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【発明の名称】 圧縮着火式内燃機関用の燃料油組成物および圧縮着火式内燃機関の制御方法
【発明者】 【氏名】内川 啓

【氏名】鈴木 和彦

【氏名】中野 良治

【氏名】吉栖 博史

【氏名】高石 龍夫

【氏名】岩永 健一

【要約】 【課題】燃料消費率を向上でき騒音が低く排出ガス中のNOxなどを低減でき環境に良好な多段噴射式機構付き予混合圧縮自己着火式エンジン用燃料油組成物を提供する。

【構成】芳香族化合物の濃度が45容量%以上、芳香族化合物の環数に芳香族化合物の濃度を乗算した総計が75以上、CCAIが830より大きい値、密度が0.85g/cm3以上、90容量%留出温度が300℃以上、50℃における動粘度が1.3mm2/sec以上の燃料油組成物を用いる。パイロット噴射による発熱が圧縮上死点前20°以降圧縮上死点後5°以前で開始し、主噴射であるメイン噴射による発熱ピークが圧縮上死点後0°以降30°以前の条件で運転制御する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族化合物の濃度が45容量%以上、芳香族化合物の環数にこの芳香族化合物の環数に対応する前記芳香族化合物の濃度を乗算した各芳香族化合物の環数毎の値の総計が75以上である
ことを特徴とした圧縮着火式内燃機関用の燃料油組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の圧縮着火式内燃機関用の燃料油組成物であって、
CCAI(Calculated Carbon Aromaticity Index;着火性指標)が830より大きい値である
ことを特徴とした圧縮着火式内燃機関用の燃料油組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の圧縮着火式内燃機関用の燃料油組成物であって、
密度が0.85g/cm3以上で、90容量%留出温度が300℃以上で、かつ、50℃における動粘度が1.3mm2/sec以上である
ことを特徴とした圧縮着火式内燃機関用の燃料油組成物。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の圧縮着火式内燃機関用の燃料油組成物であって、
少なくとも部分的に予混合圧縮自己着火燃焼するディーゼルエンジンに用いられる
ことを特徴とした圧縮着火式内燃機関用の燃料油組成物。
【請求項5】
燃料油組成物を噴射する噴射弁から燃焼室へ前記燃料油組成物を噴射する噴射時期を制御する圧縮着火式内燃機関の制御方法であって、
燃料油組成物の5容量%が燃焼した時期で定義されるパイロット噴射による発熱が圧縮上死点前20°以降圧縮上死点後5°以前で開始され、かつ、メイン噴射による発熱ピークが圧縮上死点後0°以降30°以前である
ことを特徴とする圧縮着火式内燃機関の制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載の圧縮着火式内燃機関の制御方法であって、
前記パイロット噴射による発熱が圧縮上死点前10°以降圧縮上死点後5°以前で開始され、かつ、前記メイン噴射による発熱ピークが圧縮上死点後3°以降15°以前である
ことを特徴とする圧縮着火式内燃機関の制御方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の圧縮着火式内燃機関の制御方法であって、
前記パイロット噴射による発熱が圧縮上死点前3°以降圧縮上死点後3°以前で開始され、かつ、前記メイン噴射による発熱ピークが圧縮上死点後7°以降13°以前である
ことを特徴とする圧縮着火式内燃機関の制御方法。
【請求項8】
請求項5ないし請求項7のいずれかに記載の圧縮着火式内燃機関の制御方法であって、
前記燃料油組成物は、芳香族化合物の濃度が45容量%以上、芳香族化合物の環数にこの芳香族化合物の環数に対応する前記芳香族化合物の濃度を乗算した各芳香族化合物の環数毎の総計が75以上である
ことを特徴とする圧縮着火式内燃機関の制御方法。
【請求項9】
請求項8に記載の圧縮着火式内燃機関の制御方法であって、
前記燃料油組成物は、CCAI(Calculated Carbon Aromaticity Index;着火性指標)が830より大きい値である
ことを特徴とする圧縮着火式内燃機関の制御方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の圧縮着火式内燃機関の制御方法であって、
前記燃料油組成物は、密度が0.85g/cm3以上で、90容量%留出温度が300℃以上で、かつ、50℃における動粘度が1.3mm2/sec以上である
ことを特徴とする圧縮着火式内燃機関の制御方法。
【請求項11】
請求項5ないし請求項10のいずれかに記載の圧縮着火式内燃機関の制御方法であって、
前記圧縮着火式内燃機関は、多段噴射機能を有し、少なくとも部分的に予混合圧縮自己着火燃焼するディーゼルエンジンである
ことを特徴とする圧縮着火式内燃機関の制御方法。
【請求項12】
請求項11に記載の圧縮着火式内燃機関の制御方法であって、
プログラマブル・ロジック・デバイス(Programmable Logic Device:PLD)、プログラマブル・ロジック・アレイ(Programmable Logic Array:PLA)および専用制御デバイスから選ばれる少なくともいずれか一つ以上の集積回路による制御により、前記燃料油組成物を供給する
ことを特徴とする圧縮着火式内燃機関の制御方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮着火式内燃機関用の燃料油組成物および圧縮着火式内燃機関の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンでは、圧縮工程でのピストン上昇により燃焼室内の空気を高度に圧縮して温度を上げ、燃料である軽油の臨界温度以上に達したところに燃料の軽油を噴霧し自己着火燃焼させる方式が取られている。そのため、ディーゼルエンジンは燃焼効率が良く、自動車、船舶、建設機械、発電機などに搭載され、広く社会に普及している。しかしながら、ディーゼルエンジンの排出ガス中には、窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(Particulate Matter:PM)、全炭化水素(Total Hydro Carbon:THC)などの環境汚染物質が多く含まれている。
そこで、環境汚染物質の低減を目的として、エンジン本体の改良や、酸化触媒あるいはDPF(Diesel Particulate Filter)などによる対策が種々講じられている。その一つとして、予混合圧縮自己着火燃焼方式(Homogeneous-Charge Compression-Ignition combustion:HCCI燃焼方式)が提案されている(例えば、非特許文献1および特許文献1参照)。
【0003】
この方式を用いた予混合圧縮自己着火式エンジンとは、吸気行程初期から圧縮行程の終期までの間にシリンダ内へ燃料のほとんどを噴射し、噴射された燃料を圧縮行程で気化混合させ、圧縮行程の終わりに自然発火により着火燃焼させるエンジンである。
この予混合圧縮自己着火式エンジンでは、燃料と空気とが均一にかつ希薄に混合した状態で燃焼することになるため燃焼温度が高温にならない。そのため、NOxやPMの発生を大幅に抑制することができる。燃料として予混合気体を用いる点で火花点火エンジン(ガソリンエンジン)に近く、自己着火により燃焼が開始される点で圧縮着火エンジン(ディーゼルエンジン)に近い。それ故、両者の中間に位置する新しい燃焼方式のエンジンと言える。
【0004】
これまで、予混合圧縮自己着火燃焼に適した燃料油を得ることを目的として各種の検討が行われてきた。
例えば、セタン価の異なる複数の燃料油を用いた例(例えば、特許文献2参照)や、着火性を高めた揮発性燃料を用いた例が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
一方、ディーゼルエンジンは燃焼効率が良く、自動車、船舶、建設機械、発電機などに搭載され、広く社会に普及している。
従来から使用されている単段噴射方式のディーゼル発電用の燃料としては、一般に軽油、A重油(JIS1種重油)、およびC重油(JIS3種重油)が利用されているが、その中でも、船舶、建設機械、発電機などの内燃機関用燃料として、A重油あるいはC重油の使用割合が高い。
【0006】
A重油としては、単段噴射方式ディーゼルエンジンからの制約として、セタン指数45以上の着火性の良い燃料油が使用されている。A重油では、セタン指数を確保するために、セタン指数の大きいパラフィン分の多い燃料油を基準として、接触分解装置から得られるセタン指数が低く芳香族分の含有量が高い燃料油(分解軽油または接触分解軽油(LCO))の混合割合を調整しながら製造している。しかし、全国的な分解装置能力の増強に伴い、このようなセタン指数が低く芳香族分の含有量が高い燃料油が余剰となり、その有効活用が求められている。
また、最近では、ディーゼルエンジンに関して、さらなる効率改善がエンジンおよび燃料油の面から一層求められている。エンジン面からは、燃焼性の改善に向けてコモンレール方式の多段噴射機構を有するディーゼルエンジンの開発が進められ、燃料油の面からも、多段噴射機構を有するディーゼルエンジンに適した高性能燃料油の開発が進められている。
そこで、セタン価が25〜55の軽油を燃料として単段噴射により予混合圧縮自己着火燃焼を行う技術が提案されている(例えば、特許文献4)。また、多段噴射機構を有するディーゼルエンジン用燃料油として、90%容量留出温度が400℃以下であり、セタン価が10〜40である燃料油が提案されている(例えば、特許文献5)。
また、パイロット噴射およびメイン噴射を実施する圧縮着火式内燃機関として、スモークを抑制する構成が知られている。具体的には、圧縮上死点前にパイロット噴射を実施し、その後の圧縮上死点以降にメイン噴射を実施させ、かつ、パイロット噴射における燃料噴射量と燃料噴射タイミングとを、パイロット噴射による最大熱発生率が60kJ/s以下となるように制御している(例えば、特許文献6参照)。
【0007】
【非特許文献1】社団法人自動車技術会 学術講演会前刷集981(1998)49〜52頁
【特許文献1】特開平9−158810号公報
【特許文献2】特開2001−355471号公報
【特許文献3】特開2004−91657号公報
【特許文献4】特開2004−315604号公報
【特許文献5】特開2005−290041号公報
【特許文献6】特開2003−120391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載された燃料油は、異なる複数の燃料油を必要とすれば、燃料油の充填や供給が煩雑になり、またエンジンの構造も複雑になるため経済的に不都合である。
また、特許文献3に記載された燃料油は揮発性が非常に高く、いわゆるガソリンに近いものであり、燃料消費率などの性能が低下するおそれがある。
一方、特許文献4に開示された低セタン価の燃料油で運転を行った場合、排ガスなど性能が向上するが、多段噴射に関する検討は実施していない。
また、特許文献5に開示されているのは、多段噴射機構を有するディーゼルエンジン用の燃料油であるが、比較的軽質の低セタン価燃料油についてしか開示されておらず、重質で芳香族分の含有量が高い燃料油を対象としたものではない。
さらに、特許文献6に記載されたパイロット噴射およびメイン噴射を実施する多段噴射機構を備えた内燃機関における運転制御では、燃料消費率や排出ガス特性など、さらなる改善が望まれている。
【0009】
本発明は、このような状況を考慮して、燃料消費率が向上し環境に良好な圧縮着火式内燃機関用の燃料油組成物および圧縮着火式内燃機関の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に記載の圧縮着火式内燃機関用の燃料油組成物は、芳香族化合物の濃度が45容量%以上、芳香族化合物の環数にこの芳香族化合物の環数に対応する前記芳香族化合物の濃度を乗算した各芳香族化合物の環数毎の値の総計が75以上であることを特徴とする。
この発明では、芳香族化合物の濃度が45容量%以上、芳香族化合物の環数にこの芳香族化合物の環数に対応する芳香族化合物の濃度をそれぞれ乗算した各芳香族化合物の環数毎の値の総計が75以上であるため、燃料消費率を向上できるとともに、騒音、排出ガス中のNOxなどが低減して環境への悪影響を抑制できる。
ここで、芳香族化合物の濃度が45容量%より少なくなると、着火性が高くなり、予混合に十分な時間がなく、急激な燃焼が生じ、排出ガス中のNOxなどが増大することとなる。さらには、密度が低くなり、真発熱量が少なくなって、容量当たりの燃料消費率が十分でなくなることとなる。このため、芳香族化合物の濃度は、45容量%以上が好ましく、50容量以上がより好ましい。
また、芳香族化合物の環数にこの芳香族化合物の環数に対応する芳香族化合物の濃度をそれぞれ乗算した各芳香族化合物の環数毎の値の総計が75より少なくなると、上述したように、着火性および容量当たりの燃料消費率の観点から不都合が生じることから、75以上が好ましく、80以上がより好ましい。
【0011】
さらに、本発明では、CCAI(Calculated Carbon Aromaticity Index;着火性指標)が830より大きい値であることが好ましい。
ここで、CCAIの値が830以下となると、上述したように、着火性および容量当たりの燃料消費率の観点から不都合が生じることから、CCAIの値は830より大きいことが好ましく、850以上であることがより好ましい。
ここで、CCAIとしては、以下の式(1)により表される。
〔式1〕
CCAI=ρ−81−141(log(log(V+0.85)))−483log((T+273)/323)
ρ:15℃における燃料油組成物の密度〔kg/m3
V:動粘度〔mm2/sec〕
T:温度〔℃〕
【0012】
そして、本発明では、密度が0.85g/cm3以上で、90容量%留出温度が300℃以上で、かつ、50℃における動粘度が1.3mm2/sec以上であることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明では、少なくとも部分的に予混合圧縮自己着火燃焼するディーゼルエンジンに用いられる構成とすることが好ましい。
この発明では、少なくとも部分的に予混合圧縮自己着火燃焼するディーゼルエンジンに用いることで、燃料消費率がより向上するとともに、騒音、排出ガス中のNOxやPMなどが低減して環境への悪影響をより抑制できる。
【0014】
本発明に記載の圧縮着火式内燃機関の制御方法は、燃料油組成物を噴射する噴射弁から燃焼室へ前記燃料油組成物を噴射する噴射時期を制御する圧縮着火式内燃機関の制御方法であって、燃料油組成物の5容量%が燃焼した時期で定義されるパイロット噴射による発熱が圧縮上死点前20°以降圧縮上死点後5°以前で開始され、かつ、メイン噴射による発熱ピークが圧縮上死点後0°以降30°以前であることを特徴とする。
この発明では、噴射弁から燃焼室へ噴射する燃料油組成物の5容量%が燃焼した時期で定義されるパイロット噴射による発熱が圧縮上死点前20°以降圧縮上死点後5°以前で開始され、かつ、メイン噴射による発熱ピークが圧縮上死点後0°以降30°以前となる条件で、噴射弁から燃焼室へ燃料油組成物を噴射する。このため、燃料消費率が向上するとともに、騒音、排出ガス中のNOxやPMなどが低減して環境への悪影響を抑制できる。
特に、本発明では、上記燃料油組成物を利用することで、より燃料消費率が向上するとともに、騒音、排出ガス中のNOxやPMなどが低減して環境への悪影響を抑制できる。
ここで、パイロット噴射による発熱が圧縮上死点前20°より進角化、すなわち早期化すると、NOx濃度が大きくなるという不都合が生じる。一方、パイロット噴射による発熱が圧縮上死点後5°より遅角化すると、メイン噴射による発熱と重なり、最大圧力上昇率が急増するという不都合が生じる。このため、パイロット噴射による発熱が圧縮上死点前20°以降圧縮上死点後5°以前、好ましくは圧縮上死点前10°以降圧縮上死点後5°以前、より好ましくは圧縮上死点前3°以降圧縮上死点後3°以前に制御される。また、メイン噴射による発熱ピークが圧縮上死点後0°より進角化すると、NOx濃度が大きくなるという不都合が生じる。一方、メイン噴射による発熱ピークが圧縮上死点後30°より遅角化すると、燃料消費率が悪化するという不都合が生じる。このため、メイン噴射による発熱ピークが圧縮上死点後0°以降30°以前、好ましくは圧縮上死点後3°以降15°以前、より好ましくは圧縮上死点後7°以降13°以前に制御される。
そして、本発明では、プログラマブル・ロジック・デバイス(Programmable Logic Device:PLD)、プログラマブル・ロジック・アレイ(Programmable Logic Array:PLA)および専用制御デバイスから選ばれる少なくともいずれか一つ以上の集積回路による制御により、燃料油組成物を供給する構成とすることが好ましい。
このことにより、内燃機関内における燃料油組成物の供給を上述した方法により制御しているため、内燃機関への負荷が急に変動した場合であっても、内燃機関内の燃焼を常に最適な状態に保って運転することが可能となる。このため、燃料消費率がより向上するとともに、騒音、排出ガス中のNOxやPMなどが低減して環境への悪影響をより抑制できる。特に、上述した所定の条件の燃料油組成物を用いることが好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について詳述する。
なお、本実施形態において、圧縮着火式内燃機関として、多段噴射機構を有するディーゼルエンジンを例示するが、この構成に限られない。例えば、予混合圧縮自己着火燃焼方式(Homogeneous-Charge Compression-Ignition combustion:HCCI燃焼方式)のエンジン(以下、HCCIエンジンと称す。)に適用してもよい。また、本実施形態では、多段噴射機能を有するディーゼルエンジンに利用する燃料油組成物を例示するが、上述したように、HCCIエンジンに利用する燃料油組成物にも適用できる。さらに、多段噴射式機構として、パイロット噴射機構とメイン噴射機構の2段噴射を例示するが、2段に限らず、複数段にも適用できる。
【0016】
〔ディーゼルエンジン〕
本実施形態における多段噴射機構を有するディーゼルエンジンは、例えばパイロット噴射機構付きのエンジンであって、燃料油組成物の5容量%が燃焼した時期で定義され圧縮工程において主噴射の前に少量の燃料を噴射する機構であるパイロット噴射による発熱が圧縮上死点前20°以降圧縮上死点後5°以前で開始され、かつ、主噴射であるメイン噴射による発熱ピークが圧縮上死点後0°以降30°以前で、燃料油組成物を燃焼させる制御で運転される。
ここで、パイロット噴射による発熱が圧縮上死点前20°より進角化、すなわち早期化すると、NOx濃度が大きくなるという不都合が生じる。一方、パイロット噴射による発熱が圧縮上死点後5°より遅角化、すなわち遅い時期となると、メイン噴射による発熱と重なり、最大圧力上昇率が急増するという不都合が生じる。このため、パイロット噴射による発熱が圧縮上死点前20°以降圧縮上死点後5°以前、好ましくは圧縮上死点前10°以降圧縮上死点後5°以前、より好ましくは圧縮上死点前3°以降圧縮上死点後3°以前に制御される。
さらに、メイン噴射による発熱ピークが圧縮上死点後0°より進角化、すなわち早期化すると、NOx濃度が大きくなるという不都合が生じる。一方、メイン噴射による発熱ピークが圧縮上死点後30°より遅角化、すなわち遅い時期となると、燃料消費率が悪化するという不都合が生じる。このため、メイン噴射による発熱ピークが圧縮上死点後0°以降30°以前、好ましくは圧縮上死点後3°以降15°以前、より好ましくは圧縮上死点後7°以降13°以前に制御される。
なお、メイン噴射によるピーク発熱時期である発熱ピークとしては、詳細は後述するが、エンジンシリンダのクランク角と、エンジンシリンダ内圧力から算出した最大熱発生率との関係(図1に示すグラフ参照)におけるメイン噴射による発熱ピークの最大値である。すなわち、図1に示すグラフ(実施例1)の大きなピークでの二つ目のピークがメイン噴射による発熱で、この二つ目のピークの最大値を、本発明のメイン噴射による発熱ピークの時期と定義する。
また、多段噴射式機構としては、上述したパイロット噴射およびメイン噴射の2段に限らず、3段以上の多段噴射でも同様である。
【0017】
〔燃料油組成物〕
上記多段噴射機構を有するディーゼルエンジンでは、例えばLCO(Light Cycle Oil:接触分解軽油)やA重油(JIS1種重油)、C重油(JIS3種重油)などの各種燃料が利用できるが、特に以下の(a),(b)、さらには(a)〜(f)に示す性状の燃料油組成物が好ましい。すなわち、芳香族化合物の濃度が45容量%以上、芳香族化合物の環数にこの芳香族化合物の環数に対応する芳香族化合物の濃度を乗算した各芳香族化合物の環数毎の値の総計が75以上で、かつCCAI(Calculated Carbon Aromaticity Index;着火性指標)が830より大きい値である。特に、密度が0.85g/cm3以上で、90容量%留出温度が300℃以上で、かつ、50℃における動粘度が1.3mm2/sec以上の燃料油組成物が好ましい。なお、この燃料油組成物では、上述した多段噴射の構成に限らず、単段噴射方式のものにも利用できる。
なお、LCOなどの単独留分を用いる場合に限らず、例えばLCO留分と所定の重油基材や軽油基材とを適宜組み合わせ、または、LCOの代わりに、イソパラフィンや芳香族分の多い低セタン価油でもよく、任意の手段を用いて適宜配合することにより調製することができる。
ここで、使用可能な重油・軽油基材としては、例えば、原油の常圧蒸留によって得られる直留軽油、常圧蒸留によって得られる直留重油や残渣油を減圧蒸留して得られる減圧軽油、減圧軽油を水素化精製して得られる水素化精製軽油、直留軽油を水素化脱硫して得られる水素化脱硫軽油、水素化脱硫軽油をさらに脱ろうして得られる脱ろう脱硫軽油、原油の常圧蒸留によって得られる直留灯油、直留灯油を水素化精製して得られる水素化精製灯油、原油の常圧蒸留によって得られる軽油留分を分解して得られる分解灯油、オレフィンの重合により得られる重合油、脂肪酸メチルエステルなどが挙げられる。
【0018】
(a)全芳香族分
芳香族化合物の濃度が45容量%より少なくなると、セタン指数が増加し、燃料油組成物の予混合気の形成に悪影響を及ぼす。すなわち、着火性が高くなり、予混合に十分な時間がなく、急激な燃焼が生じ、排出ガス中のNOxなどが増大することとなる。さらには、密度が低くなり、真発熱量が少なくなって、容量当たりの燃料消費率が十分でなくなることとなる。このため、芳香族化合物の濃度は45容量%以上が好ましく、50容量%以上がより好ましい。
なお、芳香族化合物の含有量は、例えば、JIS K 2536「石油製品−成分試験方法」に準拠して測定することができる。
【0019】
(b)芳香族化合物の環数に芳香族化合物の濃度を乗算した総計
芳香族化合物の環数にこの芳香族化合物の環数に対応する芳香族化合物の濃度をそれぞれ乗算した各芳香族化合物の環数毎の値の総計が75より少なくなると、同様に、着火性が高くなり、予混合に十分な時間がなく、急激な燃焼が生じ、排出ガス中のNOxなどが増大することとなる。さらには、密度が低くなり、真発熱量が少なくなって、容量当たりの燃料消費率が十分でなくなることとなる。このため、芳香族化合物の環数にこの芳香族化合物の環数に対応する芳香族化合物の濃度をそれぞれ乗算した各芳香族化合物の環数毎の値の総計は、75以上が好ましく、80以上がより好ましい。
なお、芳香族化合物の環数にこの芳香族化合物の環数に対応する芳香族化合物の濃度をそれぞれ乗算した各芳香族化合物の環数毎の値の総計としては、以下のように算出される。
すなわち、例えば、芳香族化合物の環数が「1」で芳香族化合物の環数が「1」の芳香族化合物の濃度がLの場合は「1×L」、芳香族化合物の環数が「2」で芳香族化合物の環数が「2」の芳香族化合物の濃度がMの場合は「2×M」で、これらのように、各芳香族化合物の環数毎で乗算した値の総和を75以上に設定すればよい。
【0020】
(c)CCAI(Calculated Carbon Aromaticity Index;着火性指標)
CCAIの値が830以下となると、上述したように、着火性が高くなり、予混合に十分な時間がなく、急激な燃焼が生じ、排出ガス中のNOxなどが増大することとなる。さらには、密度が低くなり、真発熱量が少なくなって、容量当たりの燃料消費率が十分でなくなることとなる。このため、CCAIの値は、830より大きい値が好ましく、850以上がより好ましい。
なお、CCAIとしては、以下の式(1)により表される。
〔式1〕
CCAI=ρ−81−141(log(log(V+0.85)))−483log((T+273)/323)
ρ:15℃における燃料油組成物の密度〔kg/m3
V:動粘度〔mm2/sec〕
T:温度〔℃〕
【0021】
(d)密度
密度は、0.85g/cm3以上が好ましく、0.88g/cm3以上がより好ましい。
なお、燃料油組成物の密度は、例えば、JIS K 2249「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量・容量換算表」に準拠して測定することができる。
【0022】
(e)蒸留性状
90容量%での留出温度(T90)は、300℃以上が好ましく、335℃以上がより好ましい。
なお、留出温度は、例えば、JIS K 2254「石油製品−蒸留試験法」に準拠して測定することができる。
【0023】
(f)動粘度
50℃における動粘度は、1.3mm2/sec以上が好ましく、2.0mm2/sec以上以上がより好ましい。
なお、動粘度は、JIS K 2283に準拠して測定することができる。
【0024】
そして、本発明の燃料油組成物としては、本発明の目的および効果が妨げられない範囲において、必要に応じて各種の添加剤を適宜配合することができる。このような添加剤としては、例えば、カルボン酸系、エステル系、アルコール系などの潤滑性向上剤や、硝酸エステル系や有機過酸化物系などのセタン価向上剤や、イミド系化合物、アルケニルコハク酸誘導体、コハク酸エステル、共重合系ポリマなどの清浄剤や、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アルケニルコハク酸アミドなどの流動性向上剤やフェノール系、アミン系などの酸化防止剤などが挙げられる。またこれらの添加剤は、一種を単独で、あるいは二種以上を組み合わせて添加することができる。
なお、これらの添加剤の添加量は、燃料油組成物の基材の種類などを勘案して、必要に応じて適宜選定すればよいが、通常は、添加剤の合計量として、本発明の燃料油組成物全体に対して、0.5質量%以下とすることが好ましい。
【0025】
そして、上述した燃料油組成物では、全芳香族分や各芳香族化合物の環数毎の濃度の総計、CCAIなどが所定の範囲であるため、着火時期が早すぎも遅すぎもせず、適度の自己着火性を備えている。したがって、いわば、エンジンのノズルから噴射された燃料油組成物の着火時期が上死点近くに自動的に制御されることになるため、必然的に熱効率が高くなる。
また、このようにして着火時期が早すぎないため、燃料油組成物と空気との混合時間が十分とれることになり、燃料油組成物のエンジンシリンダ内での濃度分布が均一となり、排出ガス中のNOx、PMおよびTHCの生成を抑制できる。さらに、密度が所定の範囲となる十分高い密度であるため、燃料消費率にも優れることとなる。
そして、多段噴射機構を有する予混合圧縮自己着火式のエンジンに使用すると効果的である。
【0026】
〔実施の形態の変形例〕
なお、以上に説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的および効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。また、本発明を実施する際における具体的な構造および形状などは、本発明の目的および効果を達成できる範囲内において、他の構造や形状などとしても問題はない。
【0027】
すなわち、本発明の多段噴射機構を有する圧縮自己着火式のエンジンでは、芳香族化合物の濃度が45容量%以上、芳香族化合物の環数にこの芳香族化合物の環数に対応する芳香族化合物の濃度をそれぞれ乗算した各芳香族化合物の環数毎の値の総計が75以上で、かつCCAIが830より大きい値、特に、密度が0.85g/cm3以上で、90容量%留出温度が300℃以上で、かつ、50℃における動粘度が1.3mm2/sec以上の燃料油組成物を用いることが好ましいが、例えばこのような組成外の燃料油組成物でも、パイロット噴射による発熱が圧縮上死点前20°以降圧縮上死点後5°以前、好ましくは圧縮上死点前10°以降圧縮上死点後5°以前、より好ましくは圧縮上死点前3°以降圧縮上死点後3°以前で開始され、かつ、主噴射であるメイン噴射による発熱ピークが圧縮上死点後0°以降30°以前、好ましくは圧縮上死点後3°以降15°以前、より好ましくは圧縮上死点後7°以降13°以前で、燃料油組成物を燃焼させる制御で運転することにより、燃料消費率を向上でき、排出ガスの状態も環境への悪影響を抑制できる。
【実施例1】
【0028】
次に、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。
なお、本発明は、これらの実施例などの記載内容に何ら制限されるものではない。
【0029】
〔実施例1〜7、比較例1〜2〕
重油基材であるLCO留分およびA重油を用いて、以下の表1に示す性状の燃料油組成物を調製した。
そして、本発明の圧縮着火式内燃機関としての予混合圧縮自己着火式エンジンにおける以下の表2に示す各運転条件での運転状態について比較した。
【0030】
(エンジン)
実験用のエンジンとして、コモンレール方式の多段噴射式機構を備えたAVL社単気筒エンジンを用いた。
(エンジンの仕様)
シリンダ直径×ピストン工程:105mm×115mm
行程容積 :996ml
圧縮比 :18.6
燃料噴射圧力 :135MPa
そして、このエンジンについては、表2に示す条件、すなわち燃料油噴射圧を60MPaで、パイロット噴射時期と、メイン噴射時期と、エンジン回転数と、を表2に示す条件に適宜設定して運転させた。なお、燃料油組成物の噴射量および時期は、INCAソフトウェアを用いて制御した。
【0031】
(燃料油組成物の性状)
【表1】


【0032】
なお、各燃料油組成物の性状として、密度は、上述したように、JIS K 2249に準拠して15℃における密度で測定した。
硫黄濃度は、JIS K 2541「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」により測定した。
動粘度は、上述したように、JIS K 2283に準拠して50℃における動粘度で測定した。
蒸留性状は、上述したように、JIS K 2254に準拠して測定した。
芳香族分は、上述したように、JIS K 2536に準拠して高圧液クロマトグラフィにて測定した。
【0033】
(多段噴射時期)
【表2】


【0034】
(実験)
上記表2に示す噴射タイミングで表1に示す燃料油組成物である基準油1〜3および比較油1を噴射してエンジンを運転し、エンジンから排出される排出ガス中のNOx、O2、THC(全炭化水素)を測定した。なお、NOx(窒素酸化物)濃度、O2(酸素)濃度およびTHCは、自動車排出ガス分析装置(株式会社堀場製作所製 商品名;MEXA-9100 DEGR)を用いて測定し、NOx濃度はO2濃度13%に換算して算出した。
そして、パイロット噴射とメイン噴射の2段噴射運転時の各噴射時期を変化させた時の図示燃料消費率(1kWhの仕事をするのに必要な燃料油組成物の容量)(実施例1の値を基準とした比率として表記)、最大圧力上昇率(エンジンシリンダ内圧力の上昇率)、エンジンシリンダ内圧力から算出した図1に示す最大熱発生率、この図1に基づいて認識した各噴射による発熱ピークのクランク角を求めた。
なお、エンジンシリンダ内の圧力および発熱については、AVL社製のIndiWinセット(商品名)を用いて解析した。また、燃料流量を株式会社小野測器社製のDF−2410(商品名)を用いて測定し、燃料消費率を求めた。
その結果を表3ないし表5、図1および図2に示す。なお、表3は表2における運転条件1での結果、表4は表2における運転条件2での結果、表5は表2における運転条件3での結果を示す。
【0035】
(結果)
【表3】


【0036】
【表4】


【0037】
【表5】


【0038】
表2に示す運転条件1において、表3および図1に示すように、実施例1では、排出ガス中のTHC量およびNOx濃度が比較的に低く、煤などの発生を比較的に抑制される傾向が認められた。さらに、最大圧力上昇率および最大熱発生率も比較的に低く、騒音が他の運転状態に比して小さい傾向が認められた。また、図示燃料消費率も比較的に低い値が得られた。これらのことから、燃料消費率および環境への影響を総合的に評価して、実施例1が最も良好な運転状態であることが認められた。
【0039】
また、表2に示す運転条件2においては、表4および図2に示すように、比較例1では、燃料油が規定外、すなわち全芳香族分や各芳香族化合物の環数毎濃度の総計、CCAIがいずれも低く、図示燃料消費率が悪化してしまう。
一方、実施例4ないし実施例6では、種々の燃料油組成物でも、パイロット噴射による発熱時期およびメイン噴射によるピーク発熱時期を調整することで、図示燃料消費率が低く抑えられ、しかも黒煙濃度、NOx濃度、最大圧力上昇率も抑えられ、好適な運転状態が得られることが認められた。
さらに、表2に示す運転条件3においては、表5に示すように、実施例7では、エンジン回転速度2000rpmでも、好適な運転状態が得られることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、多段噴射式機構を有した予混合圧縮自己着火式エンジンに用いた場合、また部分予混合圧縮自己着火燃焼するディーゼルエンジンでの所定の運転条件で運転した場合、排出ガス中に含まれるNOxやPMなどが低減し騒音も低減して、環境への悪影響を抑制できるとともに、燃料消費率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る燃料油組成物の多段噴射タイミングの実験での実施例1〜3におけるエンジンシリンダ内圧力から算出した熱発生率と、各噴射による発熱ピークのクランク角との関係を示すグラフである。
【図2】本発明に係る燃料油組成物の多段噴射タイミングの実験での実施例4〜6および比較例1におけるエンジンシリンダ内圧力から算出した熱発生率と、各噴射による発熱ピークのクランク角との関係を示すグラフである。
【出願人】 【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
【識別番号】590000455
【氏名又は名称】財団法人石油産業活性化センター
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
【出願日】 平成19年6月20日(2007.6.20)
【代理人】 【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所

【識別番号】100079083
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 實三

【識別番号】100094075
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 寛二

【識別番号】100106390
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 剛


【公開番号】 特開2008−31436(P2008−31436A)
【公開日】 平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願番号】 特願2007−162612(P2007−162612)