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【発明の名称】 グリース組成物及び転動装置
【発明者】 【氏名】傳寳 功哲

【氏名】横内 敦

【要約】 【課題】高温下においても優れた導電性,低トルク性,及び耐久性を付与することが可能であるとともに離油が生じにくく安価なグリース組成物を提供する。また、高温下においても優れた導電性,低トルク性,及び耐久性を有するとともにグリースや基油の漏洩が生じにくく安価な転動装置を提供する。

【構成】内輪1及び外輪2の間に形成され転動体3が配された空隙部内にグリース組成物Gを封入し、深溝玉軸受の潤滑を行った。このグリース組成物Gは、基油がパーフルオロポリエーテル油と合成炭化水素油,エーテル油,エステル油のうちの少なくとも1種とを混合した混合油であり、増ちょう剤がフッ素樹脂,ベントナイト,シリカ,マイカ,及びウレア化合物のうちの少なくとも1種であるとともに、平均粒径の異なる2種以上の導電性カーボンを合計で1.5質量%以上20質量%以下含有している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と増ちょう剤とを含有するグリース組成物において、前記基油をパーフルオロポリエーテル油と合成炭化水素油,エーテル油,エステル油のうちの少なくとも1種とを混合した混合油とし、前記増ちょう剤をフッ素樹脂,ベントナイト,シリカ,マイカ,及びウレア化合物のうちの少なくとも1種とするとともに、平均粒径の異なる2種以上の導電性カーボンを合計で1.5質量%以上20質量%以下添加したことを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、前記軌道面と前記転動体との間の潤滑を行う潤滑剤と、を備える転動装置において、前記潤滑剤を請求項1に記載のグリース組成物としたことを特徴とする転動装置。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を有するグリース組成物に関する。また、本発明は、転がり軸受,ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等のような転動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般の事務機器や情報機器、例えば複写機においては、その可動部分には多数の転がり軸受が使用されている。このような転がり軸受の内外輪の軌道面と転動体との間には回転中は油膜が形成されていて、軌道面と転動体とは非接触となっている。このような転がり軸受においては回転に伴って静電気が発生するため、その放射ノイズが複写機の複写画像に歪み等の悪影響を及ぼす等の不都合が生じる場合がある。
【0003】
このような不都合が生じることを防止するため、導電性グリースを転がり軸受内部に封入することにより、内外の軌道輪及び転動体を導電状態にするとともに、内外の軌道輪のうち一方を接地することにより、静電気を該転がり軸受から除去するという対策が取られている。そして、導電性グリースとしては、カーボンブラックを増ちょう剤及び導電性付与添加剤として添加したものが主流であった(例えば、特許文献1に記載のもの)。
【0004】
また、複写機,プリンタ等の事務機器のヒートローラ支持部や定着部などは、約200℃の高温となる場合がある。通常、導電性グリースの基油としては、鉱油,合成炭化水素油,エーテル油,エステル油などが使用されるが、これらの基油の使用限界温度はせいぜい160℃である。このような通常の潤滑油を基油として用いたグリースでは耐熱性が十分ではないため、長期にわたって十分な導電性や潤滑性を確保することは困難である。そのため、上記のような高温となる部分に用いられる転がり軸受においては、フッ素油を基油としフッ素樹脂を増ちょう剤とするフッ素グリースが用いられることが多い。そして、導電性を付与するため、フッ素グリースにカーボンブラックが添加される。
【0005】
【特許文献1】特公昭63−24038号公報
【特許文献2】特開2002−327759号公報
【特許文献3】特開2002−53890号公報
【特許文献4】特開2001−304276号公報
【特許文献5】特開2002−250353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、フッ素グリースは高価であるため、転がり軸受のコストダウンの妨げとなるという問題点を有していた。また、フッ素グリースは、増ちょう剤であるフッ素樹脂分が比較的多く、基油分が比較的少ないため、潤滑性が高くなく発熱や焼付きが生じやすい傾向があった。
さらに、フッ素グリースは離油しやすいという問題点も有している。特に、複写機,プリンタ等の事務機器のヒートローラ支持部や定着部などは、約200℃の高温となる場合があるので、作動時と停止時の温度差が大きい。よって、この温度差によってグリースの基油に大きな粘度変化が生じるため、離油が生じやすい。さらに、カーボンブラックが配合されたグリースは、高温下で剪断を受けると離油が生じやすい傾向がある。前述のような事務機器や情報機器には、グリースや油分により劣化が促進されやすい樹脂部品が多用されているため、転がり軸受からのグリース漏れや油分の分離は極力少なくする必要がある。
【0007】
さらに、複写機,プリンタ等の事務機器のヒートローラ支持部や定着部に使用される転がり軸受は、始動時のスムーズな回転のために低トルクであることが要求されるが、フッ素グリースを用いた転がり軸受は、トルクが比較的大きい傾向がある。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、高温下においても優れた導電性,低トルク性,及び耐久性を付与することが可能であるとともに離油が生じにくく安価なグリース組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、高温下においても優れた導電性,低トルク性,及び耐久性を有するとともにグリースや基油の漏洩が生じにくく安価な転動装置を提供することを併せて課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1のグリース組成物は、基油と増ちょう剤とを含有するグリース組成物において、前記基油をパーフルオロポリエーテル油と合成炭化水素油,エーテル油,エステル油のうちの少なくとも1種とを混合した混合油とし、前記増ちょう剤をフッ素樹脂,ベントナイト,シリカ,マイカ,及びウレア化合物のうちの少なくとも1種とするとともに、平均粒径の異なる2種以上の導電性カーボンを合計で1.5質量%以上20質量%以下添加したことを特徴とする。
【0009】
このようなグリース組成物は、基油をフッ素油と前述のような合成油との混合油としたので、一般的なフッ素グリースと同様に優れた高温性能を有する上、一般的なフッ素グリースと比べて安価である。また、このようなグリース組成物を転動装置に使用した場合には、高温下においても転動装置に優れた低トルク性及び耐久性を付与することが可能である。さらに、導電性カーボンを含有しているので、優れた導電性を有している。さらに、平均粒径の異なる2種以上の導電性カーボンを有しているので、高温下においても離油が生じにくい。
グリース組成物中の導電性カーボンの含有量が1.5質量%未満であると、導電性が不十分となるおそれがある。一方、20質量%超過であると、グリース組成物が硬くなるとともに基油の量が相対的に少なくなり、潤滑性が不十分となるおそれがある。
【0010】
さらに、本発明に係る請求項2の転動装置は、外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、前記軌道面と前記転動体との間の潤滑を行う潤滑剤と、を備える転動装置において、前記潤滑剤を請求項1に記載のグリース組成物としたことを特徴とする。
このような転動装置は、前述のようなグリース組成物を備えているので、高温下においても優れた導電性,低トルク性,及び耐久性を有している。また、グリースや基油の漏洩が生じにくく安価である。
なお、本発明は種々の転動装置に適用することができる。例えば、転がり軸受,ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等である。
【0011】
また、本発明における内方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には内輪、同じくボールねじの場合にはねじ軸、同じくリニアガイド装置の場合には案内レール、同じく直動ベアリングの場合には軸をそれぞれ意味する。また、外方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には外輪、同じくボールねじの場合にはナット、同じくリニアガイド装置の場合にはスライダ、同じく直動ベアリングの場合には外筒をそれぞれ意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のグリース組成物は、高温下においても優れた導電性,低トルク性,及び耐久性を付与することが可能であるとともに離油が生じにくく安価である。また、本発明の転動装置は、高温下においても優れた導電性,低トルク性,及び耐久性を有するとともにグリースや基油の漏洩が生じにくく安価である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係るグリース組成物及び転動装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係る転動装置の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す縦断面図である。この深溝玉軸受は、外周面に軌道面1aを有する内輪1と、軌道面1aに対向する軌道面2aを内周面に有する外輪2と、両軌道面1a,2a間に転動自在に配された複数の転動体(玉)3と、内輪1及び外輪2の間に複数の転動体3を保持する保持器4と、内輪1及び外輪2の間の隙間の開口を覆うシールのような密封装置5,5と、を備えている。なお、保持器4や密封装置5は備えていなくてもよい。
【0014】
内輪1及び外輪2の間に形成され転動体3が内設された空隙部内には、軌道面1a,2aと転動体3との間の潤滑を行うグリース組成物Gが配されている。このグリース組成物Gの基油は、パーフルオロポリエーテル油と合成炭化水素油,エーテル油,エステル油のうちの少なくとも1種とを混合した混合油であり、増ちょう剤はフッ素樹脂,ベントナイト,シリカ,マイカ,及びウレア化合物のうちの少なくとも1種である。そして、平均粒径の異なる2種以上の導電性カーボンが添加されている。この導電性カーボンの合計の含有量は、グリース組成物G全体の1.5質量%以上20質量%以下である。
【0015】
グリース組成物Gのちょう度は180以上320以下が好ましい。ちょう度が180未満であると、硬すぎるためグリース組成物Gの流動性が悪く潤滑性が不十分となるおそれがある。一方、ちょう度が320超過であると、軸受から漏洩するグリース組成物Gの量が多くなるおそれがある。
また、深溝玉軸受に封入するグリース組成物Gの量は、前記空隙部の容積の15体積%以上35体積%以下が好ましい。グリース組成物Gの量が15体積%未満であると潤滑性が不十分となるおそれがあり、35体積%超過であると軸受からのグリース組成物Gの漏洩が生じやすくなる。
【0016】
以下に、グリース組成物Gを構成する各成分について詳細に説明する。
〔基油について〕
グリース組成物Gの基油に使用されるパーフルオロポリエーテル油の種類は特に限定されるものではなく、一般的なグリース組成物に使用されるものを問題なく使用することができる。
また、合成炭化水素油の種類は特に限定されるものではないが、例えばポリα−オレフィン油があげられる。さらに、エーテル油の種類は特に限定されるものではないが、例えばアルキルジフェニルエーテル油,アルキルトリフェニルエーテル油,アルキルテトラフェニルエーテル油があげられる。さらに、エステル油の種類は特に限定されるものではないが、例えばジエステル油,ポリオールエステル油,これらのコンプレックスエステル油,芳香族エステル油等があげられる。なお、グリース組成物Gの基油には、所望によりパラフィン系鉱油,ナフテン系鉱油等の鉱油を配合してもよい。
パーフルオロポリエーテル油,合成炭化水素油,エーテル油,エステル油の動粘度は特に限定されるものではないが、40℃における動粘度が10mm2 /s以上500mm2 /s以下であることが好ましい。ただし、耐熱性,低トルク性を考えると、40mm2 /s以上450mm2 /s以下であることがより好ましい。
【0017】
〔増ちょう剤について〕
増ちょう剤として使用するフッ素樹脂の種類は特に限定されるものではないが、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)があげられる。また、ベントナイト,シリカ,マイカは、平均粒径が2μm未満の微粒子であることが好ましい。平均粒径が2μm以上であると、転がり軸受等の転動装置の振動や音響性能に悪影響が出るおそれがある。さらに、ウレア化合物の種類は特に限定されるものではないが、例えば芳香族炭化水素基,脂環式炭化水素基,脂肪族炭化水素基を有するジウレア化合物が好ましい。
【0018】
〔導電性カーボンについて〕
導電性カーボンの種類は特に限定されるものではないが、例えばカーボンブラックがあげられる。また、平均粒径の異なる2種以上の導電性カーボンを併用することが好ましい。平均粒径の小さい導電性カーボン(以降は第一導電性カーボンと記す)は、比表面積が比較的大きく吸油性に優れるとともに少量でも高い導電性が期待できる。一方、平均粒径の大きい導電性カーボン(以降は第二導電性カーボンと記す)は、比表面積が比較的小さく吸油性が比較的低いので、多量に配合することが可能である。
【0019】
このような比表面積の異なる2種以上の導電性カーボンを併用することにより、高温下において長期間にわたって転がり軸受等の転動装置に優れた導電性,耐久性を付与することができる。また、グリース組成物や基油の転動装置からの漏洩も生じにくい。すなわち、第一導電性カーボンによりグリース組成物の離油が抑制され、且つ、第二導電性カーボンにより優れた導電性が付与される。そして、両導電性カーボンがともに含有されていることにより、導電性カーボン同士の凝集が抑制され、グリース組成物に適度な流動性が付与される。
【0020】
第一導電性カーボンの平均一次粒径は10nm以上40nm以下であることが好ましく、第二導電性カーボンの平均一次粒径は40nm以上200nm以下であることが好ましい。平均一次粒径が10nm未満であると、導電性カーボン同士が凝集する可能性が高くなり、200nm超過であると、グリース組成物の流動性が阻害されるおそれがある。そして、平均一次粒径が異なる2種の導電性カーボンが含有されていることにより、導電性カーボンの分散性が適度に保たれ、その結果、基油の保持力が十分となる。また、剪断が作用しても、導電性カーボン粒子のチェーンストラクチャーが破壊されにくい。
【0021】
また、第一導電性カーボンの比表面積は、120m2 /g以上1500m2 /g以下であることが好ましく、第二導電性カーボンの比表面積は、20m2 /g以上120m2 /g以下であることが好ましい。両導電性カーボンの比表面積が前記範囲内であれば、前述のような優れた効果が得られる。なお、本発明における比表面積の数値は、窒素吸着法により測定された値である。
さらに、第一導電性カーボンのジブチルフタレート吸収量(以降はDBP吸収量と記す)は80ml/100g以上500ml/100g以下であることが好ましく、第二導電性カーボンのDBP吸収量は30ml/100g以上160ml/100g以下であることが好ましい。
【0022】
第一導電性カーボンのDBP吸収量が80ml/100g未満であると、グリース組成物からの基油の離油が生じやすくなり、500ml/100gを超えると、導電性カーボン同士が凝集する傾向が強くなる。また、第二導電性カーボンのDBP吸収量が30ml/100g未満であると、第二導電性カーボンのグリース組成物中への分散性が不十分となりやすく、160ml/100gを超えると、導電性カーボン同士の凝集を防止する効果が低くなる。
【0023】
第一導電性カーボンと第二導電性カーボンとの質量比は、80:20以上5:95以下であることが好ましい。このような構成であれば、両導電性カーボンの特性のバランスがとれて、グリース組成物の導電性及び流動性が良好となる。また、転がり軸受からの漏洩や基油の離油が生じにくくなる。
第一導電性カーボンと第二導電性カーボンとの合計量における第二導電性カーボンの割合が20質量%未満(すなわち第一導電性カーボンの割合が80質量%超過)であると、導電性カーボンによる増粘効果が大きくなるので全導電性カーボンの含有量を少なくできるが、高温下における離油が大きくなるおそれがある。一方、第一導電性カーボンの割合が5質量%未満(すなわち第二導電性カーボンの割合が95質量%超過)であると、基油の保持力が不十分となるため、全導電性カーボンの含有量を多くする必要がでてくる。また、初期の導電性は良好であるが、長期間にわたって良好な導電性を維持できないおそれがある。
【0024】
〔添加剤について〕
グリース組成物Gには、焼付き,摩耗,酸化を抑制するために、所望によりカーボンナノチューブ,カーボンナノファイバー,カーボンナノホーン,炭素繊維,金属酸化物粒子,金属酸化物ウイスカーのような添加剤を配合してもよい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
配合量は、グリース組成物全体の0.05質量%以上5質量%以下が好適である。0.05質量%未満であると、上記添加剤の添加効果が不十分となるおそれがあり、5質量%超過であると、転動装置の軌道面や転動面に摩耗が生じるおそれがある。なお、上記の添加剤と導電性カーボンとの合計の含有量は、グリース組成物全体の3質量%以上25質量%以下であることが好ましい。
【0025】
〔その他の添加剤について〕
グリース組成物Gには、グリースに一般的に使用される添加剤を添加しても差し支えない。例えば、酸化防止剤,油性剤,摩耗防止剤,極圧剤,防錆剤,金属不活性化剤等があげられる。これらの添加剤は単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
酸化防止剤としては、例えばアミン系酸化防止剤,フェノール系酸化防止剤を使用することができる。アミン系酸化防止剤の具体例としては、フェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン、ジフェニル−p−フェニレンジアミン、ジピリジルアミン、フェノチアジン、N−メチルフェノチアジン、N−エチルフェノチアジン、3,7−ジオクチルフェノチアジン、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミンがあげられる。また、フェノール系酸化防止剤の具体例としては、2,6−ジ−tert−ジブチルフェノール、ジ−tert−ブチルクレゾール等があげられる。
【0026】
また、油性剤としては、例えば、オレイン酸,ステアリン酸等の脂肪酸や、ポリオキシエチレンステアリン酸エステル,ポリグリセリルオレイン酸エステル,コハク酸エステル等の脂肪酸エステルを使用することができる。また、アミン系化合物や、オレイルアルコール等の脂肪族アルコールも使用可能である。さらに、アルケニルコハク酸無水物等のカルボン酸無水物や、リン酸,トリクレジルホスフェート,ラウリル酸エステル,ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸等のリン酸エステル等も使用可能である。
【0027】
さらに、耐荷重性を高める極圧剤,摩耗防止剤の種類は特に限定されるものではないが、例えば、亜鉛,モリブデン,テルル,アンチモン,セレン,鉄,銅等のジチオカルバミン酸塩や、亜鉛,モリブデン,アンチモン等のジチオリン酸塩等があげられる。また、オクチル酸鉄,ナフテン酸銅,ジブチルスズサルファイド,フェネート,ホスフェート等の有機金属化合物も使用可能である。さらに、ベンジルスルフィド,ポリスルフィド,硫化油脂,チオウレア,チオカーボネート等のイオウ系化合物も使用可能である。
【0028】
さらに、所望により、防錆剤や金属不活性化剤を添加してもよい。防錆剤としては、有機スルホン酸アンモニウム塩,有機スルホン酸金属塩(金属はアルカリ金属,アルカリ土類金属(カルシウム,マグネシウム,バリウム等),亜鉛等),カルボン酸塩等があげられる。また、アルキルコハク酸エステル,アルケニルコハク酸エステル等のようなコハク酸誘導体や、フェネート,ホスフェートも、防錆剤として好ましく使用できる。さらに、ソルビタンモノオレエート等の多価アルコールの部分エステル、オレオイルザルコシン等のヒドロキシ脂肪酸類、1−メルカプトステアリン酸等のメルカプト脂肪酸類及びその金属塩、ステアリン酸等の高級脂肪酸類、イソステアリルアルコール等の高級アルコール類、高級脂肪酸と高級アルコールとのエステル、チアジアゾール類(例えば2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−メルカプトチアジアゾール)、イミダゾール類(例えばベンゾイミダゾール)、ジスルフィド化合物(例えば2−デシルジチオベンゾイミダゾール、2,5−ビス(ドデシルジチオ)ベンズイミダゾール)、リン酸エステル類(例えばトリスノニルフェニルフォスファイト)、チオカルボン酸エステル化合物(例えばジラウリルチオプロピオネート)、亜硝酸塩も使用可能である。
【0029】
さらに、金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール,トリルトリアゾール等のトリアゾール化合物があげられる。
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては転動装置の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。さらに、本発明は、転がり軸受に限らず、他の種類の様々な転動装置に対して適用することができる。例えば、ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等である。
【0030】
〔実施例〕
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。表1に示すような組成のパーフルオロポリエーテル油(PFPE)を基油とする原料グリースと、表2に示すような組成の合成油(ポリα−オレフィン油(PAO),アルキルジフェニルエーテル油(ADPE),又はトリメリット酸エステル油(TME))を基油とする原料グリースとを所定の比率で混合して、17種のグリース組成物を製造した(表3〜5を参照)。そして、これら17種のグリース組成物について、種々の性能を評価した。
【0031】
【表1】


【0032】
【表2】


【0033】
【表3】


【0034】
【表4】


【0035】
【表5】


【0036】
なお、表3〜5のグリース組成物の混和ちょう度は、いずれも25℃で250である。また、表1,2のグリース組成物中の増ちょう剤及び添加剤の含有量は表中に示した通りであり(単位は質量%)、残部は基油である。
さらに、増ちょう剤として添加したカーボンブラックA1〜A3は、前述した第二導電性カーボンであり、カーボンブラックB1,B2は第一導電性カーボンである。
【0037】
カーボンブラックA1は、電気化学工業株式会社製のデンカブラックHS−100(平均一次粒径48nm、比表面積39m2 /g、DBP吸収量140ml/100g)で、カーボンブラックA2は、東海カーボン株式会社製のシーストS(平均一次粒径66nm、比表面積27m2 /g、DBP吸収量68ml/100g)で、カーボンブラックA3は、三菱化学株式会社製の#3030B(平均一次粒径55nm、比表面積29m2 /g、DBP吸収量130ml/100g)である。
カーボンブラックB1は、ライオンアクゾ社製のケッチェンブラックEC(平均一次粒径30nm、比表面積800m2 /g、DBP吸収量360ml/100g)で、カーボンブラックB2は、三菱化学株式会社製の#3050B(平均一次粒径24nm、比表面積125m2 /g、DBP吸収量165ml/100g)である。
【0038】
表3〜5のグリース組成物について、体積抵抗率,離油度を測定した。結果を表3〜5に示す。体積抵抗率は25℃で直流電流により測定し、104 Ωm以下であった場合は○印、104 Ωm超過であった場合は×印で示した。また、離油度は日本工業規格JIS K2220 5.6に規定の方法(測定条件は160℃,24時間)で測定した。そして、比較例1の離油度を1とした場合の相対値で評価し、1.2未満の場合は○印、1.2以上2.0未満の場合は△印、2.0以上の場合は×印で示した。
【0039】
次に、これらのグリース組成物を転がり軸受に封入し、下記のようにして導電性,トルク,耐焼付き性を評価した。結果を表3〜5に示す。
〔導電性の評価方法について〕
内径30mm,外径42mm,幅7mmの深溝玉軸受の内輪及び外輪の間に形成された空隙部内に、表3〜5に示すグリース組成物を封入した。このような軸受を、180℃の高温下、回転速度120min-1,ラジアル荷重(Fr)98Nという条件で回転させ、回転中の軸受抵抗値(最大値)を測定した。軸受抵抗値の測定は、回転200時間後及び回転500時間後に行った。なお、深溝玉軸受の空隙部内に封入されているグリース組成物の量は、該空隙部の容積の25体積%である。また、この軸受は、耐熱性を有するシールを備えている。以下に、試験方法を詳細に説明する。
【0040】
図2に示すような装置に深溝玉軸受を装着して、回転中の内外輪間の電気抵抗値(最大値)を測定した。このとき、軸受に印加する電圧を30V、抵抗を300kΩとすることにより、軸受を通過する最大電流を100μAに制限した。
図2中、符号11は測定対象の深溝玉軸受を表し、その内輪11aに取付けられた軸部材12をモータ13で回転駆動することによって軸受11を回転するように構成されている。そして、内輪11aと一体となっている軸部材12と外輪11bとの間に、定電圧電源14によって所定の定電圧が印加される。
【0041】
この定電圧電源14と並列に接続されている抵抗測定装置15は、測定した電圧値(アナログ値)をA/D変換回路16に出力する。A/D変換回路16は、予め設定されたサンプリング周期でデジタル値に変換し、当該変換したデジタル信号を演算処理装置17に出力する。本実施例では、サンプリング周期を50kHz(サンプリング時間間隔=0.02ms)に設定してある。
【0042】
演算処理装置17は、最大抵抗値演算部17Aと、閾値処理部17Bと、波数カウント部17Cと、を備える。最大抵抗値演算部17Aは、入力したデジタル信号に基づき最大抵抗値を演算する。閾値処理部17Bは、入力したデジタル信号について所定閾値で閾値処理を行い雑音を除去する。波数カウント部17Cは、閾値処理部17Bからのパルスカウントについて、経時的なパルス値の増減変化によって、所定時間単位毎の変動回数つまり波山の波数をカウントし、その単位時間当たりの波数の平均値を求める。また、演算処理装置17は、求めた最大抵抗値及び単位時間当たりの波数の平均値を表示装置18に出力する。本実施例では、上記波数をカウントする単位時間を0.328秒に設定してある。表示装置18はディスプレイなどから構成され、演算処理装置17が求めた最大抵抗値及び単位時間当たりの波数の平均値を表示する。
【0043】
次に、上記構成の装置を使用して深溝玉軸受11の軸受抵抗値を評価する方法について説明する。
モータ13を駆動して軸部材12つまり内輪11aを所定回転速度で回転させた状態で、定電圧電源14から深溝玉軸受11の内外輪11a,11b間に所定の定電圧を印加する。このとき、内外輪11a,11b間に電流が流れるが、スパーク等によって電圧が変動する。その電圧が抵抗測定装置15で測定され、続いて、A/D変換回路16によってデジタル値に変換され、そのデジタル信号に基づいて、演算処理装置17が最大抵抗値及び所定単位時間当たりの波数を求め、その値が表示装置18に表示される。
軸受抵抗値の評価結果を、表3〜5にまとめて示す。1種のグリース組成物につき3個の軸受の評価を行って、それらの軸受抵抗値の平均値を求めた。そして、その平均値が20kΩ未満であった場合は○印、20kΩ以上40kΩ未満であった場合は△印、40kΩ以上であった場合は×印で示した。
【0044】
〔トルクの評価方法について〕
内径8mm,外径22mm,幅7mmの深溝玉軸受の内輪及び外輪の間に形成された空隙部内に、表3〜5に示すグリース組成物を封入した。このような軸受2個をハウジングに組み込んで、室温下、回転速度150min-1,アキシアル荷重(Fa)27.4Nという条件で回転させ、起動時とトルクが安定した回転3分後のトルクを、テンションゲージで測定した。なお、深溝玉軸受の空隙部内に封入されているグリース組成物の量は、該空隙部の容積の25体積%である。
【0045】
1種のグリース組成物につき2組の軸受(合計4個)の評価を行って、それらのトルクの平均値を求めた。そして、比較例1のトルクを1とした場合の相対値で評価し、0.85以下の場合は◎印、0.85超過1.15未満の場合は○印、1.15以上1.25未満の場合は△印、1.25以上の場合は×印で示した。
表3〜5から分かるように、増ちょう剤の量が多いと軸受トルクが大きくなる傾向があり、特に20質量%以上であると起動時の軸受トルクが大きかった。また、増ちょう剤としてPTFEを用いたものは、比較例よりも低トルクであった。
【0046】
〔耐焼付き性の評価方法について〕
内径17mm,外径40mm,幅12mmの深溝玉軸受の内輪及び外輪の間に形成された空隙部内に、表3〜5に示すグリース組成物を封入した。このような軸受を、試験温度180℃,回転速度5000min-1,アキシアル荷重(Fa)24.5N,ラジアル荷重(Fr)196Nという条件で回転させた。そして、試験軸受を回転させる駆動モーターに過電流が生じるか、軸受温度が180℃を超えたら焼付きが生じたと判断した。なお、深溝玉軸受の空隙部内に封入されているグリース組成物の量は、該空隙部の容積の30体積%である。また、この軸受は、耐熱性を有するシールを備えている。
1種のグリース組成物につき2個の軸受の評価を行って、1200時間回転させても2個とも焼付きが生じなかった場合は○印、2個中1個に焼付きが生じた場合は△、2個とも焼付きが生じた場合は×印で示した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、例えば、複写機,プリンタ等のような事務機器や情報機器における光学部,給紙部,現像部,定着部,排紙部等の回転部,摺動部に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る転動装置の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す縦断面図である。
【図2】軸受抵抗値を測定する装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0049】
1 内輪
1a 軌道面
2 外輪
2a 軌道面
3 転動体
G グリース組成物
【出願人】 【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
【出願日】 平成18年7月19日(2006.7.19)
【代理人】 【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也

【識別番号】100075579
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 嘉昭

【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 秀▲てつ▼


【公開番号】 特開2008−24783(P2008−24783A)
【公開日】 平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願番号】 特願2006−196968(P2006−196968)