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【発明の名称】 臭覚刺激成分付きナノ粒子
【発明者】 【氏名】山本 健二

【要約】 【課題】ナノ粒子を使用する環境下において、空気中に浮遊しているナノ粒子の存在を認知することができる臭覚刺激成分付きナノ粒子を提供する。

【解決手段】ナノ粒子の表面に臭覚刺激成分が結合されている臭覚刺激成分付きナノ粒子。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子に、臭覚刺激成分が配合されていることを特徴とする臭覚刺激成分付きナノ粒子。
【請求項2】
ナノ粒子と臭覚刺激成分とが、化学結合していることを特徴とする請求項1記載の臭覚刺激成分付きナノ粒子。
【請求項3】
ナノ粒子の表面に、臭覚刺激成分が結合されていることを特徴とする請求項1又は2記載の臭覚刺激成分付きナノ粒子。
【請求項4】
臭覚刺激成分は、反応性官能基を有する精油成分及び/又はアリル化合物であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の臭覚刺激成分付きナノ粒子。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子を使用する環境下において、空気中に浮遊しているナノ粒子の存在を認知することができる臭覚刺激成分付きナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノ粒子は製薬、機能性化学薬品、量子ドット等とあらゆる分野に応用されつつある。一方でナノ粒子は、人体の健康及び自然環境の危険性を指摘されている。
例えば、経口投与や静脈注射等の方法で人体に投与された薬剤は、人体中のターゲット部位に一定以上の濃度で作用することにより薬効を示すものと考えられる。しかし、実際に投与した薬剤がどのような経路を経て、どの器官に集中し作用しているのか、また、その器官においてどの程度の濃度に達したときに充分な薬効が得られるのか等をモニターするのは容易なことではない。また、副作用が懸念される薬剤を投与した場合に、それが危険な部位(器官)に達していないか、また、人体中に蓄積されずに排出されているのかを確認することも重要なことである。
【0003】
このような医薬の生体内における移動や代謝等を調べる方法としては、例えば、薬効成分分子の一部を放射性物質でラベルした医薬を用いる方法が提案されていた(例えば、特許文献1等)。しかしながら、このような放射性物質は極めて危険であり、取り扱える機関も限られていたうえ、代謝によって分解吸収された放射性物質でラベルされた分子が人体中に蓄積し、人体に甚大な影響を与える危険があるという問題もあった。
【0004】
一方、in vitroのシステムでは、このような放射線マーカーに代えて、蛍光物質等をマーカーとして用いる方法が検討されている。近年では蛍光強度の高い蛍光物質が種々開発され、また蛍光を分析する装置等も改良が進んでいることから、蛍光物質マーカーはin vitro分析において重要な分野を占めるに至っている。
【0005】
また、このような蛍光物質は、例えば、ディスプレイ装置や蛍光灯等の産業用途としても用いられている。例えば、プラズマディスプレイパネル(PDP)には、紫外光によって励起され発光する機能を有する表示セルが用いられており、この表示セルの内部に蛍光物質が塗布されている。セル内部には、He−Xe、Ar等の希ガスが封入されており、放電電極に電圧を印加することで希ガス中に放電が起こり、真空紫外線が放射される。この真空紫外線により蛍光体が励起され可視光を発する。発光する表示セルの位置を指定することにより画像が表示され、発光色が光の三原色である青、緑、赤の蛍光体を用いることでフルカラーの表示を行うことができる。
【0006】
このような蛍光物質として、近年、粒子径がナノメートルオーダーの半導体からなる粒子(ナノ粒子)が注目されている。
半導体からなる粒子は、粒子径が約10nm以下になると、光励起によって蛍光を発する性質を有する。このようなナノ粒子を励起するために必要な波長は紫外側にブロードに存在し、その粒子径が大きいほど、励起スペクトルの長波長端は長波長側にシフトする。また、蛍光波長もナノ粒子の粒子径が大きくなるに従って長波長側にシフトする。このように、ナノ粒子は、粒子径により蛍光波長や励起光波長が変わるという特徴を有する。
従って、例えば、粒子径の異なるナノ粒子を薬効成分分子に結合させた場合には、複数の波長による分析が可能となり、測定精度を飛躍的に向上させることができる。
【0007】
しかしながら、このような蛍光物質等のナノ粒子は、空気中に浮遊していても視覚により認識することは殆ど不可能であるため、ナノ粒子を取り扱う環境下で作業を行う場合、ナノ粒子が空気中に浮遊していてもその存在に気付かず吸引してしまうという問題があった。このような蛍光物質を医薬のマーカーとした場合、蛍光物質には発癌性等を有するものも多く、人体内に吸収され蓄積した場合には何らかの影響が懸念されることがあった。
【特許文献1】再公表WO99/59642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、ナノ粒子を使用する環境下において、空気中に漂っているナノ粒子の存在を認知することができる臭覚刺激成分付きナノ粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ナノ粒子に、臭覚刺激成分が配合されている臭覚刺激成分付きナノ粒子である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明の臭覚刺激成分付きナノ粒子は、ナノ粒子に臭覚刺激成分が配合されている。
本発明において、上記ナノ粒子としては特に限定されず、例えば、医療用や産業用等種々の分野において用いられている粒子径がナノサイズの従来公知の微粒子を用いることができる。好ましく用いられるナノ粒子の大きさとしては、特に限定されないが、0.3〜200nmである。
【0011】
上記ナノ粒子としては、具体的には、例えば、CuCl等のI−VII族化合物半導体、CdS、CdSe等のII−VI族、InAs等のIII−V族化合物半導体、IV族半導体等の半導体結晶、TiO等の金属酸化物、フタロシアニン、アゾ化合物等の有機化合物からなるもの、又は、それらの複合材料等が挙げられる。このような複合材料としては、例えば、CdSをコア−CdSeをシェル、CdSeをコア−CdSをシェル、CdSをコア−ZnSをシェル、CdSeをコア−ZnSをシェル、CdSeのナノ結晶をコア−ZnSをシェル、CdSeのナノ結晶をコア−ZnSeをシェル、Siをコア−SiOをシェルとするコア−シェル構造を有するもの等が挙げられる。なお、以下の説明において、上述した材料等からなるナノ粒子を、ナノ粒子(1)と表記する。
【0012】
また、本発明の臭覚刺激成分付きナノ粒子において、上記ナノ粒子は、例えば、以下の方法により製造されたものであってもよい。
すなわち、トルエン中に、ナノ粒子の原料となる極性液と、界面活性剤としてテトラオクチルアンモニウムブロマイドとを添加し、攪拌して逆ミセルを形成する逆ミセル形成工程と、得られた逆ミセルを、LiBH、LiAlH、LiBH(CHCHからなる群より選択される少なくとも1種の還元剤を用いて還元する還元工程とを有する方法により、上記ナノ粒子を製造することができる。なお、以下の説明において、上述した方法で製造されたナノ粒子を、ナノ粒子(2)と表記する。
【0013】
上記逆ミセル形成工程において、トルエンは、逆ミセルを形成させるための無極性媒体として用いるものである。トルエンと界面活性剤としてテトラオクチルアンモニウムブロマイドとを用いた場合に、特に粒子径の揃ったナノ粒子を製造することができる。
【0014】
上記ナノ粒子の原料となる極性液としては特に限定されないが、例えば、ナノ粒子を構成するIV族の元素とハロゲン元素からなるメタルハライド化合物が好ましい。
上記メタルハライド化合物としては、例えば、シリコン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物等が挙げられる。
具体的には、例えば、ナノ粒子がシリコンからなる場合、SiCl、GeCl、TiCl、SiBr、GeBr、TiBr、SiI、GeI、TiI等が挙げられる。
上記ナノ粒子の原料となる極性液は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用した場合、これらのアロイ化合物を得ることが可能となる。
【0015】
上記界面活性剤は、上記トルエン中において上記ナノ粒子の原料となる極性液を取り囲んで、安定な逆ミセルを形成する役割を有する。
上記トルエン中において界面活性剤としてテトラオクチルアンモニウムブロマイドを用いて逆ミセルを形成し、後述する還元工程において特定の還元剤を用いることにより、極めて粒子径の揃ったナノ粒子を製造することができる。
【0016】
上記ナノ粒子(2)の粒子径は、本工程で得られる逆ミセルの大きさにより決まる。逆ミセルの大きさは、上記界面活性剤とナノ粒子の原料となる極性液との濃度比により調整することができる。すなわち、ナノ粒子の原料となる極性液に対し、界面活性剤の添加量を少なくしていくと粒子径は大きくなる。
また、上記逆ミセルは熱力学的な平衡により均一な粒子を得ることができると考えられるため、製造時の温度制御により粒子径を制御できる可能性がある。
【0017】
上記逆ミセル形成工程において、トルエン中でナノ粒子の原料となる極性液と、テトラオクチルアンモニウムブロマイドとを攪拌する方法としては特に限定されず、例えば、ホモジナイザー等の従来公知の攪拌機を用いることができる。
【0018】
上記ナノ粒子(2)の製造方法は、上記逆ミセル形成工程により得られた逆ミセルを、LiBH、LiAlH、LiBH(CHCHからなる群より選択される少なくとも1種の還元剤を用いて還元する還元工程を有する。還元することにより、ナノ粒子(2)が得られる。
このとき、還元剤としてLiBH、LiAlH、LiBH(CHCHからなる群より選択される少なくとも1種の還元剤を用いることにより、極めて粒子径の揃ったナノ粒子(2)を製造することができる。また、このようにして得られたナノ粒子(2)の表面は、水素終端であることから疎水性を示し、トルエン中に安定に分散する。
【0019】
得られたナノ粒子(2)のトルエン分散液中には、未反応の還元剤や界面活性剤が残留している。例えば、分液ロート、HPLC等を用いることにより、未反応の還元剤や界面活性剤を除去することができる。
【0020】
また、上述した還元工程における触媒の種類は、例えば、触媒添加後、室温にて攪拌するだけでも反応は進行するもの、又は、熱や光等によって反応開始するもの等適宜選択することができる。
【0021】
上記ナノ粒子(1)及びナノ粒子(2)(以下、両者を特に区別しない場合、単にナノ粒子という)の粒子径としては、本発明の臭覚刺激成分付きナノ粒子の用途により適宜決定され、特に限定されないが、例えば、上記ナノ粒子をマーカー付き医薬の蛍光ナノ粒子として用いる場合、好ましい下限は0.5nm、上限は10nmである。0.5nm未満の微粒子は事実上作製することが困難であり、10nmを超えると、励起光照射により蛍光が得られないことがある。
なお、本発明では、上記ナノ粒子としては、例えば、シリカナノ粒子やシリカコートしたナノ粒子等を用いることもでき、シリカコート等でナノ粒子を安定化させたときは、粒子径の範囲としては、上記の限りではない。
【0022】
上記ナノ粒子の形状としては特に限定されず、例えば、球状、棒状、板状、薄膜状、繊維状、チューブ状等が挙げられる。なかでも、球状が好ましい。
【0023】
本発明の臭覚刺激成分付きナノ粒子は、ナノ粒子に臭覚刺激成分が配合されている。ナノ粒子に臭覚刺激成分を配合する方法としては特に限定されず、ナノ粒子に臭覚刺激成分を物理的に吸着させたり、ナノ粒子と臭覚刺激成分とを化学結合させたりする方法等が挙げられる。なかでも、化学結合により臭覚刺激成分を配合することが好ましい。
また、臭覚刺激成分は、ナノ粒子の内部や全体に均一に配合されていても良く、表面に配合されていても良い。なかでも、ナノ粒子の性能を変化させずに臭覚刺激成分を導入できる点でナノ粒子の表面に配合されていることが好ましい。
【0024】
上記臭覚刺激成分としては、上記ナノ粒子に合わせて、また、用途に合わせて良い香りの臭覚刺激成分や、刺激臭、不快な臭いの臭覚刺激成分等、適宜決定され特に限定されないが、精油に含まれる低分子量物質やアリル化合物等の揮発性物質が好適に用いられる。精油成分としては具体的には、例えば、フェニルプロパノイド、テルペノイドや、バニラ、バニリックアシド、シリンガ酸、シリンガアルデヒド等のポリフェノール等が挙げられる。なかでも、フェニルプロパノイド、テルペノイドが好適に用いられる。
【0025】
本発明の臭覚刺激成分付きナノ粒子は、ナノ粒子と臭覚刺激成分とが化学結合していることが好ましい。化学結合させる方法としては、ナノ粒子表面に化学結合可能な分子を導入し、臭覚刺激成分を結合させる方法等が挙げられる。ナノ粒子表面の化学結合可能な分子としては、金属分子や反応性基等が挙げられる。
【0026】
上記臭覚刺激成分は、上記ナノ粒子が上述したナノ粒子(1)である場合、分子末端にチオール基を有するか、又は、チオール基を付加することが可能な化合物であることが好ましい。このような分子末端にチオール基を有する化合物子は、分子末端のチオール基が上記ナノ粒子(1)表面の金属分子と反応し、ナノ粒子(1)表面に容易に結合させることができる。
【0027】
上記分子末端にチオール基を有する化合物としては特に限定されず、例えば、メルカプト酢酸、メルカプトプロパノール等が挙げられる。
【0028】
なお、上記分子末端にチオール基を有する化合物でない場合であっても、例えば、アミノ基又はカルボキシル基を有する化合物は、上記ナノ粒子(1)の表面に結合させる臭覚刺激成分分子として用いることができる。すなわち、アダプター分子としてチオール基を有するシステインを用い、該システインのアミノ基又はカルボキシル基と、上記アミノ基又はカルボキシル基を有する化合物の該アミノ基又はカルボキシル基とをペプチド結合させることにより、システインを介して上記ナノ粒子の表面にアミノ基又はカルボキシル基を有する化合物を結合させることができる。更に、例えば、アミノ基を有する化合物は、上記ナノ粒子(1)の表面に結合させる臭覚刺激成分分子として用いることができる。すなわち、アダプター分子として分子末端に硫黄分子含有基及びスルホン基を有するものを用い、該アダプター分子のスルホン基と、アミノ基を有する物質の該アミノ基とをイミド結合させることにより、上記アダプター分子を介して上記ナノ粒子(1)の表面に結合させることができる。
【0029】
また、上記臭覚刺激成分分子は、上記ナノ粒子が上述したナノ粒子(2)である場合、分子末端に反応性官能基を有する化合物であることが好ましい。上述した還元工程を経て得られたナノ粒子(2)は、表面が水素終端表面を有する反応性が高い状態にあるため、上記分子末端に反応性官能基を有する化合物は、分子末端の反応性官能基が上記ナノ粒子(2)表面の水素末端と反応し、ナノ粒子(2)の表面に容易に結合させることができる。
上記反応性官能基としては、例えば、下記のもの等が挙げられる。なかでも、炭素−炭素二重結合C=Cを有する化合物が好ましく用いられる。
【0030】
反応性官能基:C=C、C=O、C=N、C≡N、C=S、(HO)C=O
【0031】
上記分子末端に炭素−炭素二重結合を有する化合物としては特に限定されず、例えば、アリルイソチオシアネート、l−カルベオール、l−カルボンオキサイド、l−カルビルアセテート、d−ジヒドロカルベオール、l−ジヒドロカルベオール、d−ジヒドロカルボン、l−ジヒドロカルボン、d−ジヒドロカルビルアセテート、l−ジヒドロカルビルアセテート、エレメン、ユーゲノール、β−ファルネセン、d−リモネン、l−リモネン、d−リモネン−10−オール、d−リモネン−10−イル アセテート、d−リモネンオキサイド、l−リモネンオキサイド、リナロールオキサイド(アセテート)、リナロールオキサイド(ピラノイド)、1,8−p−メンタジエン−4−オール、d−2,8−p−メンタジエン−1−オール、d−1,(7),8−p−メンタジエン−2−オール、β−ミルセン、l−ペリリルアルコール、l−ペリリルアセテート、l−ペリラアルデヒド、アリルアルコール、アリルアミン、臭化アリル、塩化アリル、アリルエーテル、硫化アリル、アリシン、ジアリルジスルフィド、β−ドラブリン等が挙げられる。
【0032】
上記ナノ粒子(2)の表面に上記分子末端に炭素−炭素二重結合等を有する化合物を反応させる際に用いる触媒としては特に限定されず、例えば、HPtCl等を用いることができる。
【0033】
本発明の臭覚刺激成分付きナノ粒子において、上記臭覚刺激成分の含有量としては特に限定されないが、上記ナノ粒子100重量部に対して、好ましい下限は5重量部、好ましい上限は500重量部である。5重量部未満であると、本発明の臭覚刺激成分付きナノ粒子が、上記臭覚刺激成分分子によるにおいを殆ど感知できないものとなることがあり、500重量部を超えると、表面に結合させた臭覚刺激成分分子が多くなりすぎてナノ粒子としての機能が損なわれることがある。より好ましい下限は30重量部、より好ましい上限は300重量部であり、更に好ましい下限は50重量部、更に好ましい上限は200重量部である。
【0034】
このような本発明の臭覚刺激成分付きナノ粒子は、ナノ粒子の表面に上述した臭覚刺激成分分子が結合されているため、該臭覚刺激成分付きナノ粒子を使用する環境下において、空気中に本発明の臭覚刺激成分付きナノ粒子が浮遊している場合、臭覚によって容易にその存在を認知することができる。従って、作業を行う者が上記臭覚刺激成分分子の臭いを認識した場合、空気中に本発明の臭覚刺激成分付きナノ粒子が浮遊していると判断でき、換気等を行うことで本発明の臭覚刺激成分付きナノ粒子の人体への蓄積を最小限に留めることができる。
更に、このような本発明の臭覚刺激成分付きナノ粒子は、例えば、鼻腔中の臭覚刺激成分に対するレセプタ(以下、臭いレセプタともいう)分布の研究に供することも期待できる。
また、臭覚を刺激する成分以外に、味覚を刺激する成分も導入することもできる。
なお、上記臭いレセプタとは、広義には、臭覚刺激成分分子と結合する膜タンパク質のことをいい、狭義には、動物の嗅覚細胞に発現している嗅覚刺激成分分子と結合する膜タンパク質のことをいう。
【0035】
このような本発明の臭覚刺激成分付きナノ粒子を用いることで、臭覚刺激成分分子(以下、臭い分子ともいう)のコード化を図ることができる。
【0036】
すなわち、ゲノム解析の結果からヒトの臭いレセプタの数は、おおよそ300〜400と言われており、ネズミの臭いレセプタの数は、おおよそ1000と言われている。このように、臭い分子の数にくらべ臭いレセプタの数は著しく少ないため、臭い分子が結合する結合は非特異的であると言える。従って、臭いレセプタをアノテーションし弁別(ナンバリング)することにより、特定の臭い分子に対して結合する臭いレセプタは、1対多の関係となり、臭い分子をコード化(和音化)することが可能となる。
【0037】
ここで、コード化(和音化)するとは、次のことを言う。
臭いレセプタに番号を付けr1、r2、r3・・・rnとする。そこで、ある臭い分子Aと結合するレセプタを上記n個の中から同定し、その番号の組み合わせをコードとすることが可能となる。すなわち、臭い分子Aについて、例えば、r11、 r245、 r301なる臭いレセプタと臭い分子Aとが結合することが認められれば、
臭い分子A→(11,245,301)
という具合にコード化可能である。
また、同様に臭い分子Bについて、例えば、r10,r135,r222,r226と結合することが認められれば、
臭い分子B→(10,135,222,226)
という具合にコード化可能である。
更に、二つの臭い分子A及びBが同時に存在すれば、
臭い分子AとBの混合→(10,11,135,222,226,245,301)
という具合にコード化可能である。
【0038】
上記臭い分子をコード化する具体的な方法としては特に限定されず、例えば、臭い分子に量子ドット等の蛍光ナノ粒子や有機蛍光プローブを結合させ、基盤又はプレート上に接着させた各々の臭いレセプタと反応させ、臭い分子との結合を特定する方法が挙げられる。
上記蛍光プローブとしては、蛍光強度が強いこと、臭い分子とくらべ粒子サイズ又は分子サイズが同等或いは、それより小さいこと等が挙げられる。具体的には、0.5〜5nmが好ましい。なお、量子ドットに有機分子を結合し葉酸レセプタを同定したことの論文報告(例えば、Dhruba J. Bharali, Derrick W. Lucey, Harishankar Jakakumar, Haridas E. Pudavar, Paras N. Prasad Folate−Receptor−Mdiated delivery of InP Quantum Dots for bioimaging using confocal and two−photon microscopy. Journal of American Chemical Society 2005 127, 11364−11371)が既に存在する。
【0039】
このようにして全ての臭い分子をコード化しデータベースとして計算機に保存することができる。更にm個の異なる臭い分子A1,A2・・・Amがコード化され、
A1→(rΛ(A1,1),rΛ(A1,2)・・・rΛ(A1,i1))
A2→(rΛ(A2,1),rΛ(A2,2)・・・rΛ(A2,i2))



Am→(rΛ(Am,1),rΛ(Am,2)・・・rΛ(Am,im))
ここで、rΛ(Ak,j)は、臭い分子Akに結合するj番目のレセプタを意味し、Λ(Ak,j)におけるΛは、そのj番目のレセプタが、すべての臭い分子のナンバリングでのID番号とするための添字関数である。
【0040】
このようにデータベース化した場合、逆演算によりこのm個の臭い分子種類のセンサーに利用可能である。すなわち、このm個の臭い分子に対応するレセプタ蛋白アレイを基盤上に作り、このm個のうち何れか不明な一つの臭い分子を反応させ、結合した臭いレセプタを電気的に検出する。なお、検出する方法としては特に限定されないが、例えば、プラズモン共鳴等で検出可能である。
検出した臭い分子コードにより、前述の臭い分子コードデータベースより検出することが可能であり同定することが実現される。
【0041】
なお、複数の臭い分子が共存する場合、これらをセンシングするには、上記と同様に臭い分子が結合した基盤上の臭いレセプタ蛋白を電気的に検出し、それをコード化する。そして、臭い分子コードデータベースを利用し逆演算することによりこの複数の臭い分子の候補をいくつか挙げることが可能である。しかしながら、複数の臭い分子が常に一意に決まるとは限らない場合がある。例えば、
臭い分子A→(11,245)
臭い分子B→(222,226)
について二つの臭い分子A及びBが同時に存在すれば、
臭い分子AとBの混合→(11,222,226,245)
となるが、
臭い分子C→(11,222,226,245)
となる臭い分子Cがデータベース上に存在した場合、このセンサーでは、臭い分子AとBの混合物であるか、Cのみであるか、或いはAとC又はBとCの混合物見分けがつかないことになる。
【0042】
この場合、濃度分布データを入れた補正を行いその情報を利用するか、或いは、臭いレセプタで異なる動物種のものを利用するとこの問題が回避できる場合がある。
【0043】
異なる動物種の利用については、例えば、マウスの臭いレセプタの数は、ヒトの臭いレセプタの数の3倍程度であることが知られており、従って認識分子の種類もそのパターンも異なっている(マウスの臭いレセプタについては、例えば、Zhang X, Firestein S. The olfactory receptor gene superfamily of the mouse. Nature Neuroscience 2002 5,124−133等参照、ヒトの臭いレセプタについては、例えば、Crasto C, Marenco L, Miller P, Shepherd G. Olfactory Receptor Database: A metadata−driven automated population from sources of gene and protein sequences. Nucleic Acids Research 2002 30 354−360等参照)。このように異なる動物種より得られた臭いレセプタ集合を用い、異なった臭い分子コードのデータベースを作製することが可能となり、より正確に臭い分子を特定することが可能である。
【0044】
また、濃度の利用については、例えば、臭いレセプタを基盤上に付着させ、臭い分子との結合を電気信号に変えるにあたって、その電気信号の強さにより濃度を測定することが可能である。この電気信号の強さは、臭い分子Aと臭い分子Bとでは、分子数(揮発性分子の空間内モル濃度)が同じでも、一般的には異なる。これはレセプタとの結合力が、一般的に異なるからである。
この電気信号の強さを取り入れた臭い分子コードデータベースを構築することも可能である。すなわち、レセプタiに対する特定の臭い分子に対すi番目のレセプタによる電気信号量をEi、また、i番目のレセプタによる観測されうる最大電気信号量をEi−maxとした場合相対的濃度をei=Ei/Ei−max(0≦ei≦1)と定義する。
臭い分子A→(11,245)
臭い分子A→((11,e11),(245,e245))となる。ここで、e11,e245は、臭い分子Aのレセプタ11及びレセプタ245のそれぞれの結合力を意味する。このようにして臭い分子コード化データに結合力の次元を拡張することが可能である。
前述の臭い分子Aと臭い分子Bの混合比が異なっていれば、このことにより臭い分子Cと見間違うことはより少なくなる。
【0045】
ここで、臭いは、個々人において異なるものであり、また、犬等の動物は、個体に特徴的な臭いを嗅ぎ出し、その個体を同定する。以下に、個々人の臭いを臭い分子コードデータベースに登録されている臭い分子で近似する方法を示す。
【0046】
すなわち、まず、個体を閉じた空間に入れて揮発性分を親水性成分、疎水性成分にて濃縮する。
ここで用いる親水性溶媒としては特に限定されないが、臭い分子レセプタとできる限り結合しない、或いは結合した際に得られる電気信号量ができるかぎり小さいものが好ましい。
上記親水性溶媒としては、例えば、水が挙げられる。
また、上記疎水性溶媒としては特に限定されず、例えば、トルエン、油脂等が挙げられる。
【0047】
次に、このような溶媒に皮膚を一定時間接触させ臭い分子を移しとる。また、呼気についても上記溶媒中一定時間くぐらせ臭い分子を移しとる。例えば、親水性溶媒にとけ込んだ臭い分子は、そのまま基盤上に配列された臭い分子レセプタと反応させ電気信号に変え、臭い分子の集合をコード化することが可能である。また、例えば、疎水性溶媒にとけ込んだ臭い分子は、溶媒の温度を上げ溶媒の沸点より低い温度で出てくる気体と反応させることができる。このようにして一人の人間の持つ臭い分子の集合体を臭い分子レセプタを使ってコード化することが可能となる。
【0048】
このコード化されたデータを使ってこの個人がいかなる臭い分子を放散しているかを同定することが可能である。すなわち、上記親水性臭い分子については、液体クロマトグラフィー質量分析計を用いて、疎水性臭い分子については、気体クロマトグラフィー質量分析計を用いて、主要な臭い分子の同定と成分比を決定する。残りの成分については臭い分子コードデータベースから最尤法により臭い分子の選択、その濃度比を決定する。
【0049】
このようにして得られた個人についての臭い分子コードと、それから得た臭い分子とは、個人の径年的変化、季節による変化、一日の中での変化があるが、常に共通なる者は、その個人の個体識別に利用することが可能である。また、変化がある場合、疾病との関係も予想可能であると考えられる。
【0050】
更に、空気の流れが存在しない場合、臭い分子を放出する物体がある場合、その場所を中心として濃度ポテンシャルが生じる。そのため、例えば、臭い分子を放出している場所から離れた地点で前述のセンサーを複数空間に配置し、その濃度を計測することにより臭い分子の存在する方向を推定することが可能である。その方向に進み再び計測することにより濃度が増していることを確認し、より精度を増すことが可能である。
【発明の効果】
【0051】
本発明によると、ナノ粒子を使用する環境下において、空気中に浮遊しているナノ粒子の存在を認知することができる臭覚刺激成分付きナノ粒子を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
(ナノ粒子(1)の製造)
トリ−n−オクチルホスフィンオキシド(TOPO)溶液7.5gに、酸化カドミウム250mg、セレン200mgを混合し、CdSe微粒子を核とするTOPOミセル分散溶液を調製した。このTOPOミセル分散溶液の全量に、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛1.1gを混合分散させ、アルゴン封入条件下、280℃に加熱してZnSの被膜を成長させ、表面にTOPOが結合したCdSeのナノ結晶をコア−ZnSをシェルとするナノ粒子(1)を得た。
【0054】
(粒子径測定)
得られたナノ粒子(1)を粒径分布計測器(DLS動的散乱測定器:MALVERN INSTRUMENT社製NanoZS)にて測定したところ平均粒子径が6nmであった。
【0055】
(蛍光評価)
得られたナノ粒子(1)を励起波長300nmで励起したところ赤色の蛍光を発した。
【0056】
(臭覚刺激成分付きナノ粒子の製造)
得られたナノ粒子(1)20mgを、THFに溶解させて85℃に加温し、そこにエタノールを溶解させた。メルカプト酢酸35mgを滴下させ、12時間程度還流させた。12時間還流後、NaOH水溶液を加え、2時間、90℃で加熱してTHFを蒸発させた。
得られた未精製のナノ粒子(1)を、限外濾過及びセファデックスカラム(GEヘルスケ社製)を用いて精製と濃縮とを行うことでナノ粒子(1)の表面にメルカプト酢酸が配位した臭覚刺激成分付きナノ粒子(1)を製造した。
【0057】
(評価)
臭覚試験:得られたナノ粒子(1)と臭覚刺激成分付きナノ粒子(1)とのにおいを嗅いだところ、ナノ粒子(1)は無臭であったが、臭覚刺激成分付きナノ粒子(1)は特有の刺激臭があった。
【0058】
(実施例2)
(ナノ粒子(2)の製造)
フラスコ中のトルエン100mLに、SiCl(アルドリッチ社製)92μLと、テトラオクチルアンモニウムブロマイド(アルドリッチ社製)1.5gとを添加して、ホモジナイザーを用いて6000rpmで60分間攪拌して、逆ミセルを形成した。
得られた逆ミセルに、いっきにLiAlHの1M−THF溶液を2mL加えてSiClをSiに還元し、これにメタノール20mLを加えてナノ粒子(2)溶液を得た。
【0059】
(粒子径測定)
得られたナノ粒子(2)を粒径分布計測器(DLS動的散乱測定器:MALVERN INSTRUMENT社製NanoZS)にて測定したところ平均粒子径が0.751nmであった。
【0060】
(蛍光評価)
得られたナノ粒子(2)を励起波長300nmで励起し、分光蛍光光度計(日本分光(株)社製FP−6500)にて測定(測定波長範囲370〜680nm、走査速度20nm/min)したところ最大波長430nmと480nmの青緑色の蛍光を発した。
【0061】
(臭覚刺激成分付きナノ粒子の製造)
ナノ粒子(2)の製造の最終段階であるメタノールを加えた直後に、リモネン(シグマアルドリッチ社製)を3.2mL加え、白金触媒の下3時間、800rpmで攪拌した。得られた溶液をエバポレーターにてリモネン分子を飛ばし、球状の臭覚刺激成分付きナノ粒子(2)を得た。
【0062】
(評価)
臭覚試験:得られたナノ粒子(2)と臭覚刺激成分付きナノ粒子(2)の臭いを嗅いだところ、ナノ粒子(2)は無臭であったが、臭覚刺激成分付きナノ粒子(2)は特有の甘い臭いがあった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、ナノ粒子を使用する環境下において、空気中に浮遊しているナノ粒子の存在を認知することができる臭覚刺激成分付きナノ粒子を提供できる。
【出願人】 【識別番号】502165942
【氏名又は名称】山本 健二
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
【出願日】 平成18年12月4日(2006.12.4)
【代理人】 【識別番号】100086586
【弁理士】
【氏名又は名称】安富 康男

【識別番号】100119529
【弁理士】
【氏名又は名称】諸田 勝保


【公開番号】 特開2008−138115(P2008−138115A)
【公開日】 平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願番号】 特願2006−327007(P2006−327007)