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【発明の名称】 灯油組成物
【発明者】 【氏名】原 浩昭

【要約】 【課題】暖房機器や給湯機器をより長期間安定的に運転するための灯油組成物であり、特に、複雑な燃焼機構を有し、複雑な燃焼制御が行われるファンヒーターや給湯機器において、燃焼状態の悪化を極力低減できる灯油組成物を提供することを目的とする。

【構成】全硫黄分が80質量ppm以下であり、該全硫黄分の内、メルカプタン類の硫黄分が2質量ppm以下であり、かつチオフェンより重質でベンゾチオフェンより軽質な硫黄化合物の硫黄分が1質量ppm以下である灯油組成物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全硫黄分が80質量ppm以下であり、該全硫黄分の内、メルカプタン類の硫黄分が2質量ppm以下であり、かつチオフェンより重質でベンゾチオフェンより軽質な硫黄化合物の硫黄分が1質量ppm以下であることを特徴とする灯油組成物。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、灯油組成物に関する。詳しくは、石油ファンヒーター等の暖房機器や石油給湯機器などに用いられる灯油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
灯油は家庭用暖房機器に多く使用されているが、家庭用暖房機器の主力は芯式ストーブからファンヒーターへ移行してきた。ファンヒーターの燃焼方式は、芯式ストーブと比較してかなり複雑な構造をしている。ファンヒーターの燃焼方式は、ブンゼン気化式、油圧送霧化式、ポット式の3つに大きく分けられる。ブンゼン気化式は、気化器という装置で灯油を加熱し,バーナに加熱された灯油気化ガスを吹き込み,ガスバーナのように燃焼させるものである。油圧送霧化式は、熱せられた気化筒に空気と灯油をそれぞれファンとポンプで送り込み、気化混合したガスを上部のバーナで燃焼させるものである。この方式では、空気量と灯油量のバランスを保つために高度な制御が用いられている。ポット式は、マットの敷かれた蒸発皿に灯油をたらし、ヒータで直接加熱・点火するものである(非特許文献1)。
【0003】
ファンヒーターはいずれの燃焼方式のものも、上記のように複雑な燃焼機構をもっており、複雑な燃焼制御を行っているが、長期間の使用に伴い燃焼機器の材質の劣化が生じる可能性があり、灯油も材質劣化の一因となる可能性がある。燃焼部の材質が劣化した場合、燃焼状態に悪影響を及ぼし、ファンヒーターを長期間安定的に使用することができなくなる恐れがある。また、灯油を使用する給湯機器も複雑な燃焼機構をもち、複雑な燃焼制御を行っており、この給湯機器も長期間の使用や灯油により燃焼部に劣化が生じた場合、燃焼状態の悪化が懸念される(非特許文献2)。
【非特許文献1】内田紘一郎、「灯油の品質と実用性能」、ペテロテック、Vol.17、No.11、1994年
【非特許文献2】佐藤稔、重岡浩昭、小関秀規、「室内環境適合クリーン燃焼技術」、三菱電機技報、Vol.77、No.5、2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
灯油組成物の安定性を評価する一般的な手法としては、色相等の指標に基づく方法が挙げられる。また、灯油組成物の材料に対する腐食性を評価する手法としては、50℃、3時間での銅板腐食が挙げられる。しかし、これらの評価方法は、芯式ストーブの時代に定められたものであり、複雑な燃焼機構を有し、複雑な燃焼制御が行われるファンヒーターや給湯機器に対しては精度の点で必ずしも十分とはいえない。また、上記指標に基づいて良好な安定性を有すると評価された灯油組成物であっても、ファンヒーターや給湯機器を長期間安定的に使用することができなくなる可能性がある。これは、上記指標は灯油組成物の性状を評価するものであって、灯油組成物の安定性や腐食性に関与する直接の要因を見極めたものではないためである。
【0005】
本発明は、暖房機器や給湯機器をより長期間安定的に運転するための灯油組成物であり、特に、複雑な燃焼機構を有し、複雑な燃焼制御が行われるファンヒーターや給湯機器において、燃焼状態の悪化を極力低減できる灯油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記従来技術の問題点を解決し、上記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、灯油組成物に含まれる各種硫黄分の中でも、メルカプタン類の硫黄分と、チオフェンより重質でベンゾチオフェンより軽質な硫黄化合物の硫黄分とが燃焼部材質の劣化作用に特に影響を及ぼしうることを知見し、これらの硫黄分を特に選択的に低減することによって、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、全硫黄分が80質量ppm以下、該全硫黄分の内、メルカプタン類の硫黄分が2質量ppm以下で、かつチオフェンより重質でベンゾチオフェンより軽質な硫黄化合物の硫黄分が1質量ppm以下であることを特徴とする灯油組成物を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ファンヒーターなどの暖房機器や給湯機器などの、複雑な燃焼機構を有する燃焼機器をより長期間使用した場合であっても、燃焼状態の悪化を極力低減して、長期間安定的に運転することができる灯油組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における灯油組成物は、全硫黄分が80質量ppm以下であり、該全硫黄分の内、メルカプタン類の硫黄分が2質量ppm以下で、かつチオフェンより重質でベンゾチオフェンより軽質な硫黄化合物の硫黄分が1質量ppm以下である。これらの本発明の灯油組成物における各硫黄分についてさらに詳細に説明する。
【0010】
本発明の灯油組成物の全硫黄分は、80質量ppm以下であるが、30質量ppm以下であることが好ましく、10質量ppm以下であることがさらに好ましい。硫黄分は、燃焼すると異臭を発生し、かつ人体に有害である亜硫酸ガスの発生の原因となるので、80質量ppm以下とする。なお、本発明でいう全硫黄分とは、JIS K2541に準拠して測定した値である。また、ここでいう全硫黄分とは、例えば硫化水素、メルカプタン類、硫化アルキル類、環状硫化物、チオフェン類等の灯油組成物に含有されている全ての硫黄分を意味する。
【0011】
本発明の灯油組成物のメルカプタン類の硫黄分は、2質量ppm以下であるが、1質量ppm以下であることが好ましい。本発明でいうメルカプタン類の硫黄分とは、本出願人の出願に係る特願2005−265598号の明細書に記載の方法により測定した値である。この方法は、石油系燃料油中のメルカプタン硫黄分の濃度を定量分析するための電位差滴定によるメルカプタン硫黄分試験方法において、用いる硝酸銀滴定液の濃度を0.0005〜0.005mol/Lとし、且つ試料のはかり採り量を50〜500mLとして電位差滴定を行い、該電位差滴定で測定された前記硝酸銀滴定液の滴定量からメルカプタン硫黄分の濃度を算出する石油系燃料油のメルカプタン硫黄分試験方法である。
本発明の灯油組成物においては、メルカプタン類の硫黄分は少ないほど好ましいが、メルカプタン類の硫黄分が2質量ppm以下であれば、ファンヒーターなどの暖房機器や給湯機器などの複雑な燃焼機構を有し、複雑な燃焼制御が行われる機器を長期間使用しても、これらの機器の燃焼部の材質が腐食される恐れが低下する。その結果、燃焼状態に及ぼす悪影響を極力低減して、より長期間安定的な運転を可能にすることができる。
【0012】
本発明の灯油組成物の、チオフェンより重質でベンゾチオフェンより軽質な硫黄化合物の硫黄分は1質量ppm以下であるが、0.7質量ppm以下であることが好ましく、0.5質量ppm以下であることがさらに好ましい。
本発明でいうチオフェンより重質でベンゾチオフェンより軽質な硫黄化合物の硫黄分は、化学発光によって硫黄化合物を選択的に検出、定量するANTEK製硫黄化学発光検出器を備えた島津製作所製ガスクロマトグラフ装置を用いて、ガスクロマトグラフ法で測定される。ここで、チオフェンとベンゾチオフェンを標準硫黄化合物として、硫黄分が検出されないHPLC用イソオクタンに溶解したものを予め測定し、ピークの位置を求めておく。その後、試料を測定し、チオフェンとベンゾチオフェンのピーク位置の間にあるピークの総面積で定量した。ガスクロマトグラフの測定条件は、40℃で1分保持した後、10℃/分で300℃まで昇温し、300℃で3分保持した。また、使用したカラムは、ポリジメチルシロキサンをコーティングしたキャピラリータイプで、長さ30m、内径0.32mm、膜厚1.0μmを使用した。
チオフェンより重質でベンゾチオフェンより軽質な硫黄化合物の硫黄分が、1質量ppm以下であれば、ファンヒーターなどの暖房機器や給湯機器などの複雑な燃焼機構を有し、複雑な燃焼制御が行われる機器を長期間使用しても、これらの機器の燃焼部の材質が腐食される恐れが低下する。その結果、燃焼状態に及ぼす悪影響を極力低減して、より長期間安定的な運転を可能にすることができる。
【0013】
本発明における灯油組成物の煙点は、一般に、23mm以上、好ましくは25mm以上である。また、引火点は、一般に、40℃以上、好ましくは43℃以上である。
煙点が23未満、又は引火点が40℃未満では、JIS K2203に定められた1号灯油の規定から外れてしまう。なお、この煙点、及び引火点は、JIS K2537、及びJIS K2265に準拠してそれぞれ測定した値である。
【0014】
本発明における灯油組成物の総発熱量は、33〜38MJ/lであることが好ましい。総発熱量が33MJ/lより小さい場合、十分な暖房又は加熱ができず、燃料消費量が多くなるため好ましくない。また総発熱量が38MJ/lより大きい場合には、発熱が大きすぎ、現行のJIS1号灯油を使用することを目的に設計された暖房機器や石油給湯機器には適さない可能性があり好ましくない。
【0015】
本発明における灯油組成物の色相、50℃、3時間での銅板腐食試験等の、従来から灯油組成物の評価の指標とされている性状は、従来の灯油組成物の性状と同等であっても差し支えない。本発明の灯油組成物におけるこれらの各性状は、一般に、色相は+25以上(セーボルト色、JIS K2580)、50℃、3時間での銅板腐食は2未満(JIS K2513)であることが好ましい。
本発明の灯油組成物はさらに、120℃で48時間の銅板腐食試験の判定値が3未満であることが好ましい。かかる試験は、加熱浴の温度を120℃に設定し、試料と銅板を加熱浴に浸す時間を48時間とする以外は、JIS K2513に準拠して測定した値である。従来のJIS K2513の50℃、3時間での銅板腐食試験よりも苛酷な条件とすることで、バーナーから受ける輻射熱により燃料温度が上昇する環境下にある燃焼機器内での灯油組成物の腐食性を、加速的に評価したものである。
【0016】
本発明における灯油組成物の製造方法は、前記した性状を満足する限り特に制限されない。本発明の灯油組成物を製造する際の使用可能な原料油としては、例えば、原油の常圧蒸留から得られる直留灯油、直留灯油を水素化脱硫して得られる水素化脱硫灯油、水素化精製して得られる水素化精製灯油、直接脱硫装置から得られる直接脱硫灯油などが挙げられる。また、市販の溶剤を混合してもよい。これらの原料油を必要に応じて水素化脱硫することにより、本発明の灯油組成物を製造することができる。
上記本発明の灯油組成物製造のための水素化脱硫反応は、Co−Mo、Ni−Mo、Ni−Co−Mo触媒等の触媒の存在下で、2〜8MPa、好ましくは3〜6MPaの圧力下、220〜420℃、好ましくは250〜350℃の温度で、液空間速度(LHSV)0.3〜12h-1、好ましくは2〜10h-1の条件で行うことができる。
また、本発明の灯油組成物の製造に当って、特開平6−158058号に代表される公報に記載されたフィッシャー・トロプシュ合成により製造される灯油留分を混合してもよい。
【0017】
本発明における灯油組成物には、必要に応じて、各種の添加剤を適宜配合することができる。この添加剤としては、フェノール系、アミン系等の酸化防止剤、チオアミド化合物等の金属不活性剤、有機リン系化合物等の表面着火防止剤、コハク酸イミド、ポリアルキルアミン、ポリエーテルアミン、ポリイソブチレンアミン等の清浄分散剤、多価アルコール及びそのエーテル等の氷結防止剤、有機酸のアルカリ金属やアルカリ土類金属塩、高級アルコールの硫酸エステル等の助燃剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤等の帯電防止剤、アルケニル琥珀酸エステル等の錆止め剤、及びアゾ染料等の着色剤等、公知の燃料添加剤が挙げられる。これらを1 種又は数種組み合わせて添加することができる。これら燃料添加剤の添加量は任意であるが、通常、添加剤の合計量が灯油組成物の0.1質量%以下、好ましくは0.05質量%以下である。
【実施例】
【0018】
以下、実施例及び比較例によりさらに具体的に本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0019】
実施例1
中東系の原油から常圧蒸留により得た灯油留分(蒸留カットレンジ150〜270℃)を原料油とし、該原料油を水素化脱硫触媒として市販触媒(Co−Mo系)を用いて水素化処理して、水素化脱硫灯油組成物を得た。その諸性状を表1に示した。
【0020】
実施例2
中東系の原油(ただし実施例1とは原油種が異なる)から常圧蒸留により得た灯油留分(蒸留カットレンジ150〜250℃)を原料油とし、該原料油を水素化脱硫触媒として市販触媒(Co−Mo系)を用いて水素化処理して、水素化脱硫灯油組成物を得た。その諸性状を表1に示した。
【0021】
実施例3
実施例1で得た水素化脱硫灯油組成物に、フィッシャー・トロプシュ合成により得た炭素数30以上のワックス分を、水素化分解触媒として市販触媒(Pt/USYゼオライト系)を用いて水素化分解した後、蒸留により得た灯油留分(蒸留カットレンジ150〜250℃)を10容量%混合して灯油組成物を得た。その諸性状を表1に示した。
【0022】
比較例1
実施例1で得た水素化脱硫灯油組成物に、実施例1で中東系の原油から常圧蒸留により得た灯油留分(水素化脱硫前の灯油留分:全硫黄分約2400質量ppm、メルカプタンの硫黄分171質量ppm)を0.5容量%混合して灯油組成物を得た。その諸性状を表1に示した。
【0023】
実施例4、実施例5及び比較例2
実施例1で得た水素化脱硫灯油組成物に、n−ヘキシルメルカプタン(東京化成工業製、市販試薬)を所定量添加し、メルカプタン類の硫黄分を1.3質量ppm(実施例4)、2.0質量ppm(実施例5)及び2.6質量ppm(比較例2)にそれぞれ調整した水素化脱硫灯油組成物を得た。その諸性状を表1に示した。
【0024】
上記実施例、比較例で調製した灯油組成物について、50℃で3時間の銅板腐食試験及び120℃で48時間の銅板腐食試験を行った。その結果を表1に示した。
50℃で3時間の銅板腐食試験結果が、2以上であるか、又は120℃で48時間の銅板腐食試験結果が3以上であると、ファンヒーターなどの暖房機器や給湯機器などの複雑な燃焼機構を有し、複雑な燃焼制御が行われる機器を長時間使用する間に、これらの機器の燃焼部の材質が腐食され、燃焼状態に悪影響を及ぼすことにより、安定的な運転ができなくなる可能性がある。
【0025】
【表1】


【0026】
表1から明らかなように、チオフェンより重質でベンゾチオフェンより軽質な硫黄化合物の硫黄分が1質量ppmを超える比較例1では、120℃で48時間の銅板腐食試験が3に悪化する。また、実施例4及び実施例5と比較例2とを比較すると、チオフェンより重質でベンゾチオフェンより軽質な硫黄化合物の硫黄分が1質量ppm以下であっても、メルカプタンの硫黄分が増加し、2質量ppmを超えると、120℃で48時間の銅板腐食試験が3に悪化することがわかる。
【出願人】 【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
【出願日】 平成18年6月20日(2006.6.20)
【代理人】 【識別番号】100105647
【弁理士】
【氏名又は名称】小栗 昌平

【識別番号】100105474
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 弘徳

【識別番号】100108589
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 利光

【識別番号】100115107
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 猛


【公開番号】 特開2008−1752(P2008−1752A)
【公開日】 平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願番号】 特願2006−170360(P2006−170360)