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【発明の名称】 金属材料加工用の潤滑油とそれを用いた金属材料の加工方法
【発明者】 【氏名】加藤 麻美

【氏名】深谷 輝雄

【要約】 【課題】潤滑性に優れると共に速乾性を有し、後工程への影響が少なく、かつマイナス温度での加工にも使用可能な液体潤滑油を提供する。

【解決手段】パラフィン系炭化水素からなる基油に、全量基準で2〜20重量%の調製油を配合してなる。調製油は(a)硫黄系極圧剤と、(b)防錆剤と、(c)カルシウム系添加剤とを含み、以下の条件(a)成分の硫黄含有量が、調製油全量基準で、0.5〜20重量%である、(b)成分の含有量が、調製油全量基準で、0.1〜15重量%である、(c)成分のカルシウム含有量が、調製油全量基準で、0.1〜15重量%である、をすべて満たすことを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラフィン系炭化水素からなる基油に、全量基準で2〜20重量%の調整油を配合してなり、
前記調整油は、(a)硫黄系極圧剤と、(b)防錆剤と、(c)カルシウム系添加剤とを含み、以下の条件、
(a)成分の硫黄含有量が、調整油全量基準で、0.5〜20重量%である、
(b)成分の含有量が、調整油全量基準で、0.1〜15重量%である、
(c)成分のカルシウム含有量が、調整油全量基準で、0.1〜15重量%である、
をすべて満たすことを特徴とする金属材料加工用の潤滑油。
【請求項2】
前記基油は、炭素数8〜16のパラフィン系炭化水素の1種または2種以上の混合油である請求項1に記載の金属材料加工用の潤滑油。
【請求項3】
高張力鋼板の加工用に使用される、請求項1または請求項2に記載の金属材料加工用の潤滑油。
【請求項4】
凝固点が−40℃以下である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の金属材料加工用の潤滑油。
【請求項5】
金属材料と該金属材料を加工するための工具との間に、請求項4に記載の潤滑油を供給し、−5〜−35℃の低温条件でプレス加工することを特徴とする金属材料のプレス加工方法。



【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の加工に用いられる潤滑油に関し、特に高張力鋼板をマイナス温度でプレスする際にも優れた潤滑性等を発揮できる潤滑油と、それを用いた金属材料の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製品コスト低減等を目的として、金属材料の加工時に潤滑剤や防錆油を省略した、いわゆるドライ加工が行われる場合が多くなりつつある。しかし、納入された金属材料に付着している防錆油のみで加工する場合には、潤滑不足により加工品に割れやカジリが発生したり、摩擦増大による金型寿命の低下という問題が発生する。
【0003】
このような問題に対処すべく、金属材料加工時の潤滑性を付与し得る防錆油の開発が試みられている。例えば特許文献1では、防錆剤、超塩基性Caスルフォネート、硫黄系極圧剤及びホウ酸カリウムを添加した防錆兼プレス加工油剤組成物が開示されている。しかし、この組成物には、PRTR該当物質のホウ素化合物が配合されており、環境保全の観点からは好ましくない。
【0004】
そのうえ、加工物の中には加工後の後工程としてめっき工程や塗装工程を行うものもあるが、その場合は、加工後にも潤滑油が残存していることでめっき斑や塗装斑が生じるので当該潤滑油を使用することができず、やむなくドライ加工とせざるを得ない場合もある。潤滑油を使用して加工し、後工程として潤滑油を脱脂洗浄する方法もあるが、脱脂が困難であるとコスト増の問題もある。
【0005】
そこで、近年では生産工程の簡略化や環境問題の観点から、後工程における洗浄工程を省略できるタイプの加工用潤滑油も開発されている。具体的には、潤滑油が常温常圧の室内にて自然蒸発することで、後工程を無洗浄にした速乾性潤滑油である。この自然蒸発可能な速乾性潤滑油は潤滑性が低い傾向があるので、加工時の加工品の欠損や金型寿命の低下を防ぐため、潤滑性能に優れた塩素系添加剤を添加した速乾性潤滑油が一般的である。しかし、塩素系添加剤は、加工時あるいは経時的にその中に含まれる塩素系添加剤成分が分解して加工物や工具を錆びさせる問題が指摘されている。また、塩素系添加剤配合油は、焼却処理時における有害物質の発生や、焼却炉の腐食、損傷などの問題も指摘されている。
【0006】
これの解決策として、非塩素系とした速乾性潤滑油が例えば特許文献2に提案されている。特許文献2の非塩素系速乾性潤滑油は、沸点23〜125℃のハロゲン化炭化水素に沸点130〜250℃のフッ素油を配合している。しかし、特許文献2の非塩素系速乾性潤滑油はハロゲン化炭化水素とフッ素油を配合しているので、特許文献1と同様に環境保全の観点からは好ましくない。
【0007】
そのうえ、速乾性潤滑油はその高い揮発性故に、加工物に塗布した時点から既に蒸発が始まっているので、常温もしくは高温での加工時では潤滑油不足となる問題を生じることがある。また、生産性を上げるために加工処理スピードを上げると、それだけ加工物と金型との摩擦力が上昇することで加工装置等の温度が高くなる。加工装置等の温度が上昇すると揮発性がさらに高まるほか、温度上昇により潤滑油の粘度が下がるので、塗布した潤滑油を一定の膜厚で確保できず、やはり潤滑性不足となるおそれがある。
【0008】
このような問題に対処する方法の1つに、マイナス温度での加工がある。その特徴の1つには、マイナス領域の低温条件で加工することで、潤滑油の粘度を向上させることができることが挙げられる。そこで、マイナス温度での加工にも使用できる潤滑油として特許文献3がある。特許文献3の潤滑油は、パラフィンを主成分として流動点や40℃における粘度を適切な範囲に設定しており、−50〜−150℃の温度条件で加工物表面に潤滑油被膜を形成させたうえで低温加工している。しかし、この方法では、潤滑油被膜が形成されるまで時間がかかり、実際の生産速度に合致していない。
【0009】
【特許文献1】特開平10−279979号公報
【特許文献2】特開昭60−19952号公報
【特許文献3】特開平5−247479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような事情の下、環境に優しい非塩素系の潤滑油でありながら潤滑性に優れ、速乾性を有しながら後工程における洗浄や塗装工などに及ぼす影響が少なく、さらにはマイナス温度での加工にも使用できる液体潤滑油を得ることができないかと鋭意検討の結果、非塩素系の速乾性潤滑油を基油として、これに潤滑性、防錆性、脱脂性等に優れた調製油を適量配合することで、これらの問題を一気に解決できる潤滑油が得られることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0011】
つまり本発明の目的は、潤滑性に優れると共に速乾性を有し、後工程への影響が少なく、かつマイナス温度での加工にも使用可能な液体潤滑油を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を達成するため、請求項1に記載の金属材料加工用の潤滑油は、パラフィン系炭化水素からなる基油に、全量基準で2〜20重量%の調製油を配合してなる。そして、前記調製油は、(a)硫黄系極圧剤と、(b)防錆剤と、(c)カルシウム系添加剤とを含み、以下の条件、
(a)成分の硫黄含有量が、調製油全量基準で、0.5〜20重量%である、
(b)成分の含有量が、調製油全量基準で、0.1〜15重量%である、
(c)成分のカルシウム含有量が、調製油全量基準で、0.1〜15重量%である、
をすべて満たすことを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の金属材料加工用の潤滑油における前記基油として、炭素数8〜16のパラフィン系炭化水素の1種または2種以上の混合油を使用している。
【0014】
請求項3に記載の本発明は、請求項1または請求項2に記載の金属材料加工用の潤滑油を高張力鋼板の加工用としている。高張力鋼板とは、「JIS G3134 自動車用加工性熱間圧延高張力鋼板及び鋼帯」及び「JIS G3135 自動車用加工性冷間圧延高張力鋼板及び鋼帯」に規定されている鋼板であって、他には「高強度鋼板」や「ハイテン材」と呼ばれる場合もある。一般的には、鋼板の強度は引張強さで示され、引張強さ340N/mm以上の鋼板を高張力鋼板と呼び、それ未満の鋼板を軟鋼と呼ぶ。本明細書中では、JIS G3134及びJIS G3135に規定される鋼板を高張力鋼板とする。
【0015】
請求項4に記載の本発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の金属材料加工用の潤滑油の凝固点が−40℃以下である。凝固点とは、潤滑油を冷却していったときに流動性を失う温度をいう。
【0016】
請求項5に記載の本発明は、金属材料と該金属材料を加工するための工具との間に、請求項4に記載の潤滑油を供給し、−5〜−35℃の低温条件でプレス加工することを特徴とする金属材料のプレス加工方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、パラフィン系炭化水素からなる基油に、(a)硫黄系極圧剤と、(b)防錆剤と、(c)カルシウム系添加剤とを添加した調製油を配合してなる非塩素系の潤滑油なので、環境に優しい。本発明の潤滑油は、パラフィン系炭化水素(とくに炭素数8〜16が好適)を主体成分としているので、潤滑性に優れると共に速乾性を有するうえ、臭気も良い。そのうえで、少量の調製油を配合しているだけなので加工後の残留物が少なく、後工程において洗浄工程を省くことも可能であり、加工後にめっき処理や塗装を施す場合でも、これに対する塗装斑などの悪影響は少ない。
【0018】
この調製油は、上記(a)〜(c)成分を好適な量で添加して調製されているので、潤滑性・防錆性・脱脂性が優れている。したがって、基油にこのような特性に優れる調製油を配合することで、加工時の潤滑性をさらに高め、加工物の錆の発生も防止することができる。上述のように、加工後のめっき処理や塗装への悪影響は小さいが、実際にはその前処理として残留物の脱脂洗浄を行なうであろうが、その場合でも残留物である調製油の脱脂性が良好なので、脱脂洗浄を容易に行なうことができる。このように、本発明の潤滑油によれば、潤滑性に優れると共に速乾性を有するうえ後工程への影響が少なく、かつ防錆性、脱脂性、及び臭気の良好な潤滑油とすることができる。
【0019】
一般的に高張力鋼板は、高強度化が図られている反面延性が低下し、それに伴って成形性の劣化、降伏強度の上昇による面ひずみやスプリングバックなどの形状凍結不良の増加など、プレス成形時に多くの技術課題をもたらす。しかし、本発明の潤滑油は潤滑性に優れるので、このような独特の課題を有する高張力鋼板に対しても、加工時の割れ、形状不良、寸法精度不良、型かじり等を有意に防ぐことができると共に、残留油が良好な防錆性を有するので、錆びの発生も有意に防ぐことができる。
【0020】
また、高張力鋼板を溶接する場合は、一般的な溶接法の1つである炭酸ガスアーク(CO)・マグ(MAG)溶接を使用する場合が多い。しかし、残留物が付着したまま高張力鋼板をMAG溶接すると、残留物成分が分解して鋼材表面と反応し、錆の発生の原因となるので、MAG溶接に際して脱脂処理が不可欠となる。この場合でも、本発明の潤滑油(正確には残留物である調製油)が良好な脱脂性を有するので、高張力鋼板の溶接に対して好適に使用することができる。
【0021】
凝固点が−40℃以下の潤滑油を使用して−5〜−35℃の低温条件でプレス加工すれば、粘度が高まることで潤滑油の膜厚を所定量維持できる。以って潤滑性を向上させながら潤滑油を液体(流動性を有する)の状態で使用することができ、生産速度に合致した潤滑油とすることができる。また、本発明の潤滑油は速乾性に優れるが、マイナス温度での加工によれば加工時の揮発を抑えることができ、潤滑油不足を招くことを有意に回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の潤滑油は金属材料加工用の潤滑油であって、パラフィン系炭化水素からなる基油に、(a)硫黄系極圧剤と、(b)防錆剤と、(c)カルシウム系添加剤とを必須成分として添加した調整油を適量配合してなる。
【0023】
[金属材料について]
加工対象である金属材料としては、自動車、建材、家電、電子機器などの分野で広く使用されている、ステンレス鋼、合金鋼、炭素鋼等の他、アルミニウム合金材、銅材等の非鉄金属材料も使用できる。また、その形態も、冷間圧延鋼板、熱間圧延鋼板、めっき鋼板、防錆鋼板等とくに限定されないが、本発明の潤滑油の高い性能を最大限発揮し得る高張力鋼板が好ましい。高張力鋼板は、高い強度を有することによって他の鋼板よりも厚み寸法が小さい状態で使用でき、軽量化の要請の高い自動車など車両用の鋼板として注目されている。
【0024】
その加工方法としては、絞り加工、曲げ加工、ブランク加工、ピアス加工、トリミング加工、カシメ加工、コンパウンド加工、バーリング加工、ファインブランキング加工などのプレス加工を挙げることができる。これらの加工は常温で行ってもよいが、マイナス温度で加工することが好ましい。マイナス温度での加工によれば、加工時の潤滑油の揮発を抑えて潤滑油不足を防ぐことができると共に、潤滑油の膜厚を所定量確保することができることから加工精度を向上でき、その機械的特性から加工時に種々の技術的課題を有する高張力鋼板の加工に好適だからである。その具体的説明は後述する。なお、本発明の潤滑油は優れた速乾性を有するので、温間加工や熱間加工は避けるべきである。
【0025】
プレス加工後の処理工程としては、一般的には加工物に付着した潤滑油を脱脂・洗浄する工程、防錆油を塗布して加工物の錆対策をする工程、めっき処理や塗装をする工程、熱処理をして加工物の強度を確保する工程、他の金属部品との溶接工程などがある。しかし本発明の潤滑油は、主体成分である基油は自然蒸発により消失し、その際の残留物も少量なので、必要に応じて洗浄工程を省略することができる。また、残留物の高い防錆性により防錆工程は不要である。さらに、その高い脱脂性により、めっき処理や塗装、及び溶接の際に必要な脱脂工程も円滑に行うことができる。
【0026】
鋼板の溶接はMAG溶接が最も一般的である。このMAG溶接は、アーク溶接の1種であり、コイル状に巻かれた溶接ワイヤが送給ローラにより屈曲性のあるコンジェットチューブを通って溶接トーチに送られ、トーチのコンタクトチップで通電されてシールドガス中でワイヤと母材との間にアークを発生させ、そのアーク熱などで母材とワイヤとを連続的に溶かして溶接する方法である。JIS規格では、シールドガスに炭酸ガス100%を使用する場合と、炭酸ガスとアルゴンガスの混合ガスを用いる場合とが規定されているが、高張力鋼板をMAG溶接する場合は、シールドガスに炭酸ガスだけを使用すると酸化傾向が強く、溶着金属及び母材の合成成分が変質し強度の低下を招く恐れが大きいので、シールドガスにはアルゴン80%+炭酸ガス20%の混合ガスを使用することが好ましい。この溶接法は、溶着速度が速い、溶着効率が高い、一種類のワイヤで適応できる板厚の範囲が広い、溶接部の品質が優れている、取り扱いが簡単、などの利点がある。
【0027】
金属材料の厚み寸法としては、本発明の潤滑油を使用した場合にでも汎用性の高い、すなわち上記に上げたプレス加工の何れにでも適用可能な厚みとすることが好ましい。具体的な寸法は金属材料の種類により異なるが、例えば高張力鋼板であれば、3.0mm以下、より好ましくは、2.0mm以下、さらに好ましくは1.6mm以下である。金属材料の厚み寸法の下限は、薄ければ薄いほど良いので特に限定されることはないが、プレス加工を行うことができ、製品としての最低限の機能を有する必要から、0.1mm程度あればよい。金属材料の厚み寸法が大きければ、その分プレス加工時のせん断応力等も大きくなり、高い潤滑性を有する本発明の潤滑油をもってしても加工物や工具に損傷が生じるおそれが高くなり、適用できる加工方法が限られる。逆に、厚み寸法が上記の範囲程度の金属材料であれば、加工時に大きな応力の発生するファインブランキング加工などにおいても、加工物の割れ、カジリ、バリ、ダレや加工工具の損傷を有効に防止できる。
【0028】
[基油について]
本発明の主体成分である基油は、一般式C2n+2で表されるパラフィン系炭化水素(鎖式飽和炭化水素)であり、直鎖状炭化水素(ノルマルパラフィン)、分枝鎖状炭化水素(イソパラフィン)、及び環状炭化水素(シクロパラフィン)を含む。中でも炭素数8〜16のパラフィン系炭化水素が好ましく、具体的には、オクタン(炭素数8)、ノナン(炭素数9)、デカン(炭素数10)、ウンデカン(炭素数11)、ドデカン(炭素数12)、トリデカン(炭素数13)、テトラデカン(炭素数14)、ペンタデカン(炭素数15)、ヘキサデカン(炭素数16)とこれらの異性体であって、これらから選ばれる1種を使用してもよいし、2種以上の混合油を使用してもよい。しかし、1種のパラフィン系炭化水素のみで基油とする場合は、後述の特性により炭素数13以下とすることが好ましい。なお、炭素数8〜16のパラフィン系炭化水素は、常温において液体状である。
【0029】
パラフィン系炭化水素は、これの炭素数が高いほどその沸点も高くなる傾向にある。したがって、炭素数が16より大きいパラフィン系炭化水素は沸点が高く蒸発速度が遅いことに加え、一般的に常温において固体なので、これだけでは潤滑油基油として不適である。また、同様の理由から炭素数が16に近いパラフィン系炭化水素も単体で使用するには難があるので、混合油として使用することが好ましい。炭素数が8より小さいパラフィン系炭化水素は、沸点が低い点では好ましいが、臭気が悪いという不都合がある。したがって、臭気さえ気にしなければ、炭素数5〜7のパラフィン系炭化水素も本実施形態の潤滑油基油として使用することも不可能ではない。しかし、炭素数1〜4のパラフィン系炭化水素は常温において気体なので、潤滑油基油として使用不可能である。炭素数8〜13のパラフィン系炭化水素であれば、速乾性が特に優れる。
【0030】
よって、炭素数8〜16のパラフィン系炭化水素を基油とすれば、臭気が良好で、速乾性を有するかもしくは優れた潤滑油とすることができる。その場合、パラフィン系炭化水素の沸点は210℃以下とすることが好ましい。沸点が210℃以下であれば、常温常圧における揮発性が高くなるので、加工物に付着した潤滑油を数時間〜1日強以内に自然蒸発させることができる。これにより、一般的な金属材料の生産過程において、加工した後、次工程へ移行させるまでに加工物に付着した潤滑油をほとんど揮発させることができ、生産ラインを加工物の乾燥のためにストップする必要がない。揮発性が高い、すなわち速乾性が良ければ、沸点の下限は特に限定されることはないが、本実施形態の潤滑油の中で最も沸点の低い炭素数8のパラフィン系炭化水素の沸点は、約70℃である。
[調製油について]
本発明の調製油は、上記基油に付加的な性能を付与するために少量配合されるものであり、潤滑油全体に対する影響は小さいのでこれに使用する油は特に制限されることなく、一般的に金属加工油として用いられている鉱油、合成油、及び油脂の中から選ばれる1種又は2種以上の混合油を使用できる。とくに、臭気の悪い鉱油であっても、潤滑油としての臭気には影響が小さい。このような鉱油、合成油、及び油脂には各種のものがあり、用途などに応じて適宜選定すればよい。
【0031】
例えば鉱油としては、石油精製業の潤滑油製造プロセスで常法を用いて精製される鉱油を使用することができる。より具体的には、原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理などの処理を1つ以上行って精製したものなどが挙げられる。
【0032】
合成油としては、例えばポリα−オレフィン、α−オレフィンコポリマー、ポリブテン、アルキルベンゼン、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、シリコーンオイルなどを挙げることができる。
【0033】
油脂としては、例えば牛脂、豚脂、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、並びにこれらの水素化物などを挙げることができる。
【0034】
次に、調製油に配合される3つの成分、すなわち(a)硫黄系極圧剤、(b)防錆剤、(c)カルシウム系添加剤、について説明する。これらの添加剤を適量添加することで、潤滑性、防錆性、脱脂性に優れた調製油を得ることができる。
【0035】
[(a)硫黄系極圧剤について]
硫黄系極圧剤としては、硫黄原子を有し、極圧効果を発揮しうるものを使用することができる。硫黄系極圧剤の具体例としては、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ポリサルファイド類、チオカーバメート類、硫化鉱油などを挙げることができる。ここで、硫化油脂は硫黄と油脂(ラード油,鯨油,植物油,魚油等)を反応させて得られるものである。その具体例としては、硫化ラード、硫化なたね油、硫化ひまし油、硫化大豆油などを挙げることができる。硫化脂肪酸の例としては、硫化オレイン酸などを、硫化エステルの例としては、硫化オレイン酸メチルや硫化米ぬか脂肪酸オクチルなどを挙げることができる。
【0036】
その他、硫黄系極圧剤の具体例としては、その分子内に硫黄原子を有する有機亜鉛化合物、例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(以下、ZnDTPという。)、及び、ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛(以下、ZnDTCという。)を挙げることができる。ZnDTP、及び、ZnDTCのアルキル基は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。すなわち、ZnDTPの構造式では、リン原子に対して酸素原子を介して2つのアルキル基が結合しているが、これらのアルキル基は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。また、ZnDTCの構造式では、窒素原子に対して2つのアルキル基が結合しているが、これらのアルキル基は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。ZnDTP及びZnDTCのアルキル基は、炭素数3以上のアルキル基又はアリール基が好ましい。
【0037】
硫化オレフィンは、炭素数2〜15のオレフィン又はその2〜4量体を、硫黄、塩化硫黄等の硫化剤と反応させることによって得られる。
【0038】
ポリサルファイド類の具体例としては、ジベンジルポリサルファイド、ジ−tert−ノニルポリサルファイド、ジドデシルポリサルファイド、ジ−tert−ブチルポリサルファイド、ジオクチルポリサルファイド、ジフェニルポリサルファイド、ジシクロヘキシルポリサルファイドなどを挙げることができる。
【0039】
チオカーバメート類の具体例としては、ジンクジチオカーバメート、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネートなどを挙げることができる。
【0040】
硫化鉱油とは、鉱油に単体硫黄を溶解させたものをいう。単体硫黄を溶解させる鉱油は特に制限はないが、例えば、上記基油の説明において例示された鉱油系潤滑油基油を使用することができる。
【0041】
本発明において、上記(a)成分は1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その硫黄含有量は、調製油全量基準で0.5〜20重量%とすることが好ましく、より好ましくは2〜15重量%の範囲である。この範囲よりも少なすぎると、潤滑性能を有効に維持できない場合があり、この範囲よりも多すぎると、潤滑性能は向上するが、防錆性が低下してMAG溶接後の加工物の錆発生量が増加するので好ましくない。
【0042】
[(b)防錆剤について]
防錆剤の種類は特に限定されるものでなく、具体例としては、カルシウム(Ca),バリウム(Ba),ナトリウム(Na)の各スルフォネート及びスルホン酸化合物、酸化ワックスのエステル化合物及びそれらのCa,Ba,Naの各塩のような酸化ワックス化合物、ソルビタンモノオレートのような多価アルコールエステル、ラノリン及びラノリンの金属石鹸、などを挙げることができる。なかでも、Ca系防錆剤やBa系防錆剤が好ましい。本発明においては、上記防錆剤は1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、このような防錆剤は、調製油に溶け易くするため、鉱物油や合成油、エステルなどと混合されているのが一般的である。
【0043】
防錆剤は、調製油全量基準で0.1〜15重量%の範囲で配合することが好ましく、より好ましくは1.0〜10重量%である。この範囲よりも少なすぎると、MAG溶接後の加工物の防錆性能を有効に維持できない場合があり、この範囲よりも多すぎても配合量に見合う効果の向上が得られないので好ましくない。
【0044】
[(c)カルシウム系添加剤について]
カルシウム系添加剤の好ましいものとして、カルシウムスルフォネート、カルシウムサリシレート、カルシウムフェネートが挙げられる。特に動粘度、価格の点より、カルシウムスルフォネートが好ましい。より好ましくは、塩基性カルシウムスルフォネートである。更に好ましくは、塩基価が300mgKOH/g以上の塩基性カルシウムスルフォネートである。
【0045】
本発明においては、上記(c)成分は1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、そのカルシウム含有量は、調製油全量基準で0.1〜15重量%が好ましく、より好ましくは0.2〜10重量%の範囲である。この範囲よりも少なすぎると、潤滑性能を有効に維持できない場合があり、この範囲よりも多すぎても配合量に見合う効果の向上が得られないので好ましくない。
【0046】
[潤滑油について]
このように、上記(a)〜(c)成分を適量添加することで調整された調製油は、基油に対して潤滑油全量基準で2〜20重量%配合できる。この程度の配合量であれば、潤滑油が揮発した後の加工物表面は、指で触っただけでは残留物を感じないほど乾燥している、いわゆる指触乾燥とできる。しかし、厳密には残留物が残存しており、この残留物の高い防錆性によって錆びの発生が有意に防がれる。調製油の配合量が潤滑油全量基準で2重量%より少なければ、基油に防錆性などを有効に付与できなくなる。逆に調製油の配合量が潤滑油全量基準で20重量%より多いと、潤滑油が揮発した後の残留物量が多くなって、後工程に多大な悪影響を及ぼすことになる。
【0047】
また、本発明の潤滑油には、金属材料加工油としての基本的な性能を維持するために、本発明の目的を阻害しない範囲で、その他公知の各種添加剤を適宜配合することができる。その添加剤としては、例えば酸化防止剤、防食剤、着色剤、消泡剤、香料等が挙げられる。酸化防止剤としてはアミン系化合物やフェノール系化合物などを、防食剤としてはベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾールなどを、着色剤としては染料や顔料などを、必要に応じて適宜添加することができる。
【0048】
そのうえで、潤滑油の凝固点は−40℃以下とすることが好ましい。潤滑油の凝固点が−40℃以下であれば、それよりも高いマイナス温度での加工(例えば−5〜−35℃)において、液体状で使用することができるからである。潤滑油を液体状で使用できれば、潤滑油が結晶化するまで待つ必要がないので、求められる生産速度に合致した状態での加工が可能となる。つまり、潤滑油の性能を有効に発揮させながら加工性が劣る金属材料を精度良く加工でき、かつ生産性を向上させることができる。
【0049】
また、−20℃動粘度が12.5mm/S以下であることが好ましい。−20℃動粘度が12.5mm/S以下であると、金属材料加工時の潤滑性や防錆性に優れるだけでなく、マイナス領域でも適度の流動性を有し、液体潤滑油として使用するに適している。好ましくは10.0m/S以下、より好ましくは7.5mm/S以下である。一方、−20℃動粘度が12.5mm/Sより大きくなると、潤滑性や防錆性を有意に発揮し難い。−20℃動粘度は低いほど好ましいので、基本的にはその下限は特に限定されることはない。但し、−20℃動粘度があまりに低いと潤滑性を担保できないという問題も生じ得るので、少なくとも2.5mm/S程度はあるとよい。なお、潤滑油は、一般的に低温ほど動粘度が高くなって、潤滑性が向上する。
【0050】
さらに、本実施形態の潤滑油は、引火点が40℃以上、発火点が240℃以上の範囲を満たすことが好ましい。引火点が40℃以上であれば、常温において安全に使用できる。逆に引火点が40℃未満であると、常温において引火し易くなり、特に気温の高くなる夏季や亜熱帯地域での取り扱い時の危険性が高くなるので好ましくない。発火点が240℃以上であれば、金属材料の加工時に発生する火花や加工熱により引火するなどの危険性が低く、安全に加工できる。
【0051】
金属材料を加工する場合、本発明の潤滑油を加工物である金属材料とダイスやパンチ等の工具との間に供給することによって、加工物の割れやカジリを防いで加工精度が向上すると共に、工具寿命も長くなる。特に本発明の潤滑油は、他の鋼板と比べて加工に困難を有する高張力鋼板にも好適に使用できる。
【0052】
高張力鋼板を加工する場合は、その加工性を高めるためマイナス温度での加工が好ましい。その際の温度条件は、潤滑油の凝固点が−40以下に設定されているので、これよりも高いマイナス温度である−5〜−35℃の範囲とする。好ましくは−10〜−30℃、より好ましくは−15〜−25℃である。この範囲であれば、潤滑油を液体のままで使用することができ、生産速度が低下することはない。加工温度条件が−5℃を超えると、マイナス温度での加工の利点を有効に利用できない。加工温度条件が−35℃を下回ると、潤滑油が結晶化し得る。
【0053】
潤滑油の供給方法は特に限定されないが、例えばローラーによる金属材料表面への塗布、スプレーによる金属材料表面への塗布などの方法を使用することができる。また、加工時の温度設定は、一般的に使用されている周知の方法で行なえばよい。
【0054】
(実施例)
以下、本発明に係る金属材料加工用潤滑油の具体的な実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
[基油選定試験]
まず、潤滑油の基油として好ましいものを選定するため、以下の試験を行なった。なお、基油選定試験では、添加剤を一切添加していない潤滑油100%で評価した。各種性能評価試験で使用した潤滑油は表1に示す通りである。
【0056】
【表1】


【0057】
(表面観察試験)
まず、表1に示す各潤滑油を使用してプレス加工した後のパンチ(工具)及び加工物の加工面状態を目視にて観察した。その結果を表2に示す。なお、表2における評価基準は以下の通りである。
パンチ表面状態 ◎:非常に良好 ○:良好 △:少し磨耗 ×:磨耗
加工面状態 ◎:傷無し ○:若干の傷跡 △:小さな傷あり ×:深い傷あり
【0058】
また、試験条件は以下の通りである。
プレス機:AIDA(アイダエンジニアリング社製)
生産速度:60spm
パンチ:SKD11 ダイス:SKD11
金属材料:SECC(JIS G3313 一般用鋼板)
幅:150mm 板厚:0.3mm
潤滑油供給方法:樹脂ロールにて金属材料表面に均一に塗布
加工方法1:潤滑油を塗布した被加工物をパンチにてφ2.5mm、φ6.0mm、φ22mm、φ100mmの打ち抜きを約3000個実施した。
加工方法2:潤滑油を塗布した被加工物をパンチにてφ2.5mmの絞りを約3000個実施した。
【0059】
【表2】


【0060】
表2から明らかなように、炭素数が8以上のパラフィン系炭化水素を使用すれば、打ち抜き加工や絞り加工において、パンチ表面及び加工物の加工面が良好であった。これにより、優れた潤滑性を有することがわかる。
【0061】
(乾燥試験)
次に、蒸発速度すなわち速乾性に関する試験を行った。
各実施例及び比較例の潤滑油を、JIS G3141に規定されるSPCC鋼板(80×60×1.0mm)に0.5g塗布後、水平に放置したときの潤滑油の蒸発時間を測定した。その結果を表3に示す。
【0062】
【表3】


【0063】
表3からも明らかなように、炭素数が低い程蒸発時間が早くなる傾向がある。これは、炭素数が低い程沸点が低いことに依存している。中でも、炭素数が13以下のパラフィン系炭化水素であれば、極めて短時間での乾燥が可能であることがわかる。また、炭素数が16以下でも乾燥するまでに1日強しか要せず、効果的な速乾性を有することがわかる。
【0064】
(臭気試験)
次に、各実施例及び比較例の臭気を以下の方法にて評価した。
500mlガラス製ビーカーに各実施例及び比較例を100ml入れ、臭気を5人以上にて嗅ぎ、評価を行った。その結果を表4に示す。なお、表4における評価基準は以下の通りである。
○:不快感なく問題なし △:臭気を感じる ×:不快臭が強い
【0065】
【表4】


【0066】
表4から明らかなように、鉱油は臭気が悪いが、鉱油でない炭素数8〜16の潤滑油は、臭気が良好であった。鉱油でなくとも、炭素数が8〜16以外のパラフィン系炭化水素を含む潤滑油は臭気を感じる。
【0067】
以上の結果により、炭素数8〜16のパラフィン系炭化水素100重量%含の潤滑油であれば、潤滑性、速乾性、及び臭気が良好であり、潤滑油の基油として好適であることがわかった。
【0068】
[調製油の調製試験]
次に、以下に示す各種の添加剤成分を用いて上記基油に配合する調製油とその比較例を調整した。それぞれの組成を表5に示す。なお、表5における基油とは、調製油としての基油であり、数値は重量部で表している。比較例1〜3は市販されている代表的なプレス加工用潤滑油を、比較例4〜5は市販されている鋼板用潤滑防錆油を、比較例6は鋼板用防錆油をそれぞれ選定した。「硫黄分(%)」とあるのは、調製油全量を基準としたときの(a)成分に含まれる硫黄分(硫黄原子)の割合(重量%)を示している。「防錆分(%)」とあるのは、調製油全量を基準としたときの(b)成分の割合(重量%)を示している。「カルシウム分(%)」とあるのは、調製油全量を基準としたときの(c)成分に含まれるカルシウム分(カルシウム原子)の割合(重量%)を示している。
【0069】
(a)成分
a1:ポリサルファイド(硫黄含有量:30重量%)
a2:硫化油脂(硫黄含有量:15重量%)
a3:ZnDTP(硫黄含有量:16質量%)
(b)成分
b1:Baスルフォネート化合物
b2:酸化ワックス化合物
b3:Caスルフォネート化合物
b4:ラノリン脂肪酸化合物
b5:スルホン酸化合物
(c)成分
c1:高塩基性Caスルフォネート化合物(カルシウム含有量:15重量%)
(その他の成分)
d1:塩素化パラフィン(塩素含有量:50重量%)
【0070】
【表5】


【0071】
(潤滑性試験)
表5に示す組成の調製油について、以下の装置・方法を用いて性能評価を行った。
プレス機:FUKUI 500トン順送プレス(生産速度:45spm)
加工材料1:引張強さ440N/mmの高張力鋼板、板厚:1.0mm
加工材料2:引張強さ590N/mmの高張力鋼板、板厚:1.8mm
加工材料3:引張強さ780N/mmの高張力鋼板、板厚:1.2mm
加工材料4:引張強さ980N/mmの高張力鋼板、板厚:1.0mm
潤滑油の供給方法:樹脂ロールにて被加工材料表面に均一に供給
パンチ材質:SKD11
ダイス材質:SKD11
加工内容:打抜き加工、曲げ加工、穴あけ加工、バーリング加工、タップ加工、を同時工程または単独工程にて行い、合計16工程にて加工物を完成する。
【0072】
表5に示す組成にて調製した調製油を、被加工材料の表面に対して樹脂ロールにて均一に供給した後に、自動車用リクライニングシートに用いられる金属製部品をプレス加工にて製作した。そして、加工物の製品精度の測定及び加工後のパンチ及びダイス表面の状態を目視にて観察して評価を行った。この際、製品規格に適合するか否かによって、仕上がり品の合否を判定した。結果を以下の表4に示す(○は合格、×は不合格を示す)。
【0073】
【表6】


【0074】
表6に示す結果を見ればわかるように、調製油1〜3及び比較例1〜3は、加工物の加工精度、及び工具の摩耗状態も良好であった。具体的には、パンチの表面における焼付きや損傷等が全く確認されず、パンチにより打抜きされた穴のせん断面の状態も極めて良好であり、穴の周囲におけるバリやダレが少なく、予定した寸法通りの精密な穴が形成されていた。これに対して比較例4〜6は、加工物表面のカジリが観察され、製品規格に適合しない不合格の加工物となった。
【0075】
(防錆性試験)
次に、調製油が高張力鋼板に付着した状態で、MAG溶接を実施して、表面の防錆性の評価試験を実施した。
溶接方法:MAG溶接
シールドガス:アルゴン80%+炭酸ガス20%の混合ガスを使用
ワイヤー径:1.0mm及び1.2mm
電流:145A、電圧:16V、速度:60cm/min
トーチ角度:60度、溶接長:40mm、溶接幅:10mm
加工材料1:SPCC鋼板、板厚:1.2mm
加工材料2:引張強さ590N/mmの高張力鋼板、板厚:1.8mm
【0076】
溶接後の高張力鋼板を恒温高湿の試験箱(温度50℃、湿度95%)に960時間収容して発錆状態を観察した。錆発生面積10%未満を○(合格)、錆発生面積10%以上を×(不合格)とした。結果を表7に示す。
【0077】
【表7】


【0078】
調製油1〜3は、錆発生面積がすべて10%未満であり、良好な防錆性能を発揮していることを確認できた。比較例1〜6は、錆発生面積がすべて10%以上であり、あまり防錆性能を発揮していないことを確認できた。これは、溶接熱による添加剤の分解などにより、防錆成分による防錆効果が十分発揮できなかった結果と推測される。なお、塩素系添加剤の配合された比較例1は錆が全面に発生している状態であった。
【0079】
(脱脂性試験)
次に、調製油が高張力鋼板に付着した状態で、調製油の脱脂性能を評価するため、以下の方法により試験を実施した。
洗浄液:市販の鉄鋼用表面処理剤(鉄鋼表面の洗浄と同時にリン酸鉄皮膜を形成する表面処理剤)
洗浄液濃度:4%(水道水にて希釈)、洗浄液液温:60℃
加工材料1:SPCC鋼板、寸法:60×80×1.2mm
加工材料2:引張強さ590N/mmの高張力鋼板(板厚:1.8mm)の自動車用リクライニングシートの金属部品
【0080】
各調製油を被加工材料1、2の表面にハケ塗りした後、24時間室内に放置した。つぎに、これらの被加工材料を、濃度4%に調製した洗浄液を撹拌機にて撹拌しながら、その洗浄液の中に180秒間浸漬させた。その後、被加工材料を取り出し、表面の濡れ性を目視にて観察した。表面の濡れ面積が80%以上を○(合格)とし、80%未満を×(不合格)とした。結果を表8に示す。
【0081】
【表8】


【0082】
調製油1〜3を塗布した場合には、鋼板表面の濡れ面積がいずれも80%以上であり、良好な脱脂性があることを確認できた。これに対して、比較例2、3を塗布した場合には、鋼板表面の濡れ面積が80%未満であり、脱脂性が不十分であることを確認できた。
【0083】
以上の結果より、本発明で配合する調製油は、高張力鋼板加工用に使用すると非常に優れた性能を発揮することが実証された。また、調製油が付着した加工物のMAG溶接後の防錆性能に優れ、脱脂性も極めて良好であることを実証することができた。
【0084】
(潤滑油試験)
以上の結果に基づいて、パラフィン系炭化水素からなる基油に、(a)硫黄系極圧剤と、(b)防錆剤と、(c)カルシウム系添加剤とを添加した調整油を配合することで、良好な種々の性能を有する潤滑油を得ることができることが判明した。そこで、上記基油選定試験における潤滑油2を基油として、上記調製油試験における調製油3を潤滑油全量基準で15重量%配合した潤滑油を調整しこれを使用して室温及びマイナス温度(−20℃)でプレス加工した場合と、ドライ加工した場合とを比較した。
【0085】
その試験結果を表9に示す。なお、表9における「付着油量」は、塗布した潤滑油が蒸発した後の加工材料表面に付着している油量である。「荷重」とは、プレス加工のプレス荷重である。「寸法」は、加工後の加工材料の板幅寸法である。「せん断長さ」とは、加工材料をプレスするとき、当該加工材料は荷重の作用方向側から所定厚みではせん断破壊され、それ以降は破断することで穿孔される機構となっており、そのせん断破壊形態の長さ(厚み)を意味する。
【0086】
また、試験条件は以下のとおりである。
潤滑油: 基油:上記潤滑油2
調製油:上記調製油3
硫黄含有量1.0重量%(調製油全量基準)
防錆材含有量0.9重量%(調製油全量基準)
カルシウム含有量0.1重量%(調製油全量基準)
−20℃動粘度:2.8mm/s
プレス機:AIDA(アイダエンジニアリング社製)
生産速度:40spm
パンチ:SKD11 ダイス:SKD11
ショット数:1000
加工材料:引張強さ590N/mmの高張力鋼板
板厚1.8mm 板幅:90mm
ドライ加工鋼板:防錆油塗布鋼板
【0087】
【表9】


【0088】
表9から、付着油分は室温加工、マイナス温度加工、ドライ加工共に同等なので、マイナス温度加工でも室温加工等と同様に洗浄工程を行うことができる。プレス荷重はドライ<室温<マイナス温度の順で低くなっていることから、潤滑油の潤滑性が発揮されており、中でもマイナス温度での加工が最も加工工具に対する負荷が少なく、金型寿命を延命できることがわかる。加工後の製品寸法は室温加工・マイナス温度加工・ドライ加工ともに同じであるが、その時のせん断長さはマイナス温度での加工が最も大きい。したがって、マイナス温度での加工によれば最も製品精度を向上できることがわかる。
【0089】
次に、調製油の配合量を変えた場合の室温及びマイナス温度(−20℃)での潤滑油の付着量を測定比較した。調製油の配合量とその結果を表10に示す。
【0090】
【表10】


【0091】
表10より、調製油の配合量が15重量%の実施例3の油量がドライの油量に近く(表9参照)、またマイナス温度/室温の相対比が最も高いので、実施例3がマイナス温度での加工に最も適していることがわかる。全体的な結果から、実施例1〜4はプレス加工の潤滑油として使用可能であることがわかるが、実施例1は室温・マイナス温度共に比率が極端に高く、実施例4はマイナス温度と室温との相対比が極端に下がるので、この配合量が使用可能な限界であることがわかる。また、表10の結果から、室温における1%換算油量は0.056mg/cmであり、マイナス温度における1%換算油量は0.043mg/cmであった。したがって、上記のように調製された本発明の潤滑油は、マイナス温度での加工に適していることがわかる。

【出願人】 【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
【識別番号】000211145
【氏名又は名称】中京化成工業株式会社
【出願日】 平成19年1月12日(2007.1.12)
【代理人】 【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所


【公開番号】 特開2008−169311(P2008−169311A)
【公開日】 平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願番号】 特願2007−4317(P2007−4317)