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【発明の名称】 親脂質性ヘパリン修飾体、その製造方法及び毛髪成長促進剤
【発明者】 【氏名】山科 郁男

【要約】 【課題】健康な食用獣の肝、肺、腸、脾にあるヘパリンを材料とし、これを修飾して毛髪成長促進剤を提供する。

【解決手段】ヘパリンを過沃素酸で酸化し、次いで水素化硼素で還元して、抗血液凝固活性を実質的に喪失し、細胞増殖因子、サイトカイン類又は細胞接着因子との結合性を保持しているヘパリン修飾体において、その中のヘキスロン酸のジオール部分の炭素間結合を切断するとともに還元して作られた2個の隣接する第一級アルコール基のうち、少なくとも1個の第一級アルコール基を脂肪酸残基でエステル化して親脂質性ヘパリン修飾体を作り、これを有機溶剤含有の水に溶解して毛髪成長促進剤とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘパリンを過沃素酸で酸化し、次いで水素化硼素で還元して作られ、抗血液凝固活性を実質的に喪失し、細胞増殖因子、サイトカイン類又は細胞接着因子との結合性を保持しているヘパリン修飾体において、その中のヘキスロン酸のジオール部分の炭素間結合を切断するとともに還元して作られた2個の隣接する第一級アルコール基のうち、少なくとも1個の第一級アルコール基を脂肪酸残基でエステル化して親脂質性を付与したものであることを特徴とする、親脂質性ヘパリン修飾体。
【請求項2】
前記ヘパリン修飾体が前記過沃素酸による酸化及び水素化硼素による還元の前又は後で、低分子化された低分子ヘパリン修飾体であることを特徴とする、請求項1に記載の親脂質性ヘパリン修飾体。
【請求項3】
前記ヘパリン修飾体において、その中のグルコサミンの6−位にある第一級アルコール基、及び/又はヘキスロン酸及び/又はグルコサミン中の第二級アルコール基の少なくとも一部を、さらに脂肪酸残基とエステル結合していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の親脂質性ヘパリン修飾体。
【請求項4】
前記脂肪酸残基の結合量が前記ヘパリン修飾体の8糖あたり0.8〜1.2モルとなっていることを特徴とする、請求項1−3の何れか1つの項に記載の親脂質性ヘパリン修飾体。
【請求項5】
ヘパリンを過沃素酸で酸化し、次いで水素化硼素で還元して作られ、抗血液凝固活性を実質的に喪失し、細胞増殖因子、サイトカイン類又は細胞接着因子との結合性を保持しているヘパリン修飾体に有機塩基を結合させてヘパリン修飾体の塩を作り、この塩を極性有機溶媒に溶解し、この溶液に脂肪酸を加えて、ヘパリン修飾体に脂肪酸残基をエステル結合させることを特徴とする、親脂質性ヘパリン修飾体の製造方法。
【請求項6】
前記ヘパリン修飾体が、過沃素酸による酸化及び水素化硼素による還元の前又は後に亜硝酸により解重合させて低分子化されたものであることを特徴とする、請求項5に記載の親脂質性ヘパリン修飾体の製造方法。
【請求項7】
ヘパリンを過沃素酸で酸化し、次いで水素化硼素で還元して作られ、抗血液凝固活性を実質的に喪失し、細胞増殖因子、サイトカイン類又は細胞接着因子との結合性を保持しているヘパリン修飾体において、その中に含まれているヘキスロン酸のジオール部分を切断するとともに還元して作られた2個の隣接する第一級アルコール基のうち、少なくとも1個の第一級アルコール基を脂肪酸残基とエステル結合させて得られた親脂質性ヘパリン修飾体を有機溶媒含有の水に溶解して溶液としたことを特徴とする、毛髪成長促進剤。
【請求項8】
前記ヘパリン修飾体が過沃素酸による酸化及び水素化硼素による還元の前又は後で低分子化されたものであることを特徴とする、請求項7に記載の毛髪成長促進剤。
【請求項9】
前記有機溶媒含有の水が60〜80重量%のエタノールと、0〜15重量%のプロピレングリコールと、40〜5重量%の水とを含むものであることを特徴とする、請求項7又は8に記載の毛髪成長促進剤。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
この発明は、親脂質性ヘパリン修飾体、及びその製造方法に関するものであり、またその親脂質性ヘパリン修飾体含有の毛髪成長促進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヘパリンはグリコサミノグリカン(ムコ多糖とも言う)類の一種であり、血液凝固阻止作用を持っていることが大きな特徴である。ヘパリンは、健康な食用獣の肝、肺、腸、脾に多く見られ、毛細管周辺の肥満細胞で特異的に産出される。ヘパリンは、種々の程度のO−硫酸基、N−硫酸基又はN−アセチル基を持ったグルコサミノグリカンであって、分子量が6,000〜20,000のヘテロ多糖類である。
【0003】
化学構造式をもって説明すれば、ヘパリンは下記の化学式表1に示すような主として10種類の二糖の組み合わせで構成されている。
【化1】


【0004】
ここでGlcAはD−グルクロン酸、GlcNAcはN−アセチル−D−グルコサミン、GlcNSはN−スルホ−D−グルコサミン、GlcA(2OS)は2−スルホ−D−グルクロン酸、GlcNS(6OS)はN−スルホ−D−グルコサミン−6−硫酸、GlcNS(3,6dlOS)はN−スルホ−D−グルコサミン−3,6−ジ硫酸、IdAはL−イズロン酸、IdA(2OS)は2−スルホ−L−イズロン酸である。
【0005】
ヘパリンは多彩な生物活性を示す。すなわち、ヘパリンは多種類の細胞増殖因子、サイトカイン類、又は細胞接着因子と結合し、またアンチトロンピンIIIを始め多くの血液凝固・線溶系の酵素及び作用因子と結合して、前述のように血液凝固を阻害する。ヘパリンの薬剤としての利用価値をさらに高めるため、ヘパリン分子を切断して低分子ヘパリンとしたり、ヘパリンを化学的に修飾して新しい薬剤として用いることが色々と試みられた。
【0006】
例えば特開昭54−30277号公報は、ヘパリンを解重合して分子量が2,000〜5,000の低分子ヘパリンにするとともに、化学的に修飾して、これを血栓症治療用薬剤として使用することを提案している。
【0007】
また、WO80/01383号公報は、ヘパリンを亜硝酸で処理したり、過沃素酸により酸化し、次いでアルカリによりβ−脱離反応を行って、抗トロンピン作用を弱め、抗Xa因子の活性を強くして、選択的抗血液凝固活性を持った低分子ヘパリンを得たことを記載している。
【0008】
米国特許第5,280,016号は、ヘパリンを解重合することなく、過沃素酸で酸化し、次いで水素化硼素で還元してヘパリン修飾体を作り、これを筋肉細胞増殖阻止のための注射薬として使用することを記載している。
【0009】
WO96/29973号公報は、ヘパリンを亜硝酸により切断して低分子ヘパリンとし、得られた低分子ヘパリンを過沃素酸で酸化し、次いで水素化硼素で還元して、抗血液凝固活性を持たない低分子ヘパリン修飾体を得て、これを血栓生成阻止のための注射薬として使用することを記載している。
【0010】
また、WO98/14481号公報は、ヘパリンを亜硝酸により解重合して低分子ヘパリンとし、次いで低分子ヘパリンを過沃素酸で酸化し、その後に水素化硼素で還元して、抗血液凝固活性を示さない低分子ヘパリン修飾体を得て、これを腎臓、心筋梗塞症等の治療用に使用することを記載している。
【0011】
このように、ヘパリンはヘパリンそのもの、又はヘパリンを亜硝酸により解重合して得られた低分子ヘパリンを過沃素酸により酸化し、次いで水素化硼素で還元して化学的に修飾し、得られた修飾体を薬剤として使用することが知られているが、その薬剤は主に注射用のものであって、心臓、腎臓などの臓器疾患の治療を目的としたものである。
【0012】
そのほか、ヘパリンの血液凝固阻止活性と脂血清澄作用の構造と活性の相関を解明することを目的として、ヘパリンに種々の脂質性基を結合させる試みも知られている(長沢金蔵、糖鎖工学、(株)産業調査会のバイオテクノロジー情報センター発行、1991年8月、P315−342)。その多くはウロン酸(グルクロン酸及びイズロン酸)のカルボキシル基又はグルコサミンのアミノ基に脂質性の基を結合させたものである。
【0013】
また、ヘパリンに蛍光標識や放射性同位元素標識を与えるために、ヘパリンの水酸基に脂質性基を結合させる試みも知られている(長沢金蔵、小鴨 晃、日本生化学会編・新生化学実験講座3、糖質II 山科他編、東京化学同人発行、1991年4月、P283−286)。この場合には、ヘパリンの水酸基をブロムシアン(BrCN)と反応させてシアン酸エステルを生じさせ、これを隣接する水酸基と反応させてイミドカルボン酸エステルとし、そのイミド基をさらにアミノ基を持った化合物(脂肪族アミン、例えばアミノヘキサデカン)と反応させて、イソ尿素型の化合物を生成させている。このような、ヘパリンの水酸基の修飾は、ヘパリンに親脂質性を賦与するために行われたものではなく、また低分子ヘパリン及び低分子ヘパリン修飾体に適用されたこともない。
【0014】
ヘパリン又はこれに類似するヘパラン硫酸が、毛髪成長促進剤として有効であることが知られている。これは1961年にK. Meyerらによって報告された(Proc. Soc. Exp. Biol. Med., Vol.108, 59-63)。彼等は、ヘパリンやヘパラン硫酸の異化に関与するL−イズロニダーゼの遺伝的欠損によって生じるHurler病の患者が、多毛を示すことから、この疾患において蓄積するヘパラン硫酸が、多毛を齎すと考えた。事実、剃毛した家兎の背部に種々のグルコサミノグリカンを皮下注射したところ、ヘパラン硫酸が最も強い発毛効果を示し、同じくL−イズロン酸を含むコンドロイチン硫酸B(デルマタン硫酸とも言う)が、若干の発毛効果を示した、と報告している。
【0015】
毛髪は、皮膚表面近くに局在する毛包の底部に存在する毛母細胞によって作られるが、毛包は周期的に退縮と成長とを繰り返す。毛包の成長期には毛母細胞が活発に増殖して毛髪が作られ、退縮期には毛母細胞が活動を停止し、毛髪が作られなくなり、さらに休止期には、古い毛髪が脱落する。休止期から成長期への移行は、肝細胞増殖因子(Hepatocyte growth factor, HGF)や、サイトカインの一種であるインターロイキン6(Interleukinn 6, IL-6)などによって促進される。しかし、これまではヘパリン修飾体が毛髪成長の促進に使用されることはなかった。
【0016】
本発明者は、ヘパリン修飾体が皮膚潰瘍の治療に卓効を示すことを見出し、これを皮膚潰瘍治療剤として使用することを、特許第3342007号において提案した。その場合のヘパリン修飾体は、ヘパリンを過沃素酸で酸化し、次いで水素化硼素で還元して作られ、抗血液凝固活性を実質的に喪失し、細胞増殖因子、サイトカイン類又は細胞接着因子との結合性を保持しているものである。
【特許文献1】特開昭54−30277号公報
【特許文献2】WO80/01383号公報
【特許文献3】米国特許第5,280,016号明細書
【特許文献4】WO96/29973号公報
【特許文献5】WO98/14481号公報
【特許文献6】特許第3342007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明者は、上述のヘパリン修飾体が皮膚潰瘍の治療に卓効を示すことに着目し、ヘパリン修飾体が同じく皮膚に局在する毛母細胞を活性化し、これによって毛髪成長に促進作用を示すのではないかと考え、新たな毛髪成長促進剤を提供しようと企図した。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、初めラットを用いて、刈毛した皮膚の一部にヘパリン修飾体、とくに低分子化したヘパリン修飾体を塗布したり、皮下注射したりすることを試みた。ここで用いたヘパリン修飾体は、前述の特許第3342007号に記載したヘパリン修飾体である。その結果、ヘパリン修飾体を皮膚に塗布した場合には顕著な発毛を認めなかったが、皮膚に皮下注射した場合には顕著な発毛を認めた。
【0019】
このヘパリン修飾体を人に適用する場合に、皮下注射によることは適当ではない。なぜならば、人の場合、発毛が求められるのは頭頂であって、頭頂に皮下注射する場合には著しい疼痛を伴うからである。従って、人用の毛髪成長促進剤としては、塗布によって効果が発揮できる外用薬剤でなければならない。
【0020】
皮膚自体は脂質に富むものではないが、毛包に付属する皮脂腺からは絶えず脂質が分泌されている。従って、親脂質性物質を皮膚表面に塗布すれば、親脂質性物質は毛包の開口部から毛包内に取り込まれる可能性が高い。よって、本発明者は上述のヘパリン修飾体は、これに脂肪酸残基を導入して親脂質性を持たせれば、これを塗布剤として有効なものにすることができるだろうと考えた。
【0021】
ヘパリンは、その糖鎖の還元末端に脂質性基を結合させることが可能である。すなわち、通常、ヘパリンは還元末端に反応性の官能基を持たないため、亜硝酸により適当な大きさに低分子化し、生じた還元末端の2,5−アンヒドロマンノースのアルデヒド基に、アミノ基を持つ化合物(脂肪族アミン、例えばアミノヘキサデカンなど)を還元剤(例えばシアノトリヒドロ硼酸ナトリウム、NaBCNH3)の存在下で結合させて、還元されたSchiff 塩基を生じさせることによって、ヘパリン糖鎖に親脂質性を賦与することができる。しかし、十分な親脂質性を賦与するにはヘパリンをかなり低分子化する必要があるため、ヘパリンの持つ、細胞増殖因子等との結合性が失われるという欠点がある。
【0022】
ヘパリンから出発してこれを毛髪成長促進用の塗布剤とするには、特許第3342007号が記載しているヘパリン修飾体に親脂質性を付与するのが適している。すなわち、ヘパリンを過沃素酸で酸化し、次いで水素化硼素で還元して作られ、抗血液凝固活性を実質的に喪失していて、しかも細胞増殖因子、サイトカイン類又は細胞接着因子との結合性を保持しているヘパリン修飾体を出発材料として、これに親脂質性を付与するのが適している。この場合のヘパリン修飾体は亜硝酸により解重合されて低分子化されたものであるのが好ましいが、低分子化されていないものであってもよい。
【0023】
こうして得られた親脂質性のヘパリン修飾体をマウスの皮膚に塗布して、その効果を確かめた。その結果、親脂質性のヘパリン修飾体は一般に毛髪成長促進効果が認められた。その中でも、亜硝酸によりヘパリン又はヘパリン修飾体を解重合して低分子化したヘパリン修飾体に親脂質性を付与したものは、すぐれた毛髪成長促進効果を示すことが判明した。この発明は、このような知見に基いて完成されたものである。
【0024】
この発明は、親脂質性のヘパリン修飾体を提供するものである。その親脂質性のヘパリン修飾体は、ヘパリンを過沃素酸で酸化し、次いで水素化硼素で還元して作られたものであって、抗血液凝固活性を実質的に喪失していて、しかも細胞増殖因子、サイトカイン類又は細胞接着因子との結合性を保持しているヘパリン修飾体において、その中のヘキスロン酸のジオール部分の炭素間結合を切断するとともに還元して作られた2個の隣接する第一級アルコール基のうち、少なくとも1個の第一級アルコール基を脂肪酸残基でエステル化して親脂質性を付与したものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
この発明が提供する親脂質性ヘパリン修飾体は、もともと哺乳動物の体内にあるヘパリンを出発物質とし、これを過沃素酸で酸化し次いで水素化硼素で還元して抗血液凝固活性を実質的に喪失し、細胞増殖因子、サイトカイン類又は細胞接着因子との結合性を保持しているヘパリン修飾体を作り、これを材料としてその中のヘキスロン酸のジオール部分の炭素間結合を切断するとともに還元して作られた2個の隣接する第一級アルコール基のうち、少なくとも1個の第一級アルコール基を脂肪酸残基でエステル化したものであるから、親脂質性を持っており、哺乳動物の皮膚にある皮脂腺から分泌される脂質に溶解する性質を持っている。従って、これを哺乳動物の皮膚に塗布すると、これが脂質に溶解して皮膚に存在する毛包を活性化し、毛髪の成長を促進することとなる。しかも、この発明に係わる親脂質性ヘパリン修飾体は、極めて毒性が低く、長期間哺乳動物の皮膚に塗布しても、全く皮膚を害しない。従って、この発明に係わる親脂質ヘパリン修飾体は、毛髪成長促進剤として実用上の価値の高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
ヘパリン修飾体を調製する際には、ヘパリンの抗血液凝固活性を喪失させるために、硫酸化されていないヘキスロン酸を過沃素酸によって酸化する。そのとき、ヘキスロン酸中で隣接した水酸基を持った部分、いわゆるジオール部分が酸化されて、2個のアルデヒド基を生成する。この2個のアルデヒド基は、水素化硼素により還元されて2個の第一級アルコール基となる。この第一級アルコール基は、脂肪酸と容易に反応して下記化学式表2の(A)に示すような3種類のエステルを生じ、ヘパリン修飾体に親脂質性を与えることとなる。すなわち、2個の第一級アルコール基の何れにも脂肪酸の結合したもの、何れか一方のみに脂肪酸が結合したもの2種、合計3種のエステルを生成する。
【0027】
ヘパリン修飾体には、上述のようにして生成した第一級アルコール基のほかに、グルコサミンの6−位にも第一級アルコール基が存在する。そこで、これに脂肪酸残基をエステル結合させて、ヘパリン修飾体の親脂質性をさらに高めることができる。またヘパリン修飾体はそれを構成しているヘキスロン酸やグルコサミン中に第二級アルコール基を含んでいる。第二級アルコール基は、第一級アルコール基ほど脂肪酸と反応し易いものでないが、それでも第二級アルコール基は脂肪酸残基とエステル結合して、親脂質性を与えるものとなる。これらすべてのアルコール基に脂肪酸残基が結合した状態を化学式表2中に(B)及び(C)で示した。
【化2】


【0028】
この場合、ヘパリン修飾体に脂肪酸残基を効率よく結合させるには工夫を要する。それは、ヘパリン修飾体が水溶性のものであって、有機溶媒に不溶であり、他方、脂肪酸は有機溶媒に可溶であって水に不溶であるため、両者を直接溶液中で反応させることができないからである。両者を効率よく反応させるためには、両者を同じ1つの溶媒に溶解させるようにしなければならない。
【0029】
そこで、本発明者は、ヘパリン修飾体を有機溶媒に溶解させるべく、種々検討した。その結果、本発明者は、ヘパリン修飾体をピリジニウム塩にすると、この塩がジメチルスルホキシド(DMSO)やピリジン等の有機溶媒に可溶となることを見出した。そこで、ピリジニウム塩を経由して親脂質性を付与する方法を案出した。
【0030】
その方法を以下に説明する。ヘパリン修飾体は、通常ナトリウム塩として得られる。そこで、その水溶液をH+形の陽イオン交換樹脂(Dowex-50, 100-200 mesh)のカラムに通し、Na+を除去してこれを遊離酸の形に変える。この水溶液を例えばピリジンで中和すると、ヘパリン修飾体はピリジニウム塩となる。このピリジニウム塩は上述のピリジンやDMSOに可溶となる。
【0031】
エステル化は、例えば次のようにして容易に行うことができる。上述のヘパリン修飾体ピリジニウム塩のDMSO溶液に脂肪酸を加え、縮合剤として例えばジシクロカルボジイミド(DCC)を加え、よく混和してそのまま放置すると、ヘパリン修飾体に脂肪酸残基を効率よくエステル結合させることができる。
【0032】
上述のエステル化にあたって、ヘパリン修飾体を有機溶媒に可溶とするために用いる化合物はピリジンに限らない。ピリジン以外に、ピヘリジン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンなど、種々の有機塩基を用いることができる。また、エステル化を行う際の有機溶媒としては、DMSO、ピリジンのほか、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルスルホンアミドなど種々の極性有機溶媒を用いることができる。
【0033】
こうして、本発明はヘパリン修飾体に親脂質性を賦与する方法をも提供するものである。この方法は、ヘパリン修飾体の有機塩基塩を作り、この塩を極性有機溶媒に溶解し、この溶液に脂肪酸を加えてヘパリン修飾体に脂肪酸残基をエステル結合させることを特徴とするものである。そのエステル化の際には、縮合剤を加えてエステル化を促進させることが好ましい。
【0034】
ヘパリン修飾体に結合させる脂肪酸としては、天然の脂肪酸の何れをも用いることができる。その中では、パルミチン酸やオレイン酸を用いることが好ましく、とくにパルミチン酸とオレイン酸との等モル混合物を用いることが好ましい。その理由は、パルミチン酸やオレイン酸は、ヒトの中性脂肪に含まれている主要な脂肪酸であるため、皮膚腺から分泌される脂質に親和性が大きいと考えられるからである。
【0035】
ヘパリン修飾体に結合させる脂肪酸の量は、毛髪成長促進剤として重要である。毛髪成長促進剤を外用塗布剤として用いるためには、毛髪成長促進剤が70%エタノール溶媒に溶解することが好ましいため、脂肪酸の結合量が少ないと、ヘパリン修飾体が70%エタノールに不溶となるので、外用塗布剤として不適格となる。逆に、脂肪酸の結合量が多過ぎると、毛髪成長促進剤としての効力が失われる。実験によれば、ヘパリン修飾体の8糖あたり、0.8〜1.2モルの脂肪酸を結合させたものが、溶解性と毛髪成長促進作用の上で適当である。
【0036】
本発明の親脂質性ヘパリン修飾体は極めて毒性が低く、長期にわたって投与しても、副作用も毒性も殆ど認められない。従って、本発明の親脂質性ヘパリン修飾体からなる毛髪成長促進剤は、脱毛症治療のために安全に使用することができる。
【0037】
以下に、参考例と実施例と試験例とを記載して、本発明の詳細を具体的に説明する。ここで、参考例は、本発明で用いる低分子ヘパリン修飾体の製造方法の詳細を説明したものであり、実施例は、参考例で得た低分子ヘパリン修飾体を用いて本発明の毛髪成長促進剤の製造過程を説明したものであり、試験例は本発明の毛髪成長促進剤を実際にマウスに塗布した場合の効果を説明したものである。これら実施例等は単なる例示であって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0038】
参考例1
ブタ由来のヘパリン1gを蒸留水12.5mlに溶解し、これに室温で5%亜硝酸ナトリウム1.25mlを加えた。次いで、攪拌しながら33%酢酸1.25mlを加え、さらに室温で50分間攪拌した。反応溶液に1M炭酸ナトリウム4mlおよび1M水酸化ナトリウム1mlを順次加え、反応溶液のpHを9.0に調整した。これに0.25M水素化硼素ナトリウムを含有する0.01M水酸化ナトリウム0.3mlを加え、50℃で30分間放置した。次いで、氷酢酸を加えて過剰の水素化硼素ナトリウムを分解した後、0.3M酢酸ナトリウムで平衡化したセファデックスG−25のカラムに通した。得られた高分子画分を減圧下で濃縮した後、エタノールを加えて目的物を沈殿させた。これを濾取し、乾燥した。抗血液凝固活性を有する低分子ヘパリン約0.9gを得た。
【0039】
得られた低分子ヘパリン1gを20mlの0.1M過沃素酸ナトリウムを含む0.05M酢酸緩衝液(pH5.0)に溶解し、4℃で暗所に72時間放置した。反応液に十分量のグリセリンを加えて過剰の過沃素酸を分解した後、透析用半透膜(Spectrum社製、Code Number 530-3518, MW 500cut)を用いて、約5℃の蒸留水で3日間透析した。透析内液を凍結乾燥し、得られた乾燥物を0.2M水素化硼素ナトリウムを含有する0.2M炭素水素ナトリウム(pH9.5)に10%になるように溶解した。この反応液を4℃で3時間放置した。氷酢酸を加えて過剰の水素化硼素ナトリウムを分解しながら反応液のpHを5.0に調整し、30分間放置した。次いで、反応液を0.1M水酸化ナトリウムで中和した。得られた反応液は再度透析用半透膜を用いて約5℃の蒸留水で3日間透析した後、凍結乾燥に付し、抗血液凝固活性を有しない低分子ヘパリン修飾体0.7gを得た。
【0040】
同様の手法でウシ由来のヘパリンからも低分子ヘパリンを経て低分子ヘパリン修飾体を得ることができる。
【0041】
実施例1
参考例1に記載した方法で得た低分子ヘパリン修飾体1gを45mlの蒸留水に溶かし、H+形のDowex-50 (100-200 mesh)のカラム(6 X 10cm)に通した。洗液と併せて約110mlをピリジンで中和してpH6.2とし、凍結乾燥した。約1.1gを得た。これを16mlのジメチルスルホキシド(DMSO)に溶かした。
【0042】
パルミチン酸74mgとオレイン酸82mgを2mlのDMSOに溶かし、一方、縮合剤であるジシクロカルボジイミド(DCCD)128mgを1mlのDMSOに溶かし、これらの溶液を上記低分子ヘパリン修飾体ピリジニウム塩のDMSO溶液に加えた。この溶液を遮光して室温で48時間放置した。反応によって生じたジシクロジヘキシル尿素を濾紙を用いて濾別し、沈殿をDMSOで洗浄した。濾液と洗液を合わせ、これに約20mlのエーテルを加え、よく混和した。生じた3層のうち、最上層を除去した後、さらに同量のエーテルを加え、最上層を除去した。さらにベンゼン20mlを加えると粘質物が器底に生じた。上清を除去し、エタノールを10−20ml加えると粘質物は固化したのでこれを粉砕し濾取した。得られた粉末をエタノールとエーテルでよく洗浄した。約1gの粉末が得られた。得られた粉末を20mlの蒸留水に溶かし、Dowex 50−H+形(100-200 mesh)のカラム(6 X 10cm)に通した。洗液と併せて約50mlを2M水酸化ナトリウムで中和し、凍結乾燥した。親脂質性低分子ヘパリン修飾体0.8gを得た。
【0043】
本実施例では低分子ヘパリン修飾体8糖あたり、1.2分子の脂肪酸を含む親脂質性低分子ヘパリン修飾体の調製法を記したが、結合させる脂肪酸の量を変化させる際には相当する量の脂肪酸とDCCDを用いる。
【0044】
試験例1
親脂質性低分子ヘパリン修飾体の0.1%溶液を作製した。溶媒としては、70%エタノール、10%プロピレングリコールを含む蒸留水を用いた。
マウス又はラットを用いることができるが、本試験例ではマウスを用いた例を以下に記する。
【0045】
雌の黒色マウス(C57BL/6)を用いた。このマウスの毛髪は生後18日までは成長期で、その後3−4日で退縮期となり、22日頃に休止期に入る。30日頃から2回目の成長期に入り、48日頃で再び退縮期になり、約4日後に2回目の休止期に入る。この休止期は長く、約5週間続く。この時期を毛髪成長試験に用いる。これ以後は毛周期が乱れるため本試験には適さない。
【0046】
7週令のマウスを購入し、通常4、5匹を一群として同じケージで飼育した。1週間動物実験施設で順化した後、8週令になった日に電気バリカンを用いて背部の約3 X 3cmを刈毛した。この部位に親脂質性低分子ヘパリン修飾体の0.1%溶液50μl−100μlを塗布した。毛髪成長は肉眼で観察し、完全に成長した状態を+10とし、途中の段階は+1から順次+10までを記録した。対照として、薬剤を含まない溶媒を薬剤と同量塗布した。比較のため毛髪成長促進の基準物質(positive control)であるシクロスポリンAの1%エタノール溶液20μlを塗布した。
【0047】
シクロスポリンAの場合、約7−10日で+10の毛髪成長が見られた。親脂質性低分子ヘパリン修飾体を塗布した場合の毛髪成長に見られる効果を図1に例示した。図1において縦軸は毛髪成長の度合い(完全成長を+10とする)を示し、横軸は塗布日数を示している。また、○は試料塗布を示し、△は溶媒塗布を示している。(A)は、マウスを10匹用い低分子ヘパリン修飾体に8糖当たり1モルの脂肪酸を結合させた親脂質性低分子ヘパリン修飾体の0.1%溶液をマウス一匹当たり50μl塗布した場合、(B)は、マウスを8匹用い、低分子ヘパリン修飾体に8糖当たり1.2モルの脂肪酸を結合させた親脂質低分子ヘパリン修飾体の0.3%溶液をマウス一匹当たり75μl塗布した場合の毛髪成長の度合いを示したものである。試料塗布(−O−)の場合、(A)、(B)いずれにおいても塗布後約10日で明らかな発毛が見られ、40日後には完全発毛、すなわち、刈毛前の状態に戻った。一方、溶媒のみを塗布した場合は(−△−)、40日後でも+3程度の発毛であった。Student t-検定による危険率は(A)、(B)いずれの場合も、0.01以下(p<0.01)であった。なお、図には示さなかったが、何も塗布しない、いわゆる無処置の場合には、(A)、(B)いずれの場合も、溶媒のみを塗布した場合と同程度の発毛であった。
【0048】
因みに、現在、毛髪成長促進剤として汎用されているミノキシジル0.1%含有製剤の場合、塗布後30日頃に+5程度の毛髪成長が見られ、+10の成長に達するには50日を要した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の親脂質性低分子ヘパリン修飾体を毛髪成長促進剤として用いる脱毛症の患者の多くはいわゆる男性型脱毛症と見られるが、その発生頻度は日本人男性の約30%と報告されている。何らかの毛髪成長促進剤を必要とする患者は500万人に達すると推定されている。本発明の親脂質性低分子ヘパリン修飾体は極めて毒性が低く、長期投与においても副作用が見られないことから多くの脱毛症患者の救済に役立つものと思われる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】この発明に係わるヘパリン修飾体をマウスに塗布した場合の、毛髪成長の度合いを示すグラフである。
【出願人】 【識別番号】506416972
【氏名又は名称】有限会社応用糖質化学研究所
【出願日】 平成18年12月15日(2006.12.15)
【代理人】 【識別番号】100061848
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 正美


【公開番号】 特開2008−150441(P2008−150441A)
【公開日】 平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願番号】 特願2006−337783(P2006−337783)