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【発明の名称】 香水の製造方法
【発明者】 【氏名】清水 昭夫

【氏名】谷内 正博

【要約】 【課題】本発明は、香水の開発期間を大幅に短縮することが可能な、低コストで簡便な香水の製造方法を提供することを目的とする。

【解決手段】複数の香料を有機溶媒で希釈して希釈溶液を調製する。調製した希釈溶液に対して加圧処理を行う。本発明においては、この加圧処理を200MPa〜1000MPaの圧力をもって行うことが好ましい。本発明においては、この加圧状態を時間オーダーで保持することによって、数ヶ月間自然熟成させた香水の香りと同等の香りを放つ香水を製造することが可能となる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の香料を有機溶媒で希釈して希釈溶液を調製する工程と、
前記希釈溶液に対して加圧処理を行う工程と、
を含む香水の製造方法。
【請求項2】
前記加圧処理が200MPa〜1000MPaで行われる、請求項1に記載の香水の製造方法。
【請求項3】
前記加圧処理を行う時間が1時間〜10時間である、請求項1または2のいずれか1項に記載の香水の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒がアルコールである、請求項1のいずれか1項に記載の香水の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、香水の製造方法に関し、より詳細には、香水に自然熟成と同等の効果を付与する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に香水は、数十種類から数百種類の香料成分を調合してつくられるが、その調合の後すぐに出荷されるものではなく、通常、商品出荷前に調合した香水を半年から1年以上冷暗所にて静置して自然熟成させる熟成工程が必要となる。この熟成工程は、香水をバランスの取れた良い香りを放つ状態をもって安定化させるために行われるものであり、この熟成工程を経ることによって香水の高品質性が担保される。
【0003】
すなわち、調合直後の香水の香りは、多量に配合されている香気成分ばかりが目立ち、スパイス系やβフェニルエチルアルコールの香気やその他の微量成分などの香気があまり感じられないなど、バラバラで尖った印象を与える傾向にあるが、上述した熟成工程を経ることによって、香水に含まれる全ての香気成分がバランス良く感じられる香りの安定状態に達するのである。
【0004】
しかし、従来の香水を自然熟成させる工程は、熟成させる香水の保管場所を常に必要とするものであり、またその保管場所の室温を所定温度に維持するためのエネルギーを要するため、その経済コストが過大になるという問題があった。
【0005】
また、一方で、上述した自然熟成工程は、商品開発において時間コストの問題を生じさせていた。一般に、新規の香水の開発にあたっては、種々の配合組成について試行し、出来上がった試料の香りを専門の調香師が評価し、その結果をもとに、さらに新たな配合組成について試行するという操作を繰り返し行うことが必要とされるところ、ここでも試料の熟成期間がボトルネックとなるため、目的の香水を開発するのに熟成期間を含めると1年以上の時間が必要になるという問題があった。特に近年、消費者の嗜好の多様化が進むなか、香水についてもオーダーメイドの需要が高まりつつあり、そのようなオーダーメイド香水のビジネスモデルを実現化する上でも商品開発期間の短縮化が求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、香水の開発期間を大幅に短縮することが可能な、低コストで簡便な香水の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、経済コストならびに時間コストを好適に低減することが可能な香水の製造方法について鋭意検討した結果、複数の香料を含む溶液状態の香水に対して、時間オーダーで高圧力処理を施すことによって、数ヶ月間自然に熟成させた香水の香りと同等の香りのバランスを実現できることを見出し、本発明に至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明によれば、複数の香料を有機溶媒で希釈して希釈溶液を調製する工程と、前記希釈溶液に対して加圧処理を行う工程とを含む香水の製造方法が提供される。本発明においては、前記加圧処理を200MPa〜1000MPaで行うことができ、前記加圧処理を行う時間を1時間〜10時間とすることができる。また、本発明においては、前記有機溶媒をアルコールとすることができる。
【発明の効果】
【0009】
上述したように、本発明によれば、香水の開発期間を大幅に短縮することが可能な、低コストで簡便な香水の製造方法であって、時間オーダーの処理工程をもって自然熟成と同等の作用を香水に付与することができる製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施の形態をもって説明するが、本発明は、以下に述べる実施の形態に限定されるものではない。本実施形態の香水の製造方法においては、まず、複数の香料を有機溶媒で希釈して希釈溶液を調製する。本実施形態においては少なくとも2以上の複数の香料成分を任意の配合組成をもって有機溶媒に希釈して香料の溶液を調製する。希釈溶液の調製においては、各香料を予め少量の有機溶媒で希釈しておき、最後にそれらを合わせて十分に撹拌することによって調製することができる。また、本実施形態においては、香料の種類を限定するものではなく、シトラス系、フローラル系、グリーン系、スパイス系、ヨノン系、オリス系、フルーティ系、脂肪族アルデハイド系、ハーバル系、ラスティック系、バルサム系、スィート系、ミルキー系、マリンオゾン系、レザー系、シンナム系、ウッディ系、アニマル系、レザー系、タバック系、アンバー系、ムスク系など、従来の香水の製造に用いられている香料を適宜選択して用いることができる。香料を希釈する有機溶媒としては、アルコール類一般を用いることができる。
【0011】
本実施形態においては、続いて、上述した手順で調製した希釈溶液に対して加圧処理を行う。従来の香水の製造方法においては、上述した手順で調製した希釈溶液を約5〜6℃の冷暗所に数ヶ月のオーダーで保管して自然熟成させる工程を行うところ、本実施形態においては、上述した自然熟成工程の代わりに加圧処理工程を行う。本実施形態における加圧処理は、その加圧方法を特に限定するものではなく、他の不純物を混入させることなく香料溶液に対して好適に加圧することのできる種々の機構を適宜選択することができる。たとえば、シリンダとして構成された耐圧容器に香料溶液を充填し、プランジャーを当該シリンダに圧入することによって直接的に香料溶液を加圧する機構を採用することができる。また、別の加圧機構として、耐圧容器に香料溶液を充填し、この耐圧容器を、加圧媒体としての液体が充填された同じく耐圧性の容器の中に浸漬したのち、この液体を加圧ポンプ等を用いて加圧し、耐圧容器中の香料溶液を静水圧によって間接的に加圧する機構を採用することもできる。なお、上述した加圧機構においては、シリンダ内あるいは香料溶液を充填する耐圧容器内から空気を排除しておくことが好ましく、また、加圧によって発生する熱を好適に放熱し、香料溶液を一定の温度に保持する機構をさらに備えることが好ましい。
【0012】
続いて、香料溶液に対する加圧状態を数時間保持する。この加圧状態下で、希釈溶液中の各香料と有機溶媒とが分子レベルで均一に混ざり合って安定状態に達する現象が生じると考えられ、加圧に起因するこのような作用が、香水の香りのバランスにおいて、自然熟成が奏する効果と同等の効果を導出するものと考えられる。すなわち、本実施形態においては、従来の数ヶ月の時間を要する自然熟成工程によって得られる効果と同等の効果が、時間オーダーの加圧処理によって得られるのである。本実施形態においては、上記加圧処理を1時間〜10時間とすることによって充分な効果を得ることができる。さらに、本実施形態においては、上記加圧処理を200MPa〜1000MPaで行うことができ、300MPa〜500MPaで行うことが費用対効果の観点に鑑みてより好ましい。
【0013】
以上、説明してきたように、本発明の香水の製造方法は、従来の方法に比較して短時間で香水の香りの安定状態を実現するものである。このことは、香水の熟成のための保管コストを不要にするため、その分香水の製造原価を低減することが可能になり、高品質な香水をより安価な価格で提供することが可能になる。さらに加えて、本発明の香水の製造方法によれば、香水の開発期間を大幅に短縮すること、すなわち、香水の香りの安定状態を短期間に達成することが可能になる。この開発期間の短縮化によって、個々の消費者が希望する香りのイメージを試供品としてリアルタイムに提示することができるようになり、消費者単位にオンデマンドで所望の香りの香水を提供するという新たなビジネスモデルを構築することが可能となる。
【実施例】
【0014】
以下、本発明の香水の製造方法について、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0015】
(香水試料の調製)
下記表1に示す組成で21種類の香料を調合し香水試料10を調製した。表1に示した香料の組成は、調香の初学者の訓練等に用いられる組成と同等のものを再現したものであり、本実施例においては、一般的な香料を基本的な組成をもって調合して試料とした。なお、下記表1に示す各香料は、Civet(19)を除き、アルコールで希釈し10%溶液として用いた。Civet(19)に関しては、アルコールで希釈し1%溶液として用いた。表1中の量/gは、各香料のアルコール希釈溶液の質量を示すものである。
【0016】
【表1】


【0017】
(加圧処理)
上述した組成で調合した香水試料10を750μl取り、図1に示す手順でシリコンチューブ12に入れ、その両端をテフロン(登録商標)性の円柱状のキャップ14で栓をして内部セル16として用意した。図2は、本実施例に用いた加圧処理実験の装置を概略的に示す図である。上述した手順で用意した内部セル16を高圧処理装置20にセットして加圧した。高圧処理装置20は、高圧容器22、加圧ハンドポンプ24、圧力ゲージ26、恒温水循環装置28から構成されており、高圧容器22は、直径15mmで深さが100mmの空間を試料室として備え、温度が0℃から80℃の範囲で最大500MPaまで加圧可能なものを用いた。次に、水を満たした高圧容器22の試料室に上述した手順で用意した内部セル16をセットした。なお、恒温水循環装置28によって高圧容器22の試料室に充填した水の温度が25±1℃となるように制御した。内部セル16をセットしたのち、加圧ハンドポンプ24によって、試料室内の水を加圧し、約1分間かけて水圧を常圧0.1MPaから450MPaまで上昇させた。その後、試料室内の水圧を3時間450MPaに保持することによって、内部セル16内の香水試料10に対し高圧力処理を行った。3時間経過後減圧し、内部セル16を高圧容器22から取り出し、内部セル16内の加圧処理済みの香水試料10をスクリューキャップ式の蓋付きガラス容器に入れて、後述する官能テストを実施するまで一旦冷暗所で保管した。なお、コントロールとして、上述したのと同様の手順で内部セル16を高圧容器22にセットしたのち、加圧処理を行わない香水試料10に関しても同じくスクリューキャップ式の蓋付きガラス容器に入れて冷暗所で保管した。
【0018】
なお、本実施例の加圧処理に先立ち、上述したのと同様の手順で、150MPa、300MPa、および450MPaの圧力をもってそれぞれ1時間加圧処理をする予備実験を行ったところ、150MPaでは、加圧処理を行わなかった香水とにおいの区別がつかず、300MPaでは、未処理の香水に比べてわずかながら匂いの差が確認され、450MPaでは、未処理の香水に比べて明らかに匂いが変化していることが確認された。したがって、本発明の効果を確認するため、本実施例においては、450MPaにて加圧処理を行った。
【0019】
(官能テスト)
加圧処理した香水試料10(以下、圧力処理試料という)と加圧処理を行わない香水試料10(以下、未処理試料という)の両方に関して官能テストを実施した。官能テストは、香水の専門学校に2〜3年通っている学生13人および当該学校の教員1人の合計14人のパネラーを対象にして行った。本実施例においては、各パネラーに対し、圧力処理試料および未処理試料の二つの試料をどちらが加圧処理しているものかを教えないで渡して評価させた。また、その評価においては、自然熟成を経た香水の香りにおいて見られる現象と同等の現象が得られるか否かをその評価項目とした。
【0020】
なお、自然熟成を経た香水の香りにおいては、「においのまとまり」、「においのバランス」、あるいは「トップノートが沈んでラストノートの匂いが立ってくる」といった言葉で表現される現象が見られることがわかっているが、「においのまとまり」や「においのバランス」の有無の判断にはパネラー個人の嗜好性が反映されてしまう蓋然性が大きいと考えた結果、本実施例においては、恣意的な判断の入り込む余地がより少ないと推定される「トップノートが沈んでラストのノートの匂いが立ってくる」という現象が得られるか否かという項目について各パネラーに質問し、その評価を下記表2に示す5段階にて行わせた。
【0021】
なお、ここで「トップノート」とは、調合香料のうち最も高い揮発性を有し、最初の5〜30分の間に香る香調をもつ一群であって、柑橘系の香り、葉様の香り、スパイスの香りなど一般に爽やかな香調をもつものをいい、「ラストノート」とは、調合香料のうち最も低い揮発性を有し、2〜3時間後に香る香調をもつ一群であって、動物性の香り、ウッディの香り、バニラの香りなど一般に重厚な香調をもつものをいう。
【0022】
【表2】


【0023】
(結果解析)
上述した手順および条件に従って官能テストを実施した結果、下記表3に示す集計結果を得た。
【0024】
【表3】


【0025】
上記表3に示すように、「トップノートが沈んでラストノートの匂いが立ってくるか」という質問に対する答えとして、未処理試料については「5」および「4」の評価をしたものが全くいなかったのに対し、圧力処理試料については、2人が「5」の評価をし、7人が、「4」の評価をした。また、両試料の評価についての平均値を取ったところ、未処理試料については「2.5」であったのに対し、圧力処理試料については「3.5」と「3」を上回る結果が得られた。上記結果から、本実施例に示した香水の製造方法によって製造された香水が、従来の自然熟成工程を経た香水と同等の香調を有することが示された。
【0026】
さらに、上記官能テストの結果を統計処理し、未処理試料と圧力処理試料との間に統計的に有意な差があるか否かについて確認するためt−testを行った。有意水準を5%として未処理試料と圧力処理試料とを比較すると、自由度は14−1=13より、t−値が2.16以上、またはp−値が0.05以下であれば、両者に統計学的に有意な差があるということができる。官能テストの統計解析結果について下記表4に示す。
【0027】
【表4】


【0028】
上記表4に示されるように、t−値が「2.463」、p−値が「0.029」という結果が得られたことから、「トップノートが沈みラストノートの匂いが立ってくる」という評価項目に関して、未処理試料と圧力処理試料との間に統計学的にみても有意な差があることが確認された。
【0029】
さらに、未処理試料および圧力処理試料について、香料業界に長年身を置いている熟練のパネラー14人による官能評価を行った。14人のパネラーのうち、コメントがあった13人のパネラーそれぞれのコメントを下記表5にまとめて示す。なお、表中の各コメントにおいて、「A」は未処理試料を、「B」は圧力処理試料を指すものとする。
【0030】
【表5】


以上の本実施例から、本発明の香水の製造方法によって、自然熟成に近似した効果が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上、説明したように、本発明によれば、香水の開発期間を大幅に短縮することが可能な、低コストで簡便な香水の製造方法が提供される。本発明の香水の製造方法は、高品質な香水をより安価な価格で提供することを可能にし、また、オーダーメイド香水という新たなビジネスモデルの実現化に大きく寄与することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本実施例の香水試料を内部セルに充填する態様を示す図。
【図2】本実施例に用いた加圧処理実験の装置を概略的に示す図
【符号の説明】
【0033】
10…香水試料、12…シリコンチューブ、14…キャップ、16…内部セル、20…高圧処理装置、22…高圧容器、24…加圧ハンドポンプ、26…圧力ゲージ、28…恒温水循環装置
【出願人】 【識別番号】598123138
【氏名又は名称】学校法人 創価大学
【識別番号】800000080
【氏名又は名称】タマティーエルオー株式会社
【出願日】 平成18年11月7日(2006.11.7)
【代理人】 【識別番号】110000420
【氏名又は名称】特許業務法人エム・アイ・ピー


【公開番号】 特開2008−115308(P2008−115308A)
【公開日】 平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願番号】 特願2006−301130(P2006−301130)