トップ :: C 化学 冶金 :: C08 有機高分子化合物;その製造または化学的加工;それに基づく組成物

【発明の名称】 キトサン微粒子の製造方法
【発明者】 【氏名】伊原 博隆

【氏名】高藤 誠

【氏名】佐藤 賢

【氏名】石橋 崇正

【氏名】奥薗 一彦

【氏名】山本 哲也

【要約】 【課題】産業的に有用なサブミクロンサイズのキトサン微粒子の安価で煩雑工程を必要としないキトサン微粒子の製造方法を提供する。

【解決手段】キトサンを酸水溶液に溶かしたキトサン水溶液を、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛よりなる群より選んだ少なくとも一種を含む水溶液に添加混合するか、硫酸塩少なくとも一種と塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化銀よりなる群より選んだ少なくとも一種とを含む水溶液に添加混合することを特徴とするキトサン微粒子の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサンを酸水溶液に溶かしたキトサン水溶液を、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛よりなる群より選んだ少なくとも一種を含む水溶液に添加混合することを特徴とするキトサン微粒子の製造方法。
【請求項2】
キトサンを酸水溶液に溶かしたキトサン水溶液を、硫酸塩の少なくとも一種と、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化銀よりなる群より選んだ少なくとも一種とを含む水溶液に添加混合することを特徴とするキトサン微粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の硫酸塩が硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛よりなる群であることを特徴とするキトサン微粒子の製造方法。
【請求項4】
硫酸塩の使用量が、キトサンのアミノ基に対し0.1〜5.0倍当量の硫酸イオンを含有することを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載のキトサン微粒子の製造方法。
【請求項5】
塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化銀よりなる群の使用量が、キトサンのアミノ基に対し0.1〜16.1倍当量の塩化物イオンを含有することを特徴とする請求項2〜4の何れか一つに記載のキトサン微粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一つに記載のキトサン微粒子の製造方法により得られることを特徴とするキトサン微粒子。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、医療等の各分野への有用性が高い、サブミクロンサイズ、更には、ナノサイズの均一なキトサン微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、キトサンは、キチンのN−脱アセチル化物で2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコースを1構成単位とする塩基性多糖であり、抗菌性、生体適合性、免疫賦活作用、植物生長促進作用、凝集作用、金属捕集作用などの性質を持つものである。キトサンは、これらの性質を利用して、近年種々の分野への応用が試みられている。
例えば、医療分野での創傷被覆剤・治癒促進剤・人工皮膚、化粧品分野での粉体特性改良剤・皮膚保湿剤、農業分野での土壌改良剤・抗ウイルス剤などが挙げられる。
【0003】
このような特性を有するキトサンは、水、アルカリ、アルコールなどの一般有機溶媒には溶けないが、希酸素溶液に常温で溶解することはよく知られている。そして、キトサンにおいても、キチン分子とキトサン分子のN−アセチル基の置換度とその分布、鎖長(分子量)の相違により特異的な分子特性が見られる。
【0004】
また、キトサンの用途拡大や付加価値を高める目的で、微粒子化についての試みも行われている。例えば、1)溶液状キトサンを凝固浴中に滴下し、凝固させることを特徴とする粒状キトサン成形体の製造方法(例えば、特許文献1参照)、2)低分子量キトサンを酸性水溶液に溶解し、該溶解液を塩基性溶液中に落下せしめて多孔質キトサンを凝固析出させることを特徴とする粒状多孔質キトサンの製造方法(例えば、特許文献2参照)、3)キトサンを酸性水溶液中に溶解して得た溶解液を塩基性溶液中で凝固再成し、生成した凝固物を洗浄後粉砕分散せしめ、該分散液を高温雰囲気中に加圧空気と共に吐出乾燥することを特徴とする超微小球状キトサンの製造方法(例えば、特許文献3参照)、4)キトサンの酸性水溶液を疎水性分散媒中に分散させ、攪拌下に水分を蒸発させることを特徴とする粒状多孔質キトサンの製造方法(例えば、特許文献4参照)、5)キトサンの酸性水溶液に乳化剤を含む疎水性溶剤を加え、十分にかきまぜてエマルジョンを形成させ、次いでこのエマルジョンをアルカリ水溶液中にかきまぜながら注入して、キトサンを粉粒状に凝固析出させることを特徴とする微粒状多孔質キトサンの製造方法(例えば、特許文献5参照)が知られている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1〜4は、高価な試薬を使用するばかりでなく、煩雑な操作が必要であり、これらの方法は安価にキトサン微粒子を製造する方法としては適していない。また、上記特許文献5も、煩雑な操作が必要であり、安価にキトサン微粒子を製造するものでなく、しかも、製造される微粒状多孔質キトサン粒子の大きさとして、2〜300μmが製造できるとの記載があるが、実施例1では、13〜127μm(平均径約74μm)、実施例2では、5〜10μm、実施例3では、2.5〜22μm(平均径約12μm)、実施例4では、9〜85μmであり、実際上、平均粒径3μm未満となるキトサンを得ることは難しく、特に、ナノレベルの粒子径を発現するキトサンの製造は困難である点に課題がある。
【0006】
そして、本発明と最も類似の従来技術として、例えば、キトサンの酸の水溶液に、硫酸塩を添加してキトサンを析出させるキトサン微粒子の製造方法(例えば、特許文献6参照)が知られている。
しかしながら、この方法で製造されたキトサン微粒子の大きさは、特許文献5の実施例に示されているとおり、平均粒径が3μm〜15μmとサブミクロンサイズとは言い難いものであった。仮に、この方法で製造した微粒子中の一部にサブミクロンサイズの粒子が存在していたとしても、これを取り出すための分離工程が必要となり、製造コストの問題など、産業的に有用なサブミクロンサイズのキトサン微粒子の安定供給を実用化するためには、多くの課題が存在していているのが現状である。
【特許文献1】特開昭58−57401号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開昭60−215003号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】特開昭61−40337号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献4】特開昭62−62827号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献5】特開平1−301701号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献6】特開平9−143203号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の課題及び現状等に鑑み、これを解消しようとするものであり、産業的に有用なサブミクロンサイズのキトサン微粒子の安価で煩雑工程を必要としない製造方法の開発を目指し、従来技術では未解決であった「粒径3μm以上の粒子、及び、最大長が3μm以上の凝集粒子群(以下、単に、「粗大粒子」という)の発生」を抑制した製造方法による、均一で微細なキトサン微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記従来の課題及び現状を解決するために、鋭意検討した結果、硫酸マグネシウム、硫酸鉄等がそれ以外の硫酸塩には無い特異的な作用を持つことを予想外に発見し、キトサン水溶液をこれらの硫酸マグネシウム水溶液、硫酸鉄水溶液等に添加混合する方法により、目的とする「調製時及び経時的に粗大粒子生成を抑制しつつ、サブミクロンサイズのキトサン微粒子が製造できる」ことを見い出すことにより、本発明を完成するに至ったのである。
更には、キトサン水溶液を硫酸塩水溶液に添加混合しキトサン微粒子を製造する方法において、塩化ナトリウム、塩化カリウム等を併用することにより、上記目的を達成できるだけでなく、サブミクロンサイズよりも微細なナノサイズのキトサン微粒子が製造できることを見い出することにより、本発明を完成するに至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(6)に存する。
(1) キトサンを酸水溶液に溶かしたキトサン水溶液を、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛よりなる群より選んだ少なくとも一種を含む水溶液に添加混合することを特徴とするキトサン微粒子の製造方法。
(2) キトサンを酸水溶液に溶かしたキトサン水溶液を、硫酸塩の少なくとも一種と、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化銀よりなる群より選んだ少なくとも一種とを含む水溶液に添加混合することを特徴とするキトサン微粒子の製造方法。
(3) 上記(2)記載の硫酸塩が硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛よりなる群であることを特徴とするキトサン微粒子の製造方法。
(4) 硫酸塩の使用量が、キトサンのアミノ基に対し0.1〜5.0倍当量の硫酸イオンを含有することを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか一つに記載のキトサン微粒子の製造方法。
(5) 塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化銀よりなる群の使用量が、キトサンのアミノ基に対し0.1〜16.1倍当量の塩化物イオンを含有することを特徴とする上記(2)〜(4)の何れか一つに記載のキトサン微粒子の製造方法。
(6) 上記(1)〜(5)の何れか一つに記載のキトサン微粒子の製造方法により得られることを特徴とするキトサン微粒子。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、粗大粒子の混入がなくサブミクロンサイズのキトサン微粒子の製造ができるため、分離工程等の煩雑な操作が不要となり、産業的に有用なサブミクロンサイズのキトサン微粒子が安価で安定に製造することができるキトサン微粒子の製造方法が提供される。
また、本発明の製造方法は、キトサン水溶液の硫酸塩水溶液への添加速度に依存することなく、サブミクロンサイズの微粒子が製造でき、添加速度を制御する装置等の導入も不要となるので、生産性の向上と生産コストの削減効果も併せ持つものである。
更には、本発明により、効率的に分散性が高く沈降傾向を示さないナノサイズのキトサン微粒子を生成することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明の第1発明は、キトサンを酸水溶液に溶かしたキトサン水溶液を、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛よりなる群より選んだ少なくとも一種を含む水溶液に添加混合することを特徴とするキトサン微粒子の製造方法であり、第2発明は、キトサンを酸水溶液に溶かしたキトサン水溶液を、硫酸塩の少なくとも一種と、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化銀よりなる群より選んだ少なくとも一種とを含む水溶液に添加混合することを特徴とするキトサン微粒子の製造方法である。
以下に、「本発明」というとき、上記第1発明及び第2発明を意味する。
【0012】
本第1発明では、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛の粗大粒子抑制作用を特徴とするものであり、本第2発明では、硫酸塩と塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化銀との併用効果を特徴とするものである。
本第1発明では、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛の特有作用により粗大粒子の発生がなくサブミクロンサイズのキトサン微粒子の製造が可能となるもので、その他の硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等)には見られない作用である。また、得られた微粒子に関しても、分散性・沈降傾向などの性質がその他の硫酸塩を使用した場合と異なるものである。
また、本第2発明では、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化銀との併用により、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛以外の硫酸塩においても粗大粒子の発生がなくサブミクロンサイズのキトサン微粒子が製造可能となるものである。更に、粒子化効率の向上や粒子の微細化作用も見られるものである。
本発明の上記特異的な作用等については更に後述する。
【0013】
本第1発明で用いる硫酸塩は、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛よりなる群より選んだ少なくとも一種に限定されるものであり、好ましくは、取扱いに関する安全性の点、本発明の効果の更なる向上の点から、硫酸マグネシウム、硫酸鉄の使用が望ましい。
第2発明で用いる硫酸塩は、特に限定されず、例えば、硫酸のナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩、カルシウム、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛などの少なくとも1種が挙げられる。
【0014】
本第1発明に使用する硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛の使用量、若しくは第2発明の硫酸塩の使用量は、共に、キトサンのアミノ基に対して、好ましくは、0.1〜5.0倍当量(0.05〜2.5倍モルと同義)の硫酸イオンを含有することが望ましい。
この量が0.1倍当量未満では、キトサンの微粒子化が起こらず、一方、5.0倍当量超過では粗大粒子が発生するためである。特に好ましくは、より微細な微粒子を得られる点で、0.1〜1.5倍当量で使用することが望ましい。
【0015】
本第2発明で用いる塩化物は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化銀よりなる群より選んだ少なくとも一種に限定されるものであり、好ましくは、コスト面、本発明の効果の更なる向上の点から、塩化ナトリウム、塩化カリウムの使用が望ましい。
本第2発明に使用する塩化ナトリウム、塩化カリウム等の使用量は、キトサンのアミノ基に対して0.1〜16.1倍当量(0.1〜16.1倍モルと同義)の塩化物イオンを含有するのが好ましい。また、より微細な微粒子を得られる点で、0.1〜5.4倍当量で使用することが特に好ましい。
この量が0.1倍当量未満では、粒子の微細化効果が得られず粗大粒子の生成抑制割合が低くなり、一方、16.1倍当量超過では、高塩分による用途上の制限が生じるようになる。
【0016】
本発明に使用するキトサンは、特に限定されるものではないが、カニ、エビの甲殻等の種々の天然物由来のキチンを脱アセチル化したものなどが挙げられる。キトサンの分子量については、特に限定されるものではないが、通常、重量平均分子量(以下、単に「平均分子量」という)1万〜50万のものが使用され、粒子化形成に有利な立体構造を有する点から、平均分子量2万以上、そして、高粘性を示さずハンドリングのし易さの点から、平均分子量40万以下のものが好ましく、この両方の性質を併せ持つ点から、平均分子量6万〜20万程度のものが特に好ましい。
また、キトサンの脱アセチル化度についても、特に限定されるものではないが、通常60%以上が使用され、アミノ基に由来する均一な粒子化特性を有している点から脱アセチル化度85%以上が好ましく、親水性を付与する点から、脱アセチル化度90〜100%のものが特に好ましい。
【0017】
本発明において、キトサン溶解に用いる酸溶媒としては、例えば、酢酸、ギ酸、クエン酸、酪酸、乳酸、リンゴ酸、サリチル酸、コハク酸、安息香酸等の水溶性有機酸、または、塩酸、硝酸、リン酸等の無機酸の少なくとも1種が挙げられる。これらの酸の種類及び2種以上の組合せについて、特に限定されるものではないが、好ましくは、食品添加物として認められている安全性の高い、酢酸、乳酸、フマル酸、クエン酸、リンゴ酸等を使用することが好ましい。
また、用いる酸の濃度は、特に限定されないが、通常、0.1〜30重量%、好ましくは、0.5〜10重量%で使用される。また、溶質であるキトサンに対しての酸の添加量(重量)は、キトサンの重量100に対して、通常、20〜300の割合、好ましくは、50〜200で使用される。
【0018】
本発明において、キトサン水溶液を硫酸塩水溶液へ添加混合する時の液温度は、特に限定されるものではないが、通常、40℃以上で実施し、粒径を小さくし且つ揃えるために、好ましくは、60℃以上、特に好ましくは、80℃以上に設定する。なお、上限は120℃程度である。
【0019】
本発明の添加混合時の液pHは、通常pH7以下で実施し、粒径を小さくし且つ揃えるために、好ましくは、pH2〜4、特に好ましくは、pH2〜3に制御することが望ましい。
【0020】
本発明において、添加混合法は、分散性、剪断性を有する一般的な混合装置が用いられ、撹拌方式で混合する場合に於いては、通常、300rpm以上、好ましくは、500rpm以上(〜3600rpm)で実施することにより、均一な単一粒径キトサン微粒子を製造することができる。
【0021】
本発明のキトサン微粒子の製造方法において、キトサン水溶液を、第1発明では、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛よりなる群より選んだ少なくとも一種を含む水溶液に、第2発明では、硫酸塩の少なくとも一種と、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化銀よりなる群より選んだ少なくとも一種とを含む水溶液に、添加混合した後、好適な粒子化条件に設定操作することで、より均一で微細な粒子に仕上げることができる。具体的には、該添加混合液を、通常は室温まで冷却、好ましくは、10℃まで冷却、更に好ましくは、5℃まで冷却することで、より均一で微細な粒子に仕上げることができる。若しくは、自然放冷の条件下でも、適当な方法により連続的な剪断力を加えることでも、より均一で微細な粒子に仕上げることができる。
【0022】
本発明のキトサン微粒子の形態は、特に限定されるものではないが、分散液、濃縮したペースト状、乾燥物等の形態が挙げられる。
分散液としての形態で用いる場合、本発明の微粒子は本来分散性に優れたものであるが、更に分散性を高める目的で、乳化剤等の分散補助剤及び増粘剤等の分散安定剤を添加しても良い。
また、乾燥物としての形態で用いる場合は、加温、減圧方式など一般的な乾燥操作を用いればよいが、粒子形状を維持する点で凍結乾燥法が好ましい。更に、乾燥操作を行う際に、粒子形状の維持及び再懸濁時の分散性を向上させる目的で、ポリエチレングリコールや糖類などの水酸基を有する物質を添加しても良い。そして、乾燥操作により幾分粒子同士が付着したものは、物理的な操作により単粒子化しても良い。
【0023】
本発明のキトサン微粒子は、その用途や分野に於ける必要性に応じて、適当な脱塩処理による塩濃度調整を実施することができる。脱塩処理の方法としては、NF膜やUF膜を利用した膜透析、イオン交換樹脂を利用した方法、電気透析などが挙げられる。また、単純な希釈操作でも、共存する塩濃度を調整することは、可能である。
【0024】
本発明で得られるキトサン微粒子は、大きさが均一なサブミクロンサイズ(平均粒径2μm未満)、更には、ナノサイズオーダー(平均粒径1μm未満)となるものである。
また、本発明で得られるキトサン微粒子の第1の特性は、調製後の二次凝集及び成長が見られない点であり、第2の特性は、液分散性に優れ沈降傾向を示さない点である。これらの特性は、単に、上述の特許文献6に記載される他の硫酸塩で製造したキトサン微粒子には見られない、本発明のキトサン微粒子の特有の性質である。
【0025】
本発明のキトサン微粒子の用途としては、特に限定されるものではないが、化粧品、医療用製剤への利用が挙げられる。そして、以下の理由1〜3により判断すると、特に、本発明の微粒子を芯材として形成させたマイクロカプセルは、水溶性薬剤の効果を目的部位にて発現させるためのドラッグデリバリー(DDS)への応用が期待できる。理由1:血管内に投与する薬剤の平均粒径が6μmを超すと毒性上昇等の副作用が高くなるとされており、本発明の微粒子はサブミクロンサイズであるため、この安全要件を満たしている。理由2:本発明の微粒子は凝集せず分散性に優れているため、投与後に血栓等の発生危険性が少ない。理由3:本発明の微粒子は沈降傾向を示さない点で、移送性に優れている。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を試験例(実施例及び比較例)を挙げて更に詳細に説明する。なお、試験例中、無機塩量として「倍当量」を用いるが、これはキトサンのアミノ基1当量に対する硫酸イオン若しくは塩化物イオンの当量数である。また、特に断らない限り、実施例中の「%」は重量基準である。
【0027】
〔試験例1:実施例1〜4及び比較例1〜6〕
キトサン(平均分子量60,000〜10,000、脱アセチル化度85%)の5重量%乳酸水溶液(乳酸濃度4.4重量%)21mlを、0.5倍当量又は0.7倍当量となる各種硫酸塩含有の水溶液79ml(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、マグネシウム塩、鉄(II)塩、pH未調整、液温度40℃、300rpm攪拌)に、秒速0.02mlで添加混合した。この添加混合液を低温(5℃)まで冷却し、キトサン微粒子を得た。
【0028】
このようにして得られたキトサン微粒子(分散液)は、マイクロスコープ(ハイロックス社製)を用いた顕微鏡法により「主粒子(最多粒子)の粒径」と「粗大粒子の有無及び最大粒子径」を、目視評価[評価基準;◎:均一に分散、○:ほぼ均一に分散、△:分散やや不良(やや分離)、×:分散不良(分離)]により、「粒子の液分散性」を、調製当初と3週間後に評価した。
【0029】
また、100ml容ガラスサンプル瓶に収容したキトサン微粒子(分散液)を、低温(5℃)下で静置させ、経時的に上澄み部の液濁度(660nm吸光度)を測定することにより「キトサン微粒子の沈降性」を評価した。
これらの結果を下記表1、表2及び表3(別紙図1)に示す。
【0030】
【表1】


【0031】
【表2】


【0032】
【表3】


【0033】
上記表1〜表3及び図1の結果から明らかなように、比較例1〜6の硫酸ナトリウム、硫酸カリウム及び硫酸アンモニウムでは、調製時又は経時的に粗大粒子生成が見られるのに対し、実施例1〜4の硫酸マグネシウムと硫酸鉄では粗大粒子の発生を抑制しつつ、サブミクロンサイズのキトサン微粒子が製造できることが判明した。また、キトサン微粒子(分散液)の上澄み濁度の経時変化より、比較例4〜6の硫酸ナトリウム、硫酸カリウム及び硫酸アンモニウムで調製した微粒子が沈降傾向を示すのに対し、実施例3及ぶ4の硫酸マグネシウムと硫酸鉄で調製した微粒子は沈降傾向を示さないことが判明した。
【0034】
〔試験例2:実施例5〜10〕
キトサン(平均分子量60,000〜10,000、脱アセチル化度85%)の5重量%乳酸水溶液(乳酸濃度4.4重量%)21mlを、0.1、0.4、0.5、0.7、1.0、及び2.0倍当量となる硫酸マグネシウム含有の水溶液79ml(pH未調整、液温度40℃、300rpm攪拌)に、秒速0.02mlで添加混合した。この添加混合液を低温(5℃)まで冷却し、キトサン微粒子を得た。
このようにして得られたキトサン微粒子(分散液)は、試験例1と同様な方法により「主粒子の粒径」、「粗大粒子の有無及び最大粒子径」及び「粒子の液分散性」を、調製当初で評価した。
これらの結果を下記表4に示す。
【0035】
【表4】


【0036】
上記表4の結果から明らかなように、当該実施例5〜10の製造条件では、0.1〜2.0倍当量の硫酸マグネシウムにより、粗大粒子の発生がなく、サブミクロンサイズのキトサン微粒子が製造できることが判明した。また、実施例5〜7の0.1〜0.5倍当量の硫酸マグネシウムにより、ナノサイズオーダーの微粒子が製造できることが判明した。
【0037】
〔試験例3:実施例11〜16〕
キトサン(分子量400,000〜480,000、脱アセチル化度85%)の1.5重量%乳酸水溶液(乳酸濃度1.3重量%)21mlを、0.1、1.0、1.5、1.7、2.0、及び5.0倍当量となる硫酸マグネシウム含有の水溶液79ml(pH未調整、液温度40℃、300rpm攪拌)に、秒速0.02mlで添加混合した。この添加混合液を低温(5℃)まで冷却し、キトサン微粒子を得た。
このようにして得られたキトサン微粒子(分散液)は、試験例1と同様な方法により「主粒子の粒径」、「粗大粒子の有無及び最大粒子径」及び「粒子の液分散性」を、調製当初で評価した。
これらの結果を下記表5に示す。
【0038】
【表5】


【0039】
上記表5の結果から明らかなように、当該実施例11〜16の製造条件では、0.1〜5.0倍当量の硫酸マグネシウムにより、粗大粒子の発生がなく、サブミクロンサイズのキトサン微粒子が製造できたことが分かる。また、実施例11〜13の0.1〜1.5倍当量の硫酸マグネシウムにより、ナノサイズオーダーの微粒子が製造できたことが判明した。
【0040】
〔試験例4:実施例17〜23〕
キトサン(平均分子量60,000〜10,000、脱アセチル化度85%)の5重量%乳酸水溶液(乳酸濃度4.4重量%)21mlを、表6記載の温度・pH(初発)・攪拌速度条件に設定した1.0倍当量となる硫酸マグネシウム含有の水溶液79mlに、秒速0.02mlで添加混合した。この添加混合液を低温(5℃)まで冷却し、キトサン微粒子を得た。
このようにして得られたキトサン微粒子(分散液)は、試験例1と同様な方法により「主粒子の粒径」、「粗大粒子の有無及び最大粒子径」及び「粒子の液分散性」を、調製当初で評価した。
これらの結果を下記表6に示す。
【0041】
【表6】


【0042】
上記表6の結果から明らかなように、添加混合時の条件としては、高液温、低pH、及び高速攪拌の方が、粒径が小さく、液分散性が向上することが判明した。
【0043】
〔試験例5:実施例24〜25及び比較例7〜8〕
キトサン(平均分子量60,000〜10,000、脱アセチル化度85%)の5重量%乳酸水溶液(乳酸濃度4.4重量%)21mlを、1.0倍当量となる硫酸ナトリウム又は硫酸マグネシウム含有の水溶液79ml(pH未調整、液温度40℃、300rpm攪拌)に、秒速0.01ml又は1.40mlで添加混合した。この添加混合液を低温(5℃)まで冷却し、キトサン微粒子を得た。
このようにして得られたキトサン微粒子(分散液)は、試験例1と同様な方法により「主粒子の粒径」、「粗大粒子の有無及び最大粒子径」及び「粒子の液分散性」を、調製当初で評価した。
これらの結果を下記表7に示す。
【0044】
【表7】


【0045】
上記表7の結果から明らかなように、比較例7及び8の硫酸ナトリウムでは添加速度の増加に伴い粒径の増大と液分散性の低下が見られるのに対し、実施例24及び25の硫酸マグネシウムでは添加速度を増加しても粒径、液分散性が変化していないのが判明した。
【0046】
〔試験例6:実施例26〜30及び比較例9〜11〕
キトサン(平均分子量60,000〜10,000、脱アセチル化度85%)の5重量%乳酸水溶液(乳酸濃度4.4重量%)21mlを、1.0倍当量となる各種硫酸塩と5.4倍当量となる塩化ナトリウム含有の水溶液79ml(pH未調整、液温度40℃、300rpm攪拌)に、秒速0.02mlで添加混合した。この添加混合液を低温(5℃)まで冷却し、キトサン微粒子を得た。また、1.0倍当量となる各種硫酸塩の単独使用においても、同様な条件・操作によってキトサン微粒子を得た。
このようにして得られたキトサン微粒子(分散液)は、試験例1と同様な方法により「主粒子の粒径」、「粗大粒子の有無及び最大粒子径」及び「粒子の液分散性」を、調製当初で評価した。
これらの結果を下記表8に示す。
【0047】
【表8】


【0048】
上記表8の結果から明らかなように、比較例9〜11の硫酸塩(ナトリウム、カリウム、アンモニウム)を単独で使用した場合と比較して、実施例26〜30の塩化ナトリウム(5.4倍当量)を併用した場合では、粗大粒子の生成が抑制され、粒子の大きさも微細化傾向にあることが判明した。
【0049】
〔試験例7:実施例31〜37〕
キトサン(平均分子量60,000〜10,000、脱アセチル化度85%)の5重量%乳酸水溶液(乳酸濃度4.4重量%)21mlを、0.5倍当量となる硫酸マグネシウムと表9記載の各当量の塩化ナトリウム含有の水溶液79ml(pH未調整、液温度40℃、300rpm攪拌)に、秒速0.02mlで添加混合した。この添加混合液を低温(5℃)まで冷却し、キトサン微粒子を得た。
このようにして得られたキトサン微粒子(分散液)は、試験例1と同様な方法により「主粒子の粒径」、「粗大粒子の有無及び最大粒子径」及び「粒子の液分散性」を、調製当初で評価した。また、調製当初のキトサン微粒子液の濁度(660nm吸光度)を測定することにより「キトサン微粒子の濃度」を評価した。
これらの結果を下記表9に示す。
【0050】
【表9】


【0051】
上記表9の結果から明らかなように、硫酸マグネシウムを単独で使用した場合より、塩化ナトリウムを併用した方がこの微粒子分散液の濁度が増加しており、塩化ナトリウムの併用により粒子化効率が向上したことを示している。また、0.1〜5.4倍当量の塩化ナトリウム併用により、ナノサイズオーダーの微粒子が製造できることが判明した。
【0052】
〔試験例8:実施例38〜40〕
キトサン(平均分子量60,000〜10,000、脱アセチル化度85%)の5重量%乳酸水溶液(乳酸濃度4.4重量%)105mlを、0.7倍当量となる硫酸マグネシウムと1.1若しくは5.4倍当量となる塩化ナトリウム含有の水溶液395ml(pH未調整、液温度40℃、300rpm攪拌)に、秒速0.02mlで添加混合した。この添加混合液を低温(5℃)まで冷却し、キトサン微粒子を得た。また、0.7倍当量となる硫酸マグネシウムの単独使用に於いても、同様な条件・操作によってキトサン微粒子を得た。
このようにして得られたキトサン微粒子(分散液)は、試験例1と同様な方法により「主粒子の粒径」、「粗大粒子の有無及び最大粒子径」及び「粒子の液分散性」を、調製当初で評価した。
これらの結果を下記表10に示す。
【0053】
【表10】


【0054】
上記表10の結果から明らかなように、塩化ナトリウム(1.1〜5.4倍当量)の併用により、粒子の大きさも微細化傾向で液分散性が向上していることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛の作用、若しくは、硫酸塩と塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化銀との併用効果を利用し、実用化の課題であった粗大粒子の発生を抑制し、産業的に有用なサブミクロンサイズのキトサン微粒子の安価且つ安定した提供を可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】表3(実施例3〜4及び比較例4〜6)の各種硫酸塩で調製したキトサン微粒子の経時沈降性を示す特性図である。
【出願人】 【識別番号】000117858
【氏名又は名称】伊原 博隆
【識別番号】506350252
【氏名又は名称】西日本長瀬株式会社
【識別番号】000208787
【氏名又は名称】第一製網株式会社
【出願日】 平成18年10月18日(2006.10.18)
【代理人】 【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介

【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義

【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂


【公開番号】 特開2008−101079(P2008−101079A)
【公開日】 平成20年5月1日(2008.5.1)
【出願番号】 特願2006−283748(P2006−283748)