トップ :: C 化学 冶金 :: C08 有機高分子化合物;その製造または化学的加工;それに基づく組成物

【発明の名称】 水溶性エラスチンの架橋剤
【発明者】 【氏名】宮本 啓一

【要約】 【課題】新規な水溶性エラスチンの架橋剤を提供する。

【解決手段】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式
【化1】


で表される水溶性エラスチンの架橋剤。
上記式中、R1、R3は下記の構造式で表される<A>
【化2】


(R4、R5はH、CH3、C25の何れかであり、R4とR5とは同じであっても異なっていてもよい)、または<B>
【化3】


の何れかであり、R1とR3とは同じであっても異なっていてもよく、
2は下記の構造式で表される<C>
【化4】


(nは1〜20までの整数である)、または<D>
【化5】


(m、lは0〜15までの整数であり、X、Yは、CH2またはOの何れかであり、XとYとは同じであっても異なっていてもよく、ZはCまたはNの何れかであり、R6、R7、R8、R9は、H、CH3、C25の何れかであり、それぞれ同じであっても異なっていて
も良い)の何れかである。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性機能性材料、およびその製造方法、医療用器具、架橋剤、外科治療方法、さらに再生組織に関する。
【背景技術】
【0002】
事故、災害その他の理由で神経組織が切断された患者に対する治療方法の一つとして、人工材料によるチューブを神経欠損部に連結して、該チューブ内に神経組織の再生を誘導する方法が行われている。該チューブとしては、シリコーン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、アルギン酸、ポリ乳酸等のチューブの内面を、コラーゲンやラミニンなどの細胞接着性タンパク質をコーティングしたものが用いられている。
また、血管が切断された患者に対する治療方法の一つとして、シリコーン、ポリウレタン、ポリエステルなどの合成高分子繊維を編んだ布を管状とし、その内面をコラーゲンやラミニンなどの細胞接着性タンパク質をコーティングした人工血管を、血管切断部位に移植し、該人工血管内部に内皮細胞を誘導させる方法が行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述のシリコーンチューブやポリウレタンチューブなどの内面は、細胞接着性がないためこれまでは、コラーゲンやラミニンなどの細胞接着性タンパク質をコーティングしたチューブや該人工血管を、前述のような治療方法に用いた場合には、長期の治療の間に該細胞接着性タンパク質が脱離し、神経や血管などの組織の再生が不十分であった。
さらに、動物内に移植するチューブや人工血管には、人体および各組織の動きに連動するだけの弾性が求められているが、シリコーンやポリエステルを主原料とするチューブや人工血管のヤング率(弾性率)は、適応された組織のヤング率(弾性率)が1×104〜2×106Paであるのに対し、1×107Pa以上であるため、接合部に強いストレスが起こり、その結果、血栓が生じるなどの問題を抱えており、人体の組織と同じ弾性を有する材料が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は前述の従来技術の課題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、水溶性エラスチンを架橋剤により架橋することにより、コーティングしたコラーゲンやラミニン等の細胞接着性タンパク質の脱離が起こらず、生体の移植に適合し得るだけの弾性を有するエラスチン架橋体を得ることができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させた。
本発明は下記の構成を有する。
【0005】
(1)水溶性エラスチンから選ばれた1種以上を含有する架橋原料が、水溶性架橋剤で架橋されてなるエラスチン架橋体。
(2)架橋原料がさらにコラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、フィブリン、ラミニン、カゼイン、ケラチン、セリシン、トロンビンであるタンパク質、ポリグルタミン酸、ポリリジンであるポリアミノ酸、ポリガラクチュロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン、デキストラン硫酸、硫酸化セルロース、アルギン酸、デキストラン、カルボキシメチルキチン、ガラクトマンナン、アラビアガム、トラガントガム、ジェランガム、硫酸化ジェラン、カラヤガム、カラギーナン、寒天、キサンタンガム、カードラン、プルラン、セルロース、デンプン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、大豆水溶性多糖、グルコマンナン、キチン、キトサン、キシログルカン、レンチナンである糖質、bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)、TGF−α(形質転換増殖因子α)、EGF(上皮増殖因子)、VEGF(血管内皮増殖因子
)、CTNF(毛様体神経栄養因子)である細胞増殖因子、ポリメタクリル酸メチル、ポリジメチルシロキサン、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーン、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカプロラクトン、ポリプロピレンエーテル、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリビニールアルコール、およびポリリンゴ酸から選ばれた1種以上を含有する(1)記載のエラスチン架橋体。
【0006】
(3)水溶性エラスチンの含有率が0.5〜99.5重量%の範囲である(1)記載のエラスチン架橋体。
(4)ヤング率が1×102〜1×107Paの範囲である(1)記載のエラスチン架橋体。
(5)内部構造が空隙を有するスポンジ構造である(1)記載のエラスチン架橋体。
(6)空隙の平均直径が20μm未満の範囲である(5)記載のエラスチン架橋体。
(7)空隙の平均直径が20μm〜2mmの範囲である(5)記載のエラスチン架橋体。
【0007】
(8)コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、フィブリン、ラミニン、カゼイン、ケラチン、セリシン、トロンビンであるタンパク質、ポリグルタミン酸、ポリリジンであるポリアミノ酸、ポリガラクチュロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン、デキストラン硫酸、硫酸化セルロース、アルギン酸、デキストラン、カルボキシメチルキチン、ガラクトマンナン、アラビアガム、トラガントガム、ジェランガム、硫酸化ジェラン、カラヤガム、カラギーナン、寒天、キサンタンガム、カードラン、プルラン、セルロース、デンプン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、大豆水溶性多糖、グルコマンナン、キチン、キトサン、キシログルカン、レンチナンである糖質、bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)、TGF−α(形質転換増殖因子α)、EGF(上皮増殖因子)、VEGF(血管内皮増殖因子)、CTNF(毛様体神経栄養因子)である細胞増殖因子、ポリメタクリル酸メチル、ポリジメチルシロキサン、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーン、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカプロラクトン、ポリプロピレンエーテル、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリビニールアルコール、およびポリリンゴ酸から選ばれた1種以上が化学的に結合されてなる(1)または(2)記載のエラスチン架橋体。
【0008】
(9)化学的結合が架橋剤を用いた架橋である(8)記載のエラスチン架橋体。
(10)コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、フィブリン、ラミニン、カゼイン、ケラチン、セリシン、トロンビンであるタンパク質、ポリグルタミン酸、ポリリジンであるポリアミノ酸、ポリガラクチュロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン、デキストラン硫酸、硫酸化セルロース、アルギン酸、デキストラン、カルボキシメチルキチン、ガラクトマンナン、アラビアガム、トラガントガム、ジェランガム、硫酸化ジェラン、カラヤガム、カラギーナン、寒天、キサンタンガム、カードラン、プルラン、セルロース、デンプン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、大豆水溶性多糖、グルコマンナン、キチン、キトサン、キシログルカン、レンチナンである糖質、bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)、TGF−α(形質転換増殖因子α)、EGF(上皮増殖因子)、VEGF(血管内皮増殖因子)、CTNF(毛様体神経栄養因子)である細胞増殖因子、ポリメタクリル酸メチル、ポリジメチルシロキサン、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーン、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカプロラクトン、ポリプロピレンエーテル、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリビニールアルコール、およびポリリンゴ酸から選ばれた1種以上を含有する(1)、(2)または(8)記載のエラスチン架橋体。
【0009】
(11)水溶性架橋剤が分子中心領域に疎水性部を有し、両末端にアミノ基と反応する活性エステル基を有する水溶性化合物である(1)記載のエラスチン架橋体。
(12)水溶性架橋剤が、下記一般式で表される水溶性化合物であることを特徴とする(1)記載のエラスチン架橋体。
【化1】


(R1、R3は下記の構造式で表される<A>または<B>の何れかであり、R1とR3とは同じであっても異なっていてもよく、)
【化2】


(R4、R5はH、CH3、C25のいずれかであり、R4とR5とは同じであっても異なっていてもよい。)
【化3】


(R2は下記の構造式で表される<C>または<D>の何れかで表される化合物であり、)
【化4】


(nは1〜20までの整数である。)
【化5】


(m、lは0〜15までの整数であり、X、Yは、CH2またはOの何れかであり、XとYとは同じであっても異なっていてもよく、ZはCまたはNの何れかであり、R6、R7、R8、R9は、H、CH3、C25の何れかであり、それぞれ同じであっても異なっていても良い。)
【0010】
(13)(1)〜(12)の何れか1項記載のエラスチン架橋体からなるエラスチン成形体。
(14)形状が、糸状、膜状、棒状、ペレット状またはチューブ状である(13)記載のエラスチン成形体。
(15)(1)記載のエラスチン架橋体を用いた医療用器具。
(16)(15)記載の医療用器具を用いることを特徴とする外科治療方法。
(17)(1)記載のエラスチン架橋体、(15)記載の医療用器具を用いることを特徴とする再生医療。
(18)(1)記載のエラスチン架橋体を用いて得られた再生組織。
(19)分子中心領域に疎水性部を有し、両末端にアミノ基と反応する活性エステル基を有する水溶性化合物を含有する架橋剤。
(20)化合物が、下記一般式で表される化合物である(19)記載の架橋剤。
【化6】


(R1、R3は下記の構造式で表される<A>または<B>の何れかであり、R1とR3とは同じであっても異なっていてもよく、)
【化7】


(R4、R5はH、CH3、C25のいずれかであり、R4とR5とは同じであっても異なっていてもよい。)
【化8】


(R2は下記の構造式で表される<C>または<D>の何れかで表される化合物であり、)
【化9】


(nは1〜20までの整数である。)
【化10】


(m、lは0〜15までの整数であり、X、Yは、CH2またはOの何れかであり、XとYとは同じであっても異なっていてもよく、ZはCまたはNの何れかであり、R6、R7、R8、R9は、H、CH3、C25の何れかであり、それぞれ同じであっても異なっていても良い。)
【0011】
(21)(19)記載の水溶性架橋剤を用いた架橋反応により、水溶性エラスチンを架橋することを特徴とするエラスチン架橋体の製造方法。
(22)架橋反応時の反応温度が4〜150℃の範囲であることを特徴とする(21)記載のエラスチン架橋体の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に使用する水溶性エラスチンとは特に限定されるものではないが、エラスチンを加水分解して得られるものであり、具体的には、動物の頚靭帯などを熱シュウ酸処理して得られるα−エラスチン若しくはβ−エラスチン、エラスチンをアルカリエタノール処理して得られるκ−エラスチン、エラスターゼにより酵素処理した水溶性エラスチンおよびエラスチン生合成経路における前駆体であるトロポエラスチンなどの少なくとも1種以上のエラスチンを使用することができる。トロポエラスチンは特に限定されるものではなく動物細胞からの抽出物でも、遺伝子組換え法により得られるトロポエラスチン遺伝子産物の少なくとも1種類以上を使用することができる。
【0013】
弾性タンパク質であるエラスチンは、通常、生体内において、大動脈や声帯など弾性が要求される体内組織に多く存在する。生体内に存在するエラスチンは、疎水性アミノ酸の含有量が多いことと、デスモシン、イソデスモシンなどの強固な架橋構造を有することから水不溶性の性質を持つ。該エラスチンは、こうした架橋構造により油状コイルと呼ばれる特有の構造を形成するために弾性を有している。
【0014】
本発明のエラスチン架橋体は、生体内エラスチンの架橋構造を分解し水溶性にした水溶性エラスチンから選ばれた1種以上を水溶性架橋剤で架橋して得ることができる。また本発明のエラスチン成形体は、前述の水溶性エラスチンと水溶性架橋剤を混ぜ合わせ水溶性エラスチン水溶液とした後、成形用のテンプレートなどに流し込み、加熱などで架橋させて得ることができる。
【0015】
本発明のエラスチン架橋体は、水溶性エラスチンおよび架橋剤以外の第3成分を含有するものであってもよい。該成分は特に限定されるものではない。該成分には、例えばコラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、フィブリン、ラミニン、カゼイン、ケラチン、セリシン、トロンビンなどのタンパク質やポリグルタミン酸、ポリリジンなどのポリアミノ酸、ポリガラクチュロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン、デキストラン硫酸、硫酸化セルロース、アルギン酸、デキストラン、カルボキシメチルキチン、ガラクトマンナン、アラビアガム、トラガントガム、ジェランガム、硫酸化ジェラン、カラヤガム、カラギーナン、寒天、キサンタンガム、カード
ラン、プルラン、セルロース、デンプン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、大豆水溶性多糖、グルコマンナン、キチン、キトサン、キシログルカン、レンチナン等の糖質、bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)、TGF−α(形質転換増殖因子α)、EGF(上皮増殖因子)、VEGF(血管内皮増殖因子)、CTNF(毛様体神経栄養因子)などの細胞増殖因子、その他ポリメタクリル酸メチル、ポリジメチルシロキサン、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーン、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカプロラクトン、ポリプロピレンエーテル、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリビニールアルコール、ポリリンゴ酸などの化合物を挙げることができる。さらにはそれらの1種以上を含有しても何ら問題はない。特にコラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、ラミニン、ヘパリン、コンドロイチン硫酸など細胞外マトリクス成分やbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)などの細胞増殖因子は細胞の接着および増殖を高めるために好ましい。
【0016】
本発明のエラスチン架橋体に含有する水溶性エラスチンの割合は、エラスチン架橋体に対して0.5〜99.5重量%の範囲であることが好ましい。更に好ましくは1〜95%であり、この範囲であれば生体に適した弾性を有する成形性良好な成形体を得ることができる。
【0017】
水溶性エラスチンは、全重量の約94%が疎水性アミノ酸、約1%が側鎖にアミノ基を含むアミノ酸(リジン、アルギニン、ヒスチジン)で形成された疎水性タンパク質である。本発明に使用する水溶性架橋剤は、水溶性エラスチンの側鎖のアミノ基と反応し、架橋反応するものであれば何れの水溶性架橋剤であっても使用することができる。該水溶性架橋剤としては例えば、グルタルアルデヒド、エチレングリシジルエーテルなどや下記一般式で表される分子中心領域に疎水性部を有し、両末端に活性エステル基を有する化合物などを挙げることができる。中でも下記一般式で表される化合物を架橋剤として用いると、生体に適した弾性を有する成形性良好な成形体を得ることができ好ましい。
【化11】


(R1、R3は下記の構造式で表される<A>または<B>の何れかであり、R1とR3とは同じであっても異なっていてもよく、)
【化12】


(R4、R5はH、CH3、C25のいずれかであり、R4とR5とは同じであっても異なっていてもよい。)
【化13】


(R2は下記の構造式で表される<C>または<D>の何れかで表される化合物であり、

【化14】


(nは1〜20までの整数である。)
【化15】


(m、lは0〜15までの整数であり、X、Yは、CH2またはOの何れかであり、XとYとは同じであっても異なっていてもよく、ZはCまたはNの何れかであり、R6、R7、R8、R9は、H、CH3、C25の何れかであり、それぞれ同じであっても異なっていても良い。)
【0018】
分子中心領域に疎水性部を有する化合物は、疎水性アミノ酸を多く含むエラスチンと、疎水相互作用により強固で安定した構造体を形成する。しかし、疎水性部を多く含む化合物は、有機溶媒には可溶ではあるが、水に難溶または不溶となり水系で取り扱いにくい。本発明の水溶性架橋剤は上記一般式で表されるジカルボン酸化合物の両末端を4-hydroxyphenyldimethyl-sulfoniummethylsulfate(4ヒドロキシフェニルジメチル−スルホニウムメチルサルフェイト:以下DSP)で活性エステル化させたもので、疎水性アミノ酸を多く含むエラスチンと強固な安定した構造体を取る疎水性部を有しながら、かつ水に溶解し水系で取り扱える特徴を有するものである。
【0019】
また本発明の水溶性架橋剤は、その化学式の両末端の活性エステル基が、水溶性エラスチンのアミノ酸とペプチド結合し、架橋する。従って、本発明の水溶性架橋剤により架橋して得られたエラスチン架橋体は、生体内で生分解を受け易い特徴を有する。その生分解速度は、エラスチン架橋体の架橋度と関係するため、架橋条件を変え架橋度を変えることにより制御することができる。
【0020】
本発明のエラスチン架橋体の構造は、特に限定するものではないが、体液や培養液などが浸透できるように空隙を有するスポンジ構造であることが好ましい。該空隙の大きさは特に限定されるものではないが、その平均直径が20μm未満の場合、ヤング率(弾性率)が高く硬い架橋体を得やすい。また、20μm〜2mmの範囲の場合、ヤング率(弾性率)が低く膨潤度の高い成形可能な架橋体を得やすい。
【0021】
本発明のエラスチン架橋体は、弾性に優れる架橋体であるが、生体に適合し易くするためにヤング率(弾性率)1×102〜1×107Paの範囲が好ましく、特に1×103
2×106Paの範囲が好ましい。
【0022】
本発明のエラスチン成形体の形状は特に限定されるものではないが、医療用途への適用では、糸状、膜状、棒状、ペレット状またはチューブ状などであることが好ましい。
【0023】
さらに、本発明のエラスチン架橋体は、それのみで特定の構造体を形成してもよく、あ
るいはエラスチン架橋体以外の成分と複合体を形成させても良い。また、エラスチン架橋体以外の構造体の表面コーティングに用いても良い。複合体を形成させる成分としては、特に限定されるものではないが、例えばコラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、フィブリン、ラミニン、カゼイン、ケラチン、セリシン、トロンビンなどのタンパク質やポリグルタミン酸、ポリリジンなどのポリアミノ酸、ポリガラクチュロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン、デキストラン硫酸、硫酸化セルロース、アルギン酸、デキストラン、カルボキシメチルキチン、ガラクトマンナン、アラビアガム、トラガントガム、ジェランガム、硫酸化ジェラン、カラヤガム、カラギーナン、寒天、キサンタンガム、カードラン、プルラン、セルロース、デンプン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、大豆水溶性多糖、グルコマンナン、キチン、キトサン、キシログルカン、レンチナン等の糖質、bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)、TGF−α(形質転換増殖因子α)、EGF(上皮増殖因子)、VEGF(血管内皮増殖因子)、CTNF(毛様体神経栄養因子)などの細胞増殖因子、その他ポリメタクリル酸メチル、ポリジメチルシロキサン、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーン、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカプロラクトン、ポリプロピレンエーテル、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリビニールアルコール、ポリリンゴ酸などの化合物を挙げることができる。さらにはこれらを1種以上を用いてもよい。これによりエラスチンにない細胞接着性や坑血栓性等の生体機能を付与でき、また目的とする組織の増殖速度を速めることもできる。
【0024】
水溶性エラスチンと水溶性架橋剤との架橋反応の条件は特に限定されるものではないが、反応温度は常圧またはオートクレーブなどの加圧下で4〜150℃の範囲であることが好ましい。特に架橋の操作性の点から10〜120℃の範囲が好ましい。また本発明のエラスチン架橋体が空隙を有するスポンジ状である場合には、反応温度を制御することにより、空隙の直径を制御することができる。例えば、反応温度が4〜50℃の範囲では、空隙の平均直径が20μm以上の架橋体を得ることができ、50〜150℃の範囲では空隙の平均直径が20μm未満の架橋体を得ることができる。
【0025】
本発明のエラスチン架橋体の成形方法は特に限定されるものではないが、一般的な合成樹脂の成形に用いられる成形用の型を用いて得ることができる。例えば水溶性エラスチンと本発明の水溶性架橋剤を混ぜ合わせ、水溶性エラスチン水溶液とした後、成形器に流し込み、オートクレーブなどで加熱し架橋させると、その鋳型を反映した糸状、膜状、棒状、ペレット状またはチューブ状などのエラスチン架橋体を得ることができる。
【0026】
本発明のエラスチン架橋体は、生体と同じ領域の弾性を有するため伸縮性に優れ、化粧品、医療用具として有効に用いることができる。特に限定されるわけではないが、例えば化粧品としては、スキンケア商品としてのフェイスマスク用基材として利用できる。医療用具としても特に限定されるわけではないがカテーテル、シャンテ、創傷被覆剤等の部品に成形し適用したものは、従来にない柔軟な機能を提供することとなる。
【0027】
またこれらを再生医療用材料として本発明の医療器具を体内に埋め込んだ場合には、目的とする組織が体内で順調に増殖し易くなる。特に前述した神経細胞や血管に対して有効である。
さらに細胞増殖速度を速め、生体適合性を改善するために、エラスチン架橋体と第3成分を含有させて本来のエラスチンにはない機能を付与することもできる。例えば、坑血栓性があり細胞増殖因子と相互作用するヘパリンや細胞増殖因子を含有させることができる。
【0028】
これらの第3成分は、エラスチン架橋体を作製するときに、予め原料として加えておき
架橋体を形成させてもよく、またエラスチン架橋体を形成させた後、その構造体に含浸させたり、その後乾燥させて物理的に吸着させたりしても良い。また更には、第3成分の脱理を抑えるために該エラスチン架橋体に化学的に固定化しても良い。
【0029】
本発明のエラスチン架橋体はDDS(ドラッグ・デリバリー・システム)の一つである徐放担体としても使用できる。特に本発明のエラスチン架橋体は高いヤング率(弾性率)と空隙を有するスポンジ構造体を得ることができ、神経、血管などの治療に効果を発揮することができる。
【0030】
本発明の医療用具は、前述のような機能、効果を有することから、外科治療法に用いた場合には特に有効である。例えば現在シートの片面にフィブリン、トロンビン等の血液凝固成分を固着させたコラーゲンシートが、手術後の止血用接着剤として用いられている。これは、手術によって生じた内臓の出血個所をシートで多い、血液凝固成分による止血とコラーゲン膜による物理的圧迫による止血の相乗効果と、取扱い易さを狙ったものであるが、コラーゲンシートは伸縮性が乏しく、心臓のような激しく動く臓器に適用した場合、圧着性が良くなかった。これに本発明のエラスチン架橋膜を使用することで、伸縮性が高く臓器の動きに対応できる膜を得ることができる。また更には、本発明のエラスチン架橋膜とコラーゲンの複合体を形成させれば、エラスチンの持つ伸縮性とコラーゲンの持つ細胞接着性の両者の特徴を有する、極めて生体適合性の高い膜が得られる。
【0031】
本発明のエラスチン架橋体は、前述の様に体内に埋め込み、血管や神経の再生の場としても利用できるが、この機能を体外でも利用することができる。すなわち、再生医療用培養基材として、本発明の膜表面、チューブ内に、方向付けされた胚性幹(ES)細胞、体性幹細胞、間葉系幹細胞などを移植、培養することで、希望する形態の臓器を形成させることが可能となる。本発明のエラスチン架橋体は、成形性が良いだけでなく生分解性でもあるため、ある程度培養し、形を形成させた臓器を培養基材ごと移植するカートリッジ型の再生医療方法と再生組織を提供できる。
【実施例】
【0032】
以下実施例をもって本発明を詳細に説明する。本実施例においては特に断りがない限り「%」は「重量%」を意味する。
実験例1(水溶性エラスチンの調製)
粉末状水不溶性エラスチン(エラスチン・プロダクト(Elastin product) 社製)20gに対し0.25Mシュウ酸150mlを加え、100℃にて1時間処理する。冷却後、遠心分離(3000rpm, 30min)し、上澄みを集めセルロース性透析チューブ(分画分子量6千〜1万)に入れ、脱イオン水に対して48時間透析しシュウ酸を除去する。その後凍結乾燥して水溶性エラスチンを得た。原料エラスチンと水溶性エラスチンのアミノ酸分析結果を表1に示した。
【表1】


【0033】
実験例2(架橋剤としてグルタルアルデヒドを使用しエラスチン架橋体を作製)
脱イオン水161μlに、実験例1で得た水溶性エラスチン90mgを加え溶解させ、水溶性エラスチン水溶液を得た。該水溶液に250mMグルタルアルデヒド水溶液(東京化成社製)48.7μlを加え、直後にゲル状のエラスチン架橋体を得た。該ゲル状のエラスチン架橋体は成形用の直径2mm、長さ2cm円柱状のテンプレートに流し込もうとしたが、流動性が小さく流し込むことはできなかった。250mMグルタルアルデヒド水溶液の添加量を前述の1/10の量に下げても、テンプレートに流し込むことが困難であった。
【0034】
実験例3(架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテルを使用しエラスチン架橋体を作製)
脱イオン水41.6μlに、実験例1で得た水溶性エラスチン36mgを加え溶解させ、水溶性エラスチン水溶液を得た。該水溶液に287mMエチレングリコールジグリシジルエーテル水溶液42.4μlを加えよくかき混ぜ、その溶液を直径2mm、長さ2cm円柱状のテンプレートに流し込み、50℃、1時間加熱してゲル状のエラスチン架橋体を得た。得られたゲル状のエラスチン架橋体を脱イオン水で充分洗浄し両端を指で引っ張り簡易伸張試験を行った結果、伸長の変形に対して壊れやすかった。
【0035】
実験例4(架橋剤として水溶性カルボジイミドを使用しエラスチン架橋体を作製)
脱イオン水10.4μlに、実験例1で得た水溶性エラスチン50mgを加え溶解させ、水溶性エラスチン水溶液を得た。該水溶液に274mM水溶性カルボジイミド(WSCD、ペプチド研究所社製)水溶液10.4μlを加え、更に645mMアジピン酸水溶液 24.4μl加えよくかき混ぜ、30%エラスチン水溶液を作成した。結果、長鎖ジカルボン酸は脱イオン水には溶解せず(アルカリ性の場合は溶解するが、その場合はカルボジイミドとの反応性が速く、やはり溶解不完全のまま一部固化し、各種テンプレート(型:ガラス管、膜作成用型など)に流し込むのは不可能であった。
【0036】
実験例5(架橋剤として光反応性スクシンイミドエステルを使用しエラスチン架橋体を作製)
脱イオン水1mlに、実験例1で得た水溶性エラスチン13mgおよび光反応性スクシンイミドエステル(NHS-ASA、N−ヒドロキシスクシンイミジル−4−アジドアルチル酸(N-hydroxysuccinimidyl-4-Azidosalicylic Acid), ピアス社製(PIERCE))4mgを加え溶解させ、室温で1日反応させた。反応終了後、未反応物を除去し精製し、光反応性エラスチン7mgを得た。これに脱イオン水20μlを加えて光反応性エラスチン水溶液とし、365nmの紫外線(UV)照射を90分間行いゲル状化させた。ゲル化後は脱イオン水で充分洗浄した。結果、架橋剤は水不溶性であるため反応性は低く、有機溶媒中ではエラスチンが不溶化するためやはり反応性が悪かった。光照射に関しても、エラスチン水溶液の濃度が薄い(数%)場合はUV光が透過するが、10%以上の濃度では、光の照射面のみの反応で集結するためゲル化率が悪く、テンプレート内での反応はほぼ不可能であった。
【0037】
実験例6(架橋剤としてアジピン酸スクシンイミドエステルを使用しエラスチン架橋体を作製)
脱イオン水119μlに、実験例1で得た水溶性エラスチン60mgを加え溶解させた後、385mMアジピン酸スクシンイミドエステル水溶液を21μl加え、該水溶液を直径2mm、長さ2cm円柱状のテンプレートに流し込み、80℃で1時間加熱しゲル化させた。結果、架橋剤が一部不溶化しているためか、生成したゲルは弱い(テンプレートの形はなしていない)。ドデカンジカルボン酸スクシンイミドエステルは水に不溶のため反応しなかった。
【0038】
実験例7(水溶性架橋剤[A]の作製)
ジカルボン酸のカルボキシル基を4-hydroxyphenyldimethyl-sulfoniummethylsulfate(4−ヒドロキシフェニルジメチル−スルホニウムメチルサルフェイト:以下DSP)により活性エステル化させた。DSPによる活性エステル化には、ペプチド化学等で報告されている方法(K. Kouge, T. Koizumi, H. Okai, and T. Kato. (1987) Bull. Chem. Soc. Jpn., 60, 2409.(日本化学会報誌)を用いて、以下の実験を行った。
【0039】
ドデカンジカルボン酸(2.5mmol)とDSP(5mmol)をアセトニトリル(35ml)に60℃で溶解し、放冷後dicyclohexylcarbodiimide(ジシクロヘキシルカルボジイミド:以下DCC)(5mmol)を加え25℃で5時間撹拌した。その後反応中に生じたジシクロヘキシル尿素(以下DC-Urea)をガラスフィルターでろ過し除去した。更に、反応溶液(ろ液)をエーテル(70ml)に滴下して固化させた。該固形物を減圧乾燥して、本発明の水溶性架橋剤[A]1.4gを得た。得られた架橋剤の純度は1H-NMR (JNM-EX-500, JEOL) による測定で98%であった。
【0040】
実験例8(架橋剤として実験例7で得た水溶性架橋剤[A]を使用しエラスチン成形体を作製)
脱イオン水1mlに、実験例1で得た水溶性エラスチン200mgを加えてよく撹拌し、20%水溶性エラスチン水溶液を得た。該水溶液の温度を25℃とし、これに実験例7で得た水溶性架橋剤[A]72μmol(該水溶液中のエラスチンのアミノ基量(24μmol)の3倍量)を加え5分間撹拌した。次にトリエチルアミンを24μmol加え更に5分間撹拌した後、直径2mm、長さ2cm円柱状のテンプレートに流し込み2日間静置しゲル化させ、脱イオン水で充分洗浄し乳白色で弾性に富む棒状のエラスチン成形体を得た。また、得られたエラスチン成形体を110℃で10分間オートクレーブ処理を行い、形状に変化が見られない滅菌されたエラスチン成形体を得た。得られたエラスチン成形体のヤング率を引っ張り強度試験機を用いて測定した結果を表2に示す。但し測定は得られたエラスチン成形体をそのまま使用し水中にて行った。また、得られたエラスチン成形体の切断面を90倍の倍率で走査型顕微鏡撮影した物を図1に示す。電子顕微鏡写真から、エラスチン架橋体の内部構造は、空隙を有するスポンジ構造であり、その平均直径は62μmであった。空隙の異なるエラスチン架橋体の弾性率を表2に示した。
【0041】
【表2】


【0042】
実験例9(架橋剤として実験例7で得た水溶性架橋剤[A]を使用し架橋条件を変えエラスチン成形体を作製)
該水溶液の温度を50℃とし静置時間を6時間とした以外は、実験例8の製造に準じて架橋反応並びに成形を行い、乳白色で弾性に富む棒状のエラスチン成形体を得た。得られたエラスチン成形体のヤング率を引っ張り強度試験機を用いて測定した結果を表2に示す。但し測定は得られたエラスチン成形体をそのまま使用し水中にて行った。また、得られたエラスチン成形体の切断面を90倍の倍率で走査型顕微鏡撮影した物を図2に示す。電子顕微鏡写真から、エラスチン架橋体の内部構造は、空隙を有するスポンジ構造であり、その平均直径は9μmであった。
【0043】
実験例10(エラスチン含有量を全体の1%としたエラスチン架橋体およびその成形体を作製)
実験例1で得た水溶性エラスチン0.8mgおよびゼラチン72mgに脱イオン水148μlを加えて溶解させた後、実験例7で作製した水溶性架橋剤278mM、39μl(架橋剤はエラスチンのアミノ基量の2倍に相当)加え、30%水溶性エラスチン水溶液を作製した。該水溶液を成形型に流し込み、120℃、30分間オートクレーブで加熱しエラスチン架橋体およびその成形体(図3)を得た。
【0044】
実験例11(エラスチン含有量を全体の10%としたエラスチン架橋体およびその成形体を作製)
実験例1で得た水溶性エラスチン8mgおよびゼラチン72mgに脱イオン水148μlを加えて溶解させた後、実験例7で作製した水溶性架橋剤278mM、39μl(架橋剤はエラスチンのアミノ基量の2倍に相当)加え、30%水溶性エラスチン水溶液を作製した。該水溶液を成形型に流し込み、120℃、30分間オートクレーブで加熱しエラスチン架橋体およびその成形体(図4)を得た。
【0045】
実験例12(エラスチン含有量を全体の90%としたエラスチン架橋体およびその成形体を作製)
実験例1で得た水溶性エラスチン72mgおよびゼラチン8mgに脱イオン水148μlを加えて溶解させた後、実験例7で作製した水溶性架橋剤278mM、39μl(架橋剤はエラスチンのアミノ基量の2倍に相当)加え、30%水溶性エラスチン水溶液を作製した。該水溶液を成形型に流し込み、120℃、30分間オートクレーブで加熱しエラスチン架橋体およびその成形体(図5)を得た。
【0046】
実験例13(エラスチン含有量を全体の0%としたゼラチン架橋体およびその成形体を作製)
ゼラチン80mgに脱イオン水148μlを加えて溶解させた後、実験例7で作製した水溶性架橋剤278mM、39μl(架橋剤はエラスチンのアミノ基量の2倍に相当)加え、30%水溶性エラスチン水溶液を作製した。該水溶液を成形型に流し込み、120℃、30分間オートクレーブで加熱しエラスチン架橋体およびその成形体およびその成形体(図6)を得た。
【0047】
実験例10〜13の結果をまとめると、エラスチン含有が0%の場合は膨潤が大きいが(水中で、6時間後、テンプレートの直径の2.3倍程度にまで膨潤した)、1%含有のゲルからは形状がしっかりしたゲルが形成された(図7:エラスチン含有0,1,10,90%)。他のゲルの膨潤性は1%ゲルでテンプレートの1.5倍程度、10%ゲルでテンプレートの1.4倍程度、90%ゲルでテンプレートの1.1倍程度であった。
【0048】
エラスチンの含有率が高くなるにつれ、その形状安定性は高い。伸長させた場合は、弾性率は不明だが含有率の低いゲルの方がちぎれやすく、強度が低い。
ゲルの色は水溶性エラスチン溶液が黄色なため含有率が高くなるにつれ、その影響が出て黄色味を帯びた。
【0049】
実験例14(架橋原料がさらに糖質を含有したエラスチン架橋体およびそのエラスチン成形体を作製)
実験例1で得た水溶性エラスチン75mgおよびヘパリン5mgに脱イオン水148μlを加えて溶解させた後、実験例7で作製した水溶性架橋剤278mM、39μl(架橋剤はエラスチンのアミノ基量の2倍に相当)加え、30%水溶性エラスチン水溶液を作製した。該水溶液を成形型に流し込み、120℃、30分間オートクレーブで加熱しエラスチン架橋体およびその成形体(図8)を得た。
【0050】
実験例15(ヘパリン含有の確認)
作成したゲルを脱イオン水で充分洗浄した後、1%トルイジンブルー"O"水溶液中で染色した。トルイジンブルー"O"はヘパリンに結合すると青→紫に染色される。図9よりヘパリンがゲルに取り込まれていることが確認できた。
【0051】
実験例16(エラスチン膜の作製)
リペルシラン処理(シリコンコート)したスライドガラスを2枚用い、スぺーサーとしてシリコンゴムシートを用いた成形用の型を用意し、実験例1で得た30%水溶性エラスチン水溶液と実験例7で作製した水溶性架橋剤(エラスチンのアミノ基に対して3倍モル)を混合した溶液を流し込み、外部より空気・水が入らないようにした。この状態を保ちながら水中で80℃、30分間加熱処理し、エラスチン膜(図10)を得た。
【0052】
実験例17(エラスチン各種成形体の調製)
各種成形用の型を用意し、30%水溶性エラスチン水溶液と実験例7で作製した水溶性架橋剤(エラスチンのアミノ基に対して3倍モル)を混合した溶液を流し込み、外部より空気・水が入らないようにした。この状態を保ちながら水中で80℃、30分間加熱処理し、チューブ状(図11)、糸状(図12)、ペレット状(図13)の成形物を得た。
【0053】
実験例18(細胞培養方法と増殖速度)
組織培養用プラスチックシャーレ(6穴)にエラスチン膜(厚さ0.5mm, 1cm×1cm)をおき、培養液を2ml加え37℃で30分間静置した。培養液はMEMハンクス粉末2.57gに脱イオン水215mlを加え溶解した後、重曹溶液(7.5%)を1.17ml、グルタミン溶液(200mM)を2.5ml、非必須アミノ酸溶液を2.5ml添加、ゲンタマイシン5mlそして牛胎児血清を25ml添加して作製した。
【0054】
これに神経細胞芽腫細胞(ニューロブラストーマ、IMR-32 (ATCC No. CCL-127)を1.0×104cell/ml濃度で100μl播種して24時間37℃でインキュベーションした後、経時的に細胞数を細胞計測板あるいは直接観察にて計測した。
対象として、アルブミンコートを用いた場合の、細胞増殖性を評価した。また培地は毎日交換した。実験回数は3回行った。
【0055】
(結果)エラスチン(シート)の細胞播種から3日後の細胞増殖率は約4倍程度。アルブミンコートの場合は細胞播種から3日後の細胞増殖率は約1.5倍程度であった。増殖曲線を図14に示した。
【0056】
実験例19(繊維芽細胞増殖因子(FGF)とヘパリンを含有したエラスチンゲル)
水溶性エラスチン75mgおよびヘパリン5mgに脱イオン水148 1μlを加え溶解させた後、実験例7で作製した水溶性架橋剤(278mM)39μlを加え、30%エラスチン水溶液を作成する。溶液を成形型に流し込み、120℃(オートクレーブ)で30分加熱して反応させた。作成したゲルを0.1Mリン酸緩衝液(pH7.5)で洗浄した後、2μg/ml塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)を含む0.1Mリン酸緩衝液(pH7.5)に24時間浸し、ゲルに含有したヘパリンに吸着させた。得られた成形物を図15に示した。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のエラスチン架橋体は、細胞接着性タンパク質の脱理が起こらず、生体移植に適合し得る弾性を有した材料であるため、従来の材料に生じていた長期の治療の間に該細胞接着性タンパク質が脱離する問題や、神経や血管などの組織の再生が不十分である問題などを解決する効果を有する。
また、本発明の水溶性架橋剤は、水溶性エラスチンを架橋し、鋳型があればどんな成形も可能な弾性を有するエラスチン架橋体が得られるため、その成形体を糸状や膜状、棒状、ペレット状、チューブ状、更には再生医療用材料や医療用器具材料などに加工し、幅広い用途での利用を可能とする効果を有する。
更に、本発明のエラスチン架橋体は、空隙を有するスポンジ構造を形成することから、薬剤などの浸透や、他の材料との複合を容易に行うことができ、新しい医療用材料の提供を可能とする効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例8の本発明のエラスチン架橋体の電子顕微鏡写真図である(25℃で反応)。
【図2】実施例9の本発明のエラスチン架橋体の電子顕微鏡写真図である(50℃で反応)。
【図3】実施例10のエラスチン1%ゼラチン架橋成形体を示す図である。
【図4】実施例11のエラスチン10%ゼラチン架橋成形体を示す図である。
【図5】実施例12のエラスチン90%ゼラチン架橋成形体を示す図である。
【図6】実施例13のエラスチン0%/ゼラチン架橋成形体を示す図である。
【図7】エラスチン0〜90%/ゼラチン架橋成形体比較写真図である。
【図8】実施例14のヘパリン含有エラスチン架橋成形体を示す図である。
【図9】実施例15のヘパリン含有確認試験を示す図である。
【図10】実施例16のシート状エラスチン架橋体を示す図である。
【図11】実施例17のシート状エラスチン架橋体を示す図である。
【図12】実施例17の糸状エラスチン架橋体を示す図である。
【図13】実施例17のペレット状エラスチン架橋体を示す図である。
【図14】細胞接着性タンパク質上での神経細胞芽腫細胞(IMR−32)の増殖カーブを示す図である。記号はゼラチン(△)、エラスチン(●)、アルブミン(□)、Noはタンパク質をコートした培養プレート上の初期細胞数、Ntは測定時の細胞数を意味する。
【図15】実施例19の線維芽細胞増殖因子含有エラスチン/ヘパリン架橋体を示す図である。
【出願人】 【識別番号】501217178
【氏名又は名称】宮本 啓一
【識別番号】000002071
【氏名又は名称】チッソ株式会社
【出願日】 平成20年5月16日(2008.5.16)
【代理人】 【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次

【識別番号】100105290
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 昭次

【識別番号】100091731
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 千嘉


【公開番号】 特開2008−291258(P2008−291258A)
【公開日】 平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願番号】 特願2008−129033(P2008−129033)