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【発明の名称】 リグノフェノール誘導体の製造方法
【発明者】 【氏名】増山 和晃

【氏名】西川 奈緒美

【氏名】井岡 浩之

【氏名】三原 理江

【要約】 【課題】収着フェノール誘導体として多価フェノールを用いた場合でも、1価のフェノールを用いたときと同様の収率が得られ、さらに有機溶剤への高い溶解性を与えるリグノフェノール誘導体の製造方法を提供する。

【構成】フェノール性水酸基の数が2又は3のフェノール誘導体が収着されたリグノセルロース系材料に酸を添加して混合し、セルロース分を酸に溶解させる一方、このセルロース成分を溶解した酸の相からリグニンとフェノール誘導体が反応したリグノフェノール誘導体相を分離させてリグノフェノール誘導体を製造する方法にあって、前記酸を混合する際の環境温度が25℃を越えた場合に、該酸に環境温度よりも低くした冷却酸を用いる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール性水酸基の数が2又は3のフェノール誘導体が収着されたリグノセルロース系材料に酸を添加して混合し、該リグノセルロース系材料中の炭水化物を酸に溶解又は膨潤させると共に該リグノセルロース系材料中のリグニンをフェノール誘導体と反応させた混合液にした後、該混合液に水を加えて反応停止し酸の相から分離した不溶区分を回収し、その後、該不溶区分を水洗して固液分離し、水に不溶な水洗不溶区分からリグノフェノール誘導体を得るリグノフェノール誘導体を製造する方法であって、前記酸を混合する際の環境温度が25℃を越えた場合に、該酸に環境温度よりも低くした冷却酸を用いることを特徴とするリグノフェノール誘導体の製造方法。
【請求項2】
前記冷却酸を、温度が5℃〜25℃の範囲内の冷却硫酸とする請求項1記載のリグノフェノール誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記水洗不溶区分を凍結乾燥させてリグノフェノール誘導体を得る請求項1又は2記載のリグノフェノール誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記水洗不溶区分を乾燥させ、しかる後、含水有機溶媒で抽出してリグノフェノール誘導体を得る請求項1又は2記載のリグノフェノール誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記水洗不溶区分を凍結乾燥させ、しかる後、含水有機溶媒で抽出してリグノフェノール誘導体を得る請求項3記載のリグノフェノール誘導体の製造方法。
【請求項6】
前記水洗不溶区分を乾燥させることなく直接有機溶媒又は直接含水有機溶媒で抽出してリグノフェノール誘導体を得る請求項1又は2記載のリグノフェノール誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、木粉等からリグニン成分を分離精製するリグノフェノール誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保全のため再生可能なバイオマスの利用が脚光を浴びている。木材についても紙、パルプ産業等で利用されてきたセルロースだけでなく、木材に25%〜30%の高い成分比率で含まれているリグニンに関心が寄せられている。しかし、木材はその主成分が構造及び性質の異なるリグニンとセルロース等の炭水化物とからなっており、リグニンを分離する必要がある。
従来、木材等からのリグニンの単離法には、1.木粉の95%エタノールによる直接抽出、2.木粉を振動式ボールミルを用いて径約10ミクロンまで微粉細し、ついで含水ジオキサンによりリグニンを抽出する方法、3.塩酸や硫酸によって加水分解する方法などがある。1,2の方法はリグニンの分離される割合が低く、3の方法はリグニン成分の分離が完璧に行われるが、リグニン成分の不活性化を伴うため有効利用が難しい問題があった。こうしたなかで、リグニンの良溶媒であるクレゾールを利用することによりリグニンの不活性化を抑える発明が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特許第2895087号公報
【特許文献2】特開2001−261839号公報
【0004】
特許文献2では、第3の方法(本願では以下「2段法プロセスII」という。)と称し、「…濃酸処理後の全反応液を過剰の水中に投入し、不溶区分を遠心分離にて集め、脱酸後、乾燥する。この乾燥物にアセトンあるいはアルコール等を加えてリグノフェノール誘導体を抽出する。さらに、この可溶区分を第1の方法と同
様に、過剰のエチルエーテル等に滴下して、リグノフェノール誘導体を不溶区分として得る」内容の粗リグノフェノール誘導体から高純度のリグノフェノール誘導体の製法発明が開示された。詳しくは、図3に示すごとく、まずリグノセルロース系材料にp−クレゾールなどのフェノール誘導体を収着させる(「フェノール誘導体収着工程」)。そのフェノール−リグノセルロース材料にセルロースを膨潤することができる酸を添加して激しく攪拌し、所定時間反応後、水の中に投入し、反応を停止させる(「酸反応工程」)。次に、遠心分離により酸・炭水化物画分とリグノフェノール誘導体画分を分画し、後者から残留する酸・炭水化物画分を除去すべく、中性付近まで大量の水で洗浄しデカンテーション等の固液分離を繰り返す。そして、得られた水洗不溶区分すなわち水洗中和リグノフェノール誘導体を乾燥させる(「水洗中和工程」)。その後、水洗中和リグノフェノール誘導体に含まれる炭水化物とリグノフェノール誘導体との分離を目的とし、後者のみ溶解可能なアセトンなどの有機溶媒に溶解させ、リグノフェノール誘導体抽出物を得る(抽出工程)。しかる後、分子量の低いリグノフェノール誘導体および未反応のフェノール誘導体を除去するためにジエチルエーテルなどの有機溶媒に前記リグノフェノール誘導体−有機溶液を滴下して、分子量がある程度均一化される精製リグノフェノール誘導体を製造する(「精製工程」)。
【0005】
この発明は常温で反応させるためエネルギーの節約になることの他に、前記3の欠点のように縮合によるリグニンの不活性化を伴わないこと、前記1、2の欠点のように部分的なリグニンの抽出ではなく木粉中のほぼ全てのリグニンが取り出せるなど優れた技術となっている。そして、このリグノフェノール誘導体は例えば抗アレルゲン組成物として有効であることが見出されている(特開2006−111812号公報)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに、前記2段法プロセスIIは、収着に使用するフェノール誘導体として多価フェノールを実際に用いると以下のような支障をきたした。まず、前記水洗中和工程において、固液分離を行うとき1価のフェノールを収着に用いた場合は中性付近においても比較的速く沈降するため固液分離が容易となるが、多価フェノールの場合にはリグノフェノール誘導体と水との親和性が高くなるため、該リグノフェノール誘導体が浮遊状態を保ち沈降が進まない。その結果、固液分離時にリグノフェノール誘導体の一部が流出し、水洗中和工程の終了時におけるリグノフェノール誘導体の収率が著しく低下するという問題があった。
また、水洗中和・固液分離後の乾燥方法について、例えば40℃で送風乾燥を行うことによって水洗中和工程を終了する場合、1価のフェノールを収着させた場合に比べ多価フェノールの場合は、その後の精製工程における有機溶剤への溶解性が著しく低下するという問題があった。
【0007】
本発明は上記問題点を克服するもので、収着フェノール誘導体として多価フェノールを用いた場合でも、1価のフェノールを用いたときと同様の収率が得られ、さらに有機溶剤への高い溶解性を与えるリグノフェノール誘導体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、請求項1に記載の発明の要旨は、フェノール性水酸基の数が2又は3のフェノール誘導体が収着されたリグノセルロース系材料に酸を添加して混合し、該リグノセルロース系材料中の炭水化物を酸に溶解又は膨潤させると共に該リグノセルロース系材料中のリグニンをフェノール誘導体と反応させた混合液にした後、該混合液に水を加えて反応停止し酸の相から分離した不溶区分を回収し、その後、該不溶区分を水洗して固液分離し、水に不溶な水洗不溶区分からリグノフェノール誘導体を得るリグノフェノール誘導体を製造する方法であって、前記酸を混合する際の環境温度が25℃を越えた場合に、該酸に環境温度よりも低くした冷却酸を用いることを特徴とするリグノフェノール誘導体の製造方法にある。
請求項2の発明たるリグノフェノール誘導体の製造方法は、請求項1で、冷却酸を、温度が5℃〜25℃の範囲内の冷却硫酸とすることを特徴とする。
請求項3の発明たるリグノフェノール誘導体の製造方法は、請求項1又は2で、水洗不溶区分を凍結乾燥させてリグノフェノール誘導体を得ることを特徴とする。
請求項4の発明たるリグノフェノール誘導体の製造方法は、請求項1又は2で、水洗不溶区分を乾燥させ、しかる後、含水有機溶媒で抽出してリグノフェノール誘導体を得ることを特徴とする。
請求項5の発明たるリグノフェノール誘導体の製造方法は、請求項3で、前記水洗不溶区分を凍結乾燥させ、しかる後、含水有機溶媒で抽出してリグノフェノール誘導体を得ることを特徴とする。
請求項6の発明たるリグノフェノール誘導体の製造方法は、請求項1又は2で、水洗不溶区分を乾燥させることなく直接有機溶媒又は直接含水有機溶媒で抽出してリグノフェノール誘導体を得ることを特徴とする。
【0009】
請求項1の発明のごとく酸を混合する際の環境温度が25℃を越えた場合に、該酸に環境温度よりも低くした冷却酸を用いると、リグニンの酸化やスルホン化による水溶化が抑制されるので、炭水化物を酸に溶解又は膨潤させ、リグニンをフェノール誘導体と反応させた混合液の固液分離性を良好にし、リグノフェノール誘導体の収率が向上する。冷却酸を用いないと、フェノール性水酸基の数が複数あるフェノール誘導体(以下、「多価フェノール」という。)存在下では炭水化物がゲル化し(多価フェノール特有の現象で、クレゾールでは起こらない。)、リグニンが炭水化物に絡まったまま浮遊してしまうため、水洗時の固液分離性が悪くなり収率が低下する。冷却酸を用いることで、炭水化物の分解は抑制されるものの、該炭水化物がゲル化することがなくなり水洗時の固液分離性が向上し(炭水化物が沈殿しやすくなる)、リグニンと酸に溶解されなかった一部の炭水化物を水洗不溶区分として円滑に回収できる。さらに、リグニンの酸化重合を最小限に抑えることができるため、有機溶媒等によるリグノフェノール誘導体の抽出効率が向上する。
請求項2の発明のごとく冷却酸を温度が5℃〜25℃の範囲内の冷却硫酸とすると、固液分離性が一層良好になり、また有機溶媒等によるリグノフェノール誘導体の抽出効率が向上する。冷却酸の温度が5℃よりも低くなると、リグニンとフェノール誘導体との反応が不完全になるので、有機溶媒等によるリグノフェノール誘導体の抽出効率が低下する。
請求項3の発明のごとく水洗不溶区分を凍結乾燥させると酸化が防止されるので、有機溶媒に抽出可能となり、例えば抗アレルゲン組成物等として有効なリグノフェノール誘導体粉末が得られる。
請求項4,請求項5の発明のごとく乾燥後に含水有機溶媒で抽出すると、有機溶媒単独のものよりも抽出溶媒の極性が高くなり、リグノフェノール誘導体との親和性が高まるので、該リグノフェノール誘導体の収率が向上する。
請求項6の発明のごとく水洗不溶区分を直接有機溶媒又は直接含水有機溶媒で抽出してリグノフェノール誘導体を得るようにすると、請求項4,請求項5の発明にあるような含水有機溶媒による抽出と同様の状態となり、水洗不溶区分の乾燥処理が省かれコスト削減,製造の時間短縮が図れる。
【0010】
本発明者等はアレルゲン低減物質としてリグノフェノール誘導体が有効である発明をし(特開2006−111812号公報)、さらに最近になって、リグノクレゾールに比べてリグノピロガロール等のリグノフェノール誘導体に顕著なアレルゲン低減効果が現れるのを見出した。ところが、多価フェノールを用いたリグノフェノール誘導体の製造方法を検討する過程で、1価のフェノールを用いたときに比較して収率が非常に低い現実に直面した。理論的に何価のフェノールを収着に用いてもリグニン誘導体の存在量は化学量論的に殆ど変化がないと考え、その原因追及と収率を上げる手法について鋭意研究を行った結果、多価フェノールの場合には固液分離時に、リグノフェノール誘導体の多くが流出してしまうことと、酸反応工程および乾燥時において酸化の影響を受けやすいことが原因であることを突き止めた。そして本発明者等は、こうした問題を解決するため鋭意研究を重ね、多価フェノールを導入したリグノフェノール誘導体を製造するにあたり、固液分離時の流出を避けるため、酸を混合する際の環境温度が25℃を越えて上昇した場合は酸反応工程を低温且つ短時間で行うこと、また酸化防止を行う乾燥方法を選択する必要があること、より効率良く目的物質を抽出するには含水有機溶媒を使用するのが好ましいこと、また、空気による酸化を抑えたまま目的物質を抽出するには、乾燥工程を経ずに抽出操作を行うのが好ましいこと等を要旨とする本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0011】
本発明のリグノフェノール誘導体の製造方法は、多価フェノールを導入したリグノフェノール誘導体を造る際、従来法による場合と比較して、高い収率を上げることができ、さらに製造されたリグノフェノール誘導体が有機溶剤への溶解性に優れるなど極めて有益となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係るリグノフェノール誘導体の製造方法について詳述する。本発明のリグノフェノール誘導体は、特開2001-261839公報記載と同じように、木粉等のリグノセルロース系材料にフェノール誘導体が溶解した溶媒を浸透させた後、溶媒を留去し(フェノール誘導体の収着工程)、次いで該リグノセルロース系材料に酸を混合することによって炭水化物を酸に溶解又は膨潤させる一方、該フェノール誘導体に係るフェノール性水酸基のオルト位及び/又はパラ位の炭素原子がリグニンのアリールプロパンユニットのC1位の炭素原子に結合した1,1−ビスアリールプロパンユニットを有するリグノフェノール誘導体であって、前記フェノール誘導体のフェノール性水酸基の数が2又は3のものが対象になる。さらにいえば、本発明でいうリグノフェノール誘導体は、特開2004-210899,特開2004-137347,特開2004-115736,特開2003-268116,特開2001-261839,特開2001-131201,特開2003-181863,特開2001-64494,特開2001-34233,特開平9-278904号,特開平2-23701号等の公報記載の公知のリグノフェノール誘導体、粗リグノフェノール誘導体、精製リグノフェノール誘導体、リグニンのフェノール誘導体にあって、その導入フェノール誘導体のフェノール性水酸基の数を2又は3とするものである。
フェノール性水酸基の数が2のフェノール誘導体には、カテコール,アルキルカテコール,レゾルシノール,アルキルレゾルシノール,ハイドロキノン,アルキルハイドロキノン等がある。フェノール性水酸基の数が3のフェノール誘導体には、ピロガロール,フロログルシノール等がある。
【0013】
フェノール誘導体が収着されたリグノセルロース系材料に酸を添加して混合し、リグノセルロース系材料中の炭水化物を酸に溶解又は膨潤させると共に該リグノセルロース系材料中のリグニンをフェノール誘導体と反応させた混合液とし、次に該混合液に水を加えて反応停止し炭水化物を溶解した酸の相からリグニンと該フェノール誘導体が反応したリグノフェノール誘導体相の不溶区分を分離,回収してリグノフェノール誘導体が得られる(特開2001−261839号公報等)が、本製法では、フェノール性水酸基が2又は3のフェノール誘導体が収着されたリグノセルロース系材料に酸を添加して混合する際の環境温度が25℃を越えた場合に、以下の方法を採用する。すなわち、フェノール性水酸基の数が2又は3のフェノール誘導体が収着されたリグノセルロース系材料に、予め冷却しておいた酸を添加して混合する。詳しくは、リグノセルロース系材料に、フェノール性水酸基が2又は3の例えばカテコール、ピロガロールが収着されたリグノセルロース系材料に、予め冷却しておいた酸を添加して混合し、10〜15分間反応させた後、水(例えば10倍量の水)で希釈し反応を停止させる(酸反応工程)。予め冷却しておいた酸を添加する理由は、反応開始直後の水和熱による過剰な温度上昇を抑制し、リグノセルロース系材料中のリグニンの酸化を防げるからである。
【0014】
ここで、前記リグノセルロース系材料とはリグニンと炭水化物(セルロースやセミセルロース)を含有する針葉樹,広葉樹などの植物で、例えば木材,木片,木粉、木質材料としての合板,集成材,パーティクルボード等、さらにそれらの廃材などがある。また各種草植物、農産廃棄物等も該当する。
前記酸とはセルロースに対して膨潤性を有する酸で、好ましくは温度が5℃〜25℃の範囲内の冷却酸である。具体的には65重量%以上の硫酸(例えば、72重量%の硫酸)や38重量%以上の塩酸などの冷却酸を挙げることができる。
【0015】
フェノール性水酸基の数が2又は3のフェノール誘導体が収着されたリグノセルロース系材料に、酸を混合する際の環境温度(周囲の温度)が25℃を越えた場合に冷却酸を添加して混合し、該リグノセルロース系材料中の炭水化物を酸に溶解又は膨潤させると共に該リグノセルロース系材料中のリグニンをフェノール誘導体と反応させた混合液にした後、該混合液に水を加えて反応停止し酸の相から分離した不溶区分を回収し、その後、該不溶区分を水洗して固液分離し、水に不溶な水洗不溶区分からリグノフェノール誘導体を得る。前記冷却酸(予め冷却しておいた酸)は、温度が5℃〜25℃の範囲内の冷却硫酸とするとより好ましい。硫酸とするのは酸強度が高く且つ安価で、取扱いが他の酸に比べ容易だからであり、温度を5℃〜25℃の範囲内とするのは、5℃未満になると反応効率の著しい低下による相分離反応が不完全になるという不具合がある一方、25℃を越えると、過剰反応によるリグノセルロース系材料中のリグニンの酸化やスルホン化による水溶化の問題がでてくるからである。
【0016】
従来は、フェノール誘導体が収着されたリグノセルロース系材料に酸を添加して混合する酸反応工程での環境温度が25℃を越えても、特に温度処理等をしなかった。逆に、リン酸などでは炭水化物が膨潤しないことから50℃程度に積極的に加熱していた(特開2001-342353公報)。しかるに、従来法の冷却していない酸を用いて60分以上反応させる方法では、この酸反応工程でリグノカテコール又はリグノピロガロールは水中で浮遊しており、次の脱酸等を行う水洗中和工程でリグノカテコール又はリグノピロガロールの大部分が水に溶解し消失してしまう。前記酸を添加し混合する際、冷却酸を用いることによってこうした問題が解決される。
【0017】
本製法では、また前記酸反応工程(濃酸処理)後の不溶区分を、水洗して固液分離する水洗中和工程で脱酸等の処理を行った後(図1)、この水洗不溶区分を凍結乾燥により粉末化させて、リグノピロガロール等の所望のリグノフェノール誘導体(粗リグノフェノール誘導体)を得る。
【0018】
ここで、図3の「2段法プロセスII」は、リグノセルロース系材料からリグニンを分離しリグノフェノール誘導体を製造する視点で見ると、反応自体は酸を投入して撹拌を停止し、水を投入した段階で終わっている。後は未反応のセルロースや木粉等のリグノセルロース系材料と、リグノフェノール誘導体に分けているだけである。「2段法プロセスII」では、水洗中和工程で過剰の水を加えて糖,酸を取除き、水洗不溶区分を遠心分離機等により回収する。次いで、送風乾燥等で乾燥して粗リグノフェノール誘導体を得、次の抽出工程でアセトン等のリグノフェノール誘導体親溶媒で、炭水化物等を不溶区分として取除く。更に次の精製工程でジエチルエーテル等のリグノフェノール誘導体貧溶媒に滴下して低分子リグノフェノール誘導体,未反応フェノール誘導体を分離して精製リグノフェノール誘導体を得ていた。
【0019】
これに対し、本製法で用いるフェノール性水酸基の数が2又は3のフェノール誘導体、例えばカテコール又はピロガロールは、p-クレゾールと異なり水に易溶で、ジエチルエーテル滴下等の精製を行わずとも前記水洗中和工程で大半が除去されるため、「2段法プロセスII」における精製工程が不要になる(図1)。こうして得たリグノカテコール等のリグノフェノール誘導体は、例えば抗アレルゲン物の用途として十分に機能し、リグノクレゾールに比べて顕著なアレルゲン低減効果を発揮するのが確かめられている。
【0020】
また前記凍結乾燥に関して、乾燥に従来法の送風乾燥を用いると、リグノカテコールやリグノピロガロールは酸化されてしまい、有機溶媒に抽出されにくくなる。しかし、前記水洗不溶区分を凍結乾燥すれば酸化されなくなり、抗アレルゲン効果のあるリグノフェノール誘導体含有化物が得られる。
【0021】
リグノフェノール誘導体の基本的な製造方法は特開2001-131201にあるが、収着するフェノール誘導体としてカテコールやピロガロールを用いると、p−クレゾールを使用したときとは異なり、硫酸処理後の水洗時にリグノフェノール誘導体の固形物が浮揚するため、水洗中和による脱酸処理を行おうとした場合に流出し収率が著しく低下したが、酸反応工程において予め冷却しておいた酸を用いて、短時間で反応を停止することにより、収率を下げることなく安定したリグノフェノール誘導体を得ることができる。
【0022】
また、水洗処理後のリグノカテコールやリグノピロガロールは、リグノp−クレゾールに比べフェノール性水酸基が多いため、酸化されやすく上記特開2001-131201に示されているような通常の乾燥方法では直ちに酸化されてしまう問題があった。このときの乾燥後のリグノカテコール及びリグノピロガロールは、焦茶色の固形物となり、水、酸、アルコール、有機溶媒に溶解しなくなり、収率が低下する。このような酸化を抑えながら、乾燥を行う方法として、鋭意研究を行った結果、凍結乾燥機等を利用することによって、有機溶媒への抽出率が向上するリグノフェノール誘導体の粉末を得ることができた。
【0023】
また、本製法では、図1の凍結乾燥で得られる凍結乾燥物をリグノフェノール誘導体親溶媒で抽出し、炭水化物などの不溶区分を取除くが、リグノフェノール誘導体親溶媒には含水有機溶媒が好適で、収率を向上させより好ましいことが明らかになった。含水有機溶媒は水に可溶であれば有機溶媒の種類を問わない。例えば50%〜90%メタノール水、50%〜90%エタノール水、50%〜90%アセトン水、50%〜90%ジオキサン水、50%〜90%THF水等がある。尚、有機溶媒単独だと極性が低くなり収率低下を招き、また100%水にすると、今度は極性が高くなりすぎて収率低下を招く。
さらに、水洗中和工程で固液分離後、該水洗不溶区分を乾燥させることなく直接有機溶媒又は直接含水有機溶媒で抽出してリグノフェノール誘導体が得られることを見出し、製造コスト低減,生産性向上に寄与できるようになった。水洗中和工程の固液分離後の水洗不溶区分は元々含水しているので、有機溶媒で抽出しても含水有機溶媒と同様の効果が得られる。
【実施例1】
【0024】
[リグノピロガロールの合成(酸処理条件の検討)]
アセトンにて脱脂したスギ木粉50gに対し、含有リグニンC9単位あたり2倍mol量となるように、ピロガロール37.8gを400mlのアセトンに溶解した溶液を作り1日浸漬し収着させた。この試料をロータリーエバポレーターでアセトンが完全に無くなるまで減圧乾燥し、ピロガロールを木粉に均一に収着させた。この木粉13.78gに対して0℃、5℃、15℃、室温(25℃)、40℃、60℃に調整した30mlの72%硫酸を加えながら、10分(0℃、5℃、15℃の場合は15分)、30分、60分攪拌した。その後、加えた硫酸の10倍量のイオン交換水に投入、濃酸反応を停止させた。このとき、リグニン成分は希硫酸溶液のなかで浮遊した。反応停止後、遠心分離(4000G、10分間)で固液分離した(遠心分離後には、リグニン区分は水不溶なので固形物、硫酸及び加水分解された糖類は上澄みに存在する)。遠心分離によりできた上澄みを除去し、新たにイオン交換水に投入して攪拌後、再度遠心分離(4000G、10分間)を繰り返し、上澄みの液性が中性付近になるまで洗浄・遠心分離(固液分離)を繰り返した。酸及び未反応のピロガロールを除去し、得られた固形物の試料(以下、粗リグノピロガロール)を乾燥した。表1に各条件により生成された粗リグノピロガロールの収率を示す。
【0025】
【表1】


【0026】
硫酸温度の上昇および反応時間が長くなるにつれて、粗リグノピロガロールの収率が低下した。これは、硫酸温度が上昇し、酸処理時間が長くなると、試料が酸中に溶出し、遠心分離での脱酸処理において処理水と一緒に流出するためであると思われる。最も収率の高い条件は、硫酸温度が15℃且つ反応時間15分で、好適範囲は硫酸温度(酸温度)が5℃〜25℃の範囲内で且つ酸反応工程の反応時間が5分〜15分の範囲内であった。
【実施例2】
【0027】
[乾燥条件の検討]
酸反応工程において硫酸温度を室温(25℃)または15℃、反応時間10分または15分処理し、水洗中和後に得られる固形物の試料を乾燥するにあたり、(1)40℃送風乾燥・(2)真空乾燥(40℃・60℃・80℃)、(3)窒素雰囲気下乾燥(150℃・200℃)、(4)凍結乾燥を使用し、得られた乾燥物の80%メタノール水による抽出率を測定した。また得られた固形物の含水率を測定し、80%メタノール水となるように所定量の水とメタノールを加えて乾燥工程を経ることなく抽出を行う方法((5)乾燥なし)についても検討した。表2に各乾燥条件により得られた粗リグノピロガロールの80%メタノール水による抽出率を示した。
【0028】
【表2】


【0029】
いずれの条件も、凍結乾燥機を使用したときの収率を上回ることができず、特に温度については低くする必要があることがわかった。さらに酸反応工程で冷却した硫酸を使用することにより粗リグノピロガロール収率のみならず、抽出率も向上することを見出した。冷却した硫酸を使用した場合では乾燥工程を省いた抽出方法も有効であることがわかった。これにより乾燥にかかる時間およびコストを大幅に削減することが可能と考えられる。表3に、p−クレゾール、カテコールおよびピロガロールを用いて合成したリグノフェノール誘導体の80%メタノール水による抽出率を示す。
【0030】
【表3】


【0031】
リグノクレゾールの場合、40℃での送風乾燥と凍結乾燥を行ったときの収率にほとんど変化は見られなかったが、リグノカテコールおよびリグノピロガロールにおいては、40℃送風乾燥において収率が大きく低下した。この原因として、多価フェノールを利用したリグノフェノール誘導体においては、1価フェノールに比較して空気中の酸素や熱による酸化が起こりやすくなるため、リグノピロガロールのような多価フェノールを利用したリグノフェノール誘導体の製造の際には、凍結乾燥のような酸化を抑えた手段を採る必要がある。
【実施例3】
【0032】
[抽出溶媒の選定]
粗リグノクレゾール、粗リグノカテコールおよび粗リグノピロガロールを凍結乾燥しアセトン、メタノール、80%メタノール水で抽出し、抽出率を測定した。表4に各溶媒による抽出率を示した。
【0033】
【表4】


【0034】
リグノカテコールおよびリグノピロガロールでは80%メタノール水による抽出が最も効率が良く、次いでメタノール、アセトンの順となった。これはフェノール性水酸基を多くもつリグノ多価フェノール類が高極性溶媒に対して高い親和性を持つことに起因すると考えられる。
【0035】
また本製法によれば、既述のごとくカテコールやピロガロールは水に易溶で水洗中和工程にて除去されるため精製工程を必要としない。実際、精製工程の手前で抽出工程を終えたものでも、未反応のカテコールやピロガロールが残留しないことをGPC,HPLCで確認している(図2)。
【0036】
かくのごとく、以前の製法技術(例えば特開2001-64494 実施例1:リグノフェノールの製造方法)では、常温硫酸を用い長時間の反応を行なうため、環境温度が25℃を越えたとき酸洗浄時に固液分離がし難くなり、リグノカテコール、リグノピロガロールの収率が極端に悪くなった。また、中性まで洗浄できた試料を乾燥する際に40℃の送風乾燥を用いた場合、リグノカテコール、リグノピロガロールの酸化等が進み、水や有機溶剤等に不溶な物質に変性してしまったが、斯かる不具合は、硫酸を触媒にしてリグノカテコールやピロガロールを合成する際に使用する硫酸を予め冷却し、且つ短時間で反応を停止すること、粗精製物の乾燥時に凍結乾燥等の酸化抑制ができる手法を選択することで解消できた。なおスプレードライは短時間で乾燥終了するため酸素による障害を受け難いので、これに代えることができる。
【0037】
尚、本発明においては前記実施形態,実施例に示すものに限られず、目的,用途に応じて本発明の範囲で種々変更できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の製造プロセスのフロー図である。
【図2】リグノピロガロール80%メタノール水抽出物のHPLC分析データ図である。
【図3】「2段法プロセスII」の従来製造プロセスのフロー図である。
【出願人】 【識別番号】594156880
【氏名又は名称】三重県
【識別番号】594095338
【氏名又は名称】株式会社マルトー
【出願日】 平成18年7月25日(2006.7.25)
【代理人】 【識別番号】100101627
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 宜延


【公開番号】 特開2008−24880(P2008−24880A)
【公開日】 平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願番号】 特願2006−201546(P2006−201546)