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【発明の名称】 糖鎖構造解析方法に適したアグリコンを有するグリコシド化合物
【発明者】 【氏名】蟹江 治

【氏名】鈴木 克彦

【氏名】赤穂 卓郎

【氏名】大黒 周作

【要約】 【課題】糖鎖の構造解析を行う際、参照となる糖鎖構造情報を効率よく生成するグリコシド化合物の提供を課題とする。

【解決手段】CID−MS測定において、目的とする任意のBイオンおよび/またはCイオンを生成するアグリコンを有するグリコシド化合物を提供することにより、上記課題を解決する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アグリコンとしてブロモブチルオキシ基、アルキルフェニルオキシ基、アミノブチルオキシ基またはアルキルアミノブチルオキシ基を有するグリコシド化合物。
【請求項2】
アグリコンとしてアミノブチルオキシ基を有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
アミノブチルオキシ基のアミノ基が保護基で保護されている、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
保護基がカーバメート型アミノ保護基である、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
カーバメート型アミノ保護基がt-ブチルオキシカルボニル基またはトリメチルシリルオキシカルボニル基である、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
CID−MS測定において目的とする任意のBイオンおよび/またはCイオンを生成することができるアグリコンを有するグリコシド化合物。
【請求項7】
CID−MS測定により糖鎖の構造解析を行う方法において、請求項1〜6のいずれかに記載のグリコシド化合物を参照糖鎖として使用することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、構造未知の糖鎖についてCID−MS測定を行い、得られたデータをすでに取得されている参照データと比較することにより該糖鎖の構造解析を行う方法において、より効率的に糖鎖のフラグメントイオンを与える化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
糖鎖は主に細胞表面に糖タンパク質や糖脂質の一部として存在し、発生、分化誘導、受精、免疫、癌化、感染症等、様々な生命現象に深く関与している。このように多彩な機能を有する糖鎖の研究は近年盛んになっている。また、糖鎖は、タンパク質の翻訳後修飾の重要な部分を占め、今後の大きな研究対象である。糖タンパク質や糖脂質の機能は糖鎖により制御される場合があり、糖鎖の構造解析を極微量において達成する技術が必要である。しかし、糖鎖は生物工学的手法により増幅ができない分子種であるため、微量の物質のみで構造解析を達成することを可能とする新たな構造解析技術の開発が必要である。タンパク質の配列はゲノム配列が判明している場合、対応するタンパク質のアミノ酸配列も取得できるため、目的のタンパク質のアミノ酸配列は質量分析(例えば、MS/MS(MS)法)により解析することができる。しかし、被修飾タンパク質の配列解析技術については今後の課題として残されている。特に、糖鎖によるタンパク質の修飾は極めて大きな分子の多様性を生み出している。したがって、糖鎖の構造解析技術の開発は必要不可欠である。
【0003】
糖鎖は、核酸やタンパク質とは異なり配列以外の要因による構造異性体群を形成している。この理由の基本は、糖鎖を形成する単糖には反応点となる水酸基が複数存在するため結合位置異性体を形成する性質を有し、かつ、単糖間の結合の際にはアノメリック位の立体異性によるアノマー異性体を形成する性質を有しているためである。単糖間の結合は、生物体内においては糖鎖の合成に関わる酵素群の連続反応により行われるため、必ずしも組み合わせの原理に基づく糖鎖群を形成しているわけではない。しかし、酵素反応は副反応を伴うことが知られており、このような現象の生物における意味は解明されておらず、このような場合には遺伝情報によることのない全く新しい概念に基づく構造解析法が必要である。もちろん、遺伝情報が解明されていない、また、糖鎖の生合成経路が解明されていない生物種における糖鎖構造の解析についても新しい構造解析法が必要である。
【0004】
現在用いられている糖鎖の構造解析技術としては、(1)核磁気共鳴分光法、(2)質量分析法、(3)多次元クロマトグラフィーによるマッピング法(非特許文献1を参照)、(4)加水分解酵素による特異的部分加水分解法(非特許文献2を参照)、(5)レクチンによるマッピング法(非特許文献2を参照)、及び(6)メチル化−加水分解-ガスクロマトグラフィーによる組成分析法(非特許文献2を参照)をあげることができ、通常はこれらを組み合わせて糖鎖の解析が行われている。
【0005】
上記の中でも特に有効な糖鎖の解析手段としては、核磁気共鳴分光法及び質量分析法をあげることができるが、前者の問題点は解析に必要な量がμg以上であることであり、後者の問題点は立体異性体の解析が不可能なことである。これらの方法を含めいずれの解析法を用いるにせよ、糖鎖の構造解析は、得られた天然糖鎖構造の構造解析を直接行わなければならない(非特許文献3を参照)。
【0006】
一方、異なる糖鎖を質量分析することにより、その結果が異なることが示されている。例えば、ステロイドの水酸基の立体異性体のMS測定によるフラグメント化を行うと、各フラグメント強度が異なること(非特許文献4を参照)や、合成された硫酸化糖鎖の構造異性体のCID−MS測定をFAB−q−Massで行って、特定イオンの強度を測定すると、その値に差があること(非特許文献5を参照)が示されている。しかし、これらはいずれも具体的に糖鎖の構造解析方法を示すものではなかった。
【0007】
質量分析装置を用いる糖鎖の構造解析技術において一般的な構造解析法としては、m/zとそのピーク強度をパラメータとし、構造既知の糖鎖のそれと比較することで同一構造か否かの判定をする方法がある(非特許文献6および非特許文献7を参照)。この方法は、特定の一点の電圧におけるフラグメントのピーク強度を指標とし、各々のフラグメントの強度が総合的に一致するか否かをスコア化して判定する方法であり、参照とする化合物群のデータセット、あるいは、データベースが必要である。この方法の限界は、合否の判定をするだけで否の場合の構造予測が不可能な点であった。
【0008】
構造的に類似性のある化合物群に対しては、多変量解析が、質量分析により得られたデータから構造的特徴を抽出するのに新たな可能性を与えることを示唆している報告があるが、2糖の構造予測に応用できることを報告しているにすぎず、長い糖鎖の構造予測の可能性については具体的には何も触れていない(非特許文献8を参照)。
さらに、質量分析法は極微量分析であり、検出される質量数(H、Na付加等)から物質の分子量が分かると共に、フラグメントイオンの解裂様式から、分子構造に関して重要な情報を得ることができるものの、サンプルに異性体(構造異性体、光学異性体)が混入して存在する場合、質量分析計のみではその混入物の存在すら識別できなかった。
【0009】
以上の問題を解決するために、構造未知の糖鎖についてCID−MS測定を行い、得られたデータをすでに取得されている参照データと比較することにより該糖鎖の構造解析を行う方法が発明された。特に、目的糖鎖および参照糖鎖のCIDエネルギー依存曲線について、これらの曲線を特徴付ける数値で表した解裂イオンパラメータをそれぞれ作成し、これらのパラメータを統計的に解析することにより、目的糖鎖の構造決定又は構造推定を行う方法により、質量分析計のみを用いた糖鎖の構造異性体混合物を識別するための分析方法が提供された。
【0010】
しかし、ここで参照しているデータを与える糖鎖を化学合成等の手法により提供する際、アグリコンとよばれる置換基を糖鎖の還元末端に配置する必要があり、従来のアグリコンではBイオンおよびCイオンを任意に生成することができず、効率的に構造情報を得ることが困難であった。
【非特許文献1】Royle, L. et al., Anal. Biochem. 2002,304,70-90
【非特許文献2】Chaplin, M.F et al., Carbohydrate Analysis, A Practical Approach, IRL Press, Oxford,1994
【非特許文献3】Dell, A., Adv. Carbohydr. Chem. Biochem. 1987, 45, 19-72
【非特許文献4】Faretto, D. et al., J. Mass Spectrom. 1991,5, 240-244
【非特許文献5】Kurono, S. et al., J. Mass Spectrom. 1998, 33, 35-44
【非特許文献6】Viseux. N. et al., Anal. Chem. 1998, 70, 4951-4959
【非特許文献7】Kameyama, A. et al., Anal. Chem. 2005, 77, 4719-4725
【非特許文献8】Fangmark, I. et al., Anal. Chem. 1999, 71, 1105-1110
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、糖鎖の構造解析を行う際、参照となる糖鎖構造情報を効率よく生成するようなアグリコンを有するグリコシド化合物を提供することである。具体的には、糖鎖の質量分析において生成するBイオンおよびCイオンを効率よく生成することが可能なアグリコンを有するグリコシド化合物を提供することである。本発明の別の目的は、アグリコンの性質に依存することのない物質データを効率よく得ることができるアグリコンを有するグリコシド化合物を提供することである。さらに、本発明の別の目的は、目的糖鎖のデータと参照データを比較検討する際により多くの比較データを得ることができるアグリコンを有するグリコシド化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を進めた結果、質量分析条件下CID−MS測定を行う際、効率よく脱離し、目的とするBイオンおよび/またはCイオンを生成するアグリコンを有するグリコシド化合物を発見することに成功した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
すなわち本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)アグリコンとしてブロモブチルオキシ基、アルキルフェニルオキシ基、アミノブチルオキシ基またはアルキルアミノブチルオキシ基を有するグリコシド化合物。
(2)アグリコンとしてアミノブチルオキシ基を有する、(1)に記載の化合物。
(3)アミノブチルオキシ基のアミノ基が保護基で保護されている、(2)に記載の化合物。
(4)保護基がカーバメート型アミノ保護基である、(3)に記載の化合物。
(5)カーバメート型アミノ保護基がt-ブチルオキシカルボニル基またはトリメチルシリルオキシカルボニル基である、(4)に記載の化合物。
(6)CID−MS測定において目的とする任意のBイオンおよび/またはCイオンを生成することができるアグリコンを有するグリコシド化合物。
(7)CID−MS測定により糖鎖の構造解析を行う方法において、(1)〜(6)のいずれかに記載のグリコシド化合物を参照糖鎖として使用することを特徴とする方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のグリコシド化合物は、CID−MS測定において、効率よく解離し、目的とする任意のBイオンおよび/またはCイオンを生成することができる。従って、本発明のグリコシド化合物は、CID−MS測定により糖鎖の構造解析を行う方法において、参照糖鎖として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を更に詳細に説明するが、以下の構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、本発明はこれらの内容のみに特定されるものではない。
以下の説明において、「CID−MS測定」とは、CID(Collision induced dissociation:衝突誘起解離)によるマススペクトルの取得を行うことを示し、「フラグメントイオン」とは、上記CID−MS測定により得られる各m/zを有するイオンを示し、「m/z」とは、質量数(m)と電荷(z)の比を示し、「娘イオン」とは、フラグメントイオンを上記CID−MS測定することにより得られる各m/zを有するフラグメントイオンを示し、「総イオンカウント数」とは、各m/zを有するすべてのフラグメントイオンのイオン強度の総和を示し、また、「CIDエネルギー」とは、CIDを起こすときに加えるエネルギーを一般的に示し、実際にはイオンを振動させるためのある周波数の電場の電圧を示す。注目するグリコシド結合に関わる酸素源原子の両端の結合の解裂に関し、「B−イオン」とは、非還元末端側結合の解裂に由来する非還元末端側フラグメントを指し、「C−イオン」とは、還元末端側結合の解裂に由来する非還元末端側フラグメントを指す(図15、Domon, B. and Costello, C.E.(1988) Glycoconj. J. 5, 397-409)。
【0015】
なお、CID−MS測定を行うことができる質量分析装置であれば、イオン化法としては、FAB(高速原子衝撃法)、CI(化学イオン化法)、ESI(エレクトロスプレーイオン化法)、MALDI(マトリクス支援レーザー脱離イオン化法)、APCI(大気圧化学イオン化法)等が用いられる。本発明においてはサンプル調製が容易で、かつ、マトリックス由来の夾雑イオンの影響がないESI法を用いることが好ましい。しかし、上記CID−MS測定が可能であればイオン化法はこれらに限定されるものではない。また、ESI法にはマイクロスプレー法とナノスプレー法があるが、サンプル使用量の面から本発明においてはナノスプレー法が好ましく用いられる。
【0016】
糖鎖またはその分解物をイオン化する場合、微液滴を真空下溶媒を蒸発させることでイオン化するため水/メタノールあるいは水/アセトニトリル(1:1)を溶媒として用いることができるが、物質の性質に従い選択が可能でありこれに限られることはない。目的糖鎖またはその分解物は、この溶媒に対して0.01〜100nmol/ml、より好ましくは0.5〜5nmol/ml、さらに好ましくは1nmol/mlの濃度に溶解することが好ましい。
【0017】
また、CID−MS測定を行なう装置は、これが可能であれば、機種を問うものではないが、本発明においては、CID−MS測定が可能な四重極イオントラップ型質量分析計を用いることが好ましい。このような装置としては、具体的には例えば、esquire 3000 plus(ブルカーダルトニクス社製)、LCQ DECA(サーモフィニガン社製)、AXIMA QIT(島津社製)、LCMS−IT−TOF(島津社製)等が挙げられる。測定方法としては、各親フラグメントイオンから解離する娘イオンのイオン強度が測定できる方法であればいかなるものでもよいが、具体的には、例えば、熱キャピラリー温度20〜365℃、キャピラリー電圧0〜6.0kV、CIDエネルギーが0〜25V、ポジティブモードまたはネガティブモードのいずれか等で測定することができる。ポジティブモードを用いる場合には、プロトン、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、アンモニウム等の陽イオンを選択して用いることができる。
【0018】
目的親フラグメントイオンについて、さらに上述のCID−MS測定を行なう。該測定により得られたプロットから、特定のm/zの娘イオンの総イオンカウント数とCIDエネルギーとの関係を示すCIDエネルギー依存曲線を作成する(式1)。このうち、特定のm/zの娘イオンの総イオンカウント数を、該娘イオンの総イオンカウント数と、該娘イオンの総イオンカウント数と上記親イオンの総イオンカウント数の和との比で表すことが好ましい(式2)。なお、式1及び式2は、親イオンAから娘イオンa,b,c,d,…,(i),…nが生成する場合の関係式を示す。この比で娘イオン強度を表すことにより、微弱なその他のイオンカウント数に影響を受けず、正確なCIDエネルギー依存曲線を作成することができる。特定のm/zの娘イオンとは、目的親フラグメントイオンから解離する何れの娘イオンでもよいし、その全てでもよい。
【0019】
【数1】


【0020】
【数2】


【0021】
糖鎖の合成においては、還元末端にオクチルオキシ基をはじめとする置換基を導入したグリコシド体とすることがしばしばある。この理由は、1)天然物あるいはその部分構造の合成としての意義(例えばセラミドを導入したスフィンゴ糖脂質や糖ペプチド)や2)生化学的な研究を行う際のバイオプローブとしての理由(セラミドなどに代わる安定なグリコシドや糖鎖複合体を形成するための官能基を導入するため等の理由)である。しかしながら、構造解析の目的でオクチルグリコシドに代表されるアルキルグリコシドのCID−MS分析をおこなうと、糖鎖の還元末端に導入したアルキル基を有するフラグメントが一般的にメインのピークとして検出される。天然糖鎖のCID−MS情報と糖鎖ライブラリーのMSn情報の比較によって糖鎖の構造解析をおこなおうとする場合、任意のBイオン、Cイオンを生成し、さらに、これらのCID−MS分析を可能とする必要がある。本発明は、この問題を克服するために糖鎖フラグメントを効果的に与えるグリコシド化合物を提供する。
【0022】
すなわち、本発明のグリコシド化合物は、CID−MS測定において、目的とする任意のBイオンおよび/またはCイオンを生成することができるアグリコンを有することを特徴とするものである。アグリコンとして、例えば、ブロモブチルオキシ基、アルキルフェニルオキシ基、アミノブチルオキシ基、アルキルアミノブチルオキシ基等を有するグリコシド化合物が挙げられる。具体的には、4-ブロモブチルグリコシド化合物、オクチルオキシフェニルグリコシド化合物、4-(n-オクチル)-アミノブチルオキシ基等が挙げられる。アグリコンとしてブロモブチルオキシ基またはアルキルフェニルオキシ基を有するグリコシド化合物は、CID−MS測定において目的とする任意のBイオンを生成することができる。また、アグリコンとしてアミノブチルオキシ基またはアルキルアミノブチルオキシ基を有するグリコシド化合物は、CID−MS測定において目的とする任意のCイオンを生成することができる。
また、アミノ基を有する化合物は、種々の物質と容易に結合することができる。したがって、本発明のアグリコンとしてアミノブチルオキシ基を有するグリコシド化合物は、タンパク質、蛍光分子、発光分子、様々な素材からなるビーズや基盤、また、磁性ビーズなどとの複合体を供給することができる。
【0023】
本発明のグリコシド化合物は、公知の方法により合成することができる。化学合成の行程における選択的な脱保護の条件に対してブロモ基が不安定である等の理由から利用することができない場合、例えば、しばしば用いられる接触還元条件下、ブロモ基の還元反応が起こるため使用することができないため問題となる場合がある。このような場合には、アルキルオキシフェニルグリコシド等に代表されるフェニルグリコシド化合物を利用することができる。合成化学における保護基としてはR=Meがよく知られているが、合成後の生成を容易にするためには、逆相カートリッジカラム等により迅速に単離が可能である、例えばR=C17を用いることが望ましい。
【0024】
また、本発明のグリコシド化合物は、アグリコンが保護基で保護されているグリコシド化合物を前駆体として、この前駆体の保護基を脱保護することにより合成することができる。例えばアグリコンの保護基を有するアミノ基(−NR)においては、保護基R及びRは、次に示す置換基群からそれぞれ独立に選択される組み合わせからなる。すなわち、Rは、水素、ケイ素官能基、アルキル基、ベンジル基、またはアルキル基を表し、ケイ素官能基、アラルキル基、ベンジル基およびアラルキル基においてはその一部がさらに置換されていてもよい。ケイ素官能基における置換基はアルキル基およびアラルキル基が代表的であり、tert-ブチルジメチルシリル、メチルジ-tert-ブチルシリル、イソプロピルジメチルシリル、メチルジイソプロピルシリル、(トリフェニルメチル)ジメチルシリル、及びtert-ブチルジフェニルシリル基が挙げられる。アルキル基、ベンジル基、またはアラルキル基における置換基としては、アルキル基、ベンジル基、アラルキル基、およびハロゲン、ヒドロキシル基、アルコキシ基、シアノ基、スルホニル基、ニトロ基、アジド基、アミノ基、あるいはアミノ保護基等である。またRは、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基、あるいはアミノ保護基等を適宜使用することができる。具体的なアミノ保護基としては、“Protective Groups in Organic Synthesis” T. W. Greene, John Wiley & Sons、に記載されるカーバメート型アミノ保護基等を適宜選択することができる。RまたはRは、好ましくは、t-ブチルオキシカルボニル基(Boc基)及びトリメチルシリルオキシカルボニル基(Teoc基)であり、より好ましくはBoc基である。RとRは同じであっても異なっていてもよいが、反応過程においてBarton型反応に適したシアノ基およびニトロ基に代表される電子吸引性置換基が結合した置換アミノ基や、無保護の1級あるいは2級アミノ基を生成する組み合わせが好ましい。具体的には、アグリコンが保護基で保護されているグリコシド化合物として、アグリコンとしてのアミノブチルオキシ基のアミノ基がBoc基またはTeoc基で保護されているグリコシド化合物が挙げられる。
【0025】
さらに、前記の前駆体をCIDすることによっても、本発明のグリコシド化合物を生成することができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例1:4-ブロモブチルグリコシド化合物の合成
(1)4-ブロモブチルグリコシド化合物の合成
4-ブロモブチルグリコシド化合物の合成経路を図1に示した。すなわち、ラクトースから容易に調製されるラクトースオクタアセチル化合物1をBF−EtOの存在下ジクロロエタン中4−ブロモブタノールと反応させグリコシド化合物2とした。化合物2のアセチル基をNaOMeで除去し、化合物3をアノマー混合物として得た。これをHPLCにより分離精製すると化合物3Aおよび3Bが得られた。
【0027】
(2)化合物2の合成
α,β-Lactose octaacetate (図1の1, 102mg, 0.150mmol, α/β=1/15)と4-bromobutanol (92μL, 0.60mmol)のDCE (3.0mL)溶液に、室温、窒素雰囲気、攪拌下でBF3-Et2O (38μL, 0.30mmol)を滴下し、70℃で一晩反応させた。反応終了後、EtOAcで希釈し、飽和NaHCO3 水溶液を注ぎ抽出し、有機相をさらに飽和NaHCO3水溶液、飽和食塩水で抽出し、MgSO4で乾燥後、濾過、濃縮した。残渣をシリカゲルカラム(Hex:EtOAc=1.7:1)で精製することで、化合物2 (図1の2, 14.8mg, 12.8%, α/β=10/1)をsyrupとして得た。Rf 0.15 (Hex:EtOAc=2:3); 1H NMR (CDCl3): 5.36 (d, 1H, J4’,5’ 2.9 Hz, H-4’), 5.21 (t, 1H, J3,4 9.5 Hz, H-3), 5.13 (dd, 1H, J2’,3’ 10.4 Hz, H-2’), 4.96 (dd, 1H, J3’,4’3.4 Hz, H-3’), 4.85 (d, 1H, J1,23.9 Hz, H-1), 4.51 (d, 1H, J1’,2’7.9 Hz, H-1’), 4.42 (dd, 1H, J5,6a 1.9 Hz, J6a,6b11.9 Hz, H-6a), 4.18 (dd, 1H, J5’,6a 6.0 Hz, J6a’,6b’11.1 Hz, H-6a’), 4.13 (dd, 1H, J5,6b 5.0 Hz, H-6b), 4.08 (dd, 1H, J5’,6b’ 7.8 Hz, H-6b’), 3.91-3.84 (m, 2H, H-5,5’), 3.76 [dt, 1H, J 6.4 Hz, J 9.9 Hz, OCH2(CH2)2CH2Br], 3.67 (t, 1H, J4,5 9.7 Hz, H-4), 3.57 (dd, 1H, J2,3 10.0 Hz, H-2), 3.51 [dt, 1H, J 6.7 Hz, J 10.2 Hz, OCH2(CH2)2CH2Br], 3.46 [t, 2H, J 6.5 Hz, OCH2(CH2)2CH2Br], 2.16 (s, 3H, CH3CO), 2.13 (s, 3H, CH3CO), 2.12 (s, 3H, CH3CO), 2.06 (s, 6H, CH3CO), 2.04 (s, 3H, CH3CO), 1.97 (s, 3H, CH3CO), 1.96 [m, 2H, O(CH2)2CH2CH2Br], 1.80 [m, 2H, OCH2CH2CH2CH2Br].
【0028】
(3)化合物3の合成
化合物3 (14.8mg, 19.2μmol)のMeOH (2.0mL)溶液に、室温、攪拌下で1M NaOMe/MeOHを滴下した。反応終了後、濃縮し、得られた残渣を逆相カラム(C-18 Sep-Pak, MeOH)で精製することで、化合物3(9.0mg, 98%, α/β=11/1)を得た。Rf 0.11 (DCM:MeOH=3:1); 1H NMR (D2O)。合成したα/βの混合物は、HPLC-MSにより単離した。α体(図1の3A)とβ体(図1の3B)の分離条件:Imtakt C18;240 mm L×100 mm I.D.;流速 1.0 ml/min;溶媒 H2O/CH3CN = 92:8;カラム温度:25度;化合物3Aの溶出時間:19.8分;化合物3Bの溶出時間:21.2分。
化合物3A:1H NMR (D2O): 4.87 (d, 1H, J1, 2 3.8 Hz, H-1), 4.41 (d, 1H, J1’, 2 7.8 Hz, H-1’), 3.89-3.86 (m, 2H), 3.82-3.67 (m, 7H), 3.64-3.59 (m, 2H), 3.57-3.48 (m, 5H), 1.97-1.87 (m, 2H), 1.77-1.71 (m, 2H).
化合物3B:1H NMR (D2O): 4.45 (d, 1H, J1, 2 8.2 Hz, H-1), 4.41 (d, 1H, J1’, 2’ 7.8 Hz, H-1’), 3.95-3.88 (m, 3H), 3.78-3.48 (m, 12H), 3.26 (m, 1H), 1.97-1.87 (m, 2H), 1.77-1.70 (m, 2H).
【0029】
実施例2:オクチル、ブチル、および、4-ブロモブチルグリコシド化合物のCID−MS測定における比較/ブロモブチル基のCID−MS解析における有用性
アグリコンがオクチルオキシ基のサンプルを分析すると、α-オクチル化合物はm/z347、β-オクチル化合物はm/z315が主たるフラグメントイオンとして検出された(図2A、図3A)。α-オクチル化合物で検出された主たるイオンはm/z347でオクチルオキシ基が脱離したイオンである。一見効率良く目的のフラグメントが得られているようだが、絶対値で示したグラフにおいてプリカーサーイオンの元強度に対するフラグメントイオンの減衰が著しいことが明確である(イオン収率:<10%)(図2B、図3B)。これは、さらに詳細な構造情報を取得するため次のCID−MS(ここではMS3) 分析を行おうとする際、取得データの不安定化を引き起こすことに繋がり好ましくない。アグリコンがブチルオキシ基の場合でも同様の結果を得た(図4、図5)。すなわち、このような現象はアルキルグリコシドにおいて一般的であると言える。
【0030】
構成糖がガラクトースとグルコースであり、結合位置が1−4、アグリコンがそれぞれオクチルオキシ基、ブチルオキシ基、ブロモブチルオキシ基である、Galα1−4Glcα/β−Octyl、Galα1−4Glcα/β−Butyl、Galα1−4Glcα/β−BromoButylの質量分析条件下における解裂に関する実験により比較検討した(図2〜図7)。
【0031】
アグリコンがブロモブチルオキシ基のサンプルを分析すると、α体、β体共にm/z 347(Bイオン)が主たるフラグメントイオンとして得られた(図6A、図7A)。また、絶対値でグラフ化したものをみると、プレカーサーイオンの減衰がほとんど無いことがわかる(イオン収率:>90%)(図6B、図7B)。これは、糖鎖のみのフラグメントを効率よく検出できるのみならず、次のCID−MS(ここではMS3)分析の際、データを安定に取得できると共に、MS4、MS5・・・、といった多段階分析を可能とするために有効である。すなわち、ブロモブチルグリコシド化合物は、糖由来のフラグメントイオン、特に、Bイオンを極めて効率よく生成することを特徴とする。したがって、本グリコシド化合物は、糖鎖の構造解析において重要な多くの構造情報を提供する。
【0032】
実施例3:オクチルオキシフェニルグリコシド化合物の合成
実施例2に記載したブロモブチルグリコシド化合物は、糖由来のフラグメントイオン、特に、Bイオンを極めて効率よく生成することを特徴とする。したがって、本グリコシド化合物は、糖鎖の構造解析において重要な多くの構造情報を提供する。しかし、化学合成の行程における選択的な脱保護の条件に対してブロモ基が不安定である等の理由から利用することができない場合、例えば、しばしば用いられる接触還元条件下、ブロモ基の還元反応が起こるため使用することができないため問題となる場合がある。このような場合には、アルキルオキシフェニルグリコシド等に代表されるフェニルグリコシド化合物4(図8)を利用することができる。合成化学における保護基としてはR=Meがよく知られているが、合成後の生成を容易にするためには、逆相カートリッジカラム等により迅速に単離が可能である、例えばR=C17を用いることが望まれる。
【0033】
(1)4-n-Octyloxyphenyl Galの合成
容易に調製される化合物5をBF3−EtO存在下ジクロロメタン中オクチルオキシフェノールと反応させ化合物6を合成した。この化合物を直ちにメタノールに溶解しNaOMeでアセチル基を脱保護して化合物7へと導いた(図9)。
(2)化合物6および7の合成
Phenyl 2,3,4,6-tetra-O-acetyl-1-thio-β-D-galactopyranoside (図9の5, 59.1 mg, 134 μmol)と4-n-Octyloxyphenol (60.3 mg, 263 μmol)のDCM (0.9 mL)溶液に、窒素雰囲気、0℃でBF3-Et2O (38μL, 0.30mmol)を滴下し、一晩反応させた。反応終了後、EtOAcで希釈し、飽和NaHCO3 水溶液を注ぎ抽出し、有機相をさらに飽和NaHCO3水溶液、飽和食塩水で抽出し、MgSO4で乾燥後、濾過、濃縮した。残渣を分取用TLC (Hex : EtOAc = 2.7 : 1)で精製することで化合物6をシロップとして得た。化合物6のMeOH (2.0 mL)溶液に、室温、攪拌下で1M NaOMe/MeOHを滴下した。反応終了後、濃縮し、得られた残渣を逆相カラム(C-18 Sep-Pak, MeOH)で精製することで、化合物7(5.0 mg, 9.7 %)をシロップとして得た。
化合物6; Rf 0.31 (Hex / EtOAc= 2.7 / 1); 1H NMR (CDCl3): 6.97 (d, 2H, J 9.1 Hz, aromatic proton), 6.82 (d, 2H, J 9.1 Hz, aromatic proton), 5.65 (d, 1H, J1, 2 3.6 Hz, H-1), 5.56 (dd, 1H, J3, 4 3.4 Hz, H-3), 5.53 (bd, 1H, J 3.1 Hz, H-4), 5.26 (dd, 1H, J2, 3 10.7 Hz, H-2), 4.39 (t, 1H, J6.7 Hz, H-5), 4.13 (dd, 1H, J5, 6 6.1 Hz, J6, 6’ 11.3 Hz, H-6), 4.08 (dd, 1H, J5, 6’ 7.1 Hz, H-6’), 3.90 {t, 2H, OCH2(CH2)6CH3}, 3.72 (dd, 1H, J5, 6 5.7 Hz, J6, 6’11.4 Hz, H-6), 3.68 (dd, 1H, J5, 6’ 6.5 Hz, H-6’), 2.17, 2.09, 2.03, 1.98 (s x 4, 12H, CH3CO), 1.76 [quintet, 2H, OCH2CH2(CH2)6CH3], 1.44 [quintet, 2H, O(CH2)2CH2(CH2)4CH3], 1.40-1.28 [m, 8H, O(CH2)3(CH2)4CH3], 0.89 [t, 3H, J 6.8 Hz, O(CH2)7CH3].
化合物7; Rf 0.18 (DCM / MeOH= 8 / 1); 1H NMR (CD3OD): 7.09 (d, 2H, J 9.1 Hz, aromatic proton), 6.82 (d, 2H, J 9.1 Hz, aromatic proton), 5.34 (d, 1H, J1, 2 3.0 Hz, H-1), 3.99-3.96 (m, 2H, H-5), 3.94-3.89 {m, 4H, H-2, OCH2(CH2)6CH3}, 3.72 (dd, 1H, J5, 6 5.7 Hz, J6, 6’11.4 Hz, H-6), 3.68 (dd, 1H, J5, 6’ 6.5 Hz, H-6’), 1.74 [quintet, 2H, OCH2CH2(CH2)6CH3], 1.46 [quintet, 2H, O(CH2)2CH2(CH2)4CH3], 1.40-1.27 [m, 8H, O(CH2)3(CH2)4CH3], 0.91 [t, 3H, J 6.8 Hz, O(CH2)7CH3].
【0034】
実施例4:オクチルオキシフェニルグリコシド化合物のCID−MS測定結果
得られる糖鎖フラグメントはBイオンである。フェニルグリコシド化合物は、糖由来のフラグメントイオン、特に、Bイオンを良好な効率で生成(12%)し、糖鎖の構造解析において重要な多くの構造情報を提供する(図10)。
【0035】
実施例5:Boc保護-4-アミノブチルグリコシド化合物の合成
糖鎖の質量分析法による構造解析において、重要な構造情報を与えるフラグメントイオンとして、Cイオンを挙げることができる。しかし、糖鎖の構造解析において一般的に観測されるにもかかわらず、Cイオンを任意に人為的に発生させる方法が無かった。そこで、この目的のために努力した結果、アミノブチルグリコシド化合物(図11の13)、あるいは、この等価体として、アミノ基の保護体(図11の12、14)を用いることができることを発見した。
【0036】
さらに、本アグリコンの別の目的は、糖鎖の機能、あるいは、医薬品探索の目的で糖鎖アレーの作成とこれに次ぐ機能スクリーニングをあげることができる。すなわち、糖鎖ライブラリーは、質量分析による糖鎖の極微量構造解析に有効なだけでなく、糖鎖アレーなどの応用展開による糖鎖機能解析の材料として有望である。その両条件を満足することができるグリコシドの構造を示唆する公知の情報は皆無であった。そのような観点から設計される糖鎖ライブラリーとして、還元末端にオクチルグリコシドを有する3糖を初期に設計していたが、より目的に応じた機能性グリコシドを探索した結果、4−保護アミノブチルグリコシドの発見に至った。
【0037】
以下に、アミノ基を保護したアミノブチルグリコシド化合物の合成を詳細に説明する。3糖の還元末端に導入されるグリコシドに期待される効果としては、以下の3つを挙げることができる。1.効率的な単離精製を可能にする疎水性タグである。2.他の保護基の存在下に選択的に脱保護ができる。3.多段階質量分析において単糖間グリコシド結合より速やかに脱落し、BおよびCイオンを与える。4.簡単な処理により他分子との結合が可能になる官能基を有する。
【0038】
ここでこれまでに得た情報を総合すると以下のようである。1.オクチルグリコシドは疎水性タグとして優れていたが、他の2条件において必ずしも良好ではない。2.4−ブロモブチルグリコシドは3条件を満たすが、合成工程で還元条件が使用できない。3.オクチルオキシフェニルグリコシド化合物はここまですべての問題を解決するが、Cイオンが得られない。
【0039】
質量分析時に見られた4−ブロモブチルグリコシドの高いアグリコン脱離能は、遠隔ラジカル開裂に起因するものと理解できるが、類似構造の4−置換ブチルグリコシドも同等あるいはそれ以上の性能を秘めている可能性があると考えた。また、将来的に他分子との結合を考慮して、4位の置換基としてアミノ基を有する化合物(図11の14)が有効であると考えられ、疎水性タグ性能を確保するためにそのアミノ基を保護した4−保護アミノブチルグリコシドを合成し、その可能性を検証した。
【0040】
アミノ保護基として、トリフルオロ酢酸およびフッ化テトラブチルアンモニウムにより容易に除去が可能なBoc(tert-butyloxycarbonyl)基、および、Teoc(2-trimethylsilyletnoxycarbonyl)基を選択し、ラクトースの4−Bocアミノブチルグリコシド化合物(図11の11)、および、4−Teocアミノブチルグリコシド化合物(図11の13)を調製した(図11)。
【0041】
(1)化合物9の合成
化合物8(1.0 g, 2.30 mmol)のDMF(11.5 mL)溶液に水素化ナトリウム(60% in oil, 0.92 g, 23.0 mmol)を加え、20℃で1時間撹拌した。この溶液を0℃に冷却し、ベンジルブロミド(2.74 mL, 23.0 mmol)を加え、20℃で13時間撹拌した後、メタノール(ca. 2 mL)を加えて反応を停止した。この溶液を飽和食塩水にあけ酢酸エチルで抽出した有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラム(エーテル:ヘキサン=1:4−ヘキサン:酢酸エチル=1:1)にて精製して化合物9(2.3 g)を白色固体として得た(収率94%)。化合物9:1H NMR (CDCl3): δ 7.56-7.09 (m, 40H, Ph), 5.08, 4.67 (each d, 2H, J 10.4 Hz, benzyl), 4.97, 4.54 (each d, 2H, J 11.4 Hz, benzyl), 4.81, 4.77 (each d, 2H, J 11.2 Hz, benzyl), 4.79 (s, 2H, benzyl), 4.72, 4.69 (each d, 2H, J 11.9 Hz, benzyl), 4.63 (d, 1H, J1,29.8 Hz, H-1), 4.52, 4.40 (each d, 2H, J11.9 Hz, benzyl), 4.45 (d, 1H, J1’,2’7.7 Hz, H-1’), 4.33, 4.23 (each d, 2H, J11.2 Hz, benzyl), 3.95 (t, 1H, J3,4= J4,5 9.5 Hz, H-4), 3.93 (d, 1H, J3’,4’ 2.8 Hz, H-4’), 3.82 (dd, 1H, J5,6a 4.4 Hz, J6a,6b11.0 Hz, H-6a), 3.77 (dd, 1H, J2’,3’ 9.6 Hz, H-2’), 3.77 (dd, 1H, J5,6b 1.6 Hz, H-6b), 3.61 (t, 1H, J2,3 8.9 Hz, H-3), 3.52 (t, 1H, J5’,6’a= J6’a,6’b 8.2 Hz, H-6’a), 3.46-3.32 (m, 5H, H-2,3’,5,5’,6’b).
【0042】
(2)化合物10の合成
化合物9(450 mg, 0.422 mmol) とN-Boc-amino-1-butanol (240 mg, 1.27 mmol) のジクロロエタン溶液(4.2 mL)にモレキュラーシーブス(AW-300, ca. 500 mg)を加え、窒素雰囲気下20℃にて1時間撹拌した。0℃に冷却してこの溶液にNIS (145 mg, 0.634 mmol) を加えた後、TfOH (7.5 x 10-3mL, 84.5 x 10-3 mmol)を加えて10分間反応させた。反応溶液に飽和重曹水を加えて反応を停止してセライトろ過した後、ジクロロメタン抽出した溶液を10%チオ硫酸ナトリウム水溶液および蒸留水で順次洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=4:1〜2:1)にて精製して化合物10を収率66%(320 mg, α:β=45:55)で得た。化合物10(α:β = 60 : 40):1H NMR (CDCl3): δ 7.38-7.10 (m, 35H, Ph), 5.05-4.68, 4.62-4.50, 4.39-4.22 (each m, 14H, benzyl), 4.66 (d, 0.6H, J1,2 3.7 Hz, H-1α), 4.43 (d, 0.4H, J1’,2’ 7.7 Hz, H-1’β), 4.35 (d, 0.4H, J1,2 8.7 Hz, H-1β), 4.32 (d, 0.6H, J1’,2’ 7.3 Hz, H-1’α), 3.94-3.88, 3.84-3.71, 3.66-3.46, 3.42-3.29 {each m, 15H, H-2,3,4,5,6a,6b,2’,3’,4’,5’,6’a,6’b,NH, OCH2(CH2)2CH2NHBoc}, 3.16-3.08 {m, 2H, OCH2(CH2)2CH2NHBoc}, 1.70-1.50 (m, 4H, OCH2(CH2)2CH2NHBoc), 1.43 (s, 9H, t-Bu). 13C NMR (CDCl3): δ・155.94, 155.89, 139.37, 139.04, 138.98, 138.97, 138.84, 138.70, 138.64, 138.51, 138.47, 138.43, 138.27, 138.08, 138.00, 137.99, 128.31, 128.28, 128.24, 128.22, 128.18, 128.16, 128.09, 128.02, 127.98, 127.93, 127.91, 127.87, 127.82, 127.78, 127.75, 127.67, 127.62, 127.52, 127.48, 127.45, 127.38, 127.35, 127.33, 127.28, 127.09, 127.02, 126.94, 103.42, 102.77, 102.72, 97.04, 82.93, 82.44, 82.41, 81.68, 80.20, 79.86, 79.00, 78.90, 75.32, 75.16, 75.07, 75.03, 74.91, 74.63, 73.52, 73.46, 73.44, 73.34, 73.31, 73.03, 72.99, 72.95, 72.86, 72.46, 72.42, 70.13, 69.37, 68.21, 68.06, 67.96, 67.66, 40.19, 40.13, 28.38, 26.89, 26.85, 26.45.
【0043】
(3)化合物11の合成
化合物10(43 mg, 37.6 x 10-3 mmol)を酢酸エチル-メタノール混合溶液(1:1, 2 mL)に溶かし、20 wt%水酸化パラジウム/C(ca. 10 mg)存在下で水素添加して化合物11を定量的収率(19.3 mg)で得た。化合物11(α:β = 50 : 50):1H NMR (D2O): δ 4.87 (d, 0.5H, J1,23.7 Hz, H-1α), 4.46 (d, 0.5H, J1,28.0 Hz, H-1β), 4.41 (d, 1H, J1’,2’7.8 Hz, H-1’), 3.95-3.49 {m, 12H, H-2,2’,3,3’,4,4’,5,5’,6a,6’a,6b,6’b,OCH2(CH2)2CH2NHBoc}, 3.56 (dd, 0.5H, J2,39.7 Hz, H-2α), 3.27 (m, 0.5H, H-2β), 3.06 {t, 2H, J 6.6 Hz, OCH2(CH2)2CH2NHBoc}, 1.65-1.47 {m, 4H, OCH2(CH2)2CH2NHBoc}, 1.39 (s, 9H, t-Bu). 13C NMR (D2O): δ 158.75, 103.28, 103.22, 102.39, 98.21, 81.19, 78.69, 75.73, 75.12, 74.78, 73.19, 72.92, 72.87, 72.12, 71.36, 71.33, 70.80, 70.51, 68.92, 68.31, 61.42, 61.40, 60.42, 60.24, 40.08, 28.06, 26.87, 26.41, 26.28, 26.19, 25.85, 20.28.
【0044】
(4)化合物13の合成
化合物10(54 mg, 47.2 x 10-3 mmol)をジクロロメタン(1 mL)に溶かしトリフルオロ酢酸(1 mL)を加え室温で30分間撹拌した後、濃縮して脱Boc体を得た。これをトリエチルアミン(ca. 200 mg)を含む1,4-ジオキサン(1 mL)に溶かし、1-[2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル]ピロリジン-2,5-ジオン(14.7 mg, 56.6 x 10-3 mmol)を加えて室温で30分間撹拌した。反応溶液を濃縮して得られた粗生成物をシリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=5:1〜3:1)にて精製して化合物5を2工程収率73%(40.9 mg)で得た。この化合物5を酢酸エチル-メタノール混合溶液(1:1, 3 mL)に溶かし、20 wt%水酸化パラジウム/C(ca. 10 mg)存在下で水素添加して化合物13を定量的収率(19.2 mg)で得た。化合物13(α:β = 60 : 40);1H NMR (D2O): δ 4.87 (d, 0.6H, J1,2 3.7 Hz, H-1α), 4.44 (d, 0.4H, J1,2 8.0 Hz, H-1β), 4.41 (d, 1H, J1’,27.8 Hz, H-1’), 4.15 (t, 2H, OCH2CH2TMS), 3.95-3.49 {m, 12H, H-2,2’,3,3’,4,4’,5,5’,6a,6’a,6b,6’b,OCH2(CH2)2CH2NHTeoc}, 3.56 (dd, 0.6H, J2,39.9 Hz, H-2α), 3.27 (m, 0.4H, H-2β), 3.11 {t, 2H, J 5.9 Hz, OCH2(CH2)2CH2NHTeoc}, 1.64-1.51 {m, 4H, OCH2(CH2)2CH2NHBoc}, 0.96 (t, 2H, OCH2CH2TMS), 0.00 (s, 9H, TMS). 13C NMR (D2O ): δ・159.36, 103.29, 103.22, 102.39, 98.22, 78.70, 75.74, 75.14, 74.80, 73.20, 72.92, 72.88, 72.12, 71.37, 71.33, 70.80, 70.50, 68.93, 68.31, 64.39, 61.43, 61.41, 60.43, 60.24, 40.38, 40.31, 26.38, 26.25, 26.19, 25.85, 25.54, 17.33, 0.20, -2.04, -2.24.
【0045】
(5)化合物14の合成
化合物13(3.5 mg, 6.28 x 10-3 mmol)を水(20 x 10-3 mL)に溶かしフッ化テトラブチルアンモニウム(1 M テトラヒドロフラン溶液;19 x 10-3 mL : 3 equiv.)を加え室温で20時間撹拌した後、溶液を濃縮して脱Teoc体14を定量的収率で得た。化合物14 (α:β = 60 : 40);1H NMR (D2O): δ 4.87 (d, 0.6H, J1,2 3.8 Hz, H-1α), 4.45 (d, 0.4H, J1,2 8.0 Hz, H-1β), 4.41 (d, 1H, J1’,2’ 7.8 Hz, H-1’α), 4.40 (d, 1H, J1’,2’ 7.8 Hz, H-1’β), 3.96-3.48 {m, 14H, H-2,2’,3,3’,4,4’,5,5’,6a,6’a,6b,6’b,OCH2(CH2)2CH2NH2}, 3.00 {t, 2H, J 7.4 Hz, OCH2(CH2)2CH2NH2}, 1.77-1.60 {m, 4H, OCH2(CH2)2CH2NH2}.
【0046】
実施例6:保護-4-アミノブチルグリコシド化合物(11および13)のCID−MS測定結果
(1)化合物13のCID−MS測定
Teoc保護-4-アミノブチルグリコシド化合物(図11の13)の分子イオンピークm/z580.3をCID−MS分析した結果、Teoc基の部分分解とそれによって生成するアミノブチルグリコシドの分子イオンピークm/z436.1を確認した(図12A)。得られたアミノブチルグリコシドの分子イオンピークm/z436.1をさらにCID−MS分析した結果、ラクトースの分子イオンピークm/z365.0とその脱水物m/z347.0が主生成することが確認された(図12B)。
【0047】
(2)化合物11のCID−MS測定
Boc保護-4-アミノブチルグリコシド化合物(図11の11)の分子イオンピークm/z536.3をCID−MS分析した結果、Boc基のt−butyl基の脱離によるフラグメントイオンm/z480.1とBoc基の脱離したイオンである4−アミノブチルグリコシドm/z436.1が確認された(図13A)。得られた4−アミノブチルグリコシドm/z436.1をさらにCID−MS分析するとラクトースm/z365.0およびその脱水物m/z347.0の生成が確認された(図13B)。Boc基のt−butyl基脱離イオンm/z480.1のCID−MS3分析では、Boc脱離物である4−アミノブチルグリコシドm/z436.1が確認された(図13C)。得られたラクトースイオンm/z365.0についてCID−MS分析すると、脱水物m/z347.0が確認された(図13D)。MS3分析で得られた脱水物イオンm/z347.0についてCID−MS分析すると、単糖間グリコシド結合の開裂に伴うイオンm/z184.8が観測された(図13E)。
【0048】
(3)アミノブチルグリコシドの推定脱離機構
以上の事実から、4−Bocアミノブチルグリコシド(図11の11)、および、4−Teocアミノブチルグリコシド(図11の13)は、CID−MS解析において速やかに4−アミノブチルグリコシドへと変換され、これが単糖間グリコシド結合を損なうこと無く2糖の分子イオンピークを与えたものであると結論される。一連の分解過程は次の図14に要約される。
【0049】
通常の脂肪族アミンでは、窒素原子に続く炭素−炭素結合(αβ)開裂が観測されるが、長い鎖をもつアミンからは環状構造のフラグメントが生成することが示唆されており、4−アミノブチルグリコシドの場合は後者に属するものと考えられる。環状アミンをフラグメントとして生成するためには、グリコシド結合を構成する炭素−酸素結合ではなく、アグリコンに含まれる炭素−炭素結合が開裂することになり、CID−MS測定によって最終的に1−OH体(m/z365.0)が観測された事実は、そのようなアグリコン脱離機構を支持するものであると考えられる。
【0050】
4−ブロモブチルグリコシドがMS分析条件下において呈した遠隔ラジカル開裂に伴うアグリコン脱離では、グリコシド結合を構成する酸素原子がアグリコンに含まれるために、Bイオン情報の取得に有効であるが1−OH体が観測されない。すなわち、Cイオンに関する情報が得られない欠点がある。一方、4−アミノブチルグリコシドからは1−OH体が生成するので、オリゴ糖の還元末端を保持したCイオン情報の取得に特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、4-ブロモブチルグリコシド化合物の合成経路を示す。
【図2】図2は、アグリコンがオクチルオキシ基のグリコシド化合物(α体)をCID−MS測定した結果を示す。Aは、100分率表示のERMS、Bは、イオン電流で表したERMSである。
【図3】図3は、アグリコンがオクチルオキシ基のグリコシド化合物(β体)をCID−MS測定した結果を示す。Aは、100分率表示のERMS、Bは、イオン電流で表したERMSである。
【図4】図4は、アグリコンがブチルオキシ基のグリコシド化合物(α体)をCID−MS測定した結果を示す。Aは、100分率表示のERMS、Bは、イオン電流で表したERMSである。
【図5】図5は、アグリコンがブチルオキシ基のグリコシド化合物(β体)をCID−MS測定した結果を示す。Aは、100分率表示のERMS、Bは、イオン電流で表したERMSである。
【図6】図6は、アグリコンがブロモブチルオキシ基のグリコシド化合物(α体)をCID−MS測定した結果を示す。Aは、100分率表示のERMS、Bは、イオン電流で表したERMSである。
【図7】図7は、アグリコンがブロモブチルオキシ基のグリコシド化合物(β体)をCID−MS測定した結果を示す。Aは、100分率表示のERMS、Bは、イオン電流で表したERMSである。
【図8】図8は、アルキルオキシフェニルグリコシド化合物の化学構造式を示す。
【図9】図9は、4−n−オクチルオキシフェニルグリコシド化合物の合成経路を示す。
【図10】図10は、オクチルオキシフェニルグリコシド化合物をCID−MS測定した結果を示す。
【図11】図11は、Boc保護-4−アミノブチルグリコシド化合物およびTeoc保護-4−アミノブチルグリコシド化合物の合成経路を示す。
【図12】図12は、Teoc保護-4-アミノブチルグリコシド化合物をCID−MS測定した結果を示す。
【図13】図13は、Boc保護-4-アミノブチルグリコシド化合物をCID−MS測定した結果を示す。
【図14】図14は、アミノブチルグリコシドの推定脱離機構を示す。
【図15】図15は、B−イオンおよびC−イオンを説明する図である。
【出願人】 【識別番号】000005968
【氏名又は名称】三菱化学株式会社
【出願日】 平成19年4月27日(2007.4.27)
【代理人】 【識別番号】100103997
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 曉司


【公開番号】 特開2008−273884(P2008−273884A)
【公開日】 平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願番号】 特願2007−120062(P2007−120062)