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【発明の名称】 醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類の製造方法
【発明者】 【氏名】栗山 謙一

【氏名】柿本 尚宏

【要約】 【課題】特定の酵母を用いて、2−メチル酪酸エチルを高含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類の製造方法を提供する。

【構成】澱粉質原料及び/又は糖質原料を原料として酒類を製造する方法において、ブレタノマイセス属/デッケラ属に属する酵母を用いる2−メチル酪酸エチルを20μg/L超含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類の製造方法。好適な酵母には、ブレタノマイセス ブルセレンシス/デッケラ ブルセレンシスに属する酵母があり、それを用いることにより、2−メチル酪酸エチルを200μg/L以上高含有する前記各酒類を製造することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉質原料及び/又は糖質原料を原料として酒類を製造する方法において、ブレタノマイセス属/デッケラ属に属する酵母を用いることを特徴とする2−メチル酪酸エチルを20μg/L超含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類の製造方法。
【請求項2】
ブレタノマイセス属/デッケラ属に属する酵母が、ブレタノマイセス ブルセレンシス/デッケラ ブルセレンシスに属する酵母である請求項1に記載の2−メチル酪酸エチルを200μg/L以上高含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類の製造方法。
【請求項3】
ブレタノマイセス属/デッケラ属に属する酵母が、ブレタノマイセス ブルセレンシス NBRC 1587株である請求項2に記載の2−メチル酪酸エチルを200μg/L以上高含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類の製造方法。
【請求項4】
ブレタノマイセス属/デッケラ属に属する酵母が、3526 ブレタノマイセス ランビカス株である請求項2に記載の2−メチル酪酸エチルを200μg/L以上高含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類の製造方法。
【請求項5】
醸造酒類が、清酒又は果実酒である請求項1〜4のいずれか1項に記載の2−メチル酪酸エチルを20μg/L超含有する醸造酒類の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法により得られる清酒。
【請求項7】
請求項5に記載の製造方法により得られる果実酒。
【請求項8】
蒸留酒類が、焼酎又はスピリッツである請求項1〜4のいずれか1項に記載の2−メチル酪酸エチルを20μg/L超含有する蒸留酒類の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法により得られる焼酎。
【請求項10】
請求項8に記載の製造方法により得られるスピリッツ。
【請求項11】
発泡性酒類が、発泡酒である請求項1〜4のいずれか1項に記載の2−メチル酪酸エチルを20μg/L超含有する発泡性酒類の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の製造方法により得られる発泡酒。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類の製造方法に関し、更に詳細には、特定の酵母を用いる2−メチル酪酸エチルを20μg/L超含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酒類においては、消費者の嗜好の多様化や女性顧客の増加等が相まって、需要開拓の観点より香味の改良が進められている。その中で、香気では、甘く、フルーティな香りが好まれることから、そういった香気を付与する成分を高含有し香味が向上した酒類の開発が検討されている。焼酎や清酒などの酒類において、香味向上に寄与する香気成分の一つとして2−メチル酪酸エチルが挙げられる。
【0003】
2−メチル酪酸エチルは、デリシャスリンゴの特徴香気成分として知られており(非特許文献1)、そのリンゴを連想させる甘く、フルーティな香気特徴を有する。
2−メチル酪酸エチルの酒類における存在は、ビール、シードル、ワイン、ブランデー、コニャック、ラムについて報告されており(非特許文献2)、ブランデーではその含量の報告もある(非特許文献3)。更に、ワインでは、本成分が熟成ワインに多いという記載もある(非特許文献4)。しかし、これらは酒類の種類と2−メチル酪酸エチルを含有することについての報告に過ぎず、その生成経路や高生成のための条件検討は行われていない。例えば、ビールでは1〜15μg/L含有し、ワインでは6〜20μg/L含有していることが知られている(非特許文献5、非特許文献6)。
【0004】
一方、2−メチル酪酸エチルに関する特許技術として、新鮮な香味と著しい匂い立ちを与える新規な香味改善剤及び改善された香味を有する飲食物が知られている(特許文献1)。これは、(S)−(+)−2−メチル酪酸及びそのエステル類からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物が、光学純度70%e.e.以上で含有されていることを特徴とする香味改善剤、並びに光学純度が70%e.e.以上の(S)−(+)−2−メチル酪酸及びそのエステル類からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を、飲食物に対して、光学純度100%に換算して1〜150ppmの割合で含有することを特徴とする改善された香味を有する飲食物であり、果汁飲料、食品等の飲食物に添加することによって、飲食物の香味の質及び匂い立ちを改善することができるとしている。これは、2−メチル酪酸エチルの(S)−(+)及び(R)−(−)の光学活性体、並びにラセミ体の匂い立ちの評価の差異に基づくものであるが、合成法以外で2−メチル酪酸エチルを取得する方法についての記載はない。
【0005】
また、果実からの香気成分の製造方法として、原料果汁(果実を圧搾して得られる生果汁、あるいは果汁の圧搾後に得られる搾り粕に水を加えて混合し、再度圧搾して得られる第2果汁)を限外濾過膜に通して、透過液を回収し、該透過液に酵母を作用させて、該透過液中の単糖及びオリゴ糖の含量を低減させる酵母処理を行い、酵母菌体除去後、逆浸透膜を用いて濃縮して原料果汁からの香気成分を高濃度で含むフレーバー調製物を得ることが提案されている(特許文献2)。実施例において、酵母処理を行い、2−メチル酪酸エチルは培養開始から増加し、2−メチル酪酸エチルが最大濃度になる培養8日目後においてリンゴそのものの香りが最も強く感じられたとの記載があり、また、使用する酵母は、果実等から単離された酵母が好ましく、例えば、リンゴから分離された糖資化性酵母であるサッカロマイセス スピシ−ズ(Saccharomyces sp.)を好ましいものとして挙げているが、ブレタノマイセス属/デッケラ属に属する酵母についての記載はない。
【0006】
2−メチル酪酸エチルの焼酎又は清酒への利用に関して、焼酎又は清酒に2−メチル酪酸エチルを有効量以上含有させることによって、甘く、フルーティな香味特徴を向上させることができることが提案されている(特許文献3)。微生物で生産する場合として、ディポダスカス属、ゲオトリカム属等が挙げられているが、ブレタノマイセス属/デッケラ属に属する酵母についての記載はない。
【0007】
ブレタノマイセス属に属する酵母の中には、ワインにおける「ブレッティ」という香気特徴に関与するものがある。また、ベルギーの伝統的な自然発酵ビール(ランビックやグーズ)では、サッカロマイセス属の酵母、乳酸菌と共に自然発酵に関与している微生物であるとされている。
【0008】
このように、ブレタノマイセス属/デッケラ属に属する酵母を主体として用いる発酵により酒類を製造する方法、天然物由来の2−メチル酪酸エチルを高含有させる条件の検討はなされていないのが現状である。
【0009】
【特許文献1】特開平7−143859号公報
【特許文献2】特開2001−220594公報
【特許文献3】特開2005−210952公報
【非特許文献1】おいしさの科学、第127頁、発行所(株)朝倉書店、1994年6月10日初版発行
【非特許文献2】アロマ オブ ビール,ワイン アンド ディスティルド アルコーリック ビバリッジズ(Aroma of Beer,Wine and Distilled Alcoholic Beverages)、ディー.ライデル パブリッシング カンパニー(D.REIDEL PUBLISHING COMPANY),p.182,1983年
【非特許文献3】ジャーナル オブ アグリカルチュラル アンド フード ケミストリー(Journal of Agricultural and Food Chemistry),Vol.27,No.2,pp.365−372,1979年
【非特許文献4】アナリシス オブ テイスト アンド アロマ(Analysis of Taste and Aroma),スプリンガー(Springer),p.99,2002年
【非特許文献5】醸造物の成分、第210頁、発行所(財)日本醸造協会、平成11年12月10日発行
【非特許文献6】醸造物の成分、第313頁、発行所(財)日本醸造協会、平成11年12月10日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記従来技術にかんがみ、澱粉質原料及び/又は糖質原料を原料として酒類を製造する方法において、特定の酵母を用いる2−メチル酪酸エチルを高含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明を概説すれば、本発明の第1の発明は、澱粉質原料及び/又は糖質原料を原料として酒類を製造する方法において、ブレタノマイセス属/デッケラ属に属する酵母を用いる2−メチル酪酸エチルを20μg/L超含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類の製造方法に関する。本発明の第2の発明は、ブレタノマイセス属/デッケラ属に属する酵母が、ブレタノマイセス ブルセレンシス/デッケラ ブルセレンシスに属する酵母である第1の発明の2−メチル酪酸エチルを200μg/L以上高含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類の製造方法に関し、本発明の第3の発明は、ブレタノマイセス属/デッケラ属に属する酵母が、ブレタノマイセス ブルセレンシス NBRC 1587株である第2の発明の2−メチル酪酸エチルを200μg/L以上高含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類の製造方法に関し、本発明の第4の発明は、ブレタノマイセス属/デッケラ属に属する酵母が、3526 ブレタノマイセス ランビカス株である第2の発明の2−メチル酪酸エチルを200μg/L以上高含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類の製造方法に関する。本発明の第5の発明は、醸造酒類が、清酒又は果実酒である第1〜第4のいずれかの発明の2−メチル酪酸エチルを20μg/L超含有する醸造酒類の製造方法に関する。本発明の第6の発明は、第5の発明の製造方法により得られる清酒に関し、第7の発明は、第5の発明の製造方法により得られる果実酒に関する。本発明の第8の発明は、蒸留酒類が、焼酎又はスピリッツである第1〜第4のいずれかの発明の2−メチル酪酸エチルを20μg/L超含有する蒸留酒類の製造方法に関する。本発明の第9の発明は、第8の発明の製造方法により得られる焼酎に関し、第10の発明は、第8の発明の製造方法により得られるスピリッツに関する。本発明の第11の発明は、発泡性酒類が、発泡酒である第1〜第4のいずれかの発明の2−メチル酪酸エチルを20μg/L超含有する発泡性酒類の製造方法に関する。本発明の第12の発明は、第11の発明の製造方法により得られる発泡酒に関する。
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、澱粉質原料及び/又は糖質原料を原料として酒類を製造する方法において、ブレタノマイセス属/デッケラ属に属する酵母を用いることにより、2−メチル酪酸エチルを20μg/L超含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類が得られることを見出し、ブレタノマイセス ブルセレンシス/デッケラ ブルセレンシスに属する酵母を用いることにより、2−メチル酪酸エチルを200μg/L以上高含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、澱粉質原料及び/又は糖質原料を原料として酒類を製造する方法において、ブレタノマイセス属/デッケラ属に属する酵母を主体として用いる発酵を行うことにより、2−メチル酪酸エチルを20μg/L超含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類を得ることができる。特にブレタノマイセス ブルセレンシス/デッケラ ブルセレンシスに属する酵母を主体として用いる発酵を行うことにより、2−メチル酪酸エチルを200μg/L以上高含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類を得ることができる。醸造酒類としては、清酒、果実酒等があり、蒸留酒類としては、焼酎、スピリッツ等があり、また、発泡性酒類としては、発泡酒等がある。これらについて、甘く、フルーティな香味特徴を有し、青リンゴ様、デリシャスリンゴ様を醸し出す酒類を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明でいう澱粉質原料とは、穀類、イモ類等であり、穀類では、米、大麦、とうもろこし等が挙げられる。また、本発明でいう糖質原料とは、糖蜜、果実類等であり、果実類では、果実酒(ワイン)の原料となるぶどう等が挙げられる。
本発明の醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類の製造方法では、醸造用酵母のうち、ブレタノマイセス(Brettanomyces)属/デッケラ(Dekkera)属に属する酵母を用いることを特徴とする。各種菌株を検討した結果、ブレタノマイセス属/デッケラ属に属する酵母を用いることにより、天然物由来の2−メチル酪酸エチルを20μg/L超含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類を得ることができる。ブレタノマイセス属/デッケラ属に属する酵母の中でも、ブレタノマイセス ランビカス(Brettanomyces lambicus)を含むブレタノマイセス ブルセレンシス(Brettanomyces bruxellensis)/デッケラ ブルセレンシス(Dekkera bruxellensis)に属する酵母を用いることにより、天然物由来の2−メチル酪酸エチルを200μg/L以上高含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類を得ることができる。ブレタノマイセス属/デッケラ属に属する酵母のうち、特にブレタノマイセス ブルセレンシス NBRC 1587株、3526 ブレタノマイセス ランビカス株が好ましい。なお、ブレタノマイセス ブルセレンシス NBRC 1587株は、NBRC カルチャー カタログ(NBRC Culture Catalogue)に記載されており、所望により独立行政法人製品評価技術基盤機構のバイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門から分譲購入することができる。また、3112 ブレタノマイセス ブルセレンシス株、3526 ブレタノマイセス ランビカス株は、ワイイースト ラボラトリーズ社(Wyeast Laboratories, Inc.)から購入することができる。
【0015】
ブレタノマイセスとデッケラとは、シノニム(異名)であるので、本発明では、ブレタノマイセス属/デッケラ属という表記、あるいは、ブレタノマイセス ブルセレンシス/デッケラ ブルセレンシスという表記としている。他には、ブレタノマイセス アブスチネンス(Brettanomyces abstinens)、ブレタノマイセス ブルセレンシス バリアント(Brettanomyces bruxellensis var.)、ノンメンブラナエファシエンス(nonmembranaefaciens)、ブレタノマイセス カスターシイ(Brettanomyces custersii)、ブレタノマイセス ランビカス、マイコトルラ インターメジア(Mycotorula intermedia)が同一生物につけられた異なる学名であるので、これらも本発明でいうブレタノマイセス ブルセレンシス/デッケラ ブルセレンシスに属する酵母に含まれる。
【0016】
本発明では、ブレタノマイセス属/デッケラ属に属する酵母を主体として用いる発酵を行うことにより、天然物由来の2−メチル酪酸エチルを20μg/L超含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類を製造することができる。ブレタノマイセス属/デッケラ属に属する酵母の中でも、ブレタノマイセス ブルセレンシス/デッケラ ブルセレンシスに属する酵母を主体として用いる発酵を行うことにより、天然物由来の2−メチル酪酸エチルを200μg/L以上高含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類を製造することができる。ブレタノマイセス属に属する酵母は、例えばベルギーの伝統的な自然発酵ビール(ランビックやグーズ)では、サッカロマイセス属の酵母、乳酸菌と共に自然発酵に関与している微生物であるとされているが、主発酵で用いることにより、2−メチル酪酸エチルを20μg/L超含有する従来にない酒質の醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類を得ることができる。
培養は、温度10〜35℃の範囲で適宜選択して、2〜20日間、好ましくは4〜15日間行えばよい。
なお、本発明では、天然物由来の2−メチル酪酸エチルを20μg/L超含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類を得ることができるが、天然物由来の2−メチル酪酸エチルを200μg/L以上含有することを「2−メチル酪酸エチル高含有」と規定している。例えば、醸造酒類の清酒では、2−メチル酪酸エチルを20μg/L超含有していれば、フルーティ、青リンゴの香りがするといった香味良好な酒質となり、2−メチル酪酸エチルを200μg/L以上含有しても、香味のバランスを損うといった酒質に影響を与えることなく、その香味特徴の際立ちは維持されたものとなる。
【0017】
本発明でいう醸造酒類とは、清酒、果実酒等が挙げられる。清酒の原料は、米、米麹及びその他通常清酒に用いられているものであれば特に限定はなく、また、発酵方法にも特に限定はない。果実酒の原料に特に限定はなく、また、発酵方法にも特に限定はない。
本発明でいう蒸留酒類とは、焼酎、原料用アルコール、スピリッツ等が挙げられる。焼酎、原料用アルコール、スピリッツの原料に特に限定はなく、また、発酵方法、蒸留方法にも特に限定はない。焼酎には、連続式蒸留焼酎、単式蒸留焼酎がある。
本発明でいう発泡性酒類とは、ビール、発泡酒等が挙げられる。ビール、発泡酒の原料に特に限定はなく、また、発酵方法にも特に限定はない。
これらは、いずれも平成18年5月1日施行の改正酒税法の新しい酒類の分類(種類)と、その種類に該当する酒類(品目)に従って記載している。
【0018】
本発明では、2−メチル酪酸エチルを主発酵で高生成させて醸造酒類、発泡性酒類を得ることができるが、醸造酒類、発泡性酒類とする場合には、醪を漉して固液分離する際に2−メチル酪酸エチルが液体側により移行するように、例えば発酵醪にアルコール(エタノール)を添加してアルコール濃度を高くしてから固液分離することにより、2−メチル酪酸エチルをより高含有する醸造酒類、発泡性酒類を得ることができる。また、蒸留酒類とする場合には、蒸留する際に2−メチル酪酸エチルが蒸留液側により移行するように、例えば発酵醪にアルコール(エタノール)を添加してアルコール濃度を高くしてから蒸留することにより、2−メチル酪酸エチルをより高含有する蒸留酒類を得ることができる。ブレタノマイセス属/デッケラ属に属する酵母、ブレタノマイセス ブルセレンシス/デッケラ ブルセレンシスに属する酵母を用いる発酵を行い、少し時期をずらして、例えばサッカロマイセス属に属する酵母での発酵を行い、発酵醪中のアルコール濃度を高くすることも有効である。ブレタノマイセス属/デッケラ属に属する酵母、ブレタノマイセス ブルセレンシス/デッケラ ブルセレンシスに属する酵母を用いる発酵と、サッカロマイセス属に属する酵母での発酵を同時に行うことも可能である。
本発明では、麹糖化物、あるいは麹糖化物をろ過して得られる麹糖化液を醪中に含有させることにより、より2−メチル酪酸エチルを高生成させることができるので、麹糖化物、麹糖化液を原料として用いるのが好ましい。
【0019】
本発明によれば、2−メチル酪酸エチルを高含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類を得ることができるので、醸造酒類としての清酒、果実酒等、蒸留酒類としての連続式蒸留焼酎、単式蒸留焼酎、原料用アルコール、スピリッツ等、発泡性酒類としてのビール、発泡酒等のそれぞれをベースとして、必要に応じて糖類、酸味料、あるいは炭酸ガスを含有させるなどにより、甘く、フルーティな香味特徴を有し、青リンゴ様、デリシャスリンゴ様を醸し出すアルコール含有飲料とすることができる。
【0020】
以下、検討例によって本発明を更に具体的に説明する。
検討例1
2−メチル酪酸エチルを高生産する酵母の選択を行った。検討した菌株の一覧を表1に示す。
【0021】
【表1】


【0022】
麹糖化物を用いて、表1に示す酵母の発酵試験を行った。麹糖化物の調製及び発酵試験は以下の通り行った。
米麹を55℃、3時間糖化して麹糖化物を得た。ブリックス度を10に調整し、121℃、15分間のオートクレーブ滅菌したブリックス度10の麹糖化物100mlに表1の各酵母を接種し、30℃で6日間の発酵試験を行った。発酵液中の2−メチル酪酸エチル含有量は以下の方法に従って測定した。すなわち、サンプル1mlをヘッドスペースバイアルに入れ、セプタムでシールし、80℃、15分間保持した。ヘッドスペースバイアルからヘッドスペースガス1mlを採取し、ガスクロマトグラフ アジレント(Agilent)6890N〔横河アナリティカルシステムズ(株)製〕に導入し、常法により分離後、質量選択型検出器 アジレント(Agilent)5973〔横河アナリティカルシステムズ(株)製〕で検出し、クロマトグラムを得た。内部標準法を用いて定量計算を行った。
3日目の結果を表2に示す。
【0023】
【表2】


【0024】
表2より、醸造用酵母のうち、ブレタノマイセス属/デッケラ属に属する酵母、特にブレタノマイセス ブルセレンシス/デッケラ ブルセレンシスに属する酵母は、2−メチル酪酸エチルを20μg/L超生成することがわかった。なお、30℃、6日間の発酵試験を行った結果、ブレタノマイセス ブルセレンシス NBRC 1587株は2−メチル酪酸エチルを114(μg/L)生成しており、また、3526 ブレタノマイセス ランビカス株は2−メチル酪酸エチルを110(μg/L)生成しており、ともに2−メチル酪酸エチル生成能の高い菌株であった。清酒用協会701号、ブドウ酒用協会1号、焼酎酵母協会2号では、2−メチル酪酸エチルを生成しないことは既に確認済みである。
【0025】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
米、米麹を原料として、清酒の製造を行った。仕込配合を表3に示す。
【0027】
【表3】


【0028】
麹米及び掛米は精米歩合75w/w%の精白米を用い、酵母はブレタノマイセス ブルセレンシス NBRC 1587株とサッカロマイセス セレビシエである清酒用協会701号を用いた。乳酸は醸造用乳酸を用いた。品温は初添後15℃、仲添後12℃、留添後10℃とし、その後1℃/1日の割合で上昇させ、15℃に到達後、一定温度として発酵させた。留後19日目に遠心分離にて上槽し、清酒を得た。得られた清酒の2−メチル酪酸エチルの濃度を検討例1の方法に準じて定量した。2−メチル酪酸エチルの測定は、以下の実施例においても同様に行っている。
【0029】
得られた清酒は、2−メチル酪酸エチルを702μg/L含有するものであり、フルーティ、さわやか、かろやか、青リンゴの香りがするといった香味良好な酒質であった。
【実施例2】
【0030】
ぶどう果汁を原料として、果実酒の製造を行った。
カベルネ・ソーヴィニヨン種のぶどう果汁を水でブリックス度を15に調整し、該果汁に5日間前培養したブレタノマイセス ブルセレンシス NBRC 0629株を1/100容接種した。28℃で7日間発酵させ、ケイソウ土ろ過したものを本発明1とした。一方、ブドウ酒用協会1号を用いて同様に製造したものを比較例1とし、それぞれ生成したエタノールと2−メチル酪酸エチルの濃度を定量した。結果を表4に示す。
【0031】
【表4】


【0032】
本発明1と比較例1について、11名のパネラーにより5点評価法(1;よい、5:悪い)で官能評価試験を行った。評点は平均値で表した。結果を表5に示す。
【0033】
【表5】


【0034】
表4、表5より、得られた果実酒は、2−メチル酪酸エチルを237μg/L含有するものであり、フレッシュでフルーティな香味を有し、オフフレーバも感じず、また、重厚さが付与された高級ワイン様の香味良好な酒質であった。
【実施例3】
【0035】
大麦を原料として、麦焼酎の製造を行った。仕込配合を表6に示す。
【0036】
【表6】


【0037】
一次仕込みは、150gの精白麦を、常法により水浸漬吸水後、水切り、蒸きょう、放冷した後、得られた蒸麦に種麹菌として市販の焼酎用白麹菌を接種し、麦麹を得た。この麹に汲水180ml及び酵母を加え、25℃で7日間発酵させ、一次醪とした。酵母はブレタノマイセス ブルセレンシス NBRC 1587株を用いた。
【0038】
一次醪に、精麦歩合70%(w/w)の蒸麦を加え二次仕込みを行い、25℃で14日間発酵させた。なお、このとき、通常焼酎の製造でよく用いられている焼酎酵母協会2号を加えて後発酵を行った。発酵終了醪のエタノールと2−メチル酪酸エチルの濃度を定量した。
【0039】
発酵終了醪を、常法により単式蒸留機を用いて蒸留を行い、蒸留酒類の焼酎である単式蒸留焼酎を得た。得られた単式蒸留焼酎のエタノールと2−メチル酪酸エチルの濃度を定量した。
【0040】
発酵終了醪のエタノール、2−メチル酪酸エチルの濃度は、それぞれ18%(v/v)、794μg/Lであり、また、得られた単式蒸留焼酎のエタノール、2−メチル酪酸エチルの濃度は、それぞれを34%(v/v)、1199μg/Lであった。官能的には、フルーティ、やわらかい、甘い香りがするといった香味良好な酒質であった。
【実施例4】
【0041】
麹を原料としてスピリッツの製造を行った。
市販の米の乾燥麹に対して800%(w/w)の汲水を行い、55℃で3時間保持した。これを121℃、30分間のオートクレーブ滅菌したものに5日間前培養したブレタノマイセス ブルセレンシス NBRC 1587株を1/100容接種した。28℃で5日間発酵させた。得られた発酵液のエタノール濃度は3.2%(v/v)であり、2−メチル酪酸エチルの濃度は5.2mg/Lであった。発酵液を、蒸留カラムを取りつけた蒸留フラスコを用いて蒸留し、2−メチル酪酸エチルの濃度が380mg/Lである、エタノール濃度57%(v/v)のスピリッツを得た。得られたスピリッツを本発明2、エタノール濃度を57%(v/v)と同じアルコール濃度に調整した醸造用アルコールを比較例2とした。
本発明2と比較例2について、12名のパネラーにより5点評価法(1;よい、5:悪い)で官能評価試験を行った。評点は平均値で表した。結果を表7に示す。
【0042】
【表7】


【0043】
表7より、ブレタノマイセス ブルセレンシス NBRC 1587株を用いて調製して得られたスピリッツは、2−メチル酪酸エチルを多く含有するものであり、華やか、青リンゴ様、フルーティといった香味良好な酒質であった。
【0044】
次に、得られたスピリッツと同アルコール濃度に調整した醸造用アルコールを準備し、上槽前の清酒醪1000mlに対しそれぞれ10ml添加し、これを漉して清酒を調製した。スピリッツを添加したものを本発明3、同アルコール濃度に調整した醸造用アルコールを添加したものを比較例3とし、12名のパネラーにより5点評価法(1;よい、5:悪い)で官能評価試験を行った。評点は平均値で表した。結果を表8に示す。
【0045】
【表8】


【0046】
表8より、ブレタノマイセス ブルセレンシス NBRC 1587株を用いて調製して得られたスピリッツを、上槽前の清酒醪にわずか1%(v/v)添加するだけで、官能的に、フルーティ、かろやか、青リンゴ、果実様といった香味良好な清酒を得ることができた。
【実施例5】
【0047】
麦芽を原料として、発泡酒の製造を行った。
粉砕麦芽1kgに水1Lを加え、67℃で3時間保持した。これを金網でろ過してろ液を得た。更に1.5Lの50℃のお湯で金網上のろ過残渣を抽出したものをろ液に合せ、煮沸し、ブリックス度が11の麦汁を調製した。得られた麦汁に5日間前培養した3526 ブレタノマイセス ランビカス株を1/100容接種した。20℃で10日間発酵して発泡酒を得た(本発明4)。一方、サッカロマイセス セレビシエ NCYC 242を用いて同様に製造したものを比較例4とし、それぞれ生成したエタノールと2−メチル酪酸エチルの濃度を定量した。なお、サッカロマイセス セレビシエ NCYC 242株は、ナショナル コレクション オブ イースト カルチャーズ(National Collection of Yeast Cultures)、のカタログに記載されており、所望により分譲購入することができるものを用いた。結果を表9に示す。
【0048】
【表9】


【0049】
本発明4と比較例4について、11名のパネラーにより5点評価法(1;よい、5:悪い)で官能評価試験を行った。評点は平均値で表した。結果を表10に示す。
【0050】
【表10】


【0051】
表9、表10より、得られた発泡酒は、2−メチル酪酸エチルを1200μg/L含有するものであり、フレッシュでフルーティな香味を有し、また、重厚さが付与された香味良好な酒質であった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の製造方法によれば、天然物由来の2−メチル酪酸エチルを20μg/L超含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類を得ることができる。特にブレタノマイセス ブルセレンシス/デッケラ ブルセレンシスに属する酵母を主体として用いる発酵を行うことにより、天然物由来の2−メチル酪酸エチルを200μg/L以上高含有する醸造酒類、蒸留酒類又は発泡性酒類を得ることができる。2−メチル酪酸エチルは、甘く、フルーティな香味特徴を有し、本発明により得られる清酒、果実酒、焼酎、スピリッツ、発泡酒等のそれぞれをベースとして、必要に応じて糖類、酸味料、あるいは炭酸ガスを含有させるなどにより、青リンゴ様、デリシャスリンゴ様を有するアルコール含有飲料に広く応用することができるので、本発明は有用である。
【出願人】 【識別番号】302026508
【氏名又は名称】宝酒造株式会社
【出願日】 平成18年8月28日(2006.8.28)
【代理人】 【識別番号】100087022
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 昭

【識別番号】100096415
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 大


【公開番号】 特開2008−48695(P2008−48695A)
【公開日】 平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願番号】 特願2006−230040(P2006−230040)