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【発明の名称】 潤滑剤、磁気記録媒体およびヘッドスライダ
【発明者】 【氏名】佐々 匡昭

【氏名】千葉 洋

【氏名】伊海 佳昭

【要約】 【課題】磁気記録装置の磁気記録媒体潤滑層やヘッドスライダ潤滑層に使用するための潤滑剤であって、分子量が増大しても一分子分の膜厚が十分薄くなる潤滑剤を提供する。

【解決手段】本発明に係る潤滑剤は、含フッ素ポリマーであって、特定の構造を有する分岐鎖を有する。分岐の末端を含めて、分子末端の三つ以上に極性基を有していることが好ましい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される主鎖構造を有する含フッ素ポリマーを含んでなる潤滑剤。
−CF2O−[(CF2CH2OCH2CHXCH2OCH2k(C24O)m(CF2O)n]−CF2−・・・(1)
(ここで、k、m、nはゼロ以上の実数でかつ、kとmとnは同時にはゼロにならない。各構造単位は式(1)中互いにランダムな配列を取ってもブロック化した配列を取ってもよい。Xは、式(2)で表される分岐鎖である。
−OCH2CF2O(CF2CH2OCH2CHXCH2OCH2p(C24O)q(CF2O)rCF2−CH2OH・・・(2)
なお、r,p、qはゼロ以上の実数でかつ、rとpとqは同時にはゼロにならない。また、式(2)の左端が式(1)の主鎖構造の炭素に結合し、他の一方はこの分岐鎖の末端基となる。式(2)中のXは、更に、上記と同様の条件下、式(2)の構造を取ってもよく、あるいは、途中にエーテル構造を有していてもよく、水素がフッ素で置換されていてもよいアルキル基または水素でもよい。その後のXについても上記と同様の条件下、式(2)の構造を取ってもよく、あるいは、途中にエーテル構造を有していてもよく、水素がフッ素で置換されていてもよいアルキル基または水素でもよい。各構造単位は式(2)中互いにランダムな配列を取ってもブロック化した配列を取ってもよい。)
【請求項2】
前記含フッ素ポリマー分子の末端基のうちの少なくとも3個が極性基からなる、請求項1に記載の潤滑剤。
【請求項3】
式(3)の構造を有する化合物と式(4)の構造を有する化合物とを反応させてなる含フッ素ポリマーを含有する潤滑剤。
HO−CH2RfCH2−OTs・・・(3)
HOCH2RfCH(OH)RfCH2OH・・・(4)
{式(3),(4)中、Rfは、それぞれ独立に、含フッ素ポリエーテル結合を表す。}
【請求項4】
磁性層と、当該磁性層上にある保護層と、当該保護層上にある磁気記録媒体潤滑層とを含む磁気記録媒体であって、当該磁気記録媒体潤滑層が請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑剤を塗布したものである、磁気記録媒体。
【請求項5】
磁気記録媒体に対し、記録および/または再生を行うための記録変換素子を備えたヘッドスライダであって、当該磁気記録媒体に面する側のヘッドスライダ面に、保護層と請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑剤を塗布したヘッドスライダ潤滑層を有する、ヘッドスライダ。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録装置用の潤滑剤に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録装置においては、記録変換素子(本発明では単にヘッドともいう)を備えたヘッドスライダが、磁気記録媒体であるハードディスク上を浮上しながら情報の読み書きを行う。
【0003】
ヘッドと、ハードディスク上で磁気情報を記録(書き込み)または再生(読み取り)するための磁性層との距離は磁気スペーシングと呼ばれ、磁気スペーシングが狭いほど記録密度が向上する。一方、情報の転送速度を上げるためにはハードディスクの回転数を高くする必要がある。近年の記録密度と転送速度の向上に伴い、低浮上化、高速回転化が進み、現在、ヘッド浮上高さは10nm程度、回転数は15000回転/分(rpm)程度となっている。
【0004】
ハードディスクドライブにおいては、ドライブの信頼性を高めるため、一般に磁気ディスク上やヘッドスライダ上に潤滑剤がおおよそ1〜2nmの厚さで塗布されている。この潤滑剤はヘッドがディスクに接触する際に摩擦や摩耗を減らし、障害の発生を防止している。
【0005】
潤滑剤の膜厚はヘッド浮上高さの10%程度となっていることから、磁気スペーシングに対して、無視できない厚さになっており(たとえば、非特許文献1参照。)、記録密度を向上させるには潤滑剤の膜厚を薄くし、磁気スペーシングを低減することが重要となってきている。
【特許文献1】特開平2003−162810号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特願2006−051443号
【非特許文献1】X.Ma等,「アイトリプルイー・トランザクション・オン・マグネティクス(IEEE Trans. Magn.),2001年,第37巻,p.1824
【非特許文献2】X.Ma等,「ジャーナル・オブ・ケミカル・フィジックス(Journal of Chemcal Physics),1999年,第110巻,p.3129〜3137
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、潤滑剤の分子の大きさが有限である以上、一分子分の膜厚より潤滑膜厚を薄くすることはできない。平均値として薄くすることはできても、それでは潤滑剤の被覆率を下げることになる。
【0007】
潤滑剤の一分子分の膜厚は潤滑剤の分子量で決まることが知られており(たとえば、非特許文献2参照。)、分子量を小さくすることで、一分子分の膜厚を薄くすることは可能である。
【0008】
しかしながら、潤滑剤は分子量を小さくすると蒸発しやすくなり、また、高速回転時に飛散し易くなるという特性がある。従って、現状では、高速回転時の潤滑剤減耗等のHDI(ヘッドディスクインターフェース)特性との兼ね合いで低分子化にも限界がある。従って、この限界値を超えるには、高分子化しても一分子分の膜厚が十分薄くなる潤滑剤が必要である。
【0009】
特許文献1では、潤滑層が両末端部と少なくとも一つの中間部に極性を持つ官能基を有するパーフルオロポリエーテル系液体潤滑剤より形成することで、滑膜表面の粗さを減らしながら、高速回転化による回転飛散を防止することで、磁気ヘッドの低浮上化により生ずるヘッドの振動を抑制し、長期にわたる潤滑特性の安定化を実現する磁気記録媒体を提供している。
【0010】
しかしながら、この文献では、具体的な分子構造が明記されておらず、将来の磁気記録装置において、高記録密度化および高速化への信頼性を維持するためには、上記従来技術による潤滑膜の改良だけでは不十分である。さらに分子中間部の極性基の寄与は、末端部の極性基の寄与よりも小さい。
【0011】
本発明は、上記問題点を解決し、高分子量の潤滑剤を使用しても潤滑層の膜厚を非常に小さくでき、浮上安定性を損なうことなく、幅広い温度環境での信頼性を高めることのできる技術を開発することを目的としている。本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、式(1)で表される主鎖構造を有する含フッ素ポリマーを含んでなる潤滑剤が提供される。
【0013】
−CF2O−[(CF2CH2OCH2CHXCH2OCH2k(C24O)m(CF2O)n]−CF2−・・・(1)
(ここで、k、m、nはゼロ以上の実数でかつ、kとmとnは同時にはゼロにならない。各構造単位は式(1)中互いにランダムな配列を取ってもブロック化した配列を取ってもよい。Xは、式(2)で表される分岐鎖である。
【0014】
−OCH2CF2O(CF2CH2OCH2CHXCH2OCH2p(C24O)q(CF2O)rCF2−CH2OH・・・(2)
なお、r,p、qはゼロ以上の実数でかつ、rとpとqは同時にはゼロにならない。また、式(2)の左端が式(1)の主鎖構造の炭素に結合し、他の一方はこの分岐鎖の末端基となる。式(2)中のXは、更に、上記と同様の条件下、式(2)の構造を取ってもよく、あるいは、途中にエーテル構造を有していてもよく、水素がフッ素で置換されていてもよいアルキル基または水素でもよい。その後のXについても上記と同様の条件下、式(2)の構造を取ってもよく、あるいは、途中にエーテル構造を有していてもよく、水素がフッ素で置換されていてもよいアルキル基または水素でもよい。各構造単位は式(2)中互いにランダムな配列を取ってもブロック化した配列を取ってもよい。)
前記含フッ素ポリマー分子の末端基のうちの少なくとも3個が極性基からなること、前記極性基が、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基およびフォスファゼン環からなる群から選ばれたものであること、および、前記含フッ素ポリマーの数平均分子量が2000以上12000以下であること、が好ましい。
【0015】
本発明の他の一態様によれば、式(3)の構造を有する化合物と式(4)の構造を有する化合物とを反応させてなる含フッ素ポリマーを含有する潤滑剤が提供される。
【0016】
HO−CH2RfCH2−OTs・・・(3)
HOCH2RfCH(OH)RfCH2OH・・・(4)
{式(3),(4)中、Rfは、それぞれ独立に、含フッ素ポリエーテル結合を表す。}
上記発明態様により、分子量が増大しても一分子分の膜厚が十分薄くなる潤滑剤が得られる。
【0017】
この潤滑剤を、磁性層と、当該磁性層上にある保護層と、当該保護層上にある磁気記録媒体潤滑層とを含む磁気記録媒体の磁気記録媒体潤滑層や、磁気記録媒体に対し、記録および/または再生を行うための記録変換素子を備えたヘッドスライダであって、当該磁気記録媒体に面する側のヘッドスライダ面に、保護層とヘッドスライダ潤滑層を有するヘッドスライダのヘッドスライダ潤滑層に使用すれば、これらの潤滑層の膜厚を非常に小さくでき、浮上安定性を損なうことなく、幅広い温度環境での信頼性を高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、分子量が増大しても一分子分の膜厚が十分薄くなる潤滑剤が得られる。この潤滑剤を、磁気記録装置の磁気記録媒体潤滑層やヘッドスライダ潤滑層に使用すれば、これらの潤滑層の膜厚を非常に小さくでき、浮上安定性を損なうことなく、幅広い温度環境での信頼性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態を図、式、実施例等を使用して説明する。なお、これらの図、式、実施例等および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0020】
上記課題は、潤滑層を形成する潤滑剤として、特定の構造を有する分岐鎖を有する含フッ素ポリマーを含んだものを使用することで達成される。
【0021】
すなわち、本発明に係る潤滑剤は、式(1)で表される主鎖構造を有する含フッ素ポリマーを含んでなる。
【0022】
−CF2O−[(CF2CH2OCH2CHXCH2OCH2k(C24O)m(CF2O)n]−CF2−・・・(1)
ここで、k、m、nはゼロ以上の実数でかつ、kとmとnは同時にはゼロにならない。(CF2CH2OCH2CHXCH2OCH2)、(C24O)、(CF2O)の各構造単位は式(1)中互いにランダムな配列を取ってもブロック化した配列を取ってもよい。Xは、式(2)で表される分岐鎖である。なお、(1)の末端にはCH2OH等の末端基が付き得る。
【0023】
−OCH2CF2O(CF2CH2OCH2CHXCH2OCH2)p(C24O)q(CF2O)rCF2−CH2OH・・・(2)
r,p、qはゼロ1以上の実数でかつ、rとpとqは同時にはゼロにならない。また、式(2)の左端が式(1)の主鎖構造の炭素に結合し、他の一方はこの分岐鎖の末端基となる。式(2)中のXは、更に、上記と同様の条件下、式(2)の構造を取ってもよく、あるいは、途中にエーテル構造を有していてもよく、水素がフッ素で置換されていてもよいアルキル基または水素でもよい。その後のXについても上記と同様の条件下、式(2)の構造を取ってもよく、途中にエーテル構造を有していてもよく、水素がフッ素で置換されていてもよいアルキル基または水素でもよい。(CF2CH2OCH2CHXCH2OCH2)、(C24O)、(CF2O)の各構造単位は式(2)中互いにランダムな配列を取ってもブロック化した配列を取ってもよい。なお、以下を含め、本発明において、下付添字で表される記号が「実数」を表す場合、この「実数」は、その構造を有する部分または化合物の平均値であることを意味する。
【0024】
式(1)で表される構造を有する含フッ素ポリマーは1種類からなっていても複数の種類からなっていてもよい。たとえは、式(1)において、k=0,m=0,n=1の場合には、(CF2CH2OCH2CHXCH2OCH2)成分と(C24O)成分を全く含まない構造になり、k=0,m=1,n=0の場合には、(CF2CH2OCH2CHXCH2OCH2)成分と(CF2O)成分を全く含まない構造になり、k=1,m=0,n=0の場合には、(C24O)成分と(CF2O)成分を全く含まない構造になるが、本発明に係る含フッ素ポリマーは、それらのいずれかの構造を有する含フッ素ポリマーから構成されていても、それらが混合状態であっても、kとmとnが同時にはゼロにならないという条件を充足することになる。p,q,rについても同様である。
【0025】
式(2)中のXは、更に、上記と同様の条件下、式(2)の構造を取ってもよく、あるいは、途中にエーテル構造を有していてもよく、水素がフッ素で置換されていてもよいアルキル基または水素でもよい。その後のXについても上記と同様の条件下、式(2)の構造を取ってもよく、あるいは、途中にエーテル構造を有していてもよく、水素がフッ素で置換されていてもよいアルキル基または水素でもよいが、このような構造を有することで、本ポリマーはkの数と式(1)の構造の繰り返し数に応じて3個以上の末端基を有することになる。典型的には星形構造のポリマーとなる。
【0026】
本発明により、高分子化しても一分子分の膜厚を十分薄くできる潤滑剤が得られる。このような構造の含フッ素ポリマーを含有する潤滑剤では、恐らく、分子の両末端基と共に、分子の中間にある分岐鎖末端基が、潤滑剤を塗布される面(以下、被塗布面と略称する)に付着するため、分子が被塗布面から高く立ち上がることがなく、この効果によって、高分子量の潤滑剤を使用しても、潤滑層の膜厚を非常に小さくできるものと考えられる。
【0027】
なお、本発明に係る含フッ素ポリマーを使用した場合、高分子化しても一分子分の膜厚が十分薄くなる潤滑剤が得られる効果が大きいのは、上記式(2)で表される分岐鎖のために、分子中間部の末端基も分子鎖の末端基と同様に、被塗布面に強固に付着するためではないかと思われる。
【0028】
本発明に係る含フッ素ポリマーの末端基は、分岐鎖の末端基も含め、特に制限はないが、後述する極性基を含んでいることが好ましい。極性基の誘導体であっても好ましい場合もある。含フッ素ポリマー分子の末端基のうちの少なくとも3個が極性基からなるものであることがより好ましい。この3個は含フッ素ポリマーとしての平均値でよい。
【0029】
このような極性基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基およびフォスファゼン環からなる群から選ばれたものを好ましく挙げることができる。ヒドロキシ基が特に好ましい。
【0030】
また、これらの末端基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基およびフォスファゼン環からなる群から選ばれた基を置換基として一個以上含み、カルボニル基またはエーテル基またはカルボニル基とエーテル基とを含んでいてもよく、二重結合または三重結合または二重結合と三重結合とを含んでいてもよく、枝分かれしていてもよい一価の脂肪族炭化水素基、ならびに、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基およびフォスファゼン環からなる群から選ばれた基を置換基として一個以上含む一価の芳香族炭化水素基および一価の複素環式芳香族炭化水素基からなる群から選ばれた基であってもよい。
【0031】
含フッ素ポリマーの分子量としては、数平均分子量で2000以上12000以下が好ましい。2000未満では、高温での耐久性や膜厚の減少率で示されるようなマイグレーション特性が劣化する。また、高速回転時に飛散し易くなる傾向が現れる。12000を超えると粘度が高すぎ、上記に説明した磁気記録媒体やヘッドの低温での耐久性が悪化する傾向が現れる。
【0032】
また、分岐鎖の末端基の数は、一分子中に平均して3.0個以上が好ましく、3.0〜5.0個有することがよりさらに好ましい。3.0個未満では、一分子分の膜厚が厚くなりやすい。典型的な場合には一分子分の膜厚が2nmを超える場合がある。10.0個を超えても特段の改良効果は得られない。これらの分岐鎖の末端基は全て極性基であることが好ましく、全てヒドロキシ基であることが更に好ましい。
【0033】
本発明に係る分岐鎖には、主鎖から直接分岐するものの他に、主鎖から分岐した分岐鎖から分岐するものもある。これら分岐鎖の総体については、その数平均分子量が500以上であることが好ましい。潤滑剤としての用途に差し支えが生じない限り上限には特に制限はない。
【0034】
本発明に係る含フッ素ポリマーは、たとえば、式(3)の構造を有する化合物と式(4)の構造を有する化合物とを反応させて、好ましく作製することができる。
【0035】
HO−CH2RfCH2−OTs・・・(3)
HOCH2RfCH(OH)RfCH2OH・・・(4)
式(3)、(4)中、および本明細書を通して、Rfは、それぞれ独立に、含フッ素ポリエーテル結合を表す。すなわち、途中にエーテル構造を有していてもよく、水素の一部または全部がフッ素で置換されているアルキレン基を表す。より具体的には、CF2CH2OCH2、CH2OCH2、C24O、CF2O等の組合せを例示することができる。
【0036】
式(3)の構造を有する化合物と式(4)の構造を有する化合物とを反応させる方法については特に制限はなく、公知の方法から適宜選択することができる。
【0037】
上記態様により、高分子化しても一分子分の膜厚が十分薄くなる潤滑剤が得られる。この潤滑剤を使用すれば、高分子量であっても潤滑層の膜厚を非常に小さくでき、浮上安定性を損なうことなく、幅広い温度環境での信頼性を高めることができる。上記態様は、組み合わせることもできる。
【0038】
本発明に係る潤滑剤は、上記いずれかの含フッ素ポリマーのみから構成されていてもよいが、その他の化合物を含んでいてもよい。その他の化合物としては、上記含フッ素ポリマー以外の含フッ素化合物であることが好ましい。これらの含フッ素化合物は、分子量や、フッ素含有量等について、潤滑剤として必要とされる特性を有しているものであることが好ましい。このような含フッ素化合物としては、式9、式10および式11からなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物であることが好ましい。これらは市販品として入手可能である。
【0039】
1CF2O−(CF2CF2O)p'−(CF2O)q'−CF2−R2・・(9)
1−O−(CF2CF2CF2O)r'−CF2CF2−R2・・(10)
【0040】
【化1】


式9〜11中、R1,R2は、互いに独立に、かつ各式について独立に、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基およびフォスファゼン環、ならびに、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基およびフォスファゼン環からなる群から選ばれた基を置換基として一個以上含み、カルボニル基またはエーテル基またはカルボニル基とエーテル基とを含んでいてもよく、二重結合または三重結合または二重結合と三重結合とを含んでいてもよく、枝分かれしていてもよい一価の脂肪族炭化水素基、ならびに、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基およびフォスファゼン環からなる群から選ばれた基を置換基として一個以上含む一価の芳香族炭化水素基および一価の複素環式芳香族炭化水素基からなる群から選ばれた基であり、p’,q’,r’,s’は正の実数である。式9、式10および式11の各構造単位は、各化合物の構造中、互いにランダムな配列をとってもブロック化した配列をとってもよい。
【0041】
本発明に係る潤滑剤は、磁気記録装置用の磁気記録媒体またはヘッドスライダに設けられる潤滑層に好適に使用できる。すなわち、磁性層と、この磁性層上にある保護層と、この保護層上にある磁気記録媒体潤滑層とを含む磁気記録媒体であって、磁気記録媒体潤滑層が上記の潤滑剤を塗布したものである磁気記録媒体や、磁気記録媒体に対し、記録および/または再生を行うためのヘッドを備えたヘッドスライダであって、磁気記録媒体に面する側のヘッドスライダ面に、保護層と上記の潤滑剤を塗布したヘッドスライダ潤滑層を有する、ヘッドスライダは、潤滑層の膜厚を非常に小さくでき、狭いヘッド浮上高さに対応することが可能である。
【0042】
この場合、磁気記録媒体潤滑層についてもヘッドスライダ潤滑層についても、被塗布面に塗布された潤滑剤の表面均一性および被塗布面との付着性を向上させるために、潤滑剤の塗布後に加熱処理することが好ましい。加熱処理としては、環境温度が70〜150℃の範囲で0.5〜2時間の範囲が好ましい。潤滑剤の塗布後に紫外線照射処理することも好ましい。加熱処理と紫外線照射処理とはそのいずれかのみを行っても、両方を行ってもよいが、両者を採用し、加熱処理の後に紫外線照射処理を行うことが、被塗布面との付着性を向上させる上で好ましい。
【0043】
なお、本発明に係る潤滑剤を塗布する磁気記録媒体およびヘッドスライダの塗布面を形成する材料としては、特に制限はなく公知の材料の中から適宜選択することができるが、極性基に対しある程度の親和性を有するものであることが一般的に好ましい。
【0044】
上記の諸態様により、膜厚が非常に小さい潤滑層を持ち、浮上安定性を損なうことなく、幅広い温度環境での信頼性を高めた、磁気記録媒体、ヘッドスライダおよび磁気記録装置が得られる。
【0045】
本発明に係る磁気記録装置をハードディスク装置について説明すると次のようになる。ただし、本発明に係る「磁気記録装置」には、本発明の趣旨に反しない限り、磁気記録媒体やヘッドスライダを使用するすべての磁気記録装置を含めることができる。
【0046】
図4はハードディスク装置の内部構造を示す模式的平面図であり、図5は、ヘッドと、磁気記録媒体との関係を示す模式的横断面図(磁気記録媒体磁性層に垂直な方向で切断した図)である。
【0047】
このハードディスク装置は、図4に示すように磁気記録媒体11とヘッドを備えたヘッドスライダ212、磁気記録媒体11の回転制御機構(たとえばスピンドルモータ)3、ヘッドの位置決め機構4および記録再生信号の処理回路(リードライトアンプ等)5を主要構成要素としている。
【0048】
ヘッドスライダ212は、図5に示すように、サスペンジョン6およびヘッドスライダ212を柔軟に支持するためのジンバル7により、ヘッドの位置決め機構4と連結されており、その先端にヘッド8が設けられている。ヘッドスライダ面にはヘッドスライダ保護層9とヘッドスライダ潤滑層10が設けられている。
【0049】
磁気記録媒体11は、図5の下方から基板12、Cr下地層13,磁性層14,磁気記録媒体保護層15,磁気記録媒体潤滑層16等がある。シード層等のその他の層が設けられる場合もあるが本図では省略してある。
【実施例】
【0050】
次に本発明の実施例および比較例について詳述する。
【0051】
[実施例1]
(潤滑剤の合成)
FOMBLIN Z DOL 1000(ソルベイソレクシス社製、数平均分子量1000の20g(0.020mol)に、無水アセトニトリル(関東化学社製、200mL)を加え、p−トルエンスルホニルクロライド(東京化成社製、数平均分子量190.65)の4.4g(0.024mol)を加え、30℃で撹拌した。
【0052】
ついで、4.0g(0.024mol)のトリエチルアミン(東京化成社製、数平均分子量101.19)のアセトニトリル溶液を滴下して加えた。
【0053】
その後、室温で12時間撹拌した。反応溶液に水(200mL)を注ぎ込み、反応を停止させた後、減圧濃縮し、さらに乾燥{1mmHg(換算値は133Pa),1時間}した。この結果、無色透明の液体(10g)を得た。
【0054】
下記の反応が生じ、FOMBLIN Z DOL 1000の一方の末端がp−トルエンスルホニルクロライド等により化学修飾されたものと考えられる。
【0055】
HO−CH2RfCH2OH+Ts−Cl→HO−CH2RfCH2−OTs
上式中および本明細書のその他の箇所において、HO−CH2RfCH2OHはFOMBLIN Z DOL 1000を意味し、Rfは含フッ素ポリエーテル構造を意味する。またTs−Clはp−トルエンスルホニルクロライドを意味し、Tsはp−トルエンスルホニル基を意味する。
【0056】
さらに、二酸化炭素の超臨界流体を用いて、温度と圧力とを変化させながら、上記液体を溶解、抽出した。
【0057】
他方、特許文献2に従い、FOMBLIN ZDOL(ソルベイソレクシス社製)とエピクロロヒドリン(アルドリッチ)を連結させることにより、下記の構造の物質を合成した。
【0058】
HOCH2RfCH(OH)RfCH2OH
次いで、上記溶解、抽出留分の内、数平均分子量が1000程度のものと、上記HOCH2RfCH(OH)RfCH2OH(数平均分子量2000,20g,0.01mol)とを無水アセトン(関東化学社製、500mL)に溶解させ、室温で撹拌した。
【0059】
これに、0.4g(0.01mol)の水酸化ナトリウム(和光純薬社製、式量40)のアセトン溶液を滴下(30分)して加えた。その後、室温で12時間撹拌した。1規定のトリフルオロ酢酸(関東化学社製、200mL)を加え、反応を停止させた。水(各300mL)で三回洗浄し、減圧濃縮後、乾燥した。この結果、無色透明の液体(5.0g)を得た。
【0060】
上記反応により以下の過程を経て、化合物HOCH2RfCH(O−CH2RfCH2OH)RfCH2OHが得られたと考えられる。
【0061】
HO−CH2RfCH2−OTs+HOCH2RfCH(OH)RfCH2OH→HOCH2RfCH(O−CH2RfCH2OH)RfCH2OH
なお、このHO−CH2RfCH2−OTsに代えて、HO−CH2Rf−CH(O−CH2RfCH2−OH)−CH2RfCH2−OTsを使用すれば更に分岐の進んだ構造を得ることができる。
【0062】
[実施例2]
以下の分子構造に関し、分子動力学シミュレーションを行った。
【0063】
HOCH2CF2O−(C24O)n'−CF2CH2OH (n’=24)
HOCH2CF2O(C24O)mCF2CH2OCH2CH{OCH2CF2O(C24O)m'CF2CH2OH}CH2OCH2CF2O(C24O)m'CF2CH2OH (m’=7)
図1は、本発明の効果を、原子同士がそれぞれがバネで繋がっているモデルを作り、分子動力学シミュレーションにより検討した解析モデルである。具体的には富士通社のソフトウエアMaterials Explorerを使用し、図2のように、炭素表面に吸着サイトとして、電価:±2e(正負の電荷)を隣接して配置が均等に配置されている壁面を考え、そこに分子量が約3000g/molの潤滑剤分子が付着しているモデルを用いた。図2では9箇所の電荷が示されている。
【0064】
付着形態の解析は、44.6Å(1Å=0.1nm)の高さから壁面に向け垂直に上記分子を一つ射出し、300psの時間計算し壁面の吸着サイトにトラップさせた。そして一定温度で300ps計算し300psの間の原子存在強度を計算、比較した。
【0065】
両末端に−OHをそれぞれ一つずつ持つ高分子をタイプ1、分岐構造のある三つ股構造で末端に水酸基を三つ持つ高分子をタイプ2として解析を行った。この時の付着形態は、z方向に空間をスライスし、各空間に含まれる原子数をカウントし、スライスした間隔(Å)で除算し、[原子数/Å]の単位で換算した。この計算を時間ステップごとに行い、平均をとると図3のような結果になった。図3より、分子量がほぼ同じでも、タイプ2の−OH基を多く持つ高分子の方が、最大高さ、平均粗さとも小さいことが理解される。これは、各原子の末端にあるOH基が、壁面の吸着サイトにクーロン引力によりトラップされているためと考えられる。10Å以上で本発明分子の存在強度が顕著に小さくなり、スライダの衝突・接近等、何らかの理由で分子にエネルギーが加わった場合における膜厚低減効果が期待できる。
【0066】
[実施例3]
(一分子分の膜厚の測定)
一分子分の膜厚は非特許文献2にも示されているように、エリプソメータにおける潤滑剤膜厚の断面プロファイルの経時変化の観察で、潤滑剤が流動していく際に出現するテラス構造から知ることができる。分子動力学計算の予想と一致した結果であった。
【0067】
実施例1で得られた含フッ素ポリマーからなる潤滑剤(数平均分子量3000)を浸漬法によりハードディスクの保護層の一部に塗布し、潤滑剤膜厚の断面プロファイルの経時変化を観察した結果、テラス構造が出現し、テラスの膜厚が1.80nm(すなわち、一分子分の膜厚)と求められた。
【0068】
同様にして求めたFOMBLIN Z DOL(数平均分子量2022)の場合は1.66nmであった。すなわち、実施例1に係る含フッ素ポリマーは、その数平均分子量がFOMBLIN Z DOLの1.5倍以上になっているにもかかわらず、一分子分の膜厚はおおよそ同程度であることが判明した。これは、本発明に係る含フッ素ポリマーの末端基が基板方向を向いて吸着しているからであると考察される。このことから、磁気ヘッドの浮上性の優位さを向上させ、かつ潤滑膜の蒸発や回転飛散を減少させ得ることが期待できる。
【0069】
なお、上記に開示した内容から、下記の付記に示した発明が導き出せる。
【0070】
(付記1)
式(1)で表される主鎖構造を有する含フッ素ポリマーを含んでなる潤滑剤。
【0071】
−CF2O−[(CF2CH2OCH2CHXCH2OCH2k(C24O)m(CF2O)n]−CF2−・・・(1)
(ここで、k、m、nはゼロ以上の実数でかつ、kとmとnは同時にはゼロにならない。各構造単位は式(1)中互いにランダムな配列を取ってもブロック化した配列を取ってもよい。Xは、式(2)で表される分岐鎖である。
【0072】
−OCH2CF2O(CF2CH2OCH2CHXCH2OCH2p(C24O)q(CF2O)rCF2−CH2OH・・・(2)
なお、r,p、qはゼロ以上の実数でかつ、rとpとqは同時にはゼロにならない。また、式(2)の左端が式(1)の主鎖構造の炭素に結合し、他の一方はこの分岐鎖の末端基となる。式(2)中のXは、更に、上記と同様の条件下、式(2)の構造を取ってもよく、あるいは、途中にエーテル構造を有していてもよく、水素がフッ素で置換されていてもよいアルキル基または水素でもよい。その後のXについても上記と同様の条件下、式(2)の構造を取ってもよく、あるいは、途中にエーテル構造を有していてもよく、水素がフッ素で置換されていてもよいアルキル基または水素でもよい。各構造単位は式(2)中互いにランダムな配列を取ってもブロック化した配列を取ってもよい。)
(付記2)
前記含フッ素ポリマー分子の末端基のうちの少なくとも3個が極性基からなる、付記1に記載の潤滑剤。
【0073】
(付記3)
前記極性基が、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基およびフォスファゼン環からなる群から選ばれたものである、付記1または2に記載の潤滑剤。
【0074】
(付記4)
前記含フッ素ポリマーの平均分子量が2000以上12000以下である、付記1〜3のいずれかに記載の潤滑剤。
【0075】
(付記5)
式(3)の構造を有する化合物と式(4)の構造を有する化合物とを反応させてなる含フッ素ポリマーを含有する潤滑剤。
【0076】
HO−CH2RfCH2−OTs・・・(3)
HOCH2RfCH(OH)RfCH2OH・・・(4)
{式(3),(4)中、Rfは、それぞれ独立に、含フッ素ポリエーテル結合を表す。}
(付記6)
磁性層と、当該磁性層上にある保護層と、当該保護層上にある磁気記録媒体潤滑層とを含む磁気記録媒体であって、当該磁気記録媒体潤滑層が付記1〜5のいずれかに記載の潤滑剤を塗布したものである、磁気記録媒体。
【0077】
(付記7)
磁気記録媒体に対し、記録および/または再生を行うための記録変換素子を備えたヘッドスライダであって、当該磁気記録媒体に面する側のヘッドスライダ面に、保護層と付記1〜5のいずれかに記載の潤滑剤を塗布したヘッドスライダ潤滑層を有する、ヘッドスライダ。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】含フッ素ポリマーの分子が被塗布面に付着する様子を示す想像図である。
【図2】含フッ素ポリマーの分子が被塗布面に付着する様子を示す想像図である。
【図3】高分子のタイプの相違を示すグラフである。
【図4】ハードディスク装置の内部構造を示す模式的平面図である。
【図5】ヘッドと、磁気記録媒体との関係を示す模式的横断面図である。
【符号の説明】
【0079】
1 含フッ素ポリマーの分子
2 被塗布面
3 回転制御機構
4 ヘッドの位置決め機構
5 記録再生信号の処理回路
6 サスペンジョン
7 ジンバル
8 ヘッド
9 ヘッドスライダ保護層
10 ヘッドスライダ潤滑層
11 磁気記録媒体
12 基板
13 Cr下地層
14 磁性層
15 磁気記録媒体保護層
16 磁気記録媒体潤滑層
212 ヘッドスライダ
【出願人】 【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
【出願日】 平成18年12月26日(2006.12.26)
【代理人】 【識別番号】100094525
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 健二

【識別番号】100094514
【弁理士】
【氏名又は名称】林 恒徳


【公開番号】 特開2008−156554(P2008−156554A)
【公開日】 平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願番号】 特願2006−349403(P2006−349403)