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【発明の名称】 多糖類を原料とするゲルの製造方法
【発明者】 【氏名】八木 敏明

【氏名】長澤 尚胤

【氏名】廣木 章博

【氏名】玉田 正男

【氏名】チャリト ティ アラニラ

【要約】 【課題】土壌中の微生物によって分解および消化され、かつ吸水量の大きな高分子を原料として、ハイドロゲルを安価に製造すること。

【解決手段】カルボキシメチルカラギーナンを原料とし、それに水を加えた後、混練器によって十分に混練し、15%から60%のペースト状混合物を得た後、真空脱気を行い、橋かけ密度の低下を抑制するため上記ペースト状混合物全体を熱シールした後、電離性放射線を20kGy以上照射する。このようにして製造されたゲルは、生分解性であるため、使用後回収しコンポスト化処理により処分できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシメチルカラギーナンを原料とし、該原料に水を加えて混練し、得られた所定濃度のペースト状混合物に電離性放射線を一定線量以上照射し、ハイドロゲルを得ることを特徴とするゲルの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のゲルの製造方法において、上記電離性放射線はγ線、電子線またはX線であり、上記一定線量は5kGy以上であることを特徴とするゲルの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゲルの製造方法において、上記ペースト状混合物の濃度が15%から60%であることを特徴とするゲルの製造方法。
【請求項4】
カルボキシメチルカラギーナンを原料とし、該原料に水を加えて混練し、得られた所定濃度のペースト状混合物に電離性放射線を一定線量以上照射して得たゲルであって、該ゲルの乾燥ゲル1グラム当たり20グラム以上の水を吸収することを特徴とするゲル。
【請求項5】
請求項4に記載のゲルにおいて、上記電離性放射線はγ線、電子線またはX線であり、上記一定線量は5kGy以上であることを特徴とするゲル。
【請求項6】
請求項4または5に記載のゲルにおいて、上記ペースト状混合物の濃度が15%から60%であることを特徴とするゲル。
【請求項7】
カルボキシメチルカラギーナンを原料とし、該原料に水を加えて混練し、濃度が15%から60%のペースト状混合物を得た後、真空脱気を行い、橋かけ密度の低下を抑制するため上記ペースト状混合物全体を熱シールした後、電離性放射線を少なくとも5kGy以上照射することを特徴とするゲルの製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシメチル化されたカラギーナン(以下、カルボキシメチルカラギーナンという。)を原料として用いる、生分解性の高分子吸水ゲルの製造方法に関する。特に、本発明は、カルボキシメチルカラギーナンを水と混練した後、電離性放射線を照射することによって得られる、高分子吸水ゲルの製造方法に関する。ここで、カラギーナンとは、後述されるように、ある種の海藻から抽出して得られる直鎖状の多糖類である。
【背景技術】
【0002】
ハイドロゲルは、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドなどの水溶液に、電離性放射線を照射することによって、高分子に放射線橋かけを起させることにより得られることが知られている。このようにして得たハイドロゲルは、水を多量に吸収し保持できるため、使い捨てオムツなどの衛生用品や保湿材として医療、化粧品の分野で使用されている。また、これらにはポリアクリル酸ソーダをベースとした材料が主に使われている。
【0003】
このようなカルボキシメチル化された高分子材料の水溶液に電離性放射線照射を行い、ハイドロゲルに調製する方法は、例えば、特開2001−2703号公報に開示されている(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2001−2703
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように、ポリアクリル酸ソーダなどの水溶性ポリマーを放射線橋かけして得られる吸水ゲルは、使い捨てオムツなどの衛生用品に広く使われている。家庭や病院で使った使い捨てオムツなどは、主に焼却処理により処分される。しかし、濡れたオムツなどを焼却炉に入れると、燃焼温度が低下しダイオキシンの発生と炭酸ガスの増加につながる。土壌中に埋設処理した場合は分解せず、長い期間滞留し、環境に負荷を与える。そのため、放射線橋かけにより得られるポリグルタミン酸ソーダやポリアスパラギンソーダのように土壌中で分解し、環境に負荷を与えないハイドロゲルの応用が試みられている。
【0006】
デンプンやセルロースなどの天然材料は、ホルマリン、グルタルアルデヒド、エピクロルヒドリンなどの試薬を使い化学橋かけにより吸水剤を合成する方法がある。しかし、これらの化学物質は毒性が強く作業現場の環境汚染と吸水剤中への残留といった問題がある。この方法ではアルデヒドが作業環境を汚染し、また、残留したアルデヒドが皮膚を刺激することがあるため安全な橋かけ法が求められている。このため環境に負荷を与えない材料による吸水剤が求められており、特に、土壌中の微生物によって分解・消化され、使用後の処理が容易な生分解性高分子は環境低負荷型材料として注目されている。生分解性の吸水材は使用後の回収システムが構築できれば、コンポスト化により処分でき肥料として再資源として使うことのできる循環型材料になる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、土壌中の微生物によって分解および消化され、かつ吸水量の大きな高分子を原料として、ハイドロゲルを安価に製造することができるゲルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上述の観点から鋭意研究を重ねた結果、カルボキシメチル化したカラギーナンを作製し、それを用い、高濃度のペースト状で放射線の照射を行ったところ橋かけが起きることを見出した。本発明は、その知見に基づいて得られたものである。なお、カラギーナン自体は公知の物質であり、例えば、大阪市に本社を置く三栄源エフ・エフ・アイ株式会社が、食品一般のゲル化剤として市場に供給しているものがある。
【0009】
カルボキシメチルカラギーナンは固体状態や希薄水溶液(10%以下の濃度)の放射線照射では分解が優先して起こるため、放射線橋かけは困難である。本発明では、カルボキシメチルカラギーナンに水を加え良く練り、一定濃度以上のペースト状態(糊状)に調製し、電離性放射線を照射することにより橋かけに成功した。
【0010】
本発明で製造されるカルボキシメチルカラギーナンのハイドロゲルは、基本的に次のようにして合成される。原料であるカルボキシメチルカラギーナンに水を加えて混練し、得られた所定濃度のペースト状混合物に電離性放射線を一定線量以上照射する。それによって、50℃以上の熱によっても溶解しない、耐熱性に優れたハイドロゲルを得ることができる。
【0011】
さらに具体的には、カルボキシメチルカラギーナンを水と良く混練し、高濃度のペーストを得る。これをポリエチレンとナイロンのラミネート製の袋に入れ、真空脱気の後、熱シールを行いγ線を照射した。照射前は柔らかいペーストであるが、照射によりゴム状を呈し弾力のあるゲルが得られる。放射線橋かけを行うためには、ペーストの濃度は10%以上を要し、好ましい濃度は20%から40%である。固体状態及び10%以下の濃度では分解が優先的に起き、橋かけによるゲルの生成は認められない。
【0012】
電離性放射線は、γ線、電子線またはX線であり、橋かけの線量は0.1〜1000 kGyであると考えられる。好ましい橋かけの線量は、5kGy以上であるが、20kGy以上が最適である。電離性放射線は、工業的生産のため、コバルト−60からのγ線か加速器による電子線が好ましい。電子加速器は厚物の照射ができる加速電圧1MeV以上の中エネルギーから高エネルギー電子加速器が最も好ましい。照射前の試料に圧力をかけフィルム状に加工すれば1MeV以下の低エネルギー電子加速器でも電子線が透過するため放射線橋かけによりゲルを得ることができる。照射中の酸素による橋かけへの影響はほとんどないが、照射中の水分の蒸発防止及び橋かけ密度の低下を抑制するため、ポリエステルなどのプラスチックフィルムなどにより上面をカバーして照射するのが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明により製造されたゲルは多種類の製品に使用することができる。本ゲルは、生分解性であるため、使用後回収しコンポスト化処理により処分でき、その後は肥料として用いることができるので、環境に負荷を与えない。従って、衛生用品では、例えば使い捨てオムツ、化粧用品では例えばフェイスマスクに使用すると特に効果が大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るゲルの製造方法について、幾つかの実施例と比較例を挙げてより一層具体的に説明する。これらの実施例は、いずれも基本的に大気圧下で室温にて行なわれた。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【比較例1】
【0015】
比較例1において使用されたカルボキシメチルカラギーナンは、カラギーナンをセルロースやデンプンでも使用されている常法を用いてカルボキシメチル化させたものである。すなわち、カラギーナンを40%水酸化ナトリウム水溶液/イソプロピルアルコールの混合溶液に分散させ、モノクロロ酢酸粉末を添加して、40℃で3時間反応させ、中和後濾過して乾燥させる工程を1ステップとして行った。このようにして得たカルボキシメチルカラギーナンを室温の固体状態と10%以下の水溶液として、γ線により100kGyまで照射を行った。その結果、分子量が低下し水に容易に溶解するようになったが、水に不溶なゲル成分は生成しなかったことから、このような条件では橋かけが起こらなかったと判断できる。
【実施例1】
【0016】
図1を参照して、実施例1について説明する。図1は、1サイクル処理した、異なる濃度のカルボキシメチルカラギーナンをγ線により50kGyの照射を行った場合のゲル分率及び吸水量を示している。比較例1で用いたカルボキシメチルカラギーナンを水と良く練り30%および40%の濃度の異なるペースト(グリース状)を造り、γ線により50kGy照射した。図1から明らかなように、γ線照射によりカルボキシメチルカラギーナンの高分子に橋かけが起き、水に不溶なゲルが生成された。これを多量の水に漬け、吸水ハイドロゲルを得た。
【0017】
その結果、γ線の50kGy照射において、カルボキシメチルカラギーナン濃度が30%の場合、ゲル分率が30.5%であり、製造されたゲルの吸水量は71(g水/1gドライゲル)であり、カルボキシメチルカラギーナン濃度が40%の場合、ゲル分率が35.5%であり、製造されたゲルの吸水量は69(g水/1gドライゲル)であった。
【実施例2】
【0018】
次に、図2を参照して実施例2について説明する。図2は、3サイクル処理した濃度の異なるカルボキシメチルカラギーナンをγ線により50kGyの照射を行った場合のゲル分率と吸水量を示している。実施例2で使用したカルボキシメチルカラギーナンは、アルカリ環境下、モノクロロ酢酸を40℃で3時間の反応(1サイクル)を3サイクル行い、カルボキシル化したものである。カルボキシメチルカラギーナンのカルボキシメチル基の置換度は実施例1より増加している。これを水と良く練り20%、30%および40%の濃度の異なるペースト(グリース状)を造り、γ線により50kGy照射した。図2から明らかなように、γ線照射によりカルボキシメチルカラギーナンの高分子に橋かけが起き、水に不溶なゲルが生成された。これを多量の水に漬け、吸水ハイドロゲルを得た。
【比較例2】
【0019】
実施例2で用いたカルボキシメチルカラギーナンを室温の固体状態と10%以下の水溶液とでγ線により100kGyまで照射を行った。分子量が低下し水に容易に溶解するようになるが水に不溶なゲル成分は生成しないことから、このような条件では橋かけが起こらないことがわかった。
【0020】
その結果、γ線の50kGy照射において、カルボキシメチルカラギーナン濃度が20%の場合、ゲル分率が59.1%であり、製造されたゲルの吸水量は91(g水/1gドライゲル)であり、カルボキシメチルカラギーナン濃度が30%の場合、ゲル分率が67.8%であり、製造されたゲルの吸水量は42(g水/1gドライゲル)であった。さらに、カルボキシメチルカラギーナン濃度が40%の場合、ゲル分率が73.7%であり、製造されたゲルの吸水量は22(g水/1gドライゲル)となった。
【実施例3】
【0021】
本発明者等は、カルボキシメチルカラギーナンのゲル特性をさらに詳細に調べるため、カルボキシメチルカラギーナン濃度10%、20%、30%及び40%について、γ線により0から100kGyまでの照射を行い、それぞれについてゲル分率(%)及び吸水量(g水/1gドライゲル)を調べた。その結果をグラフ化して、図3から図6に示す。図3は、1サイクル処理した、異なる濃度のカルボキシメチルカラギーナン(CM−kC1S)をγ線により0から100kGyの照射を行った場合のゲル分率を示している。図4は、3サイクル処理した、異なる濃度のカルボキシメチルカラギーナン(CM−kC3S)をγ線により0から100kGyの照射を行った場合のゲル分率を示している。図5は、1サイクル処理した、異なる濃度のカルボキシメチルカラギーナン(CM−kC1S)をγ線により0から100kGyの照射を行った場合のゲルの吸水量を示している。また、図6は、3サイクル処理した、異なる濃度のカルボキシメチルカラギーナン(CM−kC3S)をγ線により0から100kGyの照射を行った場合のゲルの吸水量を示している。
【0022】
その結果、1サイクル処理した濃度30%及び40%のカルボキシメチルカラギーナンと、3サイクル処理した濃度20%、30%及び40%のカルボキシメチルカラギーナンに関して次のことが明らかになった。図3及び図4から理解されるように、ゲル分率は、線量が5から20kGyまでは急激に増大し、20kGyを屈曲点として、その後は緩やかに増大した。また、図5及び図6から理解されるように、吸水量は、上述のゲル分率と逆の特性を示し、線量がほぼ30kGyまでは急激に減少し、30kGyを屈曲点として、その後は緩やかに減少した。
【0023】
なお、当然のことながら、実施例3で行なった実験では、前述の実施例1及び実施例2、並びに比較例1及び比較例2と同一の条件でも行なっているため、前述の各実施例及び各比較例の結果は、すべて実施例3の結果に含まれている。また、図4においては、その濃度を10%、20%という具合に、10%ごとに増加させて測定したデータのみを示しているので、3サイクル処理を行なってカルボキシメチル化されたカッパカルギーナンは、10%ではゲル化が起こらず、20%でゲル化が初めて起こるように示されているが、実際には、その濃度が15%から60%の間にあれば、実用に供する程度のゲル分率及び吸水率が得られることがサンプリング実験によってわかった。
【0024】
また、本発明によって製造されたゲルの評価にあたって、ゲル分率および吸水量は次のようにして算出した。
(1)ゲル分率
【0025】
ゲル分率は次のようにして求めた。照射後得られたゲルを凍結乾燥し、50℃真空乾燥器中で恒量になるまで乾燥する。乾燥した試料を多量の水に48時間浸漬する。橋かけしていないゾルと称する溶解成分を水側に溶かし出し、不要成分のゲルのみを回収する。その後50℃で24時間乾燥する。ゲル分率は次式により算出する。
【0026】
ゲル分率(%)=(溶解成分を除いたゲル重量/初期乾燥重量)x100
(2)吸水量
【0027】
吸水量はペースト状照射により得られたゲルを乾燥し、それを多量の水に漬け、1gの乾燥ゲルが吸収する水の量(25℃水中平衡重量)で表した。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上のようにして生成されたゲルは、工業、農業、医療、食品等の広範囲の分野において利用可能である。以下にその一例を挙げるが、これらに限定されるものではない。本発明に係る製造方法によって製造されたゲルは生分解性と優れた吸水性、保水性を有する環境保全型の材料である。現在、紙おむつや生理用品に利用されている吸水剤は生分解性を有しないアクリルアミド系の材料であり、焼却処分されている。しかし、生分解性を有する本発明のゲルをそれらに利用することによって、焼却処分せずに直接土壌に廃棄することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】1サイクル処理した、異なる濃度のカルボキシメチルカラギーナンをγ線により50kGyの照射を行った場合のゲル分率及び吸水量を示している。
【図2】3サイクル処理した、異なる濃度のカルボキシメチルカラギーナンをγ線により50kGyの照射を行った場合のゲル分率及び吸水量を示している。
【図3】1サイクル処理した、異なる濃度のカルボキシメチルカラギーナンをγ線により0から100kGyの照射を行った場合のゲル分率を示している。
【図4】3サイクル処理した、異なる濃度のカルボキシメチルカラギーナンをγ線により0から100kGyの照射を行った場合のゲル分率を示している。
【図5】1サイクル処理した、異なる濃度のカルボキシメチルカラギーナンをγ線により0から100kGyの照射を行った場合のゲルの吸水量を示している。
【図6】3サイクル処理した、異なる濃度のカルボキシメチルカラギーナンをγ線により0から100kGyの照射を行った場合のゲルの吸水量を示している。
【符号の説明】
【0030】
CM カルボキシメチル
kC カッパカラギーナン
1S 1サイクル処理(1ステップ)
3S 3サイクル処理(3ステップ)
【出願人】 【識別番号】505374783
【氏名又は名称】独立行政法人 日本原子力研究開発機構
【出願日】 平成18年12月8日(2006.12.8)
【代理人】 【識別番号】100074631
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 幸彦


【公開番号】 特開2008−144007(P2008−144007A)
【公開日】 平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願番号】 特願2006−331679(P2006−331679)