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【発明の名称】 架橋多糖類組成物
【発明者】 【氏名】ボンウィラー,シモーヌ,シャーロット

【氏名】ハーバー,ジェフリー,ケネス

【要約】 【課題】基本条件下で架橋多糖類ゲルを製造するための方法の提供。

【解決手段】(a)アルカリ性媒体に混合された多糖類(ただし、カードランを除く)を二官能性または多官能性エポキシドと接触させ、エポキシ架橋された多糖類を提供する工程であって、該エポキシドがエーテル結合により該多糖類に連結される工程と、(b)前記エポキシ架橋多糖類を前記アルカリ性媒体からエポキシドを除去することなく乾燥させ、架橋多糖類マトリクスを形成する工程と、(c)前記架橋多糖類マトリクスを酸性媒体で中和して架橋多糖類ゲルを形成する工程と、を含む方法。得られるゲルは、分解特性が改善され、種々の医学および化粧品用途に有用なものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋多糖類ゲルを生成するための方法であって、
(a)アルカリ性媒体に混合された多糖類(ただし、カードランを除く)を二官能性または多官能性エポキシドと接触させ、エポキシ架橋された多糖類を提供する工程であって、該エポキシドがエーテル結合により該多糖類に連結される工程と、
(b)前記エポキシ架橋多糖類を前記アルカリ性媒体からエポキシドを除去することなく乾燥させ、架橋多糖類マトリクスを形成する工程と、
(c)前記架橋多糖類マトリクスを酸性媒体で中和して架橋多糖類ゲルを形成する工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記架橋多糖類マトリクス形成工程(b)後、前記中和工程(c)に先立って、前記架橋多糖類マトリクスを水混和性溶媒で洗浄する工程を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多糖類がヒアルロン酸、ペクチン、キサンタンまたはアルギン酸である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記多糖類が、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデキストラン、ヒアルロン酸またはカルボキシメチルスターチの陰イオンである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記多糖類がヒアルロン酸である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記エポキシドが、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,2−エタンジオールジグリシジルエーテルまたはエポキシ基で置換されたペンタエリトリトールである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記エポキシドが、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記アルカリ性媒体のpHが9〜12の範囲である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記アルカリ性媒体が、1〜5wt/volパーセントの多糖類および0.05〜0.5wt/volパ−セントのエポキシドを含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記エポキシドを、少なくとも45℃の温度で前記多糖類に接触させる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記多糖類マトリクスを、真空下で、少なくとも35℃の温度で乾燥させる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
工程(a)及び(b)が、アルカリ性条件下で行われる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記洗浄工程が、前記架橋多糖類マトリクスをアセトンで洗浄する工程を更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
前記中和工程(c)が、前記架橋多糖類ゲルを凍結乾燥する工程および該ゲルを再構成する工程を更に含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記凍結乾燥した架橋多糖類ゲルが、リン酸塩緩衝生理食塩水中で再構成される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記多糖類を生物活性物質と組み合わせる工程を更に含む、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、架橋多糖類組成物、該組成物を調製するための方法、および化粧品、医学および医薬品用途に該組成物を用いることに関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
ヒアルロン酸(HA)は、グリコサミノグリカンとして知られるポリマーの分類のメンバーである。HAは長鎖線状多糖類であり、通常、分子式(C1420NNa11n(式中、nはHAの供給源およびHAを単離する方法により変動する可能性がある)を有するナトリウム塩として存在する。分子量が14×106までのHAが報告されている。
【0003】
HAおよびその塩は、ヒト臍帯、オンドリのとさかおよび殆ど全ての脊椎動物の臓器の接続マトリクスを含む多くの供給源から単離することができる。また、HAは、連鎖球菌のような細菌の莢膜成分でもあり、従って、米国特許第5,411,874号明細書(Fermentech Ltd)に報告されていうような発酵法により得ることができる。
【0004】
HAは、非免疫原性であり、従って医学分野に大きな可能性がある。粘弾性特性があるため、高分子量(100万を超える)のHAは、創傷治療、眼科手術、整形外科手術および薬物送達を含む種々の臨床分野で特に有用であることが見出されている。また、HAは、化粧品への用途を含む種々の非医学分野でも有用である可能性がある。
【0005】
しかし、HAをヒトに投与することの欠点の1つは、ヒアルロニダーゼのような酵素および人体内に見られるフリーラジカルにより、HAが分解されることである。更に、HAは、室温で水溶性であり、このことによっても特定の用途にはあまり適さない可能性がある。
【0006】
HAのより安定な形態を調製するための種々の試みが、特にHA分子を架橋する方法によってなされてきた。例えば、ヒドロキシル基はエーテル結合を介して架橋され、カルボキシル基はエステル結合を介して架橋される。HAは、pHレベル9未満ではカルボキシル基を介してエステル結合が形成され、9を超えるpHレベルではヒドロキシル基を介してエーテル結合が形成されることにより架橋される。本発明者らは、エーテル結合の方が生理的分解への抵抗性が高いため有用である可能性があることを見出した。
【0007】
多数の文献に、HAゲルを架橋する種々の方法が報告されている。例えば、米国特許第4,582,865号明細書(Biomatorix Inc)には、架橋剤としてジビニルスルホンを用いてHAを架橋することにより(それ自身によるか親水性ポリマーと混合することによるかの何れかによる)形成された架橋したHAのゲルが報告されている。
【0008】
米国特許第5,827,937号明細書(Agerup)は、多糖類の水溶液を形成し、多官能性架橋剤の存在下で架橋を開始し、ゲル化が起こる前に架橋反応が終了しないように立体的に妨げ(例えば溶液を希釈することによる)、次に、立体的な妨げのない状態にして(例えば溶液を蒸発させることによる)架橋を続け、粘弾性ゲルが形成されるようにして調製した多糖類ゲル組成物を報告している。この方法での架橋は、アルカリ性または酸性条件下で行うことができる。
【0009】
国際公開第00/46253号パンフレット(Fermentech Ltd)には、2つの異なる種類の架橋結合によりHAを他のポリマーと架橋することが報告されている。異なる種類の結合の形成は、異なる官能基を介して架橋することにより達成される。例えば、結合の種類の1つは、ヒドロキシル基を介した架橋により形成することができ、別の官能基結合は、カルボキシル基を介した架橋により形成することができる。
【0010】
国際公開第87/07898号パンフレットには、多糖類を多官能性エポキシドと反応させ、過剰なエポキシドを除去し、乾燥させることによって多糖類を架橋し、フィルム、粉末材料または同様の乾燥生成物にすることが報告されている。
【0011】
米国特許第4,963,666号明細書(Pharmacia)には、アルカリ性条件下で、多糖類を低濃度の架橋剤で一置換してエーテル結合を形成する方法が報告されている。この混合物は、洗浄してpH5.5にすることによりいくつかのエステル結合を誘発させられ、次に、実施例の1つでは、ゆっくりと蒸発させることにより濃縮し、エステル結合での架橋を完了させる。別の例では、アンモニアを付加することによりpHを増大させ、次に、ゆっくりと蒸発させて主としてエーテル結合およびある程度のエステル結合での架橋を完了させる。
【0012】
架橋HAの特性を改善するための試みが行われているが、患者に投与したときの分解特性を改善した架橋HAゲルを提供することが有用であろう。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の開示
実施形態の1つでは、本発明は、架橋多糖類ゲルを生成する方法を提供する。まず、アルカリ性媒体と混合された多糖類を二官能性または多官能性エポキシドと接触させて本質的にエポキシ架橋した多糖類を形成するが、ここで、エポキシドは実質的にエーテル結合により多糖類に連結される。次に、アルカリ性媒体からエポキシドを除去することなく、エポキシ架橋多糖類を乾燥する。得られる乾燥架橋多糖類マトリクスは、次に、適切な水混和性溶媒で洗浄され、酸性媒体で処理されることによって、架橋多糖類ゲルを形成することができる。
【0014】
本発明の実施形態には種々の多糖類の出発物質を用いることができる。適切な多糖類には、HA、ペクチン、キサンタンまたはアルギン酸のほか、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデキストランまたはカルボキシメチルスターチの陰イオンが含まれる。HAは、特に適切な出発物質とすることができる。架橋剤として用いるのに適切なエポキシドには、1,4−ブタンジオールエーテル、1,2−エタンジオールジグリシジルエーテルおよび/またはエポキシ基で置換されたペンタエリトリトールが含まれる。しかし、本発明には他のエポキシドも適切である可能性があることは理解されると考える。
【0015】
別の実施形態では、本発明は、本明細書に報告した方法により調製される架橋多糖類ゲルを提供する。このゲルは、患者に投与されるときの分解特性が改善されている可能性がある。
【0016】
更に別の実施形態では、本発明は、実質的にエーテル結合により1,4−ブタンジオールグリシジルエーテルと架橋され、分解に抵抗性を有するように十分に架橋したHAを含む生体適合性ゲルを提供する。
【0017】
本明細書で用いる場合、「分解に抵抗性を有するように十分に架橋した」という語句は、ゲルが生理的条件下で長期間にわたってヒアルロニダーゼ攻撃に対して比較的安定であるか、小さなゲージの針で押し出し成形または噴出成形されることに耐性があることを意味する。実施形態の1つでは、本発明者らは、濃度15mg/mlのゲル0.4mlを、0.5mgヒアルロニダーゼおよび3mlリン酸塩緩衝生理食塩水と組み合わせ、少なくとも37℃の温度で2日間貯蔵しても75パーセント未満のウロン酸しか放出しない生体適合性ゲルを生成することができた。ウロン酸放出は、実施例で報告するUV吸光度法により測定することができる。ある実施形態では、ゲルは、前記条件下で70パーセント以下のウロン酸しか放出することができず、より詳細には65パーセント以下のウロン酸しか放出することができない。
【0018】
第1の態様では、本発明は、架橋多糖類ゲルを生成するための方法であって、
(a)アルカリ性媒体中に混合された多糖類を二官能性または多官能性エポキシドと接触させ、本質的にエポキシ架橋された多糖類を調製する工程であって、エポキシドが実質的にエーテル結合により多糖類に連結される工程と、
(b)アルカリ性媒体から実質的にエポキシドを除去することなくエポキシ架橋多糖類を乾燥させて架橋多糖類マトリクスを形成する工程と、
(c)任意選択的に架橋多糖類マトリクスを水混和性溶媒で洗浄する工程と、
(d)架橋多糖類マトリクスを酸性媒体で中和して架橋多糖類ゲルを形成する工程と、を含む方法を提供する。
【0019】
第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様による方法により調製された、ヒアルロニダーゼ分解に実質的に抵抗性の架橋多糖類ゲルを提供する。
【0020】
第3の態様では、本発明は、実質的にエーテル結合により1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルと架橋し、ゲルが実質的に分解に抵抗性であるように十分に架橋したヒアルロン酸を含む生体適合性ゲルを提供する。
【0021】
第4の態様では、本発明は、本発明の第2の態様による架橋多糖類ゲルと、生物活性物質と、薬学的に許容可能な担体と、を含む医薬組成物を提供する。
【0022】
第5の態様では、本発明は、本発明の第3の態様による生体適合性ゲルと、生物活性物質と、薬学的に許容可能な担体と、を含む医薬組成物を提供する。
【0023】
第6の態様では、本発明は、それが必要な被験者の障害を治療または予防する方法であって、本発明の第4の態様によるゲルの治療効果のある量を投与することを含む方法を提供する。
【0024】
第7の態様では、本発明は、それが必要な被験者の障害を治療または予防する方法であって、本発明の第5の態様による医薬組成物の治療効果のある量を投与することを含む方法を提供する。
【0025】
第8の態様では、本発明は、それが必要な被験者の障害を治療薬または予防薬を製造する際の本発明の第3の態様によるゲルの使用を提供する。
【0026】
第9の態様では、本発明は、それが必要な被験者の障害を治療薬または予防薬を製造する際の本発明の第4の態様による医薬組成物の使用を提供する。
【0027】
この明細書全体を通して、文脈から他の意味に解釈することが必要でなければ、「含む(comprise)」という用語または「含む(comprises)」または「含んでいる(comprising)」などの変形は、述べられた要素、整数若しくは工程、または要素、整数若しくは工程の群を含むことを示唆するが、他の何れの要素、整数若しくは工程、または要素、整数若しくは工程の群を除外することを意味しないことは理解されるであろう。
【0028】
本明細書に含まれている文献、決議書、材料、装置、論文等に論じられていることは、本発明の前後関係を示すためのみのものである。これらの事項の何れかまたは全ては、先行技術の根拠の一部を形成するか、本出願の各請求項の優先日の前にオーストラリアに存在していたような本発明に関連する分野の一般的な常識であったことの承認と受け取られるものではない。
【0029】
本発明を更に明確に理解することができるようにするために、以下の図面および例を参照して好ましい実施形態を記載することにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
発明を実施するための形態
実施形態の1つでは、本発明は、多糖類架橋ゲルを作るための方法を提供する。この方法は、一般に、
(a)多糖類出発物質をアルカリ性媒体中で二官能性または多官能性エポキシドと接触させることによりエポキシ架橋多糖類を形成し、本質的に架橋された多糖類を形成する工程であって、エポキシドが実質的にエーテル結合により多糖類に連結される工程と、
(b)アルカリ性媒体から実質的にエポキシドを除去することなくエポキシ架橋多糖類を乾燥させる工程と、
(c)任意選択的に乾燥したエポキシ架橋多糖類を水混和性溶媒で洗い、架橋した多糖類マトリクスを形成する工程と、
(d)エポキシ架橋多糖類を酸性媒体で中和し、架橋多糖類ゲルを形成する工程と、を含む。
【0031】
エポキシド架橋多糖類ゲルを上記のように形成すると、従来の架橋多糖類ゲルに比較してゲルの分解への抵抗性が改善されると判断されるので有利である。
【0032】
多糖類出発物質は、HA、ペクチン、キサンタン、またはアルギン酸を含む広範囲の適切な天然カルボン酸塩含有多糖類のほか、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデキストランまたはカルボキシメチルスターチのような中性多糖類の陰イオンから選択することができる。
【0033】
実施形態の1つでは、HAは、多糖類の出発物質として用いられる。HAは、多数の供給源、例えばオンドリのとさかから抽出することができる。ある実施形態では、広範囲の分子量の有機材料を抽出することにより直接得た全ての酸のヒアルロン酸含有分子画分を用いることが望ましい可能性がある。これらの画分は、加水分解、酸化、酵素化学剤、または機械的手順または照射手順のような物理的手順を含む種々の従来の手順で得ることができる。得られる分子画分の分離および精製は、分子ろ過により達成することができる。適切な精製HA分画の例は、Balazsによりパンフレット「Healon」−−眼科手術における使用法の指針−−D.Miller及びR.Stegmann編(John Wiley & Sons)ニューヨーク81983の5頁に報告されている「非炎症性−NIF−NaHAヒアルロン酸ナトリウム」である。
【0034】
他の適切なHA出発物質には、「ヒアラスチン(Hyalastine)」ブランドおよび「ヒアレクチン(Hyalectin)」ブランドのHAが含まれる。ヒアラスチン画分の平均分子量は約50,000〜100,000であり、ヒアレクチン画分の平均分子量は約500,000〜730,000である。また、これら2つの画分を組み合わせた画分も単離され、平均分子量が約250,000と約350,000との間であるという特徴が示される。この組み合わせた画分は、特定の出発物質で利用可能な総ヒアルロン酸の収量80%で得ることができ、ヒアレクチン画分は、出発HAの収量30%、ヒアラスチン画分は収量50%で得ることができる。これらの分画の調製は、欧州特許出願公開第0138572A3号明細書に報告されている。他の適切なHA出発物質には、以下の例に報告される繊維状および粉末状HA材料が含まれる。
【0035】
多糖類は、低脂肪族エポキシドまたはその対応するエピハロヒドリンのような二官能性または多官能性エポキシドを含む種々の適切な多官能性架橋エポキシドにより架橋することができる。適切なエポキシドの特定の例には、1.4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)、1,2−エタンジオールジグリシジルエーテル、エポキシ基で置換されたペンタエリトリトール(例えばSHELL162)およびそれらのエピハロヒドンが含まれる。実施形態の1つでは、前記多官能性架橋剤には、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルが含まれる。
【0036】
多糖類出発物質は、アルカリ性媒体中で架橋剤と組み合わせることができる。実施形態の1つでは、約1〜約5w/vパーセント、更に詳細には約4w/vパーセントの多糖類をアルカリ性媒体に加えることができる。アルカリ性媒体は、水酸化ナトリウムまたは他の適切な塩基材料で形成することができる。水酸化ナトリウムまたは他の塩基材料の濃度は、総混合物の約0.1〜約1w/vパーセント、更に詳細には約1%とすることができる。架橋剤は、架橋剤濃度を約0.05〜約0.5%、更に詳細には約0.1%にするようにアルカリ性混合物に加えることができる。アルカリ性媒体のpHは、約9〜12、更に詳細には約9とすることができる。
【0037】
得られるアルカリ性混合物は、多糖類とエポキシドとの架橋を促進する条件下でインキュベートすることができる。例えば、混合物は、約45℃の水浴で約2時間インキュベートすることができる。これらの条件下で架橋したHAは、実質的にエーテル結合を含むことになり、これは、酸性条件下で形成されるエステル結合より生理的分解に対する抵抗性が一般に大きい。
【0038】
インキュベートした後、架橋した混合物を従来の方法により乾燥し、多糖類マトリクスを形成することができる。例えば、架橋した混合物は、高度真空下で、約35℃〜45℃で約1.5時間混合物を激しく撹拌して水を除去することにより乾燥することができる。乾燥後、多糖類マトリクスは、水混和性溶媒、例えばイソプロピルアルコール水補助溶媒で数時間洗うことができる。最後に、洗ったマトリクスを酸性媒体で中和して架橋多糖類ゲルを形成することができる。例えば、マトリクスは、1〜2パーセント酢酸の水溶液で処理して架橋多糖類ゲルを形成することができる。任意選択的には、架橋多糖類ゲルを、リン酸塩緩衝生理食塩水混合物で更に処理してゲルの粘性に影響を及ぼすことができる。
【0039】
以下の実施例に更に報告されているように、前記方法により形成された多糖類ゲルは、患者に投与されたときに分解に抵抗性を有するほど十分に架橋している。ゲルの分解特性が優れているため、得られる架橋多糖類ゲルは、種々の用途に用いることができる。実施形態の1つでは、架橋多糖類ゲルは、組織を増強するため、関節炎を治療するため、組織接着を治療するため、および哺乳類細胞をコーティングして免疫原性を減少させるために用いることができる。別の実施形態では、架橋多糖類ゲルは、化粧品用途、矯正移植片、ホルモン補充療法、ホルモン療法、避妊法、間接潤滑化、および眼球手術に用いることができる。
【0040】
架橋多糖類ゲルは、小さなゲージの針を通した押し出し成形の後でも実質的に分解に抵抗性を有したままであるので有利である。ゲルがせん断応力に抵抗性であれば、針を通して押し出されると、ゲルが破壊されて小さな粒子になる可能性がある。詳細には、本発明の実施形態の架橋多糖類ゲルは、27、30または32ゲージの針のような小さなゲージの針を通して押し出された後でも分解に抵抗性を有する。従って、これらのゲルは、溶液またはゲルの構造的一体性を実質的に失うことなく、組織または皮膚内に注入されるのに特に適切である。
【0041】
別の実施形態では、架橋多糖類ゲルは、患者に投与するために生物活性物質と組み合わせることができる。本発明とともに用いるのに適切な生物活性物質には、ホルモン、サイトカイン、ワクチン、細胞、組織増強物質、またはそれらの混合物が含まれる。適切な組織増強物質の例には、コラーゲン、デンプン、デキストラノマー、ポリラクチド、ポリ−β−ヒドロキシブチレート、および/またはそれらのコポリマーが含まれる。
【0042】
生物活性物質の付加的な例は、米国特許第5,676,964号明細書に報告されており、これは、本明細書において、適切な生物活性物質、これらの物質を含む架橋多糖類ゲルを調製する方法および生物学的に活性物質を投与する方法を説明するために参照により組み入れられる。
【0043】
適切な生物活性物質には、種々のアルカロイド、ペプチド、フェノチアジン、ベンゾジアゼピン、チオキサンテン、ホルモン、ビタミン、抗痙攣薬、抗精神病薬、制吐薬、麻酔薬、睡眠薬、食欲減退薬、精神安定薬、筋弛緩薬、冠拡張薬、抗腫瘍薬、抗生物質、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗マラリア薬、炭酸脱水酵素阻害薬、非ステロイド系抗炎症薬、血管収縮薬、コリン作動薬、コリン拮抗薬、アドレナリン作動薬、アドレナリン拮抗薬、麻薬拮抗薬を含むことができる。
【0044】
生物活性物質は、多糖類出発物質と物理的に混合することにより本発明の適切な架橋多糖類ゲルと組み合わせることができる。生物活性物質は、固体の形、例えば凍結乾燥粉末または溶液で組み合わせることができる。
【0045】
架橋多糖類ゲルを生物活性物質(vehicle)に対する輸送手段として用いることは、架橋多糖類ゲルと角膜上皮との間に特定の親和性が存在する眼科学で特に有用である。生物活性物質が弾性−粘性特性のある濃縮溶液または固体の形態で角膜上皮上に投与されると、透明で付着性であり、生物活性物質のバイオアベイラビリティが長期間に及ぶ均質で安定なフィルムが形成される。また、本発明の実施形態の架橋多糖類ゲル輸送手段は、粘膜の疾病(例えばmountの疾病)の治療および皮膚科治療のために適切とすることができる。
【0046】
ある実施形態では、上記の生物活性ゲルは、口腔、直腸、非経口、皮下、局所または皮内に用いるための医薬品製剤に形成することができる。適切な医薬品製剤は、固体または半固体形、例えば丸薬、錠剤、ゼラチンカプセル、カプセル、座剤または軟ゼラチンカプセルとすることができる。非経口および皮下に用いるためには、筋肉内または皮内用または輸液または静脈注射に意図される医薬品製剤を用いることができ、従って、1つまたはそれ以上の医薬品に許容可能な賦形剤または希釈剤と混合される活性化合物の溶液または活性化合物の凍結乾燥粉末として存在することができる。また、局所製剤の形の医薬品製剤は、例えば鼻腔用スプレー、局所用クリームおよび軟膏または皮内投与のために特別に調製した絆創膏に適切とすることができる。
【0047】
製剤は、ヒトまたは動物に投与することができる。実施形態の1つでは、架橋多糖類ゲルは、溶液、スプレー、軟膏およびクリームに対しては約0.01%〜10%の間の生物活性物質、固体形製剤に対しては約15%〜50%の間の生物活性物質を含むことができる。
【0048】
本発明においては、「アルカリ性媒体」という用語には、水に溶解した水酸化物塩、好ましくは水酸化ナトリウムが含まれるが、これに限定されない。
【0049】
本発明においては、「酸性媒体」という用語には、水に溶解した有機または無機酸、好ましくは酢酸が含まれるが、これに限定されない。
【実施例】
【0050】
架橋ゲルの合成
繊維状ヒアルロン酸[Javenech HTL製(分子量1.6〜1.33MD)]および粉末状ヒアルロン酸[Fluka製、Streptococcus equi(ストレプトコッカス・エクイ)由来(分子量1.69MD)](0.5g)はそれぞれ別に、1時間にわたって激しく撹拌しながら1%NaOH(12.5ml)に溶解した。1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)(12.5μl)を5分間激しく撹拌しながら加え、その後、得られた溶液を水浴に入れて45℃で2時間撹拌せずにインキュベートした。インキュベート時間が終了すると、混合物を浴から取り出し、1分間激しく撹拌し、その後35〜40℃の高度真空下で1.5時間水を除去した。得られた透明の多糖類マトリクスをイソプロピルアルコールおよび水の混合物(IPA/H2O)(6:4、25ml)で22時間洗い、その後IPA/H2O混合物を22時間毎にあと2回入れ替えた(即ち総洗浄時間66時間)。IPA/H2O混合物を除去し、その後撹拌しながら1.3パーセント酢酸水溶液(25ml)を加えた。35分後、両試料は、完全に膨潤したゲルを生成するが、「繊維状」ゲル(「試料A」)は、「粉末状」ゲル(「試料B」)より顕著に粘性が大きい。
【0051】
次に、このゲルは、IPA(50ml)、IPA/H2O(6:4、25ml)、IPA/H2O(8:2、100ml)、その後IPA(50ml)による一連の洗浄に供された。次に、得られる不透明のゴム様材料を凍結乾燥すると不透明の硬質シートになった。次に、このシートを、以下の実施例に用いるために、濃度15mg/mlおよび20mg/mlで新しく調製したリン酸塩緩衝整理食塩水で24時間にわたって再構成した。試料Aは圧力下で500μmメッシュに押し通し、試料Bは圧力下で300μmメッシュに押し通した。試料は3ヶ月の期間用いたが、保存中に分解することはなかった。
【0052】
カルバゾールアッセイ
ウロン酸とカルバゾールとの反応は、異なる化合物中のウロン酸の分量を推定するのに満足できる方法である。標準滴定曲線を確定するために、BitterとMuir[T.BitterとH.M.Muir、Anal.Biochem.第4巻330〜334頁(1962)]に報告された手順を続けて行った。
【0053】
試薬
A:0.025M四ホウ酸ナトリウム10H2Oの98%硫酸溶液
B:0.125%カルバゾールの無水エタノール溶液(4℃の暗所で12週間安定)
C:0、1、5、10、15、20、25、30、40、50、75および100μg/mlの11グルクロノラクトン溶液の脱イオン水溶液を安息香酸で飽和したもの(4℃で6ヶ月安定)
【0054】
試薬A(5ml)をチューブに入れ、−70℃まで冷却した。次に、溶液C(1ml)を加えた。チューブを密封し、室温まで暖めた。次にチューブを振とうし、激しく沸騰した水浴内で10分間加熱した。次に、チューブを室温まで冷却した。次に、試薬Bの一定分量(0.2ml)を加えた。再び、チューブを振とうして15分間加熱した。室温に戻した後、530nmでUV吸収を測定した。図1は、グルクロノラクトンの濃度の関数としてのUV吸収値の滴定曲線を示す。
【0055】
試料AおよびBのヒアルロニダーゼに対する抵抗性
試料AおよびBからヒアルロニダーゼにより放出されるウロン酸(UA)の濃度を求めるために、X.B.Zhao、J.E.Fraser、C.Alexander、C.Lockett、B.J.WhiteのJ.Mat.Science、Materials in Medicine第13巻11〜16頁(2002)に報告される手順に続き、以下に報告するような変更形態を行った。
【0056】
種々の濃度での各ゲル(20mg/mlでの試料A、15mg/mlでの試料A、20mg/mlでの試料Bおよび15mg/mlでの試料B)1mlを1mgのヒアルロニダーゼ(1010U含有)を含む6mlのリン酸塩緩衝生理食塩水(pH=7.4)に懸濁し、37℃でインキュベートした。5日後、各試料0.5mlを2mlイソプロパノールで希釈した。酵素で破壊されていない残りのゲルは、30分にわたって遠心することにより沈殿させて除去した。次に、ウロン酸を含む上清液体を激しく沸騰した水浴に30分間入れて加熱し、酵素を変性させて、再び30分間遠心して酵素を除去した。各チューブの量を3.5mlに調節した。ヒアルロニダーゼにより放出されたUAの濃度は、530nmでのUV吸収を測定することにより、図1に示す滴定曲線から求めた。図2は、異なるUV値の比較を示す。
【0057】
低濃度のバイオポリマーを含むゲルには(例えば15mg/mlの試料Aを20mg/mlの試料Aに比較すると)より低濃度のUAが観察された。また、試料Aは、濃度15および20mg/mlの両方で試料Bより有意に分解が少なかった。
【0058】
5日間インキュベートした後のUAの濃度(μg/mlゲル溶液)を滴定曲線(図1)から求めた。分析のために0.5ml試料を容量3.5mlに希釈したため希釈係数を7(即ち3.5/0.5)と考慮した。
【0059】
[UA]:ゲル上清中のUAの濃度
[UAdil]:滴定曲線から推定したUAの濃度
y=0.0172[UAdil]+0.0215
[UAdil]=(y−0.0215)/0.0172(式中、y=530nmでの最大吸収値)
[UA]=[UAdil]×7=[(y−0.0215)/0.0172]×7
試料A、20mg:y=0.439、[UA]=170μg/ml
試料A、15mg:y=0.3515、[UA]=134μg/ml
試料B、20mg:y=0.559、[UA]=219μg/ml
試料B、15mg:y=0.539、[UA]=211μg/ml
【0060】
試料Aと市販のゲルであるレスティラン(Restylane)(商標)およびパーレン(Perlane)(商標)との比較
試料AとRestylane(商標)ゲル[Q−Med AB製、スウェーデン ウプサラ]とPerlane(商標)ゲル[Q−Med AB製、スウェーデン ウプサラ]との比較を以下に記載するように行った。
【0061】
各ゲルの試料(0.4ml)を、0.5mgヒアルロニダーゼ(505U)を含む3mlのリン酸塩緩衝生理食塩水(pH=7.4)に懸濁し、37℃でインキュベートした。試験したゲルは、濃度20mg/mlおよび15mg/mlのRestylane(商標)ゲル、濃度20mg/mlおよび15mg/mlのPerlane(商標)ゲルおよび濃度20mg/mlおよび15mg/mlの試料Aであった。1日後、0.25mlの各ゲルを2mlのイソプロパノールで希釈した。酵素で破壊されなかった残りのゲルは、30分にわたって遠心し、沈殿させて除去した。次に、ゲルの各チューブを激しく沸騰した水浴に入れて30分間加熱して酵素を変性させ、再び30分間遠心して酵素を除去した。各チューブの容量を2mlに調節した。ヒアルロニダーゼにより放出されたUAの濃度は、530nmでのUV吸収を測定することにより滴定曲線から求めた。各ゲルの1日目のUV吸収曲線を図3に示す。
【0062】
15mg/mlおよび20mg/mlの両方の系列に対して、試料Aは、Perlane(商標)およびRestylane(商標)ゲルに比較して分解性が優れていた(即ち放出されたUAが低濃度であった)。実際、濃度20mg/mlでの試料Aは、濃度15mg/mlのPerlane(商標)ゲルより分解しなかった。
【0063】
ゲル劣化に関する針の大きさの影響
ゲルの劣化に関する針の大きさの影響を求めるために、32G針を通して噴出成形または押し出し成形したRestylane(商標)ゲル、30G針を通して噴出成形または押し出し成形したPerlane(商標)ゲル、および32G針および30G針を通して押し出し成形した試料A(500μm)に上に記載した手順を繰り返した。ゲル濃度は、15mg/mlに固定した。
【0064】
最初に、この手順条件(0.15g/lのヒアルロニダーゼ)でゲルの分解の最大レベルがいつ得られるのかを確定するために試行実験を行った。
【0065】
2日後に得られる値は、1日後に得られる値より僅かに高かった。そこで、第3の組の測定値を12日後に取ったが、UAの放出は、ゲルが殆ど分解された最初の48時間に比べて極めて低かった(図4参照)。このことから、異なるゲルのUA放出(即ち分解)を比較するためには、2日間のインキュベート期間で十分であると判断された。図5は、各実験に対する2日後の530nmでのUV吸収を示す。
【0066】
UV最大値およびUA濃度を表1に列挙する。
【0067】
【表1】


【0068】
表1は、針の大きさが小さくなるにつれて分解のレベルが一般に大きくなることを示している。図6に示すように、試料Aが32G針を通して押し出されても、UA濃度は押し出し成形されていないPerlane(商標)ゲルおよびRestylane(商標)ゲルの両方に見られる値より低いままであり、従って、試料Aの分解特性が向上したことが示された。
【0069】
ゲルの分解の程度の評価
まず、各ゲルの最大分解レベルを確定した。ヒアルロニダーゼ存在下で1時間ゲル溶液を潅流することによりUA抽出を行った。遠心することなく、0.25ml試料に酸性処理(カルバゾールアッセイ手順を参照)を行った。分析する前に、溶液量を2mlに調節した。
【0070】
UVスペクトルおよび滴定曲線から得たUA濃度を表2に示す。
【0071】
【表2】


【0072】
計算した濃度が類似していることにより、記載した条件下で最大分解レベルに近づいたことが示される。
【0073】
次に、表1および表2の結果により、各ゲルに対する尺度とすることができると考えられる最大UA放出に比較して、以下に列記した実験条件で放出されるUAのパーセントを計算する基準が得られた。
%UA=[UA]/[UA]max×100
ゲル:15mg/mlを0.4ml
ヒアルロニダーゼ:0.5mg
溶媒:PBS 3ml
【0074】
【表3】


【0075】
ヒアルロニダーゼ抵抗性の研究により、本発明の実施形態により形成された試料Aは、2つの市販の架橋多糖類ゲルより分解性が小さいことが示された。このアッセイ法は、柔らかい流動ゲルではなく、緻密で硬いゲルを試験するのに一般に用いられる方法に基づくものであり、高濃度の酵素を用いるものであったことに留意されたい。従って、全てのゲルは、2日後には有意な分解性を示した。それにもかかわらず、結果は、本発明の実施形態により形成された架橋多糖類ゲルは、市販のゲルより分解特性が改善されたことを示している。
【0076】
広く記載される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、特定の実施形態に示されるような本発明に多数の変形形態および/または変更形態を作ることができることは、当業者には理解されると考える。したがって、本実施形態は、あらゆる点において例示的なものであって限定的なものでないとみなされるものである。
【図面の簡単な説明】
【0077】
図面の簡単な説明
【図1】実施例に記載されたヒアルロン酸基層上へのヒアルロニダーゼの滴定曲線を示す図である。
【図2】実施例に記載された試料Aと試料Bとの間のウロン酸(UA)放出の比較を示す図である。
【図3】実施例に記載された1日後のゲル中のUAのUV吸収を示す図である。
【図4】実施例に記載された1、2および12日目の530nmにおけるUAのUV吸収を示す図である。
【図5】実施例に記載された2日インキュベートした後の530nmにおけるUAのUV吸収を示す図である。
【図6】実施例に記載された種々のゲルの比較を示す図である。
【出願人】 【識別番号】505385398
【氏名又は名称】ウルトラシューティカルズ アールアンドディー ピーティーワイ リミテッド
【出願日】 平成19年12月28日(2007.12.28)
【代理人】 【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸

【識別番号】100093861
【弁理士】
【氏名又は名称】大賀 眞司

【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史


【公開番号】 特開2008−133474(P2008−133474A)
【公開日】 平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願番号】 特願2007−339384(P2007−339384)