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【発明の名称】 可溶性リグノセルロースの製造方法
【発明者】 【氏名】山田 竜彦

【氏名】久保 智史

【要約】 【課題】化学薬品を用いた処理や、熱を加える処理を行うことなく、有機溶媒に可溶なリグノセルロースを製造する方法を提供することにある。

【解決手段】リグノセルロース繊維材料をリグノセルロースの数平均分子量もしくは重量平均分子量が10,000以下となるまで機械的磨砕手段で磨砕することを特徴とする可溶性リグノセルロースの製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロース繊維材料をリグノセルロースの数平均分子量もしくは重量平均分子量が10,000以下となるまで機械的磨砕手段で磨砕することを特徴とする可溶性リグノセルロースの製造方法。
【請求項2】
リグノセルロース繊維材料が木質系物質、農産系物質、単離リグニン及び単離セルロースから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の可溶性リグノセルロースの製造方法。
【請求項3】
機械的磨砕手段が、ボールミルまたは振動ミルであることを特徴とする請求項1または2に記載の可溶性リグノセルロースの製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法により製造された可溶性リグノセルロースを有機溶媒に溶解させたことを特徴とするリグノセルロース溶液。
【請求項5】
有機溶媒が有機硫黄化合物、酸アミド類、グリコール類及びフェノール類から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒であることを特徴とする請求項4に記載のリグノセルロース溶液。
【請求項6】
有機硫黄化合物がジメチルスルホキシドであることを特徴とする請求項5に記載のリグノセルロース溶液。
【請求項7】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法により製造された可溶性リグノセルロースを有機溶媒に溶解させることを特徴とするリグノセルロース溶液の製造方法。
【請求項8】
請求項4ないし6のいずれか1項に記載のリグノセルロース溶液を含むことを特徴とする化成品原料。
【請求項9】
請求項4ないし6のいずれか1項に記載のリグノセルロース溶液とポリイソシアネートを反応させることを特徴とするポリウレタン樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は可溶性リグノセルロースの製造方法に関するものであり、さらにリグノセルロース溶液、リグノセルロース溶液の製造方法及びポリウレタン樹脂の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹木や草本類等の植物系バイオマスは、その主成分として、セルロースやリグニンから成り立ち、総じてリグノセルロースと呼ばれている。リグノセルロースは強固な水素結合を持つ繊維状高分子であるセルロースや、3次元の強固な巨大高分子であるリグニンのために、そのままでは全体が水や有機溶媒に溶解することはない。
【0003】
化学処理を施したり化学的分解や高温での熱分解を促すことで、水素結合を緩ませたり、分解反応を促進せしめ、リグノセルロースを溶解させる試みはある。それらは、特殊な化学薬品を使用した処理、酸やアルカリによる分解反応、高温下での炭化反応等を利用したものであった。
【0004】
京都大学の白石らは木材を多価アルコールと酸触媒の存在下、150℃程度で処理して、ジオキサン等に溶解可能な液状物を得る木材液化の検討を行った(特許文献1)。これらは化学薬品中での木材の酸分解を促した木材液化法であり、硫酸等の酸触媒、ポリエチレングリコール等の多価アルコール系の化学薬品と150℃程度の反応温度が必要であった。
【0005】
北海道立林産試験場の本間らは、リグノセルロースを200−350℃の高温下で炭化反応を促進させ、塩基性溶媒や塩基性溶媒と水、アルコールとの混合液に溶解させる研究を行っている(特許文献2)。これは加熱炭化処理であり、リグノセルロースを高温で処理する必要がある。
【0006】
リグノセルロースの磨砕処理として、リグノセルロースを微細な粉末に粉砕する試みは多く見られるが、これらは、単に微細な粒子を得ることを目的としたもの、木粉の表面積を増大させることにより、糖化やアルコール製造の前処理として用いるもの、また、木材成分の化学分析法として用いられたものであり、リグノセルロース全体を粉砕により直接溶解物に変換する技術ではない。
【0007】
例えば、遠藤らはボールミルを用いて極めて微細な粉末を製造する試みを行っている(特許文献3)。これは微細な粒子を得ることを目的とし、ケトン類やアルコール類等の化学薬品をボールミル中に共存させ粉砕した。
【0008】
リグニンの構造を解析するために木材からリグニンをなるべく天然に近い状態で取り出す方法にボールミルを用いた、磨砕リグニン、もしくはミルドウッドリグニン(以下、「MWL」と略称することがある)取得法として知られる分析技術がある。これはリグニンのみをジオキサンで抽出できるようにする処理で、トルエン存在下や窒素下での粉砕を必要とし、目的物であるリグニンの収率も10-30%程度と低いものである。
【0009】
米国農務省林産研究所のラルフらは、MWLの研究を発展させ、リグニンの分光分析のために植物細胞壁をボールミルで磨砕し、ジメチルスルホキシド(DMSO)とn−メチルイミダゾールの混合溶液と、無水酢酸を用いてアセチル化し、核磁気共鳴分光装置(NMR)で分析する方法を報告した(非特許文献1)。これはアセチル化という化学処理行って溶液化した成分を分析するための技術で、本発明のような化成品原料取得のため、磨砕したリグノセルロースを直接単独の溶媒に溶解させるという試みとは異なる。
【特許文献1】特許第3155603号公報
【特許文献2】特許第2987769号公報
【特許文献3】特許第2560235号公報
【非特許文献1】Lu, F. and Ralph, J, The Plant Journal 35, 535-544, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は化学薬品を用いた処理や、熱を加える処理を行うことなく、有機溶媒に可溶なリグノセルロースを製造する方法およびリグノセルロース溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するため、リグノセルロースの平均分子量が1万以下となるまで機械的に強固にリグノセルロース繊維材料を磨砕することにより、有機溶媒に可溶な可溶性リグノセルロースが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、下記要旨に係るものである。
(1) リグノセルロース繊維材料をリグノセルロースの数平均分子量もしくは重量平均分子量が10,000以下となるまで機械的磨砕手段で磨砕することを特徴とする可溶性リグノセルロースの製造方法。
(2) リグノセルロース繊維材料が木質系物質、農産系物質、単離リグニン及び単離セルロースから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)に記載の可溶性リグノセルロースの製造方法。
(3) 機械的磨砕手段が、ボールミルまたは振動ミルであることを特徴とする(1)または(2)に記載の可溶性リグノセルロースの製造方法。
(4) (1)ないし(3)のいずれか1項に記載の方法により製造された可溶性リグノセルロースを有機溶媒に溶解させることを特徴とするリグノセルロース溶液の製造方法。
(5) 有機溶媒が有機硫黄化合物、酸アミド類、グリコール類及びフェノール類から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒であることを特徴とする(4)に記載のリグノセルロース溶液の製造方法。
(6) 有機硫黄化合物がジメチルスルホキシドであることを特徴とする(5)に記載のリグノセルロース溶液の製造方法。
(7) (4)ないし(6)のいずれか1項に記載の方法により製造されたリグノセルロース溶液を含むことを特徴とする化成品原料。
(8) (4)ないし(6)のいずれか1項に記載の方法により製造されたリグノセルロース溶液とポリイソシアネートを反応させることを特徴とするポリウレタン樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、簡便な方法でリグノセルロース溶液が得られるだけでなく、リグノセルロース溶液を製造する際に使用されてきた、有害性を伴う化学薬品等を排除することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の出発原料物質であるリグノセルロース繊維材料は限定されるものではないが、例えば木粉、おが屑、木材チップ、樹皮、紙パルプ、古紙等の木質系物質や、稲わら、バガス等の農産系物質、クラフトリグニンやリグニンスルフォン酸等の単離リグニン、木材セルロースやリンターセルロース等の単離セルロース、また糖類、穀類、スターチ等の植物系物質全般が用いられる。リグノセルロース繊維材料は磨砕に先立って適度に粉末にしておいたほうが望ましく、その際、ハンマーミルやワイリーミル等の粉砕機を用いて10メッシュ程度に粉砕しておくことが望ましい。リグノセルロース繊維材料の含水率は5%以下に乾燥しておくことが望ましい。
【0015】
本発明のリグノセルロース繊維材料の磨砕に用いる機械的磨砕手段は限定されるものではないが、例えば振動ボールミル、遊星型ボールミル、ロッドを用いた振動ミル、ロッドとボールを組み合わせた振動ミル等が挙げられる。
【0016】
可溶性リグノセルロースを製造するためには、リグノセルロース繊維材料を強固に磨砕してリグノセルロースの平均分子量を10,000以下とすることが必要である。リグノセルロースの平均分子量を10,000以下とするためには、遊星型ボールミルの場合6時間以上、振動ボールミルの場合24時間以上磨砕する必要がある。
【0017】
リグノセルロース繊維材料を磨砕するには、まずリグノセルロース繊維材料の粉末を空気中でボールミルやロッドミル等の振動ミル、もしくは遊星型のボールミルに封入し、装置を作動させる。その際、装置の振動や、ボールやロッドと容器との摩擦により、ある程度の熱を発生する。特に冷却する必要はないが、装置を保護するために必要であれば水冷式や風冷式の冷却装置等を用いて冷却することもできる。本発明では、磨砕時に機械化学的反応を促進することが必要なため、磨砕は長時間行うことが望ましい。磨砕の進行に従い、リグノセルロース成分は大きく分解される。磨砕の進行に応じて磨砕リグノセルロースの溶解率は上昇し、全体が各種溶媒に完全に溶解する可溶性リグノセルロースを得ることができる。
【0018】
本発明におけるリグノセルロースの平均分子量とは、数平均分子量、もしくは、重量平均分子量を指す。なお、これらの平均分子量は、一般的な高分子の平均分子量測定法で求めることができ、例えばクロマトグラフィー法での分子量分布測定(GPC)等で測定することができる。
【0019】
リグノセルロース繊維材料の強固な磨砕により、リグノセルロースの構造は、機械化学的に大きく分解される。機械化学とは、機械的エネルギーにより引き起こされる化学現象を指し、本発明の場合は磨砕という機械的エネルギーが加わることによりリグノセルロースの化学分解が促される。リグノセルロース中のリグニンはラジカル生成により解重合され、その分子量を低下させ、溶解性の物質に変換される。一方、セルロースは結晶構造を激しく損なうばかりでなく、そのグルコシド結合を失ってゆくことにより分子量を大きく減少してゆき、溶媒に溶解するようになる。
【0020】
磨砕したリグノセルロースを溶解することができる有機溶媒は限定されるものではないが、例えばジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」と略する場合がある)、スルホラン等の硫黄化合物、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と略する場合がある)、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルプロピオンアミド等の酸アミド類、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のグリコール類、フェノール、o−、m−、p−クレゾール等のフェノール類、カテコール、レゾルシノール、ビスフェノールA等の2価のフェノール類などを挙げることができる。
【0021】
磨砕したリグノセルロースに有機溶媒を加え、攪拌することでリグノセルロース溶液が得られる。溶解の際、熱を加え、溶解を促進させることもできる。
【0022】
リグノセルロース溶液は化成品原料として供することができる。リグノセルロース溶液を原料とした化製品は限定されるものではないが、リグノセルロース溶液をポリオール原料として応用したポリウレタン樹脂やエポキシ樹脂等があり、フィルムや発泡体、成形物、接着剤が調製できる。また、フェノール類に溶解したリグノセルロース溶液はフェノール樹脂原料としてホルムアルデヒドとの反応により成形物や接着剤に用いることができる。また、磨砕リグノセルロース溶液から溶剤を取り除くことのみによりリグノセルロースを再成形することも可能である。
【0023】
実施例
以下、本発明の実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
原料とするリグノセルロース繊維材料として、スギ木粉(60−80メッシュ)を用いた。木粉は105℃のオーブン中で24時間乾燥し、デシケーター中に保存した。磨砕に使用するボールミルは、フリッチュ社製、遊星型ボールミルP-7を用いた。磨砕用容器としては45cc容量のステンレススチール容器を2つ使用し、各容器に直径10mmのステンレススチール製のボールを各々18個使用した。ボールを仕込んだ各々の磨砕用容器に、乾燥した木粉を2gずつ仕込み、大気中で蓋をした。木粉を仕込んだ容器をボールミルに装着し、600rpmで所定時間磨砕した。磨砕は30分間磨砕、30分間休止、次の30分間は逆回転の磨砕というサイクルで行った。よって、12時間の磨砕処理をする場合は、30分間磨砕30分間休止のサイクルを12回行うこととなり合計24時間の稼働時間を要した。磨砕後、磨砕用容器から木粉を取り出し、サンプル瓶に入れ、デシケーター中で保存した。
【0025】
磨砕木粉1gを三角フラスコに量り採った。10mLのジメチルスルホキシド(DMSO)をフラスコに注入し、マグネチック攪拌子と加温できるタイプのマグネチックスターラーを用いて50℃で加熱しながら攪拌した。約3時間の加熱攪拌後、磨砕木材DMSO溶液を得た。表1にG4グラスフィルターを用いて溶解性を評価した結果を示す。溶解率は使用した磨砕木粉を基とした百分率で表した。12時間以上の磨砕で十分な溶解率(ほぼ100%溶解率)での磨砕木粉DMSO溶液を得た。磨砕時間12時間における重量平均分子量は6.4×10を示した。
【実施例2】
【0026】
実施例1の工程において、木粉の変わりにセルロースを用いた。セルロースはシグマ製アルファー・セルロースを用いた。表1にG4ガラスフィルターを用いて溶解性を評価した結果を示す。12時間以上の磨砕で十分な溶解率での磨砕セルロースDMSO溶液を得た。磨砕時間12時間における重量平均分子量は4.8×10を示した。
【実施例3】
【0027】
実施例1及び実施例2において調製した磨砕リグノセルロースDMSO溶液を原料に用いてポリウレタンフィルムを製造した。ポリウレタン樹脂調製用のイソシアネート化合物、ポリメリック・メチレンジイソシアネート(P−MDI)として、日本ポリウレタン株式会社製、ミリオネートMR−100を使用した。P-MDIを1gフラスコに量り取り、2mLのDMSOを加えて攪拌しながら溶解して、P−MDI溶液を得た。ビーカー中に実施例1もしくは実施例2で得た磨砕セルロース溶液を5mL量り取り、次いで1mLのP−MDI溶液を加え、混合した。混合液は、羽根突き攪拌器を用い10000rpmで、すばやく攪拌した後、超音波洗浄器で1分間脱気した。脱気した混合液は、スポイトを用いてガラスシャーレ中に移し、左右にゆらしながら膜状に広げた。混合液を広げたシャーレは80℃に加熱したホットプレート上に静置し、24時間溶媒を蒸発させることによりフィルムを得た。フィルムは真空乾燥機に移し、適宜温度を加えながら真空乾燥して完全に溶媒を除去し、磨砕リグノセルロースを原料とした半透明のポリウレタンフィルムを得た。これは磨砕リグノセルロースがポリウレタン樹脂製造用のポリオール系物質として応用可能であることを示している。
【0028】
【表1】


【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、磨砕処理によるリグノセルロース溶液の製造法で、これまでに化学薬品を用いリグノセルロースを修飾、もしくは酸分解や熱分解してリグノセルロース溶液を調製していたものが、ボールミル等の磨砕装置のみで調製できるようになるため、より作業性及び安全性に優れたものとなる。また、製造したリグノセルロース溶液は化成品原料として供することができるので、リグノセルロースの有効利用に寄与することができる。
【出願人】 【識別番号】501186173
【氏名又は名称】独立行政法人森林総合研究所
【出願日】 平成19年6月13日(2007.6.13)
【代理人】 【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文

【識別番号】100067541
【弁理士】
【氏名又は名称】岸田 正行

【識別番号】100103506
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 弘晋


【公開番号】 特開2008−308530(P2008−308530A)
【公開日】 平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願番号】 特願2007−155858(P2007−155858)