トップ :: C 化学 冶金 :: C12 生化学;ビ−ル;酒精;ぶどう酒;酢;微生物学;酵素学;突然変異または遺伝子工学

【発明の名称】 芋焼酎もろみの固液分離方法
【発明者】 【氏名】菅沼 俊彦

【氏名】沖園 清忠

【要約】 【課題】焼酎もろみを効率的に固液分離する方法を提供すること。

【解決手段】芋焼酎もろみを予備ろ過し、ろ過物を圧搾ろ過によりもろみ液部ともろみ固形部に固液分離する方法、ならびに該方法により得られたもろみ液部を蒸留して留出させたアルコール分を含有する焼酎。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芋焼酎もろみを予備ろ過し、ろ過物を圧搾ろ過によりもろみ液部ともろみ固形部に固液分離する方法。
【請求項2】
請求項1の方法によって得られたもろみ液部を蒸留して留出させたアルコール分を含有する焼酎。
【請求項3】
請求項1の方法によって得られたもろみ固形部。
【請求項4】
請求項1の方法によって得られたもろみ液部の蒸留残渣。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、芋焼酎もろみを効率的に固液分離する方法、および該方法により得られるもろみ液部を蒸留した焼酎に関する。
【背景技術】
【0002】
焼酎は、通常、蒸煮した米、麦等に麹菌を加えて培養(製麹)したものに、アルコール発酵を行うのに十分に育成させた酵母(酒母(もと))を加えて発酵させた「もろみ」を蒸留することによって製造される。近年、焼酎の人気が高まり、その生産量の増大に伴って、蒸留残渣(蒸留廃液、焼酎粕ともいう)の量も増加している。蒸留残渣の代表的な食品への利用法にもろみ酢がある。もろみ酢は、一般的には、もろみを蒸留してアルコール分(焼酎)を得た後の副産物である蒸留残渣をそのまま圧搾ろ過または遠心分離等によって清澄液を得ることにより製造されている。しかしながら、かかる方法では、蒸留残渣に原料由来の不溶性固形物(例えば、イモ焼酎にあっては繊維)が多く含まれるため、ろ過性が悪い。そこで、本発明者らは、従来の焼酎・もろみ酢の製造工程における、もろみの蒸留、もろみ蒸留後の蒸留残渣の固液分離という手法とは全く異なる発想に基づき、固液分離をもろみの蒸留前に行ってもろみ液部ともろみ固形部を得、得られたもろみ液部ともろみ固形部に対してさらに蒸留・濃縮などの処理を行う方法を提案し、もろみの完全利用(ゼロエミッション)システムの構築を図っている(特許文献1)。例えば、前記もろみ液部やもろみ固形部を蒸留したアルコール分は新型焼酎として、もろみ液部の蒸留残渣の濃縮物は濃縮もろみ酢として、また、もろみ固形部はファイバーに富む機能性食品素材として利用できる。
【0003】
しかしながら、もろみ原料が芋の場合、焼酎もろみ液や廃液は原料由来の固形物が多く、ろ過方式による固液分離は困難であり、また、遠心分離や吸引ろ過方式の固液分離法は、もろみ香気成分が揮散するという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2006−109705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、原料由来の固形分が多く、固液分離が困難であった芋焼酎もろみを効率的に固液分離する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、芋焼酎もろみを予め予備ろ過して、粗い繊維分や固形部、芋の皮などを除去した後、そのろ過物を送液ポンプでろ過機に圧入し、圧搾ろ過することによりうまく固液分離できることを見出した。また、このようにして製造されたもろみ液部を蒸留して得られた焼酎は官能的にすぐれた酒質であった。本発明はかかる知見により完成されたものである。
【0007】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) 芋焼酎もろみを予備ろ過し、ろ過物を圧搾ろ過によりもろみ液部ともろみ固形部に固液分離する方法。
(2) (1)の方法によって得られたもろみ液部を蒸留して留出させたアルコール分を含有する焼酎。
(3) (1)の方法によって得られたもろみ固形部。
(4) (1)の方法によって得られたもろみ液部の蒸留残渣。
【発明の効果】
【0008】
本発明方法によれば、原料由来の固形分が多く、従来、固液分離が困難であった芋焼酎もろみを効率的に固液分離することができる。
【0009】
また、本発明方法の固液分離によって得られるもろみ液部から留出させたアルコール分は、従来にはない官能的にすぐれた酒質の焼酎として提供できる。
【0010】
さらに、本発明方法によれば、ろ過時のろ過膜を選択することにより漏れ出てくる酵母量を調整でき、また、圧搾ろ過時の時間や圧力を調整することによって、幅広い水分含有率を有する固形分を得ることができるというメリットもある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の芋焼酎もろみの固液分離方法に用いる「焼酎もろみ」は、焼酎の原料である、甘藷に麹菌と酵母を作用させて得られる、いわゆる「二次もろみ」をいう。また、ここで、焼酎とは「単式蒸留しょうちゅう」として分類される焼酎をいい、醸造用アルコールを薄めた「連続式蒸留しょうちゅう」は含まない。
【0012】
上記の「芋焼酎もろみ」(以下、「もろみ」という)の取得までは、焼酎の通常の製造工程に従って行うことができる。まず、蒸した米または麦に麹菌(種麹)を接種して十分に攪拌混合し、35℃〜45℃の範囲で送風、攪拌、静置を繰り返して培養し、焼酎製造用の麹を得る(製麹)。麹菌としては、白麹菌、黒麹菌、泡盛麹菌のいずれでもよく、具体的には、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)、アスペルギルス・ウサミ(Aspergillus usamii)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)などが用いられる。次に、できた麹に酵母(酒母)と水を加えて一次発酵させ、さらに主原料(焼酎の種類による異なるが、本発明では甘藷)を投入して発酵させると、二次もろみが得られる。
【0013】
続いて得られた芋焼酎もろみを予備ろ過し、ろ過物を圧搾ろ過してもろみ液部ともろみ固形部に固液分離する。ここで、予備ろ過の手段は、粗い繊維分や固形部、芋の皮などを除去できれば、特に限定はされないが、例えば、10〜16メッシュのろ過膜を用いた振動ふるいによって行う。また、圧搾ろ過は、上記予備ろ過によって得られたろ過物を市販の圧搾ろ過機に段階的に0.05〜0.2Mpaのポンプ圧をかけて圧入し、続いて圧縮空気を送り込み、段階的に0.1〜0.5Mpaの空気圧をかけて2〜20時間圧搾して、もろみ液部を漏出させ、もろみ固形部と分離する。圧搾ろ過機は、食品・医薬品用として開発された空気圧搾機構つきの圧搾ろ過機であればいずれも使用できるが、清酒もろみ圧搾に汎用されている藪田式ろ過圧搾機が好ましい。
【0014】
次に、分離したもろみ液部を蒸留(減圧または常圧蒸留)し、アルコールを留出させ、回収する。留出アルコールの濃度が約10%程度になった時点でアルコールの回収を終了し、本発明の焼酎を得る。
【0015】
上記の芋焼酎の固液分離によって得られたもろみ液部を蒸留して留出させたアルコール分は、35〜45%のアルコール濃度を有している。このアルコール分は、もろみから固形分を除くことなく直接蒸留して製造した従来の焼酎とは異なり、原料特有の香りや臭いがなく、香りと味のバランスがとれた新タイプの淡麗型である。
【0016】
一方、上記固液分離方法において、圧搾ろ過時の時間や圧力を調整することによって、50%〜80%といったように幅広い範囲の水分(水分+アルコール分)含有率のもろみ固形部を得ることができる。従って、もろみ固形部の用途に応じて所望の水分含有率に調整すればよい。もろみ固形部は、食品への天然繊維成分強化、食感改善、水分保持作用による鮮度保持効果などの種々の作用を発揮できることから、機能性食品素材として用いることができる。例えば、上記もろみ固形物を配合して機能性を付与または改善できる食品としては、ソーセージ、ハムなどの畜肉加工食品、かまぼこ、ちくわなどの魚肉加工食品、ギョウザ、コロッケなどの冷凍食品などが挙げられる。また、上記もろみ固形物は、賦形剤などを配合して家畜用、魚用飼料としても好適に用いることができる。
【0017】
さらに、上記の固液分離したもろみ液部を蒸留してアルコール留出させたあとの残渣(蒸留残渣)もまた、そのままで、または希釈して、あるいは他の成分を配合して、飲食品として利用できる。飲食品としては、好適には、調味料(代表的には、食用酢様の酸味調味液、ドレッシング、マヨネーズ等の調味料)やクエン酸飲料などが挙げられる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。
【0019】
(実施例1) 芋焼酎もろみの固液分離、淡麗型焼酎の製造
(1)芋焼酎もろみの調製
原料米1000kgを水洗した後、水中に60分間浸漬し、30分間水切りし、次いで60分間蒸煮した。得られた蒸煮米を冷却後、焼酎用種麹河内菌白麹を接種し、約35〜40℃で約40時間かけて製麹した。製造された麹に水(一次仕込み水)1200Lを加え、更に、種酵母菌5Lを加えて、5日間発酵させ、酒母をつくった(一次仕込み)。
【0020】
次に、生甘藷5000kgを水洗し、1時間蒸煮した後、送風して冷却し、粉砕した。ついで、粉砕した甘藷に3000Lの水(二次仕込み水)を加え、更に、これに先の一次仕込みで発酵させた一次もろみ(酒母)を加えた(二次仕込み)。二次仕込みを行った後、約9日間発酵させ、約8200Lの二次もろみ(もろみ)を得た。ここまでは、現場規模で実施した。
【0021】
(2)芋焼酎もろみの固液分離
以降の工程は、試験規模で実施した。(1)で得られた二次もろみ40Lを用い、これを16メッシュの振動ふるいにて予備ろ過を行い、得られたもろみ液(原液:6℃)をよく攪拌した圧送タンクに投入し、ポンプ圧(0.05、0.10、0.15、0.20Mpaを段階的に負荷)にて原液を圧搾ろ過機[使用機種:研究用テスト機(薮田産業(株)製、40D型)、ろ過面積: 0.88m2、使用ろ布:T1005C(材質:ポリエステル、通気度:0.5cc/sec/cm2)]に圧入した。圧入が終了したら圧搾坂に圧縮空気を送り、空気圧搾(0.1、0.2、0.3、0.4、0.5Mpaの空気圧を段階的に負荷)により脱水を行った。圧搾時間2時間、3時間、20時間とした場合のろ過脱水試験結果を図1〜3、および下記表1に示す。
【0022】
【表1】


【0023】
圧搾時間を長くすれば固形部であるケーキの含水率は低下する傾向にあるが、短時間でもケーキ剥離は良好で、ろ過能力、ろ過操作上支障はなった。従って、固形部を利用する場合にあっては、2〜20時間の範囲で圧搾時間をコントロールすることにより用途に応じて得られる固形分の水分(水分+アルコール分)含量を調整できるといえる。
【0024】
(3)アルコール留出
上記の圧搾ろ過で得られた清澄なろ液(もろみ液)50Lを、蒸留機(ケミカルプラント社製50L減圧・常圧兼用試験蒸留装置)で常圧蒸留した。運転条件は、真空度-720mmHg、もろみ液は約32℃で沸騰した。約2時間蒸留を続け、留出アルコール濃度が10%になったとき、アルコール回収をやめた。その結果、39.7%のアルコール留分16.3Lが得られた。アルコール回収歩留は、95.1%であった。
【0025】
(実施例2)本発明焼酎の酒質分析
実施例1で得られた本発明焼酎(淡麗型A)、および比較として発酵もろみをそのまま蒸留した通常タイプの焼酎(通常型N)、発酵もろみを遠心分離機(コクサン社製)にて固液分離し、得られた液部を蒸留した焼酎(淡麗型B)の酒質分析を行った。通常型N、淡麗型A、淡麗型Bの製造工程概略は図4に示すとおりである。
【0026】
(1) 官能検査
通常型N、淡麗型A(本発明焼酎)、淡麗型Bの3種の焼酎について、熟練パネラー5名による官能評価を行った。官能評価の項目は、香り、味、総合(バランス)で、配点は各5点とした。採点基準は、1点:明確な欠点、2点:やや劣る、3点:並、4点:やや優れている、5点:優れている、とした。結果を下記表2に示す。
【0027】
【表2】


【0028】
(2) アルコール度数
通常型N、淡麗型A(本発明焼酎)、淡麗型Bの3種の焼酎についてアルコール度数を測定したところ、それぞれ38.1%、39.7%、39.3%で、淡麗型A、Bの方が高い傾向にあった。
【0029】
(3) pH測定
通常型N、淡麗型A(本発明焼酎)、淡麗型Bの3種の焼酎についてpHを測定したところ、それぞれ5.35、5.45、5.50で、顕著な差はなかった。
【0030】
(4) 酸度測定
通常型N、淡麗型A(本発明焼酎)、淡麗型Bの3種の焼酎について酸度(製品酸度)を測定したところ、いずれも0.3で違いはなかった。
【0031】
(5) 紫外線吸収
通常型N、淡麗型A(本発明焼酎)、淡麗型Bの3種の焼酎について紫外線吸収(Abs.275nm×1000)を測定したところ、それぞれ273、291、393で淡麗型Bが最も高かった。
【0032】
(6) TBA値測定
通常型N、淡麗型A(本発明焼酎)、淡麗型Bの3種の焼酎についてTBA値(Abs.530nm×1000)を測定したところ、それぞれ273、291、393で紫外部吸収と同様に、淡麗型Bが最も高かった。
【0033】
(7) 香気成分のGC分析
通常型N、淡麗型A(本発明焼酎)、淡麗型Bの3種の焼酎についてその香気成分をGCで分析した。結果を図5に示す。淡麗型Bは、酢酸エチル、酢酸イソアミルが少なかった。
【0034】
(8) 香気成分のGC/MS(HS-TRAP)分析
通常型N、淡麗型A(本発明焼酎)、淡麗型Bの3種の焼酎についてその香気成分をHS-TRAP式GC/MSで分析した。結果を図6に示す。前半に検出される成分では、酢酸エチルが、淡麗型Bで少なかった。これは、前記の官能評価とも一致した。後半に検出される成分では、脂肪酸エチル類が、通常型Nに比べて淡麗型A(本発明焼酎)、淡麗型Bの方が少なかった。
【0035】
(9) 遊離型脂肪酸・エステル型脂肪酸のHPLC分析
通常型N、淡麗型A(本発明焼酎)、淡麗型Bの3種の焼酎についてその遊離型脂肪酸とエステル型脂肪酸をHPLCで分析した。結果を図7に示す。淡麗型A(本発明焼酎)は、各脂肪酸量が少なく、この結果は、前記のGC/MS(HS-TRAP)分析の結果と一致した。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】圧搾ろ過機によるろ過脱水試験結果(圧搾時間2時間)を示す。
【図2】圧搾ろ過機によるろ過脱水試験結果(圧搾時間3時間)を示す。
【図3】圧搾ろ過機によるろ過脱水試験結果(圧搾時間20時間)を示す。
【図4】通常型N、淡麗型A(本発明焼酎)、淡麗型Bの製造工程概略を示す。
【図5】通常型N、淡麗型A(本発明焼酎)、淡麗型Bの香気成分のGC分析結果を示す。
【図6】通常型N、淡麗型A(本発明焼酎)、淡麗型Bの香気成分のHS-TRAP式GC/MS分析結果を示す。
【図7】通常型N、淡麗型A(本発明焼酎)、淡麗型Bの遊離型脂肪酸・エステル型脂肪酸のHPLC分析結果を示す。
【出願人】 【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
【出願日】 平成19年5月8日(2007.5.8)
【代理人】 【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔

【識別番号】100096183
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 貞次

【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節

【識別番号】100120905
【弁理士】
【氏名又は名称】深見 伸子


【公開番号】 特開2008−278762(P2008−278762A)
【公開日】 平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願番号】 特願2007−123448(P2007−123448)