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【発明の名称】 繊維樹脂複合材料
【発明者】 【氏名】矢野 浩之

【氏名】能木 雅也

【氏名】伊福 伸介

【氏名】阿部 賢太郎

【氏名】半田 敬信

【要約】 【課題】透明性に優れ、高強度、軽量である上に、熱膨張係数が極めて小さく、高弾性で破壊エネルギー(破壊歪)が非常に大きな繊維樹脂複合材料を提供する。

【構成】ナノファイバーシートに非結晶性合成樹脂を含浸させてなる繊維樹脂複合材料。非結晶性合成樹脂の50μm厚での平行光線透過率が70%以上であり、ナノファイバーシートのヤング率が非結晶性合成樹脂のヤング率の9倍以上である。ナノファイバーシートに光透過性に優れた非結晶性合成樹脂を含浸させてなるものであるため、透明性が高い。ナノファイバーシートと樹脂との複合材料であることから、軽量であると共に高強度、高弾性である。ヤング率が大きく異なるナノファイバーシートと非結晶性合成樹脂とを複合化することにより、弾性率(ヤング率)が高く、しかも線熱膨張係数がナノファイバーに近い極めて低熱膨張性であり、かつ透明な材料を実現することが可能となった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノファイバーの不織布(以下「ナノファイバーシート」と称す。)に非結晶性合成樹脂を含浸させてなる繊維樹脂複合材料において、
該非結晶性合成樹脂の50μm厚での平行光線透過率が70%以上であり、
前記ナノファイバーシートのヤング率が該非結晶性合成樹脂のヤング率の9倍以上であることを特徴とする繊維樹脂複合材料。
【請求項2】
請求項1において、前記非結晶性合成樹脂の線熱膨張係数が30ppm/K以上であり、前記ナノファイバーシートの線熱膨張係数が15ppm/K以下であることを特徴とする繊維樹脂複合材料。
【請求項3】
請求項1又は2において、ヤング率が0.1〜10GPaであることを特徴とする繊維樹脂複合材料。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、線熱膨張係数が15ppm/K以下であることを特徴とする繊維樹脂複合材料。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記ナノファイバーの含有率が8重量%以上であることを特徴とする繊維樹脂複合材料。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、破壊歪が、前記ナノファイバーシートの破壊歪及び前記非結晶性合成樹脂の破壊歪よりも大きいことを特徴とする繊維樹脂複合材料。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明はナノファイバーの不織布(以下「ナノファイバーシート」と称す。)に非結晶性合成樹脂を含浸硬化させて得られる繊維樹脂複合材料に係り、詳しくは、高い弾性率と破壊歪を有すると共に、ガラスに近い低線熱膨張係数を有する高透明性材料であることから、配線基材材料、移動体用窓材料等として有用な繊維樹脂複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料として最も一般的なものに、ガラス繊維に樹脂を含浸させたガラス繊維強化樹脂が知られている。通常、このガラス繊維強化樹脂は不透明なものであるが、ガラス繊維の屈折率とマトリクス樹脂の屈折率とを一致させて、透明なガラス繊維強化樹脂を得る方法が、特許文献1や特許文献2に開示されている。
【0003】
ところで、LEDの実装に用いられる配線基板には、低熱膨張性、高強度、高弾性、軽量性等が要求される。また、内蔵受動素子のトリミング等のために透明性が要求される場合がある。しかし、ガラス繊維強化樹脂では、低熱膨張性、高強度を満たすことはできても、軽量性を満たすことはできない。また、通常のガラス繊維補強では、繊維径がマイクロサイズのため、特定の雰囲気温度、特定の波長域以外では透明にならず、実用上透明性は不十分であった。
【0004】
このような状況において、本出願人は先に、温度や可視波長域にかかわらず、また組み合わせる樹脂材料の屈折率にさほど影響を受けることなく、優れた透明性を示し、かつ表面平滑性にも優れ、低熱膨張性で、高強度、軽量な繊維強化複合材料として、平均繊維径が4〜200nmの繊維とマトリクス材料とを含有し、50μm厚換算における波長400〜700nmの光線透過率が60%以上である繊維強化複合材料を提案した(特開2005−60680号公報)。
【特許文献1】特開平9−207234号公報
【特許文献2】特開平7−156279号公報
【特許文献3】特開2005−60680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2005−60680号公報に提案される繊維強化複合材料であれば、透明性に優れ、低熱膨張性で、高強度、かつ軽量であるため、配線基板等の要求特性を満たし得るが、より一層の特性の改良が望まれる。
【0006】
本発明は、透明性に優れ、高強度、軽量である上に、熱膨張係数がより一層小さく、高弾性で破壊エネルギー(破壊歪)が非常に大きな繊維樹脂複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ナノファイバーシートに、このナノファイバーシートとヤング率が大きく異なり、かつ高透明性の非結晶性合成樹脂を含浸させて得られる繊維樹脂複合材料は、ナノファイバーシート及び非結晶性合成樹脂の各々の破壊歪よりも大きな破壊歪を示す上に、更に熱膨張係数が低減された高弾性の材料となることを見出した。
【0008】
本発明は、このような知見に基くものであり、以下を要旨とする。
【0009】
(1) ナノファイバーの不織布(以下「ナノファイバーシート」と称す。)に非結晶性合成樹脂を含浸させてなる繊維樹脂複合材料において、
該非結晶性合成樹脂の50μm厚での平行光線透過率が70%以上であり、
前記ナノファイバーシートのヤング率が該非結晶性合成樹脂のヤング率の9倍以上であることを特徴とする繊維樹脂複合材料。
【0010】
(2) (1)において、前記非結晶性合成樹脂の線熱膨張係数が30ppm/K以上であり、前記ナノファイバーシートの線熱膨張係数が15ppm/K以下であることを特徴とする繊維樹脂複合材料。
【0011】
(3) (1)又は(2)において、ヤング率が0.1〜10GPaであることを特徴とする繊維樹脂複合材料。
【0012】
(4) (1)〜(3)のいずれかにおいて、線熱膨張係数が15ppm/K以下であることを特徴とする繊維樹脂複合材料。
【0013】
(5) (1)〜(4)のいずれかにおいて、前記ナノファイバーの含有率が8重量%以上であることを特徴とする繊維樹脂複合材料。
【0014】
(6) (1)〜(5)のいずれかにおいて、破壊歪が、前記ナノファイバーシートの破壊歪及び前記非結晶性合成樹脂の破壊歪よりも大きいことを特徴とする繊維樹脂複合材料。
【発明の効果】
【0015】
本発明の繊維樹脂複合材料は、ナノファイバーシートに光透過性に優れた非結晶性合成樹脂を含浸させてなるものであるため、透明性が高い。また、ナノファイバーシートと樹脂との複合材料であることから、軽量であると共に高強度、高弾性である。
【0016】
特に、ヤング率が大きく異なるナノファイバーシートと非結晶性合成樹脂とを複合化することにより、弾性率(ヤング率)が高い上に、しかも線熱膨張係数がナノファイバーに近い極めて低熱膨張性の材料を実現することが可能となった。
【0017】
また、本発明の繊維樹脂複合材料の破壊歪は、これを構成するナノファイバーシート及び非結晶性合成樹脂の破壊歪よりも大きい値となる。一般に、複合材料の破壊歪は、これを構成する各材料の破壊歪の中間の値となるが、このように複合化により構成材料の破壊歪よりも大きな破壊歪の複合材料が得られることは、材料設計において極めて有益である。
【0018】
このような本発明の繊維樹脂複合材料は、その高透明性、低比重、高強度、高弾性率、低熱膨張性、高破壊歪により、配線基板等の基板材料や、移動体用窓材料、有機デバイス用ベースシート、特にフレキシブルOLED用シート、面発光照明シート等に有効である。また、フレキシブル光導波路基板、LCD基板にも適用できる。全体としてシート上にトランジスタや透明電極、パッシベーション膜、ガスバリア膜、金属膜等、無機材料、金属材料、精密構造を設ける用途、中でもロールツーロールプロセスで製造する用途に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明の繊維樹脂複合材料の実施の形態を詳細に説明する。
【0020】
[各材料の物性値]
本発明において規定される各材料の物性値の詳細ないし測定方法は以下の通りである。なお、測定方法については、実施例の項で具体的に記載する。
【0021】
(1) 平行光線透過率
本発明において、非結晶性合成樹脂の50μm厚での平行光線透過率とは、本発明に係る非結晶性合成樹脂を50μmの厚さに成形してなる射出成形板に対して、厚さ方向に波長400〜700nmの光を照射した時の全波長域における平行光線透過率(直線光線透過率)の平均値である。なお、平行光線透過率は、空気をレファレンスとして、光源とディテクターを被測定基板(試料基板)を介して、かつ基板に対して垂直となるように配置し、平行光線(直線透過光)を測定することにより求めることができる。
ナノファイバーシート、繊維樹脂複合材料の平行光線透過率についても、材料厚さを50として上記と同様にして測定される。
【0022】
(2) ヤング率
JIS K7161を参考とし、幅5mm、長さ50mm、厚さ50μmに成形した試料に対して、変形速度1mm/minで引張試験を行い、比例限界以下での歪み量に対する応力から求めた。
【0023】
(3) 線熱膨張係数
試料を20℃から150℃に昇温させた際の線熱膨張係数であり、ASTM D 696に規定された条件下で測定された値である。
【0024】
(4) 破壊歪
ヤング率を求めた前記引張試験において、試験片が破断(破壊)した際の歪を元の試験片のチャック間距離に対する比率(%)で表した。
【0025】
(5) 結晶化度
ナノファイバーの結晶化度は、X線回折測定によりX線回折図全体の面積に対する結晶部分の面積の割合(百分率)で求める。
非結晶性合成樹脂の結晶化度は非晶質部と結晶質部の密度から結晶化度を算出する密度法により求める。
【0026】
(6) ナノファイバーシートの空隙率
下記式で算出する。
【数1】


【0027】
(7) ナノファイバーシートの結晶セルロース含有率
結晶化度をそのままナノファイバーシート(セルロース)中の結晶セルロース含有率とした。
【0028】
(8) 非結晶性合成樹脂のガラス転移温度(Tg)
DSC法により測定される。
【0029】
[ナノファイバーシートの物性]
本発明で用いるナノファイバーシート(ナノファイバーの不織布)は後述のナノファイバーにより製造されるが、その好適な物性としては、
線熱膨張係数:15ppm/K以下、好ましくは10ppm/K以下、より好ましくは 8ppm/K以下
ヤング率:5GPa以上、好ましくは7GPa以上、より好ましくは10GPa以上
破壊歪:10%以下、好ましくは8%以下、より好ましくは5%以下
空隙率:30〜95%、好ましくは50〜80%
結晶セルロース含有率:40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以 上、最も好ましくは70%以上
平行光線透過率:厚さ50μmとして40%以上
であることが挙げられる。なお、異方性がある場合は、2方向の平均値が上記物性を満たすことが好ましい。
【0030】
ナノファイバーシートの線熱膨張係数が大きいと、ナノファイバーシートを複合化することによる熱膨張低減効果を十分に得ることができない。ナノファイバーシートの線熱膨張係数の下限については特に制限はないが、通常1ppm/K以上である。線熱膨張係数がこれより小さいと不要な歪みがナノファイバーシートにかかっている恐れがある。
【0031】
ナノファイバーシートのヤング率が小さいと、後述の非結晶性合成樹脂のヤング率との関係を十分に満たし得ない。ナノファイバーシートのヤング率の上限については特に制限はないが、通常15GPa以下である。
【0032】
ナノファイバーシートの破壊歪が大きいものは、ナノファイバーの結晶化度とナノファイバーを構成する分子鎖の配向性、延長性が不十分であり、このようなものでは、線熱膨張係数が大きくなり、好ましくない。ナノファイバーシートの破壊歪の下限については特に制限はないが、通常1.0%以上である。破壊歪がこれより小さい場合はナノファイバーの長さ不足、強度不足、絡み合い不足等の問題のある可能性がある。
【0033】
ナノファイバーシートの空隙率が小さ過ぎると十分量の非結晶性合成樹脂を含浸し得ず、逆に大き過ぎると複合材料のナノファイバー量が不足し、いずれの場合も特性の改善された繊維樹脂複合材料を得ることができない。
【0034】
ナノファイバーシートの結晶セルロース含有率が少な過ぎると十分な強度と低熱膨張性の改善効果を得ることができない。ナノファイバーシートの結晶セルロース含有率の上限は特に制限はないが、通常50%以下である。ナノファイバー端部では、通常、結晶構造が崩れて非結晶となっているので、結晶セルロース含有率がこれより高い場合は適切なナノファイバーが形成されていない可能性がある。
【0035】
ナノファイバーシートの50μm厚さの平行光線透過率が小さいと、高透明性の複合材料を得ることができない。ナノファイバーシートの50μm厚での平行光線透過率の上限については特に制限はないが、通常70%以下である。本発明における平行光線透過率の測定方法では、絶対透過率を測定しているので、フレネル反射は必ず含まれる。従って、平行光線透過率の測定値が90%を超える場合は、測定が不適切である可能性がある。
【0036】
[非結晶性合成樹脂の物性]
本発明で用いる非結晶性合成樹脂の具体的な材料は後述の通りであるが、50μm厚での平行光線透過率が70%以上であることを必須とし、その好適な物性としては、
平行光線透過率:50μm厚で好ましくは85%以上
線熱膨張係数:30ppm/K以上、好ましくは40ppm/K以上
結晶化度:5%以下
ガラス転移温度(Tg):120℃以上、好ましくは150℃以上、より好ましくは
170℃以上
ヤング率:1.0GPa以下
破壊歪:3〜50%、好ましくは5〜15%、より好ましくは5〜10%
であることが挙げられる。
【0037】
非結晶性合成樹脂の平行光線透過率が小さいと高透明性の繊維樹脂複合材料を得ることができない。非結晶性合成樹脂の50μm厚での平行光線透過率の上限には特に制限はないが、通常90%以下である。本発明における平行光線透過率の測定方法では、絶対透過率を測定しているので、フレネル反射は必ず含まれる。従って、平行光線透過率の測定値が90%を超える場合は、測定が不適切である可能性がある。
【0038】
非結晶性合成樹脂の線熱膨張係数が小さいものは、例えば架橋密度を無理に上げている可能性があり、結果として脆くなっている等、樹脂の物性が崩れている恐れがある。非結晶性合成樹脂の線熱膨張係数が大き過ぎると十分に低熱膨張性の繊維樹脂複合材料を得ることができないことから、40ppm/K以下であることが好ましい。
【0039】
非結晶性合成樹脂の結晶化度が大きいと、非結晶性合成樹脂としての透明性を十分に得ることができない。
【0040】
非結晶性合成樹脂のガラス転移温度(Tg)が低いと得られる繊維樹脂複合材料の耐熱性が不足する。特に、透明電極形成を考慮した場合、十分な導電性を確保するために、ガラス転移温度(Tg)は120℃以上、好ましくは150℃以上、より好ましくは170℃以上であることが必要とされる。非結晶性合成樹脂のガラス転移温度(Tg)の上限は特に制限はないが、通常230℃以下である。
【0041】
非結晶性合成樹脂のヤング率が大き過ぎると、ナノファイバーシートのヤング率との関係で後述するヤング率比を満たし得なくなる。非結晶性合成樹脂のヤング率の下限については特に制限はないが、通常0.01GPa以上である。ヤング率がこれよりも小さいと、樹脂としての複合効果に欠ける。
【0042】
非結晶性合成樹脂の破壊歪が大き過ぎても通常問題は無いが、あまりに大きい場合は、ナノファイバー間あるいはナノファイバーとマトリクス樹脂間の接合不良等の問題が発生している可能性がある。また、小さ過ぎると脆く樹脂としての複合効果を期待できない。
【0043】
[繊維樹脂複合材料の物性等]
本発明の繊維樹脂複合材料は、後述の方法でナノファイバーシートに非結晶性合成樹脂を含浸させて得られるが、用いるナノファイバーシートのヤング率が非結晶性合成樹脂のヤング率の9倍以上であることを必須とし、好適な物性等としては、
ヤング率:0.1〜10GPa、好ましくは1〜8GPa、より好ましくは3〜7G
Pa
平行光線透過率:50μm厚で70%以上、好ましくは80%以上
線熱膨張係数:15ppm/K以下、好ましくは1〜10ppm/K、より好ましく
は1〜5ppm/K
ナノファイバー含有量:8重量%以上、好ましくは15〜50重量%、より好まし
くは20〜30重量%
破壊歪:20〜60%
であることが挙げられる。
【0044】
本発明において、複合化するナノファイバーシートのヤング率が非結晶性合成樹脂のヤング率の9倍以上であることは極めて重要であり、このようにヤング率が大きく異なるナノファイバーシートと非結晶性合成樹脂とを複合化することにより、低熱膨張性で破壊歪の大きい、高弾性の繊維樹脂複合材料を得ることができる。特に、ナノファイバーシートのヤング率は非結晶性合成樹脂のヤング率の10倍以上であることが好ましく、とりわけ15倍以上であることが好ましく、最も好ましくは20倍以上である。
このヤング率比の上限については特に制限はないが、材料の設計上、通常100倍以下である。
【0045】
本発明の繊維樹脂複合材料の50μm厚での平行光線透過率が小さいと高透明性の繊維樹脂複合材料を提供し得ず、透明性が要求される用途への適用が困難となる。この平行光線透過率の上限については特に制限はないが、通常90%以下である。本発明における平行光線透過率の測定方法では、絶対透過率を測定しているので、フレネル反射は必ず含まれる。従って、平行光線透過率の測定値が90%を超える場合は、測定が不適切である可能性がある。
【0046】
また、本発明の繊維樹脂複合材料の線熱膨張係数が大きいと、低熱膨張性の複合材料を提供し得ない。
【0047】
本発明の繊維樹脂複合材料のナノファイバー含有率が少な過ぎると、ナノファイバーによる低熱膨張性、曲げ強度、弾性率等の改善効果が不十分となり、多過ぎると相対的に非結晶性合成樹脂量が低減することにより、複合材料として強度や透明性、成形性、表面の平坦性が損なわれる。
【0048】
本発明の繊維樹脂複合材料は、ナノファイバーシートと非結晶性合成樹脂との組み合わせにおいて、前述のヤング率比や線熱膨張係数等を適宜選択することにより、ナノファイバーシート、非結晶性合成樹脂の各々の破壊歪よりも大きな破壊歪を有する繊維樹脂複合材料とすることができるが、本発明の繊維樹脂複合材料の破壊歪が小さいと、用途において十分な耐久性や製造プロセス、特にロールツーロールプロセスにおいて適合性が期待できない。また、破壊歪が大き過ぎる場合は、特に問題はないが、弾性率低下と引きかえであれば、それは伸び易いことであり、やはり用途におけるプロセス適合性に問題が発生する。
【0049】
[ナノファイバー及びナノファイバーシートの製造方法]
本発明で用いるナノファイバーシートは前述の物性等を満たすものであれば良く、特に制限はないが、ナノファイバーシートを構成するナノファイバーとしては、平均繊維径4〜200nmのものであることが好ましい。
【0050】
本発明において、ナノファイバーの平均繊維径が200nmを超えると、可視光の波長に近づき、マトリクス材料である非結晶性合成樹脂との界面で可視光の屈折が生じ易くなり、透明性が低下することとなる。一方で、平均繊維径4nm未満のナノファイバーは製造が困難であり、例えばナノファイバーとして好適な後述のバクテリアセルロースの単繊維径は4nm程度であることから、平均繊維径の下限は4nmである。本発明で用いるナノファイバーの平均繊維径は、好ましくは4〜100nmであり、より好ましくは4〜60nmである。
【0051】
なお、本発明で用いるナノファイバーは、平均繊維径が4〜200nmの範囲内であれば、ナノファイバー中に4〜200nmの範囲外の繊維径のものが含まれていても良いが、その割合は30重量%以下であることが好ましく、望ましくは、すべてのナノファイバーの繊維径が200nm以下、特に100nm以下、とりわけ60nm以下であることが望ましい。
【0052】
なお、ナノファイバーの長さについては特に限定されないが、平均長さで100nm以上が好ましい。ナノファイバーの平均長さが100nmより短いと、補強効果が低く、繊維樹脂複合材料の強度が不十分となるおそれがある。なお、ナノファイバー中には繊維長さ100nm未満のものが含まれていても良いが、その割合は30重量%以下であることが好ましい。
【0053】
本発明においては、ナノファイバーとしてセルロース繊維を用いると、得られる繊維樹脂複合材料の線熱膨張係数をより小さくすることができるので好ましい。
【0054】
セルロース繊維とは、例えば植物細胞壁の基本骨格等を構成するセルロースのミクロフィブリル又はこれの構成繊維をいい、通常繊維径4nm程度の単位繊維の集合体である。このセルロース繊維は、結晶構造を40%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上含有するものが、高い強度と低い熱膨張を得る上で好ましい。
【0055】
本発明において、用いるセルロース繊維は、植物から分離されるものであってもよいし、また、バクテリアセルロースによって産生されるバクテリアセルロースでも良い。バクテリアセルロースの中では、特にバクテリアからの産生物をアルカリ処理してバクテリアを溶解除去して得られるものを離解処理することなく用いるのが好適である。植物から分離されるものについては、木粉、竹粉やコットンを原料として用いるのが好適である。
【0056】
地球上においてセルロースを生産し得る生物は、植物界は言うに及ばず、動物界ではホヤ類、原生生物界では、各種藻類、卵菌類、粘菌類など、またモネラ界では藍藻及び酢酸菌、土壌細菌の一部に分布している。現在のところ、菌界(真菌類)にはセルロース生産能は確認されていない。このうち酢酸菌としては、アセトバクター(Acetobacter)属等が挙げられ、より具体的には、アセトバクターアセチ(Acetobacter aceti)、アセトバクターサブスピーシーズ(Acetobacter subsp.)、アセトバクターキシリナム(Acetobacter xylinum)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
このようなバクテリアを培養することにより、バクテリアからセルロースが産生される。得られた産生物は、バクテリアとこのバクテリアから産生されて該バクテリアに連なっているセルロース繊維(バクテリアセルロース)とを含むものであるため、この産生物を培地から取り出し、それを水洗、又はアルカリ処理などしてバクテリアを除去することにより、バクテリアを含まない含水バクテリアセルロースを得ることができる。この含水バクテリアセルロースから水分を除去することによりバクテリアセルロースを得ることができる。
【0058】
培地としては、寒天状の固体培地や液体培地(培養液)が挙げられ、培養液としては、例えば、ココナッツミルク(全窒素分0.7重量%,脂質28重量%)7重量%、ショ糖8重量%を含有し、酢酸でpHを3.0に調整した培養液や、グルコース2重量%、バクトイーストエクストラ0.5重量%、バクトペプトン0.5重量%、リン酸水素二ナトリウム0.27重量%、クエン酸0.115重量%、硫酸マグネシウム七水和物0.1重量%とし、塩酸によりpH5.0に調整した水溶液(SH培地)等が挙げられる。
【0059】
培養方法としては、例えば、次の方法が挙げられる。ココナッツミルク培養液に、アセトバクター キシリナム(Acetobacter xylinum)FF−88等の酢酸菌を植菌し、例えばFF−88であれば、30℃で5日間、静置培養を行って一次培養液を得る。得られた一次培養液のゲル分を取り除いた後、液体部分を、上記と同様の培養液に5重量%の割合で加え、30℃、10日間静置培養して、二次培養液を得る。この二次培養液には、約1重量%のセルロース繊維が含有されている。
【0060】
また、他の培養方法として、培養液として、グルコース2重量%、バクトイーストエクストラ0.5重量%、バクトペプトン0.5重量%、リン酸水素二ナトリウム0.27重量%、クエン酸0.115重量%、硫酸マグネシウム七水和物0.1重量%とし、塩酸によりpH5.0に調整した水溶液(SH培養液)を用いる方法が挙げられる。この場合、凍結乾燥保存状態の酢酸菌の菌株にSH培養液を加え、1週間静置培養する(25〜30℃)。培養液表面にバクテリアセルロースが生成するが、これらのうち、厚さが比較的厚いものを選択し、その株の培養液を少量分取して新しい培養液に加える。そして、この培養液を大型培養器に入れ、25〜30℃で7〜30日間の静地培養を行う。バクテリアセルロースは、このように、「既存の培養液の一部を新しい培養液に加え、約7〜30日間静置培養を行う」ことの繰りかえしにより得られる。
【0061】
菌がセルロースを作りにくいなどの不具合が生じた場合は、以下の手順を行う。即ち、培養液に寒天を加えて作成した寒天培地上に、菌培養中の培養液を少量撒き、1週間ほど放置してコロニーを作成させる。それぞれのコロニーを観察して、比較的セルロースをよく作るようなコロニーを寒天培地から取り出し、新しい培養液に投入し、培養を行う。
【0062】
このようにして産出させたバクテリアセルロースを培養液中から取り出し、バクテリアセルロース中に残存するバクテリアを除去する。その方法として、水洗またはアルカリ処理などが挙げられる。バクテリアを溶解除去するためのアルカリ処理としては、培養液から取り出したバクテリアセルロースを0.01〜10重量%程度のアルカリ水溶液に1時間以上注加する方法が挙げられる。そして、アルカリ処理した場合は、アルカリ処理液からバクテリアセルロースを取り出し、十分水洗し、アルカリ処理液を除去する。
【0063】
このようにして得られた含水バクテリアセルロース(通常、含水率95〜99重量%のバクテリアセルロース)は、次いで、水分除去処理を行う。
【0064】
この水分除去法としては、特に限定されないが、放置やコールドプレス等でまず水をある程度抜き、次いで、そのまま放置するか、又はホットプレス等で残存の水を完全に除去する方法、コールドプレス法の後、乾燥機にかけたり、自然乾燥させたりして水を除去する方法等が挙げられる。
【0065】
上記の水をある程度抜く方法としての放置は、時間をかけて水を徐々に揮散させる方法である。
【0066】
上記コールドプレスとは、熱をかけずに圧を加えて、水を抜き出す方法であり、ある程度の水を絞り出すことができる。このコールドプレスにおける圧力は、0.01〜10MPaが好ましく、0.1〜3MPaがより好ましい。圧力が0.01MPaより小さいと、水の残存量が多くなる傾向があり、10MPaより大きいと、得られるバクテリアセルロースが破壊される場合がある。また、温度は特に限定されないが、操作の便宜上、常温が好ましい。
【0067】
上記の残存の水を完全に除去する方法としての放置は、時間をかけてバクテリアセルロースを乾燥させる方法である。
【0068】
上記ホットプレスとは、熱を加えながら圧をかけることにより、水を抜き出す方法であり、残存の水を完全に除去することができる。このホットプレスにおける圧力は、0.01〜10MPaが好ましく、0.2〜3MPaがより好ましい。圧力が0.01MPaより小さいと、水を除去できなくなる場合があり、10MPaより大きいと、得られるバクテリアセルロースが破壊される場合がある。また、温度は100〜300℃が好ましく、110〜200℃がより好ましい。温度が100℃より低いと、水の除去に時間を要し、一方、300℃より高いと、バクテリアセルロースの分解等が生じるおそれがある。
【0069】
また、上記乾燥機による乾燥温度についても、100〜300℃が好ましく、110〜200℃がより好ましい。乾燥温度が100℃より低いと、水の除去ができなくなる場合があり、一方、300℃より高いと、セルロース繊維の分解等が生じるおそれがある。
【0070】
このようにして得られるバクテリアセルロースは、その培養条件やその後の水分除去時の加圧、加熱条件等によっても異なるが、通常、嵩密度1.1〜1.3kg/m程度、厚さ40〜60μm程度のシート状(以下「BCシート」と称す場合がある。)となっている。
【0071】
本発明の繊維樹脂複合材料は、このようなシート状物の1枚を単層体として、或いは複数枚を積層した積層体として、後述の如く、マトリクス材料である非結晶性合成樹脂を形成し得る含浸用液状物を含浸させて製造することができる。
【0072】
本発明において、ナノファイバーとしては、例えば、上述のようなバクテリアセルロースを用いるが、海草やホヤの被嚢、植物細胞壁等に、叩解・粉砕等の処理、高温高圧水蒸気処理、リン酸塩等を用いた処理等を施したセルロース繊維を用いても良い。
【0073】
この場合、上記叩解・粉砕等の処理は、リグニン、及びヘミセルロースを除去した植物細胞壁や海草やホヤの被嚢に、直接、力を加え、叩解や粉砕を行って繊維をバラバラにし、セルロース繊維を得る処理法である。
【0074】
より具体的には、パルプ等を高圧ホモジナイザーで処理して平均繊維径0.1〜10μm程度にミクロフィブリル化したミクロフィブリル化セルロース繊維(以下、「MFC」と略記する。)を0.1〜3重量%程度の水懸濁液とし、更にグラインダー等で繰り返し磨砕ないし融砕処理して平均繊維径10〜100nm程度のナノオーダーのMFC(以下、「Nano MFC」と略記する。)を得ることができる。このNano MFCを0.01〜1重量%程度の水懸濁液とし、これを濾過することにより、シート化する。
上記磨砕ないし融砕処理は、例えば、栗田機械製作所製グラインダー「ピュアファインミル」等を用いて行うことができる。
【0075】
このグラインダーは、上下2枚のグラインダーの間隙を原料が通過するときに発生する衝撃、遠心力、剪断力により、原料を超微粒子に粉砕する石臼式粉砕機であり、剪断、磨砕、微粒化、分散、乳化、フィブリル化を同時に行うことができるものである。また、磨砕ないし融砕処理は、増幸産業(株)製超微粒磨砕機「スーパーマスコロイダー」を用いて行うこともできる。スーパーマスコロイダーは、単なる粉砕の域を越えた融けるように感じるほどの超微粒化を可能にした磨砕機である。スーパーマスコロイダーは、間隔を自由に調整できる上下2枚の無気孔砥石によって構成された石臼形式の超微粒磨砕機であり、上部砥石は固定で、下部砥石が高速回転する。ホッパーに投入された原料は遠心力によって上下砥石の間隙に送り込まれ、そこで生じる強大な圧縮、剪断、転がり摩擦力などにより、原料は次第にすり潰され、超微粒化される。
【0076】
また、上記高温高圧水蒸気処理は、リグニン等を除去した植物細胞壁や海草やホヤの被嚢を高温高圧水蒸気に曝すことによって繊維をバラバラにし、セルロース繊維を得る処理法である。
【0077】
また、リン酸塩等を用いた処理とは、海草やホヤの被嚢、植物細胞壁等の表面をリン酸エステル化することにより、セルロース繊維間の結合力を弱め、次いで、リファイナー処理を行うことにより、繊維をバラバラにし、セルロース繊維を得る処理法である。例えば、リグニン等を除去した植物細胞壁や、海草やホヤの被嚢を50重量%の尿素と32重量%のリン酸を含む溶液に浸漬し、60℃で溶液をセルロース繊維間に十分に染み込ませた後、180℃で加熱してリン酸化を進める。これを水洗した後、3重量%の塩酸水溶液中、60℃で2時間、加水分解処理をして、再度水洗を行う。その後、3重量%の炭酸ナトリウム水溶液中において、室温で20分間程処理することで、リン酸化を完了させる。そして、この処理物をリファイナーで解繊することにより、セルロース繊維が得られる。
【0078】
また、本発明において用いるナノファイバーは、このようなセルロース繊維を化学修飾及び/又は物理修飾して機能性を高めたものであっても良い。ここで、化学修飾としては、アセチル化等のアシル化処理、アリル化、シアノエチル化、アセタール化、エーテル化、イソシアネート化等によって官能基を付加させること、シリケートやチタネート等の無機物を化学反応やゾルゲル法等によって複合化や被覆化させること等が挙げられる。化学修飾の方法としては、例えば、BCシート(植物繊維を解繊して作製したナノファイバーシートであっても良い。)を無水酢酸中に浸漬して加熱する方法が挙げられ、アセチル化により、光線透過率を低下させることなく、吸水性の低下、耐熱性の向上を図ることができる。また、物理修飾としては、金属やセラミック原料を、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等の物理蒸着法(PVD法)、化学蒸着法(CVD法)、無電解メッキや電解メッキ等のメッキ法等によって表面被覆させることが挙げられる。
【0079】
なお、これらのナノファイバーは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0080】
[非結晶性合成樹脂の種類]
本発明で用いる非結晶性合成樹脂は、前述の物性を満たすものであれば良く、特に制限はないが、熱可塑性又は紫外線硬化型アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテルスルフォン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂等が挙げられ、特にメタクリレート、ジメタクリレート、アクリレート、ジアクリレート等を含む紫外線硬化型アクリル系樹脂が好ましい。
【0081】
これらの非結晶性合成樹脂のヤング率は、例えば紫外線硬化型アクリル系樹脂及びエポキシ系樹脂では通常0.1〜2GPa程度、熱可塑性アクリル系樹脂では通常0.5〜1.5GPa程度、ポリカーボネート系樹脂及びポリエーテルスルフォン系樹脂では通常0.5GPa程度、環状ポリオレフィン系樹脂では通常1GPa程度である。
【0082】
また、線熱膨張係数については、例えば紫外線硬化型アクリル系樹脂及びエポキシ系樹脂では通常30〜70ppm/K程度、熱可塑性アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂及びポリエーテルスルフォン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂では通常50〜80ppm/K程度である。
【0083】
また、破壊歪については、例えば紫外線硬化型アクリル系樹脂及びエポキシ系樹脂では通常0.5〜15%程度、熱可塑性アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂及びポリエーテルスルフォン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂では通常2〜150%程度である。破壊歪は、弾性率が小さいほど大きくなる傾向にあり、硬化型樹脂よりも熱可塑性樹脂の方が大きくなる傾向がある。
【0084】
なお、非結晶性合成樹脂は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0085】
[繊維樹脂複合材料の製造方法]
本発明の繊維樹脂複合材料を製造するには、上述のような非結晶性合成樹脂(以下「マトリクス材料」と称す場合がある。)を形成し得る含浸用液状物を、前記ナノファイバーシートに含浸させ、次いでこの含浸用液状物を硬化させる。
【0086】
ここで、含浸用液状物としては、流動状のマトリクス材料、流動状のマトリクス材料の原料、マトリクス材料を流動化させた流動化物、マトリクス材料の原料を流動化させた流動化物、マトリクス材料の溶液、及びマトリクス材料の原料の溶液から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0087】
上記流動状のマトリクス材料としては、マトリクス材料そのものが流動状であるもの等をいう。また、上記流動状のマトリクス材料の原料としては、例えば、プレポリマーやオリゴマー等の重合中間体等が挙げられる。
【0088】
更に、上記マトリクス材料を流動化させた流動化物としては、例えば、熱可塑性のマトリクス材料を加熱溶融させた状態のもの等が挙げられる。
【0089】
更に、上記マトリクス材料の原料を流動化させた流動化物としては、例えば、プレポリマーやオリゴマー等の重合中間体が固形状の場合、これらを加熱溶融させた状態のもの等が挙げられる。
【0090】
また、上記マトリクス材料の溶液やマトリクス材料の原料の溶液とは、マトリクス材料やマトリクス材料の原料を溶媒等に溶解させた溶液あるいは分散させたスラリーが挙げられる。この溶媒は、溶解対象のマトリクス材料やマトリクス材料の原料に合わせて適宜決定されるが、後工程でこれを除去するに当たり、蒸発除去する場合、上記マトリクス材料やマトリクス材料の原料の分解を生じさせない程度の温度以下の沸点を有する溶媒が好ましい。例えば、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、あるいはこれらの混合物、あるいはこれらに水を加えた混合物等、さらにそれ自体に重合性、架橋性のあるアクリルモノマー類などが用いられる。
【0091】
このような含浸用液状物を、ナノファイバーシートの単層体、又はナノファイバーシートを複数枚積層した積層体に含浸させて、ナノファイバー間に含浸用液状物を十分に浸透させる。この含浸工程は、その一部又は全部を、圧を変化させた状態で行うのが好ましい。この圧を変化させる方法としては、減圧又は加圧が挙げられる。減圧又は加圧とした場合、ナノファイバー間に存在する空気を上記含浸用液状物と置き換えることが容易となり、気泡の残存を防止することができる。
【0092】
上記の減圧条件としては、0.133kPa(1mmHg)〜93.3kPa(700mmHg)が好ましい。減圧条件が93.3kPa(700mmHg)より大きいと、空気の除去が不十分となり、ナノファイバー間に空気が残存する場合が生じることがある。一方、減圧条件は0.133kPa(1mmHg)より低くてもよいが、減圧設備が過大となりすぎる傾向がある。
【0093】
減圧条件下における含浸工程の処理温度は、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。この温度が0℃より低いと、空気の除去が不十分となり、ナノファイバー間に空気が残存する場合が生じることがある。なお、温度の上限は、例えば含浸用液状物に溶媒を用いた場合、その溶媒の沸点(当該減圧条件下での沸点)が好ましい。この温度より高くなると、溶媒の揮散が激しくなり、かえって、気泡が残存しやすくなる傾向がある。
【0094】
上記の加圧条件としては、1.1〜10MPaが好ましい。加圧条件が1.1MPaより低いと、空気の除去が不十分となり、ナノファイバー間に空気が残存する場合が生じることがある。一方、加圧条件は10MPaより高くてもよいが、加圧設備が過大となりすぎる傾向がある。
【0095】
加圧条件下における含浸工程の処理温度は、0〜300℃が好ましく、10〜200℃がより好ましく、30〜100℃が最も好ましい。この温度が0℃より低いと、空気の除去が不十分となり、ナノファイバー間に空気が残存する場合が生じることがある。一方、300℃より高いと、マトリクス材料が変性、変色するおそれがある。
【0096】
ナノファイバーシートに含浸させた含浸用液状物を硬化させるには、当該含浸用液状物の硬化方法に従って行えば良く、例えば、含浸用液状物が流動状のマトリクス材料の原料の場合は、重合反応、架橋反応、鎖延長反応等が挙げられる。
【0097】
また、含浸用液状物がマトリクス材料をグラフト反応により流動化させた流動化物の場合は、冷却すれば良く、また、含浸用液状物がマトリクス材料の原料を熱可塑化等により流動化させた流動化物の場合は、冷却等と、重合反応、架橋反応、鎖延長反応等の組合せが挙げられる。
【0098】
また、含浸用液状物がマトリクス材料の溶液の場合は、溶液中の溶媒の蒸発や風乾等による除去等が挙げられる。更に、含浸用液状物がマトリクス材料の原料の溶液の場合は、溶液中の溶媒の除去等と、重合反応、架橋反応、鎖延長反応等との組合せが挙げられる。なお、上記蒸発除去には、常圧下における蒸発除去だけでなく、減圧下における蒸発除去も含まれる。
【実施例】
【0099】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。なお、ナノファイバーシート、非結晶性合成樹脂、繊維樹脂複合材料の各種物性の測定方法は次の通りである。
【0100】
[平行光線透過率]
<測定装置>
日立ハイテクノロジーズ社製「UV−4100形分光度計」(固体試料測定システム)を使用。
<測定条件>
・6mm×6mmの光源マスク使用
・測定サンプルを積分球開口より22cm離れた位置において測光した。サンプルをこの位置に置くことで、拡散透過光は除去され、積分球内部の受光部に直線透過光のみが届く。
・リファレンスサンプルなし。リファレンス(試料と空気との屈折率差によって生じる反射。フレネル反射が生じる場合は、平行光線透過率100%ということはあり得ない。)がないため、フレネル反射による透過率のロスが生じている。
・スキャンスピード:300nm/min
・光源:タングステンランプ、重水素ランプ
・光源切り替え:340nm
【0101】
[線熱膨張係数]
セイコーインスツルメンツ製「TMA/SS6100」を用い、ASTM D 696に規定された方法に従って下記の測定条件で測定した。
〈測定条件〉
昇温速度:5℃/min
雰囲気:N
加熱温度:20〜150℃
荷重:1mg
測定回数:3回
試料長:4×15mm
試料厚さ:試料により異なる
モード:引っ張りモード
【0102】
[ヤング率]
JIS K7161を参考として、幅5mm、長さ50mm、厚さ50μmの成形板について変形速度1mm/minで引張試験を行い、比例限界以下での歪み量に対する応力からヤング率を求めた。
なお、厚さはダイヤルゲージで測定した。
【0103】
破壊歪、結晶化度、ナノファイバーシートの結晶セルロース含有率については、前述の通りである。
【0104】
実施例1
凍結乾燥保存状態の酢酸菌の菌株に培養液を加え、1週間静置培養した(25〜30℃)。培養液表面に生成したバクテリアセルロースのうち、厚さが比較的厚いものを選択し、その株の培養液を少量分取して新しい培養液に加えた。そして、この培養液を大型培養器に入れ、25〜30℃で7〜30日間の静地培養を行った。培養液には、グルコース2重量%、バクトイーストエクストラ0.5重量%、バクトペプトン0.5重量%、リン酸水素二ナトリウム0.27重量%、クエン酸0.115重量%、硫酸マグネシウム七水和物0.1重量%とし、塩酸によりpH5.0に調整した水溶液(SH培地)を用いた。
【0105】
このようにして産出させたバクテリアセルロースを培養液中から取り出し、2重量%のアルカリ水溶液で2時間煮沸し、その後、アルカリ処理液からバクテリアセルロースを取り出し、十分水洗し、アルカリ処理液を除去し、バクテリアセルロース中のバクテリアを溶解除去した。次いで、得られた含水バクテリアセルロース(含水率95〜99重量%のバクテリアセルロース)を、120℃、2MPaで3分ホットプレスし、厚さ約50μmの、BCシート(含水率0重量%)を得た。このBCシートの物性等は以下に示す通りであった。
【0106】
線熱膨張係数:2〜3ppm/K
ヤング率:12.1GPa
破壊歪:4%
空隙率:60%
結晶セルロース含有率:60%
平行光線透過率:厚さ50μmとして45%
【0107】
得られたBCシートを、以下に示す非結晶性合成樹脂に減圧下(0.08MPa)で12時間浸漬処理した後、取り出したシートに8分間紫外線を照射して樹脂を硬化させ、その後真空下で150℃にて2時間アニールすることにより、樹脂複合BCシートを得た。
【0108】
<非結晶性合成樹脂>
紫外線硬化型アクリル系樹脂
トリシクロデカンジメタクリレート :100重量部
エトキシ化ポリプロピレングリコール
#700ジメタアクリレート(新中村工業(株)製):30重量部
【0109】
得られた樹脂複合BCシートについて、樹脂複合前後の重量変化を測定することにより求めたナノファイバー含有率は30重量%であった。
得られた複合材料についてヤング率、線熱膨張係数、破壊歪、平行光線透過率を測定し、結果を表1に示した。
なお、表1には、BCシートと非結晶性合成樹脂の物性も併記した。
【0110】
実施例2
実施例1において非結晶性合成樹脂を以下のものに変更した他は、実施例1と同様にして複合材料を製造し、同様にその物性を測定し、結果を表1に示した。
【0111】
<非結晶性合成樹脂>
紫外線硬化型アクリル系樹脂
トリシクロデカンジメタクリレート :50重量部
エトキシ化ポリプロピレングリコール
#700ジメタアクリレート(新中村工業(株)製):50重量部
【0112】
比較例1
非結晶性合成樹脂としてトリシクロデカンジメタクリレートのみを用いたこと以外は実施例1と同様にして複合材料を製造し、同様にその物性を測定し、結果を表1に示した。
【0113】
【表1】


【0114】
表1より、本発明によれば、透明性に優れ、低熱膨張性で、高強度、軽量である上に、高弾性で破壊エネルギー(破壊歪)が非常に大きな繊維樹脂複合材料が提供されることが分かる。
【出願人】 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
【識別番号】000005968
【氏名又は名称】三菱化学株式会社
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
【出願日】 平成18年6月29日(2006.6.29)
【代理人】 【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛


【公開番号】 特開2008−7646(P2008−7646A)
【公開日】 平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願番号】 特願2006−179866(P2006−179866)