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【発明の名称】 石油系重質油の熱分解処理方法および熱分解反応槽、並びに熱分解処理装置
【発明者】 【氏名】野村 誠

【氏名】味村 健一

【氏名】前川 宗則

【氏名】鈴木 直子

【氏名】八木 克典

【要約】 【課題】反応槽の内部における過熱スチームを好ましい分散状態に改善し、反応槽や反応槽出口分解ガス配管中でのコーク付着の抑制と、閉塞の防止を図ると共に、良質かつ均質なピッチを製造することができる石油系重質油の熱分解処理方法、熱分解反応槽および熱分解処理装置を提供すること。

【解決手段】加熱炉において450℃以上に加熱された後反応槽6に導入された石油系重質油に対し、反応槽6の底部から400〜700℃の過熱スチームを吹き込むことで、該過熱スチームを前記石油系重質油に直接接触させて油分とピッチとに熱分解する処理方法であって、前記過熱スチームを反応槽6底部から吹き込む際に、前記過熱スチームが反応槽6胴部の軸Sを中心にして旋回流(矢印B)を生じるように吹き込むことを特徴とする石油系重質油の熱分解処理方法である。また、当該熱分解処理方法に用いる熱分解反応槽、並びに該熱分解反応槽を備える熱分解処理装置である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉において450℃以上に加熱された後、少なくとも胴部が円筒状の反応槽に導入された石油系重質油に対して、前記反応槽の底部から400〜700℃の過熱スチームを吹き込むことで、該過熱スチームを前記石油系重質油に直接接触させて油分とピッチとに熱分解する石油系重質油の熱分解処理方法であって、
前記過熱スチームを前記反応槽底部から吹き込む際に、前記反応槽内部で前記過熱スチームが前記反応槽胴部の軸を中心にして旋回流を生じるように吹き込むことを特徴とする石油系重質油の熱分解処理方法。
【請求項2】
前記過熱スチームの前記反応槽底部からの吹き込みが、前記反応槽底部に設けられた該反応槽内と連通する1個または2個以上の吹き込み口を介して為され、
該吹き込み口からの前記過熱スチームの吹き込みが、前記反応槽胴部の軸と垂直で該吹き込み口を含む平面に対して平行または上方、かつ、前記反応槽の外壁との前記平面上における法線との成す角θが、0゜を超え90゜以下となる方向に向けられることを特徴とする請求項1に記載の石油系重質油の熱分解処理方法。
【請求項3】
前記成す角θが、20゜以上60゜以下であることを特徴とする請求項2に記載の石油系重質油の熱分解処理方法。
【請求項4】
加熱炉において450℃以上に加熱された後、少なくとも胴部が円筒状の反応槽に導入された石油系重質油に対して、前記反応槽の底部から400〜700℃の過熱スチームを吹き込むことで、該過熱スチームを前記石油系重質油に直接接触させて油分とピッチとに熱分解する石油系重質油の熱分解処理方法に供する前記反応槽であって、
前記過熱スチームを前記反応槽底部から吹き込む際に、前記反応槽内部で前記過熱スチームが前記反応槽胴部の軸を中心にして旋回流を生じるように吹き込むスチーム吹き込み手段が配されてなることを特徴とする石油系重質油の熱分解反応槽。
【請求項5】
前記スチーム吹き込み手段が、前記反応槽底部に設けられた該反応槽内と吹き込み口を介して連通する1個または2個以上のパイプ状の吹き込みノズルから前記反応層内に前記過熱スチームを吹き込む手段であり、
前記吹き込みノズルが、前記反応槽胴部の軸と垂直で該吹き込み口を含む平面に対して平行または上方、かつ、前記反応槽の外壁との前記平面上における法線との成す角θが、0゜を超え90゜以下となる方向に向けられてなることを特徴とする請求項4に記載の石油系重質油の熱分解反応槽。
【請求項6】
前記成す角θが、20゜以上60゜以下であることを特徴とする請求項5に記載の石油系重質油の熱分解反応槽。
【請求項7】
少なくとも、石油系重質油を450℃以上に加熱する加熱炉と、加熱された石油系重質油が導入され、底部から400〜700℃の過熱スチームを吹き込むことで、該過熱スチームを前記石油系重質油に直接接触させて油分とピッチとに熱分解する反応槽と、を備える熱分解処理装置であって、
前記反応槽が、請求項4〜6のいずれかに記載の石油系重質油の熱分解反応槽であることを特徴とする熱分解処理装置。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は石油系重質油の熱分解処理方法、およびそれに用いる熱分解反応槽、並びに該熱分解反応槽を備える熱分解処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硫黄含有量の多い石油アスファルトなどの付加価値が乏しい石油系重質油ないし残渣油は、そのまま燃料として用いた場合に環境への影響が大きい。そのため、このような石油系重質油(残渣油を含む。以下同様。)は、分解して各種の有用な工業用原料に変換することが行われており、その1つの手法として、熱分解処理が挙げられる。
【0003】
石油系重質油を熱分解処理する方法としては、加熱炉と反応槽とを備え、加熱炉を通して供給される石油系重質油を反応槽に導入して熱分解処理する方法が提案されている(特許文献1参照)。この熱分解処理方法においては、石油系重質油を加熱炉にて450℃より高い温度で分解反応率30〜45%となるようにしてから反応槽に導入している。反応槽に張り込まれたこの石油系重質油は、反応槽底部より吹き込まれる500〜700℃の過熱スチームと直接接触して熱分解され、脂肪族炭化水素を主成分とする分解生成物であるガス状物質と芳香族性ピッチが生成される。生成したガス状物質はスチームとともに反応槽の上部排出口より排出され、蒸留塔へ導入されて蒸留分離に供される。
【0004】
図14に、従来の石油系重質油の熱分解処理方法に供する反応槽の模式斜視図を示す。図14に示されるように、反応槽106は、胴部が円筒形状で底部がすぼまった形状を有する反応槽本体116の当該底部に、反応槽本体116の内部と連通する吹き込みノズル114が接続されている。反応槽本体116の内部に石油系重質油が張り込まれた状態で、吹き込みノズル114から過熱スチームが吹き込まれる。この反応槽底部より吹き込まれる過熱スチームの役割は、石油系重質油の加熱と分解生成物の速やかな排出である。
【0005】
従来の石油系重質油の熱分解処理方法において、過熱スチームは、吹き込みノズル114から反応槽本体116の中心軸(図中一点鎖線S’)やや上方へ向けて(矢印C’方向)吹き込まれ、矢印E方向への大きな推進力が生じる。しかし、この過熱スチームの挙動は、反応槽106中央部に吹き抜けを生じたり、反応槽本体116内部の一部に重質油の滞留部が生じたりする等分散状態に偏りが生じ易く、好ましい分散状態ではなかった。過熱スチームの分散状態に偏りが生じると、加熱ムラと分解生成物の排出の遅れを生じ、コーキングが起こり易くなるばかりか、キノリン不溶分も増加してピッチの品質が低下するという問題があった。さらに吹き抜けによるエントレが多く、当該反応槽の後工程における分解ガス配管中でのコーク付着が生じ易く、また、閉塞発生の懸念もある。
【0006】
【特許文献1】特公平7−116450号公報
【特許文献2】特公昭54−15444号公報
【特許文献3】特公昭57−15795号公報
【特許文献4】特公昭63−38076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は上記従来技術の欠点を引き起こしている反応槽への過熱スチームの吹き込みを改良して、反応槽の内部における過熱スチームを好ましい分散状態に改善することで、反応槽や反応槽出口分解ガス配管中でのコーク付着の抑制と、閉塞の防止を図ると共に、良質かつ均質なピッチを製造することができる石油系重質油の熱分解処理方法、およびそれに用いる熱分解反応槽、並びに該熱分解反応槽を備える熱分解処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、以下の本発明により達成される。
すなわち、本発明の石油系重質油の熱分解処理方法(以下、単に「本発明の熱分解処理方法」という場合がある。)は、加熱炉において450℃以上に加熱された後、少なくとも胴部が円筒状の反応槽に導入された石油系重質油に対して、前記反応槽の底部から400〜700℃の過熱スチームを吹き込むことで、該過熱スチームを前記石油系重質油に直接接触させて油分とピッチとに熱分解する石油系重質油の熱分解処理方法であって、
前記過熱スチームを前記反応槽底部から吹き込む際に、前記反応槽内部で前記過熱スチームが前記反応槽胴部の軸を中心にして旋回流を生じるように吹き込むことを特徴とする。
【0009】
本発明の熱分解処理方法によれば、前記過熱スチームが前記反応槽胴部の軸を中心にして旋回流を生じるように前記過熱スチームを吹き込むことで、前記反応槽内部で旋回流による攪拌効果が生まれ、過熱スチームの分散状態が改善される。そのため、分解生成物の速やかな排出と、それによる石油系重質油の分解の促進とが達成されるので、良質かつ均質なピッチを製造することができる。
【0010】
また、過熱スチームが、均一に分散しながら前記反応槽内部に拡がるので、過熱スチームの吹き抜けが生じることも無く速やかな排出が達成され、エントレが減少し、反応槽や反応槽出口分解ガス配管中でのコーク付着の抑制と、閉塞の防止を図ることができる。
【0011】
本発明において、前記過熱スチームの前記反応槽底部からの吹き込みとしては、前記反応槽底部に設けられた該反応槽内と連通する1個または2個以上の吹き込み口を介して為され、該吹き込み口からの前記過熱スチームの吹き込みが、前記反応槽胴部の軸と垂直で該吹き込み口を含む平面に対して平行または上方、かつ、前記反応槽の外壁との前記平面上における法線との成す角θが、0゜を超え90゜以下となる方向に向けられる。
前記過熱スチームを吹き込む際の角度を適切な方向に傾けることで、前記過熱スチームが前記反応槽胴部の軸を中心にした旋回流を生じるようにすることができる。このとき、前記成す角θとしては、20゜以上60゜以下であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の石油系重質油の熱分解反応槽(以下、単に「本発明の熱分解反応槽」あるいは「本発明の反応槽」という場合がある。)は、加熱炉において450℃以上に加熱された後、少なくとも胴部が円筒状の反応槽に導入された石油系重質油に対して、前記反応槽の底部から400〜700℃の過熱スチームを吹き込むことで、該過熱スチームを前記石油系重質油に直接接触させて油分とピッチとに熱分解する石油系重質油の熱分解処理方法に供する前記反応槽であって、
前記過熱スチームを前記反応槽底部から吹き込む際に、前記反応槽内部で前記過熱スチームが前記反応槽胴部の軸を中心にして旋回流を生じるように吹き込むスチーム吹き込み手段が配されてなることを特徴とする。
【0013】
本発明の熱分解反応槽によれば、上記のようなスチーム吹き込み手段が配されているため、前記過熱スチームが前記反応槽胴部の軸を中心にして旋回流が生じ、攪拌効果が生まれ、過熱スチームの分散状態が改善される。そのため、分解生成物の速やかな排出と、それによる石油系重質油の分解の促進とが達成され、良質かつ均質なピッチを製造することができる。また、過熱スチームが、均一に分散しながら内部に拡がるので、過熱スチームの吹き抜けが生じることも無く速やかな排出が達成され、エントレが減少し、反応槽や反応槽出口分解ガス配管中でのコーク付着の抑制と、閉塞の防止を図ることができる。
【0014】
前記スチーム吹き込み手段としては、前記反応槽底部に設けられた該反応槽内と吹き込み口を介して連通する1個または2個以上のパイプ状の吹き込みノズルから前記反応層内に前記過熱スチームを吹き込む手段とすることができ、この場合、前記吹き込みノズルとしては、前記反応槽胴部の軸と垂直で該吹き込み口を含む平面に対して平行または上方、かつ、前記反応槽の外壁との前記平面上における法線との成す角θが、0゜を超え90゜以下となる方向に向けられてなり、20゜以上60゜以下となる方向に向けられてなることが好ましい。
前記吹き込みノズルの角度を適切な方向に傾けることで、前記過熱スチームを吹き込む際の角度を適切に制御することができ、前記過熱スチームが前記反応槽胴部の軸を中心にした旋回流を生じるようにすることができる。
【0015】
一方、本発明の石油系重質油の熱分解処理装置(以下、単に「本発明の熱分解処理装置」という場合がある。)は、少なくとも、石油系重質油を450℃以上に加熱する加熱炉と、加熱された石油系重質油が導入され、底部から400〜700℃の過熱スチームを吹き込むことで、該過熱スチームを前記石油系重質油に直接接触させて油分とピッチとに熱分解する反応槽と、を備える熱分解処理装置であって、
前記反応槽が、上記本発明の石油系重質油の熱分解反応槽であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の石油系重質油の熱分解処理方法および熱分解反応槽、並びに熱分解処理装置によれば、反応槽の底部より旋回流にて過熱スチームを吹き込む構成なので、反応槽内部において過熱スチームが均一分散され、分解生成物の速やかな排出と、それによる石油系重質油の分解の促進とが達成される。そのため、反応槽や反応槽出口ライン等でのコークの付着・閉塞の抑制と良質で均質なピッチの製造を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を図面に則して詳細に説明する。
まず、本発明の石油系重質油の熱分解処理方法ないし熱分解処理装置について、その全体的なフローを説明してから、本発明に特徴的な熱分解反応槽の構成について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の石油系重質油の熱分解処理方法ないし熱分解処理装置の全体構成を説明するためのフローシートである。
原料タンク1より送られた原料油(石油系重質油)は、原料予熱炉2により350℃程度に予熱され蒸留塔3に入る。ここでリサイクル油として塔底に落ちてくる分解油のヘビーエンド留分と混合される。このリサイクル油の原料に対する比率は0.05〜0.25、好ましくは0.10〜0.20である。
【0019】
リサイクル油と混合された原料油は、管状加熱炉(加熱炉)4に送られる。管状加熱炉4では、原料油を480〜500℃、好ましくは490〜500℃の温度にまで加熱し分解する。管状加熱炉4における出口圧力は、常圧〜0.4MPa程度であり、反応時間は通常0.5〜10分、好ましくは2〜5分程度である。
【0020】
管状加熱炉4で得られた高温の熱分解処理生成物(石油系重質油)は、切替弁5を介して所定の反応槽(熱分解反応槽)6,6’にフラッシュさせながら導入するが、その導入に先立ち、蒸留塔3の塔底より切替弁7を介して、原料油を予め部分的に張り込むこと(予備張込)が好ましい。この張込量としては、反応槽6,6’の全張込量の5〜18容積%、好ましくは10〜15容積%である。また、その予備張込の原料油の温度としては、約340℃である。切替弁5,7はそれぞれ一定時間毎に作動し、予備張込の原料油および管状加熱炉4からの熱分解処理生成物を2つの反応槽6,6’に対しそれぞれ周期的に交互に張り込む。このような周期的な操作により、管状加熱炉4から連続的に供給される熱分解処理生成物の反応槽における熱分解処理が連続的に実施される。
【0021】
反応槽6,6’は、胴部が円筒型で底部がすぼまった形状(端部に向かうにしたがって、その断面の径が漸次小さくなって行く形状)をした容器であり、原料導入口、熱媒体ガス導入口、分解ガス、分解油および熱媒体ガスの排出口、並びに残留物取出口が設けられている。また、必要に応じて、攪拌機を設置することができる。
熱媒体ガスとしての過熱スチームは、スチームスーパーヒーター8により400〜700℃に加熱された後、バルブ9,9’を介して反応槽6,6’に吹き込まれる。
【0022】
管状加熱炉4からの熱分解処理生成物を反応槽6,6’に張り込む際、張込む直前の反応槽6,6’内の予備張込物の温度は約340℃である。この張込の開始と共に、反応槽内の温度は430〜440℃にまで上昇し、槽内に導入された熱分解処理生成物の分解反応および重縮合反応がさらに進行する。
【0023】
この1回の張込時間は、50〜120分、好ましくは60〜90分程度に設定することが好ましい。この張込終了時には、槽内残留物(以下、単に「ピッチ」とも言う。)の軟化点は上昇する。この張込終了後も過熱スチームの吹込みを続けて、さらに反応を進行させる。この張込後の反応時間としては、張込時間の15%〜45%、好ましくは25%〜45%の割合の時間に規定することが好ましい。
【0024】
管状加熱炉からの熱分解処理生成物は、相当の熱分解反応を受け、しかも温度が高いため、反応槽6,6’に対する張込時間を長くすると、張込後の反応時間(保持時間)を殆ど用いる必要のないものであるが、このようにして得たピッチは均質性の悪いものになりやすい。そこで、均質のピッチを得るために、張込時間を50〜120分に制限し、そして張込終了後、張込時間の15〜45%程度の時間は過熱スチームの吹き込みを継続して熱分解処理を継続させる。
【0025】
反応槽6,6’に供給する過熱スチームの温度は400〜700℃であり、比較的低温のスチームの使用で十分である。また、その供給量も少なくてすみ、管状加熱炉4と反応槽6,6’に対する合計原料油供給量1kgに対する割合で、0.08〜0.15kgの割合で十分である。
管状加熱炉4からの熱分解生成物の張込中およびその後の反応処理中において、熱分解生成物のうちのガス状物質およびスチームは、反応槽6,6’の上部排出口から留出され、蒸留塔3へ送られる。
【0026】
反応槽6,6’における反応終了後、反応槽6,6’の冷却(クエンチ)を開始し、反応槽6,6’の温度を320〜380℃に降下させて反応を実質的に停止させた後、反応槽6,6’内のピッチを直ちに液状ピッチ貯槽10に移す。この液状ピッチ貯槽10は、攪拌機を有し、反応槽6,6’からのピッチを交互に受取り、均一に混合する機能も有する。また、その底部から過熱スチームを吹込み、槽内ピッチ温度を300〜370℃に保持して、液状に保持すると共に、ピッチ中から軽質留分をストリッピングさせ、これをライン11を介して蒸留塔3へ送る。液状ピッチ貯槽10内のピッチは、ピッチ固化設備12で冷却固化された後ピッチ貯蔵設備13に送られる。
【0027】
以下、本発明に特徴的な熱分解反応槽の構成について詳細に説明する。なお、以下の説明においては、図1における反応槽6のみについて説明するが、反応槽6と反応槽6’とでは構成が同一であり、反応槽6の説明はそのまま反応槽6’にも当て嵌まる。
図2は、本発明の石油系重質油の熱分解処理方法ないし熱分解処理装置に供する本発明の熱分解反応槽の例示的一態様を示す実施形態の模式斜視図である。
【0028】
図2に示されるように、反応槽(熱分解反応槽)6は、胴部(反応槽における内径が同一の領域を言う。図2にTL1からTL2までの間。)が円筒形状で底部がすぼまった形状を有する反応槽本体16の当該底部に、反応槽本体16の内部と吹き込み口18a,18bを介して連通する吹き込みノズル14a,14bが接続されている。既述のように、反応槽本体16の内部に石油系重質油が張り込まれた状態(図2中のOLが液面を示す。)で、吹き込みノズル14a,14bから過熱スチームが吹き込まれる。
【0029】
なお、図2に記された寸法は、後述する実施例に供した反応槽の実際の寸法を示すものである。また、図中の符号Sが付された一点鎖線は、反応槽本体16(の胴部)の中心軸Sを、符号Ta,Tbが付された二点鎖線は、反応槽本体16における吹き込み口18aまたは吹き込み口18bの位置する高さを示す線を、それぞれ表す。符号Ta,Tbについては、対応する二点鎖線を含む平面を指すものとし、平面Taおよび平面Tbと表記することにする。
【0030】
図3に、図2に示された反応槽6の底面図(底部側から見た平面図)を示す。
図2および図3に示されるように、本実施形態において、吹き込みノズル14a,14bは、反応槽本体16の底部に上下2段に各8本ずつ配されている。また、吹き込みノズル14a,14bの軸は、それぞれ全て、中心軸Sの垂線であって吹き込み口18aまたは吹き込み口18bを通る直線(すなわち、平面Ta,Tbにおける反応槽本体16の外壁との法線)Uに対する成す角が30゜になっている。このように吹き込みノズル14a,14bの向きを設定することで、ここから反応槽本体16内部に吹き込まれる過熱スチームも同じように、直線Uに対する成す角θが30゜になる方向(図2および図3における矢印C方向)に向けられる。
【0031】
図4に、図3に示された反応槽6の底部近傍のD−D矢視断面図を示す。ただし、当該図4は、吹き込みノズル14a,14bの向きを説明するための図面なので、1本の吹き込みノズル14aのみを表し、他の吹き込みノズルの図示は省略している。また、同様の理由で反応槽6の右半分のみ表し、左半分の図示は省略している。
【0032】
図4に示されるように、吹き込みノズル14aは、中心軸Sと垂直で吹き込み口18aを含む平面Taに対して平行またはやや上方に向けられている。本実施形態において、吹き込みノズル14aの上方に向けられる角度、すなわち、吹き込みノズル14aの軸と平面Taとの成す角δは0゜(平面Taに対して平行)になっている。なお、この成す角δは、他の吹き込みノズル14a,14bも、それぞれ全て同じ角度である。このように吹き込みノズル14a,14bの向きを設定することで、ここから反応槽本体16内部に吹き込まれる過熱スチームも同じように、平面Ta,Tbに対する成す角θが0゜になる方向(図2および図4における矢印C方向)に向けられる。
【0033】
反応槽本体16への過熱スチームの吹き込みが、このように行われると、反応槽本体16内では矢印B方向に中心軸Sを中心にした旋回流が生じる。過熱スチームが旋回流を生じることで、反応槽本体16内部において過熱スチームが均一分散され、分解生成物の速やかな排出と、それによる石油系重質油の分解の促進とが達成される。そのため、反応槽6や反応槽6出口ライン(図1におけるライン15の配管や蒸留塔3)等でのコークの付着・閉塞の抑制を実現することができ、併せて良質で均質なピッチを製造することができる。
【0034】
一方、図14に示されるような従来の石油系重質油の熱分解処理方法に供する反応槽106について、過熱スチームの吹き込み状態を説明する。図5に、図14に示された反応槽106の底面図(底部側から見た平面図)を示す。
図5および図14に示されるように、吹き込みノズル114は、反応槽本体116の底部に同じ高さ(1段)に16本配されている。また、吹き込みノズル114は、それぞれ全て中心軸S’に向いている{換言すれば、吹き込みノズル114の軸と、中心軸S’ の垂線であって吹き込みノズル114の吹き出し口(反応槽本体116における吹き込み口。以下同様。)を通る直線(すなわち、平面T’における反応槽本体116の外壁との法線)U’と、の成す角が0゜になっている}。このように吹き込みノズル114の向きが設定されているため、ここから反応槽本体16内部に吹き込まれる過熱スチームも同じように、中心軸S’に向かう。
【0035】
図6に、図5に示された反応槽106の底部近傍のD’−D’矢視断面図を示す。ただし、当該図6は、吹き込みノズル114の向きを説明するための図面なので、1本の吹き込みノズル114のみを表し、他の吹き込みノズルの図示は省略している。また、同様の理由で反応槽106の右半分のみ表し、左半分の図示は省略している。
【0036】
図6に示されるように、吹き込みノズル114は、中心軸S’と垂直でノズル114の吹き出し口を含む平面T’に対して上方に向けられている。この従来例において、吹き込みノズル114の上方に向けられる角度、すなわち吹き込みノズル114と平面Taとの成す角δは45゜になっている。なお、この成す角δは、他の吹き込みノズル114も、それぞれ全て同じ角度である。このように吹き込みノズル114の向きを設定することで、ここから反応槽本体116内部に吹き込まれる過熱スチームも同じように、平面T’に対する成す角θが45゜になる方向(図14および図6における矢印C’方向)に向けられる。
【0037】
反応槽本体16への過熱スチームの吹き込みが、この従来例のように、反応槽本体116の中心軸S’やや上方へ向けて(矢印C’方向)為されると、この吹き込み力が中心軸S’近傍で束になり、図14における矢印E方向への推進力が生じる。したがって、この過熱スチームの挙動は、反応槽106中央部に吹き抜けを生じたり、反応槽本体116内部の一部に重質油の滞留部が生じたりする等分散状態に偏りが生じ易い。反応槽本体116内における過熱スチームの分散状態に偏りが生じると、混合ムラと分解生成物の排出の遅れを生じ、コーキングが起こり易くなるばかりか、キノリン不溶分も増加してピッチの品質が低下する。さらに吹き抜けによるエントレが多く、当該反応槽の後工程における分解ガス配管中でのコーク付着が生じ易く、また、閉塞発生の懸念もある。
【0038】
しかし、本発明では、図2〜図4を用いて説明した本実施形態のように反応槽本体16内で旋回流が生じるように過熱スチームが吹き込まれるため、反応槽本体16内で攪拌力が生じ、反応槽本体16内部において過熱スチームが均一分散される。したがって、分解生成物の速やかな排出と、それによる石油系重質油の分解の促進とが達成され、反応槽6や反応槽6出口ライン等でのコークの付着・閉塞の抑制を実現することができ、併せて良質で均質なピッチを製造することができる。
【0039】
なお、本実施形態において挙げた吹き込みノズル14a,14bの向き(「過熱スチームの吹き込み方向」と同義。以下、この事に関して省略。)は、あくまで一例であり、本発明においては、前記反応槽内部で前記過熱スチームが前記反応槽胴部の軸を中心にして旋回流を生じるような条件であれば、その角度は制限されない。装置設計の際に最適な旋回流の状態となるように、適宜好ましい条件を選択すればよい。
【0040】
具体的に、図3における吹き込みノズル14a,14bの軸と直線Uとの成す角θとしては、吹き込みノズル14a,14bの向きに傾きを持たせるためには0゜を超え90゜以下の範囲内であればよいが、20゜以上60゜以下であることが好ましく、25゜以上50゜以下であることがより好ましい。
【0041】
成す角θがあまりに小さ過ぎると、過熱スチームに旋回流を与える方向の力が不足し易く、適切な旋回流が生じにくくなるため好ましくない。逆に、成す角θがあまりに大き過ぎると、吹き込みノズル14a,14bにより吹き込み口18a,18bから吹き込まれた過熱スチームが、反応槽本体16内壁に作用して、時に完全に衝突して、反応槽本体16内壁を浸食してしまう虞があるため好ましくない。
【0042】
また、図4における吹き込みノズル14aの軸と平面Taとの成す角δとしては、吹き込みノズル14aを平行からやや上方に向けるためには0゜以上であればよく、30゜以下であることが好ましく、15゜以下であることがより好ましい。
【0043】
成す角δがあまりに大き過ぎると、過熱スチームの上方への推進力ばかりが強くなり、過熱スチームに旋回流を与える方向の力が相対的に低くなり、適切な旋回流が生じにくくなるため好ましくない。
【0044】
以上、好ましい実施形態を挙げて、本発明の石油系重質油の熱分解処理方法および熱分解反応槽、並びに熱分解処理装置について説明したが、本発明は上記実施形態の構成に限定されるものではなく、当業者は公知技術を転用して様々な置換や改変を施すことができる。例えば、上記実施形態においては、吹き込みノズルの本数が上下2段各8本ずつの例を挙げているが、吹き込みノズルの本数は16本に限定されるものではない。また、上下2段に分けることに限定されるものでもなく、1段のみであっても3段以上に分けても構わない。
勿論、如何なる置換や改変を施した場合であってお、本発明の構成を具備する限り、本発明の技術的範囲に属するものである。
【実施例】
【0045】
本発明の作用並びに効果を検証するため、CFDシミュレーション(商用ソフトであるANSYS社のCFXを用いたシミュレーション)により、以下に示す実施例および比較例の効果確認検討を行った。勿論、本発明はかかる実施例の内容により限定されるものではない。
【0046】
実施例の反応槽として、図2に示す形状・構造の物を使用した。一方、従来例の反応槽として、図14に示す形状・構造の物を使用した。
なお、比較例の反応槽について、図14には寸法の表記が無いが、実施例の反応槽である図2の寸法と同一である(図2においてOLは液面、TL1は胴部の下端、TL2は胴部の上端をそれぞれ示す。)。
【0047】
また、図2に表記の無い寸法等の各種条件は、下記の通りである。
・内径:5m
・底部のすぼまりの傾斜角(中心軸S,S’との成す角):45°
・過熱スチームの温度:434℃
・過熱スチームの吹込圧:60kPaG
【0048】
実施例の反応槽の吹き込みノズル14a,14bの配置は、図3および図4に示すとおりであり、より具体的には、吹き込み口18a,18bのTL1からの高さが、吹き込み口18aは−1.5m、吹き込み口18bは−2.5mである。
一方、比較例の反応槽の吹き込みノズル114の配置は、図5および図6に示すとおりであり、より具体的には、吹き込みノズル114の吹き出し口のTL1からの高さが−2.15mである。
なお、実施例および比較例のいずれの吹き込みノズルも、内径28.4mmの物を用いた。
【0049】
以上の実施例および比較例の各反応槽に、原料油(石油系重質油)を管状加熱炉4で加熱して得られた熱分解処理生成物を張り込み、上記所定の条件で過熱スチームを吹き込んだ。このときのガスのボリューム・フラクション(Vol.Frac.:ガスの容積占有割合)を算出した。算出ポイントは、図7に示される(1)面、(2)面および(3)面の3つの面とした。ここで、図7は、実施例および比較例の反応槽6,106について、効果確認検討におけるガスのボリューム・フラクションの算出部位を説明するための模式斜視図である。
【0050】
より詳しくは、(1)面、(2)面および(3)面の3つの面について、中心軸S,S’との交点を原点とする任意の直線をX軸、そのX軸と直交する直線をY軸として、これらX軸(X座標)およびY軸(Y座標)上におけるガスのボリューム・フラクションを算出した。
【0051】
実施例および比較例の反応槽内部における過熱スチームの半径方向に対する分散状態の算出結果を、図8〜図13にグラフにて示す。詳しくは、(1)面(TL1面)のX座標の算出結果を図8、およびY座標の算出結果を図9、(2)面(TL1から1.5m上方の面)のX座標の算出結果を図10、およびY座標の算出結果を図11、(3)面(TL1から3m上方の面)のX座標の算出結果を図12、およびY座標の算出結果を図13に、それぞれグラフにて示す。
なお、各グラフにおいて、X座標あるいはY座標の0.0の点が原点(中心軸S,S’との交点)であり、X座標あるいはY座標の数値は、当該原点からの距離(単位:m)を示すものである。
【0052】
また、(1)面、(2)面および(3)面の3つの面内での中心(原点)、中心からX軸方向+1m地点(X座標+1.0)、および中心からX軸方向+2m地点(X座標+2.0)におけるガスのボリューム・フラクションの算出結果を下記表1に示す。
【0053】
【表1】


【0054】
図8〜図13に示すグラフおよび上記表1の結果から、比較例では反応槽106の中心軸S’付近にガスが集中しており、中央部付近でガスの吹き抜けが起きている(ボイド率が高い)ことがわかる。これに対して、実施例では、グラフの凹凸が比較例よりも格段に緩やかであり、中心軸Sと垂直な面内でガスが良く拡散していることがわかる。
【0055】
この結果から、本発明の特徴的な構成を具備する実施例の反応槽6では、底部より旋回流にて過熱スチームを吹き込む構成なので、比較例の反応槽106のような中央部付近でのガスの吹き抜けが生じることが無く、反応槽6内部において過熱スチームが均一分散されていることがわかる。このことから、分解生成物の速やかな排出と、それによる石油系重質油の分解の促進とが達成され、反応槽6や反応槽6出口ライン等でのコークの付着・閉塞が抑制されると共に、良質で均質なピッチを製造することができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の石油系重質油の熱分解処理方法ないし熱分解処理装置の全体構成を説明するためのフローシートである。
【図2】本発明の石油系重質油の熱分解処理方法ないし熱分解処理装置に供する本発明の熱分解反応槽の例示的一態様を示す模式斜視図である。
【図3】図2に示された熱分解反応槽の底面図である。
【図4】図3に示された熱分解反応槽の底部近傍のD−D矢視断面図であり、説明の便宜のため、吹き込みノズルは1本のみが表され、かつ、左半分の図示が省略されている。
【図5】従来の石油系重質油の熱分解処理方法に供する図Aに示された熱分解反応槽の底面図である。
【図6】図5に示された熱分解反応槽の底部近傍のD’−D’矢視断面図であり、説明の便宜のため、吹き込みノズルは1本のみが表され、かつ、左半分の図示が省略されている。
【図7】実施例および比較例の熱分解反応槽について、効果確認検討におけるガスのボリューム・フラクションの算出部位を説明するための模式斜視図である。
【図8】実施例および比較例の熱分解反応槽について、効果確認検討の結果を示すグラフであり、(1)TL1面のX座標の算出結果をプロットしたものである。
【図9】実施例および比較例の熱分解反応槽について、効果確認検討の結果を示すグラフであり、(1)TL1面のY座標の算出結果をプロットしたものである。
【図10】実施例および比較例の熱分解反応槽について、効果確認検討の結果を示すグラフであり、(2)TL1から1.5m上方の面のX座標の算出結果をプロットしたものである。
【図11】実施例および比較例の熱分解反応槽について、効果確認検討の結果を示すグラフであり、(2)TL1から1.5m上方の面のY座標の算出結果をプロットしたものである。
【図12】実施例および比較例の熱分解反応槽について、効果確認検討の結果を示すグラフであり、(3)TL1から3m上方の面のX座標の算出結果をプロットしたものである。
【図13】実施例および比較例の熱分解反応槽について、効果確認検討の結果を示すグラフであり、(3)TL1から3m上方の面のY座標の算出結果をプロットしたものである。
【図14】従来の石油系重質油の熱分解処理方法に供する反応槽を示す模式斜視図である。
【符号の説明】
【0057】
1:原料タンク、 2:原料予熱炉、 3:蒸留塔、 4:管状加熱炉(加熱炉)、 5,7:切替弁、 6,6’,106:反応槽(熱分解反応槽)、 8:スチームスーパーヒーター、 9,9’:バルブ、 10:液状ピッチ貯槽、 11,15:ライン、 12:ピッチ固化設備、 13:後ピッチ貯蔵設備、 14a,14b,114:吹き込みノズル、 16,116:反応槽本体、 18a,18b:吹き込み口
【出願人】 【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
【識別番号】391030480
【氏名又は名称】富士石油株式会社
【出願日】 平成18年9月28日(2006.9.28)
【代理人】 【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫

【識別番号】100087343
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 智廣

【識別番号】100110733
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥野 正司


【公開番号】 特開2008−81629(P2008−81629A)
【公開日】 平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願番号】 特願2006−264139(P2006−264139)