トップ :: C 化学 冶金 :: C08 有機高分子化合物;その製造または化学的加工;それに基づく組成物

【発明の名称】 医療材料用高分子化合物および該高分子化合物を用いた医療材料
【発明者】 【氏名】松元 孝行

【氏名】福西 賢晃

【氏名】松本 光貴

【要約】 【課題】生理活性物質の固定化能力に優れ、タンパク質に対して非特異吸着が少なく、洗浄工程における溶解や劣化の少ない化学的・物理的安定性を有する医療材料用高分子化合物を提供すること。

【構成】アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)及び生理活性物質を固定化する官能基がアルキレングリコール残基を介して結合しているエチレン系不飽和重合性モノマー(b)から誘導される繰り返し単位を含む重合体であって、前記エチレン系不飽和重合性モノマー(b)のアルキレングリコール残基の鎖長がエチレン系不飽和重合性モノマー(a)のアルキレングリコール残基の鎖長より長く、かつ前記共重合体の少なくとも片側の末端に反応性官能基を有することを特徴とする医療材料用高分子化合物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)及び生理活性物質を固定化する官能基がアルキレングリコール残基を介して結合しているエチレン系不飽和重合性モノマー(b)から誘導される繰り返し単位を含む重合体であって、前記エチレン系不飽和重合性モノマー(b)のアルキレングリコール残基の鎖長がエチレン系不飽和重合性モノマー(a)のアルキレングリコール残基の鎖長より長く、かつ前記共重合体の少なくとも片側の末端に反応性官能基を有することを特徴とする医療材料用高分子化合物。
【請求項2】
アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)及び生理活性物質を固定化する官能基がアルキレングリコール残基を介して結合しているエチレン系不飽和重合性モノマー(b)及び疎水性ユニットを有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)から誘導される繰り返し単位を含む重合体であって、前記エチレン系不飽和重合性モノマー(b)のアルキレングリコール残基の鎖長がエチレン系不飽和重合性モノマー(a)のアルキレングリコール残基の鎖長より長く、かつ前記共重合体の少なくとも片側の末端に反応性官能基を有することを特徴とする医療材料用高分子化合物。
【請求項3】
前記末端の反応性官能基が反応性シリル基である請求項1または2記載の医療材料用高分子化合物。
【請求項4】
前記反応性シリル基がアルコキシシリル基である請求項3記載の医療材料用高分子化合物。
【請求項5】
アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)が下記の一般式[1]で表されるモノマーである請求項1〜4いずれか記載の医療材料用高分子化合物。
【化1】


(式中R1は水素原子またはメチル基を示し、R2は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示す。Xは炭素数1〜10のアルキレングリコール残基を示し、pは1〜100の整数を示す。pが2以上100以下の整数である場合、繰り返されるXは、同一であっても、異なっていてもよい。)
【請求項6】
アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)のアルキレングリコール残基がエチレングリコール残基である請求項5記載の医療材料用高分子化合物。
【請求項7】
アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)がメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシエチルアクリレートである請求項5記載の医療材料用高分子化合物。
【請求項8】
生理活性物質を固定化する官能基がアルキレングリコール残基を介して結合しているエチレン系不飽和重合性モノマー(b)の官能基がアルデヒド基、活性エステル基、エポキシ基、ビニルスルホン基、ビオチンから選ばれる少なくとも一つの官能基である請求項1〜7いずれか記載の医療材料用高分子化合物。
【請求項9】
生理活性物質を固定化する官能基がアルキレングリコール残基を介して結合しているエチレン系不飽和重合性モノマー(b)が、下記の一般式[2]で表される活性エステル基を有するモノマーである請求項1〜7いずれか記載の医療材料用高分子化合物。
【化2】


(式中R3は水素原子またはメチル基を示し、Yは炭素数1〜10のアルキレングリコール残基またはアルキル基を示す。Wは活性エステル基を示す。qは1〜100の整数を示す。qが2以上100以下の整数である場合、繰り返されるYは、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい。)
【請求項10】
前記活性エステル基がp−ニトロフェニルエステル又はN−ヒドロキシスクシンイミドエステルである請求項9記載の医療材料用高分子化合物。
【請求項11】
疎水性ユニットを有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)の疎水性ユニットがアルキル基である請求項2〜10いずれか記載の医療材料用高分子化合物。
【請求項12】
疎水性ユニットを有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)の疎水性ユニットが炭素数3〜20のアルキル基である請求項2〜11いずれか記載の医療材料用高分子化合物。
【請求項13】
疎水性ユニットを有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)がn―ブチルメタクリレート、n−ドデシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、及びシクロヘキシルメタクリレートから選ばれる少なくとも一つのモノマーである請求項12記載の医療材料用高分子化合物。
【請求項14】
反応性官能基を有するメルカプト化合物(d)の存在下、少なくともアルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)および生理活性物質を固定化する官能基がアルキレングリコール残基を介して結合しているエチレン系不飽和重合性モノマー(b)をラジカル共重合することにより、末端に前記反応性官能基を導入した高分子化合物を得ることを特徴とする請求項1〜13いずれか記載の医療材料用高分子化合物の製造方法。
【請求項15】
反応性官能基を有するメルカプト化合物(d)が下記の一般式[3]で表されるメルカプトシラン化合物である請求項14記載の医療材料用高分子化合物の製造方法。
【化3】


(式中R4は炭素数1〜20のアルキル基を示し、A、A、Aの内、少なくとも1個は反応性部位であり、その他はアルキル基を示す。)
【請求項16】
前記一般式[3]で表されるメルカプトシラン化合物の反応性部位がアルコキシル基である請求項15記載の医療材料用高分子化合物の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜13いずれか記載の医療材料用高分子化合物または請求項14〜16いずれか記載の製造方法で得られる医療材料用高分子化合物を含む医療材料用表面コーティング材料。
【請求項18】
請求項17記載の医療材料用表面コーティング材料を含む層を基体表面に形成した医療材料用基材。
【請求項19】
前記基体が無機材料またはプラスチックからなることを特徴とする請求項18記載の医療材料用基材。
【請求項20】
前記無機材料が無機酸化物からなる請求項19記載の医療材料用基材。
【請求項21】
前記無機酸化物が酸化ケイ素または酸化チタンである請求項20記載の医療材料用基材。
【請求項22】
前記プラスチックが飽和環状ポリオレフィンまたはポリスチレンである請求項19記載の医療材料用基材。
【請求項23】
前記基体の形状が粒子、スライド形状基板、プレート、容器、マイクロフルイディスク基板である請求項18〜22いずれか記載の医療材料用基材。
【請求項24】
請求項18〜23いずれか記載の医療材料用基材に生理活性物質を固定化した医療材料。
【請求項25】
前記生理活性物質が核酸、アプタマー、タンパク質、オリゴペプチド、糖鎖、ビオチン、アビジン及び糖タンパク質から選ばれる少なくとも一つの生理活性物質である請求項24記載の医療材料。
【請求項26】
請求項18〜23いずれか記載の医療材料用基材の製造方法であって、前記高分子化合物を溶媒に溶解させた溶液を調製する工程、前記溶液を基体表面に塗布する工程、及び乾燥させる工程、を含む医療材料用基材の製造方法。
【請求項27】
更に加熱処理する工程を含む請求項26記載の医療材料用基材の製造方法。
【請求項28】
請求項24または25記載の医療材料の製造方法であって、請求項26または27記載の製造方法で得られた医療材料用基材に対し生理活性物質を固定化する工程を含む医療材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性物質を固定化する機能を有する医療材料用高分子化合物、該高分子材料を含む表面コーティング材料、該高分子化合物を用いた医療用基材、および該基材に生理活性物質を固定化した医療材料に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子活性の評価や疾患プロセス、薬物効果の生物学的プロセスを含む生物学的プロセスを解読するための試みは、伝統的に、ゲノミクスに焦点が当てられてきたが、プロテオミクスは、細胞の生物学的機能についてより詳細な情報を提供する。プロテオミクスは、遺伝子レベルというよりもむしろ、タンパク質レベルでの発現を検出し、定量することによる、遺伝子活性の定性的かつ定量的な測定を含む。また、タンパク質の翻訳後修飾、タンパク質間の相互作用など遺伝子にコードされない事象の研究を含む。
【0003】
膨大なゲノム情報の入手が可能となった今日、プロテオミクス研究はますます迅速高効率(ハイスループット)化が求められている。この目的の分子アレイとしてDNAチップが実用化されてきた。一方、生体機能において最も複雑で多様性の高いタンパク質の検出に関しては、プロテインチップが提唱され、最近研究が進められている。プロテインチップとは、タンパク質、またはそれを捕捉する分子をチップ表面に固定化したものを総称する。
【0004】
現状のプロテインチップは一般にDNAチップの延長線上に位置付けられて開発がなされている為、ガラス基板や粒子においてタンパク質、またはそれを捕捉する分子をチップ表面に固定化する検討がなされている(例えば、特許文献1参照)。たとえば、タンパク質の物理的吸着による固定化などが行われている。
【0005】
また、プロテインチップのシグナル検出において、信号対雑音比を低下させる原因として検出対象物質の基板への非特異的な吸着(たとえば、非特許文献1参照)が挙げられる。
【0006】
前述のタンパク質の物理的吸着による固定化では、タンパク質を固定化した後に2次抗体の非特異的吸着を防止するため、吸着防止剤のコーティングが行われているが、これらの非特異的吸着防止能は十分でない。また1次抗体を固定化した後に吸着防止剤をコーティングするため、固定化したタンパク質がコーティングされてしまい、2次抗体と反応できないという問題があった。このため、1次抗体の固定化後、吸着防止剤をコーティングすることなく、生理活性物質の非特異的吸着量の少ないバイオチップが求められている。
【0007】
バイオチップに対する生理活性物質の非特異的吸着量を低減させるには、バイオチップの親水性を向上させるのが有効であるが、このようなバイオチップを用いた場合、親水性が高いためにタンパク質を捕捉させた後の洗浄工程において基板に固定化したタンパク質またはそれを捕捉する分子が流出し、信号が低下するという問題があった。この問題に対する1つのアプローチとして、官能基、スペーサー基、および結合基を含む活性成分、架橋用成分、マトリックス形成成分を支持体上に被覆し、硬化させることで、支持体上に強固に結合した機能性表面を形成できることが開示されている(たとえば、特許文献2)。しかしながら、この開示された方法では支持体上で低分子成分の硬化が進行するため、支持体がプラスチック基板の場合には反りや変形が起きる恐れがあった。また、網の目状に絡み合ったマトリックスが形成されることから、生理活性物質を固定化するための官能基の反応が抑制されたり、固定化した生理活性物質の機能発現の再現性が悪いなどの問題があった。また、洗浄を行ってもマトリックス内部に入り込んだタンパク質を除去しきれないために非特異吸着を十分に抑制できないといった問題もあった。
【0008】
一方、基礎的な生物学や医療の分野においてタンパク質等特定の生体物質を捕捉する粒子の重要性が高まっている。例えばアフィニティークロマトグラフィーの担体への応用、医療における診断や薬物送達システム(ドラックデリバリーシステム、DDS)、創薬用途などへの応用に対する関心が高まっている。創薬用途への応用例としては、たとえば様々な粒子(担体)に固定されたリガンドと呼ばれる生理活性物質を介して特定のタンパク質などの生体分子を捕捉し、これを分離精製するものがある。
【0009】
粒子を担体として用いる際に求められる条件は、主には(1)担体自体がタンパク質などの生体物質一般に対して非特異吸着をしないこと、(2)穏和な条件下でリガンドまたはスペーサーを固定化できる官能基を有すること、またその固定化容量が大きいこと、(3)目的・用途に応じた機械的強度を有すること、である。しかし、これらの条件を満たす担体は未だ開発されていない。
【0010】
例えば、従来の担体のうち、無機系のシリカゲル粒子は物理的強度の強い担体で、多孔質であることから分離には良いとされているが、非特異吸着の度合が高いという欠点があるため実際に使用されている例は極めて少ない。一方、合成高分子系では、ポリアクリルアミドゲル(商品名:Bio−GelP、バイオラッド社)、ポリスチレン、エチレン−無水マレイン酸共重合物などでなる粒子が開発されているが、これらの高分子も生体関連物質の非特異的吸着が起こり易いという欠点がある。
【0011】
上記のように、粒子を医療用担体として用いる場合には、非特異吸着が問題になることが多い。一方で、それを回避するために様々な手法も検討されている。たとえば、表面に目的の生理活性物質をつけたあと、残りの粒子表面をウシ血清アルブミン(BSA)等の害の少ないタンパクを先に吸着させておくブロッキングの手法などがあるが、効果は十分ではない。また、表面がエポキシ基からなる粒子に特定のタンパク質と特異的に結合するDNAを結合させ、タンパク質の精製用途に用いる例もある(例えば特許文献3)。この方法では、タンパク質の非特異吸着性が少ないという理由から、粒子表面へのエポキシ基導入にグリシジルメタクリレートなどを用いている。しかし、エポキシ基にDNA等生理活性物質を直接結合させる方法は、相当厳しい条件を必要とする。このため、固定化させる生理活性物質がアルカリや高温で不安定な場合、固定化プロセスで生理活性物質が変質してしまう恐れがあるので不適当である。
【0012】
その他、粒子の非特異吸着低減方法としては、非特異吸着の少ないポリマー粒子を乳化重合法などで合成する例がある。たとえば、特許文献4には、生理活性物質と反応可能な反応基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー、ポリオキシアルキレン側鎖を有するエチレン系不飽和重合性モノマーおよび疎水性を付与するエチレン系不飽和重合性ビニル芳香族モノマーを乳化重合法または懸濁重合法にて共重合し、粒子を得る方法が記載されている。しかし、このような方法では、得られる粒子径の制御が困難である。一般に、乳化重合法では、比較的均一な粒径を有する粒子が得られるものの、粒子径がサブミクロン程度のものしかできない。一方、懸濁重合法で得られる粒子は、粒子径分布が広く、たとえばカラム用充填剤として用いるためには粒子を分級する必要があるが、特別な装置のない場合にはポリマー粒子を高度に分級することが難しい。しかも、得られる粒子のサイズが数十ミクロンから数百ミクロンであり、小さい径の粒子を合成することができない。さらに、重合で得られる粒子は、高分子であるがために担体としての強度に自ずと限界がある。粒子強度が求められる用途に使用する場合には、高分子中のエチレン系不飽和重合性ビニル芳香族モノマーの比率を上げるなど強度を上げるための処方を余儀なくされ、そのことは逆に非特異吸着に不利であった。
【0013】
現在最も汎用されている担体は、多孔性のアガロース粒子(商品名:Sepharose)およびデキストラン粒子(商品名:Sephadex)に各種官能基を導入したものである。アガロースゲルは、排除できる不純物の限界分子量がデキストランやアクリルアミドよりも大きいため、高分子量の生物学的物質を扱う場合に適していると言われている。しかし、これらの担体は、物理的強度が小さいため耐圧性に欠けるとともに、担体の網目構造中に夾雑物の吸着や滞留が起こるために、夾雑物の混入が避けられないなど、問題点も多い。
【0014】
【特許文献1】特開2001−116750号公報
【特許文献2】特表2004−531390号公報
【特許文献3】特許第2753762号公報
【特許文献4】特許第3215455号公報
【非特許文献1】「DNAマイクロアレイ実戦マニュアル」、林崎良英、岡崎康司編、羊土社、2000年、p.57
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、生理活性物質の固定化能力に優れ、タンパク質に対して非特異吸着が少なく、洗浄工程における溶解や劣化の少ない化学的・物理的安定性を有する医療材料用高分子化合物を提供すること、該高分子化合物を用いて非特異的吸着が少なく、かつ、生理活性物質の固定化が可能な医療用基材を提供すること、さらには該医療用基材に生理活性物質を固定化した医療材料を提供することである。
なお、本願において、「基体」とは、粒子、スライド形状基板、プレート、容器、マイクロフルイディスク基板等を総称するもので、高分子化合物を塗布する前の状態のものを示し、「基材」とは医療用基材のように、基体に高分子化合物を塗布した状態のものを示す。また、「医療材料」とは「基材」に生理活性物質を固定化した状態のものを示す。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、生理活性物質の固定化能力に優れ、タンパク質に対して非特異吸着が少ない医療材料用高分子化合物の開発を目指して鋭意検討を行った。その結果、アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)及び生理活性物質を固定化する官能基がアルキレングリコール残基を介して結合しているエチレン系不飽和重合性モノマー(b)から誘導される繰り返し単位を含む重合体であって、前記エチレン系不飽和重合性モノマー(b)のアルキレングリコール残基の鎖長がエチレン系不飽和重合性モノマー(a)のアルキレングリコール残基の鎖長より長いこと、および前記共重合体の少なくとも片側の末端に反応性の官能基を有することを特徴とする医療材料用高分子化合物が、生理活性物質の固定化能力に優れ、タンパク質に対して非特異吸着が少なく、洗浄工程における溶解や劣化の少ない化学的・物理的安定性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち本発明は、
(1)アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)及び生理活性物質を固定化する官能基がアルキレングリコール残基を介して結合しているエチレン系不飽和重合性モノマー(b)から誘導される繰り返し単位を含む重合体であって、前記エチレン系不飽和重合性モノマー(b)のアルキレングリコール残基の鎖長がエチレン系不飽和重合性モノマー(a)のアルキレングリコール残基の鎖長より長く、かつ前記共重合体の少なくとも片側の末端に反応性官能基を有することを特徴とする医療材料用高分子化合物、
(2)アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)及び生理活性物質を固定化する官能基がアルキレングリコール残基を介して結合しているエチレン系不飽和重合性モノマー(b)及び疎水性ユニットを有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)から誘導される繰り返し単位を含む重合体であって、前記エチレン系不飽和重合性モノマー(b)のアルキレングリコール残基の鎖長がエチレン系不飽和重合性モノマー(a)のアルキレングリコール残基の鎖長より長く、かつ前記共重合体の少なくとも片側の末端に反応性官能基を有することを特徴とする医療材料用高分子化合物、
(3)前記末端の反応性官能基が反応性シリル基である(1)または(2)記載の医療材料用高分子化合物、
(4)前記反応性シリル基がアルコキシシリル基である(3)記載の医療材料用高分子化合物、
(5)アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)が下記の一般式[1]で表されるモノマーである(1)〜(4)いずれか記載の医療材料用高分子化合物、
【化1】


(式中R1は水素原子またはメチル基を示し、R2は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示す。Xは炭素数1〜10のアルキレングリコール残基を示し、pは1〜100の整数を示す。pが2以上100以下の整数である場合、繰り返されるXは、同一であっても、異なっていてもよい。)
(6)アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)のアルキレングリコール残基がエチレングリコール残基である(5)記載の医療材料用高分子化合物、
(7)アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)がメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシエチルアクリレートである(5)記載の医療材料用高分子化合物、
(8)生理活性物質を固定化する官能基がアルキレングリコール残基を介して結合しているエチレン系不飽和重合性モノマー(b)の官能基がアルデヒド基、活性エステル基、エポキシ基、ビニルスルホン基、ビオチンから選ばれる少なくとも一つの官能基である(1)〜(7)いずれか記載の医療材料用高分子化合物、
(9)生理活性物質を固定化する官能基がアルキレングリコール残基を介して結合しているエチレン系不飽和重合性モノマー(b)が、下記の一般式[2]で表される活性エステル基を有するモノマーである(1)〜(7)いずれか記載の医療材料用高分子化合物、
【化2】


(式中R3は水素原子またはメチル基を示し、Yは炭素数1〜10のアルキレングリコール残基またはアルキル基を示す。Wは活性エステル基を示す。qは1〜100の整数を示す。qが2以上100以下の整数である場合、繰り返されるYは、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい。)
(10)前記活性エステル基がp−ニトロフェニルエステル又はN−ヒドロキシスクシンイミドエステルである(9)記載の医療材料用高分子化合物、
(11)疎水性ユニットを有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)の疎水性ユニットがアルキル基である(2)〜(10)いずれか記載の医療材料用高分子化合物、
(12)疎水性ユニットを有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)の疎水性ユニットが炭素数3〜20のアルキル基である(2)〜(11)いずれか記載の医療材料用高分子化合物、
(13)疎水性ユニットを有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)がn―ブチルメタクリレート、n−ドデシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、及びシクロヘキシルメタクリレートから選ばれる少なくとも一つのモノマーである(12)記載の医療材料用高分子化合物、
(14)反応性官能基を有するメルカプト化合物(d)の存在下、少なくともアルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)および生理活性物質を固定化する官能基がアルキレングリコール残基を介して結合しているエチレン系不飽和重合性モノマー(b)をラジカル共重合することにより、末端に前記反応性官能基を導入した高分子化合物を得ることを特徴とする請求項(1)〜(13)いずれか記載の医療材料用高分子化合物の製造方法、
(15)反応性官能基を有するメルカプト化合物(d)が下記の一般式[3]で表されるメルカプトシラン化合物である(14)記載の医療材料用高分子化合物の製造方法、
【化3】


(式中R4は炭素数1〜20のアルキル基を示し、A、A、Aの内、少なくとも1個は反応性部位であり、その他はアルキル基を示す。)
(16)前記一般式[3]で表されるメルカプトシラン化合物の反応性部位がアルコキシル基である(15)記載の医療材料用高分子化合物の製造方法、
(17)(1)〜(13)いずれか記載の医療材料用高分子化合物または(14)〜(16)いずれか記載の製造方法で得られる医療材料用高分子化合物を含む医療材料用表面コーティング材料、
(18)(17)記載の医療材料用表面コーティング材料を含む層を基体表面に形成した医療材料用基材、
(19)前記基体が無機材料またはプラスチックからなることを特徴とする(18)記載の医療材料用基材、
(20)前記無機材料が無機酸化物からなる(19)記載の医療材料用基材、
(21)前記無機酸化物が酸化ケイ素または酸化チタンである(20)記載の医療材料用基材、
(22)前記プラスチックが飽和環状ポリオレフィンまたはポリスチレンである(19)記載の医療材料用基材、
(23)前記基体の形状が粒子、スライド形状基板、プレート、容器、マイクロフルイディスク基板である(18)〜(22)いずれか記載の医療材料用基材、
(24)(18)〜(23)いずれか記載の医療材料用基材に生理活性物質を固定化した医療材料、
(25)前記生理活性物質が核酸、アプタマー、タンパク質、オリゴペプチド、糖鎖、ビオチン、アビジン及び糖タンパク質から選ばれる少なくとも一つの生理活性物質である(24)記載の医療材料、
(26)(18)〜(23)いずれか記載の医療材料用基材の製造方法であって、前記高分子化合物を溶媒に溶解させた溶液を調製する工程、前記溶液を基体表面に塗布する工程、及び乾燥させる工程、を含む医療材料用基材の製造方法、
(27)更に加熱処理する工程を含む(26)記載の医療材料用基材の製造方法、
(28)(24)または(25)記載の医療材料の製造方法であって、(26)または(27)記載の製造方法で得られた医療材料用基材に対し生理活性物質を固定化する工程を含む医療材料の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、生理活性物質の固定化能力に優れ、タンパク質に対して非特異吸着が少なく、洗浄工程における溶解や劣化の少ない化学的・物理的安定性を有する医療材料用高分子化合物を提供でき、更に該高分子化合物を用いて非特異的吸着が少なく、かつ、生理活性物質の固定化が可能な医療用基材を提供することができる。さらには、該医療用基材に生理活性物質を固定化することにより、目的のタンパク質等を選択的に捕捉することのできる医療材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の高分子化合物は、アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)及び生理活性物質を固定化する官能基がアルキレングリコール残基を介して結合しているエチレン系不飽和重合性モノマー(b)から誘導される繰り返し単位を含む重合体であって、前記エチレン系不飽和重合性モノマー(b)のアルキレングリコール残基の鎖長がエチレン系不飽和重合性モノマー(a)のアルキレングリコール残基の鎖長より長いこと、および前記共重合体の少なくとも片側の末端に反応性官能基を有することを特徴とする。この高分子化合物は、生理活性物質の非特異的吸着を抑制する性質、特定の生理活性物質を固定化する性質を併せ持つポリマーで、アルキレングリコール残基が生理活性物質の非特異的吸着を抑制する役割を果たし、生理活性物質を固定化する官能基が特定の生理活性物質を固定化する役割を果たす。しかも、生理活性物質を固定化する官能基がアルキレングリコール残基を介して結合しており、そのアルキレングリコール残基の鎖長がエチレン系不飽和重合性モノマー(a)のアルキレングリコール残基の鎖長以上であることから、該高分子化合物に生理活性物質を固定化する際、主鎖やエチレン系不飽和重合性モノマー(a)の側鎖によって反応を邪魔されることが少ない。このことにより、生理活性物質に対する反応性が高まる。また、少なくとも片側の末端に反応性の官能基を有することから、基体と共有結合を形成することができ、これにより基体の表面該高分子化合物をグラフトさせることができる。このようにして得られたグラフト化基体は、洗浄工程により該高分子化合物が流出してしまうことがない。
【0020】
本発明に使用するアルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)は、特に構造を限定しないが、一般式[1]で表される(メタ)アクリル基と炭素数1〜10のアルキレングリコール残基Xの連鎖からなる化合物であることが好ましい。
【0021】
【化4】


【0022】
式中のアルキレングリコール残基Xの炭素数は1〜10であり、好ましくは1〜6であり、より好ましくは2〜4であり、更に好ましくは2〜3であり、最も好ましくは2である。アルキレングリコール残基Xの繰り返し数pは、特に限定されるものではないが、好ましくは1〜100の整数であり、より好ましくは1〜90の整数であり、さらに好ましくは1〜80の整数であり、最も好ましくは1〜50の整数である。各種pの混合物である場合には、高分子化合物全体としては、pは平均値として特定される。繰り返し数2以上100以下の場合は、繰り返されるアルキレングリコール残基Xの炭素数は同一であっても、異なっていてもよい。
【0023】
アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)としては、例えばメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートおよびその水酸基の一置換エステル、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートおよびその水酸基の一置換エステル、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールを側鎖とする(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール (メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられるが、生理活性物質の非特異的吸着の少なさ及び入手性からメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシエチルアクリレートが好ましい。メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートを用いた(共)重合体を基体表面に塗布した場合、水和性の高いポリエチレングリコール鎖が水中で広がり、立体排斥効果でタンパク質などの生体成分の非特異的吸着を抑制していると考えられる。一方、メトキシエチルアクリレートを用いた(共)重合体を基体表面に塗布した場合、側鎖による立体排斥効果はほとんど期待できないが、その表面には中間水と呼ばれる弱く束縛された水の層が存在することが示唆されている。この層の存在がタンパク質などの生体成分の非特異的吸着を抑制していると考えられている。なお、本発明において(メタ)アクリルはアクリル及び/またはメタクリルを示し、(メタ)アクリレートはアクリレート及び/またはメタクリレートを示す。
本発明の高分子化合物において、アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)から誘導される部分の割合は、特に制限されるものではないが、重合体における全モノマーの繰り返し単位の総数に対して、1〜95mol%が好ましく、より好ましくは30〜90mol%、最も好ましくは50〜90mol%である。
【0024】
本発明に用いる生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)の官能基としては、化学的に活性な基、受容体基、リガンド基などがあるが、これらに限定されない。具体的な例としては、アルデヒド基、活性エステル基、エポキシ基、ビニルスルホン基、ビオチン、チオール基、アミノ基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、ヒドロキシル基、アクリレート基、マレイミド基、ヒドラジド基、アジド基、アミド基、スルホネート基、アビジン、ストレプトアビジン、金属キレートなどがあるがこれらに限定されない。これらの中でも生理活性物質に多く含まれるアミノ基との反応性の点からアルデヒド基、活性エステル基、エポキシ基、ビニルスルホン基が好ましく、また生理活性物質と結合定数が高いビオチンが好ましい。なかでもモノマーの保存安定性の点から活性エステル基が最も好ましい。
【0025】
本発明に使用する生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)は、特に構造を限定しないが、下記の一般式[2]で表される(メタ)アクリル基と活性エステル基が炭素数1〜10のアルキレングリコール残基の連鎖またはアルキル基を介して結合した化合物であることが好ましい。
【0026】
【化5】


【0027】
式[2]で、アルキレングリコール残基Yの炭素数は1〜10であり、好ましくは1〜6であり、より好ましくは2〜4であり、更に好ましくは2〜3であり、最も好ましくは2である。アルキレングリコール残基Yの繰り返し数qは1〜100の整数であり、より好ましくは1〜90の整数であり、最も好ましくは1〜80の整数である。各種qの混合物である場合には、高分子化合物全体としては、qは平均値として特定される。繰り返し数2以上100以下の場合は、繰り返されるアルキレングリコール残基の炭素数は同一であっても、異なっていてもよい。ここで、アルキレングリコールの鎖長、すなわち(Y)qの長さは式[1]中の (X)pの長さよりも長いことが望ましい。鎖長の差が明らかでない場合は、それぞれの原子数で近似してもよい。なお、(X)pおよび(Y)qの長さに分布がある場合には、平均値で比較するとよい。(Y)qが(X)pよりも長いことにより、生理活性物質を固定化する官能基の周辺は、高分子化合物の主鎖やエチレン系不飽和重合性モノマー(a)の側鎖が存在する確率が少なくなり、比較的「空いた」状態になりやすい。このことから該高分子化合物に生理活性物質を固定化する際、生理活性物質を固定化する官能基と生理活性物質とが出会う確率が上昇し、生理活性物質に対する反応性が高まる。
【0028】
本発明に使用する「活性エステル基」は、エステル基の片方の置換基に酸性度の高い電子求引性基を有して求核反応に対して活性化されたエステル群、すなわち反応活性の高いエステル基を意味するものとして、各種の化学合成、たとえば高分子化学、ペプチド合成等の分野で慣用されているものである。実際的には、フェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N−ヒドロキシアミンエステル類、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等がアルキルエステル等に比べてはるかに高い活性を有する活性エステル基として知られている。
【0029】
このような活性エステル基としては、たとえばp−ニトロフェニル活性エステル基、N−ヒドロキシスクシンイミド活性エステル基、フタル酸イミド活性エステル基、5−ノルボルネン−2、3−ジカルボキシイミド活性エステル基等が挙げられるが、中でもp−ニトロフェニル活性エステル基又はN−ヒドロキシスクシンイミド活性エステル基が好ましく、p−ニトロフェニル活性エステル基が最も好ましい。
【0030】
本発明の高分子化合物において、生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)から誘導される部分の割合は特に制限されるものではないが、重合体における全モノマーの繰り返し単位の総数に対して、1〜50mol%が好ましく、より好ましくは1〜35mol%である。
【0031】
本発明に使用する高分子化合物は、少なくとも片側の末端に反応性の官能基を有していれば、アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー及び生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーの他に疎水性ユニットを有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)を共重合して得られる高分子化合物であってもよい。疎水性ユニットを有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)は、特に構造を限定しないが、(メタ)アクリル基に疎水性ユニットが結合したモノマーが好ましく、脂肪族(メタ)アクリレート類や芳香族(メタ)アクリレート類が挙げられる。より好ましくは、前記脂肪族がアルキル基である(メタ)アクリレート類である。さらに好ましくは、前記アルキル基が炭素数3〜20のアルキル基である(メタ)アクリレート類である。アルキル基は特に構造を限定されるものではなく、直鎖であっても、分岐していても、環状になっていてもよい。
【0032】
具体的なモノマーの例としては、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ネオペンチル(メタ)アクリレート、iso−ネオペンチル(メタ)アクリレート、sec−ネオペンチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、iso−ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、iso−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、iso−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、iso−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、iso−ドデシル(メタ)アクリレート、n−トリデシル(メタ)アクリレート、iso−トリデシル(メタ)アクリレート、n−テトラデシル(メタ)アクリレート、iso−テトラデシル(メタ)アクリレート、n−ペンタデシル(メタ)アクリレート、iso−ペンタデシル(メタ)アクリレート、n−ヘキサデシル(メタ)アクリレート、iso−ヘキサデシル(メタ)アクリレート、n−オクタデシル(メタ)アクリレート、iso−オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらのなかで最も好ましいのが、n―ブチルメタクリレート、n−ドデシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、及びシクロヘキシルメタクリレートである。
【0033】
本発明の高分子化合物において、疎水性ユニットを有するエチレン系不飽和重合性モノマー(c)から誘導される部分の割合は、特に制限されるものではないが、重合体における全モノマーの繰り返し単位の総数に対して0〜90mol%が好ましく、より好ましくは0〜80mol%、最も好ましくは0〜70mol%である。割合が上限値を越えると生理活性物質の非特異的吸着が多くなる恐れがある。
【0034】
末端に反応性官能基を導入する方法は特に限定されるものではないが、反応性官能基を有するメルカプト化合物(d)の存在下、少なくともアルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)および生理活性物質を固定化する官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(b)を溶媒中でラジカル共重合する方法が簡便で好ましい。反応性官能基を有するメルカプト化合物(d)が連鎖移動剤として働くため、末端に反応性官能基を有する高分子化合物が得られる。反応性官能基を有するメルカプト化合物(d)は特に限定されるものではないが、下記の一般式[3]で表されるメルカプトシラン化合物が好ましい。
【化6】


【0035】
式[3]でアルキル基R4の炭素数は1〜20であり、より好ましくは1〜5であり、最も好ましくは1〜3である。A、A、Aの内、少なくとも1個は反応性部位であり、その他はアルキル基を示す。反応性部位としては、アルコキシル基、ハロゲン基、アミノ基、イソシアネート基、フェノキシ基、水酸基などが挙げられるが、中でもシラノール基を生成しやすい点からアルコキシル基が最も好ましい。また、ポリマーの長期保存が必要な場合に、保存性が良い点からは、反応性官能基内の反応性部位は1つであることが好ましい。
【0036】
アルコキシル基を有するメルカプトシラン化合物としては、たとえば(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)メチルジメトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)ジメチルメトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)メチルジエトキシシラン、(3-メルカプトプロピル)ジメチルエトキシシラン、(メルカプトメチル)トリメトキシシラン、(メルカプトメチル)メチルジメトキシシラン、(メルカプトメチル)ジメチルメトキシシラン、(メルカプトメチル)トリエトキシシラン、(メルカプトメチル)メチルジエトキシシラン、(メルカプトメチル)ジメチルエトキシシランなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。入手性から(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシランや(3-メルカプトプロピル)トリエトキシシランが好ましい。中でも、ポリマーの長期保存が必要な場合に、保存性が良い点から、(3−メルカプトプロピル)ジメチルエトキシシラン、(3−メルカプトプロピル)ジメチルメトキシシランがより好ましい。これらのメルカプトシラン化合物は、単独または2種以上の組み合わせで用いられる。
【0037】
重合時の溶媒としてはそれぞれのエチレン系不飽和重合性モノマーおよび反応性官能基を有するメルカプト化合物(d)が溶解するものであればよく、例えば、メタノール、エタノール、t−ブチルアルコール、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独または2種以上の組み合わせで用いられる。プラスチック基体に該高分子化合物を塗布する場合は、エタノール、メタノールが基体を変性させないため好ましい。
【0038】
重合開始剤としては通常のラジカル開始剤ならいずれでもよく、例えば、2,
2’−アゾビスイソブチルニトリル(以下「AIBN」という)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ化合物、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等の有機過酸化物等を挙げることができる。
【0039】
本発明の高分子化合物の化学構造は、少なくともアルキレングリコール残基および生理活性物質を固定化する官能基を有する各エチレン系不飽和重合性モノマーからなる共重合体であって、少なくとも片側の末端に反応性の官能基を有するものであれば、その結合方式はランダム、ブロック、グラフト等いずれの形態をなしていてもかまわない。
【0040】
本発明の高分子化合物の分子量は、基体に均一に塗布しやすくなり、かつ高分子化合物と未反応のエチレン系不飽和重合性モノマーとの分離精製が容易になることから、数平均分子量は3,000以上1,000,000以下が好ましく、5,000以上500,000以下がより好ましい。なお、ここで、数平均分子量はNMR測定の解析により求めた組成を基に、全ての高分子の片側の末端に反応性官能基が導入されていると仮定して算出したものである。
【0041】
本発明の高分子化合物は、基体表面を該高分子化合物で被覆することにより、生理活性物質の非特異的吸着を抑制する性質、特定の生理活性物質を固定化する性質を容易に付与することが可能である。さらに、末端の反応性基が基体と結合しうることから、該高分子化合物を化学的にグラフトすることができるため、基体洗浄による信号低下のおそれがない。
【0042】
基体表面への高分子化合物の被覆は、例えば有機溶剤に高分子化合物を0.05重量%以上の濃度になるように溶解した高分子溶液を調製し、浸漬、吹きつけ等の公知の方法で基体表面に塗布した後、室温下ないしは加温下にて乾燥させることにより行われる。なお、高分子化合物が液体の場合は高分子単体を基体表面に塗布しても良い。有機溶剤としてはエタノール、メタノール、t−ブチルアルコール、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸メチル等の単独溶媒またはこれらの混合溶剤が使用される。中でも、基体がプラスチックの場合、エタノール、メタノールが基体を変性させないため好ましい。酸化ケイ素や金属および/または金属酸化物が基体の場合、基体の変性の恐れはほとんどなく、高分子化合物の溶解性と乾燥させやすさから選択してよい。
【0043】
本発明の高分子化合物は末端の反応性官能基を用いて基体と共有結合させることができる。結合させる条件は官能基に応じて任意に選択することができる。例えば、末端にアルコキシシランを有する高分子化合物の場合、加水分解により生成されたシラノール基が、基体表面の水酸基、アミノ基、カルボニル基、シラノール基等と脱水縮合して共有結合を形成する。シラノール基の脱水縮合により形成される共有結合は加水分解されにくい性質があるので、基体表面にグラフトされた高分子化合物は容易に溶解したり、基体から脱離してしまうことはない。シラノール基の脱水縮合は加熱処理により促進される。高分子化合物が熱により変成されない温度範囲内、例えば、60〜120℃で5分間〜24時間加熱処理するのが好ましい。
【0044】
エタノールやメタノールなど極性の高い有機溶剤を用いる場合や、高分子化合物自体の親水性が高い場合は、溶剤に含まれる水分や塗布後空気中の水分により、高分子末端のアルコキシシリル基の加水分解が生じるため、特別な加水分解工程を施さなくとも、基体を加熱するだけでグラフト化することができることが多い。加水分解が不足する場合は、有機溶剤中に水を含有させた混合溶液を用いてもよい。理論上加水分解によりシラノール基を生成するのに必要な水が供給されれば十分であるが、溶液の調製の容易さを考えると、含水量を15重量%以下にするのが好ましい。含水量が多くなると高分子化合物が溶媒に不溶となる恐れがある。
【0045】
本発明に使用する基体の素材は、酸化ケイ素、プラスチック、金属及び/または金属酸化物その他を用いることができるが、板や容器の形状で用いる場合には、表面処理の容易性、量産性の観点から、プラスチックが好ましく、中でも熱可塑性樹脂がより好ましい。熱可塑性樹脂としては、蛍光発生量の少ないものが好ましく、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン等の直鎖状ポリオレフィン、環状ポリオレフィン、含フッ素樹脂等を用いることが好ましく、耐熱性、耐薬品性、低蛍光性、成形性に特に優れる飽和環状ポリオレフィンを用いることがより好ましい。ここで飽和環状ポリオレフィンとは、環状オレフィン構造を有する重合体単独または環状オレフィンとα−オレフィンとの共重合体を水素添加した飽和重合体をさす。一方、粒子形状で用いる場合には、酸化ケイ素や金属及び/または金属酸化物が操作性の良さの点から好ましい。
【0046】
該高分子化合物を基体にグラフトさせるには、基体表面に高分子化合物と反応しうる官能基があればそのまま使用できるが、それがない場合もしくは乏しい場合は、基体表面を活性化することが好ましい。活性化する方法は特に限定されるものではないが、表面処理剤としてアルコキシシランを用いる方法や酸・アルカリにより処理する方法、酸素雰囲気下、アルゴン雰囲気下、窒素雰囲気下、空気雰囲気下などの条件下でプラズマ処理する方法、ArF、KrFなどのエキシマレーザーで処理する方法等が挙げられる。基体が粒子である場合、表面全体を均一に活性化できることから、表面処理剤としてアルコキシシランを用いる方法及び/又は酸・アルカリにより処理する方法が好ましい。
【0047】
本発明の高分子化合物を基体に塗布することで容易に基体に生理活性物質の非特異的吸着を抑制された医療材料用基材を作製できる。また、該高分子化合物は化学結合により基体に結合させることができるので、洗浄工程での流出がない。これらのことより、該高分子化合物を塗布した基体は医療材料用基材に好適に用いることができる。
【0048】
さらに、前記基体には各種の生理活性物質を固定化することができる。固定化する生理活性物質は核酸、アプタマー、タンパク質、オリゴペプチド、糖鎖、糖タンパク質、ビオチンなどがある。例えば核酸を固定化する場合は、活性エステル基との反応性を高めるため、アミノ基を導入することが好ましい。アミノ基の導入位置は分子鎖末端あるいは側鎖であってもよいが、分子鎖末端にアミノ基が導入されていることが好ましい。固定化方法は点着、液中での反応など、基体・生理活性物質・それを固定化する官能基に応じて任意に選択することができる。
【0049】
このように生理活性物質を固定化することによって得られた医療材料は、生理活性物質を利用した様々なバイオアッセイ用途、例えば免疫診断、遺伝子マイクロアレイ、タンパク質マイクロアレイ、マイクロフルイディスクデバイスを含めた多くの分析システムやアフィニティクロマトグラフィ用担体、創薬用単体などにおいて使用することができる。
【実施例】
【0050】
(p−ニトロフェニルオキシカルボニル−ポリエチレングリコールメタクリレート(MEONP)の合成)
0.01molのポリエチレングリコールモノメタクリレート(日本油脂株式会社製Blenmer PE−200)を20mLのクロロホルムに溶解させた後、−30℃まで冷却した。−30℃に保ちながらこの溶液に、予め作製しておいた0.01molのp−ニトロフェニルクロロフォーメート(Aldrich社製)と0.01molのトリエチルアミン(和光純薬工業株式会社製)及びクロロホルム20mLの均一溶液をゆっくりと滴下した。−30℃にて1時間反応させた後、室温でさらに2時間溶液を攪拌した。その後反応液から塩をろ過により除去し、溶媒を留去してp−ニトロフェニルオキシカルボニル−ポリエチレングリコールメタクリレート(MEONP)を得た。得られたモノマーを重クロロホルム溶媒中1H―NMRで測定し、エチレングリコール残基が4.5単位含まれていることを確認した。
【0051】

(高分子化合物の合成例)
メトキシエチルアクリレート(以下MEAと記載、和光純薬工業株式会社製)、p−ニトロフェニルオキシカルボニル−ポリエチレングリコールメタクリレート(以下MEONPと記載)をジメチルホルムアミドに溶解させ、モノマー混合溶液を作製した。総モノマー濃度は1.5mol/L、それぞれのモル比はMEA、MEONPの順に97:3である。そこにさらに(3-メルカプトプロピル)ジメチルエトキシシラン(以下MPDESと記載)および2、2−アゾビスイソブチロニトリル(以下AIBNと記載、和光純薬工業株式会社製)をそれぞれ0.010mol/L、0.005mol/Lになるように添加し、均一になるまで撹拌した。その後、アルゴンガス雰囲気下、75℃で24時間反応させた後、反応溶液をエタノール中に滴下し、沈殿を収集した。得られた高分子化合物を重クロロホルム溶媒中1H―NMRで測定し、MEAの末端メトキシ基に帰属されるピーク、MEONPのベンゼン環に帰属されるピーク、MPDESのSiに結合したメチレンに帰属されるピーク、それぞれの積分値より、この高分子化合物の組成比を算出した。表1に結果を示した。
【0052】
【表1】


【0053】
《実施例》
平均粒径40μmのシリカビーズを合成例で得られた高分子化合物の50wt%酢酸エチル溶液に浸漬し、ボルテックスミキサーでよく攪拌した。吸引ろ過によりビーズを回収し、よく乾燥させた後、150℃で2時間加熱処理を施した。
【0054】
(非特異吸着量評価)
前記高分子化合物塗布シリカビーズ20mgを1mol/Lの2−アミノエタノール(溶媒:ジメチルスルホキシド)で40℃にて1晩処理し、MEONPの不活性化を行った。よく乾燥させた後、30mg/mLのウシ血清アルブミン(BSA)のPBS溶液を1mL加え、4℃にて1時間処理した。その後、遠心分離を行い、上澄みの除去を行った。これにPBSを加え、ボルテックスミキサーでよくリンスし、上澄みを除去する作業を3回繰り返した。そこにドデシルスルホン酸ナトリウム(SDS)1wt%のPBS溶液を2mL加え、1時間静置し、粒子表面に吸着したBSAを剥がしとった。上澄みを回収してMicro−BCA法の測定試料とした。Micro−BCA法はPIERCE社製Micro BCATM Pritein AssayKitを用いて行った。この試薬は、希薄溶液中のタンパク質濃度(0.5〜20μg/mL)を測定する試薬であり、タンパク質の存在下で第一銅イオンに着色錯体を形成させるためのキレート試薬として、ビシンコニン酸を利用している。この測定法の標準的なプロトコールに従ってサンプルを調整し、562nmの吸光度により非特異吸着のBSA量を定量した。
【0055】
(活性エステル当量の評価)
前項で得られたビーズを20mg採取し、それぞれ2mLの0.01N水酸化ナトリウム水溶液に投入した。ボルテックスミキサーでよく撹拌後、室温にて1時間静置した。これらの操作によりMEONPのニトロフェノールを遊離させた。上澄み液を採取し、400nmの吸光度から活性エステル当量を算出した。
【0056】
《比較例》
実施例に用いたシリカビーズを、高分子化合物を塗布せずにそのまま用い、実施例と同様、非特異吸着量評価および活性エステル当量評価を行った。
【0057】
表2に実施例および比較例のMicro−BCA法によるBSA吸着量を示した。表より明らかなように、本発明の粒子はシリカビーズに比較してBSA吸着量が格段に低下しており、タンパク質の非特異吸着が抑制されていることがわかる。
【0058】
【表2】


【0059】
表3に実施例および比較例の活性エステル当量を示した。表より明らかなように実施例の粒子には活性エステルが導入されており、生理活性物質を固定化することが可能であることがわかった。
【0060】
【表3】


【出願人】 【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
【出願日】 平成18年6月22日(2006.6.22)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−1794(P2008−1794A)
【公開日】 平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願番号】 特願2006−172424(P2006−172424)