影された、若しくは前述のスライスレベルで撮影されたデフォーカス画像のうち付着細胞が存在する画像には、周囲に比べて輝度が低く暗く見える領域が存在する。細胞が存在しない部分は、参照画像の輝度とほとんど変化がない。差分画像のうち付着細胞が存在する差分画像を二値化する。二値化とは、画像をモノクロで表現する処理である。画素毎に当該画素の輝度が所定閾値より大きい場合に当該画素を白色に置換し、当該画素の輝度が所定閾値より小さい場合に当該画素を黒色に置換する処理を行うものである。
【0034】
付着細胞が二値化された差分画像を参照すると、周囲よりも輝度が低い領域の面積を求めると同時に、この領域において最も小さな輝度値を求める。周囲よりも輝度が低いとは、輝度が所定閾値以下となることをいう。この面積と輝度との相関関係が一定の関係にあれば、マイクロインジェクションの対象となり得る正常な付着細胞が、当該デフォーカス画像が撮影された対物レンズ132の視野内に存在すると判定できる。
【0035】
例えば、図3に示す相関関係を示すグラフにおいて、参照画像の輝度を基準とし、この基準からの輝度の低さの度合いを示すΔIと、輝度が所定閾値以下となる領域の面積とて特定される点を2次元の相関グラフにプロットする。このプロットされた点が図示するr1の領域に存在するならば、付着細胞自体が、当該デフォーカス画像が撮影された対物レンズ132の視野内に存在しないと判定できる。
【0036】
また、プロットされた点が図示するr2の領域に存在するならば、マイクロインジェクションの対象となり得る正常な付着細胞が、当該デフォーカス画像が撮影された対物レンズ132の視野内に適度に密集して存在すると判定できる。また、プロットされた点が図示するr3の領域に存在するならば、マイクロインジェクションの対象となり得る正常な付着細胞が、当該デフォーカス画像が撮影された対物レンズ132の視野内に浮遊して存在するため、この付着細胞は利用できないと判定できる。
【0037】
なお、対物レンズ132の視野内にマイクロインジェクションの対象となり得る正常な付着細胞が存在すると判定されない場合には、例えば約100μmという比較的粗いピッチで数回程度焦点を上下させ、正常な付着細胞の有無を判定する。この方法によっても正常な付着細胞が存在すると判定されない場合には、対物レンズ132の視野である観測位置を水平方向に移動させて、上記の図2−1〜2の説明で示した一連の処理を再度行うことになる。
【0038】
図2−2の説明で示したように、マイクロインジェクションの対象となり得る正常な付着細胞が、当該デフォーカス画像が撮影された対物レンズ132の視野内に存在すると判定されたならば、図2−3に示すように、10〜20μm程度のピッチで、焦点を上下に移動させながら画像を検知し、前述の参照画面との差分画像を求め、この差分画像の微分処理を行う。微分処理とは、画像内の各位置における画素値の変化率のことである。微分処理は、ソベル処理など代表的なものであってよい。
【0039】
次に、画像内で微分値の絶対値の総和(微分総和)を算出し、焦点位置に応じた微分総和の分布を算出する。ここで、付着細胞の真の焦点付近では、マクロ的に微分総和が最大値を取る。微分総和がマクロ的に見てピークとなる焦点位置付近に付着細胞の真の焦点(真の焦点では微分値が最小になる)であるので、微分総和分布の曲線の中心を算出する。このようにして、推定される微分総和分布の最大値が算出される(図4参照)。図4に示すように、推定される微分総和分布の最大値付近では、付着細胞のデフォーカス画像が得られる。
【0040】
微分総和分布がマクロ的に最大となる焦点位置は、微分総和分布のピークを求め、そのピークから所定値下がった値を取る直線と微分総和分布の曲線との2つの交点である焦点位置の中心を算出することによって求まる。前述の直線をスライスという。さらに同一の所定値だけさらに下がった値を取る直線と微分総和分布の曲線との2つの交点である焦点位置の中心を算出する。このスライスから交点を算出し交点の中心を算出する処理を一定回数繰り返えすと焦点位置を示す交点の中心が複数求まるが、これらの平均を微分総和分布がピークとなる焦点位置とする(図5参照)。
【0041】
次に、前述の方法によって求めた微分総和分布がピークとなる焦点位置を中心として、例えば上下20μmの範囲の内部を例えば1μmの細かいピッチで焦点位置を上下に動かしながら付着細胞の画像を撮影し、前述の参照画像との差分画像の微分値を計算する。次に、焦点位置毎の差分画像の微分値の絶対値の総和(微分総和)を算出し、焦点位置に応じた微分総和の分布を算出する。ここで、付着細胞の真の焦点付近では、ミクロ的に微分総和が最小値を取る。微分総和が最小となる焦点位置が付着細胞の真の焦点であるので、微分総和分布の曲線の中心を算出する。このようにして、推定される微分総和分布の最小値が算出される(図4参照)。図4に示すように、推定される微分総和分布の最小値付近では、付着細胞の合焦画像が得られる。
【0042】
微分総和分布がミクロ的に最小となる焦点位置は、微分総和分布の最小値から所定値(ここではαとする)だけ上方へオフセットされた直線と微分総和分布の曲線との2つの交点それぞれにおける微分総和分布の曲線の2本の接線の傾きに基づいて求まる。即ち、微分総和分布の最小値からαだけ上方へオフセットされた直線が微分総和分布の曲線によって切り取られた線分が前述の2本の接線の傾きの比によって分割される点が求める焦点位置である(図6参照)。
【0043】
図6に示すように、微分総和分布の最小値からαだけ上方へオフセットされた直線が微分総和分布の曲線によって切り取られた線分の長さをLとし、該直線と微分総和分布の曲線との交点のうち対物レンズ位置の値が小さい交点と、微分総和分布の最小値を取る対物レンズ位置の値との距離をL´とすると、L´=|b|/(|a|+|b|)×Lの関係が成り立つ(|*|は絶対値を表す)。即ち、微分総和分布の最小値からαだけ上方へオフセットされた直線が微分総和分布の曲線によって切り取られた線分が、微分総和分布の最小値を取る対物レンズ位置の値で分割される分割比は、|b|:|a|である。
【0044】
図2−3に示すように、この求められた焦点位置において、付着細胞の撮影画像は、焦点が当該付着細胞の底面に合致した合焦画像となる。合焦画像は、顕微鏡では、微分総和分布が最小となる焦点位置において付着細胞は、その底面に焦点が一致していることから、細胞核などの付着細胞の内容物が最も見えづらくなるという性質を利用して得られるものである。この合焦画像が得られた焦点位置が、付着細胞の輪郭を最も明確に捉えることができる焦点位置である。
【0045】
図6に示す方法によれば、図7−1に示すような片側の微分総和が相対的に小さいという非対称の微分総和分布や、図7−2に示すような微分総和分布の最小値が所定区間に亘って0となる微分総和分布であっても、微分総和分布が最小値を取る対物レンズ位置の値を推定することが可能となる。なお、対称の微分総和分布である場合であっても、図6に示す方法によって微分総和分布が最小値を取る対物レンズ位置の値を推定することが可能であることはいうまでもない。この場合は、対称の中心が微分総和分布が最小値を取る対物レンズ位置の値となる。
【0046】
次に、実施例1に係る自動焦点調整方法における細胞の状態計測及び焦点位置計測の処理画像を説明する。図8−1〜4は、実施例1に係る自動焦点調整方法における細胞の状態計測及び焦点位置計測の処理画像を示す図である。
【0047】
図8−1は、付着細胞の上方約140μmに焦点を置いて得られる該付着細胞のデフォーカス画像の一例である。この図8−1の画像によれば、付着細胞の細胞核の存在は確認できるものの、付着細胞の輪郭が明確ではない。従って、付着細胞が画像内に明確に存在するとはいえない。また、図8−2は、図8−1のデフォーカス画像を二値化した画像の一例である。また、図8−3は、細胞の明視野画像である合焦画像の一例である。また、図8−4は、合焦画像とデフォーカス画像との重ね合わせ画像の一例である。この図8−4の画像によれば、明確な輪郭及び細胞核を伴った付着細胞を識別することができる。
【0048】
次に、実施例1に係る自動焦点調整方法におけるマイクロインジェクション装置への入力情報を説明する。図9は、実施例1に係る自動焦点調整方法におけるマイクロインジェクション装置への入力情報を説明するための説明図である。同図に示すように、マイクロインジェクション装置へ入力される情報には、シャーレ200を載せるためのシャーレステージにおける対物レンズ132の視野位置情報を示すシャーレステージの位置情報と、インジェクションのための針122の動作を制御するための針制御ステージにおける針制御位置を示す針制御ステージにおける位置情報と、シャーレ200の底面上の付着細胞の焦点を計測するために対物レンズ132を移動させる移動位置に関する情報である対物レンズ132の高さ位置情報と、シャーレ底面に付着する付着細胞の画像であるシャーレ底面上のCCDカメラ画像とがある。マイクロインジェクション装置に対して入力されたこれらの情報に基づいて、次に示す出力情報が得られる。
【0049】
次に、実施例1に係る自動焦点調整方法におけるマイクロインジェクション装置からの出力情報を説明する。図10は、実施例1に係る自動焦点調整方法におけるマイクロインジェクション装置からの出力情報を説明するための説明図である。同図に示すように、マイクロインジェクション装置から出力される情報には、シャーレ200の底面上の付着細胞の合焦画像を得るために計測された焦点位置を示す対物レンズの高さ位置情報と、付着細胞のデフォーカス画像、二値化されたデフォーカス画像及び合焦画像などの細胞画像とがある。
【0050】
次に、実施例1に係るマイクロインジェクション装置の構成について説明する。図11は、実施例1に係るマイクロインジェクション装置の構成を示す機能ブロック図である。同図に示すように、マイクロインジェクション装置100は、シャーレステージ110と、インジェクタ121と、針122と、照明光源131と、対物レンズ132と、反射鏡133と、結像レンズ134と、CCDカメラ(Charge Coupled Devices)135、付着細胞探索パラメータの入力なども行う操作部136と、処理結果を出力する表示部137と、制御部150とを有する。
【0051】
シャーレステージ110は、水平方向に移動可能なXYステージであり、シャーレ200を搭載する台となる。シャーレステージ110上には、シャーレ200を横からのばねの力で押さえつけて固定することができる。このようにして、シャーレ200とシャーレステージ110とは一体化するために、シャーレの内部の底面に存在する付着細胞を探索するためにシャーレの底面の観測位置を移動することが、シャーレステージ110を移動させて観測位置を移動することに一致するようになる。インジェクタ121は、制御部150の制御に基づいて、針122の上昇/下降や、針122内に充填された遺伝子等の射出を行う装置である。針122は、先端を微細化した中空のガラス針である。
【0052】
照明光源131は、インジェクション対象を上方から照らすための光源であり、対物レンズ132は、インジェクション対象の拡大画像をシャーレ200の下方から得るためのレンズである。反射鏡133は、対物レンズ132により得られた画像を結像レンズ134へ向けて反射するための鏡であり、結像レンズ134は、画像をCCDカメラ135の映像素子上に結像させるためのレンズである。
【0053】
CCDカメラ135は、映像素子を用いて光学的な画像を電子的な画像データに変換する装置であり、変換後の電子的な画像を制御部150に送信する。
【0054】
制御部150は、マイクロインジェクション装置100を全体制御する制御部であり、針122と基底面の接触検出の処理やインジェクションの自動実行処理等を行う。操作部136は、制御部150が各種処理を行うために必要な処理指示や設定情報の入力を受け付ける入力装置である。表示部137は、ユーザから指示等の入力を受け付け、各種情報を表示する装置であり、キーボードやディスプレイ等からなる。また、制御部150における各種処理の進行状況を示す情報や、各種処理結果である付着細胞の撮影画像を表示するための表示装置である。
【0055】
次に、実施例1に係るマイクロインジェクション装置の制御部の構成について説明する。図12は、実施例1に係るマイクロインジェクション装置の制御部の構成を示す機能ブロック図である。同図に示すように、マイクロインジェクション装置の制御部150は、針122及び針制御ステージ123を駆動制御する針駆動制御部151と、対物レンズ駆動部138を駆動制御することによって対物レンズ132の焦点位置を変化させる対物レンズ駆動制御部152と、シャーレステージ110を駆動制御するシャーレステージ駆動制御部153と、インジェクタ121を制御するインジェクション制御部154と、微分総和分布最大焦点位置算出部155と、微分総和分布最小焦点位置算出部156と、微分総和分布算出部157と、CCDカメラ135から画像を取得する画像取得部158と、差分画像計算部159と、細胞有無判定部160とを有する。
【0056】
画像取得部158は、操作部136から受け付けられた付着細胞の自動焦点調整開始指示若しくは、微分総和分布最大焦点位置算出部155からの信号入力を契機として、対物レンズ駆動制御部152を制御して操作部136から予め入力されて設定されている各焦点位置に対物レンズのCCD焦点を定め、CCDカメラ135から付着細胞の画像を取得する。そして、一連の処理を経て取得された参照画像及び複数の焦点位置における画像を、差分画像計算部159へ受け渡す。また、かかる処理において取得された付着細胞の画像を表示部137に表示させるために出力する。
【0057】
なお、複数の焦点位置における画像のうち、付着細胞の上方の例えば1mmに焦点位置を定めて撮影した画像が参照画像であり、付着細胞の上方200μmの焦点位置に焦点を置いて撮影された画像は、細胞の存在を検知するため使用される画像である。また、これら以外の焦点位置に焦点を置いて撮影された画像は、後述の一次探索又は二次探索で使用される画像である。
【0058】
差分画像計算部159は、画像取得部158から受け渡された参照画像及び複数の焦点位置における画像を二値化し、両者の差分画像を計算する。付着細胞の上方200μmの焦点位置に焦点を置いて撮影された画像が二値化されて計算された参照画像との差分画像は、細胞有無判定部160へ受け渡される。一次探索又は二次探索のために所定の焦点位置に焦点を置いて撮影された画像が二値化されて計算された参照画像との差分画像は、共に微分総和分布算出部157へ受け渡される。また、表示部137において表示可能に出力される。
【0059】
細胞有無判定部160は、付着細胞の上方200μmの焦点位置に焦点を置いて撮影された画像が二値化されて計算された参照画像との差分画像に基づいて輝度が所定閾値より低い領域の面積及び該領域における最小輝度を算出し、この面積と最小輝度との相関関係から当該視野における細胞の有無を判定する。当該視野において細胞が存在すると判定された場合には、対物レンズ駆動制御部152に対して対物レンズ駆動部138を駆動して対物レンズ132の焦点位置の一次探索の焦点位置への変化を開始させるように指示し、画像取得部158に対して一次探索における付着細胞の画像の取得を開始するように指示する。また、当該視野において細胞が存在すると判定されなかった場合には、シャーレステージ駆動制御部153に対して、次の観測サイト(観測位置、観測点)への移動を指示する。
【0060】
なお、細胞有無判定部160の判定結果である付着細胞の状態は、付着細胞自体の有無(存在)のみならず、適度に密集している細胞であるか又は浮遊している付着細胞であるか、若しくは生きている付着細胞であるか否かなど、付着細胞がマイクロインジェクションの対象となり得る状態にあるか否かの状態を含むものである。
【0061】
微分総和分布算出部157は、差分画像計算部159から受け渡された差分画像を微分してその微分値の絶対値の総和を微分総和として算出し、焦点位置に応じた微分総和の分布である微分総和分布を算出する処理を行う。微分総和分布が一次探索の結果に基づいて算出されたものである場合には該微分総和分布を微分総和分布最大焦点位置算出部155へ受け渡す。また、微分総和分布が二次探索の結果に基づいて算出されたものである場合には該微分総和分布を微分総和分布最小焦点位置算出部156へ受け渡す。
【0062】
微分総和分布最大焦点位置算出部155は、微分総和分布の値が最大となる焦点位置である微分総和分布最大焦点位置を、図5に示した方法で算出する。算出された微分総和分布最大焦点位置は、対物レンズ駆動制御部152へ受け渡される。対物レンズ駆動制御部152は、受け渡された微分総和分布最大焦点位置へ対物レンズ132の焦点を移動させるように対物レンズ駆動部138を駆動制御する。
【0063】
微分総和分布最小焦点位置算出部156は、微分総和分布の値が最小となる焦点位置である微分総和分布最小焦点位置を、図6に示した方法で算出する。算出された微分総和分布最小焦点位置は、対物レンズ駆動制御部152へ受け渡される。対物レンズ駆動制御部152は、受け渡された微分総和分布最小焦点位置へ対物レンズ132の焦点を移動させるように対物レンズ駆動部138を駆動制御する。
【0064】
また、微分総和分布最小焦点位置算出部156は、微分総和分布最小焦点位置が算出された情報を、針駆動制御部151及びインジェクション制御部154へ受け渡す。針駆動制御部151は、受け渡された該情報に応じて針122及び針制御ステージ123を制御する。インジェクション制御部154は、該情報を受け渡されると、操作部136からのインジェクション操作指示に基づいてインジェクタ121を制御する。
【0065】
なお、シャーレステージ駆動制御部153は、細胞有無判定部160からの次の観測サイトへの移動の指示のみならず、操作部136からの操作指示に基づいても、シャーレステージ110を適切な観測サイトへと移動させる。
【0066】
次に、実施例1に係るマイクロインジェクション装置において実行される細胞自動焦点処理手順について説明する。図13は、細胞自動焦点処理手順を示すフローチャートである。同図に示すように、先ず、シャーレ200上の1mmの位置へ焦点位置を移動させ(ステップS101)、当該焦点位置において参照画像となる画像を取得する(ステップS102)。さらに、シャーレ200上の200μmへ焦点位置を移動させ(ステップS103)、当該焦点位置において画像を取得する(ステップS104)。
【0067】
次に、ステップS102で取得された参照画像とステップS104で取得された画像との差分画像を計算し(ステップS105)、差分画像を二値化する(ステップS106)。続いて、二値化された差分画像に含まれる輝度が閾値以下である低輝度領域の面積を計算し(ステップS107)、該低輝度領域における最小輝度を検出する(ステップS108)。そして、最小輝度と低輝度領域の面積との相関からマイクロインジェクションに適した正常細胞の当該視野における有無を判定する(ステップS109)。
【0068】
次に、正常細胞が存在するか否かを判定し(ステップS110)、正常細胞が存在すると判定された場合に(ステップS110肯定)、一次探索処理を実行し(ステップS111)、続いて二次探索処理を実行する(ステップS112)。そして、ステップS112の二次探索処理によって計測された対物レンズ132の焦点位置へ対物レンズ132を移動させる(ステップS113)。続いて、観測終了かを判定し(ステップS114)、観測終了ならば(ステップS114肯定)、細胞自動焦点処理を終了し、観測終了でないならば(ステップS114否定)、ステップS115へ処理を移す。
【0069】
また、ステップS110において、正常細胞が存在すると判定されなかった場合にも(ステップS110否定)、ステップS115へ処理を移す。ステップS115では、次のシャーレステージ110を駆動制御して次の観測サイトへと移動させる。ステップS115が終了すると、ステップS104へ処理を移す。
【0070】
これらの一連の処理を実行することによって、対物レンズ132の対象視野であって、この視野内に付着細胞が存在する観測点を自動的に探索し検出することが可能となる。即ち、シャーレ200の位置を手動で動かしたりシャーレ200の底面において付着細胞自体の位置を動かしたりして対物レンズ132の視野内に付着細胞が入るように手作業で調整するという試行錯誤を行う必要がなく、煩わしさから解放され、より正確に細胞の焦点位置を把握して焦点を自動的に調整し、より効率的にマイクロインジェクションの作業を行うことが可能となる。また、上記の一連を処理が自動的に行われることから、マイクロインジェクションの作業時の心理的負担、心理的疲労をより軽減することができる。
【0071】
次に、実施例1に係るマイクロインジェクション装置において実行される一次探索処理について説明する。図14は、図13のステップS111に示した一次探索処理の処理手順を示すフローチャートである。同図に示すように、先ず、±200μmの範囲を20μmのピッチ(焦点間隔)で対物レンズ132を移動させる(ステップS121)。ここで±200μmの基準となる焦点位置は、細胞自動焦点処理のステップS103において設定された200μmである。
【0072】
次に、ステップS121で20μmのピッチで移動させられた対物レンズ132の各焦点位置で画像を取得する(ステップS122)。続いて、細胞自動焦点処理のステップS102で取得された参照画像とステップS122で取得された各焦点位置における画像との差分画像を計算する(ステップS123)。続いて、各差分画像の微分値に基づき微分総和分布を算出し(ステップS124)、微分総和分布が最大値を取る対物レンズ位置を検出する(ステップS125)。
【0073】
次に、実施例1に係るマイクロインジェクション装置において実行される二次探索処理について説明する。図15は、図13のステップS112に示した二次探索処理の処理手順を示すフローチャートである。同図に示すように、先ず、±20μmの範囲を1μmのピッチで対物レンズ132を移動させる(ステップS131)。ここで±20μmの基準となる焦点位置は、一次探索処理のステップS125において検出された対物レンズ位置で決まる焦点位置である。
【0074】
次に、ステップS131で1μmのピッチで移動させられた対物レンズ132の各焦点位置で画像を取得する(ステップS132)。続いて、細胞自動焦点処理のステップS102で取得された参照画像とステップS132で取得された各焦点位置における画像との差分画像を計算する(ステップS133)。続いて、各差分画像の微分値に基づき微分総和分布を算出し(ステップS134)、最良フォーカスの対物レンズ位置算出処理を行う(ステップS135)。
【0075】
次に、実施例1に係るマイクロインジェクション装置において実行される最良フォーカスの対物レンズ位置算出処理について説明する。図16は、図15のステップS135に示した最良フォーカスの対物レンズ位置算出処理の処理手順を示すフローチャートである。同図に示すように、先ず、微分総和分布の最小値を求め(ステップS141)、最小値に所定値αを加算した(最小値+α)に輝度の閾値を設定する(ステップS142)。続いて微分総和分布とステップS142で設定した閾値との交点を求める(ステップS143)。
【0076】
続いて、微分総和分布とステップS142で設定した閾値との交点が2つ存在するか否かを判定し(ステップS144)、交点が2つ存在する場合には(ステップS144肯定)、交点における部分総和分布曲線の接線を求め、その傾きを計算する(ステップS145)。続いて、ステップS145で計算された接線の傾きの絶対値の比に基づいて、交点を結ぶ線分を分割する(ステップS147)。そして、ステップS147で線分を分割する点の対物レンズ位置に関する成分を求め、最良フォーカスの対物レンズ位置とする(ステップS148)。
【0077】
一方、ステップS144における判定で、交点が2つ存在すると判定されなかった場合には(ステップS144否定)、ステップS146で設定した閾値を規定するαにα−β(常にα>β、βは一定値)をセットし(ステップS146)、ステップS142へ処理を移す。このようにして、交点が2つ存在するようになるまで、αを段階的に小さくしていき、最終的に交点が2つ存在すると判定されるに至ることとなる。
【実施例2】
【0078】
以下に図17〜20を参照して、本発明の実施例2のマイクロインジェクション装置におけるシャーレ底面の傾斜算出方法を説明する。実施例2は、実施例1を利用してなされる。先ず、図17を参照して、実施例2の前提となるシャーレ底面の傾斜の概要について説明する。図17は、シャーレ底面の傾斜の概要を説明するための説明図である。
【0079】
同図に示すように、シャーレの底面は、完全な水平ではなく、シャーレの中心がより隆起した傾斜を持つ。シャーレの底面の傾斜は、例えば水平方向に1mmの違いに対して垂直方向に10μmの高低差がある。従って、対物レンズのある視野位置において焦点深度(焦点位置)がシャーレの底面に一致しているとしても、わずかでも視野位置がずれると、焦点深度がシャーレの底面を離れてしまい、精密な付着細胞観測の正確性を損ねることとなっていた。特に、インジェクションのための針の先端がシャーレの底面に衝突すると該針の先端の破損を招き、問題であり、シャーレの底面の傾斜に関わらず、常に該底面から一定距離を保っていなければならない。
【0080】
そこで実施例2の発明は、実施例1で示した自動焦点調整方法を利用してシャーレの底面の傾斜を自動的に測定し、測定されたシャーレの底面の傾斜に沿ってシャーレの底面の位置や傾斜に関わらず、針の先端が常に該底面から一定距離を自動的に保つことができることを目的としてなされた。
【0081】
次に、実施例2に係るシャーレ底面の傾斜算出処理の概要を説明する。図18は、実施例2に係るシャーレ底面の傾斜算出処理の概要を説明するための説明図である。同図に示すように、選択したA〜Cの3点の位置に位置する細胞全てに対して一次探索及び二次探索を行うため、一次探索は二次探索と比較して対物レンズの焦点位置のより広い計測範囲を必要とすることから、全ての細胞の焦点位置を探索するために時間がかかっていた。
【0082】
しかし、実施例2では、特定の1点(実施例2ではA点)に位置する細胞に対して一次探索及び二次探索を行い、その他の2点(実施例2ではB点及びC点)に位置する細胞に対しては二次探索のみを行ってシャーレの傾き分のみを探索することとした。このため、対物レンズの焦点位置の計測範囲を限定することができ、全ての細胞の焦点位置を探索するための時間を短縮することが可能となった。なお、実施例2におけるA〜C点を、「シャーレ底面傾斜計測点」又は、単に「計測点」と呼ぶこととする。
【0083】
次に、実施例2に係るマイクロインジェクション装置の構成について説明する。図19は、実施例2に係るマイクロインジェクション装置の構成を示す機能ブロック図である。実施例2のマイクロインジェクション装置100の機能構成は、実施例1のマイクロインジェクション装置100の機能構成に次の機能ブロックを追加したものである。即ち、実施例2のマイクロインジェクション装置100は、シャーレ底面傾斜算出制御部161と、シャーレ底面傾斜算出部162とをさらに有する。
【0084】
シャーレ底面傾斜算出制御部161は、微分総和分布最小焦点位置算出部156により最小焦点位置が算出された情報を受け渡されると、シャーレ底面傾斜算出部162へシャーレの底面傾斜の算出を指示する。シャーレ底面傾斜算出部162は、シャーレ底面傾斜算出制御部161からの底面傾斜算出指示を受け、微分総和分布最小焦点位置算出部156により算出された、シャーレ底面傾斜算出点毎のシャーレ傾斜最小焦点位置に基づき、シャーレの底面の傾斜を算出する。この算出されたシャーレの底面の傾斜は、シャーレ底面傾斜算出部162から針駆動制御部151へ受け渡される。針駆動制御部151は、シャーレの底面の傾斜に基づいて、針の先端がシャーレの底面に接触しないように、針制御ステージを制御して、針の先端がシャーレの底面から一定距離(例えば、1μm)を保つようにコントロールする。
【0085】
次に、シャーレ底面傾斜算出処理について説明する。図20は、シャーレ底面算出処理手順を示すフローチャートである。同図に示すように、先ず、カウンタ変数であるn(nは自然数)に1をセットし(ステップS151)、シャーレステージ110を制御して第n番目の計測点へ移動する(ステップS152)。
【0086】
次に、一次探索処理を行い(ステップS153)、二次探索処理を行う(ステップS154)。ここでの一次探索処理及び二次探索処理は、実施例1で示したものである。続いて、n≧3であるか否かを判定し(ステップS155)、n≧3であると判定される場合に(ステップS155肯定)、シャーレの底面の傾斜を算出する(ステップS156)。一方で、n≧3であると判定されなかった場合に(ステップS155否定)、nに1を加算し(ステップS157)、シャーレステージ110を制御して第n番目の計測点移動する(ステップS158)。
【0087】
これらの一連の処理を行うことにより、シャーレの底面の傾斜を自動的に測定し、測定されたシャーレの底面の傾斜に沿ってシャーレの底面の位置や傾斜に関わらず、針の先端が常に該底面から一定距離を自動的に保つようにできる。よって、針の先端がシャーレ200の底面に接触して破損することを気にすることなく、より正確、より効率的かつより安全にマイクロインジェクションの作業を行うことが可能となる。また、針の先端がシャーレ200の底面に接触して破損することを気にする必要がないので、マイクロインジェクションの作業時の心理的負担、心理的疲労をより軽減することができる。
【0088】
以上、本発明の実施例1及び2を説明したが、本発明は、これに限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内で、更に種々の異なる実施例で実施されてもよいものである。また、実施例1及び2に記載した効果は、これに限定されるものではない。
【0089】
具体的には、上記実施例1及び2で示したマイクロインジェクション装置100及びその制御部150の構成及び各機能ブロックはあくまで一例を示したものに過ぎず、特許請求の範囲に記載したマイクロインジェクション装置及び自動焦点調整方法を実現するために、マイクロインジェクション装置100及びその制御部150の構成及び各機能ブロックは、この特許請求の範囲を逸脱しない範囲において変更可能である。
【0090】
(付記1)基底面上の細胞に突き刺した微細な針を通して該細胞に目的物を注入するマイクロインジェクション装置であって、
光源から光が照射される前記細胞の画像を、レンズを通して該レンズの異なる焦点位置毎に撮像する細胞画像撮像手段と、
前記レンズの基準となる焦点位置において前記細胞画像撮像手段により撮像された前記細胞の画像である参照画像と、前記レンズの基準となる焦点位置とは異なる各焦点位置において前記細胞画像撮像手段により撮像された前記細胞の画像との差分画像に基づいて該細胞の状態を計測する細胞状態計測手段と
を備えたことを特徴とするマイクロインジェクション装置。
【0091】
(付記2)前記細胞状態計測手段は、前記差分画像の輝度が所定閾値より低い領域の面積と該輝度との相関関係に基づいて前記細胞の状態を計測することを特徴とする付記1に記載のマイクロインジェクション装置。
【0092】
(付記3)前記細胞状態計測手段により前記差分画像の輝度が所定閾値より低い領域の面積と該輝度との相関関係に基づいて計測される前記細胞の状態は、細胞の有無、細胞の生死状態又は細胞の付着状態であることを特徴とする付記2に記載のマイクロインジェクション装置。
【0093】
(付記4)前記細胞状態計測手段により前記細胞の状態が計測された前記基底面における観測位置において、前記参照画像と前記レンズの第1の焦点間隔の各焦点位置で前記細胞画像撮像手段により撮像された前記細胞の画像との差分画像に基づいて算出された、該第1の焦点間隔の焦点位置に応じた微分総和分布が最大値を取る前記レンズの第1の焦点位置を検出する第1の焦点位置検出手段と、
前記参照画像と、前記観測位置において前記第1の焦点位置検出手段により検出された前記第1の焦点位置を含む所定範囲内で前記第1の焦点間隔よりも狭い第2の焦点間隔の各焦点位置で前記細胞画像撮像手段により撮像された前記細胞の画像との差分画像に基づいて算出された、該第2の焦点間隔の各焦点位置に応じた微分総和分布が最小値を取る前記レンズの第2の焦点位置を検出する第2の焦点位置検出手段と
をさらに備えたことを特徴とする付記1、2又は3に記載のマイクロインジェクション装置。
【0094】
(付記5)前記基底面における少なくとも3箇所の前記観測位置において、前記第1の焦点位置検出手段により検出された前記第1の焦点位置に基づき前記第2の焦点位置検出手段により検出された前記第2の焦点位置に基づいて該基底面の傾斜を算出する基底面傾斜算出手段をさらに備えたことを特徴とする付記4に記載のマイクロインジェクション装置。
【0095】
(付記6)前記基底面傾斜算出手段により算出された前記基底面の傾斜に応じて、前記観測位置に関わらず該基底面と前記針の先端との距離を一定に保持する距離保持手段をさらに備えたことを特徴とする付記5に記載のマイクロインジェクション装置。
【0096】
(付記7)レンズを通して視認可能な基底面上の細胞に突き刺した微細な針を通して該細胞に目的物を注入するマイクロインジェクション装置において該細胞に対する該レンズの焦点を自動で調整する自動焦点調整方法であって、
光源から光が照射される前記細胞の画像を、前記レンズの異なる焦点位置毎に撮像する細胞画像撮像工程と、
前記レンズの基準となる焦点位置において前記細胞画像撮像工程により撮像された前記細胞の画像である参照画像と、前記レンズの基準となる焦点位置とは異なる各焦点位置において前記細胞画像撮像工程により撮像された前記細胞の画像との差分画像に基づいて該細胞の状態を計測する細胞状態計測工程と
を含んだことを特徴とする自動焦点調整方法。
【0097】
(付記8)前記細胞状態計測工程により前記細胞の状態が計測された前記基底面における観測位置において、前記参照画像と前記レンズの第1の焦点間隔の各焦点位置で前記細胞画像撮像工程により撮像された前記細胞の画像との差分画像に基づいて算出された、該第1の焦点間隔の焦点位置に応じた微分総和分布が最大値を取る前記レンズの第1の焦点位置を検出する第1の焦点位置検出工程と、
前記参照画像と、前記観測位置において前記第1の焦点位置検出工程により検出された前記第1の焦点位置を含む所定範囲内で前記第1の焦点間隔よりも狭い第2の焦点間隔の各焦点位置で前記細胞画像撮像工程により撮像された前記細胞の画像との差分画像に基づいて算出された、該第2の焦点間隔の各焦点位置に応じた微分総和分布が最小値を取る前記レンズの第2の焦点位置を検出する第2の焦点位置検出工程と
をさらに含んだことを特徴とする付記7に記載の自動焦点調整方法。
【0098】
(付記9)前記基底面における少なくとも3箇所の観測位置において、前記第1の焦点位置検出工程により検出された前記第1の焦点位置に基づき前記第2の焦点位置検出工程により検出された前記第2の焦点位置に基づき該基底面の傾斜を算出する基底面傾斜算出工程をさらに含んだことを特徴とする付記8に記載の自動焦点調整方法。
【0099】
(付記10)前記基底面傾斜算出工程により算出された前記基底面の傾斜に応じて、前記観測位置に関わらず該基底面と前記針の先端との距離を一定に保持する距離保持工程をさらに含んだことを特徴とする付記9に記載の自動焦点調整方法。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、シャーレの底面に付着する細胞の焦点位置を自動的に効率よく正確に計測したい場合に有用であり、以って細胞に対する遺伝子注入作業を効率的に行いたい場合に効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】付着細胞へのマイクロインジェクションを説明するための説明図である。
【図2−1】実施例1に係る自動焦点調整方法の特徴を説明するための説明図である。
【図2−2】実施例1に係る自動焦点調整方法の特徴を説明するための説明図である。
【図2−3】実施例1に係る自動焦点調整方法の特徴を説明するための説明図である。
【図3】実施例1に係る自動焦点調整方法における細胞の状態計測の概要を説明するための説明図である。
【図4】実施例1に係る自動焦点調整方法における細胞の焦点位置計測の概要を説明するための説明図である。
【図5】実施例1に係る自動焦点調整方法における微分総和分布が最大となる対物レンズ位置推定の概要を説明するための説明図である。
【図6】実施例1に係る自動焦点調整方法における微分総和分布が最小となる対物レンズ位置推定の概要を説明するための説明図である。
【図7−1】微分総和分布の一例を示す図である。
【図7−2】微分総和分布の一例を示す図である。
【図8−1】実施例1に係る自動焦点調整方法における細胞の状態計測及び焦点位置計測の処理画像を示す図である。
【図8−2】実施例1に係る自動焦点調整方法における細胞の状態計測及び焦点位置計測の処理画像を示す図である。
【図8−3】実施例1に係る自動焦点調整方法における細胞の状態計測及び焦点位置計測の処理画像を示す図である。
【図8−4】実施例1に係る自動焦点調整方法における細胞の状態計測及び焦点位置計測の処理画像を示す図である。
【図9】実施例1に係る自動焦点調整方法におけるマイクロインジェクション装置への入力情報を説明するための説明図である。
【図10】実施例1に係る自動焦点調整方法におけるマイクロインジェクション装置からの出力情報を説明するための説明図である。
【図11】実施例1に係るマイクロインジェクション装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図12】実施例1に係るマイクロインジェクション装置の制御部の構成を示す機能ブロック図である。
【図13】細胞自動焦点処理手順を示すフローチャートである。
【図14】一次探索処理手順を示すフローチャートである。
【図15】二次探索処理手順を示すフローチャートである。
【図16】最良フォーカスの対物レンズ位置算出処理手順を示すフローチャートである。
【図17】シャーレ底面の傾斜の概要を説明するための説明図である。
【図18】実施例2に係るシャーレ底面の傾斜算出処理の概要を説明するための説明図である。
【図19】実施例2に係るマイクロインジェクション装置の制御部の構成を示す機能ブロック図である。
【図20】シャーレ底面の傾斜算出処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0102】
100 マイクロインジェクション装置
110 シャーレステージ
121 インジェクタ
122 針
123 針制御ステージ
131 照明光源
132 対物レンズ
133 反射鏡
134 結像レンズ
135 CCDカメラ
136 操作部
137 表示部
138 対物レンズ駆動部
150 制御部
151 針駆動制御部
152 対物レンズ駆動制御部
153 シャーレステージ駆動制御部
154 インジェクション制御部
155 微分総和分布最大焦点位置算出部
156 微分総和分布最小焦点位置算出部
157 微分総和分布算出部
158 画像取得部
159 差分画像計算部
160 細胞有無判定部
161 シャーレ底面傾斜算出制御部
162 シャーレ底面傾斜算出部
200 シャーレ
【出願人】 【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
【出願日】 平成18年6月29日(2006.6.29)
【代理人】 【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明


【公開番号】 特開2008−5768(P2008−5768A)
【公開日】 平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願番号】 特願2006−179705(P2006−179705)