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【発明の名称】 新規シクロデキストリン誘導体
【発明者】 【氏名】兼田 隆弘

【氏名】山本 波砂

【要約】 【課題】本発明の課題は安価で安定なMALDI−TOF−MS用マスキャリブレーション標準物質を提供することにある。

【解決手段】上記課題解決のため,O−保護シクロデキストリンを構成ユニットとし,これにフェノール性水酸基を有する化合物を反応結合させることにより,分子量の明確な一群のシクロデキストリン誘導体を得た。このシクロデキストリン誘導体は安定なMALDI−TOF−MS用マスキャリブレーション標準物質として機能した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式
【化1】


[ただし,式中,a,b,c,dはそれぞれ独立に1以上の整数,e,f,g,hはそれぞれ独立に0以上の整数から選択され,Rは下記構造式
【化2】


(ただし,式中,nは5,6,7から選択され,Rはメチル基,エチル基のごときアルキル基,トリフルオロメチル基のごときペルフルオロアルキル基,ベンジル基,置換されていてもよいベンジル基,あるいはアセチル基,トリフルオロアセチル基のごときアシル基から選択される)]で示される新規シクロデキストリン誘導体。
【請求項2】
下記構造式
【化3】


(ただし,式中,nは5,6,7から選択され,mは1以上の整数から選択され,Rはメチル基,エチル基のごときアルキル基,トリフルオロメチル基のごときペルフルオロアルキル基,ベンジル基,置換されていてもよいベンジル基,あるいはアセチル基,トリフルオロアセチル基のごときアシル基から選択され,Rはフェニル基,置換されていてもよいフェニル基,ナフチル基,置換されていてもよいナフチル基,アントラニル基,置換されていてもよいアントラニル基,トリチル基,p−フェニレニル基,p−ビフェニレニル基,イソプロピリデンジフェニル基から選択される)で示される新規シクロデキストリン誘導体。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は新規シクロデキストリン誘導体に関するもので,マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計法における標準試料に供するものである。
【背景技術】
【0002】
質量分析は,有機化学,生化学などの研究者にとって試料の分子量や構造上の特徴を明らかにする重要な分析手段の一つになっている。質量分析の歴史は以外に古く,1912年にThomsonにより最初の質量分析装置が作られ,1918年Astonはネオンの同位体の測定や元素の精密質量を測定している。その後,電子衝撃イオン化法が開発,実用化され,低分子有機化合物の測定が可能となり,有機化学の分野でも利用されるようになった。電子衝撃イオン化法では,イオン化に先立ち試料を気化することが必要であり,そのため,測定可能な試料が限られていた。近年,イオン化に先立ち試料の気化を必要としない高速粒子衝撃法(FAB),マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)などの新しいソフトなイオン化法が次々と開発されている。ことにソフトイオン化の決定版と言えるMALDIと飛行時間型質量分析計(TOF−MS)を組み合わせたMALDI−TOF−MSは,タンパク質,糖鎖などの高分子化合物の質量分析を可能にし,有機化学のみならず,生化学分野の研究者にとっても極めて有用な分析機器となっている。
【0003】
MALDI−TOF−MSで質の高いスペクトル情報を得るためには分析対象物やレーザーの波長に適したマトリックスを使用する必要がある。マトリックスの選定は質の高いスペクトル情報を得るために極めて重要である。ここで得られるスペクトル情報は飛行時間(TOF)と強度の組み合わせである。これを質量(m/z)と強度の情報へ変換させる必要がある。この変換は極めて重要で,マスキャリブレーションと呼ばれている。マスキャリブレーションには[M+H]あるいは[M+Cation]の測定が容易で,単一分子種で構成されるものが標準試料として用いられている。低質量の標準試料は数多くの低質量有機化合物が適宜選択され,使用されている。一方,MALDI−TOF−MSは試料の気化を必要としないソフトなイオン化法で,難揮発性高分子量の化合物の質量分析にその威力を発揮する。したがって,多くの場合,MALDI−TOF−MSのマスキャリブレーションには中質量,あるいは高質量の標準試料が必要となるが,単一分子種から成り,入手の容易な中質量,高質量の有機化合物は数少なく,標準試料としては天然物であるタンパク質が利用されている。例えば,質量5000から10000前後ではインシュリン,チトクロームCなどのタンパク質が標準試料として多用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,インシュリン,チトクロームCなどのタンパク質は熱に不安定で冷凍保管が必要であり,その取り扱いには細心の注意を要する。また,インシュリン,チトクロームCなどを標準試料として使用するためには高度に精製する必要がある。そのため,市販されているインシュリン,チトクロームCは比較的高価である。安定で取り扱いが容易な単一分子種から成る有機化合物がMALDI−TOF−MS用標準試料として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで,発明者は鋭意研究を重ね,本発明を完成するに至った。本発明は新規シクロデキストリン誘導体に関するもので,MALDI−TOF−MS用標準試料として供するものである。本発明の代表例として下記構造式(1)
【0006】
【化1】


【0007】
で示される新規シクロデキストリン誘導体,5,10,15,20−テトラキス[4−(O−ペルメチル−α−シクロデキストリン−6−イル)フェニル)]ポルフィリンを取り上げ,本発明の有用性を明らかにする。本発明に係る5,10,15,20−テトラキス[4−(O−ペルメチル−α−シクロデキストリン−6−イル)フェニル)]ポルフィリンは文献未載の新規化合物で,下記反応式に従って合成することができる。
【0008】
【化2】


【0009】
上記反応に示すように5,10,15,20−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ポルフィリンとO−ペルメチル−6−O−p−トルエンスルホニル−α−シクロデキストリンを塩基の存在下反応させることで得られる。この工程で使用しうる溶媒はDMF,DMSO,塩化メチレン,クロロホルム,トルエン,ピリジンのごとき有機溶媒,あるいはこれらの混合溶媒から選択され,塩基としては炭酸カリウム,炭酸ナトリウム,炭酸水素カリウム,炭酸水素ナトリウム,トリエチルアミンなど無機塩基,有機塩基から適宜選択される。なお,塩基は必ずしも必要としない。反応温度は室温から溶媒の還流温度の間で適宜選択される。反応に要する時間は使用する溶媒,塩基の有無,濃度,反応温度により異なるが,30分から64時間の間で適宜選択される。反応終了後,抽出,再結晶,カラム精製などを適宜行うことで高純度の5,10,15,20−テトラキス[4−(O−ペルメチル−α−シクロデキストリン−6−イル)フェニル]ポルフィリンが得られる。以上のように本発明に係る5,10,15,20−テトラキス[4−(O−ペルメチル−α−シクロデキストリン−6−イル)フェニル)]ポルフィリンは簡便な操作で,しかも高純度品が容易に得られる。以下に参考例を用いて,更に本発明の有用性を明らかにする。
【0010】
参考例1 5,10,15,20−テトラキス[4−(O−ペルメチル−α−シクロデキストリン−6−イル)フェニル]ポルフィリンのMALDI−TOF−MSスペクトル
MALDI−TOF−MS用マトリックス10mgをメタノール1mlに溶解した溶液に5,10,15,20−テトラキス[O−(ペルメチル−α−シクロデキストリン−6−イル)−4−フェニル]ポルフィリン1mgをメタノール1mlに溶解した溶液を加え,混和させた。この溶液をMALDI−TOF−MSのターゲットプレート上に少量を採取し,風乾し,MALDI−TOF−MSにセットし,質量分析を行った。マトリックスとしては2,5−ジヒドロキシ安息香酸,2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン,3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシけい皮酸,α−シアノ−4−ヒドロキシけい皮酸を用いた。
測定条件
装置:SHIMADZU/KRATOS AXIMA−CFR Plus
減圧度:5.0E−4Pa
測定モード:linear
レーザー:窒素レーザー
その結果,いずれのマトリックスを用いても[M+H]の強い強度の分子イオンピークを観測することができた。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る5,10,15,20−テトラキス[4−(O−ペルメチル−α−シクロデキストリン−6−イル)フェニル]ポルフィリンは極めて安定な化合物であり,室温で長期間保存してもその質量スペクトルは変化しない。以上のようにMALDI−TOF−MSマスキャリブレーション用標準物質として極めて有用である。また,この代表例,5,10,15,20−テトラキス[4−(O−ペルメチル−α−シクロデキストリン−6−イル)フェニル]ポルフィリンは4つのペルメチル−α−シクロデキストリンとポルフィリンから構成されている。シクロデキストリンはホスト化合物として,その空孔に疎水性のゲスト分子を取り込む。ポルフィリンはカチオンをその空孔に取り込む。したがって,同一分子内に性格の異なるホスト部位を持ち,幅広いゲストと包接する。ことにポルフィリンは400nm〜500nmにソーレー帯と呼ばれる強い吸収を持ち,カチオンを包接することで,この吸収はシフトする。したがって,従来にない新規な機能性ホスト化合物としてその応用が期待される。
【実施例】
【0012】
以下に本発明の好ましい実施例を示し,本発明の有用性を明らかにする。これは例示のためであって,本発明を限定するものではない。
【0013】
実施例1 5,10,15,20−テトラキス[4−(ペルメチル−α−シクロデキストリン−6−イル)フェニル]ポルフィリンの合成
O−ペルメチル−6−O−p−トルエンスルホニル−α−シクロデキストリン200mg,5,10,15,20−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ポルフィリン20mgをDMF1.2mlに溶解させ,この溶液に炭酸カリウム98mgを加え,85℃で20時間撹拌,反応させた。反応混合物を水中に注ぎ,塩化メチレンで抽出した。抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥,減圧濃縮し,得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:エタノール=6:1)で分離精製し,収率68%で,目的とする5,10,15,20−テトラキス[4−(ペルメチル−α−シクロデキストリン−6−イル)フェニル]ポルフィリンの白色結晶110mgを得た。
【0014】
実施例2 5,10,15,20−テトラキス[3,5−ビス(ペルメチル−α−シクロデキストリン−6−イル)フェニル]ポルフィリンの合成
O−ペルメチル−6−O−p−トルエンスルホニル−α−シクロデキストリン200mg,5,10,15,20−テトラキス(3,5−ジヒドロキシフェニル)ポルフィリン11mgをDMF1.2mlに溶解させ,この溶液に炭酸カリウム98mgを加え,85℃で40時間撹拌,反応させた。反応混合物を水中に注ぎ,塩化メチレンで抽出した。抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥,減圧濃縮し,得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:エタノール=9:1)で分離精製し,収率33%で,目的とする5,10,15,20−テトラキス[3,5−ビス(ペルメチル−α−シクロデキストリン−6−イル)フェニル]ポルフィリンの紫色結晶50mgを得た。
【0015】
実施例3 1,1,1−トリス[4−(ペルメチル−α−シクロデキストリン−6−イル)フェニル]エタンの合成
O−ペルメチル−6−O−p−トルエンスルホニル−α−シクロデキストリン200mg,1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン12mgをDMF1.2mlに溶解させ,この溶液に炭酸カリウム98mgを加え,85℃で17時間撹拌,反応させた。反応混合物を水中に注ぎ,塩化メチレンで抽出した。抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥,減圧濃縮し,得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:エタノール=12:1)で分離精製し,収率98%で,目的とする1,1,1−トリス[4−(ペルメチル−α−シクロデキストリン−6−イル)フェニル]エタンの白色結晶150mgを得た。
【0016】
実施例4 2,2−ビス[4−(ペルメチル−α−シクロデキストリン−6−イル)フェニル]プロパンの合成
O−ペルメチル−6−O−p−トルエンスルホニル−α−シクロデキストリン800mg,ビスフェノールA54mgをDMF4.8mlに溶解させ,この溶液に炭酸カリウム196mgを加え,85℃で20時間撹拌,反応させた。反応混合物を水中に注ぎ,塩化メチレンで抽出した。抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥,減圧濃縮し,得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:エタノール=20:1)で分離精製し,収率31%で,目的とする2,2−ビス[4−(ペルメチル−α−シクロデキストリン−6−イル)フェニル]プロパンの白色結晶190mgを得た。
【0017】
実施例5 2−(ペルメチル−α−シクロデキストリン−6−イル)ナフタレンの合成
O−ペルメチル−6−O−p−トルエンスルホニル−α−シクロデキストリン300mg,2−ナフトール26mgをDMF1.8mlに溶解させ,この溶液に炭酸カリウム73mgを加え,85℃で15時間撹拌,反応させた。反応混合物を水中に注ぎ,塩化メチレンで抽出した。抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥,減圧濃縮し,得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン:メタノール=20:1)で分離精製し,収率59%で,目的とする2−(ペルメチル−α−シクロデキストリン−6−イル)ナフタレンの白色結晶190mgを得た。
【産業上の利用可能性】
【0018】
以上のように本発明に係る化合物は複数のO−保護シクロデキストリンを構成要素とし,フェノール性水酸基と反応結合した新規シクロデキストリン誘導体である。本発明に係る一群の新規シクロデキストリン誘導体は構成要素であるO−保護シクロデキストリンの数の違いにより,その質量は大きく異なり,幅広く分布している。本発明に係る任意の2つの新規シクロデキストリン誘導体を選択し,これをMALDI−TOF−MS用マスキャリブレーション標準物質として用いることで,的確なマスキャリブレーションが行えた。また,本発明に係る新規シクロデキストリン誘導体はホスト化合物として強い疎水認識能を有し,機能性ホスト化合物として分離分析の分野での利用が期待される。ことにポルフィリンを有する本発明に係る新規シクロデキストリン誘導体は,ポルフィリンの有するカチオン認識能とシクロデキストリン部位の有する疎水認識能を有する。なおかつ,ポルフィリンは400nm〜500nmにソーレー帯と呼ばれる強い吸収を持ち,カチオンを包接することで,この吸収はシフトする。したがって,従来にない新規な機能性ホスト化合物としてその応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】5,10,15,20−テトラキス[4−(O−ペルメチル−α−シクロデキストリン−6−イル)フェニル)]ポルフィリンのMSスペクトル
【出願人】 【識別番号】591105993
【氏名又は名称】東京化成工業株式会社
【出願日】 平成18年10月11日(2006.10.11)
【代理人】
【公開番号】 特開2008−95056(P2008−95056A)
【公開日】 平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願番号】 特願2006−302096(P2006−302096)