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【発明の名称】 セルロースに澱粉加水分解物が共有結合してなる繊維素澱粉加水分解物複合体及びその製造方法
【発明者】 【氏名】坂野 好幸

【氏名】阪本 禮一郎

【氏名】木村 敏幸

【氏名】砂田 美和

【要約】 【課題】水に不溶性のセルロース類と可溶性の澱粉加水分解物とが共有結合した繊維素澱粉加水分解物複合体を提供する。

【解決手段】澱粉及び/又は澱粉加水分解物と、セルロース及び/又はその水不溶性誘導体を含む原料とをα−アミラーゼの存在下に反応させて得られる繊維素澱粉加水分解物複合体;前記繊維素澱粉加水分解物複合体組成物;並びに前記の繊維素澱粉加水分解物複合体又は繊維素澱粉加水分解物複合体組成物から選ばれる少なくとも1種を含有する紙製品、衣料製品、繊維製品、糊剤、混和剤、塗料、顔料、食品、飲料、調味料、味質改善剤、洗剤、入浴剤、化粧品、医薬品、飼料又は肥料。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉及び/又は澱粉加水分解物と、セルロース及び/又はその水不溶性誘導体を含む原料とをα−アミラーゼの存在下に反応させて得られる繊維素澱粉加水分解物複合体。
【請求項2】
澱粉及び/又は澱粉加水分解物に由来するグルコース単位1以上からなる残基がセルロース及び/又はその水不溶性誘導体に共有結合してなる請求項1記載の繊維素澱粉加水分解物複合体。
【請求項3】
グルコース単位1以上からなる残基が、グルコース残基並びにα−1,4結合及び/又はα−1,6結合したオリゴ糖残基及びデキストリン残基から選ばれる請求項2記載の繊維素澱粉加水分解物複合体。
【請求項4】
セルロース及び/又はその水不溶性誘導体が非晶性及び/又は結晶性である請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維素澱粉加水分解物複合体。
【請求項5】
セルロース及び/又はその水不溶性誘導体を含む原料が木材及び/又は草本類を原料として製造されるパルプである請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維素澱粉加水分解物複合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の繊維素澱粉加水分解物複合体にグルコアミラーゼ及び/又はβ−アミラーゼを作用させて得られる繊維素澱粉加水分解物複合体。
【請求項7】
グルコース残基及び/又はマルトース残基がセルロース及び/又はその水不溶性誘導体に共有結合してなる請求項6記載の繊維素澱粉加水分解物複合体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の繊維素澱粉加水分解物複合体を含有する繊維素澱粉加水分解物複合体組成物。
【請求項9】
反応生成物由来の糖を含有する請求項8記載の繊維素澱粉加水分解物複合体組成物。
【請求項10】
請求項8又は9記載の繊維素澱粉加水分解物複合体組成物から分離、精製されて得られる繊維素澱粉加水分解物複合体。
【請求項11】
紙製品、衣料製品、繊維製品、糊剤、混和剤、塗料、顔料、食品、飲料、調味料、味質改善剤、洗剤、入浴剤、化粧品、医薬品、飼料又は肥料の成分として用いられる請求項1〜7及び10のいずれか1項に記載の繊維素澱粉加水分解物複合体、又は請求項8もしくは9記載の繊維素澱粉加水分解物複合体組成物。
【請求項12】
請求項1〜7及び10のいずれか1項に記載の繊維素澱粉加水分解物複合体、又は請求項8もしくは9記載の繊維素澱粉加水分解物複合体組成物から選ばれる少なくとも1種を含有する紙製品、衣料製品、繊維製品、糊剤、混和剤、塗料、顔料、食品、飲料、調味料、味質改善剤、洗剤、入浴剤、化粧品、医薬品、飼料又は肥料。
【請求項13】
澱粉及び/又は澱粉加水分解物と、セルロース及び/又はその水不溶性誘導体を含む原料とをα−アミラーゼの存在下に反応させることを含む、請求項1〜7及び10のいずれか1項に記載の繊維素澱粉加水分解物複合体の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の繊維素澱粉加水分解物複合体にグルコアミラーゼ及び/又はβ−アミラーゼを作用させることを含む、請求項6、7及び10のいずれか1項に記載の繊維素澱粉加水分解物複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースに澱粉加水分解物が共有結合してなる繊維素澱粉加水分解物複合体、及びα−アミラーゼを用いたその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維素、中でもセルロースを主体とする植物繊維素は樹木が地上を覆って以来、現在でも、地球上で最も多く存在するバイオマスであり、太陽が存在する限り、毎年再生産されている。しかも、保存性や強度に優れたセルロース性物質は、人類が古くから活用しており、燃料、建材、衣料、紙など人間の生活に欠かせない物質として利用してきた。一方、澱粉は多くの穀物や地下茎に含まれ、それらの栽培や育種、調理技術の発展こそ、人類の歴史の発展につながっており、澱粉は雑食性の人類にとって生存に必須の食料として利用されてきた。セルロースに比べて、容易に熱で非結晶化する澱粉は接着剤として紙の生産にも広く利用されている。
【0003】
セルロースと澱粉は同じグルコースで構成されていながら物性が大きく異なる。セルロースはβ−1,4−結合であり、結晶性が高い故に不溶性であって澱粉に比べて安定であり、強度に優れた物性を有している。牛などの反芻動物を除いて高等動物の多くはセルロースを分解できないため、エネルギー源として利用できない。一方の澱粉はα−1,4−結合のアミロースとα−1,4−結合の他にα−1,6−結合の分岐を有するアミロペクチンとからなる。澱粉粒は高度の結晶性を有するものの、セルロースに比べて水の存在下で加熱により比較的容易に結晶性を失い糊化して水に溶解する。人間を初め、動物は澱粉分解酵素を持っており、結晶性を失った澱粉は分解・消化されてグルコースとなり、エネルギー源として利用される。
【0004】
このように、同じグルコースで構成されながら物性の異なるセルロースと澱粉を上手く使い分けることによって、製造されている製品が紙である。紙は、特に近代産業としての紙は主に樹木を原料としており、各種製造法で得られたパルプに澱粉が内添されて紙が抄紙される。更に、澱粉を添加した塗料が紙の表面に塗工されてコート紙が製造される。段ボールの製造ではコルゲーターで澱粉液を塗布した中芯原紙にライナーが貼合されて段ボールシートができる。日本の澱粉消費量の内、15%は紙パルプ産業で使用されている。紙は植物繊維と植物繊維との絡まりでシートが形成され、紙の強度は一義的に繊維と繊維の接触頻度で決まる。澱粉は繊維と繊維の接触頻度を高める橋渡し的な役割をして紙の強度向上に役立っている。
【0005】
本発明者らは、澱粉にオリゴ糖や糖アルコール類などを共存させた混合糖液にα−アミラーゼを作用させると、得られる澱粉加水分解物の還元末端側のグルコース残基にオリゴ糖や糖アルコール類などが結合したヘテロオリゴ糖組成物が生成することを見出し、特許出願している(特許文献1)。その中で、水溶性のセロビオースに澱粉加水分解物の結合したヘテロオリゴ糖の生成することを開示している。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載した方法で、水に不溶性のセルロースに澱粉加水分解物が結合した繊維素澱粉加水分解物複合体の生成することは全く触れておらず、知られていない。
【0007】
【特許文献1】特開2005−278457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
セロビオースは水溶性の糖であり、グルコースのβ−1,4−結合した2糖であって、セルロースの構成単位である。水に不溶性の糖に澱粉加水分解物である水溶性のグルコースやマルトシルオリゴ糖が結合することは全く知られていない。また、水に不溶性の糖に酵素の作用により他の糖が結合することは、酵素反応が水の中で進むことを考えれば、到底、信じられない現象である。
【0009】
しかしながら、不溶性の繊維素であるセルロースに可溶性の澱粉加水分解物を共有結合させることができれば、物性の大きく異なる多糖の複合体が形成され、新たな性質を有する多糖複合体の可能性が開かれたこととなる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の発明を包含する。
(1)澱粉及び/又は澱粉加水分解物と、セルロース及び/又はその水不溶性誘導体を含む原料とをα−アミラーゼの存在下に反応させて得られる繊維素澱粉加水分解物複合体。
(2)澱粉及び/又は澱粉加水分解物に由来するグルコース単位1以上からなる残基がセルロース及び/又はその水不溶性誘導体に共有結合してなる前記(1)に記載の繊維素澱粉加水分解物複合体。
【0011】
(3)グルコース単位1以上からなる残基が、グルコース残基並びにα−1,4結合及び/又はα−1,6結合したオリゴ糖残基及びデキストリン残基から選ばれる前記(2)に記載の繊維素澱粉加水分解物複合体。
(4)セルロース及び/又はその水不溶性誘導体が非晶性及び/又は結晶性である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の繊維素澱粉加水分解物複合体。
【0012】
(5)セルロース及び/又はその水不溶性誘導体を含む原料が木材及び/又は草本類を原料として製造されるパルプである前記(1)〜(4)のいずれかに記載の繊維素澱粉加水分解物複合体。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の繊維素澱粉加水分解物複合体にグルコアミラーゼ及び/又はβ−アミラーゼを作用させて得られる繊維素澱粉加水分解物複合体。
【0013】
(7)グルコース残基及び/又はマルトース残基がセルロース及び/又はその水不溶性誘導体に共有結合してなる前記(6)に記載の繊維素澱粉加水分解物複合体。
(8)前記(1)〜(7)のいずれかに記載の繊維素澱粉加水分解物複合体を含有する繊維素澱粉加水分解物複合体組成物。
【0014】
(9)反応生成物由来の糖を含有する前記(8)に記載の繊維素澱粉加水分解物複合体組成物。
(10)前記(8)又は(9)に記載の繊維素澱粉加水分解物複合体組成物から分離、精製されて得られる繊維素澱粉加水分解物複合体。
【0015】
(11)紙製品、衣料製品、繊維製品、糊剤、混和剤、塗料、顔料、食品、飲料、調味料、味質改善剤、洗剤、入浴剤、化粧品、医薬品、飼料又は肥料の成分として用いられる前記(1)〜(7)及び(10)のいずれかに記載の繊維素澱粉加水分解物複合体、又は前記(8)又は(9)に記載の繊維素澱粉加水分解物複合体組成物。
【0016】
(12)前記(1)〜(7)及び(10)のいずれかに記載の繊維素澱粉加水分解物複合体、又は前記(8)又は(9)に記載の繊維素澱粉加水分解物複合体組成物から選ばれる少なくとも1種を含有する紙製品、衣料製品、繊維製品、糊剤、混和剤、塗料、顔料、食品、飲料、調味料、味質改善剤、洗剤、入浴剤、化粧品、医薬品、飼料又は肥料。
【0017】
(13)澱粉及び/又は澱粉加水分解物と、セルロース及び/又はその水不溶性誘導体を含む原料とをα−アミラーゼの存在下に反応させることを含む、前記(1)〜(7)及び(10)のいずれかに記載の繊維素澱粉加水分解物複合体の製造方法。
(14)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の繊維素澱粉加水分解物複合体にグルコアミラーゼ及び/又はβ−アミラーゼを作用させることを含む、前記(6)、(7)及び(10)のいずれかに記載の繊維素澱粉加水分解物複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明で得られる繊維素澱粉加水分解物複合体は、水に不溶性のセルロース及び/又はその誘導体に水溶性の澱粉加水分解物が共有結合した新規な糖質であり、難分解性、難消化性であって安定性に優れており、強度を有するセルロース及び/又はその誘導体と、同じグルコースを構成成分としながら易分解性、易消化性であって粘性、接着性を有する澱粉との複合体である。従って、セルロース等を主成分とする紙、繊維、衣料などの製品の品質改善に効果が期待される。また、食品、調味料や化粧品、医薬品などの増粘、品質改善、食物繊維としての利用、整腸作用、保湿作用などの効果が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明者らは先に、α−アミラーゼがセロビオースに澱粉の加水分解物であるグルコース、マルトースやマルトシルオリゴ糖の結合したヘテロオリゴ糖の生成することを開示している(特許文献1)が、水に不溶性のセルロースに澱粉の加水分解物が共有結合する反応は、酵素反応が水溶液中で進むことから、到底、困難であると考えていた。
【0020】
しかしながら、本発明者らは新たな事実を発見した。すなわち、微結晶セルロースであるアビセルをリン酸に溶解して水に膨潤させてリン酸膨潤セルロースを調製し、得られた水に不溶性のリン酸膨潤セルロースに、澱粉を酵素分解して得られるオリゴ糖の一種であるマルトテトラオース(G4)を加えて好熱性放線菌であるThermoactinomyces vulgaris のα−アミラーゼII(TVAII)を作用させた。反応生成物を二次元薄層クロマトグラフで分析すると、一次展開で縦方向に展開しても、平均重合度(DP)=10のセルロースが結合している一次反応生成物は原点に止まる。次に、原点にグルコアミラーゼを作用させて横方向に二次展開すると、二次反応生成物の大部分は原点に止まるが、マーカーのグルコースの位置にスポットが確認され、原点からグルコースが展開されることを見出した。すなわち、一次反応生成物からグルコアミラーゼによってグルコースが生成することが認められ、一次反応生成物は、セルロースにマルトシル基が共有結合している構造を有することが証明された。
【0021】
本発明において、繊維素澱粉加水分解物複合体とは、セルロース及び/又はその水不溶性誘導体を受容体として、共存した澱粉及び/又は澱粉加水分解物にα−アミラーゼ(EC 3.2.1.1)を作用させて得られる複合糖質のことをいう。
【0022】
本発明の繊維素澱粉加水分解物複合体としては、例えば、澱粉及び/又は澱粉加水分解物に由来するグルコース単位1以上からなる残基がセルロース及び/又はその水不溶性誘導体に共有結合してなるものが挙げられ、好ましくは、前記グルコース単位1以上からなる残基が、グルコース残基並びにα−1,4結合及び/又はα−1,6結合したオリゴ糖(マルトオリゴ糖)残基及びデキストリン(マルトデキストリン)残基から選ばれる少なくとも1種であるものが挙げられる。
【0023】
なお、本明細書において、構成する糖の重合度が11以上の糖類をデキストリンと称し、構成する糖の重合度が10以下の糖類をオリゴ糖と称する。
【0024】
α−アミラーゼの糖転移反応における供与体の原料としては、澱粉及び/又は澱粉加水分解物が用いられる。前記澱粉加水分解物としては、通常、酵素処理あるいは酸処理により澱粉を可溶化した糖液が用いられるが、構造中に少なくともマルトトリオース残基を含むα−1,4結合からなるマルトオリゴ糖を用いることもできる。
【0025】
受容体であるセルロースとしては、植物、動物、微生物由来のセルロースや綿のような純度の高いセルロース性物質はそのまま利用される。更に、木材(樹木)や草本類を原料として生産されるパルプなどのセルロース以外にヘミセルロースやリグニンを含むセルロース性物質、セルロース性物質から得られる高純度のセルロース、例えばアビセルなどの微結晶セルロースなどが利用できる。
【0026】
受容体であるセルロース誘導体としては、水不溶性であれば特に制限はなく、例えばヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどで低置換度のものや、高置換度エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ベンジルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートフタレート及びこれらの混合物が挙げられる。
【0027】
前記セルロース及びその誘導体としては、非晶性もしくは結晶性、又はこれらの混合物のいずれを用いてもよい。
【0028】
供与体と受容体の混合物は、セルロース及び/又はその水不溶性誘導体と、澱粉及び/又は澱粉加水分解物とを適当な比率に混合して利用できる。しかしながら、本発明は供与体と受容体の比率については限定されるものではなく、また供与体及び受容体のそれぞれについて2種以上を組み合わせてもよい。
【0029】
本発明においては、原料(供与体)として使用される澱粉は特に限定されず、一般に利用されている植物由来の澱粉だけでなく、いずれの起源の澱粉でも使用できる。穀類、塊茎、根、豆、草本類などが使用可能である。例えばコーンスターチ、ハイアミロース・コーンスターチ、ワキシー・コーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉等が用いられる。また、澱粉に官能基を導入した加工澱粉、例えばアセチル化澱粉、酸化澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、リン酸化澱粉、リン酸架橋澱粉、アジピン酸架橋澱粉、オクテニルコハク酸澱粉などもα−アミラーゼにより水溶性の澱粉加水分解物が生成するものであれば、原料となり得る。
【0030】
更にまた、澱粉に各種処理を加えたものも原料となり得る。それらの多くは澱粉と表示されており、すなわち、澱粉を物理的に一次処理した澱粉、例えば、ドラムドライヤーやエクストルーダー処理した糊化澱粉、又は酸やアルカリで化学的に処理して得られる澱粉やデキストリンも原料として使用できる。同様に、澱粉を酵素処理して得られる糊化澱粉やデキストリン、オリゴ糖なども澱粉加水分解物であり、原料となり得る。澱粉加水分解物として酵素液化法の一例を示すと、澱粉に水酸化カルシウム及び/又は水酸化ナトリウムを加えてpH6.3に調整した後、α−アミラーゼ(商品名:ターマミル120L、ノボザイム ジャパン)を対澱粉0.05%(w/w)加えて、ジェットクッカーでクッキング(105℃、5分間)した糖液、これを更に95℃で1時間程度反応させて分解を進めた糖液などが利用できる。
【0031】
本発明で使用するα−アミラーゼ(EC 3.2.1.1)は本来加水分解酵素であるが、受容体を添加すると加水分解反応と競合して糖転移反応を触媒する。α−アミラーゼはセルロース及び/又はその水不溶性誘導体と共存した澱粉及び/又は澱粉加水分解物に作用させると、糖転移反応により、澱粉及び/又は澱粉加水分解物に由来するグルコース単位1以上からなる酵素反応生成物の還元末端側グルコース残基にセルロースが共有結合した繊維素澱粉加水分解物複合体を生成するものであればよく、酵素の起源、種類は限定されない。使用できる酵素としては、好熱性放線菌であるサーモアクチノマイセス・ブルガリス(Thermoactinomyces vulgaris)のα−アミラーゼI(以下、TVAIと称する)、同じくα−アミラーゼII(以下、TVAIIと称する)が挙げられる。その他、使用できる酵素としてはバチラス(Bacillus)属由来のネオプルラナーゼ(EC 3.2.1.135)〔H. Takata et al., J. Biol. Chem., 267, 18447-52(1992): T. Kuriki et al., J. Biol. Chem., 271, 17321-9(1996)〕などのプルランからパノースを生成するアミラーゼも挙げられる。また、これら反応に使用する酵素は精製純化されたものである必要はなく、酵素を生産する菌体、もしくは菌体を超音波等で処理をした菌体破砕物を粗酵素として使用することができる。
【0032】
糖転移反応により得られる繊維素澱粉加水分解物複合体には、澱粉及び/又は澱粉加水分解物に由来するグルコース単位1以上からなる酵素反応生成物であるマルトオリゴ糖やマルトデキストリンが結合しており、これを更に分解してマルトシル・セルロースを製造するには、マルトトリオースを分解できない植物起源のβ−アミラーゼが好ましい。例えば、コムギ、大麦、ダイズ、サツマイモ、コメ由来のβ−アミラーゼが利用できる。しかし、酵素の起源は限定されるものではなく、バチラス(Bacillus)属のβ−アミラーゼなど、微生物起源の酵素を使用することもできる。
【0033】
更にまた、繊維素澱粉加水分解物複合体を分解してグルコシル・セルロースを製造するには、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来のグルコアミラーゼが好ましい。しかし、酵素の起源は限定されるものではなく、アスペルギルス(Aspergillus)属、リゾプス(Rhizopus)属、バチラス(Bacillus)属、エンドマイセス(Endomyces)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属などのグルコアミラーゼを使用することができる。
【0034】
糖転移反応による繊維素澱粉加水分解物複合体を製造する条件としては、使用する酵素に適した作用pH及び作用温度範囲であれば、いずれの条件でもよいが、反応液のpHは4〜7、温度は20〜80℃が望ましい。また、必要に応じて有機溶媒などの添加も可能である。使用される酵素量は反応時間と密接な関係にあるので、通常は1〜100時間で反応が終了するような酵素量が望まれる。酵素濃度は、使用する酵素の種類や純度で大きく異なるため限定されないが、通常、0.00001重量%〜1重量%である。
【0035】
糖転移反応により得られる繊維素澱粉加水分解物複合体、繊維素澱粉加水分解物複合体とともに、原料由来の夾雑物、製造工程で生じた糖、及び/又は後添加した糖などの添加物を含む繊維素澱粉加水分解物複合体組成物、あるいは繊維素澱粉加水分解物複合体のβ−アミラーゼ処理により製造されるマルトシル・セルロースやグルコアミラーゼ処理により製造されるグルコシル・セルロースなどを含む繊維素澱粉加水分解物複合体組成物は、そのまま紙、繊維、衣料、食品などの製造工程に利用できる。また、パルプ製造の漂白工程のような、各種漂白剤による漂白処理や、分別、叩解などの物理的処理などの工程を経ても利用できる。
【0036】
本発明の繊維素澱粉加水分解物複合体は、例えば、前述した二次元薄層クロマトグラフで分析することにより確認することができる。また、セルロース骨格の存在は、セルラーゼ処理によりセロオリゴ糖やグルコースを遊離させることにより確認することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の詳細について実施例を挙げて説明するが、本発明は下記実施例により、その技術的範囲が限定されるものではない。
【0038】
実施例1
微結晶セルロース(Avicel“R”、Merck製)4gを室温(25℃)で85%リン酸水溶液に溶解し、24時間保持してから5Lの氷水中に投入してリン酸膨潤セルロースを沈殿させた。上清を吸引除去し、得られたリン酸膨潤セルロースに水を加えて全量を6Lとした。1時間放置後、上清を吸引除去した。この操作を4回繰り返して、上清のpHが5以上となったところで、リン酸膨潤セルロースの沈殿を遠心分離(3500rpm,20分間)で回収した。得られた沈殿を水に分散させてから、超音波破砕機でリン酸膨潤セルロースの均一な分散液を調製した。リン酸膨潤セルロース分散液(400mL)の全糖濃度をフェノール硫酸法で測定し、還元糖濃度をソモジー・ネルソン法で測定した。全糖2.5mg/mL、還元糖0.25mg/mLであり、重合度は10であった。
【0039】
リン酸膨潤セルロース分散液200μLをエッペンチューブに採り、遠心分離(16000rpm,10分間)して上清を捨てて、20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)を含む5%マルトテトラオース(G4)100μLを加え、更にTVAII(特開平7−25891号公報に記載した方法で生産したものを使用した)0.026unitを加えて、37℃で24時間反応を行った。
【0040】
前記の反応液を薄層クロマトグラフィー(TLC、5×5cm、シリカゲル60F254プレート(Merck))で二次元展開して、生成物を確認した。展開溶媒として1−ブタノール:エタノール:水=5:5:3(v/v)を用いて、一度に3回展開した。図1に示すように、一次展開でG4以下のオリゴ糖とグルコースが展開され、セルロース結合複合体は原点に止まった。次いで、原点にグルコアミラーゼ(Rhizopus niveus由来、100unit/mL)を2〜3μL噴霧して、TLCをサランラップに包んで37℃の恒温槽内に10分間放置した。同じ操作を4回繰り返して酵素反応を進めた。更に、同じ展開溶媒でTLCを二次展開すると、グルコースの位置にスポットが現れ、原点のセルロース結合複合体からグルコアミラーゼ処理によりグルコースの遊離したことが示された。これにより、セルロースに澱粉加水分解物であるマルトオリゴ糖の結合した繊維素澱粉加水分解物複合体の生成したことが証明された。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1における反応生成物をTLCで分析した図である。反応生成物を原点にスポットして、縦方向に一次展開し、横方向に二次展開したものを示す。
【符号の説明】
【0042】
G1 グルコース
G2 マルトース
G3 マルトトリオース
G4 マルトテトラオース
【出願人】 【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子製紙株式会社
【出願日】 平成18年11月30日(2006.11.30)
【代理人】 【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔

【識別番号】100096183
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 貞次

【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節

【識別番号】100101904
【弁理士】
【氏名又は名称】島村 直己


【公開番号】 特開2008−138030(P2008−138030A)
【公開日】 平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願番号】 特願2006−323692(P2006−323692)