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【発明の名称】 高純度脂肪酸アルキルエステルの製造方法
【発明者】 【氏名】奥 智治

【氏名】野々口 真則

【氏名】和泉 博子

【氏名】橘 敦

【要約】 【課題】コスト面、収率面において優れ、粗脂肪酸アルキルエステルに含まれるモノグリセリドを簡便に除去することができる高純度の脂肪酸アルキルエステルの製造方法を提供する。

【解決手段】モノグリセリドを含有する粗脂肪酸アルキルエステルから脂肪酸アルキルエステルを製造する方法であって、上記製造方法は、粗脂肪酸アルキルエステルをグリセリン及びそれ以外のアルコールを含む混合溶媒で抽出する工程を含む脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノグリセリドを含有する粗脂肪酸アルキルエステルから脂肪酸アルキルエステルを製造する方法であって、
該製造方法は、粗脂肪酸アルキルエステルに含まれるモノグリセリドをグリセリン及びグリセリン以外のアルコールを含む混合溶媒で抽出する工程を含む
ことを特徴とする脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項2】
前記製造方法は、油脂類とアルコールとを接触させて粗脂肪酸アルキルエステルを製造するエステル交換反応工程を含む
ことを特徴とする請求項1記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項3】
前記製造方法は、多段反応の最終段の後に抽出工程を設ける
ことを特徴とする請求項2に記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項4】
前記グリセリン以外のアルコールは、エステル交換反応工程で使用するアルコールと同じである
ことを特徴とする請求項2又は3記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項5】
前記製造方法は、粗脂肪酸アルキルエステルにグリセリン及び/又はグリセリン以外のアルコールを添加する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項6】
前記抽出工程に用いるグリセリン以外のアルコールの質量は、グリセリンの質量の0.1〜10倍である
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項7】
前記抽出工程に用いるグリセリン及びグリセリン以外のアルコールの合計質量は、脂肪酸アルキルエステルの質量の0.1〜10倍である
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項8】
前記抽出工程は、10〜100℃の温度で行う
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項9】
前記製造方法は、エステル交換反応工程を不均一系触媒を用いて行う
ことを特徴とする請求項2〜8のいずれかに記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項10】
前記製造方法は、エステル交換反応工程をアルコールの亜臨界又は超臨界条件下で行う
ことを特徴とする請求項2〜9のいずれかに記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項11】
前記抽出工程で抽出されたモノグリセリドを含有する混合溶媒は、エステル交換反応工程で再利用される
ことを特徴とする請求項2〜10のいずれかに記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸アルキルエステルの製造方法に関する。より詳しくは、燃料、食品、化粧品、医薬品等の用途に有用な高純度の脂肪酸アルキルエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸アルキルエステル類は、植物油脂から得られるものが食用油として用いられ、その他にも、化粧品、医薬品等の分野に用いられている。また、近年では、軽油等に添加される燃料用としても注目されており、例えば、COの排出削減の目的から、植物由来のバイオディーゼル燃料として軽油に数%添加されることになる。このような脂肪酸エステル類の製造方法としては、例えば、油脂の主成分であるトリグリセリドを低級アルコールとエステル交換して製造する方法が知られている。
【0003】
エステル交換法で得られる粗脂肪酸アルキルエステル中には、主生成物の脂肪酸アルキルエステルの他に副生成物であるグリセリン、反応中間体であるモノグリセリド、ジグリセリド、および未反応物であるトリグリセリドが含まれる。これらの不純物を脂肪酸アルキルエステルから分離する方法として、グリセリンに関しては液々相分離や水洗が、またジグリセリドやトリグリセリドは蒸留により蒸留残渣へ濃縮除去する方法が知られている。
一方、モノグリセリド、特に短鎖脂肪酸モノグリセリドは沸点が長鎖脂肪酸アルキルエステルと近いため、通常の蒸留による分離除去は困難である。
【0004】
蒸留によるモノグリセリドの分離を改善する方法として、モノグリセリドを含有する粗脂肪酸アルキルエステルに酸又はアルカリを添加して蒸留を行う脂肪酸アルキルエステルの製造方法が開示されている(例えば、特許文献1)。粗脂肪酸アルキルエステルに含まれるモノグリセリドを蒸留残渣として容易に濃縮除去できるとしているが、モノグリセリドや添加した酸又はアルカリを含む蒸留残渣の再利用が困難である点や、精製収率に改善の余地があった。
【0005】
また、触媒の存在下、粗脂肪酸アルキルエステルに含まれるモノグリセリドを脂肪酸アルキルエステルと反応させ、ジグリセリドやトリグリセリドに変換した後に蒸留残渣へと濃縮除去する脂肪酸アルキルエステルの製造方法が開示されている(例えば、特許文献2)。モノグリセリド含有量の少ない脂肪酸アルキルエステルが得られるうえ、ジグリセリドやトリグリセリドを含む蒸留残渣をエステル交換反応工程の原料として再利用できる点が優れているとしているが、一度行った反応の逆反応を行うことになるため工程が煩雑になるうえ、高温・長時間の処理条件が必要であり工夫の余地があった。
【特許文献1】特開2006−1893号公報(第2−3頁)
【特許文献2】米国特許第6147196号明細書(第1−2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、コスト面、収率面において優れ、粗脂肪酸アルキルエステルに含まれるモノグリセリドを簡便に除去することができる高純度の脂肪酸アルキルエステルの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、脂肪酸アルキルエステルの製造方法について種々検討したところ、粗脂肪酸アルキルエステルに含まれるモノグリセリドをグリセリン及びグリセリン以外のアルコールを含む混合溶媒で抽出することにより、脂肪酸アルキルエステルを容易に製造できることを見いだした。また、上記製造方法を油脂類とアルコールとを接触させて粗脂肪酸アルキルエステルを製造するエステル交換反応工程と組み合わせると、除去したモノグリセリドをエステル交換反応工程で再利用できるということを見出した。さらに、上記グリセリン以外のアルコールをエステル交換反応工程で用いるアルコールと同じものにすれば、抽出工程後に該アルコールを回収し、エステル交換反応工程で再利用することが可能となり、コスト面、収率面でより優れたプロセスとなることを見出し、上記課題をみごとに解決できることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、モノグリセリドを含有する粗脂肪酸アルキルエステルから脂肪酸アルキルエステルを製造する方法であって、上記製造方法は、粗脂肪酸アルキルエステルに含まれるモノグリセリドをグリセリン及びグリセリン以外のアルコールを含む混合溶媒で抽出する工程を含む脂肪酸アルキルエステルの製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明の抽出工程とは、2液相分離状態にある粗脂肪酸アルキルエステルの、主に脂肪酸アルキルエステルからなる液相と、主にグリセリン及びグリセリン以外のアルコールからなる液相を分取する際、主にグリセリン及びグリセリン以外のアルコールからなる液相がモノグリセリドを含有した状態で分取する工程をいう。
上記混合溶媒は、脂肪酸アルキルエステルと混ざり合いにくい性質をもつグリセリンを含有するために脂肪酸アルキルエステルと相分離することから、抽剤としての利用が可能であり、またグリセリン以外のアルコールを適度に含有するために粗脂肪酸アルキルエステルに含まれるモノグリセリドを抽出することができる。
本発明の製造方法は、粗脂肪酸アルキルエステルに含まれるモノグリセリドを特定の混合溶媒で抽出する工程を含むものである。製造方法をこのようなものとすることにより、蒸留等の従来の方法では分離除去の難しかったモノグリセリドを効率的に抽出除去することができ、その結果、コスト面、収率面において有利に、高純度の脂肪酸アルキルエステルを簡便に製造することができる。また、抽出したモノグリセリド及び抽出に用いたグリセリン以外のアルコールは反応の原料として再利用することができ、このような形態は本発明の好ましい実施形態の一つである。この場合には、コスト面、収率等をより優れたものとすることができる。
【0010】
上記抽出工程におけるグリセリン以外のアルコールは、極性等を考慮し適宜選択すればよいが、炭素数1〜5のアルコールが好ましく、より好ましくは炭素数1〜3のアルコールである。炭素数1〜5のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、3−ペンタノール等が挙げられる。この中でも、メタノール、エタノールが特に好ましく、最も好ましくはメタノールである。
【0011】
本発明の製造方法において、抽出工程に用いるグリセリン以外のアルコールの質量は、グリセリンの質量の0.1〜10倍であることが好ましい。
言い換えれば、抽出工程に用いるグリセリン以外のアルコールの質量は、グリセリンの質量を100質量%とすると、10〜1000質量%であることが好ましい。
0.1倍未満であると、混合溶媒に対するモノグリセリドの溶解度が低くなり、充分にモノグリセリドを抽出除去できなくなるおそれがある。10倍を超えると、相分離が起こらなくなり、モノグリセリドを抽出除去できなくなるおそれがある。
上記下限は、0.5倍がより好ましく、1.0倍が更に好ましい。上記上限は、7.5倍がより好ましく、5.0倍が更に好ましい。
【0012】
本発明の製造方法において、抽出工程に用いるグリセリン及びグリセリン以外のアルコールの合計質量は、脂肪酸アルキルエステルの質量の0.1〜10倍であることが好ましい。
言い換えれば、抽出工程に用いるグリセリン及びグリセリン以外のアルコールの合計質量は、脂肪酸アルキルエステルの質量を100質量%とすると、10〜1000質量%であることが好ましい。
0.1倍未満であると、モノグリセリドを充分抽出できないおそれがある。
10倍を超えると、モノグリセリドの他に脂肪酸アルキルエステルも抽出されてしまうために、脂肪酸アルキルエステルの収量が低くなるおそれがある。
上記下限は、0.5倍がより好ましく、1.0倍が更に好ましい。上記上限は、7.5倍がより好ましく、5.0倍が更に好ましい。
【0013】
本発明の製造方法において、抽出工程の温度は分離効率等を考慮して適宜選択することができるが、10〜100℃とすることが好ましい。
即ち、本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法における上記抽出工程は、10〜100℃の温度で行うことが好ましい。
上記上限としては80℃とすることがより好ましく、65℃とすることが更に好ましく、50℃とすることが更により好ましい。アルコールの沸点を超えると、アルコールの沸騰を防ぐために加圧が必要となり、設備コストなどの点で不利なプロセスとなるおそれがある。また10℃未満であると、粗脂肪酸アルキルエステル中に含まれる成分が析出し、抽出が困難になるおそれがある。
【0014】
本発明の抽出工程は、分離効率等を考慮し適宜その実施形態を選択すれば良い。抽出工程の様式としては例えば、単抽出、多回抽出、半回分微分抽出、向流多段抽出、および十字流式多段抽出法等が挙げられる。
【0015】
本発明の製造方法においては、モノグリセリドを抽出した後に、分取した各相からグリセリン及びグリセリン以外のアルコールを分離除去することで脂肪酸アルキルエステルを製造することが好ましい。分離除去方法は適宜選択すればよいが、グリセリン以外のアルコールは例えば蒸留や蒸発等により分離可能である。グリセリンは、例えばグリセリン以外のアルコールを分離除去した後に相分離や水洗にて分離除去可能である。
【0016】
上記「粗脂肪酸アルキルエステル」は、不純物としてモノグリセリドを含有する脂肪酸アルキルエステル組成物であり、「脂肪酸アルキルエステル」よりもモノグリセリドの含有量が多いものをいう。代表的には油脂類とアルコールのエステル交換反応で得られる、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、アルコール等を不純物として含有する脂肪酸アルキルエステル組成物である。
「脂肪酸アルキルエステル」は、例えば、モノグリセリドの含有量が「脂肪酸アルキルエステル」の質量を100質量%とすると1質量%以下であるものとすることが好適であり、0.5質量%以下であるものとすることがより好適である。
「粗脂肪酸アルキルエステル」は、例えば、モノグリセリドの含有量が「脂肪酸アルキルエステル」の質量を100質量%とすると1.0質量%を超えるものとすることが好適であり、5.0質量%を超えるものとすることがより好適である。
脂肪酸アルキルエステル成分が実質的に脂肪酸メチルエステルのみである粗脂肪酸アルキルエステルを、粗脂肪酸メチルエステルともいう。
【0017】
本発明の製造方法は、粗脂肪酸アルキルエステルにグリセリン及び/又はグリセリン以外のアルコールを新たに添加し、抽出を行うことができる。粗脂肪酸アルキルエステルが単一相である場合や、2相分離しにくい場合にはグリセリンを添加することで、抽出工程に適した相分離状態を形成することができる。また、グリセリン及びグリセリン以外のアルコールを主に含む液相に対するモノグリセリドの溶解度が低くモノグリセリドを十分に抽出できない場合には、グリセリン以外のアルコールを添加することによりモノグリセリドの抽出効率を向上させることができる。すなわち、本発明の製造方法は、粗脂肪酸アルキルエステルにグリセリン及び/又はグリセリン以外のアルコールを添加することが好ましい。
【0018】
本発明における脂肪酸アルキルエステルとしては、炭素数6〜26の脂肪酸とアルコールからなるエステル化合物の群より選択される1種又は2種以上の混合物が好ましい。また、粗脂肪酸アルキルエステルの製造方法としては、油脂類などの主成分であるトリグリセリドとアルコールとをエステル交換反応する方法が挙げられる。すなわち、本発明の製造方法は、油脂類とアルコールとを接触させて粗脂肪酸アルキルエステルを製造するエステル交換反応工程を含むことが好ましい。
【0019】
上記油脂類としては、ナタネ油、ゴマ油、ダイズ油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、ベニバナ油、アマニ油、綿実油、キリ油、ヒマシ油等の植物油脂;牛脂、豚油、魚油、鯨脂等の動物油脂;各種の食用油の使用済み油(廃食油)等の1種又は2種以上を用いることができる。
上記油脂類が不純物としてリン脂質やタンパク質等を含む場合、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の鉱酸を添加して、不純物を除去する脱ガム工程を行ったものを用いることが好ましい。
【0020】
上記エステル交換反応工程におけるアルコールとしては、炭素数1〜5のアルコールであることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜3のアルコールである。炭素数1〜5のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、3−ペンタノール等が挙げられる。これらの中でも、メタノールが好ましい。
【0021】
上記エステル交換反応は、触媒の存在下に行うことが好ましいが、触媒の非存在下ないし触媒の実質的非存在下に行ってもよい。触媒を用いる場合は、均一系触媒、不均一系触媒のどちらでもよいが、触媒の分離が容易で精製工程を簡略化しやすい不均一系触媒がより好ましい。すなわち、本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、エステル交換反応工程を不均一系触媒を用いて行うことが好ましい。
【0022】
上記不均一系触媒としては不溶性固体触媒を用いることがより好ましい。この様な形態とすると、反応後に反応液から触媒成分を分離除去する工程が不要となるか、又は極めて容易となり、廃棄物が少なく、収率面、コスト面で優れたプロセスの構築が可能となる。一方、不溶性固体触媒を用いて油脂類とアルコールのエステル交換反応を十分に進行させる為には、一般に高温高圧条件が必要である。高温高圧下では反応液は単一相を形成し易い為、生成したグリセリンが相分離せず、化学平衡の観点からは不利な条件となる。結果として平衡中間体であるグリセリド類が残存し易くなるが、本製造方法では従来困難であったモノグリセリドの分離除去を抽出工程で容易に行える為、反応工程における平衡中間体の残存は問題とはならない。つまり、本発明の製造方法は、エステル交換反応を平衡中間体が残存し易い条件、即ち、高温高圧等の条件下に単一相で行った際に特に有効な製造方法となる。
【0023】
このような反応工程において、不溶性固体触媒としては、原料である油脂類、アルコール、生成物(脂肪酸アルキルエステル類やグリセリン)等に不溶性を示すものであれば特に限定されない。不溶性とは触媒の活性成分の溶出が1000ppm以下であり、好ましくは800ppm以下であり、より好ましくは600ppm以下であり、更に好ましくは300ppm以下である。特に好ましくは、実質的に活性成分が含有されないことである。
上記活性金属成分の溶出量は、反応後の反応液を、溶液状態のまま蛍光X線分析法(XRF)により測定することができる。また、より微小量の溶出量を測定する場合には、高周波誘導プラズマ(ICP)発光分析法により測定することが好ましい。
【0024】
上記触媒が限定されない理由としては、触媒は化学平衡を変え得ないからである。また、不溶性固体触媒は、油脂類中に含まれる遊離脂肪酸のエステル化反応に対して活性を持つ触媒、すなわち油脂類中に含まれるグリセリドのエステル交換反応と、遊離脂肪酸とアルコールとで脂肪酸アルキルエステル類が得られるエステル化反応との両反応に対して活性を持つ触媒であることが好ましい。このような形態とすることにより、原料である油脂類が遊離脂肪酸を含むものであっても、エステル交換反応とエステル化反応とを行うことができるので、エステル交換反応工程と別にエステル化反応工程を設けなくても脂肪酸アルキルエステル類の収率を向上することができることになる。上記不溶性固体触媒としては、例えば、亜鉛アルミニウム混合酸化物やチタン、ジルコニウム又はアンチモンとアルミニウムとの複合酸化物、結晶性又は非晶質チタノシリケート、酸化ジルコニウムと酸化チタンの混合酸化物、ルチル型酸化チタン、アナターゼ型酸化チタン、イルメナイト構造を有する金属酸化物、スリランカイト構造を有する金属酸化物などが挙げられる。
なお、上記不溶性固体触媒に他の触媒を併用して用いてもよいし、上記触媒は、1種又は2種以上用いてもよく、本発明の作用効果を奏する限り、触媒調製工程で生じる不純分や他の成分を含有していてもよい。
【0025】
上記不溶性固体触媒としては、金属酸化物触媒であることが好ましく、中でも、(1)ジルコニウムと、4族、5族及び8族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素とを必須成分とする金属酸化物触媒、(2)イルメナイト構造及び/又はスリランカイト構造を有する金属酸化物触媒、(3)アナターゼ型酸化チタン及び/又はルチル型酸化チタンを必須成分とする金属酸化物触媒等が好適である。これらの(1)〜(3)の金属酸化物触媒は、エステル化反応とエステル交換反応とを同時に行うことができるとともに、油脂類中に含まれる鉱酸や金属成分の影響を受けず、かつアルコールが分解しない等の作用効果を発揮する触媒であることから、従来の方法で使用されている均一系触媒と比較して触媒の回収工程等の煩雑な工程を簡略化又は不要とすることができ、より高効率かつ高選択的に粗脂肪酸アルキルエステルを製造することが可能となる。高効率かつ高選択的に粗脂肪酸アルキルエステルを製造することにより、本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、よりコスト面、収率面で有利に、簡便に高純度の脂肪酸アルキルエステルを製造することができ好ましい。
【0026】
上記(1)の金属酸化物触媒としては、上記必須成分を有するものである限り特に限定されず、例えば、単一の酸化物の混合体又は複合酸化物の形態であってもよいし、担体上に活性成分を坦持又は固定化した形態であってもよい。また、必須成分のいずれか1つを担体として用い、他を活性成分として坦持又は固定化した形態も好ましい形態の1つである。
上記担体上に活性成分を坦持等した形態において、担体としては、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、各種ゼオライト、活性炭、珪藻土、酸化ジルコニウム、ルチル型酸化チタン、酸化すず、酸化鉛等が挙げられるが、酸化ジルコニウムを担体とすることが特に好適である。中でも、酸化ジルコニウムを担体とし、活性成分として4族、5族及び8族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の単一又は複合酸化物を用い、該担体にこのような活性成分を坦持又は固定化した形態であることが好ましい。このように酸化ジルコニウムを担体とすることにより、高活性となり、また、一般に触媒寿命が短いバナジウム系触媒を長寿命化させることが可能となることから、本発明の製造方法において、上記触媒のリサイクル性がより向上され、ユーティリティーコストや設備費を充分に低減できるとともに、高収率かつ高選択的に粗脂肪酸アルキルエステルを製造することが可能となる。
上記酸化ジルコニウムとしては、単斜晶構造のものが好適であり、これにより、触媒活性が更に向上し、また、活性金属成分である上記金属元素の溶出を更に充分に抑制することが可能となる。
【0027】
上記(1)の金属酸化物触媒において、4族、5族及び8族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素としては、上述したように単一又は複合酸化物の形態で存在することが好適である。なお、複合酸化物としては、4族、5族及び8族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素と、それ以外の金属元素との複合酸化物であってもよい。単一又は複合酸化物としては、Ti、V及びFeのうち少なくとも1種の金属元素を必須とするものであることがより好ましく、中でも、Tiを必須とするものであることが好適である。具体的には、例えば、アナターゼ型TiOやルチル型TiO等の酸化チタン、チタニアシリカ、チタニアジルコニア、チタニアマグネシア、チタニアカルシア、チタニアイットリア、チタニアボリア、チタニア−酸化スズ等、TiVO等のチタンバナジウム複合酸化物;バナジウム酸化物、FeVO等の鉄バナジウム複合酸化物、Co等のコバルトバナジウム複合酸化物、CeVO等のセリウムバナジウム複合酸化物、亜鉛バナジウム複合酸化物、ニッケルバナジウム複合酸化物、銅バナジウム複合酸化物、スカンジウムバナジウム複合酸化物、イットリウムバナジウム複合酸化物、ランタンバナジウム複合酸化物、スズバナジウム複合酸化物、鉛バナジウム複合酸化物、アンチモンバナジウム複合酸化物、ビスマスバナジウム複合酸化物、セレンバナジウム複合酸化物、テルルバナジウム複合酸化物;酸化鉄等が挙げられ、1種又は2種以上を使用することができる。中でも、アナターゼ型TiO、ルチル型TiO、鉄バナジウム複合酸化物が好ましい。更に、ルチル型TiO、三斜晶系FeVOが特に好ましい。
なお、複合酸化物を形成する形態としては特に限定されないが、例えば、酸素原子を介して第1原子と第2原子とが共有結合した形態;第1原子と第2原子とが結合したものと、酸素原子とが共有結合した形態;第1原子の酸化物と第2原子の酸化物との複合物及びそれらの固溶体等が挙げられる。
【0028】
上記(1)の金属酸化物触媒がジルコニウムと上記金属元素との複合酸化物である場合には、該複合酸化物は、Zr0.5Ti0.5(スリランカイト)であることも好適である。スリランカイト構造に関しては、上記(2)の金属酸化物触媒について後述するとおりである。
【0029】
上記(1)の金属酸化物触媒としてはまた、活性成分として三斜晶構造の金属酸化物を含有することが好適である。三斜晶系とは、3つの結晶軸が全て斜交し、各結晶軸の長さが互いに異なる結晶系であり、三斜格子を有するものである。中でも、鉄、バナジウム及びジルコニウムからなる酸化物であって、酸化ジルコニウム上に三斜晶系のFeVO複合酸化物を坦持又は固定化した形態のものが好適である。
ここで、鉄、バナジウム及びジルコニウムからなる酸化物としては、上述したものの他、三斜晶系でない鉄とバナジウムの複合酸化物が酸化ジルコニウム上に坦持又は固定化されたものや、鉄、バナジウム及びジルコニウムの三元系複合酸化物等が挙げられ、これらもまた、本発明の好適な形態の1つである。このように鉄及びバナジウムに更にジルコニウムを用いることにより、通常の鉄及びバナジウムからなる酸化物に比較して、活性成分の溶出がより抑制され、触媒寿命を更に向上することが可能となる。
【0030】
上記(1)の金属酸化物触媒において、ジルコニウムの含有量としては、本発明の触媒総量100質量%に対して、金属換算で下限が1質量%、上限が80質量%であることが好適である。1質量%未満であると、高活性化及び原料や生成物への不溶化をより充分に達成することができないおそれがあり、80質量%を超えても、高活性化を更に図ることができないおそれがある。より好ましくは、下限が2質量%、上限が75質量%である。
また上記4族、5族及び8族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の含有量としては、本発明の触媒総量100質量%に対して、金属換算で下限が1質量%、上限が80質量%であることが好適である。1質量%未満であると、触媒活性が充分とはならず、反応効率を向上させることができないおそれがあり、80質量%を超えると、上記金属元素の酸化物等が担体上で凝集し、高活性をより充分に発揮できないおそれがあり、また、ジルコニウムに起因する作用効果を充分に発揮することができないおそれがある。より好ましくは、下限が2質量%、上限が75質量%である。
上記金属元素の含有量は、蛍光X線分析(XRF)により測定することができる。
【0031】
上記(2)の金属酸化物触媒としては、イルメナイト構造及び/又はスリランカイト構造を有するものである限り特に限定されず、例えば、単一の酸化物の混合体又は複合酸化物の形態であってもよいし、担体上に活性成分(例えば、金属元素の単一又は複合酸化物)を坦持又は固定化した形態であってもよい。担体としては、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、各種ゼオライト、活性炭、珪藻土、酸化ジルコニウム、ルチル型酸化チタン、酸化すず、酸化鉛等が挙げられる。
【0032】
上記イルメナイト構造とは、化学式ABX(A及びBは陽イオンであり、Xは陰イオンである)で表され、Xが少し歪んだ六方最密充填をつくり、その八面体間隙にA及びBが6配位で規則配列をする菱面体格子をいう。例えば、FeTiOに代表される複合酸化物があり、該複合酸化物の構造は、α−アルミナ(コランダム型)のAlの位置を規則的にFeとTiとに置き換えた構造である。このような構造を有することにより、エステル交換反応の原料である油脂類及びアルコールと、生成物(脂肪酸アルキルエステル類やグリセリン等)とのいずれにも充分に不溶性となるとともに、触媒寿命が格段に向上することから、本発明の製造方法において、触媒のリサイクル性がより向上されるうえに、触媒の分離除去工程を著しく簡略化又は不要とすることができ、ユーティリティーコストや設備費を充分に削減することが可能となる。
【0033】
このようなイルメナイト構造を有する金属酸化物としては、上記化学式中のA及びBのうち少なくとも1種がチタンであることが好適であり、例えば、MnTiO、FeTiO、CoTiO、NiTiO、ZnTiO等が挙げられる。中でも、チタンと、7族、8族、9族及び10族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素とを含んでなるイルメナイト構造を有する金属酸化物であることが好ましい。この場合、活性成分の溶出が更に充分に抑制され、本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。より好ましくは、上記金属酸化物が、MnTiO、FeTiO、CoTiO、NiTiOであることである。
【0034】
上記スリランカイト構造とは、1983年にA.Willgallisらによって発見されたTi0.67Zr0.33に代表される主としてチタンとジルコニウムとの複合酸化物及び/又は固溶体であり、斜方晶のα−PbOと同じ構造を有するものである。すなわち、α−PbOのPb4+イオンの位置にランダムにTi4+とZr4+とが配置した構造を有する特徴がある。具体的には、Ti4+とZr4+との合計原子数と酸素との原子比が1:2で表される複合酸化物及び/又は固溶体である。本発明では、TiとZrとの原子比が1〜0.2:0〜0.8が好適であり、0.8〜0.3:0.2〜0.7が好ましく、0.7〜0.4:0.3〜0.6がより好ましい。
【0035】
このような上記(2)の金属酸化物を含有する触媒を用いることにより、酸化チタンやシリカ坦持酸化チタン等よりも高活性となるため、本発明の製造方法において、該触媒のリサイクル性がより向上され、ユーティリティーコストや設備費を充分に低減できるとともに、高収率かつ高選択的に粗脂肪酸アルキルエステルを製造することが可能となる。なお、上記触媒が、イルメナイト構造やスリランカイト構造を有することは、粉末X線回折測定(XRD)により確認することができる。
【0036】
上記(3)の金属酸化物触媒としては、上記必須成分を有するものである限り特に限定されないが、該金属酸化物触媒100質量%に対し、チタンの含有量は、金属換算で下限が0.5質量%、上限が60質量%であることが好適である。より好ましくは下限が1質量%、上限が45質量%であり、更に好ましくは下限が2質量%、上限が30質量%である。
上記アナターゼ構造及びルチル構造とは、共に正方晶系に属し、ABで表される化合物(A:陽性原子、B:陰性原子)により形成される結晶構造である。このような結晶構造においては、A原子がB原子によって八面体的に配位されるが、アナターゼ構造は各八面体が隣接八面体と4稜を共有して骨格構造を形成し、ルチル構造は各八面体が隣接八面体と2稜を共有して骨格構造を形成することになる。ルチル構造の化合物は、アナターゼ構造の化合物を焼成することにより得ることが可能である。
なお、上記触媒がアナターゼ型酸化チタン及び/又はルチル型酸化チタンを含むことは、粉末X線回析(XRD)により確認することができる。
【0037】
上記(3)の金属酸化物触媒としてはまた、アナターゼ型酸化チタン及び/又はルチル型酸化チタンの他に、更に単一の酸化物又は複合酸化物を含む形態であってもよいし、上記酸化チタンを担体又は活性成分とし、担体上に活性成分を坦持又は固定化した形態であってもよい。担体としては、上記酸化チタンの他、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、各種ゼオライト、活性炭、珪藻土、酸化ジルコニウム、酸化すず、酸化鉛等が挙げられる。
【0038】
上記(3)の金属酸化物触媒の好ましい形態としては、更に、4族、13族及び14族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の酸化物を含有する形態であり、例えば、該酸化物と上記酸化チタンとの混合体や、該酸化物又は上記酸化チタンを担体又は活性成分とし、担体上に活性成分を坦持等した形態が挙げられる。中でも、4族、13族及び14族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の酸化物を担体とし、アナターゼ型酸化チタン及び/又はルチル型酸化チタンを活性成分とする形態であることが好適であり、これにより、活性成分であるチタン成分の溶出をより充分に抑制でき、更に高活性かつ長寿命の触媒となるため、本発明の製造方法に特に好適な触媒とすることが可能となる。
【0039】
上記4族、13族及び14族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の酸化物としては、これらの金属元素の単一酸化物若しくはその混合体又は複合酸化物の形態であることが好ましく、複合酸化物としては、4族、13族及び14族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素と、それ以外の金属元素との複合酸化物であってもよい。上記金属元素の単一又は複合酸化物としては、Si、Zr及びAlのうち少なくとも1種の金属元素を必須とするものであることがより好ましく、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、酸化ジルコニウム等が挙げられる。
なお、上記4族、13族及び14族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の酸化物としては、非晶性の酸化チタンや、チタンとチタン以外の金属とにより構成される複合酸化物を含んでもよいが、アナターゼ型酸化チタン及び/又はルチル型酸化チタンは含まないものとする。
【0040】
上記(3)の金属酸化物触媒において、4族、13族及び14族からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素の含有量(該含有量には、アナターゼ型酸化チタン及び/又はルチル型酸化チタンを構成するチタン元素の含有量は含まないものとする。)としては、本発明の触媒総量100質量%に対して、金属換算で下限が1質量%、上限が80質量%であることが好適である。このような範囲に設定することにより、触媒活性や反応効率が更に向上され、本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。より好ましくは、下限が2質量%、上限が75質量%である。なお、金属元素の含有量は、蛍光X線分析(XRF)により測定することができる。
【0041】
上記(3)の金属酸化物触媒としてはまた、触媒中に含まれる硫黄成分が700ppm以下であることが好適である。700ppmを超えると、触媒活性や触媒寿命が充分には向上されないため、触媒の分離除去・回収工程を著しく簡略化又は不要とするとともに、触媒を用いて連続的に反応を行うことができるという本発明の作用効果を充分に発揮できないおそれがある。より好ましくは500ppm以下であり、更に好ましくは200ppm以下である。なお、触媒中の硫黄成分は、蛍光X線(XRF)や高周波誘導プラズマ(ICP)発光分析法により測定することができる。例えば、XRFでは触媒粉体のまま、あるいはガラスビード法により測定することができ、ICPでは、例えば、フッ化水素酸水溶液で触媒粉体を溶解させて測定することができるが、測定の簡便さの点からガラスビード法によるXRFで測定することが好ましい。
このように触媒中に含まれる硫黄成分を低減する方法としては、例えば、触媒の原料として硫酸塩を用いずに触媒を調製したり、硫酸塩の使用量を充分に低減させて調製したり、触媒を充分な量の水等の溶媒で洗浄することによって行うことが可能である。
【0042】
上記(1)〜(3)の金属酸化物触媒としてはまた、焼成したものを用いてもよく、これにより、活性金属成分の溶出を更に抑制することができる。焼成温度としては、触媒表面積と結晶構造とを考慮して設定することが好適であり、例えば、下限を280℃、上限を1300℃とすることが好ましい。280℃未満であると、溶出を充分に抑制することができないおそれがあり、1300℃を超えると、充分な触媒表面積を得られず、粗脂肪酸アルキルエステルを高効率で製造できないおそれがある。より好ましくは、下限を400℃、上限を1200℃とすることである。また、焼成の時間は、下限が30分、上限が24時間であることが好適である。より好ましくは、下限が1時間、上限が12時間である。焼成中の気相雰囲気は、空気、窒素、アルゴン、酸素、水素等が好ましく、またそれらの混合ガスであってもよい。より好ましくは、空気中で焼成することである。
【0043】
なお、上述したように、担体上に金属元素の単一又は複合酸化物等から構成される活性成分を坦持又は固定化した形態の触媒を製造する場合には、担体となる化合物に含浸法や混練法等によって該活性成分を混合担持させた後、上記焼成条件にて焼成することにより製造することが好適である。これにより、担体表面に活性成分を充分に分散することができ、また、固体触媒として作用させることが可能となる。
【0044】
上記エステル交換反応工程において、触媒の非存在下ないし触媒の実質的非存在下とは、原料油脂類及びアルコールに含まれない他の触媒活性を有する化学成分の非存在下で実施することである。この場合には、反応を十分に進行させる為、油脂類とアルコールとをアルコールの亜臨界又は超臨界条件で反応させることが好適である。亜臨界や超臨界条件下では通常、生成したグリセリンが相分離しない為、化学平衡の問題から平衡中間体であるグリセリド類が残存し易くなる場合があるが、本発明の抽出工程を実施すれば、従来の方法では分離が困難であったモノグリセリドを簡便に分離除去できる。すなわち、本発明の製造方法は、エステル交換反応工程をアルコールの亜臨界又は超臨界条件下で行うことが好ましい。
超臨界条件とは、物質固有の臨界温度及び臨界圧力を超えた領域をいい、アルコールとしてメタノールを使用する場合、温度が239℃以上であり、圧力が8.0MPa以上の条件を指す。
亜臨界条件とは、アルコールの臨界点近傍の臨界温度及び/又は臨界圧力より低い条件領域(亜臨界条件)をいい、アルコールとしてメタノールを使用する場合、亜臨界条件は温度190℃以上、かつ、圧力4MPa以上の条件である。
好ましい温度範囲としては下限が250℃であり、上限が350℃である。より好ましくは下限が260℃、上限が330℃である。更に好ましくは、下限が270℃、上限が320℃である。また、好ましい圧力範囲としては下限が8.0MPa、上限が15MPaである。好ましい反応時間としては5秒〜30分であり、より好ましくは30秒〜15分であり、更に好ましくは50秒〜5分である。なお、上記エステル交換反応工程に不溶性固体触媒を用いる場合にも、このような亜臨界状態、超臨界状態で反応を行ってもよい。
【0045】
本発明の製造方法において、抽出工程で抽出されたモノグリセリドを含有する混合溶媒は、エステル交換反応工程で再利用される形態が好ましい。
上記エステル交換反応の反応条件や実施形態は、特に限定するものではないが、例えば特開2005−200398号公報、特開2005−206575号公報等に記載の方法が好ましい。
【0046】
上記エステル交換反応工程で得られる粗脂肪酸アルキルエステルが未反応のアルコールを含有する場合には、アルコール回収工程にて未反応のアルコールの一部又は全部を粗脂肪酸アルキルエステルから回収することが好ましい。アルコール回収工程の実施形態としては特に限定されることはなく、蒸留や蒸発等で好適に行うことができる。回収したアルコールは、上記エステル交換反応工程で原料として再利用されることが好ましく、その際、回収したアルコールをそのまま再利用してもよいし、蒸留等の操作により精製してから再利用してもよい。
【0047】
本発明の製造方法は、油脂類とアルコールを接触させて粗脂肪酸アルキルエステルを製造するエステル交換反応工程と抽出工程の両方を含むプロセスとすることが好ましく、さらにエステル交換反応工程で得られた粗脂肪酸アルキルエステルから未反応のアルコールを回収する上記アルコール回収工程を含むプロセスとすることがより好ましい。
エステル交換反応工程と抽出工程を組み合わせ、抽出工程で分離したモノグリセリドをエステル交換反応工程で再利用することが好ましい。
【0048】
前記製造方法においては、抽出工程で用いるグリセリン以外のアルコールをエステル交換反応工程で原料として用いるアルコールと同じものとする形態が好ましい。すなわち、本発明の製造方法においては、グリセリン以外のアルコールは、エステル交換反応工程で使用するアルコールと同じであることが好ましい。同じものとすることで、抽出工程で用いたグリセリン以外のアルコールを回収し、エステル反応工程で再利用可能な、収率面、コスト面で優れたプロセスとできる。このようなプロセスは本発明の好ましい実施形態である。
ここで「同じ」とは化合物としての種類が同じであることをいう。
【0049】
前記製造方法は、エステル交換反応工程及びアルコール回収工程を1段又は2段以上含むプロセスとすることができる。2段以上含むプロセスとする場合は、前段反応器の反応後液から分離されるエステル相を反応原料の一つとしてアルコールとともに後段の反応器へ供することによって反応させる工程を含む形態とすることが好ましい。すなわち前段の反応後の反応液からエステル相を分離、回収し、該エステル相とアルコールとを原料として、後段の反応を行うことが好ましい。より好ましくは、前段の反応後の反応液からエステル相を分離、回収する工程の前に、触媒の非存在下で軽沸成分を除去する工程を含む形態である。このような形態とすることにより、エステル交換反応の逆反応を充分に抑制することができ、エステル相とグリセリン相との分離を向上できることになる。
【0050】
この場合における前段の反応とは、連続する2段の反応に着目する場合、先に行われる反応を意味し、後段の反応とは、後に行われる反応を意味するものである。すなわち2段反応の場合には、1段目が前段の反応であり、2段目が後段の反応である。また3段反応の場合、1段目の反応と2段目の反応に着目すると、1段目が前段の反応、2段目が後段の反応であり、2段目の反応と3段目の反応に着目すると、2段目が前段の反応、3段目が後段の反応である。
このように多段の反応プロセスにより、エステル交換反応をほぼ完結させることができることになり、後に行われる精製工程を簡略化することが可能となる。
多段のエステル交換反応工程を含む実施形態により本発明の高純度脂肪酸アルキルエステルを製造する際には、多段反応の最終段の後に抽出工程を設けることが好ましい。
【0051】
以下に本発明の製造方法における好ましい形態について、図1及び図2を用いて説明する。なお、本発明は、これらの形態に限られるものではない。
図1は、アルコールとしてメタノールを用いて、1段反応により製造する場合における、本発明の製造工程の好ましい形態の一つを示す模式図である。このような形態において、原料であるメタノールは、反応塔1に供給される。油脂類は、脱ガム用反応槽(図示なし)等でタンパク質やリン脂質等の不純物が除去された後、反応塔1に供給される。反応塔1には、不均一系触媒が充填されており、メタノールと油脂類とが反応することになる。得られる反応液すなわち粗脂肪酸メチルエステルには、脂肪酸メチルエステル、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、遊離脂肪酸、メタノール、グリセリン、生成水等が含有されており、不均一系触媒の活性金属成分としては1000ppm以下である。該粗脂肪酸メチルエステルは、反応塔1の底部から抽出塔2に送られる。
【0052】
上記粗脂肪酸メチルエステルは、抽出塔2においてグリセリン及び/又はメタノールを添加されて、粗脂肪酸メチルエステルに含まれるモノグリセリドがグリセリン及びメタノールを含む混合溶媒で抽出され、該抽出された混合溶媒がメタノール回収塔5に送られる。グリセリン及び/又はメタノールが添加されることにより、溶媒中のグリセリンとメタノールの比率が変更されることになる。エステル相は、抽出塔2からメタノール回収塔4に送られる。メタノール回収塔4においてメタノールが留去され、また、エステル相からメタノールを除去して得られるメタノール除去液は、相分離器6に送られる。上記相分離器6では、メタノール除去液を静置することにより、エステル相とグリセリン相とに相分離し、エステル相は精製塔7に送られる。
メタノール回収塔5では、メタノールと、モノグリセリド及びグリセリンとに分けられ、メタノールは反応塔1に供給されることによって反応の原料として再利用されることになる。モノグリセリド及びグリセリンは相分離器3に供給され、静置されることにより、エステル相とグリセリン相とに相分離し、エステル相は反応器1に供給されることによって、反応の原料として再利用されることになる。
【0053】
上記精製塔7では、最終目的物である脂肪酸アルキルエステルが蒸留によって回収され、また、精製残分(回収エステル)が反応塔1に供給されることによって、反応の原料として再利用されることになる。
上記グリセリン相は、最終目的物であるグリセリンが蒸留等によって回収され、また、精製残分が脱ガム用反応槽(図示なし)に供給されることによって、反応の原料として再利用されることになる。
【0054】
図2は、アルコールとしてメタノールを用いて、2段反応により製造する場合における、本発明の製造工程の好ましい形態の一つを示す模式図である。
このような形態において、原料であるメタノールは、1段目反応塔8に供給され、油脂類は、脱ガム用反応槽(図示なし)等で不純物が除去された後、1段目反応塔8に供給される。1段目反応塔8には、不均一系触媒が充填されており、メタノールと油脂類とが反応することになる。得られる反応液には、脂肪酸メチルエステル、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、遊離脂肪酸、メタノール、グリセリン、生成水等が含有されており、該反応液は、1段目反応塔8の底部からメタノール回収塔9に送られる。メタノール回収塔9においてメタノールが留去され、また、メタノールを除去して得られるメタノール除去液は、相分離器10に送られる。
【0055】
上記相分離器10では、メタノール除去液を静置することにより、エステル相とグリセリン相とに相分離し、エステル相は2段目反応塔11に送られる。このエステル相には、脂肪酸アルキルエステル、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、遊離脂肪酸、メタノールが含有されている。一方、グリセリン、メタノール、生成水を含有するグリセリン相は、グリセリンとして回収される。
上記2段反応塔11では、相分離器10より得られるエステル相と、新たに供給されるメタノールとが反応することになる。反応液は、2段目反応塔11の底部より、抽出塔12に送られる。
【0056】
上記抽出塔12において反応液は、グリセリン及び/又はメタノールを添加されて、モノグリセリド成分が抽出除去され、モノグリセリド成分が除去された液がメタノール回収塔13に送られる。また、抽出液は、1段目反応塔8に送られる。2段反応においては、抽出塔12と1段目反応塔8との間にメタノール回収塔を新たに設けなくてもよい。メタノール回収塔13では、メタノールが回収され、メタノール除去液は相分離器14に送られる。回収されたメタノールは、1段目反応塔8及び2段目反応塔11に供給されることによって、反応の原料として再利用されることになる。
上記相分離器14では、メタノール除去液を静置することにより、エステル相とグリセリン相とに相分離し、脂肪酸アルキルエステル及びグリセリンが得られる。
上述の1段反応及び2段反応において、生成水をメタノール回収塔で除去することは、好ましい実施形態の一つである。また生成水は、例えば、脱水塔を追加して除去することもできる。なお、図中、グリセリン/(MeOH)は、グリセリン及び/又はメタノールを表す。
【0057】
本発明の製造方法により得られる脂肪酸アルキルエステルは、工業原料や医薬品等の原料、燃料等として様々な用途に好適に用いられることとなる。
【発明の効果】
【0058】
本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、上述の構成よりなり、コスト面、収率面において有利に、簡便に高純度の脂肪酸アルキルエステルを製造することができ、更に抽出液を反応原料として再利用することができる方法であり、燃料、食品、化粧品、医薬品等の様々な用途に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
以下に示す条件にて、粗脂肪酸メチルエステル中のモノグリセリドを抽出する実験を行った。実験の原料として用いた粗脂肪酸メチルエステルは、パーム油とメタノールのエステル交換反応により得たものを用いた。
【0060】
本実施例中では、反応原料として、けん化価195.9、遊離脂肪酸含有率5.1質量%、水分量0.06質量%、有効グリセリン成分含有率10.7質量%のパーム油を使用した。
なお、有効グリセリン成分とは、本発明の方法によって生成することができるグリセリン成分をいい、具体的には、油脂類中に含まれる脂肪酸のトリグリセリド類、ジグリセリド類、モノグリセリド類、及び再利用原料中に含まれるグリセリンのことをいう。有効グリセリン成分の含有量は、油脂類(反応原料)をけん化することによって遊離するグリセリンの存在量をガスクロマトグラフィーによって定量することによって算出される。
【0061】
粗脂肪酸メチルエステルの調製例
パーム油とメタノールとの反応を固定床連続流通式反応装置を用いて実施した。内径10mm、長さ210mmのステンレス(SUS316)製直管反応管内にMnTiO触媒15ml(12g)を充填した。この反応管に、精密高圧定量ポンプを使用してパーム油とメタノールとを、各々0.12ml/min、0.13ml/min(LHSV=1hr−1,メタノール:理論供給量の9倍)の流量で連続的に供給した。反応管は加熱オーブン中に設置してオーブン内温度を200℃に設定し、反応管出口には空冷式冷却管を介して背圧弁を設置して反応管内の圧力を5MPaになるように調整した。
得られた反応液のメタノールをエバポレーターで留去した後、生じたグリセリン相を除き、粗脂肪酸メチルエステルを得た。各実験で用いた粗脂肪酸メチルエステルの組成は、以下の表1、表2に示すとおりであった。
【0062】
実施例1
50mLのガラス容器に表1に示す粗脂肪酸メチルエステル(1)を7.5g、グリセリン3.8g、メタノール13.8gを入れ、50℃で3時間振盪した。混合液中のメタノール質量はグリセリン質量の3.6倍であった。メタノールとグリセリンの合計質量は、粗脂肪酸メチルエステル(1)の質量の2.3倍であり、粗脂肪酸メチルエステル(1)中に含まれる脂肪酸メチルエステルの質量の2.5倍であった。
そのままの温度で1時間静置したところ、この混合液は上相、下相の2相を形成した。上相を分取し、メタノールを減圧下に留去した後、生じたグリセリン相を除去した溶液の組成は表1の「抽出後組成(1)」に示すとおりであった。
抽出により、モノグリセリド含有量は1.1質量%から0.6質量%に減少した。
【0063】
実施例2
50mLのガラス容器に表1に示す粗脂肪酸メチルエステル(2)を7.5g、グリセリン7.5g、メタノール27gを入れ、50℃で3時間振盪した。混合液中のメタノール質量はグリセリン質量の3.6倍であった。メタノールとグリセリンの合計質量は、粗脂肪酸メチルエステル(2)の質量の4.6倍であり、粗脂肪酸メチルエステル(2)中に含まれる脂肪酸メチルエステルの質量の4.9倍であった。
そのままの温度で1時間静置したところ、この混合液は上相、下相の2相を形成した。上相を分取し、メタノールを減圧下に留去した後、生じたグリセリン相を除去した溶液の組成は表1の「抽出後組成(2)」に示すとおりであった。
抽出により、モノグリセリド含有量は1.0質量%から0.4質量%に減少した。
【0064】
【表1】


【0065】
比較例1
50mLのガラス容器にモノグリセリドを含有する粗脂肪酸メチルエステル7.5gと、グリセリン0.75g、メタノール8.25gを加えた。混合液中のメタノール質量はグリセリン質量の11.0倍であった。メタノールとグリセリンの合計質量は、粗脂肪酸メチルエステルの質量の1.2倍であり、脂肪酸メチルエステルの質量の1.3倍であった。
この混合液は50℃で単一相となったため、モノグリセリドの抽出を行うことができなかった。
【0066】
上述した実施例及び比較例から、次のようにいえることがわかった。すなわち、粗脂肪酸アルキルエステルに含まれるモノグリセリドをグリセリン及びメタノールを含む混合溶媒で抽出することにより、実施例1においてモノグリセリド含有量が1.1質量%から0.6質量%に減少し、実施例2においてモノグリセリド含有量が1.0質量%から0.4質量%に減少した。これらの実施例においては、本発明の効果が顕著に現れることになる。また、比較例1のように、混合溶媒中のメタノール質量をグリセリン質量の11.0倍とすると、グリセリンの相分離を起こす作用が充分に発揮されず、混合液が単一相となるため本発明における抽出工程を行うことができなくなる。
【0067】
なお、上述した実施例及び比較例では、グリセリン以外のアルコールとしてメタノールを用いる混合溶媒で抽出を行っているが、グリセリン以外のアルコールである限り、モノグリセリドを効率的に抽出することができるものであれば、抽出工程に由来するモノグリセリド含有量を低減させる機構は同様であるといえる。また上述した混合溶媒とすれば、高純度の脂肪酸アルキルエステルやグリセリンを容易に得ることができるだけでなく、グリセリン以外のアルコール及びモノグリセリドを抽出工程終了後に容易に分離し精製することができ、これらを反応原料として再利用することが可能となり、コスト面、収率面において優れたものとなる。これらのことは、上述した実施例及び比較例で明確に本発明の有利な効果が立証され、本発明の技術的意義が裏付けられている。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法における製造工程の好ましい形態の一つを示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法における製造工程の好ましい形態の一つを示す模式図である。
【符号の説明】
【0069】
1 反応塔
2、12 抽出塔
3、6、10、14 相分離器
4、5、9、13 メタノール回収塔
7 精製塔
8 1段目反応塔
11 2段目反応塔
【出願人】 【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
【識別番号】591178012
【氏名又は名称】財団法人地球環境産業技術研究機構
【出願日】 平成18年12月26日(2006.12.26)
【代理人】 【識別番号】100086586
【弁理士】
【氏名又は名称】安富 康男

【識別番号】100112025
【弁理士】
【氏名又は名称】玉井 敬憲


【公開番号】 特開2008−156576(P2008−156576A)
【公開日】 平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願番号】 特願2006−350201(P2006−350201)