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【発明の名称】 オリゴチオフェン系液晶化合物、カラムナー液晶材料およびその用途
【発明者】 【氏名】加藤 隆史

【氏名】安田 琢磨

【氏名】岸本 健史

【氏名】下村 武史

【氏名】箕浦 潔

【氏名】森田 淳

【氏名】赤間 祐介

【要約】 【課題】新規なオリゴチオフェン系液晶化合物およびカラムナー液晶材料の提供。

【構成】式(1)で示されるとおり、オリゴチオフェン骨格の中心コア部の両端に、少なくともm−位にジアルコキシ置換基をもつフェニル基が連結され、フェニル基を含む芳香族コア部と、樹枝状の柔軟なアルコキシ基からなる末端溶融部をもつダンベル型オリゴチオフェン誘導体。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される液晶化合物:
【化1】



式中、ZおよびZは、互いに同一であっても異なっていてもよく、単結合、−C(O)−、−C(S)−または−C(O)−NH−であり、R、R、R2’およびRは、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素原子数3〜20のアルコキシ基であり、R、R、R、R1’、R3’およびR5’は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜20のアルキルまたはアルコキシ基であり、nは3〜20である。
【請求項2】
請求項1に記載の液晶化合物の1種または2種以上を含む、前記液晶化合物のカラムナー液晶相を自己組織的に形成する液晶材料。
【請求項3】
前記カラムナー液晶相が、前記液晶化合物の分子層の一次元積層体からなるカラムから形成される請求項2に記載の液晶材料。
【請求項4】
前記カラムの分子層が、一階層あたり平均3分子の前記液晶化合物を含む請求項3に記載の液晶材料。
【請求項5】
前記カラムナー液晶相が、前記カラムのヘキサゴナル集合体からなるドメインを有する請求項3または4に記載の液晶材料。
【請求項6】
蛍光発光材料である請求項2〜5のいずれかに記載の液晶材料。
【請求項7】
前記液晶化合物の自己組織膜で形成される請求項2〜6のいずれかに記載の液晶材料からなる液晶性薄膜。
【請求項8】
前記液晶化合物の自己組織膜の一軸配向膜である請求項2〜6のいずれかに記載の液晶材料からなる配向膜。
【請求項9】
請求項8に記載の配向膜からなる偏光蛍光発光薄膜。
【請求項10】
前記液晶化合物を液晶温度に加熱し、形成された液晶相に機械的剪断を加え、カラムナー液晶相を一軸配向させる、請求項8に記載の配向薄膜の製造方法。
【請求項11】
請求項2〜6のいずれかに記載の液晶材料を用いた有機電子デバイス。
【請求項12】
請求項2〜6のいずれかに記載の液晶材料を用いた光デバイス。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴチオフェン系液晶化合物、カラムナー液晶材料およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
オリゴチオフェンは、高い電荷移動度を示す有機半導体材料として、従来注目されている。たとえば、3〜5量体のオリゴチオフェン骨格の末端にメチル基またはエチル基を有するオリゴチオフェン誘導体をソースとドレインの間に連続的に配置させた電子素子が提案されている(特許文献1など参照)。
【0003】
最近、液晶π共役材料は、ナノ構造を容易に形成する電子材料となりうることから多いに注目されている。なかでもπ共役オリゴチオフェンは、電界効果トランジスタ(FET)用有機半導体として期待され、特異的な電気的特性および光学的特性を有する高秩序性の分子集合体を構築しうるオリゴチオフェン誘導体の開発が望まれている。これまで、いくつかスメクチックおよびネマチック液晶オリゴチオフェンが報告され、いくつかはFETに適用されている(たとえば非特許文献1〜3参照)。
【0004】
液晶π共役材料のうちでも、カラムナー液晶は、隣接する分子のπ電子共役系の重なりがカラム方向に最も大きくなるため、一次元の電子移動が高速であることが予想される。π共役カラムナー液晶は、有機EL素子の電荷輸送層、太陽電池などへの利用が期待される。このようなカラム方向に沿う移動性の高められた一次元輸送電荷担体となるπ共役カラムナー液晶材料として、たとえばトリフェニレン、ヘキサベンゾコロネンおよびペリレンジイミド誘導体などが知られている(たとえば非特許文献4参照)。
【0005】
また、ホメオトロピック配向性のデスコティックなカラムナー液晶相を形成可能なフタロシアニン系液晶性化合物の提案もある(特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平4−133351号公報
【特許文献2】特開2004−300281号公報
【非特許文献1】S. Xiaoら, Angew. Chem. Int. Ed., 2005, 44, 7390
【非特許文献2】I. McCullochら, J. Mater. Chem., 2003, 13, 2436
【非特許文献3】B.-H. Huismanら, Adv. Mater., 2003, 15, 2002
【非特許文献4】A. J. J. M. van Breemenら, J. Am. Chem. Soc., 2006, 128, 2336
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
異方的電気伝導性を得るためには、カラムナー液晶相の配向を巨視的にかつ的確に制御することが極めて重要である。本発明は、カラムナー液晶相を自己組織的に形成しうる新規なπ共役液晶化合物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記のようなπ共役液晶化合物として、芳香族コア部として電荷移動度の高いオリゴチオフェン骨格を含む化合物について検討したところ、該中心コア部の両端に、少なくともm−位にジアルコキシ置換基をもつフェニル基を連結し、フェニル基を含む芳香族コア部を完成するとともに、樹枝状の柔軟なアルコキシ基からなる末端溶融部を設計したところ(以下、ダンベル型オリゴチオフェン誘導体と称することもある)、中心コア部と末端部との適切なバランスによりサーモトロピックカラムナー液晶相を形成することを見出した。上述のとおりオリゴチオフェン骨格を有する液晶化合物は知られているが、カラムナー液晶相を形成するものはまだ報告されていない。
したがって本発明は、上記構造すなわち後述する式(1)で示されるとおりのオリゴチオフェン骨格を有する液晶化合物を提供する。
【0009】
この液晶化合物のいくつかは、後述する実施例で液晶特性およびカラムナー液晶相の形成が確かめられている。したがって本発明は、上記のような液晶化合物の1種または2種以上を含み、カラムナー液晶相を自己組織的に形成する液晶材料を提供する。
上記液晶材料において、カラムナー液晶相は、液晶化合物の分子層の一次元積層体であるカラムから形成される。
カラムの分子層は、通常、一階層あたり複数の液晶化合物分子を含み、典型的に平均3分子含む。
カラムナー液晶相は、上記のようなカラムのヘキサゴナル集合体(以下、Colとも記す)からなるドメインを有する。
【0010】
本発明では、上記液晶材料を蛍光発光材料として提供することができる。
上記液晶材料の形態例は、液晶化合物の自己組織膜で形成される液晶性薄膜である。
また、液晶化合物の自己組織膜の一軸配向膜すなわち液晶材料からなる配向膜を提供することもできる。本発明の配向膜は、電荷輸送材料として、また偏光蛍光発光薄膜として有用である。
【0011】
本発明では、液晶化合物を液晶温度に加熱し、形成された液晶相に機械的剪断を加え、カラムナー液晶相を一軸配向させる、配向膜の製造方法も提供する。
【0012】
本発明の他の態様例は、上記のような液晶材料を用いた有機電子デバイスである。
本発明のさらに他の態様例は、上記のような液晶材料を用いた光デバイスである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、π共役オリゴチオフェン系サーモトロピックカラムナー液晶をはじめて提供する。本発明に係る液晶材料は、オリゴチオフェン骨格を含有する特定構造の液晶化合物の1種または2種以上からなり、自己組織的にカラムナー液晶相を形成する。このような液晶材料は、π共役カラムナー液晶相による一次元の高速電子移動が見積もられ、有機EL素子の電荷輸送層、太陽電池などへの利用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明をより具体的に説明する。
本発明に係る液晶化合物は、下記式(1)で示される。
【化1】



式中、ZおよびZは、互いに同一であっても異なっていてもよく、単結合、−C(O)−、−C(S)−または−C(O)−NH−であり、である。典型例は、Z=Zであり、−C(O)−である。
nは3〜20である。nは、カラムナー液晶において剛直な中心コア部の長さを決定するものであるが、カラムナー液晶として好ましいn数は、R〜R、R1’〜R5’の置換基数、置換基長さなどによっても異なり、また液晶材料を単一種により形成するか、あるいは2種以上の組み合わせで形成するかによっても異なる。これらから一概にはいえないが、単一種でカラムナー液晶を形成する態様では、通常5以上が望ましい。また剛直性を考慮すれば、最長でも12以下が望ましい。
【0015】
、R、R2’およびR4’は、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素原子数3〜20のアルコキシ基、好ましくは炭素原子数8以上、より好ましくは炭素原子数12以上のアルコキシ基である。アルコキシ基は特に分岐部を有するものを排除するものではないが、柔軟性の末端構造およびコア部とのナノ相分離の容易さを考慮すれば直鎖状であることが望ましい。
、R、R、R1’、R3’およびR5’は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜20のアルキルまたはアルコキシ基である。ここでのアルキルまたはアルコキシ基は、上記Rなどと同様である。
【0016】
上記のうちでも、合成上、典型的な態様例は、コア部を介して両末端部が同一の構造である。また、RおよびR3’が、R、R、R2’およびR4’と同様のアルコキシ基である態様も、典型的な構造例である。
【0017】
上記式(1)で示される液晶化合物のうちでも、下記式(2)で示される態様は、後述する実施例に示すとおり、単一種でもカラムナー液晶相を形成する液晶材料であることが確認されている。
【化2】



式中、nは5または6であり、RはC12−18のアルキル基である。
【0018】
本発明の液晶材料は、上記のような式(1)で示される液晶化合物の1種または2種以上を含む、カラムナー液晶相を自己組織的に形成する液晶材料である。この液晶材料は、必ずしも単一種でカラムナー液晶相を形成するものに制限されず、他種との組合わせとすることもできる。
【0019】
上記のような式(1)で示される液晶化合物は、公知の合成方法を適宜に選択すれば、合成することができ、特に制限されない。たとえばチオフェン5量体およびチオフェン6量体の誘導体は、後述のパラジウム触媒カプリング反応に基づく合成スキーム1として示す方法により合成可能である。該方法は、オリゴチオフェンの繰り返し単位数を所望数に制御することができ、好ましい。
これら化合物は、クロロホルム、ジクロロメタン、THFおよびトルエンなどの通常の有機溶媒に可溶である。
【0020】
上記のように本発明の液晶化合物の分子設計は、中心部の芳香族コアの各端に連結した末端アルコキシ鎖を有する形態すなわちダンベル型オリゴチオフェン誘導体であることを特徴とし、該分子は、液晶層における一次元分子の積層体すなわちカラムを形成することができる。本発明において、分子間のオリゴチオフェン部位のπ−π相互作用、ならびに中心芳香族コアと周囲のアルコキシ部位とのナノ相分離が、これら分子のカラムナー液晶相の形成を促進する。
また本発明の液晶材料からなるカラムナー液晶相は、通常、カラムのヘキサゴナル集合体からなるドメインを有する態様をとる。
このカラムナー液晶相は、サーモトロピックに自己組織化して形成される。
【0021】
このような液晶化合物および液晶材料は、DSC、偏光顕微鏡、紫外−可視吸収スペクトル、蛍光スペクトル、赤外吸収スペクトル、XRDなどの常套の機器分析により、液晶特性、カラムナー相構造などを確認することができる。
【0022】
これらの具体的特性は、実施例中で説明するが、本発明化合物の相の挙動は、カラムナー相を示すことから、もっぱらネマチックおよび/またはスメクチック相が観察されると従来報告された液晶オリゴチオフェンの公知文献(たとえば非特許文献1〜3)などに示されるものとは顕著に相違する。
なお、実施例における結果から、剛直なロッド状オリゴチオフェン部分は一次元ドメインを形成し、溶融したアルコキシ部位がカラムの外側部分を埋めていることが推測される。図6中に、挿入部として、ダンベル型オリゴチオフェン誘導体のCol液晶相への自己組織性を模式的に説明する図を示す。ここでアルコキシ鎖はひだ状でかつ隣接カラム間で相互嵌入している。
【0023】
カラムの分子層は、通常、一階層あたり複数の液晶化合物分子を含み、実施例に基づき、各カラムの一階層あたり、概ね、平均3分子が含まれていると見積ることができる。
なおカラム各階層の平均分子数(μ)は、次式にしたがって概算した: μ=(√3Nhρ) /2M(ここで、Nはアボガドロ数, aは格子定数(表1参照)、hは層厚み(約4.5オングストローム),ρは密度(1gcm−3と仮定)およびMは化合物の分子量である。)
【0024】
一次元カラムナー積層体は、機械的剪断を印加することにより、一軸的に配向することができる。カラム構造の一軸配向は、KBr結晶板またはガラス板に挟み込んだ液晶化材料のCol相のポリドメインに、機械的剪断を加えれば容易に達成することができる。
【0025】
Col相の機械的剪断による配向は偏光顕微鏡写真で観察することができる。本発明では、カラムナー材料が剪断方向に平行に整列する傾向があることが観察される。配向した液晶材料の複屈折は、クロスニコル条件下、45°回転ごとに明から暗に交互に変化する。さらに、Col相における配向した液晶材料の偏光赤外スペクトルは、たとえば1435cm−1におけるオリゴチオフェンコアの芳香族C=C伸縮結合について二色性を示す。この観察結果は、オリゴチオフェンのπ−π積層方向が、剪断方向に平行であることの根拠となる。巨視的なカラムの配向は、分子の積層に沿って異方的電荷輸送をさせるであろう。
【0026】
上記のとおり、ダンベル型オリゴチオフェン誘導体がカラムナー液晶相を示すことを始めて提案する。オリゴチオフェン部分の分子間のπ−π相互作用およびナノ相分離は、そのような一次元の超分子集合体の形成を促進する。カラムナー構造の一軸配向は、液晶状態においてなされる。
このような本発明のカラムナー液晶π共役オリゴチオフェンは、有機光電子デバイスの電荷輸送材料として期待される。したがって本発明では、上記のような液晶材料を電荷輸送材料として用いた有機電子デバイスを提供することができる。
【0027】
また、本発明に係る液晶化合物は蛍光発光性であり、すなわち本発明の液晶材料は蛍光発光材料でもある。したがって、本発明では、上記のような液晶材料を用いた光デバイスを提供することもできる。
【0028】
上記のような有機電子デバイス、光デバイスの態様において、本発明の液晶材料を用いること以外は、特に制限されず、デバイス形状、構成などはその用途において適宜に設定することができる。
【0029】
ここで、本発明で提供する液晶材料の好ましい態様として、液晶性薄膜が挙げられる。この液晶性薄膜は、液晶化合物の自己組織膜で形成されることが特徴的である。液晶性薄膜は、液晶化合物を一旦溶解した後冷却することにより容易に得ることができる。
本発明では、特に、上記したように、液晶化合物の液晶状態におけるカラムナー構造を一軸配向させた液晶性薄膜である配向膜が好ましい態様として挙げることができる。配向膜は、たとえば上記電荷輸送材料、偏光蛍光発光薄膜として有用であり、本発明の液晶材料(液晶化合物)を有機電子デバイス、光デバイスに膜形態で組込むことができる。
【0030】
本発明において、配向膜は、液晶化合物の自己組織膜を一方向に配向させることにより容易に得ることができる。配向膜の製造方法は特に制限されないが、たとえば液晶化合物を液晶温度に加熱し、液晶温度において、形成された液晶相に機械的剪断(ズリ)を加え、カラムナー液晶相を一軸配向させることにより得ることができる。
この方法において、液晶化合物の液晶温度に加熱し液晶相を形成する工程は、通常、液晶化合物を一旦等方相(液体相)まで加熱した後、液晶温度まで降温させて行なう。
【0031】
また、配向膜の別の製造方法としては、表面に配向処理が施された2枚の平板の間に液晶材料を導入し、液晶材料が等方相(液体相)となるまで加熱し,その後、液晶材料が液晶相または固体相となるまで冷却する方法が挙げられる。配向処理された2枚の平板は、たとえば、ラビング処理を施したポリイミド膜などであり、このポリイミド膜は、ガラス板表面に被覆したものであってもよい。
【0032】
上記のような配向膜の製造において、表面にリブ列を形成した平板(図示せず)を用い、リブ同士の間隙に蛍光発光材料である液晶材料を配し、ズリをかけることにより微細パターン加工をすることもできる。この各リブの間隙に配する液晶材料として、別々の色たとえば赤色と緑色とを配することができる。
【実施例】
【0033】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<材料および合成>
以下の実施例において、試薬および溶媒はすべて、アルドリッチケミカル社または東京化成工業(株)から入手した。
Pd(PPhは、文献(D. R. Coulson, Inorg. Synth., 1972, 13, 121)に準じて得た。
チオフェン-2,5-ジボロン酸(下記スキーム1中の8)および2,2'-ビチオフェン-5,5'-ジボロン酸(スキーム1中の9)を、文献(T. Olinga, S. Destri and W. Porzio, Macromol. Chem. Phys., 1997, 198, 1091);M. Jayakannan, J. L. J. van Dongen and R. A. J. Janssen, Macromolecules, 2001, 34, 5386)の記載と同様の手順により調製した。
【0034】
<機器分析>
H-および13C{H}-NMRスペクトルは、日本電子(株)(JEOL)製JNM-LA400スペクトロメータを用いて測定した。
マススペクトル(MS)は、パーセプティブ バイオシステムス社(PerSeptive Biosystems)製Voyager-DE STRスペクトロメータを用いて測定した。
元素分析はヤナコ社製MT−6CHNコーダーを用いて行った。
示差走査熱量測定(DSC)は、ネッチ社(NETZSCH)製DSC204 Phoenix熱量計により、昇温速度5℃min−1で実施した。
光学顕微鏡観察には、メトラー社(Mettler)製FP82HTホットステージを装備したオリンパス社製偏光顕微鏡BH-51を用いた。
FT-IRスペクトルの測定は、日本分光(株)(JASCO)製IRT-30顕微鏡およびMettler FP82HTホットステージを装備したJASCO製FT/IR-660 Plusスペクトロメータで行った。
配向サンプルは、文献(M. Yoshio,T. Mukai,H. OhnoおよびT. Kato,J. Am. Chem. Soc.,2004,126,994)に準じて、KBr結晶板またはガラス板でサンドイッチして、機械的剪断を印加することにより調製した。
X線回折(XRD)パターンは、加熱装置を装備したリガク社(Rigaku)製RINT-2500回折装置により、線源:CuKα線を用いて測定した。
紫外−可視(UV-vis)吸収スペクトルおよび蛍光(PL)スペクトルは、それぞれ、アジレント社(Agilent)製8453およびJASCO製FP-777W分光器を用いて測定した。
【0035】
<スキーム1>
【化3】


【0036】
(合成例1)キンキチオフェン(5量体)誘導体の合成
【化4】



上記スキーム1に示す合成経路を用いて化合物1a−1cおよび2a−2cを得た。すべての反応は、標準的なシュレンク技術を用いてAr雰囲気下で行った。
【0037】
工程1:2-ブロモ-5-(3,4,5-トリメトキシベンゾイル)チオフェン(3)の合成
3,4,5-トリメトキシベンゾイルクロライド(20.8g,90mmol)および2-ブロモチオフェン(15.3g,94mmol)の乾燥CHCl(200mL)溶液に、0℃で、Ar雰囲気下、ゆっくりとAlCl(13.2g,99mmol)を添加した。その後、混合物を室温で3時間撹拌した。反応混合物を、希塩酸(ca.5%)中に加え、生成物をCHClで3回抽出した。有機相を1つに合わせ、水で洗浄した後、無水NaSOで乾燥した。ろ過、次いで溶媒を留去した後、粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカ,CHCl)で精製し、真空乾燥して、標題の化合物3を淡黄色固体で得た(収量21.8g,収率68%)。
【0038】
【表1】


【0039】
工程2:5-(3,4,5-トリメトキシベンゾイル)-2,2’-ビチオフェン(4)の合成
上記で得られた化合物3(14.3g,40mmol)および2-トリブチルスタニルチオフェン(16.4g,44mmol)を含む乾燥DMF(160mL)溶液に、室温で、Ar雰囲気下、Pd(PPh(1.85g,1.6mmol)を添加した。混合物を80℃で10時間撹拌した。室温に冷却後、反応混合物を、KF水溶液(ca.5%)中に注ぎ、析出させた。沈殿物をろ別し、CHClに溶解した後、カラムクロマトグラフィー(シリカ,CHCl)で精製した。CHCl/ヘキサンで再結晶して、標題の化合物4を黄色固体で得た(収量12.8g,収率89%)。
【0040】
【表2】


【0041】
工程3:5-ブロモ-5’-(3,4,5-トリメトキシベンゾイル)-2,2’-ビチオフェン(5)の合成
上記で得られた化合物4(7.21g,20mmol)の乾燥DMF溶液(150mL)に、0℃で、Ar雰囲気下、ゆっくりとN-ブロモスクシンイミド(3.56g,20mmol)を添加した。混合物を室温で10時間撹拌し、その後大容量の水中に注いだ。生成物をCHClで3回抽出した。有機相を1つに合わせ、水で洗浄した後、無水NaSOで乾燥した。ろ過、次いで溶媒を留去した後、粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカ,CHCl/ヘキサン/酢酸エチル=5:5:1)で精製し、真空乾燥して、標題の化合物5を黄色固体で得た(収量7.64g,収率87%)。
【0042】
【表3】


【0043】
工程4:5-ブロモ-5’-(3,4,5-トリヒドロキシベンゾイル)-2,2’-ビチオフェン(6)の合成
上記で得られた化合物5(7.03g,16mmol)の乾燥CHCl(200mL)溶液中に、撹拌しながら、0℃で、Ar雰囲気下、BBr(1.0M CHCl溶液,53mL)を滴下した。混合物を室温まで加温し、さらに4時間撹拌した。その後、反応混合物をメタノールでクエンチして、減圧下で乾燥した。得られた残渣を水中に装入し、黄色沈殿を得た。生成物をろ取し、冷メタノール、CHCl、ヘキサンの順で洗浄し、真空乾燥して、標題の化合物6を黄色固体で得た(収量量=6.17g,収率97%)。
【0044】
【表4】


【0045】
工程5a:5-ブロモ-5’-(3,4,5-トリ-N-ドデシルオキシベンゾイル)-2,2’-ビチオフェン (7a)の合成
乾燥DMF(30mL)中に、上記で得られた化合物6(2.38g,4.0mmol),1-ブロモドデカン(4.98g,20mmol)およびKCO(4.15g,30mmol)を含む混合物を、80℃で、Ar雰囲気下、20時間激しく撹拌した。室温まで冷却した後、反応混合物を、希塩酸(ca.5%)中に加え、生成物をCHClで3回抽出した。有機相を1つに合わせ、塩水および水で洗浄した後、無水NaSOで乾燥した。ろ過、次いで溶媒を留去した後、生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカ,CHCl/ヘキサン=2:1,v/v)で精製し、真空乾燥して、標題の化合物7aを淡黄色固体で得た(収量4.81g,収率89%)。
【0046】
【表5】


【0047】
工程5b:5-ブロモ-5’-(3,4,5-トリ-N-テトラデシルオキシベンゾイル)-2,2’-ビチオフェン(7b)の合成
1-ブロモドデカンを、1-ブロモテトラデカン(20mmol)に代えた以外は、工程5aと同様の操作により、標題の化合物7bを淡黄色固体として得た(収量91%)。
【表6】


【0048】
工程5c:5-ブロモ-5’-(3,4,5-トリ-N-オクタデシルオキシベンゾイル)-2,2’-ビチオフェン(7c)の合成
1-ブロモドデカンを、1-ブロモオクタデカン(20mmol)に代えた以外は、工程5aと同様の操作により、標題の化合物7cを淡黄色固体として得た(収量87%)。
【表7】


【0049】
工程6a:化合物1aの合成
上記工程5aで得られた化合物7a(1.17g,1.3mmol)およびチオフェン-2,5-ジボロン酸(スキーム1中の化合物8)(0.10g,0.6mmol)を乾燥THF(10mL)に溶解させ、Ar雰囲気下、Pd(PPh(0.03g,0.03mmol)およびKCO(2.0M,5mL;使用前にArで脱気)を加えた。混合物を60℃で28時間撹拌した。反応混合物は、室温まで冷却した後、水中に注ぎ、CHClで3回抽出した。有機相を1つに合わせ、塩水および水で洗浄した後、無水NaSOで乾燥した。ろ過、次いで溶媒を留去した後、生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカ,CHCl)で精製し、CHCl/アセトンで再結晶して、真空乾燥した。目的の化合物1aをオレンジ色固体で得た(収量0.86g,収率83%)。
【0050】
【表8】


【0051】
工程6b:化合物1bの合成
化合物7aを、上記工程5bで得られた化合物7b(1.28g,1.3mmol)に代えた以外は、工程6aと同様の手順により化合物1bを調製した。目的の化合物1bをオレンジ色固体で得た(収量1.05g,収率92%)。
【表9】


【0052】
工程6c:化合物1cの合成
化合物7aを、上記工程5cで得られた化合物7c(1.50g,1.3mmol)に代えた以外は、工程6aと同様の手順により化合物1cを調製した。目的の化合物1cをオレンジ色固体で得た(収量0.96g,収率72%)。
【表10】


【0053】
(合成例2)セキシチオフェン(6量体)誘導体の合成
【化5】



工程6a:化合物2aの合成
実施例1の工程6aにおけるチオフェン-2,5-ジボロン酸を、2,2'-ビチオフェン-5,5'-ジボロン酸(スキーム1中の9)(0.15g,0.6mmol)に代えた以外は、実施例1と同様の手順により化合物2aを調製した。目的の化合物2aを赤紫色固体で得た(収量0.86g,収率80%)。
【表11】


【0054】
工程6b:化合物2bの合成
化合物7aを、実施例1の工程5bで得られた化合物7b(1.28g,1.3mmol)に代えた以外は、上記化合物2aの合成工程6aと同様の手順により化合物2bを調製した。目的の化合物2bを赤紫色固体で得た(収量1.08g,収率91%)。
【表12】


【0055】
工程6c:化合物2cの合成
化合物7aを、実施例1の工程5cで得られた化合物7c(1.50g,1.3mmol)に代えた以外は、上記化合物2aの合成工程6aと同様の手順により化合物2cを調製した。目的の化合物2cを赤紫色固体で得た(収量1.02g,収率73%)。
【表13】


【0056】
(合成例3)ターチオフェン(3量体)誘導体10a〜cの合成
【化6】



実施例1において、チオフェン骨格延長工程2〜3を省略した以外は、実施例1と同様にして、化合物10a〜cを得た。代表化合物10aのNMRデータを以下に示す。
【表14】


【0057】
(合成例4)クォーターチオフェン(4量体)誘導体11a〜cの合成
【化7】



実施例2において、チオフェン骨格延長工程2〜3を省略した以外は、実施例2と同様にして、化合物11a〜cを得た。代表化合物11aのNMRデータを以下に示す。
【表15】


【0058】
(実施例1)
上記で合成した化合物の熱特性を評価した。
<DSC>
合成例1〜2で得られた化合物1a−cおよび化合物2a−cのDSCを測定した。結果を表1に示す。代表的に化合物1aのDSCサーモグラムを図1に示す。
【表16】



表1中、
DSC(2次加熱;5℃min−1)による相転移点(℃)。Cr:結晶相,Cr’:結晶相,M:メソフェーズ,Col:カラムナー相,Col:ヘキサゴナルCol相,Iso:等方相。
冷却によってのみ観察される。
1a,bについては90℃での、2a−cについては105℃でのCol相。
メソフェーズのXRDパターン獲得は困難であるが光学的組織はCol相に一致。
【0059】
表1に示すように、化合物1a,1b,2bおよび2cは、エナンチオトロピックCol相を示し、化合物1cおよび2aは、等方溶融からの冷却によってのみモノトロピックCol相を示した。典型例として、6つのドデシルオキシ置換基を有する化合物1aは、79℃(ΔH=27kJmol−1)でCol相を形成し、101 ℃(ΔH=1.7kJmol−1)で等方状態となる。
【0060】
(実施例2)
<XRD>
90℃(液晶状態)における化合物1aのX線回折パターンを図2に示す。ヘキサゴナルカラムナー液晶相(Col相)であることを確認した。すなわち、小角領域において、1:√3:2の逆d格子面間隔比をもつ、39.6Åの強いピークと、22.8Åおよび19.7Åの2つの弱いピークが観察された。これらピークは、それぞれ(100),(110)および(200)反射に対応し、二次元ヘキサゴナル配列であることを示す。図2中の挿入部は、ダンベル型オリゴチオフェン1aのColメソフェーズへの自己組織性を模式的に説明する図である。ここでアルコキシ鎖はひだ状でかつ隣接カラム間で相互嵌入している。約4.5Åの散乱性回折の存在は、長いアルコキシ鎖が液状といえる状態をとっていることを意味する。アルコキシ鎖の延長またはオリゴチオフェンのコア長さの延長に伴い、カラム間距離が増大する。
90℃における化合物1bおよび105℃における化合物2a−cの各X線回折パターンを図3に示す。
また、化合物1a−b(90℃)、2a−c(105℃)の各Col相の格子定数を表1に示す。
【0061】
(実施例3)
<偏光顕微鏡観察>
図4および図5は、それぞれ、液晶状態での化合物1aおよび化合物2cの偏光顕微鏡観察像である。各図の(a)は剪断を加えてない液晶相の観察像、(b)および(c)は、ガラスに挟み込んだ液晶状態の化合物に一方向に機械的剪断(ズリ)を加えたときの観察像を示す。図中矢印は、剪断力の方向、偏光子(P)およ検光子(A)の各軸を示す。
液晶状態(剪断なし)の化合物1a(90℃)および化合物2c(105℃)は、クロスニコル条件下、ファン組織が観察された(各図(a))。
一方、剪断を加えた液晶相は、クロスニコル条件下、45°回転により生じる周期的な明(各図(b))および暗(各図(c))イメージを示した。剪断方向が偏光子(P)および検光子(A)軸上にあるとき、サンプルの複屈折は消失する。
すなわち本発明化合物は、Col相のポリドメインが剪断方向に平行に整列する傾向があることが示された。
【0062】
(実施例4)
<偏光IRスペクトル>
図6(a)は、液晶状態において剪断を加えて一軸配向させた化合物1a(薄膜)の偏光赤外吸収スペクトルである。化合物1aの剪断方向に対する偏光角が0°と90°のときのスペクトルを示す。
図6(b)は、上記化合物1a(薄膜)について、1435cm−1(芳香族C=C伸縮振動)における吸収強度の偏光角に対する極座標プロットを示す。
図6に示すとおり、オリゴチオフェンコアの芳香族C=C伸縮結合(1435cm−1)について、剪断方向(0°)と、直交方向(90°)とでの二色性が示された。
【0063】
(実施例5)
<UV-vis吸収スペクトルおよび蛍光スペクトル>
本発明化合物の溶液中または凝集状態での分光特性を評価した。化合物1aのUV-vis吸収スペクトルを図7(a)に、蛍光スペクトルを図7(b)に示す。
各図中、(1)はクロロホルム中、(2)は液晶状態(90℃)での、(3)は固相薄膜のスペクトルを示す。固相薄膜は、クロロホルム溶液を石英基板上にキャストして作製した。
【0064】
図7(a)に示すUV-vis吸収スペクトルにおいて、クロロホルム中の化合物1a(1)は、462nmにπ−π吸収極大を示す。これは、化合物1aのカルボニル基が中心部のオリゴチオフェンコアの共役に影響を及ぼしていることを示唆する。また、液晶(2)および固相薄膜(3)での吸収ピークは、溶液の場合よりも短波長側にシフトするだけでなく(ca.10nm)、540nm近辺にブロードな吸収が出現する。
【0065】
また、図7(b)に示す蛍光スペクトルにおいて、クロロホルム中の化合物1aは、544および575nmに発光ピークを示すのに対し、Col相では、585nmにブロードで赤色側にシフトした発光ピークを示す。これらのスペクトル変化から、ダンベル型オリゴチオフェン誘導体のH型平行積層モードのπ−積層集合体が形成されていることが考えられ、これら光学的特徴は、Col相で観察される上述の自己組織を裏付ける。
なお、化合物2a(クロロホルム中)は、470nmにUV-vis吸収ピークを示し、548nmに発光ピークを示した(図示せず)。
【0066】
(実施例6)
<偏光蛍光特性>
1)配向膜の作製
化合物2c(セキシチオフェン誘導体)を、スライドガラス(26mm×76mm)上の中央部分に載せ、ホットプレートで一旦125℃まで加熱して化合物2cを溶解(溶解温度117℃)し、次いで115℃まで降温した後、液晶相の化合物2cに別のスライドガラスを載せ長手方向にズリをかけた後、室温まで冷却して、化合物2cの配向膜を得た。
【0067】
2)蛍光スペクトルの測定
ファイバーマルチチャンネル分光器(オーシャンオプティクス社(Ocean Optics)製ファイバーマルチチャンネル分光器USB2000)を用いて、上記で得られた配向膜の蛍光スペクトルを測定した。測定系を図8に模式的に示す。測定系1において、励起光源3からの波長462nmの励起光を試料台2上の配向膜10に対して45°上方から照射し、配向膜10から正面方向に出射された発光を偏光板4を介して受光器5で受光し、蛍光スペクトルを測定した。偏光板4の透過軸を薄膜10のズリ方向に平行させた場合(図中、◆)と直交させた場合(図中、○)とについてそれぞれ測定した。これら蛍光スペクトルを図9に示す。
【0068】
図9に示されるとおり、平行時(◆)と直交時(○)とでは、発光強度の異なる蛍光スペクトルが得られ、本発明化合物の優れた偏光蛍光性が示された。平行時(◆)および直交時(○)の2つのスペクトルから、各波長における光強度をバックグラウンド補正して二色性比を求めたところ、平行スペクトル(◆)のピーク628nm付近での二色性比が最大となった。この最大値は14.9であり、従来の偏光材料の二色性比に比べ、非常に大きな値であった。
なお、上記1)においてズリをかけないで作製した化合物2cの無配向薄膜は、650nm近辺に単一のブロードなピークをもつ蛍光スペクトルを示した(図示せず)。偏光板4の透過軸を90°変化させても蛍光スペクトルに差異はなかった。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明化合物の一例についてのDSCサーモグラムを示す図である。
【図2】90℃における化合物1aのX線回折パターンを示す図であり、挿入部は本発明におけるカラムナー液晶相の模式的構造を示す。
【図3】90℃における化合物1bおよび105℃における化合物2a−cの各X線回折パターンを示す図である。
【図4】90℃における化合物1aの偏光顕微鏡観察像であり、(a)は剪断を加える前のCol相、(b)および(c)は機械的剪断を加えたCol相を示す。
【図5】105℃における化合物2cの偏光顕微鏡観察像であり、(a)は剪断を加える前のCol相、(b)および(c)は機械的剪断を加えたCol相を示す。
【図6】(a)は一軸配向させた1aのCol相の偏光角0°および90°での赤外スペクトルを示す図であり、(b)は1435cm−1での吸収強度の偏光角に対する極座標プロットを示す図である。
【図7】化合物1aの溶液中または凝集状態での分光特性を示し、(a)はUV-vis吸収スペクトル、(b)は蛍光スペクトルを示す図である。
【図8】本発明における配向膜の蛍光スペクトル測定系を示す模式図である。
【図9】本発明化合物の配向膜の偏光蛍光スペクトルを示す図である。
【出願人】 【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
【出願日】 平成18年12月28日(2006.12.28)
【代理人】 【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔

【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子

【識別番号】100112645
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 弘薫


【公開番号】 特開2008−7497(P2008−7497A)
【公開日】 平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願番号】 特願2006−356341(P2006−356341)